中央改札 悠久鉄道 交響曲

「未来からの贈り物2」 心伝
 〜2:捜索!探索!どこにいる?〜
次の日の朝。朝日がまぶしい。澄んだ空気が部屋の中まで
染みわたって来る。
「う…ん。」
志狼は目を開け、伸びをした。目を擦って回りを見る。
と、ふと横に誰かが寝ている。
「えーと…?」
記憶をまさぐってようやく昨日『未来から来た息子』の
八雲だと思い出した。
本人は『えんぜるすまいる』でスースー寝ている。
志狼は『一応』息子の寝顔を見ながら髪をかきあげた。
「俺の息子ねぇ…やっぱイマイチ確証がもてねえな…。」
しかし、あのフォートと剣。あれが確証となっている。
志狼はとりあえず、八雲を起こさないようにアリサ達のいる
1階へと降りた。


「ふぁーあ…」
「あら、おはよう志狼クン。今朝は早いわね。」
「ええ…なんとなく早く起きてしまって…」
アリサはどうやら朝食を作っていた。志狼は自分で東方茶−
志狼の故郷で作られている緑色のお茶を出して入れた。
「やっぱり、八雲クンが気になるの?」
「ええ、やっぱりそうなるんですかね…」
志狼は茶を一口飲んでその水面を見た。
「何か、ほっとけないんですよね…ひょっとしたら違うかも
知れないのに…」
志狼はまた茶を飲んで言った。
「でも、何か親近感が沸いて来るんですよ…
分かんないけど、俺がこいつの面倒をみてやらなきゃって気がして…」
志狼が茶を飲み干すころアリサが朝ゴハンを持ってきた。
「ふふ、志狼クンっていいお父さんになれるわね。」
「そ、そうですか?」
「ええ。さ、八雲クンを起こしてきてね。
私は、テディを呼んでくるから。」
「あ、はい。」
志狼は2階の自分の部屋に戻った。
あいも変わらず八雲は『えんぜるすまいる』をふりまきつつ
スースー寝ていた。
「おーい、八雲起きろー。」
志狼は八雲の頬を軽く叩いた。
「う?うーん…お母さん…おかわり…」
なんともスタンダートな寝言である。
「ったく。おい!朝だぞ。妹を探しに行くんだろ!」
大声で言ったおかげか八雲は目をこすりながら起きた。
「んー?えーと…父さんおはよ。」
「おはよ。それじゃアリサさんが朝ゴハン作ってくれたからな。
着替えて下に下りてこいよ。」
「うー…分かった。」
寝ぼけ眼で八雲はふらふらと着替え始めた。
「おいおい!パジャマを脱いでから服をきろよ!」
            
            −朝食−
「おかわり!」
「…嘘だろ、おい。」
八雲は朝ゴハンを食べ出すと人が変わったように動きだし
ゴハンを食べだした。
志狼達は適当な数で終わっているが八雲はケタが違う。
その数−パン10個、スープ四杯、ベーコンエッグ4きれ、
牛乳5杯、志狼手製の味噌汁10杯。ゆでたまご5個。
ちなみに今はスープのおかわりである。
(こいつピートやリサといい勝負じゃないのか?)
志狼は内心冷や汗をかいた
「も、もうどうかしら?八雲クン。腹八分目って言葉もあるし…」
「そうだね…それじゃごちそうさまでした!」
そう言い終わると八雲は食器を流し場に持っていった。
「へぇ、八雲さんってちゃんと洗い物するんっスね。偉いっス。
どこかの誰かとは大違いっス」
「その、誰かって誰かなぁ〜テディ」
志狼はテディをぎろっとにらんだ。
テディは一向に無視してるようだが。
「へへ、ホントは嫌だけどお母さんがちゃんと
片づけなさいってうるさいんだ。」
「しつけがちゃんとなってるのね。」
アリサが八雲の横にきて、洗った皿をしまいながら言った。
「でも、お前の母さんって…」
カララン
「おはようございま〜す。」
「ちゃーす!!」
志狼が言いかけた途端、ドアを開いてクリスと
アレフが入ってきた。
「よう、クリス…って何でアレフまで来てんだ?」
「うん、人が多い方がいいかなぁって思ったんで、
僕が昨日頼んだんだ。」
「まっ、クリスの頼みとあったらな。」
アレフはニヤニヤしながら八雲を見た。
「おおっ!そいつが志狼の隠し子か。いよっ!
この女殺し!コノコノー。母親は誰だよ?」
「誰が隠し子だ!」
八雲は不思議そうにクリスの袖を引っ張った。
「『かくしご』ってなーに?」
「あ、その…それはね…んーと…。」
クリスは子どもにどう説明すればいいかとまどっていた。
「まぁ、とりあえずアレフ、お前も手伝ってくれるのか?」
「まぁな。」
アレフは鍵束を弄びながら言った。
「クリスに聞いたけどお前の娘ってさぁ、お前に似てなくて
えらくかわいいらしいな。だから今のうちマーク
つけとこうってな。」
「この野郎…」
「と、いうわけでお義父さん!私に娘さんを下さい!」
「誰が『お義父さん』だぁ!!お前なんかによばれたくない!」
「ああっ!そんな殺生な!必ず!必ず娘さんは
僕が幸せにしますからぁぁ!」
バスッ!
「いいかげんにしろい!」
志狼の裏拳が寄りかかってくるアレフの顔に決まった。
アレフは鼻をおさえながら、髪をかき上げた。
「ふっ、俺はあきらめないぜ…」
「あー、言ってろ、言ってろ。ったく…こんな奴はほっといて。
クリス、八雲、テディ、行くぞ。」
「ういっス!」
志狼とテディは家族が写っているフォートを持って外に出た。
「あ!待ってよぉ、さ、八雲クン行こう。」
「うん。」
クリスと八雲も後をおいかけた。八雲がリュックを持っていくのに
てまどったが。
「お、おいちょっと待てよ。俺は無視かよ!」
アレフも後を急いで追いかけた。
「…」
アリサは微笑んで出かけていく皆を見たが、
すぐその顔は曇った。
アリサの頭には未来の志狼の手紙が頭に浮かび上がっていた。
『八雲と沙也の母親は…』
「八雲クン…沙也ちゃん…」
アリサは心配そうに呟いた。

「で、さぁ、どうやって探すんだ?」
アレフが回りの女の子を見回しながら(と言っても、
いい娘いないか探しているだけだろうが)言った。
「これだけいるんだから探すのには手間がかかるぜ。街に女性は何人もいるんだからな。」
「そうだね、ひとりずつ聞き込むというのは手間がかかるし…」
「だいじょうぶ!僕がこれを持ってきたから。」
八雲は背中のリュックからごそごそとまさぐると一つの玉を出した。
「何だそりゃ?」
八雲は自信ありげに志狼達の目の前にかざした。
「迷子探し機。」
「へ…そんなものあるのか?」
アレフとクリスがうさんくさそうにその球体を見た。
「どー見ても…ゴムボールにしかみえないよなぁ…」
「そうだね。」
八雲はややむきになった調子で
「ゴムボールじゃないよ!これは迷子探し機なの!」
志狼は八雲の頭に軽く手をおいた。
「分かったよ。それじゃ、俺達にどんなものか説明してくれないかな?」
八雲は父の方を見てすぐさま笑顔になって言い出した。
「これは、髪飾りとか腕輪とかと一緒になっててどこにそれが
あるか分かるようになってるんだ。
だからこれは沙也の髪飾りに反応するようになってるんだ。」
「ふぅん。でもよ、何でそんなモンお前の妹はつけてるんだ?」
アレフが八雲に聞くと八雲は球体−ゴムボールにしかみえないモノをじっと見ながら言った。
「沙也ってどこにでも行っちゃうんだ。だから、
お父さんがいつでも分かるようにって。」
「ほーっ。」
アレフは半ば笑いながら志狼を見た。
「しっかしなぁ、妙に過保護になってんなぁ。え?お・と・う・さ・ん?」
「やかましい!」
志狼はむきになってアレフに言った。しかし、
それは半ば未来の自分へのあきれでもある。
(なんだかなぁ…俺そんな過保護になっちまうなんて…)
ため息が自然に出る志狼であった。
「あっ!出たっス!」
テディが声をあげたのでそのゴムボール…じゃなかった。
迷子探し機を見ると右隅のほうが光っていた。
「えーと…あっちの方だ!」
志狼は八雲が指差す方は学園通りの方向だった。
「学園通りの方っスね。」
テディがつぶやくとアレフが頭の推理結果を言った。
「と、言う事はローズレイクか、学園か。」
「でも、今日は学校は休みだよ。」
「ム…」
クリスが横やりを入れてしまったので
アレフは少し不機嫌な顔になった。
「うーん、ちゃんとした場所が分かりづらいな…」
学園通りの方を見て志狼は考えた。
と、八雲が志狼の袖を引っ張っている。
「ねえ、父さん。ひょっとしたら、沙也が学校にいるかもしれない。」
「へ?何で?」
「沙也って魔法が大好きなんだよ。
でも、学校は12歳にならないと入れないから
いつも駄々こねてたんだ。」
「なるほどな。ひょっとしたらここぞとばかりに入り込んでる
かもしれないな。」
アレフが相づちをいれる。
「そうだな…それじゃ、学校に行ってみるか。」
4人と1匹は学園通りへと向かった。。

志狼達は学園通りを歩きながら雑談をしていた。
今、話題に登っているのは皆が将来どうなってるかである。
「で、さぁ、シェリルお姉ちゃんはイヴお姉ちゃんと
一緒に図書館にいるし、リサお姉ちゃんは自警団の先生、
ピート兄ちゃんはサーカスでピエロをやってるんだよ。」
「へぇー、八雲くんは何をしてるの?」
妙に仲が良くなったクリスが聞いてきた。
「僕は、ジョートショップで父さんや母さんの手伝いをしてるんだ!
沙也もだよ!」
胸を張って元気良く八雲は言った。
「な、な、話しは変わるけどよ八雲。」
アレフは横から八雲の顔をじっと見ながら言った。
「お姉さんの中で一番好きなのは誰だ?」
急な質問に八雲は急に顔を瞬間湯沸器並みに真っ赤にさせた。
「え…あ、…その…」
「おい、アレフ!」
「ま、いーじゃねーか。この年頃だとそういうお姉さんに
興味を持つころだぜ。な、誰が好きなんだ?」
八雲は顔を真っ赤にさせて小声でつぶやいた。
「…トリーシャお姉ちゃん…」
アレフは笑いながら手を打った。
「ほほー!いやぁ、トリーシャか!女性を見る目で血は争えないかぁ。」
「何言ってんだ!アレフ!俺はな…」
志狼を無視してアレフは一人納得したように話し続けた。
「うんうん、分かるねぇ…志狼!良かったな!
お前の息子はちゃんとした奴だぜ。」
「どういう意味だ…」
志狼がつぶやくとテディが志狼の頭上(志狼の頭に乗ってる)から
八雲に言った。
「じゃ、そういうアレフさんはどうなってるっスか?」
「決まってるだろ。」
アレフは自信ありげな笑いをした。
「俺は未来でもエンフィールドナンバーワンのナンパ師として
女の子を甘く誘惑してるのさ!」
アレフは自己陶酔の域に入ろうとする頃
八雲はそれを叩き落とすような発言をした。
「アレフ兄ちゃん?結婚して…」
「なにーっ!」
アレフは一瞬自分の耳を疑った。
「け、結婚…お、俺が結婚してるって…」
「ほほう、アレフもついに将来には身を固めるのか。」
志狼はニヤけてアレフを見た。
「うう…『生涯ナンパ師』と決めているこの俺がぁ…」
「でもねぇ」
隣でうめいているアレフを見ながら八雲は話を続けた。
「アレクくんがいつも『父ちゃんはきれいな女の人を見たらすぐ
そっちのほうへ行っちゃうんだよ、
だから、母ちゃんとすぐケンカするんだって』って言ってるよ。」
「アレククンって…」
「アレフ兄ちゃんの子ども。」
「こ、こどもぉ!!ま、まさか俺が…うおおーっ!」
絶叫するアレフを横目に志狼はつぶやいた。
「アレフがねぇ…まさか『できちゃった結婚』じゃないだろうな。」
「アレフさんならそうなりかねないっス!
八雲クン、アレククンのお母さんって何って名前っスか?」
「ん?ミカ姉ちゃんっていうんだよ。」
「ほー!あの踊り子のミカさんと。それなら、本望だろう。
良かったなぁ、アレフ。」
志狼がアレフの肩に手をおきながら言うと、
世界の終わりに対面したような顔で叫んだ。
「よくねぇっ!『アレフ・コールソンは世界中の女性のために』
っていう俺のモットーが崩れるじゃねえかっ!しかも、
何が悲しくて『人生の墓場』に自ら直行しなきゃいけねーんだよ!」
アレフは八雲の肩をがしいっとつかんだ。
「わっ!な、何?アレフ兄ちゃん…」
「頼む!未来の俺に『今すぐ別れろ』って言ってくれ!
俺はそんな男じゃないはずだ!」
「…え?」
八雲は目を白黒させた。
「おいおいっ!何無茶言ってんだ!」
「やかましいっ!俺の将来がかかってんだぞ!」
「アレフくん、別に今アレフくんがミカさんと結婚する
ワケじゃないんだから。落ち着いてよぉ。」
クリスがなだめるとアレフは急にハッとなった顔つきになった。
「そうだよな…」
「アレ…フ?」
「まだ、変えようと思えば出来る事なんだよな。よぉおし!
絶対未来を変えてやる!!生涯独身をつらぬいてやるぜ!」
「はぁ…勝手にやってろ。」
決心するアレフを横目に嘆息する志狼だった。。

さて、ようやく学校の前まできた志狼達だった。
クリスが先ほど言ったように学校は今日は休みで人ひとりいない。
一応、研究生達のために門は開いてたので中には入れた。
「やっぱり、誰もいないね。」
クリスが回りを見渡していると八雲は迷子探し機をひとなでして
探索距離をせばめた。
「うーん、でもこの近くにいるらしいけど…あーっ!」
「ど、どうした!」
志狼は八雲が声をあげたので驚きながらもその迷子探し機を見た。
光がわずかながら、近くで動いている。
「動いている!父さん!沙也がこの近くに!」
「ああ、皆で探してみよう!」
志狼たちは光のある方向へと向かった。
「どこにいるっスかねえ。」
「でも、どんどん近づいてるよ!沙也ぁー!どこだー!」
八雲は興奮してか大声を張り上げた。だが、返事は帰ってこない。
「八雲、この近くにいるのは確かなんだな。」
八雲は志狼にうなずいた。
「そうか…ここは広いからな。二手に分かれて探してみるか。」
「じゃあ、僕と八雲クンは校舎を調べてみるよ。」
「ああ、じゃクリス頼んだ。
俺とアレフとテディは校庭を探して見るから。」
「うん。」
二手に別れて志狼達は校庭にでた。
「やっぱりいないっスねぇ。」
「なぁ、志狼。ここじゃないんじゃないのか?」
「うーん…でもここらへんだったんだぜ、反応があったのは。」
「あ!志狼さぁーん。」
聞きなれた声が聞こえたので振り向いてみると
トリーシャが元気よくこっちにむかってきていた。
「トリーシャ!何でお前がいるんだ?学校は確か休みなんだろ?」
「え?何で志狼さん知ってるの?ボクはちょっとお父さんに
用事を頼まれてここにきたんだ。」
アレフが横でニヤニヤしているのをトリーシャは見た。
「何、どうしたの?アレフさん?」
「いやね、トリーシャって子どもにもモテるんだなって。」
「はぁ?」
志狼は慌ててその場をとりつくろった。
「いやいや、こっちの話しさ。それより」
志狼はメガフォートの写した絵を取り出した。
「この女の子しらないか?」
トリーシャは絵を取ってしげしげと見た。
「この子?志狼さんに似ているけど志狼さんの親戚?」
トリーシャが聞くとアレフはにやけついて言った。
「志狼の隠し子だよ。」
「ええええええっ!」
トリーシャは驚いて2、3歩後ずさって悲しそうに言った。
「志狼さん…ボクは志狼さんだけはそんな事する人じゃないと
思ってたのに…」
「だろー。志狼!お前は何てヒドイ奴なんだ!」
「こら!待てぃ!!誤解だ!アレフ!お前も嘘いうんじゃない!」
志狼は肩で息をするほど叫んだ。
「そうっス!志狼さんはそんな事する人じゃないっス。」
「おお!テディ!お前だけは分かってくれるか。」
志狼はこの時ほどテディが輝いて見えた事はなかった。が
「志狼さんは、隠し子作れるほど女の人にモテないっス!
それにそんな女性をだますような器用な事志狼さんには
できないっス!」
志狼はテディをぎろっと睨み付けた。
「テ〜ディ〜」
「し、志狼さん。ボク何か悪い事言ったっスか?」
「まあまあ、テディも志狼さんの事をかばってくれてるんだからさぁ。」
トリーシャは志狼とテディの間に入った。
「でもなぁ…」
「まぁまぁ。それよりも、うん、ボクこの子見たよ。
確か校舎の中に入っていったけど。」
「本当か!」
「うん、でも…」
トリーシャの表情が少し曇った。
「でも、何だよ?」
「あの子、一体何なんだろう?」
「は?」
2人はトリーシャの言っている事がわからなかった。
「おい、どういう意味だ?その子が何かあったのか。」
アレフが聞くとトリーシャは首をかしげた。
「ううん、普通の女の子だったよ。…でも」
「でも?」
「あの子…」
トリーシャの口から意外な事が発せられた。
「冗談だろ?」
アレフはトリーシャが言った言葉に正直な感想を述べた。

続く

中央改札 悠久鉄道 交響曲