中央改札 悠久鉄道 交響曲

「未来からの贈り物3」 心伝  (MAIL)
悠久幻想曲〜未来からの贈り物〜3:白き翼        

「ボクもそう思ったんだけど本当に見たんだよ!」
トリーシャはいきがって言った。
「ボクも信じられないけど…」
「でもなぁ、何かいまいち信じられないぜ。
いくら志狼の子だからと言って…」
「え!本当に志狼さんの子どもなの!」
トリーシャは驚いてアレフに詰め寄った。アレフは『あ、しまった。』って顔をしていたがもう、遅い。
「ア〜レ〜フ〜」
「い、いいじゃねえか!もう、言っちまんだんだぜ!
それに手は多いほうがいいだろ!」
アレフは開き直った感じだったので志狼はため息をついた。
「はぁ…もう仕方ないか。」
「どういう事なの志狼さん?」
「実はっスねぇ、トリーシャさん…」
テディは今までのいきさつを話した。未来からの少年。志狼の子ども。そして、娘の沙也。
「ってワケなんス。」
トリーシャはまだ信じられないといった顔をしていた。
「そうなんだ…でも、もしボクが見たのが志狼さんの娘だとしたら…」
「そうっス。一体、志狼さんは誰と結婚した事になるんっスか?」
「そうなんだよ。八雲は結局言ってないよな。」
志狼は腕を組んだ。いつもの考える時の癖である。
「ああ。でもよ、志狼。トリーシャの言ってるのが
イマイチ嘘っぽいんだよなぁ。」
「ボクは本当に見たの!」
トリーシャが声を荒げて言った時、志狼は一つの事に気がついた。
「なぁ、アレフ。八雲が『沙也ってどこにでも行っちゃうんだ。』
と言ってたよな。」
「ああ、そうだけど…」
言いかけるとアレフの顔に急に緊張が走った。
「志狼!まさか…!」
「ああ、過保護かと思ってたんだが、
どこにでも行っちゃうってことがこんなこととは
…案外トリーシャの見たものは…本当なのかも。」
志狼の胸中には何か不安がうずまいていた。
(もし、本当だとしたら…沙也、お前は誰の子どもなんだ?)           

           〜校内〜
で、八雲、クリスの2人はというと校内に入って沙也を探していた。
学校は休みでも幸いにも一般人への錬金魔法の講義が行われていたため、校内にはなんなく入れた。
「沙也はどこだろう?」
八雲は回りをきょろきょろと見まわした。
「教室の中にも紛れ込んではいないみたいだよ。」
クリスは窓からそっと教室を見回した。
中にいるのは年配の婦人や老人、
青年の人で沙也らしき女の子はいなかった。
「どこにいるんだろ…もう、いないのかな…」
八雲は力が抜けたように言った。
「あきらめちゃだめだよ!」
「クリス兄ちゃん…」
クリスは精いっぱい八雲をはげました。
「大丈夫だって!必ず沙也ちゃんは見つかるって!まだ、
全部探したわけじゃないんだから!」
クリスは眼鏡ごしに八雲をまっすぐに見つめた。
ちょっと間を開けて急に八雲はクスクスと笑い出した。
「え!?な、何?僕そんなにおかしかった?」
八雲はクスクス笑いをしながら言った。
「クリス兄ちゃん。まるで父さんみたいだよ。」
「え!?」
クリスは驚いた。それは自分自身の行動そのものの結果に
驚いているのである。クリスは
いつも
『アレフくんの様に女の子とちゃんと話せるようになりたい』
『志狼さんのように男らしくなりたい』と思っていた。
それが、いつのまにか自分に身についていたのである。
「へへへ…」
クリスは照れ笑いをしながら八雲を見た。
自分の良いところを分かってくれたこのまだ昨日からしか会ってない
少年を何か身近に感じる−友達のような感じがした。
「父さん、いつも言うんだよ。『どんな事にもすぐにあきらめるなって。』」
「へぇー。」
クリスは不意に未来の事が聞きたくなった。
「ねぇ、八雲クン。未来の志狼さん達ってどうなの?」
「父さん?」
クリスがうなづくと八雲は話し出した。
「僕、驚いたよ。だって父さん、全然変わってないんだもの。」
「そうなの?」
八雲はうなずくとさらに話し続けた。
「今でも。一生懸命働いてるけど…時々父さんってドジなところが
あるんだよね。」
「へぇえ」
「それに、なにかとつけて自警団のアルベルト兄ちゃんと
ケンカしてんだよ。
この前も公園のおそうじする時どちらが早く終わるかって
してたけど…」
「けど?」
「結局、全然おそうじしてなかったから二人ともリカル爪おじさんと
母さんに怒られてたんだよ。」
クリスは突然吹き出した。
「はっはっははは…志狼さんらしいや。」
「ね。お父さんって昔と全然変わってないんだよ。
いつも『お父さんは仕事はちゃんとやってるぞ。』とか言ってるん
だけど。」
「ふーん、ねぇ、八雲クン」
クリスは八雲に改めて言った。
「お母さんは誰なの?」
八雲はまたもやピクッとなって
「あー…それは…」
「やっぱり、言いたくないの?」
クリスが言うと八雲は驚いた。
「どうして分かったの?」
「なんとなく…八雲クンそれから遠ざかろうとしていたから。」
八雲は少し黙ると意を決したようだった。
「誰にもいわない?」
「うん!」
「じゃ、皆には内緒だよ。父さんが『絶対言っちゃ駄目』って
いってたんだけど、僕らの母さんは…」
八雲はクリスの耳元である女性の名前を言った。
「えーっ!」
「クリス兄ちゃん!しーっ!」
「あ…ゴメン。」
クリスはちょっと深呼吸をすると小さな声で話し出した。
「そうかぁ…やっぱり志狼さんは…」
クリスは納得したようだった。
「あんまり人に言ったら駄目だって言ってたんだけど…
クリス兄ちゃんならいいや!でも、ほんとに内緒だよ!」
「うん。」
「それじゃ」と言うと八雲はクリスの目の前に小指を突き出した。
「え?」
クリスは一瞬とまどったがすぐ理解できたから自分も小指を出した。

『♪ゆびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます♪』
「ゆーび切った!」
八雲は元気良く指を切った。
「指切ったっと。でも、お母さんに合わなくていいの?」
クリスが言うと八雲は少しさびしそうだったがすぐ笑顔になった。
「うん。お父さんとお母さんの約束知ってるから。」
八雲は勢い良く廊下を走っていった。
「さぁ!沙也をさがそう!」
「あ!待ってよぉ!」
クリスも同じように廊下を走っていった。

−エンフィールド学園図書室−そこには、
旧王立図書館にはおよばないものの、おおよその魔術書はもちろんの事、文学小説や史学書等がある。
中には生徒の希望で恋愛小説もあったりする。
マリアやシェリルも時々利用している所だ。今日は休日だから閉まっている…はずであるが。
「…」
そこには誰かがいた。明かりのない薄暗い部屋に
女の子がうつむいていた。つやのある黒い長い髪を伸ばし、
青いリボンで後ろをくくっているが今にもはずれそうだった。
頭には特殊な金属と翠色の玉で飾ってある髪飾りをしていた。
「…パパ…ママ…」
女の子はうちひしがれた顔でつぶやいた。
やがてすみれ色の瞳から涙が浮かび始めた。
「私は…」
静かな鳴咽が聞こえだす。
と、どこからか聞き覚えのある声が聞こえ始めた。
「この部屋は?」
「ここは図書室だけど…あれ?開いてる。おかしいなぁ?」
少女は顔を緊張させた。
そう、一番身近にいる自分のいわば分身と言える
−いや、少女に取っては『言えた』ものが迎えにきたのだ。
(八雲お兄ちゃん…!)
しかし、兄がすぐそこにいるのに、
少女の顔には悲しみの色しか浮かばなかった。

「本当はいつも日曜日には閉まってるはずなんだけどなぁ。」
クリスは首をかしげながらその部屋へと入っていった。
「この、部屋…暗いね。」
八雲は少し怖そうに言った。クリスは少し笑って、
やっぱりまだ小さい子どもなんだと思った。
「大丈夫。確かここに明かりが…」
クリスは手探りで魔力でつく明かりのスイッチをつけた
−が明かりがつかない。
「あれ?どうしたのクリス兄ちゃん。」
「明かりがつかないんだけど…おかしいな?
魔力が通ってないのかな?」
何回もクリスは明かりのスイッチを押すが一向につきそうになかった。
「どうしてだろう?」
八雲は首をかしげた。クリスは回りを見る。
「でも、ここは誰もいそうにないよ。別のところじゃないのかな。」
「そうだね。それじゃ、別のところを探してみようよ。」
クリスは八雲の手を引っ張って外に出ようとした。目に八雲が握っている迷子探し機が目に付いた。皆と見た時と違う色を発していたのを
「待った!」
八雲はクリスの声の大きさに驚いた。クリスは「ごめん」と言うと迷子探し機を指した。
「色が変わってるよ!」
八雲はすぐさまその球体を見た。皆と見た時は青だったのに赤になっている。
「これは…沙也がすぐそこにいる!」
八雲は興奮してクリスを見上げた。クリスは薄暗い図書室の一角に目をやった。すると、申し合わせたように、急に明かりがついた。
「…沙也!」
八雲はやっと探し当てた妹に声をかけた。
「迎えにきたよ。沙也。」
八雲は双子の妹に優しく、声をかけた。
(この子が志狼さんの…娘?)
クリスは心の中で呟いた。確かに似ている。
でも、何かひっかかる部分があった。どこか、何かが八雲と違う所で異なっている気がした。八雲はクリスの不安なぞ気にせず沙也に近づいた。
「さぁ、帰ろう。」
八雲は笑顔で言った。沙也の顔に表情が
浮かぶ、喜び、怒り、そして悲しみ。
沙也はうつむいて声を出した。
「…帰れないよ。」
「え?」
沙也はすみれ色の目から涙を流しながらさけんだ。
「帰れないよ!だって私は…私に家族なんていないもん!」
八雲は何を言ってるのかわからなかった。
妹はどうしたのだろう。横からクリスが言った。
「何を言ってるの!ほら、お兄ちゃんが迎えにきてくれたじゃないか!」
「お兄ちゃんじゃない!」
クリスがたじろくほど沙也は声を荒げた。八雲は泣きそうな声で叫んだ。
「何言ってるんだ!父さんも母さんも未来で心配してるんだぞ!お前が時空魔法にまきこまれたからって!」
「そうだよ!志狼さんも心配しているんだよ!」
沙也はいやいやをするような動作をした。
「あれは、あれは…私が自分でやったの!」
「え…」
八雲は呆然としてつぶやいた。
「だって、未来の志狼さんの手紙に…」
クリスがそういいかけると、気付いた。沙也に異様ななほどの
魔力がたまってきている。
(これは…!僕やシェリルさんどころじゃない!
ギルドの長老様並み…いや、それ以上の魔力!)
「だって…私は…」
沙也のリボンがはずれ魔力風で黒い髪がなびく。
やがて黒色の髪が金色に変わり、すみれ色の瞳が水色に変わる。
「さ…や…?」
「お兄ちゃんと違ってパパやママの本当の子どもじゃないもの…!」
八雲の耳に信じられない言葉が聞こえた。
「そ…ん…な…」
「だから、だから…」
そして−トリーシャが見た何かが現れる。

「もう、私の前にあらわれないで!!」

魔力が急速に収束する。
「あぶなぁいっ!」
クリスは八雲の前に立った。クリスの目の前には光があふれ−爆発した。

ドカーン!
校庭にいた志狼達は下でその爆音を聞いた。
「なんっスか!今の!」
「何だ!何がどうなってんだぁ!」
「志狼さん、あれ!」
トリーシャが指差す方向には窓ガラスが割れて煙が出ている。
「図書室だよ!」
トリーシャがいうやいなや。志狼は3階の図書室に走った。
「八雲!クリス!」
3階はぼろぼろになっており特に図書室の回りはひどかった。
そこには2人がおりかさなって倒れていた。
特にクリスは背中にひどい大火傷をおっていた。
「クリス!」
志狼は近づき2人を見た。クリスは眼鏡にひびが入り気を失っている。
「と、父さん・・・」
クリスの下の八雲がしぼるような声をあげた。
「八雲!どうしたんだ。」
「沙也が…もうこないでって…クリス兄ちゃんが僕をかばって…」
ぽろぽろと八雲の目から涙が落ちる。
「とうさんっ…グス…沙也が…沙也がぁっ…!」
急にせまった事におしつぶされて八雲は父の肩でなきじゃくった。
何もかも八雲にはわからなかった。自分の小さい事がくやしかった。
妹があんなになったのがよく分からなかった。
志狼はただ、八雲を抱きしめて立ち上がった。
(今は、とりあえずジョートショップに戻るしかない…沙也…お前は…)
志狼は穴の開いた図書室から空を見上げた。

はるか上空、志狼達をながめているものがいる。沙也だった。
「…」
沙也は水色の瞳に涙をたたえ悲しい顔をするとどこかへと去った。
その背中にはトリーシャが見た−純白の翼があった


中央改札 悠久鉄道 交響曲