中央改札 悠久鉄道 交響曲

「未来からの贈り物4」 心伝
未来からの贈り物4:真実―俺がやれる事―

         −ジョートショップ−
夜。志狼達は八雲をジョートショップへと運んだ。
八雲は泣き疲れてか、もう寝てしまった。
クリスはクラウド医院に運んだ後である。
トーヤの話だと重傷だったがクリスの魔力シールドを
とっさに張ったらしく、それがあっての命らしい。
「…ふう」
ベッドに八雲を寝かせて志狼は下に降りた。
(あの、図書館の事…トリーシャが見た白い翼…一体沙也は…?)
一階にはアレフ、トリーシャ、アリサ、テディがいた部屋に戻った。
「志狼、八雲は?」
志狼はアレフの方を向いてうつむいた。
「寝てしまったよ。ショックだったんだろうな…」
志狼は力が抜けたように椅子に腰掛けた。
見知らぬとはいえ自分の娘が、
クリス達にそうとうの怪我を負わせたのだ。
クリスは体、八雲は心に傷を負ってしまったのだから。
トリーシャが口を開く。
「アレフくんから事情は聞いたケド…
でも、志狼さんの子どもって何であんなことしたんだろ?」
「分からない…あいつ、次元魔法にまきこまれて
ここにきたって…八雲が言ってたけど、何で八雲を…。」
「何か話しがかみあってないな…」
アレフが少し怒りを込めた声で言った。
それは沙也に向けられたものだというのが志狼には分かった。
志狼はまた、うつむいてしまった。
「志狼クン」
アリサが少し弱い声で呼びかけた。
「なんですか、アリサさん?」
「…」
アリサは少し考え込むと
「皆、申し訳ないけど外に言ってくれないかしら。
志狼くんと二人きりで話したいの」
「アリサさん…」
志狼はアリサを見上げた。
そのあまり見えないはずの瞳には決心された意志が写っていた。
「ボクもっスか?御主人様?」
テディは情けない声をあげながらアリサを見た。
「ごめんね、テディ。
これは志狼くんだけに話さなければいけない事だから…」
「御主人様〜」
アレフはテディをなでると言った。
「アリサさんがああ言ってるんだ。
テディ、トリーシャ俺達は外にでておこうぜ」
「そうだね…」
トリーシャも静かにうなづくと外に出た。
「悪いな…」
「気にするな…」
志狼はアレフの背中に悲しさと
怒りが混じっているのが見えた気がした。
「志狼さん…」
テディが心配そうに志狼を見ている。
「大丈夫だ。俺はどんなことでもあきらめやしない、最後までな」
志狼はテディに笑顔を見せると
テディは少し心配が消えたような感じで外に出た。

ジョートショップの中は一段と薄暗さがひどくなっていた。
ここまで、暗いものかと志狼は改めて思った。
アリサは無言で机の引き出しから一つの手紙をだして
志狼に渡した。
『アリサ・アスティア様』とかかれている。
差出人は『天羽 志狼』
「俺!?」
志狼はその手紙を急いで開けた。
「どういう事ですかアリサさん!?」
アリサは悲しい顔をして言った。
「ごめんなさい、志狼くん…私は…
こんなことになるなら…」
アリサは瞳に涙を浮かべ、顔をおさえた。
「どうなっても…言うべきだった…。」
泣いているアリサを見ながら
やりきれない顔で志狼は手紙に目をやった。

『アリサさん、一応アリサさんだけには真実を話しておきます。
これは八雲自身も知りません。
八雲と沙也の母親は…別々の人です。』
「…!」
志狼は内心驚きながらも続けて読んだ。
『八雲は間違いなく俺の息子です。
しかし、沙也は…俺とは血がつながっていません、妻とも。

八雲の3歳の誕生日の時、
俺は八雲のために隣町に買い物に出かけていました。
夜、帰り際に森の奥から泣き声が聞こえてきたのです。
初めはモンスターかと思ってましたが、はっきりと人の泣き声でした。
俺はその泣き声の方向にいくと一人の女の子が泣いていました。

「おい、どうし…」
俺はその子に声をかけようとしました。
しかし、声が途中で止まるようなものを見たのです。
金色の髪に水色の瞳そして、白い翼。
天使なら何回か見たことがありますがなんとなく
違った感じでした。
その子は途中で俺に気付いてか泣き止むと
「…パパ」
と言って抱き着いてきたのです。
俺はその子の父親に似ていたのでしょうか、とりあえず俺は
その子をほっとく事はできず家へと連れて帰りました。
妻は、『どこのキャベツ畑から取ってきたの?』
と悪い冗談を言いましたが。さすがに分かってくれました。
途端、その子は
「ママ…」
といった途端、髪が黒くなり。
瞳も水色からすみれ色に変わっていきました。
不思議な事が目の前で起こり俺と妻は驚きましたが
八雲と何変わらぬ顔で戯れてました。
その後、ここや周辺の街で調べたのですが
この子の親は見つかりませんでした。
妻は引き取って育てようというので
俺もその案に乗りました。
その子に名前を聞いたのですがよく分からないと言われ
俺達で名前をつけました。
それが沙也です。

沙也は不思議な子でした。
料理も覚えるし
同じ年くらいの子以上に魔法を覚え
妻のピアノを何回か聞いただけで覚えました。
正直、怖い気がします。
それで、なんとなく他人行儀になってしまいます。
あいつとどう接すればいいのか…
分かりませんでした。
そして、ある日の事…

        ☆☆☆☆
俺と八雲と沙也はローズレイクに釣りにきていました。
俺はその時釣りをのんびりと楽しんでいましたが…
「パパ!」
沙也が叫んだ方向にはオーガ達が八雲達を囲んでいました。
「おとう…さぁん!」
「八雲!沙也!まってろ」
俺は急いで八雲の所へとかけだそうとした時。
「…いや」
沙也が怖がってオーガの間からでもふるえているのが分かりました。
そして、瞳の色が水色へ髪の色が金色へと変わり翼がはえてきて
「こないでぇぇぇ!!!」
沙也が叫ぶと同時に魔力爆発が起こり、
オーガ達があとかたもなく消え去りました。

沙也はそれ以来ふさぎこむような事が多くなりました。
魔法についても良く調べるようになりました。
自分の力がこわかったのでしょう。
俺達は…それなのになにも出来なかった…

今回、沙也が時空魔法の暴走で飛ばされましたが
恐らくは沙也自身が…そんな気がしていけません。
俺の気持ちが分かって家出をしたのではと
その時俺は沙也を初めて娘として見れました。
本当に情けない事です

八雲は沙也の事を知らず
今回の事で純粋に沙也を信じています。
あいつのそんな気持ちは壊したくない。
だから、俺も信じます。
八雲を沙也を。俺の子ども達を。

最後に俺の妻は八雲に言わせないように
しています。
なぜなら、未来が変わるかもしれないから。
未来はいろんな方向に進んでいます。
もし、今の俺がこれを読んで未来を知って
かわるか、それとも変わらないか
どうなるか分かりません
俺の妻は…ピアノで分かると思いますが
シーラ・シェフィールドです。』

「…!」
志狼は手紙を持つ手を強めさらに
読み続けた。
『シーラは本当に素晴らしい妻です。
俺と結婚しピアニストを続けながらも
ジョートショップを手伝ってくれます。
そして、八雲と沙也に
平等にわけへだてなく愛情を注いでます。
母親はこういう時には強いですね。
よく、沙也も俺よりかはシーラになつきました。

もし、八雲が沙也の事でなにかあったら
これをその時代の俺に読ませて下さい。
これは特殊な魔法でアリサさんが
一番始めに読めるようにしました。
今の俺に無用になると願って。
もし、子供たちがかえってきたら
俺はもう一度子ども達とよく話しをしてみます。
かつて、アリサさんが俺によく話しをしてくれたように
              天羽 志狼
PS:俺自身へ本当にすまない
…お前には感謝と謝罪の言いようがない
お前の全てをかける事になるかもしれない…だが、あの子達を
守ってくれ』


「…」
志狼は手紙を読んで押し黙った。
「これを…早く志狼クン達に
読ませておけば…八雲クンもクリスクンも
つらい思いをしなくて良かったかもしれないのに…」
アリサは顔を押さえたままだった。
指の間から雫が落ちる。
「泣かないでください、アリサさん」
志狼は顔をあげたアリサの目にそって手をあてた。
「未来はどうなるか分からない、
って俺の手紙にも書いてるじゃないですか。
アリサさんが見せたから
良くなるかは分かんかったと思いますよ。
…なんともうまく言えないけど−勝手な事書いてますが
俺自身の事ですから
俺は悩んでたと思います。多分シーラにも言えず」
志狼は緑色の球体−八雲が持ってきた
迷子探し機を持った。
「でも、未来の俺も沙也と話しをしようと
思っている。本当の娘だと思ったのだから
だから、俺は俺がやれる事−
沙也と八雲を無事に未来へと送ります!」
志狼はぎゅっと球体を握りしめた。
途端

バタン!
外にいたはずのアレフやトリーシャ、テディが入ってきた。
「た、大変だ!リヴェティス劇場が火事だ!」
「何!?」
「志狼さん!外に出て!」
志狼はトリーシャの指差す外の方を見ると
リヴェティス劇場の方から火柱があがっている。
「火柱!?」
志狼ははっとなって緑色の球体を見た−
「いる…沙也はあの中だ」

志狼は二階にかけあがると自分の剣を取り出した。
刀身をわずかながら見るとそれをしまい下りようとすると
「おとう…さん…」
ベッドの上で八雲がわずかながら起きあがろうとしてた。
「八雲…まだ寝ていなくちゃ…」
八雲の目には涙がたまっている。
「ねえ…沙也を助けてあげて…」
涙がポタリポタリと落ちて床にしみこむ
「夢の中で…沙也が泣いてるんだ…
ひょっとして沙也がどこかで泣いてないかなぁ。心配なんだ…」
「…」
「だから…どこかで沙也が泣いてるかもしれない…
僕は…僕は…沙也を…」
志狼は八雲の頭をくしゃっとなでると
「大丈夫だ。父さんにまかしときなさい」
「うん…じゃ、これを持っていって…」
八雲は家族が写っているメガフォートと未来の志狼の剣を持ちだした。
「この剣…お守りなんでしょ?
お父さんのおじいちゃんが作ってくれた…
それに僕と沙也も同じようにフォートを持ってるから…
お願い…沙也を」
「分かった。じゃ」
志狼は小指を未来の息子の前に差し出した。
八雲はにっこり笑って
「♪ゆびきりげんまん嘘ついたらはりせんぼんのーます。♪」
「指切った…じゃ、八雲。行ってくるからな」
「うん…沙也と一緒に帰ってきてね」
志狼は八雲に親指を立てて見せると
フォートを懐にいれて走り出した。



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