中央改札 悠久鉄道 交響曲

「桜花幻想曲1」 心伝  (MAIL)
桜花幻想曲〜1:桜の花の舞い下りるころ〜

「かんぱーい!」
夜、さくら亭にて志狼、ケイ、葵明、アレフの4人は飲みにきていた。
「ごきゅごきゅごきゅ…ぷはぁー。やっぱりパティにゃんトコの飲み物はうまいにゃー」
「だろー!仕事のあとは特にうまいんだよなぁ。おーい!カーフ!
じゃじゃん持ってきてくれ」
葵明とアレフは浮かれた様子でカーフにグラスを掲げた。
といっても葵明はアルコールではないが。
「やれやれ…調子がいいなぁあいつら」
志狼はちびちびとカクテルを飲んでいた。横では志狼と違って
どきつい酒をケイが飲んでいたが。
「まぁ、あいつららしいじゃないか。それよりも志狼。
お前、あんまり飲むなよ」

「へ?」
ケイはきょとんとしてる志狼の顔を見ながら大声で言った。
「お前なぁ、この前、俺と飲んでたら急にぶっ倒れたの忘れたのか!?
あの時
俺とカーフさんでジョートショップに運ぶの大変だったんだぞ!」
志狼は頬をかきながら思い出していた、が。
「まったく記憶にないぞ。」
の一言でケイはさらにため息をついた。
「こいつはぁ…」
「志狼は、酒飲むと記憶なくすからね。言っても無駄でしょう」
カーフがおかわりの酒とつまみを持ってきた。
「ですけどねぇ…聞いたらコイツ今まで自分が酒に強いと
思ってたんですよ。ところがまったくの下戸だなんて…」
「いいだろ!好きなんだから!
…ったくカーフさん、俺にもカクテルおかわり!」
志狼はやや乱暴にカーフにグラスを渡した。
「仕方ないですねぇ…じゃ、何がほしいのですか?」
カーフはやれやれといった顔で受け取りながら聞いた。
「そうだなぁ…」
志狼はどれにしようか考えていると、窓からさくら亭名物の桜が見えた。

いつ、植えられたかは志狼達は知らないが樹歴は長い。
今年もそろそろ見ごろになってきた。
「さくら…か」
志狼は小さくつぶやいた。
「ああ、もう見ごろですね。
そうだ、一つ桜にちなんだカクテルを作ってあげましょう」
そう言ってカーフはカクテルの材料を取りにいった。
志狼は聞こえなかったように桜をじっと見ている。
外の闇夜の中、桜色が鮮やかにそして、怪しく光っていた。

「やれやれ、すっかり遅くなっちゃったか…」
ゆーきは独り夜道を歩いていた。少し街を離れて遠くにいったためか
かなり遅くなってしまったのである。
ちょうどさくら亭が見えてきた。
外からでも人影の動きでにぎやかなのが一発で分かる。
「誰かいるみたいだな。そうだ、あいさつしに行こうっと」
ゆーきはさくら亭へと駆け出した。
と、すぐにさくら亭の前で急に足を止めた。
「うわぁ…」
ゆーきは目の前の桜に感嘆していた。
満月の光が映えピンク色が鮮やかに見える。
花びら一つ一つが光を放っているような、
幻想的な風景が醸し出されていた。
「きれいだな…」
「そう?」
ゆーきは急に声がしたのでその方向を見た。

桜の木の上に一人の女の子が見える。
年はゆーきより2、3歳下だろうか。
だが、ゆーきより幼く見えるのにどこか艶っぽさがあって
大人びて見える。
髪はセミロングでメロディの様に桃色−いや、桜色だろうか。
瞳ははっきりとしたブラウン。こざっぱりとした服、
そして、小さな木製の横笛を持っている。
「あなたは…誰…ですか?」
ゆーきは恐る恐るその女の子に話しかけた。
ゆーきの脳裏にはこの女の子に関して一つの単語しか浮かばなかった。
幽霊。
その女の子は木の上から微笑を顔にたたせると言った。
「あなた、今わたしを幽霊かと思ったでしょ?」
ゆーきはゾッとなった。当たってる。本物か…?
無意識に腰にさしている魔法剣−ヴァイパーに手をかけた。
「ふふっ、安心して。私は幽霊なんかじゃないわ。ゆーきクン」
「…!俺の名前を…」
頬に冷や汗がつっと流れる。
ゆーきはいわれもしれない不安におそわれた。
心を読まれている、そんな感じがした。
気付くと女の子はいつのまにか目の前に降り立ち桜に手を当てた。
「私はこの桜の精…かもね。」
「かもねって…」
ゆーきはいいかけるとその女の子は横笛にそっと唇をあてた。
透明で落ち着いた笛の音が響く。
「!」
急に風が吹き上げて桜の花びらが吹き上がる。
「くっ!何だ!」
ゆーきは腕で目を覆った。腕の間からその女の子が見える。
「今日は、君を見に来ただけ…覚えておいてね。私の事…」
女の子の声が小さく聞こえるとさらに桜は舞った。

「…ーき。ゆーき、ちょっと、ゆーき!」
「へ?」
ゆーきは目の前にパティが自分を揺さぶっているのに気がついた。
「あ、パティさん…どうしたの?」
「『どうしたの』じゃないわよ!出前から帰ってみたら、
あんたがウチの前で倒れてたんだからね」
「そう…なんですか?」
ゆーきは回りを見回した。目の前に桜が咲いているのがわかる。
だが、あの女の子はどこにも見当たらない。
「…あの、女の子は。」
「はぁ!?アンタまさか、寝ぼけてたわけなの!?」
パティは呆れ顔でゆーきを見た。
「そう…なんですかね。」
「アンタねぇ…」
パティはため息を一つつくとゆーきの腕を取って言った。
「まぁ、いいわ。とりあえず中入りなさいよ。
何か食べ物作ってあげるから。」
パティはそのままさくら亭のドアを開けた。と、そこに人が倒れていた。

「ええっ!…って志狼じゃない!カーフこいつどうしたのよ!?」
カーフは申し分けなさそうな顔で言った。
「いやぁ、チェリーブロッサムっていうカクテル作って
飲ませたんですけど…こんなさまになっちゃって。
おかしいなぁ、アルコールはあんまり無いはずなんだけど…」
「おー、見事に目を回してんな。志狼ってここまで下戸だったんだな。」
アレフは志狼をつんつんしながら言った。
「また、俺が運ぶのかよ…」
ケイはテーブルに突っ伏しながらつぶやいた。
「ボクも手伝うからがんばるにゃー。」
メイがケイの肩をぽんぽんと叩いた。ケイはため息を一つはくと
「それじゃ、俺はメイと志狼を運んで帰るよ。
ゆーき、ゆっくりして帰れよ」
「そうにゃ、ばいばーい。」
「お気をつけて。」
ゆーきに手を振ってケイとメイは志狼を二人でかかえて
さくら亭を後にした。

「ふう…」
ゆーきは夕食のスパゲティを食べ終えると一息ついてうつむいた。
「お?どうした、ゆーきくん?元気ないですね。」
「そうね。そういえばなんでウチの前で倒れてたワケ?」
カーフとパティが聞いてくるとゆーきは少し考え込んで口を開いた。
「実は…」

「桜の精だぁ!?」
「はい…」
ゆーきが深刻な顔で言った途端アレフは大笑いした。
「ハッハハハハ!ゆーきネボケてたんじゃないのか?」
「でも、アレフさん。俺は実際見たんですよ!」
「でもなぁ…あれは昔っからあるただのじじー桜だぜ。
でも、女の子かぁ…どんなものか拝んで見たいモンだな」
「で、どーすんですか、アレフさん?」
「とーぜん、美人だったら口説いてお茶でも…」
ドンッ!
「ちょっと!二人とも!」
二人が言い争ってる間にパティが机を叩いて間に入ってきた。
「ウチの看板がわりとも言える桜に変なコトいわないでよ!」
「でも…」
「でもじゃないの!ったく…」
カーフはグラスを磨きながら笑った。
「まぁ、まぁ。パティさんこいつらも悪気があっていったわけじゃないんですから。
で、ゆーきくん。その桜の精ってのは突然現れたんですね?」
「はい」
ゆーきがうなづくとカーフはグラスにジュースをつぐと
ゆーきに出した。
「幽霊かもな」
「は!?」
「ええっ!?」
ゆーきとパティは一瞬にして顔が青くなった。
「ど、どういうことですか、カーフさん!?」
「いやぁね、志狼が言ってたんだけどあいつの故郷でしたっけ…
…桜は墓標代わりって言われがあって…」
カーフはさらに声を低くして言った。
「だから、桜が咲くころには幽霊が出るっていうのはザラと…
ゆーきくん、まさか幽霊に取りつかれたんじゃないんですか?」
ゆーきは顔を青くして「まさか…それじゃ…」と、呟いている。
アレフは苦々しい顔で「おいおい…」といいたげな顔をしていた。
パティはというと
「……」
「あれ?どうしたんですか、パティさん?」
バシ!
「はうっ!」
パティは有無を言わさずカーフの頬をはたいた。
「こら、カーフ!そしたらなによ。ウチの桜はお墓だって言うの!」
「いや、私じゃなくて志狼が…」
「と・に・か・く!そんな事言ってたらアンタでも許さないわよ!!」
「はい…」
ゆーきは幽霊の怖さを忘れて二人を苦笑いして見ていた。
だが、あの脳裏にはあの女の子の微笑しているのが忘れられなかった。
(どうしてかな…?)
自分に問い掛けてみるが答えは出ない。
カウンターではパティがまだカーフに小言らしく言っていて
アレフがそれをはやしたてていた。ゆーきはそれを見て
今日の不思議な事を記憶から洗い流そうと思った。
(ま、夢だったんだろうな。)
そう、自分に言い聞かせゆーきはジュースを一気に飲み干した。

次の日ジョートショップに一つの依頼が来た。
報酬:1500G
場所:さくら亭前
依頼人:(空白)
仕事内容:人探し

桜の花の舞い下りる頃
…一つの話しが始まる。


中央改札 悠久鉄道 交響曲