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「桜花幻想曲〜2〜幻花」 心伝
桜花幻想曲〜2〜幻花

「あれ?」
志狼は今日の仕事表を調べていると、
おかしなものを見つけた。
報酬:1500G
場所:さくら亭前
依頼人:
仕事内容:人探し
「アリサさん、これ…依頼人が書かれてないですよ」
志狼は目の前で決算表(テディが横で目の代わりをしている。)
を書いているアリサに手渡した。
「あら、おかしいわね?お客様の名前は必ず書くはずなのに…」
アリサは首をかしげた。
「でも、ここにあるって事はお仕事があるって事は確かっスよ」
「テディの言うとおりかもしれないけど…」
志狼は依頼表を手にとってひらひらさせながら言った。
「なんで、さくら亭が目の前にあるのに『さくら亭前』なんだ?」
「そういえば、そうっスね。中に入って待ち合わせをすればいいのに」
テディは志狼の頭に乗って依頼表を見た。


「さくら亭が苦手なんじゃないっスか?例えば」
「例えば?」
「パティさんとかカーフさんが苦手とか…」
「あのな、テディ。それならまったく別のトコを指定するだろ。」
志狼は頭のテディをどかせると椅子からたった。
まだ、昨日の酒のせいか二日酔いで頭が少し痛む。
「いててて…カーフさん、あんな強い酒飲ますコトないだろうに…」
「…アルコールがそんなに入ってないお酒でどうしてあそこまで
酔っ払うっスか…」
「ん?なんか言ったかテディ?」
「い、いや。なーんにも言ってないっス」
「…とりあえず、これしか今日は仕事がないから
志狼クン、これに行ってくれないかしら?。」
志狼は後ろ首をひとかきすると言った。
「分かりました。それじゃこれ、行ってきます。」
志狼はテディと共にさくら亭に向かった。

「さてと、ここだけど…」
志狼達はさくら亭の前−桜がある所についた。
「依頼人は来てないみたいっスね」
テディは志狼の頭の上に乗っかって回りを見回した。
こっちに気付いて挨拶をする人はいても
依頼人らしき人は見当たらなかった。
「まぁ、少し待ってみようぜ。
俺達が速く来すぎたのかもしれないしさ」
「そうっスね」
こうして、志狼達は桜の木の下で少し待つことにした。

       〜数時間後〜
「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いーっ!」
志狼はあまりの遅さに絶叫していた。
もう、日が中頃に達してきていた。
横のテディが明らかにいやそうな顔をしている。
「志狼さん…回りの人の目が気になるっス…」
「でもな!ここまで遅い依頼人ってのもひどいぞ!ったく、帰っちまうぞ…」
志狼が首の後ろを軽くかいて回りを見まわした。
その時、
「ふふっ、気が短いわね。天羽 志狼さん」
「はい?」
「ここよ、うーえ」
志狼は言われるまま上をむいた。すると、
桜の木にちょこんと桜色の髪の女の子が座っていた。

「君が依頼者?」
「そ、私が依頼したの。
ここに朝からいたんだけど、気付かなかった?」
女の子は桜の上から軽くジャンプして降りた。
声ぐらいかけろと志狼は思ったが。
「そういえば、依頼表に名前書いてなかったっスけど…」
テディが聞くと女の子は頭をなでて言った。
「ああ、書き忘れてたわ、ゴメンねわんちゃん。」
「ボクは犬じゃないっス…」
女の子は「よしよし」とテディの頭を
またなでると志狼の方をむいた。
「改めて自己紹介、私は…リーン・チェリーウッド。
よろしくね。天羽志狼さん」
リーンは片手を差し出すと志狼も手を出して、握手した。
「で、俺に依頼って?確か…人探しとか書いてあったけど」
だいたい、ジョートショップは依頼はざっとした感じで受ける。
その後、志狼達が現場に行って詳しい内容を知るのである。
「そう。探してほしいのは、あなたの友人」
リーンは木製の笛をふところから出すとそれを見ながら言った。
「ゆーきクンよ」

「ゆーき?あいつがどうしたんだ?」
「知らないの!?」
リーンは志狼の顔を驚いた様子で見上げた。
「彼、昨日の晩から行方不明なのよ!」
「ええっ!」
志狼は驚いてリーンの肩を掴んだ。
「どういう事なんだ!
俺が酔っている間に何があったんだ!?」
「落ち着いて、彼はさくら亭から帰ったあとから
消息がないの。だから、
どこかにいった可能性があるってことね」
「…」
「どうしたの?そんな顔して?」
志狼の代わりにテディが言った。
「リーンさん、何でそんなこと知ってるっスか?」
リーンは軽く笑うと
「私はゆーきクンのお父さんがやっている雑貨店の常連客なの。
だから、お父さんに聞いたの」
と、言って志狼の手を取った。
「とりあえず、ゆーきくんの家にお父さんがいるから
事情を聞きに行きましょ。早く!」
「あ、ああ…」
志狼とテディはそのままリーンの言われるまま
引っ張られていった。


「あれ?」
カーフはさくら亭から出て回りを見回した。
回りには、知り合いの顔は見当たらない。
「どうしたんですか、カーフさん?」
中でお客の声が聞こえて来る。
「いや。志狼の声が聞こえたんで
…外にいたのかと思ったけど?」
「志狼さんのことですから、
もう仕事にいったんじゃないですか?」
「そうだな。で、食後のデザートは何にするかい?」
カーフは中に入って一人の客に声をかけた。
昨日もきていたが、
今日は父親の雑貨店手伝いの前の昼食ということだ。
「ゆーきくん?」


「志狼さん、そういえば一つ疑問があるっスけど…」
テディが頭の上から声をかけた。
「どうした?テディ?」
志狼は歩きながら言った。
目の前にリーンが先導して歩いている。
「ゆーきさんって必ず行く先をお父さんに必ず言うじゃないっスか。
なのに何で行方不明になるっスかねぇ?」
「うん…でも、ゆーき昨日は用事があるって言ってたからな
だから、まだ帰ってないだけかも知れないぜ」
志狼は気楽にテディに言ってリーンについていった。

だが、志狼達は歩き続けもうローズレイクのはずれまできていた。
カッセルの家がもう遠くの方にしか見えない。
「リーン。どこまで行くんだ?ゆーきの家はこっちじゃないはず
だったぜ?」
さすがに志狼も不安になって声をかけると
リーンは急に止まった。
「…リーン?」
「そうね。もう、ここらでいいわ」
リーンは振り向くと、木製の横笛を吹き出した。


幻想的で素朴なメロディが流れてきた。
「?」
「いいね…いろ…っスね…」
テディが急にこてっと寝てしまった。
志狼ははっとなって気を全身にこめる。
「呪曲か!お前…何者だ!」
リーンは志狼にかまわず笛を吹き続ける。
「くうっ!」
志狼は閉じようとするまぶたを必死になって開けていた。
志狼は気をさらにこめ、
リーンに攻撃をしかけようとした。
(お願い…)
「!」
突然、志狼の耳−いや、心に声が響いてきた。
志狼は前で笛を吹き続けている少女に目をやった。
(これは…お前、俺の声が聞こえるな?)
(うん…)
志狼達は心で話し続けた。
だが、二人とも見た目ではまったく動いていない。
(ゆーきに何の用がある?)
(それは、言えないの…でも、安心して彼に危害は加えない。)
(…)
(お願い…)
志狼の回りから気が薄れていく。
途端志狼のまぶたが鉛のように重くなった。
そして、志狼はゆっくりと倒れた。


リーンは志狼が寝ているのを確認すると
横笛をしまった。風が吹き桜色の髪がなびく
「さすが、天羽志狼ね。ここまでてこずらせるとは…」
リーンは志狼とテディを仰向けに寝かせた。
途端、くらっとめまいを起こす。

「もう、長くないわね。急がないと時間がない…」
(…そうなの?)
どこからともなく声が聞こえた。
志狼の心に聞こえたあの声である。
「大丈夫、あなたの願いは必ずかなえるから」
空に向かってリーンは笑った。
野桜のはなびらがここまで舞っている。

(でも…こんな事していいの?志狼さん達を騙して…)
横では、すーすーと志狼とテディが寝ている。
「そうね、でもあなた、ゆーきクンに会いたいんでしょ?
だから、志狼さんも分かってくれるわよ。」
リーンは独り言のように空に言った。
(そうかしら…)
「まぁ、気にしないの!
じゃ、ゆーきクンの所にいくわよ!」
リーンは笛を吹いた。
幻想めいた、そして素朴なメロディが流れる。
途端、リーンの体が光につつまれ、やがて消えた。


さくら亭前ではさくらが満開となっていた。
風にあおられ、花びらが散ってゆく。
ゆーきは昼食を終え木の下で花を見ていた。
(あの、女の子…どうしてるかな?)
ゆーきは昨日現れた、桜の精を名乗る女の子が脳裏に浮かんでいた。
果たして、あれは、夢だったか…それとも

途端、桜の木の上から女の子が現れた。
「君は…!」
そう、あの桜の精である。
その桜の精−リーンは笑うとこう言った。
「ゆーきクン。天羽志狼くんとテディは預かったわ」
「…何!」

桜の木の下で…二人の交響曲が始まる。



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