中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想

「ウロボロスの見る夢」 雨水 時雨(MAIL)

 無くしてしまった1ピースを探す青年。
 何処かの少女の様に、夢の国へと誘われる。
 いつしか探す事を忘れ。
 気がつくと手の中に鍵が一つ。
 扉を開けて一歩を踏み出せば。
 誰かに声をかけられて。
 
 「ウロボロスの見る夢」
 
 誰かに起こされて、目覚めの感覚を味わう。
 起きたのだと自分に言い聞かせ、少しずつ頭を動かし始める。
「な〜に、昼間っから寝てんの?」
 目の前の人物を認識。目覚めたかと思ったけど、先ほどと同じ登場人物に、まだ夢の中なのか?と思う。
 元より現実と夢の区別なんてつきにくい、ましてや過去の無い自分には尚更だ。
 今、本当の自分がベッドで朝を迎えても、たぶん何も驚きはしないだろう。
「さぼってばっかりで、アリサおばさんに迷惑かけるんじゃないわよ。」
 ここが現実なんだと思う、夢の中の彼女はもっとやさしかった…。
「今日は休みだよ。」
 ぶっきらぼうに答えて、寝起きの不機嫌な自分を演出してみる。
「そう…、だったら良いのよ。」
 彼女はそう言いながら、自然に隣に座った。
 それから、二人で馬鹿みたいに黙り込んで、静かな時をすごす。
 ふと、枯れ葉をまとった木が目に入る。
 木が羨ましい、生きていた証がきちんと身体に刻まれている。
 自分の身体も、切ってみたら年輪の様なものが刻まれていないものか…、そんな事を考えて、一人ほくそ笑む。
「どうしたの?」
 声をかけられて横を見ると、目の前に彼女の顔があってびっくりする。
 ちょっと変な事を考えて笑ってたんだよ、と答えようとしたが。
「元気…無いみたいだね…。」
 等と先に言われ再びびっくりし、その言葉の内容に三度びっくり…。
 元気の無い顔…。自ら考えていたのとは違う自分が彼女の目の前にいるようで…、そんな事が更に現実を曖昧にする。
「悩みがあるんだったら…、あたし…聞く事ぐらいなら出来るよ。」
 更に曖昧になる…、さっきまで見ていた夢の様にやさしい彼女。
「昔の俺って、どんな奴だと思う?」
 彼女の好意に甘え、そんな事を聞いてみる。
 憐れみ、怒り、微笑み、くるくると表情を変えながら、彼女は一生懸命に問いに答えようとする。
 その変わっていく顔を見ながら、彼女の言おうとしている事を予想する。
 憐れみ…「そっか…、その事で悩んでたんだ…。大丈夫、ちゃんと思い出せるよ。」
 怒り…「全く…、そんなつまんない事考えて時間潰してんの?悩んでないで、今は今で頑張りなさいよ。そしたら、その内思い出すわよ。」
 微笑み…「大丈夫、心配無いよ、いつか思い出せる。」
 そんな所だろうか…。けど、彼女には悪いがどの言葉も答えになっていない。思い出す、出さないじゃなくて、自分がどんな人間だったのかが知りたい。
 どの言葉を言うのか決まったのか、彼女がこちらを向いた。その顔はいつもの顔だった。
「今と同じなんじゃない?」
 どの予想とも違って、またびっくりする。
「今の俺って?」
 驚いた拍子に、そんな質問が口から出た…。
 彼女は少し小首を傾げた後、答える。
「そうねぇ…、お調子者で、いきあたりばったりな所があって、いい加減で、八方美人で、優柔不断で、さぼり癖があったり、食べ物の好き嫌いが多かったり…、そうだ寝起きも悪いし…。」
 何だか酷い言われようで、頭に血が昇ってくる。
「でも…、本当はやさしくて…、いざとなると頼りになって…。それで…、最後に…あたしの事が大好き…そんな所かしら…。」
 頭に昇っていた血が、一気に顔の方に流れ込んでくるのが解る…。見ると彼女も顔を赤くしていて、どちらともなく笑う。
「そうだ…、目つぶってよ。」
 彼女が突然そんな事を言ってくる。
「何で?」
 ある程度の予想はできているが、そう聞き返してみる。
「いいから、何でも!」
 強い口調で言われ、素直に目をつぶる。と同時に唇に暖かい感触…。
「元気の出るおまじない。」
 暖かさが離れると同時に彼女の声が聞こえた。
「普通…、こういうのって、おでことかじゃないのか?」
 目を開けながらつまらない事を言う。案の定、つまらない一言だった様で、目の前には少しふくれた顔の彼女。
「何よ、何か文句あるの!」
「いいや、嬉しいよ。」
 素直に言うと、今更の様に顔を真っ赤にした。
「…あたし…、これから仕事だから、もう帰るね…。」
 その頬の赤みを隠すように、彼女は去って行った。
 小さくなる彼女の姿が、見えなくなるまで見続けた後、再び地面に寝ころんだ。
 そして、今が夢である事を望み、まどろみの中へ身を投じる。…再び、彼女に起こしてもらえる事を願って…。
 
 過去のような未来…、そんな曖昧な時の果て。
 実像か虚像か…、そんな曖昧な意識の中で。
「な〜に、昼間っから寝てんの?」
 遠くからそんな彼女の声が聞こえ。
 現実に眠る青年は、笑いながら夢に目覚める。
 
<何時かへと続く>
 
作曲、編曲・雨水 時雨


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