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「ワラフヲトコ」二日目 其の弐 雨水 時雨
ー捜査の基本は聞き込みであるー
「えっ?この人を知らないかって?知らないわよそんなの…。それより、何も注文しないんだったら、とっとと帰ってくれる、あんたに付き合ってるほど私は暇じゃないのよ。」

ー捜査の基本は足であるー
「へぇ〜、お前もすみにおけないなぁ、そんな可愛い彼女がいながら他の女の子を追いかけるなんて。」
「可愛い彼女だなんて…。」
「お前と一緒にするなよ…。それとそこ、ナンパ男の言葉を真に受けない!」
「お兄ちゃん、そんな恥ずかしがって照れ隠ししなくてもいいのに…」
「お二人って、そうだったんっスか…」
「お前まで納得するな!」

ー捜査の基本はしらみつぶしであるー
「こんな人知らな〜い。」
「やっぱりそうか…」
「なになに?この女の人を探してるの?だったら私が探査魔法で探してあげる。」
「それは…遠慮しとく…。って、人の話を聞け!」
「星々よ、その輝きで地を照らし、世界の全てを我が瞳に映せ!天よ、我に星の瞳を与え給え。」
「何か…、空から降ってくるっス…」
「皆………、走れ〜〜〜〜!」
「ちょっとフェイさん、待って下さいっス〜〜!!」
「あっ、流れ星…」

ー捜査の基本は…………
「お兄ちゃ〜ん、わたしもう疲れたよ〜。」
 ローラは音を上げると其の場にへたり込んでしまった。しかし、フェイはそんなローラを咎めもせずに、自分もその横に座り込んだ。
「全然手がかり無しっスねぇ。」
「ああ…」
 フェイはテディの言葉に頷きながら考え込んだ。
 行方不明の彼女の仕事場、自宅、友人関係はまっさきにあたった。そこで何の情報も得られなかった為に、フェイは人の良く集まる場所や、女性の事なら!の友人にも聞き込んだのであった(+αで全く関係の無い知り合いにも聞き込んだは余談である)。結果、何の情報も得られなかった。ーこれだけ探して手がかり一つ無いとは…、こりゃあ、ひょっとするとひょっとするかも…ー
 フェイは何かしらの予感、それも良いものでは無い類のものを感じていた。
「あ、あれ…。」
 ローラが突如声を上げながら指さしたので全員の視線がそちらへ向いた。
 湖のほとり(ここはローズレイクである)に一人の男が立っていた、男は不気味に笑っていた…。
 フェイはそれがメイクの為にそう見えたのに気が付くのに数秒かかった。
「あれ…、ピエトロさんじゃないかな?」
 そう言いながら立ち上がと、ローラはとことこと側まで歩いて行った。しばらくほ〜っと見ていたフェイだったが、遠目にその者がピエトロだと解ると、昨日の事を思い出し、礼をしようと自分も立ち上がった。

「ねえ、何してるの?」
 横からローラが声をかけた。
「…!」
 声をかけられた方が驚いて振り向く、瞬間、男が奇妙に笑った…。否、笑った顔のメイクで驚いたのだから、奇妙に見えたのは当然だった…。
「ああ、君は…」
 ピエトロがローラを認識する。
「どうも…」
 フェイが続けて声をかける。
「ああ、お揃いで。」
 全員が誰からとも言わず、其の場に座り始めた。
「フェイさん、この人は誰っスか?」
 始めに口を開いたのはテディだった。
「ああ、クラウンズサーカスの新人ピエロのピエトロさんだ、昨日知り合った。」
「ピエトロさん、初めましてっス。」
「ああ…、初めまして…」
 何とか返事するものの、いぶかし気な目でテディを見るピエトロ。
「これは…?」
 テディを指さし、言葉少なに聞く。
「ああ、こいつは見た通りの喋る犬のテディ。俺が働いているジョートショップのペットだ。」
「僕は犬じゃないっス!それにペットでもないっス、僕はれっきとした家族っス!そんな事言うなんて…、酷いっス、フェイさん…」
 思わず涙ぐむテディ。
「冗談だよ、冗談。改めて、こいつは俺の兄弟みたいな存在のテディだ、よろしくしてやってくれ。」
「そうですか、よろしくテディ君。」
 先ほどとは違った意味で涙ぐんでいるテディと、握手?をするピエトロ。
「それにしても何をしてたの?」
 ローラが聞く、
「んっ、ああ僕かい?僕はほら、これの練習をしていたんだ。」
 ピエトロは言いながら足元の物体を取り出した、それはジャグリング用の刃の無い短剣だった。
「まだ、ピエロやり始めだからうまくいかなくてね、恥ずかしながら人目の無い場所で練習さ。」
 ピエトロはぽんぽんと短剣を投げ始めた、しばらくはうまくいっていたが、間もなくおたおたし始め、遂にはぽろぽろと落としてしまった。
「この通り、まだ下手くそなんだよ…。」
 そう言っておどけてみせるピエトロ、ローラが鈴の音の様な笑い声を上げ、ピエトロは目を細めた。
「そうだ…」
 フェイが何かを思い出したように手を打つ。
「昨日はありがとな。」
「ん?」
 いきなり頭を下げられて、目を丸くするピエトロ。
「これだよ、これ。」
 フェイが包帯を巻かれた右手をつき出す。「ああ、」と声を上げて理解するピエトロ。
「いえ、大した事をしたわけではありません。」
「否、この街一番の名医が、あんたの応急処置を誉めていたぜ、何かやってたのか?」
 ピエトロの顔が曇る、フェイもそれを察知する。
「悪い、何かまずい事でも聞いちまったみたいだな…」
「ああ、いえいえ、気にしないで下さい。……昔、医者になろうとして挫折したんですよ、昨日のはその時の遺産みたいなものです。」
「なるほど…、まあ人生色々ってやつだな…」
 重い空気が流れる。ピエトロが慌てて明るい調子で話し出す。
「それより、皆さんは何をしていたんですか?もしかして、デートですか?羨ましいですね、こんな可愛い娘と…」
「そんなはっきり言われると、照れちゃうねお兄ちゃん。」
 ピエトロの言葉に軽く頬を染めるローラ。
「な〜に、真に受けてんだよ。」
 そんなローラを軽くこづくフェイ。ピエトロが「くくっ」と笑う。
「本当に仲の良い、ご兄弟ですね。」
「えっ?」
 目が点になるローラとテディ、そしてフェイが突然に笑いだした。
「はっは、『仲の良い兄弟』か、そうか、そりゃそうだよな。」
「む〜!」
 ローラがじと目でピエトロを見る。フェイは笑ったままで、ピエトロが困った顔をしていると、テディが色々と説明した。

「……というわけで、ローラさんとフェイさんは兄弟じゃなく、本当に恋人なんっス。」
「はあ〜、なるほど。」
 一通りの説明を受け、頷くピエトロ。
「おいテディ、誰と誰が恋人だって?」
「もう、お兄ちゃん、だから照れなくってもいいのに。」
「だから照れてるわけじゃない。」
 二人のやりとりを見て、ピエトロが笑う。
「本当に仲が良い…。あっ、それより人探しをしているとか…?」
 突然聞かれて、一瞬呆気に取られるフェイ。
「あっ?ああ、そうなんだよ。」
「どの様な人を探しているんですか?」
 そう聞かれて、フェイは懐からブラウニーから預かった彼女の似顔絵を取り出して見せる。ピエトロが何かを知っているとは思えなかったが、駄目もとで見せる事にした。
「この女性を探してるんだ。見たことは…無いだろうなぁ…」
 しかし…、
「あっ、」
 ピエトロが何か思い付いた様に声をあげる。
「何か知っているのか?」
 三人は思わず顔を近付ける。
「いえ、良くは知っているわけではありませんが、ただこの人を見たような憶えが…」
「ど、ど、何処でっスか?」
 三人の剣幕に、少し気押されるピエトロ、
「何処でって、あのここで何ですが…。」
「ここ?ローズレイクで?いつ?」
「えっと…、一昨日の夜に。僕は今みたく練習をしていたんですが、その時、湖のほとりにこの女性らしき人を見ました。何か悲しそうな顔をしていて、声をかけようとも思ったのですが、雰囲気がそうでは無かったので、すぐに其の場を立ち去ったのですが…。あの、すみません、大した情報じゃなくて…」
 明らかにがっかりとした顔をする三人、しかしフェイはそれを無理に隠し微笑む。
「あやまる事はない、それだけでも充分な情報だ。」
「そうですか、そう言って貰うとありがたいです。」
 ピエトロはそう言って、しばらくすると荷物をまとめ立ち上がった。
「あの…、私はそろそろ…」
 ピエトロはそう言い残し立ち去ろうとする。
「そうか…、それじゃあな。」
「さよ〜なら〜。」
「また今度っス。」
 三人は座ったまま見送った。
「さてと」
 ピエトロの姿が見えなくなると、続いてフェイが立ち上がった。
「俺達もそろそろ帰るか…。このまま聞きまわっても何も解らないだろう。とりあえず一昨日の夜、ここに居た事は確かなんだ、その後の足取りを明日ここを中心に聞き直すか…。」
 後半部分は誰に言うのでもなく、自分自身に呟いた。
「教会まで送ってやるよ、ローラ。」
 フェイは立ち上がると手を差し出す、「ありがと。」とローラは言いながら出された手を掴み、そして立ち上がるとそのまま自分の腕をするりと滑り込ませた。
「おい…」
「へへへ…。」
 屈託の無い笑顔を見せられ、フェイは二の句がつげずにそのままローラに腕を組ませて歩き出した、後ろでテディが笑っていた。

 ほどなくして、教会の前にたどり着く。
「それじゃあな、ローラ。」
 ローラは名残惜しそうに手を放す。
「うん、また明日ね。」
ー明日もなのか…ー
 そうは思うが口には出さないフェイ。
「じゃあ、また明日っス、ローラさん。」
 フェイの心を知らずに、呑気にそんなことを言うテディ、思わずフェイがテディを蹴り飛ばそうとした時だった。
「あの、フェイ様。」
 背後から突然声をかけられて慌てるフェイ。ゆっくりと足を降ろすと、静かに振り向いた。そこには神父が立っていた。
「どうしたんですか?」
 意外な人物に呼び止められ少し驚くフェイ。
「あの、フェイ様、少しお話したい事がありまして…、お時間よろしいでしょうか?」
「ええ、いいですよ。」
 フェイはそう答えて待った、しかしいつまで経っても神父は話そうとしない。フェイが何かを察する。
「テディ、先に帰っててくれ。ローラ、俺は神父と大事な話があるから教会に入ってな、じゃあな。」
「は〜い、それじゃあね、お兄ちゃん。」
「じゃ、先に帰ってるっス。」
 二人が素直に従ったので少々拍子抜けするフェイだった。

「それで、どうしたんですか神父。」
 神父に誘われるまま教会の裏へ来たフェイ、神父はやおらしゃがみ込むと、とある場所を指さした。
「これを見て頂けませんか。」
 神父にうながされるまま、その場所を覗き込む。草むらの陰に大きな板があり、神父がそれをめくる。するとそこには大きな穴があった。
「…これは?」
「はい、私も数日前に発見したばかりなのです。」
 フェイは穴の様子を探る。
ー自然に発生したものでも、誰かが人力で掘ったものでも無いな…。魔法で掘られたもんだー
「神父、この位置からすると、もしかしてこの穴…」
「はい、確かめてはいませんが例の場所へ繋がる穴かと…」
 フェイは考え込む。
ーあそこへの教会からの入り口は魔術士ギルドによってしっかり封印された…、まさかこんなやり方で進入できるとは…、でも誰が、何の為に?ー
「自警団のリカルド様にもご報告したのですが、どうもお忙しいらしく、調べ始めるまでには時間がかかるとおっしゃっていました。それで、できればあの時の関係者の一人であるフェイ様にお願いしようと思ったのですが…」
 神父はそう言って、フェイの右手の包帯に目をやった。
「俺も右手が無事なら調べたいんですが…」
 神父は一つ溜め息をつく。
「無理はお願いできませんね…、仕方ありません、リカルド様の手が空くのを待ちましょう。それまで…、何も起きなければ良いのですが…」
 神父の言葉が不気味な響きをもってフェイに襲いかかった、フェイはじっと右腕を見た。

「何か大変な事みたいっスね、ローラさん。」
 おとなしく従ったと思ったら、二人は物陰に隠れてしっかりとフェイ達の話を盗み聞きしていた。
「わたしのせいだ…」
 ローラが小声で呟いた。
「なんっスか?」
 思わず聞き返すテディだが、ローラは来た時と同じ様に静かに其の場を去ってしまった。
 置いてけぼりのかたちになったテディも覗いていた事がばれないように走って帰った。
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