中央改札 悠久鉄道 交響曲

「悠久学園ストーリーAct2,KO・I・GO・KO・RO」 式部 瞬  (MAIL)
キ〜ンコ〜ンカ〜ンコ〜ン。
古臭い音色のチャイムが退屈な授業の終わりを告げる。今日は土曜日、そして今のは
四時間目の終了のチャイム、つまり、
「いよっしゃああああ!!」
「やっと終わった〜〜〜!!」
「お〜い、アレフ〜。午後からナンパしにいこうぜ!!」
「ねえ、シーラちゃんは部活決めちゃった?まだなら音楽部にはいらない?」
「うるさ〜〜〜い!まだ私の授業は終わってないわよ!!」
「ヴァネッサ先生、怒るとシワができますよ〜。」
「………(滅殺)」
と、こんな感じ(どんな感じだ?)なのだ。それにしても…。俺は黒板に目をやって
思わず苦笑した。なんで数学の授業なのに黒板に“痴漢から身を守る方法”とか“女
と化粧”とか言う言葉が書かれているんだろう??なんせヴァネッサ先生の授業は半
分以上が無駄話だからな〜。ま、寝てる俺にはどちらにしろ関係ないケドね。
「ふぁああああああ!!」
「また夜更かし?」
俺の大あくびを呆れ顔で見やったパティはそう言って軽く微笑んだ。
「おう、思わず深夜番組を見ちゃってさ。」
「ああ、“突撃!セミラミス”?」
「そうそう、あれが面白くて…って違うわ!!」
パティのあまりに自然なツッコミに、半覚醒状態の俺は思わず頷いてしまった。ちなみ
に“突撃!セミラミス”とは…まあ、一言で言えば「大人」の深夜番組だ。
「やだ〜、瞬ってばHだ〜。」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、俺を糾弾すろパティ。うろたえた俺は思わず言わないで
いいコトまで口走ってしまった。
「違うっちゅ〜に!あれは露出も少ないし、最近面白くないから…あ!」
「…………。」
(しまった〜!!俺ってバカ過ぎ〜〜!!!)
自分の愚かさを呪いながら、パティに投げかけられるであろう言葉に脅える俺。と、
「いいんじゃない、別に。年頃なんだからそ〜いう事に興味あったって。」
「…はい?」
「逆に全然興味ないほうが変だよ。」
「は、はあ、そうですか…。」
意外だった。パティの性格ならきっと「スケベ!変態!!最低!!!」を連呼すると
思ったのに。前だってクラスの男子が軽い気持ちでその方面の話題をパティに振った時
なんか本気で怒ってたのに。…う〜む、俺が幼なじみだからか?ん〜関係ないかな??
ま、いいか。
「さ〜て、帰ろっと。一緒に帰るか?」
「ダメ。」
即答である。
「何だ?廃部寸前のお料理部へ行くのか?」
「廃部寸前ぢゃないわよ!!」
「似たようなモンだろ〜?だって…。」
思い出して俺は苦笑した。パティが部長を努める家庭科クラブは主に料理に活動の重き
をおいている。まあ、料理好きなパティなら当然と言えば当然だ。好きなだけじゃなく
実際パティの料理はうまい。恐らくこの世で一番パティの料理を食べているであろう、
俺が言うのだから間違いない。が、人材には恵まれなかったのだ。
「ローラとマリアがいるしなぁ〜。」
「うぐ…。」
パティも思い出したようだ。俺は意地悪く、その出来事を事細かに口に出してやった。
「ローラとマリアが作ったケーキとクッキーを興味本位で食った体育のアルベルトの
野郎なんか、救急車で病院行きだもんな〜。」
「うう…。」
「ま、こんなのはよくあるけど(ねえよ!)、面白いのはこっからだよな。腹壊したん
ならともかく、アルベルトの野郎は整形外科で入院だもんな〜。噂によるとケーキとク
ッキーが爆発したとか、しないとか。ま、あの野郎が入院したって聞いた時は男子一同
諸手を挙げて喜んだけどな。」
「あ、あれは材料の配分を間違ったのよ…。」
「塩と火薬を間違ったのか?」
さらに意地悪く追求してみた。
「………。」
無言。俺は背中に冷たい汗を感じた。
「!お、おい、マジかよ!?」
アイツら(ローラ&マリア)ならやりかねんが…。それはマズイぞ、うん。
「……なわけないでしょう!!!!」
ドバキ!!
思い切り英語の辞書のカドでどつかれた。脳天に激痛が走る。
「いって〜〜〜!!!!そんなんだからお前らの部活は“ですとろいや〜ず”とか
“甘美なる死刑執行人”とか呼ばれるんだよ!!」
言ってからしまったと思った。
「プチ。」
切れた。
「何ですってぇぇぇぇぇぇ!!!」
辞書!辞書が変形してるぞ!!おまけに背中から黒い炎が立ち昇ってる!!俺は慌てて
立ち上がると、
「そうだ!今日は掃除当番なんだ!!じゃあな!!」
叫ぶや否や一目散に教室を飛び出した。幸い明日は日曜日だ、二日もあればほとぼりも
冷めてゲンコツ一発くらいで許してくれるかも知れない、などと情けないことを考えな
がら俺は階段を駆け降りていった。


ガチャ。
音楽室の扉を開けておもむろに中に入る。が予想通り…、
「誰もいやしねぇ〜。アレフの野郎、バックレたな…。」
俺は独りグチった。まあ、誰が好き好んで掃除なんて来るか!と言われればその通りな
んだが…。でも一応規則なんだからせめて来るだけ来いよな〜。ま、いいや、とっとと
終わせちまおう。俺は軽くため息をつき、掃除用具入れから掃除機を取り出した。と、
その時、
ガチャ……。
遠慮がちに扉が開いた。アレフか?よし、おちょくってやる。
「遅いぞ!!罰としてあとはお前がやれ!!」
俺自身まだ何もやってないけどな。と、振り向いた俺は思い切り後悔した。
「ご、ごめんなさい…。」
アレフではなかった。扉の影から体を半分だけ出して、脅えるように俺を見詰めている
少女、それは、
「あ!?シ、シーラさん??ご、ゴメン!友達だと思ってさ…。」
慌てて頭を下げる俺。そんな俺に気を使ってくれたのか、
「ううん、大丈夫だよ。でもビックリしちゃった。」
と、微笑んでくれた。俺は照れ隠しに頬をかいてみせると、
「コホン、と、ところでどうかしたの?ここに用事?」
「うん、私もここのお掃除当番なの。」
「え?そうなの?助かったよ、他の連中サボったからどうしようかと思ってたんだ。」
「じゃあ、私ゴミ捨ててくるね。」
そう言うとシーラは(明らかに無意味に)大きな木製のゴミ箱に手を伸ばした。と、そ
の時俺はあることに気がつき、慌ててシーラに駆け寄った。
「あ、シーラさんいいよ、俺が持つ。」
「え、何で?」
きょとん、とした顔で俺を見つめるシーラ。こうして近くで見るとやっぱり可愛い娘
だなぁ、と再認識される。それに綺麗な髪だ。
「あ、あの…顔、何かついてる?」
「え!?あ、いや、別に…。ただ綺麗な髪の毛だな〜って。」
何を言っているんだ?俺は…。と、ふとみるとシーラの透き通るような白い頬が、まる
で薄い桜色の紅をひいたうっすらと赤らんでいることに気がついた。
「熱でもあるの?」
「え!?や、やだ…。」
顔を伏せ軽く頬に触れるシーラ。俺も何となく気恥ずかしくなり無意味に前髪をかきあ
げてみたりなんかする。…ゴミ箱の前でなにやってんだろう?俺達…。
「と、とにかくゴミ箱は俺が持つから。」
「は、はい。じゃあ、捨てにいきますか…?」
「そ、そうしましょう、ハイ、ははは…。」
…ってなんで俺達不自然に敬語使ってんだ??おまけにいつのまにか二人で行くことに
なってるし…。いや、それが嫌だってワケじゃないけど、嫌どころか嬉しいというか、
何というか…。
「…ゴミ、捨てにいかないんですか?」
「え!?ああ、行くよ、うん。」
「あ…。」
と、その時いきなりシーラが素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたの?」
「…ううん、なんでもないよ。行きましょう。」
「うん。」
(このゴミ箱こんなに汚れてたんだ…。それで式部君……。優しいんだ…。)
「?何か言った?」
「え!?ううん、何も。」
シーラは軽く微笑むと、胸の奥に暖かいものを感じながら瞬の大きな背中を小走りに追
ったのであった。


中央改札 悠久鉄道 交響曲