中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「軌跡の果て」 式部瞬  (MAIL)
穏やかに流れる季節。
さりげなく、確実に、その歩みを進めてゆく。

雪解けの香りを微かに含んだ春風に、手を取り合って祝福のロンドを舞うさくらの花びら。

降り注ぐ厳しい陽光にひたむきに耐え、道行く人々にその笑顔を健気にむけるひまわり。

長すぎる秋の月夜の陰影の間に、揺れながら夢の中の恋人に恋いこがれるコスモス。

降り積もる真っ白な雪に抱かれて、その華奢な芽を必死に大地へと向けるフリージア。

そして、また春が訪れる。

時の流れと共に、沢山のものが変わっていった。

「おにいちゃん」と、人目も気にしないで抱きついてきて、俺を困らせたお前はいない。
代わりにいるのは人目を気にしながら頬を赤らめて、その小さな腕を絡ませてくるお前。

嵐の夜に泣きついてきて、なかなか俺を眠らせてくれなかったお前はいない。
代わりにいるのはすぐ隣で可愛らしい寝息をたて、俺に安らぎを与えてくれるお前。

恋に恋して夢見がちで、俺を呆れさせたお前はいない。
代わりにいるのはただ一途に俺と、俺との将来のことをを考えてくれるお前。

とどまることを許されず、何もかもがその姿を変え、あるものは泡沫の夢と消え、また
あるもののは新たに命の賛歌を高らかに歌い上げる。

だけど、許されるのならば、この想いだけはあの日のままに変わらないで欲しい。
そう
誰よりも心配で
誰よりも大切で
誰よりも愛しい人を想うこの気持ちだけは、どうかこのままに…。

「…なんか、恥ずかしいな。私がこんなに綺麗なドレスを着てるなんて…。」
純白のドレスを身にまとい、頬を微かに染めてローラはその場で軽く回ってみせる。
ふわり、とスカートがなびき、淡いさくら色の髪も同じようになびく。
自分のことを「私」と呼ぶことに嬉しいような、残念なような、懐かしいような、不思議
な感情を抱きながら、俺は軽く微笑み、そしてその小さな手をとる。
「…凄く綺麗だ。」
「本当?」
「もちろん。」
「…嬉しい。」
「さ、行こう。みんなが待ってる。」
「はい…。」
微笑み、ブーケを胸に抱くローラ。
「ねえ、あなた。」
「な、何だよ、急に…。」
とまどう俺に懐かしい、イタズラっぽい笑みを投げかけてくる。
そして、不意に優しい光を瞳に灯す。
「私を選んでくれて、本当にありがとう…。」
「…俺のほうこそ……ありがとう…。」
「……。」
「……。」
「幸せに、なろうね…。」
「ああ。」

そして、歩き出す。
二人肩を並べて、豪奢な扉の向こうに広がる、二人だけの新しい世界へと向かって…。


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