再生－リサ・メッカーノ

中央改札	悠久鉄道	交響曲

「再生－リサ・メッカーノ」 しゅう　(MAIL)

注意！：本編を読む前に、必ずお読みになってください。お願いします。

このＳＳ、「再生―リサ・メッカーノ」には、リサ・メッカーノが主人公ですが、ゲーム本編には出てこない、オリジナルキャラクターが数多く登場します。“火薬銃器かんぱにー”に所属する５人と、その身内は私の創作ですが、それ以外のオリジナルキャラクターは、心伝氏、カーフ氏、まるにゃん氏、春河ゆん氏、ゆーき氏の創作および助言によって生まれたものです。ゲーム本編のキャラクター、及び、５氏のオリジナルの創作キャラクターは、以下にひとまとめにして“エンフィールド新入居者名簿”として表示しております。他の方の、創作キャラクターの使用に関しては、至らぬ点が多々あるとは思います。また、多くの作品に目を通したため、参考にした創作キャラクターの作者の方のデータが、必ずしも完全ではありません。お気づきになった方は、colt@kansai.interq.or.jpまでお知らせください。出来る限り改善し、今後の指針にしたいと思います。万が一、作品に出ているオリジナルの創作キャラクターに関して、御不快な点がありましたら、何時でも削除、改定を行います。むろん、それですむ事ではありませんが、可能な限り善処したいと思います。その際は、お手数ですが、メールを送って下さい。お願いいたします。
ここで一言申し上げておきたいのは、このＳＳの不備な点や未熟さ、配慮に乏しい点に関して、私が注意、指摘、非難を受けるのは当然の事でありますが、この作品を掲載してくださったホームページの方は、ご厚意から掲載を許可してくださったのであり、他の人を誹謗中傷したりする為に掲載を許可した訳では決してありません。“表現の自由”や“他の人への作品の思いやり”等に非常に気を使っている事は、他の掲載作品や掲示板のコメントを読めばすぐ分かる事と思います。正当な理由があって、私のコンピューターに爆弾を投げ込んだりしてくださるのは、一向にかまいませんが、いかなる理由があろうとも、この作品を掲載しているホームページを誹謗中傷したり、活動の妨げになる事をするのだけは、お止めになってください。どうかその事だけは、くれぐれもよろしくお願いします。
なお、人物以外にも原作には登場しない、あまりにもかけ離れた設定が多々存在するかと思いますが、その点はどうかご容赦ください。また、ＳＳ本編内で、銃器を使って、人や物を撃つ場面が多々出てきますが、これだけは、たとえエアーソフトガン等でも、絶対に実行しないでください（そんな人が悠久ＳＳを読むとは思えないのですが）。

前置きが長くなりましたが、私の拙いＳＳを読んでくださる方々に感謝します。本当にありがとうございます。それでは、どうぞごゆっくり…。

エンフィールド新入居者名簿

＊これは、心伝氏、カーフ氏、まるにゃん氏、春河ゆん氏、ゆーき氏の作品、さらに“ヴァネッサ・ウォーレンの報告書”、“エンフィールドの伝説”（カーフ氏）、“未来からの贈り物”（心伝氏）、“エンフィールド人物録”（春河ゆん氏）、“スノウダストメモリー ”（まるにゃん氏）、“Ｌｏｓｔ　Ｍｅｍｏｒｙ”（ゆーき氏）、その他の作品を基にして制作したものです。基本的には“まるにゃん”、“カーフ”、“ゆん”をキーワードにしています。なお、色々な個性の作品を参考にしている為、設定等に矛盾が存在しますが、ご容赦ください。年齢は一応、悠久１ｓｔを基準にしていますが、あくまでも目安にしか過ぎません。

●自警団：休暇、人権、名声とは無縁の職場。以前と比較にならないほど凶悪化する犯罪に対し、ソフト、ハードの両面で対応に苦慮している。財政面をエーリッヒが握っているので、いざという時、権力者の道具になって市民の生命・財産・権利を守る義務を放棄するかもしれない。しかし、中堅以下の人材がここ数年、飛躍的に充実して来たので期待が持てる。

トリーシャ・フォスター　１５歳。自警団隊長リカルドの一人娘にして通称“愛の戦士トリーシャ”、略して“愛トリ”。トラブルシューターにしてトラブルメーカーと言う、全くわけのわからん性格をしている。その性格・容姿によって“三強”の一角を構成。重金属で制作されたチョップ棒を持ち、のべつ絶え間なく無差別にチョップを乱射する。リミットブレークすると右手が真っ赤に燃える（萌える？）らしい。実質的な諜報担当。
［必殺技：トリーシャチョップ！ぽくっ☆］
リカルド・フォスター（不明）自警団第一部隊隊長。トリーシャの父親。驚異のオッサンパワーを発揮。エンフィールド最強の座をアリサと二分する。近年の傾向として、以前のように情に流される割合が減り、代わって能率良く組織を動かし柔軟性に富む処断が強調されている（これも数多くのＳＳによる“補完”のおかげでっしゃろ）。
　スリーナイス・ブルーヘアー　２２歳。自警団員。『青髪皇帝』の異名を持ち、人類青髪化を企む。撲殺バット（カラーリングまで青）が武器。
リショー・シラガミ　２０歳。自警団員兼自然保護官。自警団の広報を勤める。柄が白神山地の天然木で出来た文化包丁が武器。
ヴィス・ドゥ・マナ　２０歳（？）自警団員。耐乏生活をしている。本を読むのがうまい。愛読書は“耐乏食生活”。
アイル（不明）自警団員。アルベルトの同僚。
アルベルト・コーレイン　１９歳。化粧ずきの自警団員。どこにいても、やたらデカいのと爆発頭で発見できる。武器は槍（ハルバート）。見た目そのまんまで、ま・さ・に・肉体派（ゲロぉ）。格闘主体の一点集中での成長性により、かなりの戦力になる…はずだが自警団弱体化の波をもろに被って必殺技もない。いろいろと問題のある奴だが、笑えるし、アリサさん一筋だし、なにより頼りになるイイ奴である。可憐で狂暴な妹がいる。
クレア・コーレイン（不明）アルベルトの妹。一見、清楚な美少女だが、その実、シーラ並みの二面性を持つ。
ヘキサ（不明）団員のサポートのために呼び出された使い魔。やたらやかましく、口を開けば“めしー、めしー”。自警団内の人間に関係（恋愛関係？）に関するインフォーマー。趣味：寝る事。って、お前、仕事してんのか？でも、慣れるとけっこうカワイイやつ。
まさみ（不明）自警団の女性スタッフ。…めずらしいな。その言動からして、ひょっとしてアルベルト命？
ヤン（不明）自警団員。アルベルトの部下。
ハウ（不明）警備兵。ヒーロを逮捕しに来た人物。自警団の関係者と思われる。
ロドネー（不明）探偵。ヒーロを逮捕しに来た人物。自警団の関係者と思われる。
セリン・ピースフィールド１７歳。エンフィールド学園の魔法科学科に通う、自警団第三部隊隊員。一見、大人しそうだが、実は熱血型。推理力に優れ、マジック・アイテムとダーツの扱いに長ける。トリーシャの幼なじみで、彼女のおせおせモードにたじろいでいる。社交的な反面、女の子といると異常にあがってしまう。ジョートショップの天羽志狼と親しく、天羽流を少しだけ使える。細かい手作業が得意。魔法剣“エレメンタルセイバー”を所持。
幻想（不明）自警団第三部隊所属。消息不明の兄“悠久”を探すためにエンフィールドにやって来た

●ジョートショップ：お使いから軍事行動の代理、果ては世界の救済までやろうかという超絶万能ショップ。主人の“鉄血”アリサはエンフィールド最強メンバーの一人であるが、過去に多くの行き倒れの者を救った奇特な女性。現在、勤務シフトは非常に流動的で、常時のメンバー以外にも街全体に臨時メンバーが存在する模様。

アリサ・アスティア　２０代後半　ジョートシヨップの女主人。目が不自由だが数々の強敵を一瞬にして葬り去っている。“ババア”、“おばさん”と言った年齢を意識させる発言は一切、禁句。さもないと、味方ですら命の保証はなく、魔族でさえ頭を掘られたり情け容赦のない魔法攻撃の的になったりする。
　テディ　（不明）魔法生物。アリサの撲殺用武器にして、『悠久幻想曲』を１８禁から守るために戦う聖戦士。別名、みかん箱生命体。
　電撃亭雷光　２４歳　ジョートショップ店員。喘息を患って体が弱いが懸命に仕事をする。芸人志望らしい。武器はハリセン。
蒼一（不明）ジョートショップの店員。
ヒーロ（不明）ジョートショップの居候、兼、従業員。フェニックス美術館盗難事件の嫌疑を懸けられる。冤罪を晴らし、保釈金１００、０００Gを支払うべく奮闘する（がんばれ！主人公！！）。
リース・エンド（不明）ジョートショップの滞在者でジン（●さくら亭を参照の事）の相棒。行き倒れになっているところを助けられた。
悠久（不明）自警団第三部隊の幻想の双子の兄。再審請求のためジョートショップで働く。
魅緒（不明）悠久と幻想の妹。トリーシャと同レベルなほど、流行に敏感。後にエンフィールド学園に通う。
天羽志狼（不明・１９歳？）東日流地方の出身。瀕死の重傷を負って、血だるまになって倒れているところを、アリサを始めとするエンフィールドの住民たちに救われる。驚異的な回復力を持ち、戦闘力・魔力ともに非常に高いレベルにある。適応力も高い。天羽流と言う、ルーツが謎に包まれた古武術の後継者。祖父の作った闘気に敏感に反応する、剛性の高い片刃の剣を使う。ただ強いだけでなく、人当たりがよくて、結構ボケっとした所もある面白い人物。首の後ろを軽くかく癖がある。たこさんウインナーが好物。…どうやら彼はシーラひと筋のようだ。当然の事だが、シルフェス（●魔術師ギルドを参照の事）、リュウイ（●郊外を参照の事）とはライバル関係である。
［超必殺技：蒼月地裂波］
天羽　八雲９歳。志狼の息子。妹を探すため未来からやって来た。可愛らしいが、凄まじい大食漢。トリーシャを気に入っているらしい。
［必殺技：チェンジング・マター］
天羽　沙也（不明）志狼の娘だが血のつながりはない。そのことが重荷になり家を飛び出す。非常に高い適応力（擬態？）と魔力を持つ種族の一員。
レリクルド・シェスィル（不明）昔、ディンデルと言う強国で“常勝将軍 ”とまで呼ばれた男。現在はわけあってジョートショップで働いている。シェリル・クリスティアに好意を寄せている。

●ショート家：エンフィールドで屈指の規模を誇る名門だが、現在はエーリッヒの傘下にあるようだ。財団の配かには、遺伝子合成で名をはせる“ショート科学研究所”がある。

　マリア・ショート　１５歳。ショート財閥の一人娘。人呼んで、呼吸する“りーさるうえぽん”（いろんな意味で）。…もはや語る事はない…。
　テッツィ・イスキア　２５歳。マリアの執事にしてエンフィールド学園生徒会長。驚異的な魔法耐久力と彼女に対する犠牲的忠誠心を持つ。彼は“生徒会長”よりもマリアにとっての“魔法練習台”の方を重要視している。“覚悟完了”。

●旧王立図書館：エンフィールドで最も秩序正しい場所。あらゆる年代、ジャンルをカバーする膨大な蔵書数を誇る。

　シェリル・クリスティア　１６歳。学園の秀才にして新進気鋭の売れっ子作家。本にトリップし、その特徴をコピーする能力をもつので読む本によっては最強クラスになる存在。
　イヴ・ギャラガー　１８歳。秩序を愛し、秩序に生きる図書館の司書。気配を消す能力と魔法ではない能力をもつ。
　ヴィス・ドゥ・マナ　＊上記、●自警団を参照してください。
隗烈　１６歳。名前を叫ぶ必要の無い魔法－メカニズム魔道を使う学生。実力的には上位クラス。中道派。個人的にエーリッヒに恨みがある。シーラを親衛隊に先駆けて助けたことがあるらしい。シェリルに好意を寄せるも、すれ違いが続いている。ダージリンが好物。
［必殺技：リカバー・サンダー、ライト・エクスプロージョン］
ルルミー（不明）メロディーと同じ猫耳生命体。隗烈に非常になついている。
　ウィリー　２２歳　魔法技術に詳しい孤児院の寮生。口癖は“～のだあ”。
ハーヴェル　１８歳（？）強大な魔法能力を有する。
［必殺技：光牙連撃］
龍牙総司（不明）南方出身の図書館のバイト。寒いのが苦手。
［必殺技：ヴァニシング・ノヴァ・ソード］
ナカミカド（不明）旧王立図書館にある“ねこでもできる魔王召喚”と言う本に封印されていた。復活後、一瞬にして倒される。

●クラウド病院：エンフィールド屈指の医療機関…のハズだが、トーヤがいる時とそうでない時とでは、治療成功率に異常に大きな隔たりがある。

　ディアーナ・レイニー　１５歳。クラウド医院の看護婦見習い。ドラッグマスター。注射魔で誰にでも注射したがる。
［必殺技：どんな病気でも治る注射器、元気１０００倍スペシャルぐれーと薬、足が速くなる薬γ］
　トーヤ・クラウド　２９歳。クラウド医院院長。自称：天才医師。若干、変な趣味があるようだが…まあ、腕はたしかなので良しとしよう。
蒼竹りんの　１９歳。クラウド医院の看護婦。カルテ収集が趣味。

●クラウンズサーカス：街に定住しているサーカス団。

　ピート・ロス　１４歳。クラウンズ・サーカスの団員。人間離れした耐久力とパワーを持つ。獣人族の生き残り。
［必殺技：ピートクラッシュ］
　ケイト・シーティア　２０歳。サーカス受け付けにしてピートの保護者。さしずめ、ピートにとっての“由羅”か。
［必殺技：ピートボンバー］

●エンフィールド学園：パーリアのエターナル学園、ヒューガハートのＳ＆Ｗと共に“３大学園”と呼ばれる名門。基本的に魔法の修得を中心とするようだが、どう見ても魔法向きでない人物もいるところを見ると、それ以外の選択肢も多くあるようだ。又、学生の年齢層もかなり広い。

　アレフ・コールソン　１８歳。“エンフィールドの社会風紀と公衆道徳の敵”の巨頭。人間の欲望・妄想・執念・下心を結集した煩悩魔人の代表者。しかし、無節操・軟弱・浮気者に見えて（そうとしか思えない展開もよくあるが）、その実はジョートショップの殺人シフトに耐え抜きつつもナンパに精を出す強靭な体力を持ち、友人の危機には我が身を省みない勇気と行動力をもって対処する美丈夫だ。能力も実用的で高いレベルを有する。
［必殺技：眠りのツボ］
　クリストファー・クロス　１５歳。通称“クリス”。エンフィールド学園の生徒。優秀な成績と高い潜在魔法能力を有する。主に回復系統の魔法を得意とする。極度の女性恐怖症ながら、編み物教室を開いてよけい女の子にもててしまうというワケのわからん方。橘由羅（●由羅屋敷を参照の事）のお気に入りの一人。
　クリスティア・クロス　１７歳。クリスの姉。弟とはうりふたつ。格闘術にたけている。どうやら彼女にはクリスの女性アレルギーは出ないようだ。
［必殺技：抹殺乱舞］
川崎並四郎　１８歳。“鍛練”を座右の銘とし、“漢”を追い求めるエンフィールド有数の格闘家。Ｋａｒａｔｅという東洋武術を修得している。好漢惜しむらくはおよそ鍛練向きではないクリスを含め、無差別に訓練にさそう事である。
ファーラ（不明）美術品盗難事件に巻き込まれて作品を失ってしまった、著名な画学生。
マリア・ショート＊上記、●ショート家を参照してください。
ティツィ・イスキア＊上記、●ショート家を参照してください。
ミッチー（不明）エンフィールド学園副生徒会長。その犠牲精神はティツィとほぼ同格。二人とも心底マリアのしもべのようである。恐ろしい…。
シェリル・クリスティア＊上記、●旧王立図書館を参照してください。
春河ゆん１５～１７歳？。神聖魔法課中等部の第４期生。シェリルと並び称される著名女流作家。同人誌の世界にも詳しいようでリーダー格である。いつも出筆用のノートパソコンを携帯している。マリエーナ地方の出身。実家は裕福なようだ。姉と死別している。最新機器にも明るい。
エミル・シャンティノ１２歳。物理魔術科初等部第４期生に編入され現在在籍中。マリエーナ地方の出身。お嬢様風の外見と性格。ちびまるにゃんを飼っている。なぜかトイレが近い。
園花　ぽぷり・ファーム５歳又は１０歳。精霊魔術科初等部第６期生に在籍中。マリエーナ地方の出身。園芸・植物学に明るい。社交的。
魅緒（不明）＊上記、●ジョートショップを参照してください。
セリーシャ・フィスター（不明）エンフィールド学園の生徒。かのベストセラー“愛トリ”の向こうを張るべく“ゆん”が制作した“愛の魔女っ子セリーシャ！”の主役に抜擢される。しかしながら、セリーヌさんを彷彿とさせる重度の天然ボケ。

●マーシャル武器店：偽物から超レアな高級品まで、およそ武器と名の付くものなら全て存在する。店主がかなりの変人なので、購入に当たっては有能なスッタフに相談する方が懸命だろう。

　エル・ルイス　１９歳。マーシャル武器店に勤める魔法の使えないエルフ。破壊的な力を持つ。マリアの天敵。
　マーシャル・ドラゴン　３３歳。　マーシャル武器店の人のよい店主。武器横流しの容疑あり（おそらく犯罪と意識していないであろう）。あいかわらず怪しげなものを売っている。過去の全盛期にはその名を知らぬ者が無いほどの挌闘家だったらしいのだが…。
　アムリタ　１９歳。マーシャル武器店の店員。カカト落としによる一撃必殺の武術を習得。涙もろい。エルの大ファン。
松。　２０歳。マーシャル武器店で仕入れをしている。冷静沈着でいつも荷物を持っている。
トーチ（不明）エルのファン。さくら亭が大好き。
ガイア（不明）エルのファン。

●セントウィンザー教会：かつてはエンフィールドのオアシスであったが、現在は暗殺者と亡霊と魑魅魍魎が跋扈する伏魔殿と化している。

　ローラ・ニューフィールド。１３歳。幽体離脱能力を持ち、情報に明るい。
　こうじ・Ｈ　１８歳。通称「幼女王」。少女趣味があり、自己溶解能力をもつ。あぶないな…。
　雷剣　１９歳。さくら亭の店員（皿洗い）兼孤児院の保父。もっぱら孤児院にいる。準危険人物。
　セリーヌ・ホワイトスノウ　１７歳。孤児院の保母。平和の象徴でとってもいい方。しかし、このシリーズにおいては、相変わらずのほほんとしていて、動作こそ遅いものの、キンサンタオル、アサシンエプロンといったえ得物まで使い、従来の怪力とプラスして近接～中間間合いの戦闘では、ほぼ無敵に近い状態に仕上がっている。
［必殺技：キンサンタオル、アサシンエプロン、タライフォール、シャドービーム］
　ストライカー・エドワードランディ　１８歳。孤児院に勤める。怪しい技使い手。セリーヌさんに、もーしょんをかけてはブっとばされている不幸な方。

●シェフィールド家：知らぬ者とてない、エンフィールドの名家。シーラの父、ランスロットは非常に政治的野心の強い人物。

　シーラ・シェフィールド　１７歳。深窓の令嬢にして音楽格闘家。“三強”の一角。“お嬢様スマイル！”で“シーラの親衛隊とらぶらぶクラブの面々”を“めろめろ～～”にするらしい。シーラ親衛隊隊長にとってのアイドル。エーリッヒ（＊下記、●郊外を参照の事）に婚約を迫られている。
［必殺技：水のショパン、お嬢様ファイナルストライク・交響曲第５６番『待ち軍人』・交響曲第９７番『正義の韓国人』］
　ジュディ・メリド　１７歳。シェフィールド家のメイド、トラップの達人。
　原・マスク２世　２０歳。シェフィールド家のお手伝い。トラップ設置を担当。
　かずや　１９歳。シーラ親衛隊隊長。リーダーシップに富む。しかし門番をフクロにしてパーティー会場に乱入するとは…恐るべし…。
　船雄　２２歳。親衛隊副隊長。親衛隊の参謀格。
　風来坊　１８歳　親衛隊員。テレポート能力とリュートによるソリタリーウェーブの使い手。リュートの音と共に突如現れる心臓に悪い方。
　シルフェス　２１歳。親衛隊員。親衛隊の会計担当。
天野恵　１９歳。親衛隊員。副長であり応援のしきりをやっている。
えすえす（不明）親衛隊員。エーリッヒを合法的に叩きのめさんがため、ギアナ高地で特訓中。
龍香（不明）親衛隊員。さくら亭の仕入れ担当と思われる。
サー・ランスロット・シェフィールド（不明）シーラの父親。実の娘の結婚も道具として扱う極めて権力志向の強い人物。エーリッヒと組んで謀略を図る。

★ 緊急連絡！！

こちら“スカー・フェイス”！“蒼き泉”応答願います！
“…ザザー…”
こちら火薬銃器かんぱにー身辺警護班シュウゴ・カノウや！オアシス１応答を！
“…こちら“蒼き泉”、デヴィッドだ。“
リバティス爪通りで大規模な乱闘事件が発生。シーラ・シェフィールド嬢のコンサートで配布予定の“先着１０名さま限り！シーラ・シェフィールド特製・たこさんういんなぁ入りゴールデンプレミアムレコード”をエーリッヒ氏が不正な手段で入手しようとして“ちょっぷぼうを持った少女”がこれを発見。彼女が夕日をバックに勝ち誇ってこれを指摘したところ、怒り狂ったシーラ親衛隊隊長のかずや氏が少女の持っていた重金属製の“ちょっぷぼう”でエーリッヒ氏の脳天をざくろのよーに叩き割り、これがきっかけとなりエーリッヒ氏の武装私兵集団約３０００名とシーラ親衛隊、約５名＋１名が乱闘に突入。この上ややこしい事に、現在、ギアナ高地から新たな同士を引き連れて帰国したえすえす、血の気が人一倍多いさくら亭の面々らが加わって市街戦に発展しそうな気配や！なお、シーラ嬢は天羽氏によって現場を脱出した模様。事態収拾のため至急、増援を。
“…エンフィールド自警団は？”
エンフィールドは伝統的に武装した市民が自警団を襲う傾向にあり、ヒステリー状態に陥った市民に袋叩きにされている模様。って、あ…あれ？今、アルベルトをしばきまわしとんのって…クレア？？
“…おい。今晩の飯、デューク社長が昨日の残りのさくら亭のコロッケにすると言ってたが、いいのか？”
はうっっ！あのオヤジ、また、コ…コロッケ…。オレ、コロッケいややねんけど…。それに、あそこのメシ、最近変やで？まだ、夜鳴鳥雑貨店の特売カンズメのほうが…。
“…それは単にお前が無銭飲食の常習犯だからだと思うんだが…。”
…。そうとも言うね…。ん？あぁっ！…あれはケモノ師軍団！！や、やばい！まるにゃんがからむとただの喧嘩が殺し合いになる…！デヴィッド、至急、Ｈｋ短機関銃と無力化ガスで完全武装した隊員を特殊作戦用魔力ヘリ・シコルスキーで現場へ。市民の安全に細心の注意を払ってや。オレはこれからまるにゃん達を魚で陽動する。…正面から行くと死ぬからな…。
“…了解。ザ、ザー…”

●さくら亭：エンフィールドＮＯ．１の武闘派集団。戦闘能力の平均レベルが最も高く、スコア（撃墜数）も多い。破壊神同盟の根拠地。魔法系統の人間が少なく、かわって、科学にバックアップされた“反能力”を中心とした、科学・物理戦闘のエキスパート集団。ただ、パティをめぐる抗争勃発の懸念が若干ある。

パティ・ソール１７歳。愛情表現が鉄拳に変換される、大衆食堂兼宿屋“さくら亭”の看板娘。今や偶像崇拝の対象。“三強”の一角。噂に名高い“踊り子衣装”の強化バージョンでもって戦闘参加する。未完成の反能力者のようである。
［必殺技：リングレーザー、フォノンメーザー、聖邪撃］
リサ・メッカーノ２１歳。傭兵団出身の女戦士で、現在はさくら亭に逗留しバーテンをしている。冷静沈着な性格と実戦で鍛えた技を持つ。面倒見もよく、仲間にとっては最も頼りとなる一人だろう。“紅月”と言う亡霊（機械？）を弟の仇と追い続けている。
明夏（不明）リサを慕っているが、彼女の弟の死に対し負い目があるようだ。リサにとっては弟がわり。紅月の刃からリサを身を挺して救った。
Ｓｈｕｎ（不明）さくら亭の見習い。
あるふぉん（不明）さくら亭の用心棒。
ＪＵＮ（不明）さくら亭の発注係。
龍香＊上記、●シェフィールド家を参照してください。
一柳（不明）さくら亭宿舎部分のフロント係り。会話に参加したいが為に、よくサボってしまう。
雷剣＊上記、●セントウィンザー教会を参照してください。
キャロス・カズマイヤー（不明）昔はそれと名の知れた料理人だったようだ。電剣と共に厨房で料理を担当。なぜか関西弁。包丁一本を頼りに世界中を渡り歩き、エンフィールドにたどり着く。和食が得意。
カーフ（不明）その腕を見込まれて、さくら亭のバーテンとして雇われる。レーザー系統の“反能力”と言われる特殊な能力を持つ。その実は、共和国共同体派遣艦隊の戦艦レジナ・エルシア（設定によれば、旧帝国海軍の“大和”、アメリカ海軍の“ミズーリ”より、さらに大型とのこと）。の司令艦長。階級は准将。後にエンフィールド在住武官。影にひなたにヒーロ達を援助する。伝承の中にのみ存在する“破壊神”と関係があり“破壊神同盟”を主催する。まるにゃんと敵対し、過去数回どつき倒している。設定によると近接戦闘や肉弾戦を苦手とするらしい。
［必殺技：ドップラーレーザー、ギガボルトレーザー、サーチレーザー］
ハヤト（不明）さくら亭の常連さん。
楓（不明）さくら亭の店員さん。怪しい武器マニア。万能レーザーガンを持って助太刀する。対紅月戦においては重武装があだとなってライフルが大爆発した。
［必殺技：サテライトレーザー、スクリューレーザー］
エカー（不明）さくら亭の常連さん。
掛茶（不明）さくら亭の常連さん。どこにいてもポットと急須と海苔と、やたらめったらクソ重く抜けない刀を持っている。謎の多い人物。
ヴィス２０歳（？）＊上記、●自警団を参照してください。耐乏コンビ。
パーコム（不明）耐乏コンビ。夢使いの魔術師でシーラを誘拐した事があるらしい。
石神刹那（１８）本ずきの元冒険者。さくら亭の滞在客。
ジン・ウェイル（不明）通称“疾風のジン”。紅月を倒すためにエンフィールドに帰って来た必殺技主体の剣士。かなりの使い手。ジョートショップに滞在していた事がある。
［必殺技：魔ＺＩＮ剣・空牙、破空、撃空、閃空］
モスモス（不明）いもむし。ジンのペット。実際は蛾の羽根と触角をもつ美少女。口癖は、“だーりん”。Ｓ＆Ｗで量産されているのだろうか？
［必殺技：フェアリー・ダスト］
椎（不明）ジンのおっかけ。
ケイ・ラギリオン（不明）さくら亭の常連さん。ケイ、葵明、アレフの飲み友達。
メイ（不明）さくら亭の常連さん。
鳳梗耶（不明）別名、さくら亭のサンドバック。暗器の使い手。足甲の爪先に仕込み刃を持っている。運動能力が優れている。精霊の力を借りる事が出来る。
漣鵬（不明）鳳梗耶の飼い犬。様々な訓練を受けている。祖先は狼。

●由羅屋敷：追われる者にとっての最後の楽園。けもの師軍団の集結地。おそらく、メインストーリーに大きく影響を与えると思われる出来事が、数多く起きる場所である。

橘由羅１９歳（＊警告！！警告！！：このデータは市役所の記録を見る限り、本人によって改ざんされた可能性が非常に高いと断言せざるを得ません。正確な特定は困難ですが、その色気・才覚から推定して、２５～３０歳と思われます。調査責任者：火薬銃器かんぱにー身辺警護班シュウゴ・カノウ）ライシアンと呼ばれる狐によく似た半人半獣種族の女性。彼女の二大病癖は、１：エンフィールドを代表する酒豪で、２：“年下”の“カワイイ”男の子が大好きといもの。が、ひょっとすると彼女は、追われるものの恐怖に苛まれながらも他人を助ける勇気あるヒトなのかもしれない。
メロディ・シンクレア（不明）某機関で生み出された実験生物と思われる。ネコ手、ネコ耳、ネコシッポを標準搭載。天真爛漫で純情可憐（？）なメイド猫（？？）。
ＲＡＩ（不明）由羅屋敷の常連さん。
サミー（不明）由良屋敷の常連さん。ライシアンの密猟業者から逃げるまではよかったが、そいつらまで由羅邸に連れて来てしまう。
ピージェラル（不明）由羅屋敷の常連さん。自称：天才発明家（事実そうである）Ｐツールと言う独自の兵器を使う。エグジェーゼ、シルヴィア（＊下記、●郊外を参照の事）と面識があるようだ。メロディ親衛団。
［必殺技：エネルギーナックル、エネルギーファン］
佳凪（不明）由羅屋敷の常連さん。
翔（不明）由羅屋敷の常連さん。
まるにゃん（？？）職業：けもの師。ネコ手、ネコ耳、ネコシッポを標準装備している。自己再生能力を持ち、基本的に不死身。異常な程、肉弾戦に長けている。一度受けた攻撃に対し、非常に高い学習能力を持っている。ＳＤまるにゃんの生みの親。しかし、やることが時々（ほとんど？）街を揺るがす大事件に発展する。妹がいる。エンフィールドケモノ化計画遂行中。服の色は青。メロディのファン…なのか？
クタポディ（不明）メロディ親衛団。トラッパー。工具等を使って爆弾を呼び出したりする。
［必殺技：おとしあなっ、ねこばりやー、ちゃーむ］
ゆーき（青葉結城）１４歳。実の両親とは１２歳の時に死別している。雑貨店を営む、育ての両親の仕事の都合でエンフィールドに引っ越してきた。店の手伝いをしている。普段は内気だが、事件が起こると積極的に解決に手を貸す。女性が苦手。剣に関しての、まるにゃんの“弟子”。魔法剣ヴァイパーを所持。魔法も使える軽量万能型。
［必殺技：ライトニングブラスター］
葵明（不明）祖先に化け猫がいてエンフィールドへ落ち延びて来た。感情の高ぶると猫ミミ、猫シッポが生える。まるにゃんに借りを返すため、古本屋に住み込みで働いている。
飛竜（不明）まるにゃんの“弟子”。容姿ともにている。しかしながら、まるにゃんの技を完全には使いこなせないでいる。

●魔術師ギルド：現在では、ごく小数の者を除いてエーリッヒの手下となっている。

シルフェス２０歳。魔術師ギルドに所属。重力魔法を主とした、補助系の魔法を使う。眼鏡を愛用。まるにゃんが仮死状態のとき、その調査を手伝う。実は、シーラの隠れファンだったりする。
蒼幻龍（不明）魔法の愛好家だが、魔術師ギルドに所属していないので、隠れて出入りをしている。そのせいでマリアと親しい。高位の攻撃魔法を得意とする。
アンドリュー（不明）魔導砲の指揮官。エーリッヒから援助を受けている。
メルディス（不明）魔法ギルドのメンバー。
ファリフ（不明）魔法ギルドのメンバー。

●バクスター家：エンフィールド有数の資産家、バクスター氏の邸宅。

リオ・バクスター１１歳。バクスター家の御曹司。内気で優しい少年で、黙っていると男の子か女の子かよくわからない容姿をしている。橘由羅と春河ゆんに気に入られている。余談だが、彼には“女の子バージョン”が存在し、大好評になっている。

●ローズレイク

カッセル・ジークフリード（不明）別名、呼吸するエンフィールドの大辞典。過去の歴史や事件について詳しい人物。かなりの高齢だが、実際の年齢は誰も知らない。

●夜鳴鳥雑貨店

アヤセ（不明）夜鳴鳥雑貨店の店番。５時になるとさくら亭に行くのが習慣。

●ローレライ洋品店

鹿島椎　２０歳。ローラの服飾のみを担当するローレライ洋品店の店員。

●ラ・ルナ

未沙姫（不明）ラ・ルナのアルバイト。ＳＤまるにゃんを捕獲する。

●郊外

エーリッヒ・プリンツ・フォン・ザイン・ヴェネトリーゼ（不明）それにしても、記憶不能なほどの長ったらしい名前やな…。ショート財閥や自警団など、エンフィールドの主要機関を一手に掌握している公領伯。かなりの美男子らしい。騎士団と魔導砲ギガ・ファランクスを所有するが、戦艦レジナ・エルシアによって魔導砲は全て破壊されてしまう。皇国連合の関係者らしいが、その実態は謎。メロディ、ルルミィの誕生に関わっているようだ。並四郎を倒し武闘会の優勝者となった程のツワモノ（ええい！リカルドやアルベルト、リサやケモノ師連中はなにをしとったんじゃあ！）。よりにもよって、全国のシーラファンの憎悪を一身に受けようとする無謀極まりないヤツ。
リック（不明）悪徳高利貸業者。ニセの証文を盾に、さくら亭から金を巻き上げようとして失敗する。
ブラグッツア（不明）エンフィールド私刑団に所属。常識ある者に言わせると“拷問団”。容疑者の自白を得るために手段を選ばない組織の姿勢を代表するかのような人間。
バレル（不明）巨大な斧と鋼の肉体を持つ大男。その容姿から海賊の一味でないかと思われ、事実、水属性の呪文を唱えようとするが、カーフによっていともあっさりと敗北する。
オルト（不明）バレルの手下。シーラに絡んだ上、リサに喧嘩を売るという身の程知らず。当然、一瞬にして半殺しにされる。
パラ（不明）バレルの手下。人数をかさに着てリサに喧嘩を売るという命知らず。まったくもってアホである。
メラ（不明）バレルの手下。単なるアホである。
エグジェーゼ（不明）シルヴィアとともにメロディを狙う謎の人物。ピージェラルと同じＰツールを使う。
［必殺技：ドライバーシーカーストレート、トルネードクロー、フラッシュスパーク］
シルヴィア（不明）メロディの過去を知る人。由羅とは顔見知りらしい。
ベルゲン（不明）メロディ、ルルミィを奪還すべくエーリッヒが放った刺客。猫語を話す。かなりの強敵。
［必殺技：ブラスターブレイズ］
ジェイド（不明）メロディを誘拐しようとして、まるにゃんに倒された。
アンドリュー（不明）魔導砲の指揮官。
メルディス（不明）魔法ギルドのメンバー。
ファリフ（不明）魔法ギルドのメンバー。
コンスタンツァ・ビーティ（不明）剣士。実はカーフの部下。シェフィールド家等で諜報活動に携わる。レジナ・エルシア乗組員。
ルイセ・ディ・ラ・ペリーゼ（不明）レジナ・エルシアの女性乗組員。砲術長、中佐。後に大佐。カーフから指揮権を譲り受ける。結構、高飛車だが、判断力に優れ、機転がよく利く。
レイフェル（不明）レジナ・エルシア乗組員。
パト（不明）レジナ・エルシア乗組員。ピート、シェリルを捕らえるが、リサによって逃がされてしまう。
トレイジア（不明）レジナ・エルシア乗組員。
オリシス（不明）レジナ・エルシアの司令部員。上層部の命令を絶対とし、“エンフィールド壊滅作戦”を発動しようとする。カーフの策にはまって本国へ送還される。
ヴァネッサ・ウォーレン２１歳。赤い服と赤いロングヘアーが印象的な、共和国共同体特捜部の一員。常時、回転式の拳銃を携帯しする。迅速さと能率をモットーとするが、エンフィールドでの出来事に常識（？）をもって対応しようとしたのが最大のミスであろう。
トッキー（不明）。ヴァネッサの部下（下僕？）。いつもとばっちりを受けて割に合わない人。
アック（不明）シェフィールド邸へ忍び込もうとした盗賊。ジュディと原マスクのしかけたトラップ、“溶岩温泉でごゆっくり★”の餌食に…。このほか、“人間こねなれれば強くなる！”、“黒くて深い穴”と言ったものがある…。
ニン（不明）シェフィールド邸へ忍び込もうとした盗賊。
ｄｚ－ディノ・ローマ（不明）格闘ピアニスト。様々な技を駆使するがシーラの暗殺技の前に敗北する。
［必殺技：炎のシューマン，柔道一直線、エレクトリック・ハリケーン、１５段真空サンダーバズーカ］
破壊神（不明）“身長　１６０ｃｍ前半。３サイズ不明、見た目は２０歳前後、金髪のロングヘアー。はっきりいって凄い美人”らしいです。
紅月（不明）リサが仇とつけ狙う亡霊。何者かによって機械化されていた。さくら亭一家の集中攻撃を受けて倒される。
［必殺技：暗黒霧］
ハンター（不明）ライシアンの密猟業者。この二人は実はＡ級の実力者ではないだろうか。彼らの不幸はその行為がカーフの逆鱗に触れた事だろう。
［必殺技：メビウス・アブゾリュート・マイスナー］
キャプチャー（不明）ライシアンの密猟業者。“できるだけ生かして殺す”と言う、おぞましい手口で殺される。
リュウイ１７歳。元ジョートショップの店員。“井原亭”という讃岐うどん屋で働いている若者。リカルドからもらった、刃渡り１ｍ超ものバスターソードを持っている。「蒼龍紅破」と言う剣術を使う。かなりの腕前。シーラのファン。
［必殺技：火龍焔、風龍牙、雹龍雪］
ケルディナス（不明）先天的な色素異常のアルビノと呼ばれる体質を持つ。過去にまるにゃんと因縁があるらしい。その実力は最強クラス。洗脳能力がある。
ＴＯＭ（不明）魚屋、“魚正”の店員。まるにゃんに魚をたかられる。
まるにゃん妹（不明）現在、エンフィールド学園錬金術科の非常勤講師。ちびまるにゃんとともにエンフィールド郊外で暮らす。元々はショート科学研究所で人工生命体の遺伝子研究（ハーモニーと言われる猫と人間の合成遺伝子の研究）に手腕を振るったが、余りに生命倫理を無視したハメットの商業主義に辟易としてその任を降りる。兄と仲が悪く性格的にも正反対で温厚で冷静。
ダグラス・エルガード（不明）ゆーきの育ての親。エンフィールドで雑貨店を経営している。５０代だが、雰囲気は若い。ゆーきの両親とは親しい付き合いだったようだ。
ファリス・エルガード（不明）ダグラスの妻。夫の女性好きに困っている。
ハメット・ヴァロリー（不明）魔法と科学を駆使して遺伝子合成の研究を行い、人工生命体を量産している。ショート財閥の秘書。
紫堂　黎牙（不明）一見、学者風。長く伸びた髪を後ろに束ねて少々汚れた白衣に身を包む。“紋章術”と言う、本の中から魔方陣を瞬時にして呼び出す術を使う。
エリーシア・ライトフィールド（不明）５０年前、リカルドと親しかった女性。トリーシャの叔母に当たるらしい。トリーシャをかばって死亡。
ランディ・ウエストウッド（不明）金で雇われる戦闘のプロ。黒い衣服に身を包んでボウガンを得物にしている。エンフィールドで暗躍する。５０年前にリカルドや天羽心伝と闘った事がある。
ウエッジ（不明）５０年前、ランディとともにリカルドをなぶり殺しにしようとして、天羽心伝に倒された兵士。
天羽心伝（不明）天羽志狼の祖父。すでに他界。５０年前の大戦の際、リカルドの命を救った事があるそうだ。天羽流の伝承者。義を重んじる。闘気に反応する刀を打つ事が出来る。子供や自然を愛した、懐の深い人物だったようだ。

最後に、カーフさんの“エンフィールドの伝説”の世界設定を参考に載せておきます。上で紹介したキャラクターたちの活躍するＳＳが、全てこの世界観に一致するものではありません。また、本編ＳＳ“再生―リサ・メッカーノ”の世界観もこれとは少し異なっています。強いて言えば、東部＝共和国共同体、西部＝皇国連合、と言った所でしょうか。

エンフィールドの伝説：世界観の設定資料

エンフィールド・・・そこは魔法と科学が混じり合った街。かつて、魔法至上主義の帝国に対抗し、魔法の使えない人々が共和国を興した。それを認めなかった帝国は他の国と「皇国連合」を結成。魔法支配を目指した。共和国の人々＝魔法の使えない人々は他国で虐げられていた人々を仲間に引き入れ、いつしか「共和国共同体」を設立。皇国と戦いを繰り広げた。
　そしてエンフィールドの近くで５０年前、激しい戦いが繰り広げられた・・・結果は引き分け。両国とも多くの死者を出し、戦争を続けられなくなってしまったのである。
　その後両国は奇妙なバランスを保ちつつ現在に至る。
　この戦いで廃墟と化したエンフィールドには両国から流れてきた難民が住みつき、復興への道を歩む。この時、幸運か神のいたずらか、帝国以前の唯一の建物である図書館が焼け残った。
　そして５０年・・・
　両国は発展を続けた・・・皇国は魔法文明を、共和国は科学文明を。
　そんな中、自治都市として発展していたエンフィールドにも両国の影響が覆い始めた。

では、以上で参考とした創作キャラクターと世界観の解説を終わります。

エンフィールド番外地：悠久フロンティア・ストーリー

再生―リサ・メッカーノ

“……リサ…。…リサ…。”
え…？
“…リサ。…リサ…。”
…あなたは…誰…？
・
・
・
こちら、“ブラボー・チーム”。繰り返す。こちら、火薬銃器かんぱにー国境警備隊・第９グループ狙撃班デヴィッド・メンドーサ。“蒼き泉”…本部、応答願います…。
“…こちら、“蒼き泉”。よお、デヴィッド。”
シュウか。デヴィドだ。定時報告を行う。現在、２０００時、晴れ、新月だ。斥候は伯爵と、現地案内を兼ねてピートくん。前衛はムーティほか自警団員数名、後衛は俺とアドバイザーのリサ。現在のところ異常なし。
“…まあ、あれや、平和な時代のアルバイト程度の国境警備の依頼や。気楽にな。”
僅かに気を抜いて殺られた奴を、俺は多く知っているぜ…。それにな、リサも言うんだが今日は変なんだ。
“…変って、なにがや？”
わからん…。わからんが、今日に限って何かが神経に障る。
“…まあ、お前のこっちゃから、心配は要らんやろがな…。”
ああ…。
“…今日…リサに言うんか…？”
…ああ。…そのつもりだ…。
“…そうか…。…気休めかもしれんけど、きっとわかってくれるって…。俺が思うに、誰が悪い訳でもないしな…。”
…そうだな…。
“…何かあったら、すぐ連絡をくれや！じゃあな。…”
・
・
・
現在、エンフィールドの国境警備を請け負っているのは、“火薬銃器かんぱにー”と言う組織である。完全に独立した治安組織、兼、何でも屋であり、エンフィールド最大の自治組織である自警団、有名な何でも屋ジョートショップと業務提携を結んでいる。２つの組織と任務が重ならないよう、どちらかと言うと、遠距離の任務の代行が多い。おつかいから宇宙戦争まで、何でもやるのがモットーである。世界的にも数が少なく、エンフィールドでは信頼性が低く狩猟用にしか使われていない“銃器”を専門的に扱い、正確に稼動し命中精度のよいものを、独自のルートを使って入手し改造している。現在の実動メンバーは、社長の“プレジデント”デューク、“巨魁”ムーティ、“夜の眷族”伯爵、“散弾銃”シュウゴ・カノウ、そして“隊長（キャプテン）”デヴィッド・メンドーサの５人。それぞれ、アクの強い者ばかりで、どことなく西部開拓時代風の出で立ちをしている。ほとんどの者が普段、カウボーイ・ハットを頭に被り、ガンベルトを腰に巻いて馬にまたがりパトロールをする。その姿は、まるで開拓史や西部劇のカウボーイや保安官を彷彿とさせる。
デヴィッド・メンドーサはややクセのある長髪を首の後ろで束ねた、ズぬけて長身の男である。自警団のアルベルト・コーレインよりも身長が高いが、彼の様にごつい筋肉は持たず、鍛え抜かれたハガネの様な筋肉を持ち、一見した印象は“痩せたオオカミ”だ。火薬銃器かんぱにーの現場におけるリーダーで、部隊の掌握と指揮の能力に非常に優れたものがある。あらゆる武器を使いこなし、格闘技、特に銃剣術に精通するが、中でも得意なのは、遥かな異国の地で作られた、機械式の狙撃銃を使った連続スナイピングである。エンフィールドで有名な女戦士、リサ・メッカーノと同じ傭兵団に所属していた過去がある。
デヴィッド：さて、皆に連絡するか…。
（ピッ。）
デヴィッド：…どうだ、“伯爵”。なにか異常は？
“伯爵”とは火薬銃器かんぱにーの社員で、誇り高き夜の一族の血統の、直系に当たる人物である。本来なら、二度と世に出る事はなかったであろうが、一緒に住んでいる妹達に強く薦められたのと、なにより説得に訪れたデヴィッドの男気に惚れ込んで、今はエンフィールドを影で守る一員となっている。年齢がよくわからない顔立ちで、若く見える事もあれば、かなりの年齢に見える事もある。いつも身なりを正し、闇にとけそうな漆黒のマントを羽織っている。余り銃器を好まず、祖先から受け継いだ、自らの技で戦う事を本懐とする。唯一、所持している銃器は、若馬式回転拳銃の銃身を１メートルも延長した代物である。
伯爵：いや…夜目の効く私にもなにも見えん。卿の気にし過ぎではないのか？
デヴィッド：そうか…。やはり、もう少しお願いする。がんばってくれ。
伯爵：承知した。
ピート：な～あ、吸血鬼のおっちゃ～ん！も～帰ろうぜ～。オレ、はらへったよ～。
こう言ったのは赤毛の少年、ピート・ロス。天涯孤独の身でクラウンズ・サーカスに身を置いている。驚異的な怪力と回復力を持ち、ジョートショップの女主人、アリサ・アスティアを母のように慕っている。
伯爵：私の名前は“吸血鬼のおっちゃん”ではない！呼ぶ時は“伯爵”だ！何度言ったらわかる！…さっき、私の携帯食をやったではないか。あれを食えばよかろう？
ピート：そんなもん食っちまっても～ね～よ～。なあ～、なんかくれよ～。
伯爵：だああぁ！引っ張るな！私のお気に入りのマントが破れるではないか！私は“ドラえ○ん”ではない！！
デヴィッド：くっくっくっ…。伯爵、しっかり頼むぜ。
伯爵：あっ、こら！デヴィッド卿！こんな厄介ごとを、私一人に背負わせるな！
（ピー、ピピ。）
？？？：うっほっほっ、賑やかでごわすなぁ。
デヴィッド：ムーティ？
ムーティは極寒の地、極北地方出身の火薬銃器かんぱにーの一員である。この地方の人間は通称“怪力族”と呼ばれ、大柄で強い力を持つ。ムーティもその例外ではなく、１５０キロの堂々たる体躯と並外れた怪力を持つ。温和な性格で面倒見もよく、街人からの信頼も厚い男だ。その怪力で、普通の者なら持つ事さえ出来ない、大型の武器を軽々と扱う。意外に細かい手作業に長じ、銃器の修理もほとんど彼がやっている。
ムーティ：こっちもは異常なしでごわす。それにしても大将、エンフィールドは暑いでごわすね～。
デヴィド：そうか？俺はそうでもないが…。
ムーティ：いや～、暑いでごわす。ワシは極北地方の出身じゃから、たまらんでごわす。それに、ワシの武器は６１式機関砲。もっとるだけで汗が出てくるでごわす。
６１式機関砲は、共和国共同体の戦闘機などに装備されている、大型の機関砲である。とてもでないが人間の持てる代物ではない。
？？？：うわ～、すっごい迫力！ねねねっ！ムーティさん、ボクにもさわらせてよ～。
デヴィッド：？ムーティ、誰か居るのか？
ムーティ：はあ。それが…トリーシャさんとシェリルさんなんでごわす。
トリーシャ：やっほ～、デヴィッドさん。こんばんわ～！
シェリル：こ…こんばんわ、お…お邪魔しています。
この二人の少女は、共にエンフィールド学園に通う親友である。
トリーシャ・フォスターは自警団隊長のリカルド・フォスターの娘である。流行と噂話に敏感で、手に持った“ちょっぷ棒”と、頭の黄色いリボンがトレードマークの活発な少女だ。
一方のシェリル・クリスティアは文芸少女で、既に何冊かのベストセラーを出筆している。本に没頭する癖があり、そうなるとトリーシャの一撃で、現実に復帰しなければならなくなる。
デヴィッド：一体、何故、こんな時間にこんな所へ？
トリーシャ：へへ～。実は、お父さんが“お前も自警団の一員なら、国境警備の現場を見ておけ。”なんて言うもんだから、差し入れとかついでに持ってきちゃった。
シェリル：わ、私は、ゆんさんと新しく共同出筆するための取材です。
デヴィッド：それはいいが…こんな遅い時間にどうやって街まで帰るつもりだ？もう汽車は無いぞ？
？？？：大丈夫であります、メンドーサ隊長。自分が責任を持ってお届けします。
デヴィッド：アルベルト君か？…まあ、それなら構わんか。それじゃあ、２人のことをよろしく。
アルベルト：はっ！お任せください！
アルベルト・コーレインは、隊長のリカルドからの信頼も厚い、自警団の筆頭隊員である。ハルバートと言う槍の一種を得物にし、ジョートショップのアリサ・アスティアに憧れている。可憐な妹が１人いる。
シェリル：あの、メンドーサさん。出来ればあちこち見てまわりたいのですけど…。
デヴィッド：それならムーティが案内するよ。ムーティ、頼めるか？
ムーティ：もちろんでごわす、大将。
トリーシャ：それにしてもムーティさん、そんなスッゴイ機関銃持ってて疲れない？大きさ、２メートルくらいあるんじゃない？
ムーティ：そんな事は無いでごわすよ、トリーシャさん。ワシにとっては、コイツは体の一部みたいなものですたい。
リサ：ムーティはスモーレスラーだからねぇ…。普通の奴があの重装備だと、とてもじゃないけど立っていられないね。
この女性はリサ・メッカーノ。元傭兵の女戦士で、現在、“さくら亭”と言う大衆食堂の２階の宿を間借りしている。ナイフを得物とし、これを完璧に使いこなす。また、各種武器、格闘にも精通している戦闘のプロで、戦場と言う極限状態でも、仲間からの信頼は厚い。状況判断も正確で、抜け目のない反面、面倒見もよく、街人からも頼りにされ、特に年少者にとってはいい姉貴分になっている。ジョートショップのアリサと特に親しい。
デヴィッド：スモウか…。道理であの体格で俊敏に動けるはずだ。
リサ：なんだ、知らなかったのかい？それにムーティは武闘会でも結構いいセン行くんだぜ。
トリーシャ：そーだよ。ボク、ムーティさんのファイターズカード持ってるもん。
ムーティ：ぶわっはっはっ！こっぱずかしいですなあ、リサさん、トリーシャさん。照れるでごわすよ！
リサ：照れる前に痩せてくれ。
ムーティ：ぶわっはっはっはっはっ！
伯爵：うらやましいな、ムーティ。シェリル殿の様な可憐な花束とディナーとは…。私は子守りに疲れたよ…
ピート：何が子守りだよ～。おっちゃん、さっさとメシ食わせろよ～。
伯爵：…さっきからこればかりだ…。デヴィッド卿、すまぬが何とかしてくれんか。
トリーシャ：あれ？伯爵とピートもいたんだ。一緒にお弁当食べない？
ピート：だあああっ！オレ、食う！絶対食う！死んでも食う！
デヴィッド：…そうだな、そろそろ交代するか。ムーティ、順に見張りを交代して飯を済ませてくれ。お前はそのままお客さんを案内してくれ。
ムーティ：わかったでごわす。それじゃ大将、配置にもどりますけえ。（ズシャ！ズシャ！ズシャ！）気ぃつけてつかぁさい。
トリーシャ：じゃ～ね～、デヴィドさん！ばいば～い！
シェリル：そ、それじゃあ失礼します。
アルベルト：メンドーサ隊長、失礼します。
（ピーッ…。）
伯爵：それではメンドーサ卿。また後ほど…。
ピート：めし～。
（ピーッ…。）
・
・
・
リサ：今日はずいぶんと賑やかだね、“中尉”。
リサは、かつての様にデヴィッドを呼んだ。
デヴィッド：…リサ、俺はもう“中尉”じゃない。ただのメンドーサだ…。
リサ：そうだったね…。すまないな…。
デヴィッド：…いや、…いいんだ。
リサ：…。
デヴィッド：…。
リサ：…大佐の家族は私を怨んでいるだろうな…きっと…。
デヴィッド：やはり…気にしていたのか…。
リサ：…いいや。…大佐の家族だけじゃない。私が殺してしまった人と親しかった人間が、ある日、目の前に現れて私に死ねといったなら…その時、私はどうすればいいんだろうか。紅月の事にカタがついた後、ずっとそのことが気になる。その人たちから見れば、私が紅月のようなものなのかもしれない。そう考えると…ぞっとする。私は死ぬべきなのか…。…いや、本当は死にたくない！私はこの街でやっと手に入れたんだ！だから…死ぬのは…イヤ…だ。でも…。
デヴィッド：…大佐を殺るのはこの俺のはずだっだ。怨まれるとすれば、俺だ。…あの時、リサが助けてくれなかったら俺は死に、なんの罪もないエンフィールドの人々が大勢あの怪物に殺されたはずだ。…お偉方の地位と名誉のためにな…。
リサ：…だけど、ナイフを投げたのは私だ…。あんたの育ての親に向かって。だからこの街であんたに会った時、殺されると思った…。
デヴィッド：…あの時は大変だったな。明夏くんが止めてくれなかったら、本当にどちらか死んでいたかもな。
リサ：頭ではあんたが私を殺すつもりがないって事くらいわかってる…。でも、心の底では私を憎悪しているんじゃないかって…、あんたに顔を合わせるたび、笑っててもそう思う。ずっと自分の影に脅えているんだ。私は恐い…。臆病なんだ…。…だから…生きていたい…。
デヴィッド：…。
リサ：…。
デヴィッド：…大佐が言っていただろう。本当の戦士は恐怖を知っている…。だから恥じる事なんてない。
リサ：…。
デヴィッド：…あの後、俺は大佐の家に残って大佐の家族に会った。俺は大佐の奥さんと娘とその弟の前で言った。“自分は大佐を殺してしまった。殺してくれ。もし殺しにくいのだったら、自分で死ぬから好きな方を選んでくれ。”ってな…。
リサ：…。
デヴィッド：そうしたら、かあさ…奥さんが俺に、大佐が撃とうとした拳銃を黙って渡すんだ。俺はもしやと思って弾倉を引き抜いて調べた。そうしたら…。
リサ：まさか…！
デヴィッド：空だったのさ…。大佐は俺を撃つ気なんてなかったんだ。最初から俺に撃たれるつもりだったんだ。
リサ：…！！
デヴィッド：大佐は脅されていたんだ。もしあの怪物兵器“地上砲艦ランド・クルセイダー”級の実戦投入を躊躇するなら、家族と部隊を抹殺すると…。大佐は、あの計画に、無理矢理引き込まれていたんだ。
地上砲艦ランド・クルセイダー…。全長２００メートルの巨大な地上砲艦にして、空前絶後の陸上戦闘兵器である。全身が超鋼張力鋼の複合装甲板で覆われ、莫大な量の火砲、ミサイル、各種火器を装備している。さらに、その火器を電子頭脳が制御し、移動はホバー走行によって行う。加えて４つ足の歩行システムも装備し、走破性も高い。そして最大の武器は、最新科学の結晶たる、自由電子レーザー・キャノンである。
デヴィッド：情報が漏れたり、極秘事項を知る大佐が自殺すれば、すぐさま同じ事になったそうだ。奴等は極めて強力だ。虐殺を止めるために部隊をひきいて戦っても、反逆者の汚名とともに葬られ、連中は平然と事を実行するだろう。死んでも身内が殺される。生きていれば、エンフィールドの住民を、無差別に殺戮しなければならない。大佐は悩んだそうだ…。
リサ：…。
デヴィッド：だが、“賛同派の大佐”が“欲に目の眩んだ部下”によって殺されたとすれば…。抹殺対象はその者だけに絞られる。当時の“ランド・クルセイダー”級には歩行システムに最大の問題があり、それを知られてしまえば砂上の楼閣に等しかった…。巨費を投じて作った矢先に破壊されたのではたまらん、と言うので出撃は無期延期となった。そして連中の狙いは、極秘条項を知った、俺一人になる…。
リサ：…。
デヴィッド：大佐はたとえそんな役目でも、俺だけには分かると思ったらしい。部隊と家族を救う為、不名誉で、たとえドブネズミのように這いずり回っても、生きなければならないが…俺ならやりきると信じたらしい。リサ、実は本命はお前で、俺が囮の役だったんだ。幸か不幸か俺とリサが共犯と言う事になって、連中の狙いが俺一人ではなくなった事で、俺も生き延びれたんだが…。
リサ：なんだって！？
デヴィッド：お前、ナイフの柄を外してよく見てみたことは？
リサ：…あの数字…まさか！！
リサは、ナイフの修理の為に柄を抜いた時に、柄に隠れていた部分に、数字が彫り込まれているのに気づいた事を思い出した。
デヴィッド：そう、あれが“ランド・クルセイダー”の歩行システムへアクセスする為の魔法周波数のコードさ…。まあ、今となっては歩行システムも改良されて、余り役にも立たんだろうがな…。それに、あのナイフの本当に大事な意味は…。まあ、俺が言う必要も無いか…。お前が一番よく判っているはずだからな…。
リサ：…？でも、あれが“ランド・クルセイダー”の周波数のコードだったなんて・・・。
デヴィッド：何故、“ランド・クルザー”の計画責任者の“エーリッヒ”の手下がいる所で、わざわざ大佐が急に俺に激昂したんだ？なぜ、通信網が混乱する嵐の日に話し合いが持たれたんだ？結論は一つしかない。
リサ：…。
デヴィッド：卑怯な事だが…俺がこの事を今日まで話さなかったのは、お前が俺に恨みを持ってしまうんじゃないかと思ったからだ…。余計な事を背負わせてしまった俺にな…。だが、再会してからお前を見ていると、自分で自分を痛め続けているとしかおもえん…。だから、今日、言うことにしてたんだ…。頼むから、大佐を憎まないで俺を憎んでくれ…。
リサ：…そんな…。
デヴィッド：それに…あの頃、部隊は俺野の命令で戦っていた。だから、もし、リサが殺してしまった人たちの身内に出会って、銃口を向けられたら、黙って死ぬ必要はない。逃げればいい、俺のせいにして。死んだ者と生きている者から責任を問われるのは俺だけで十分だ…。…もう苦しむのはよせ。
リサ：…そんな悲しい事…言うな…。私はあんたを憎んではいない。あんたも私を憎んではいない。…それで、いいじゃないか…あんたと、家族と、私の事は…。私は…あんた達に憎まれていないと分かっただけで…十分だ…。
デヴィッド：…リサ…。
リサ：１人で背負うには重過ぎるよ…。
（ピーッ！）
突然、通信機から発信音が出た。
ムーティー：大将！及ばずながら、このワシもお力になるでごわすよ！
デヴィド：ムーティー！
リサ：おまえ、聞いてたのか！
伯爵：魔道通信機のスイッチの切り忘れには、存分に注意しなければな。
リサ：伯爵！あんたまで！
デヴィッドは非常時にすぐ通信が可能なように、自分の通信機は絶えずスイッチが入った状態にしておく癖がある。リサとの話に神経を取られすぎていた様だ。
ムーティー：大将とリサさんは、ワシが初めてエンフィールドに来た時、右も左も分からんこのワシに、非常に親切にしてもらった大恩があるでごわす！ワシにもその重荷を背負わしてつかぁさいっ！
トリーシャ：…リサさん、死ぬなんて言っちゃダメだよ！武闘会の時、ヒーロさんとパティさんを庇って、すっごい熱弁振るったじゃない！あの後、２人とも泣いて喜んでたんだよ。リサさんのおかげで、また人を信じれそうだ、って…。
リサ：…ボウヤ達が…そんな事…。
ピート：よくわかんないけど…。オレ、リサがいなくなったら寂しいな…。何だかんだ言っても、結構かまってくれるのおばちゃんとリサ位だし…。
リサ：ピート…。
アルベルト：リサ、元気だしてくれ。あんたがいなくなっちまったら、だれが自警団を鍛えてくれるんだ？
リサ：アルベルト…。お前まで…。
シェリル：メ、メンドーサさん、私が小説のコンクールの締め切りに間に合わなかった時、隗烈さんと一緒に三日三晩ずっと選考委員の人に頼み続けてくれた事ありましたよね。…あの時とってもうれしかったなぁ…。
デヴィッド：そういえば、あったなぁ…。ずいぶん無茶をやったもんだ…。
伯爵：デヴィッド卿、私が世の人の偏見をいとわず、もう一度、世の為人の為に働こうと思ったのは、卿の説得があればこそなのだぞ。妹達の言葉だけでは、この世は私にとって、余りに冷たすぎる場所なのだ。それを熱く思えるのは、卿とその同士がいるからなのだ。
デヴィッド：…伯爵…。
リサ：…ばかだね、あんたたち…。
デヴィッド：どうやら…、まだ少しはここに居てもいい様だな…。
・
・
・
リサ：あんたがエンフィールドにいるのは、やっぱり“ランド・クルセイダー”のせいなのか？
デヴィド：それはリサも同じ事だと思うがな…。
リサ：ああ…。
デヴィド：…やつらは多分もう一度、このエンフィールドに眠る遺伝子技術と鉱石の利権を狙ってくるに違いない。事実、奴等の手先のような奴をよく見かけるようになった。魔法と科学の結晶のあの兵器を、一体誰が倒せるというんだ？以前あった自由電子レーザー・キャノンと電子頭脳の致命的な欠陥もクリアーされたとみていい。
リサ：なぜそう言い切れるんだい？
デヴィッド：この間の美術館盗難事件…。
リサ：ボウヤの？
デヴィッド：あの後、結局見つからなかった盗難品の中に、電子頭脳のパーツに必要不可欠な鉱石があった。そして、それはエンフィールドの地下に大量に眠っている…。
リサ：エンフィールドがそれに気づく前に手に入れようって魂胆だね…。
デヴィド：大佐が守ろうとしたものを壊させはしない…。そして…これが終わったら…俺は…家へ帰るんだ…。
リサ：ああ…、そうだな。
デヴィド：…持ち場に戻るか…。
・
・
・
突然、伯爵からの通信が急に入った。
伯爵：デヴィッド卿！ピートが何かを見つけた！
デヴィッド：何だ、ピート君？
ピート：それがさぁ、前の景色があちこち歪んでみえるんだ。オレ、寝不足かなんかかな？
デヴィッド：まさか…！
デヴィッドは監視用に使っているＨｋ壱型狙撃銃の魔力暗視望遠装置を見た。ピート達の周り景色が微妙にその光彩を変えている。
デヴィッド：魔道迷彩…。魔道戦闘員か！
リサ：なんだって！？
魔道戦闘員…。詳しい事は謎に包まれている。最新の科学技術と魔法技術を用いた装備を使い、また隊員の練度も非常に高い暗黒武闘集団である。全員が一切の気配を絶ち迷彩機能を持つ、エネルギー障壁を身にまとっている。数々の暗殺、テロ行為、破壊行為を行ってきたとされるが、その所属は一切明らかになっていない。
デヴィッド：ピート君達は囲まれている…。おまけに背後には１０倍ほどいるぞ。伯爵！囲まれている！俺の狙撃と同時に前衛に走れ！
伯爵：わかった！いくぞピート！
ピート：お～っ！！
リサ：本部に連絡を入れるよ！
デヴィッド：頼む！
デヴィッドはＨｋ壱型狙撃銃の狙いを慎重に定めた。
（ズキュウウウウウウーーーーーーン！）
火薬銃器カンパニーの使う弾丸は、弾頭部がルーン・バレットの様なエネルギー弾であり、基本的には非殺傷兵器である。一射目に続いて、立て続けに連射する。それによって開いた活路から２人が脱出する。それを追う敵に、さらに連射を浴びせた。
（ズキュズキュズキュウウウーーーーーーーーーーンゥァ��
ピート達を背後から襲おうとした敵が、ショック弾の直撃を受けて、もんどりうって倒れる。
（ピーピーピー！）
無線機がけたたましくなる。
ムーティ：大将！敵の奇襲でごわす！
ムーティの声に混じって、爆発音と怒号が聞こえて来る。
デヴィッド：なにっ？
ムーティ：魔道ヘリ・ヘルハインドのミサイル攻撃で、かなりの数の負傷者が出たでごわす！これからワシがしんがりになって全員で退却するでごわす。大陸横断鉄道に拾ってもらうってのはどうでごわすか？
デヴィッド：魔道ヘリ・ヘルハインド…。やっかいな…。よしわかった。聞いたか伯爵！
伯爵：わかった！急いでくれ！
（カシィッ！！）
援護射撃をしていたデヴィッドの弾が切れた。
デヴィッド：…！弾切れか！リサ、行こう！
リサ：ああ！
そう言って、２人は置いてある馬の方に走り出した。
（ヒヒヒィーーーン！！）
その時、かんぱにーの持ち馬にして、一種の仕事仲間である、愛馬“博才号（ばくさいごう）”が大きくいなないた。
この馬、外見からすると全くのアホ面、駄馬そのもので、走らしてもからきしダメである。仕事もしないで、もっぱらローズレイクの湖畔で昼寝ばかりしている。博才号の常識外れな真の能力は、並外れた耐久力と予知能力にある。特にこの予知能力、過去に金塊を掘り当てる事３回、温泉を見つける事２回、宝くじを当てる事５回、行方不明者を発見する事１６回、危険予知など日常茶飯事である。今までにかんぱにーを夜逃げの危機から数回救っている。耐久力に関しては、重い装備を背負っても、三日三晩、不眠不休で走り続けれる。東部の街の競売で売れ残っていた所、たまたま競売場を通りかかったデヴィッドとシュウゴが、馬主に頼まれて博才号を連れてきていた、ウサギの耳としっぽを持つフォーウッドの少女に頼まれて、格安で買い取ったのだ。デヴィッド、リサ、フォーウッドの少女キャラット・シールズに最もなつき、シュウゴを嫌う事はなはだしい。しかし世の中、腐れ縁とはあるもので、最もこの馬に蹴り飛ばされたのもシュウゴなら、この馬に最も助けられたのもシュウゴである。
リサ： …！！誰だ！！
博才号の習性をよく知っているリサが、とっさに辺りの気配をうかがう。
（ズザアアーーーーッ！！）
突如、頭上の大木から、複数の魔道戦闘員が降ってきた。
デヴィッド：避けろ！！
リサ：ちぃっ！！
（ドスドスドス！！）
今し方まで２人のいた場所に、無数の剣や槍が突き刺さる。
間一髪に避けた２人は逆襲を開始した。
「シッ！！」
（ドガアッ！！）
デヴィッドが持っていた狙撃銃の台尻で敵を殴り倒す。次々、襲い掛かって来る敵の得物を銃で受け流し、長身を生かして効果的なカウンターを入れていく。敵との距離が開くと、デヴィッドは腰のジグ自動拳銃を電光石火の早技で抜いた。
（バスバスバスバス！）
目に止まらぬ速射である。接近しようとした敵が、まともにショック弾を浴びて転倒する。
「あぶないっ！」
（キイイィィィン…）
リサの警告で、忍び寄った背後からの斬撃を辛うじて受け止める。しかし、片手で持ったライフルで受け止めた為に力が入らない。じりじりと相手の剣が近づいてくる。
（ガスッ！）
リサが、デヴィッドを背後から襲おうとした敵の脚を、下段蹴りで刈り払った。全力を入れて剣を押していた為に、その敵はバランスを失って、うつ伏せに倒れた。
「せあっ！」
（ズガァッ！！）
すぐさまリサは倒れた相手に飛び掛かって、後頭部に肘を叩き込む。その一撃で相手は昏倒した。さらに、素早く相手の剣を持った利き腕をとって関節を決め、一気にへし折った。
（ゴキャリッ！！）
相手が動かないのを確かめると、素早く立ち上がってデヴィッドの背後につく。
「すまない！」
「いいって！早くかたずけて皆に合流しよう！」
・
・
・
包囲網を突破した伯爵とピートは一路、国境駅を目指して走った。
伯爵：くそ！なんたるしつこさだ！！
ピート：まだついて来る～っ！
魔道戦闘員の集団がすさまじいスピードで追跡して来る。
（ガアーーーン！ガアーーーン！）
伯爵が、銃身のやたらめったら長い愛用の拳銃、“ヘヴンズ・スピア”を撃つが、余りの長さがアダとなり、走りながらでは、なかなか狙いがつかない。
伯爵：ならばっ！！
伯爵は足を止め、迫り来る敵に真っ向から立ち向かった。
伯爵：我が偉大なる眷族の血よ！その眠りより覚めよ！！天帝流星群！！！
言うや、伯爵がひるがえした漆黒のマントから、無数の光弾が飛び出した。
（キュィィイイイイイインンン！！ズガガガガガガガーーーーン！！！）
大音響とともに、光弾が連続して爆発する。追手の魔道戦闘員はこの一撃であらかた吹き飛んでしまった。
伯爵：ふっ！他愛も無い！！顔を洗って出直して来るがいい！！
ピートの方は方で、激しいどつき合いになっている。
ピート：このやろおおっ！！
木を根っこごと引き抜き、それを振り回して魔道戦闘員を殴り倒す。
伯爵：何をしている！さあ行くぞ！！
ピート：待ってよ～！
笑いながらピートが後に続く。が…、
（ズガッ！！）
魔道戦闘員の撃った魔法弾が、ピートを直撃した。ピートが前のめりに倒れていく。伯爵はピートに駆け寄って、地面に激突する前に抱きとめた。背中が焼け爛れている。伯爵の目が、見る見る炎を宿しだす。
伯爵：…！貴様ら…！！子供に手を出すとはなんたる外道！！！…地獄に落ちるがいい…。
怒りに燃えた伯爵が新たな秘技を繰り出す。
伯爵：我が眷族のしもべよ！来たりて我が敵を呑み込め！！魍魎悪鬼招来！！！
伯爵がそう叫んで大地に手をつくと、すさまじい地鳴りがしだした。
（ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。オオオオオオオオオ！！）
地面に亀裂が走り、数々の巨大な地獄の亡者が這い出てきた。
伯爵：さあっ！私と事を構える度胸のある者は前に出るがいい！二度とその目で陽を拝む事が無い様にしてやるぞ！！
・
・
・
そのころトリーシャ達は負傷者とともに猛火の中を脱出して、森の中を大陸横断鉄道エンフィールド国境駅を目指していた。
大陸横断鉄道とは、東部の先進地域が開発した、魔力機関を動力源とする機関車による交通機関の事である。最新のものでは、魔力機関を応用した、魔力ディーデルタービンの機関車も存在するらしい。
今や、開発の波がエンフィールドのような西部地域にも押し寄せ始めている。しかしながら、別にエンフィールドが後進地域だというわけではなく、西部はそれ独自の魔法技術を持っている。
銃器にしてみたところで決して万能でも主流の兵器ではなく、戦場において、最新式の装備で完全武装した騎士団に対しては、よほどの大口径ライフルを除いては、余り役に立たない。現在のところは、故障やジャミング（弾詰まり）が多く、特殊な用途に使われるか、護身の意味合いが強い。実戦の場においては、キワモノ的な扱いを受けている。

シェリル：はあ、はあ、はあ。え、駅までどの位あるんですか、トリーシャちゃん？
トリーシャ：あと１０分程だよ！みんながんばって！
そう言ったとたん、前方に無数の人影が現れた。魔道迷彩を施した姿からして敵である。
アルベルト：くっ…！敵さんのお出ましだ！でやあっ！
アルベルトのハルバートが一閃する。
（ビュオオッ！！ドガアアアアッ！！）
アルベルト：…？
敵を弾き飛ばして倒したものの、いつもの様な手応えが無い。障壁のようなものが敵の周りを覆っている。
アルベルト：気をつけろ！こいつら、かなり出来るぞ！
その声に反応するかのように次々と敵が襲い掛かってくる。
シェリル：こ、こないで！
トリーシャ：こ、このお！
トリーシャは毎度お馴染みのちょっぷ棒の、重金属バージョンを取り出して振り回した。
（ぽく☆…どぐわっしゃああああああん！！）
効果音とは裏腹のすさまじい衝撃力が戦闘員を襲い、障壁を破られ地面に叩き付けられた。
トリーシャ：あまいあまいっ！このボクに勝とうなんて、１００年と４ヶ月と２６日早いよ！
シェリル：きゃ～っ！こっちに来ないで～！
アルベルトとトリーシャが倒し損ねた敵がシェリルに迫る。
トリーシャ：シェリル！この本を読んでっ！
トリーシャがどこに隠していたのか、やたら分厚い本をシェリルに投げてよこした。
シェリル：…？え、えーと…『大魔族カイル・イシュバーン自伝』…？“…窮地にっ立った彼は死を覚悟して呪文を唱えた。…”
敵の魔の手が目前に迫る。
シェリル：“カーマイン・スプレッド！！”
トリーシャ：いきなり、それかい！！
唱えれるはずのない呪文が発動し、灼熱の大気が敵に襲い掛かる。
（ヴァガガガガーーーーン！！！）
シェリル：“大いなる星達よ、来たりて我を救え！メテオライト・スマッシュ！！”
（ヒューヒュー…ズガガガガガガガガガガガーーーーーン！！！！）
今度は隕石の雨が辺りに降り注いだ。
トリーシャ：わわわわわわっ！もういいよ～っ、シェリル！！
しかし、本に没頭するシェリルには何も聞こえない。
シェリル：“この俺にひれ伏すがいい！！ヴァニシング・レ…”…あ、あれ？これ、どうやって唱えるのかしら？
（ぼかっ！）
シェリル：きゆぅ～☆
トリーシャ：ああっ！！シェリルっ！！
シェリルは隙を突かれて殴られ、特大のたんこぶを作って気絶してしまった。さらに敵が手強いとみた魔道戦闘員は、魔法を撃つ体制に入った。
アルベルト：…！！くそおっ！！
アルベルトがトリーシャ達との間に割ってはいるのと同時に、無数の魔法弾が発射された。
（ズガガガガガガガガーーーーーン！）
アルベルト：ぬああああああああっ！！
トリーシャ：アルベルトさん！！
全身傷だらけになったアルベルトは、膝から崩れ落ちた。
アルベルト：クッ…！
魔道戦闘員たちはさらに魔法弾を撃つ構えをした。
トリーシャ：わーーーーーーっ！！
ムーティ：どすこーーーいっ！！
突然茂みをかき分けていきなり現れた１５０キロの巨体が、手に持った６１式機関砲ごと体当たりしたからたまらない。密集していた魔道戦闘員たちは一瞬にして吹き飛ばされた。
相手が体勢を立て直す前に、ムーティーは機関砲を構え直し引き金を引いた。それに反応し、独特の音を立てて、６本の銃身が高速回転を始める。
（ヒュィィイイイイイイン…ズバババババババババババ！！）
機関砲が火を吹き、大口径のショック弾が雨あられと降り注ぐ。魔道戦闘員の半数が一瞬にしてなぎ倒された。
伯爵：闇の刃よっ！全てを薙ぎ倒せっ！！
（ピキィィイイイイイン！！シュババババババババ！！）
さらに闇を切り裂いて無数の闇の刃が大気を切り裂く。これに残りの半数も倒された。
伯爵：見たか！我らが眷族の秘技！！
ピートを小脇に抱えた伯爵が闇の中から現れた。
トリーシャ：あっ！！ムーティさん！！伯爵！！…ピート君、大丈夫？
伯爵に抱えられ、ぐったりとしたピートを見てトリーシャが言った。
伯爵：うむ…。大事無いと思うのだが…。此奴は新月になると体調を崩すからな…。ん…？おおっ！！シェリル殿が気を失っているではないか！！！…ここは一つ、目覚めの口付けを…。
（ぽく☆）
トリーシャのちょっぷが伯爵にヒットした。
トリーシャ：…止めといた方がいいんじゃない？図書館のみんなに八つ裂きにされちゃうよ。
（ドカカッ！ドカカッ！ドカカッ！ドカカッ！）
遠くから、馬のひずめの音が聞こえて来る。全員が思わず身構えるが、走ってくる馬と、騎上の人物を見て全員に安堵感が広がる。
リサ：みんな無事かい！
デヴィッド：遅くなったな。
・
・
・
（ばんっっ！！）
シュウゴ・カノウが、社長室のドアを蹴破らんばかりの勢いで転がり込んできた。
ボロボロのコートを年がら年中羽織り、顔に派手な向こう傷のあるこの男は、火薬銃器かんぱにーのメンバーの１人で、接近戦とそれにおける散弾銃の扱いに長けている。しかしながら、他のメンバーの様に、飛び抜けた能力は何一つ無い。仕事の結果に最もムラがあり、難事件を解決した事もあれば、ただのお使いにしくじる事もある。エンフィールドにくる以前は仕事も無く、ぶらぶらした挙げ句に行き倒れ、ジョートショップのアリサに助けられて、この仕事を紹介された。横流しでエンフィールドの武器商人マーシャルから手に入れた、２丁の初期生産型の若馬式自動拳銃と、有名な初老のある刑事から譲り受けたおんぼろコートが自慢のタネである。
火薬銃器かんぱにーの社長室でまず目に付くのはわら半紙に書かれ、画鋲で壁にはられた“社訓”である。曰く、“いかな理由があろうとも、自分の銃の銃口が、人に向いたら、即、辞職。向けるんだったら自分に向けろ。”…無茶苦茶である。
シュウゴ：社長！緊急連絡です！第９グループが交戦状態に突入しました！相手は所属不明の特殊魔道戦闘員。その数３０。後衛はその１０倍に達するとのことです。さらに、魔道ヘリ・ヘルハインドが投入されたとのことです！
この部屋の主にして火薬銃器カンパニーの社長、そして狙撃の名手として、その名を轟かすプレジデント・デュークが、愛用の葉巻に火をつけて言った。
プレジデント・デューク：…用件を聞こうか。
どことなく東方風の顔立ち。短い髪に、がっしりした体格。鋭い眼光と意志の強そうな太く釣り上がった眉。そして変わらぬ表情…。一度見たら、まず忘れられない風貌である。いかなる時も、ローレライの上質の背広を着ている。
シュウゴ：話は簡単です。増援を行わなければデヴィッド達はヘルハインドの餌食です。それに加えて、ヤツは非戦闘員を３人も抱えています。負傷者も出ています。どうにかしないとなぶり殺しです！
（ジャキッ！）
なにを思ったのか、プレジデント・デュークは突然、回転式拳銃を抜いた。
プレジデント・デューク：ゆっくりだ…。ゆっくり手を出してもらおう…。俺は武器を持った相手と話をするほど、自信家じゃあない…。
…どこか変である。
シュウゴ：…社長、拳銃突きつけんといてください！オレは手を外にだとります。武器も持っとりません！！
プレジデント・デューク：…命が惜しいなら、俺の背後に立たないでもらおうか。
シュウゴ：社長、なに、わけの解んないこといってるんスか！第一、そんなんで社長、どーやって道を歩くんですか？
プレジデント・デューク：…ジョートショップの俺の秘密口座に入金が確認され次第、仕事にかかろう…。
シュウゴ：あそこは何でも屋さんで銀行とちゃいます！ああっ！らちがあかへん！こんな時、あの子がいてくれたら…！
（ガッシャーン！！）
突然、社長室のドアをぶち抜いて誰かが飛び込んで来た。
クレア：てえーい！必殺！！トリーシャ・チョオオオオオオオープ、ですわっ！！！
（ぽくっ☆）
プレジデント・デューク：はっ！！お、俺は一体…？
シュウゴ：おお！クレアちゃん！！…しかしなんでここに？それに、そのリボンとチョップ棒は一体…？けっこうイイね…その格好。
窓をぶち抜いて入ってきたのは、アルベルトの妹、クレア・コーレインであった。留学の為、親元を離れ、エンフィールド学園で下宿生活をしている。
奇妙な事に、クレアは黄色いリボンで、短い髪をまとめ、手にはトリーシャと同じちょっぷ棒を持っている。
クレア：細かい事は気にしない、ですわ！今日はトリーシャ様が忙しいので、わたくしがその代理でございます。
シュウゴ：いいけど…窓ガラス、弁償してや…。
クレア：気にしない、気にしない、ですわっ！殿方はもっと堂々となさるべきです！
シュウゴ：いや、それとこれとは…。はっ！そんなことは、どーでもええ！社長！どーするんスか！？
プレジデント・デューク：ブルースとギヴスン、それにゴロンボ警部はどうした？
シュウゴ：ブルース先輩はハゲが進行したショックで、酒を飲み過ぎて起きません。ギヴスン先輩は自殺願望が再発したとかでクラウド病院に入院中です。ゴロンボ警部は葉巻の吸いすぎで人間煙突になって、同じく入院中です。
基本的に、この会社では、常時の５人のメンバー以外は、役に立ったことがない。
プレジデント・デューク：社外の組織は？
シュウゴ：さくら亭、ジョートショップ、マーシャル武器店はともに社員旅行中。自警団は昼間の騒動で住民に袋叩きにされ、大多数が入院中。シーラ親衛隊も同じです。残りの自警団員は治安維持で手いっぱいです！
クレア：…兄さまも入院されたのでしょうか…。
シュウゴ：いや、あいつはピンピンしとる。…そう言えば、アルベルトを殴り倒したのは、クレアちゃんだったような気が…。
クレア：なな、何のことでございますですか、シュウ様？そ、それは目の錯覚と言うものでございますですわ！兄さまが、また性懲りもなく化粧品に手をだして、いつか泣かしてやろうと思った、などという事は全くありませんわ♪
それを聞いて、シュウゴはクレアに抱いていた、ある種のイメージを変更する必要性に気が付いた。
シュウゴ：…（恐い）…。それにしても、やけに詳しい説明なんやね…。
クレア：そそそ、そんな事よりも、今はもっと大切な事があるではありませんか！早く話を進めましょう！
プレジデント・デューク：旧王立図書館の連中は？
シュウゴ：隗烈の呪いを解くとかなんとかで、全員ローレンシュタインヘ行っとります。
プレジデント・デューク：セントウィンザー教会はどうだ？
シュウゴ：ジョートショップにお使いに行って、遅くなっても帰ってこないローラを、セリーヌさんが迎えに行ったらしいんですが、行ったきり行方不明です。それでストライカーは寝込んじまって…。
プレジデント・デューク：…ローラはまだ教会には帰っていないのか？
シュウゴ：まだやと言うことです。…社長。…なんで、そんな事を聞くんです？
プレジデント・デューク：…。
プレジデント・デュークの顔が、わずかに赤くなる。そのとたんに、シュウゴとクレアは部屋の角まで超光速で引いてしまった。
シュウゴ：（…ままままま、まさか、社長って、ローラのファンやたんか！？）
クレア：（そ…そう言えば、ローラさんからそんな話を…。）
シュウゴ：（たた、たしかに、よく遊びに来て、社長になついとるとは思っとったが…。それは、親子のそれに近いものだとばかり思とったぞ…。あんなイカツいオヤジの何処がええんや？…それで、ローラはなんて言ってたんや？）
クレア：（そ、それが…“おじさまってすてき～☆知性と男性のせくしーさを兼ね備えているわ～☆付き合うなら、やっぱりオ・ト・ナの男性ね～☆うふふふふふふふ～☆”とかなんとか…。）
…クレアがローラの物まねでそんな事を言うと、何だか非常に奇怪である。
シュウゴ：（…。しかし、歳があんだけ離れトンのに、いったい何を考えとんや、社長もあの子も…。）
クレア：（あら、真実の愛情に、歳の差なんて関係無いと思いますけど？）
シュウゴ：（…そんなん、誰に教わったん？）
クレア：（由羅様ですわ。）
シュウゴ：（…。説得力、あんまり無いなあ。）
プレジデント・デューク：…何をしている…。
シュウゴ：ああっ！なななななな、何でもありまへん！はいはいはいっ！
プレジデント・デューク：エンフィールド学園はどうだ？
シュウゴ：マリア、ゆんのグループはマリエーナ王国に里帰りです。それについて行った、マリアの親衛隊のティツィとミッチーは今朝方、黒焦げになって宅急便で送り返されてきました。ヘキサがそれを食い物と間違えてかじって、入院しました。あ、そうそう、アレフとクリス、並四郎が運良く残っていたので、いま準備をしてもらってます。アレフは“傷ついた女の子と病室でラブラブになるぜ～”とかなんとか訳の解んない事を言っていました。…あまり、当てにはできんでしょう。自警団の装甲列車に乗って現場に向かってもらいます。
プレジデント・デューク：残るは由良屋敷か…。
シュウゴ：全員、酔いつぶれていましたが、まるにゃんだけが飲んでいないでシラフだったので事情を説明すると、メロディに“メロディは、へりこぷたーに乗るのだぁ～。”と言われ、“これで彼女のはーとをがっちりきゃっちだにゃ～！”と意味不明の言葉を残して飛び出ていきました。
プレジデント・デューク：…。まるで事情が分かってないようだが…。…それで、依頼人はどっちだ…？
またもプレジデント・デュークの質問が変になりだした。
シュウゴ：は？
クレア：…？
プレジデント・デューク：同時に用件を聞くほど、俺は器用じゃない…。話すのは一人でいい…。
シュウゴ：社長、オレしか喋ってませんけど…。
プレジデント・デューク：何の用だ…。俺は依頼人とは二度と会わない主義だ…。特に仕事の後は、な…。
シュウゴ：まだなんにも仕事してないじゃないっスか！
プレジデント・デューク：俺は与えられた仕事の技術的な範疇にしか興味はない…。
シュウゴ：…クレアちゃ～ん、おねがい…。
クレア：はいっ！て～いっ！！
（ぐわっき！！！）
シュウゴ：…な、なんか変な音が…。
クレア：あ…あれ？手元が狂ってしまったようですわ…。あはは…。で、では、気を取り直して…。ていっ☆。
（ぽくっ☆）
プレジデント・デューク：…それにしても、最も手薄な時期を狙われたな…。昼間の騒動はこの伏線か？
シュウゴ：それはともかく、戦力が決定的に不足しています。社長、ご決断を！
プレジデント・デューク：…つまり、俺の腕が必要というわけか…。
シュウゴ：そうっス！そのとうりっス！やっと正解でんがな！
プレジデント・デューク：最初からそう言え…。
シュウゴ：…。
プレジデント・デューク：よし、地下格納庫からバレットを持ってこい…。
シュウゴ：５０口径の魔力狙撃銃っスね！いよいよ本領発揮っスね！！
プレジデント・デューク：それに、相手は魔道戦闘員。おそらく障壁を張っているだろう…。普通のショック弾では効果が薄いやもしれん…。それなりの装備をしていけ…。シコルスキーの準備もしておけ…。
シコルスキーとは、火薬銃器かんぱにーの所持する、そしてエンフィールドの唯一の魔道ヘリコプターの名前である。最新式の魔動力エンジンを搭載し、潜入・救助を目的とした特殊な機体で、あらゆる状況に対応できる。表向きは、東部の先進工業地帯から輸入した事になっていて、書類も完全にそろっているが、実際には、貧乏所帯のかんぱにーにそんな金があるはずも無く、単に輸送中のものを強奪してきただけである。かんぱにーの言い分では、どうせ戦争に使うんだから、エンフィールドで人命救助に使った方が良いと言うことである。ゆえに、火薬銃器かんぱにーは東部の強国の軍事組織からは疑惑の目を向けられ、ブラックリストにその名が載ってある。それはともかく、このシコルスキーはエンフィールドの住人となってから、実に多くの人命を救う事となったのである。
（じりりりりり～）
突然、社長室の魔導通話機が鳴った。
クレア：はい、こちら火薬銃器かんぱにー社長室…はい。…はい。シュウ様、さくら亭からお電話で、今晩のおかずはコロッケにしても良いかとお尋ねですが…。
シュウゴ：はうっ！コ、コロッケェ～！い、いりまへん！
クレア：…でも、たしかデューク社長の好物ではございませんか？
シュウゴ：ああ…！余計な事を…！
プレジデント・デューク：…コロッケ…か。
シュウゴ：あうう…。
プレジデント・デューク：…断っておくが、もし依頼主が俺を裏切るような事があれば…。
シュウゴ：だああっ！もうそれはいいっス！
・
・
・
アレフ：ああ、わかった。これから出発する。メルテンのおっさん！出発だぜ！
魔導通話機でシュウゴから出発要請を受け、アレフが叫んだ。
運転士メルテン：おう！早く乗るんじゃ！
並四郎：先に乗るぜ！
クリス：ぼく、貨車の中を整理しとくね。
アレフ・コールソンは、言わずと知れたナンパ師で、その名をエンフィールド中に知られている男である。クリストファー・クロス、通称クリスはエンフィールド学園の生徒で、アレフの親友である。川崎並四郎は、名の通ったカラテ家だ。
ここは大陸横断鉄道エンフィールド駅１３番ホーム、自警団専用のホームである。止まっているのは自警団の装甲列車。魔動力機関を持ち装甲板に覆われた先頭機関車に３両の貨車と２００ミリの砲台を積んだ砲台列車、合計５両編成の列車である。メルテンは自警団員で、この列車の専属運転士である。
列車に乗り込もうとしたアレフがホームの角にある奇妙な箱に気がついた。
アレフ：ん…？なんだこれ？…でかいな。…マリエーナ王国からの宅急便…？まあいい、開けてみるか。ひょっとして、カワイイ女の子にお近付きになれたりして…。ぐふふ。
期待とともに箱を開ける。と…
（ばああああああーーーーん！！）
ミッチー：ぶはーっ！！！死ぬかと思った！！！
テッツィー：今、何月何日？ここはどこ？
アレフ：うわあああああああっ！！
箱の中から現れたのは、エンフィールド学園の正・副生徒会長にして、別名マリアの魔法実験台、テッツィーとミッチーだった。二人ともほぼ毎日マリア・ショートと言う、爆裂じゃじゃ馬魔法お嬢の魔法の実験に、我が身を提供している。
ミッチー：やあ、おはようアレフくん！
アレフ：常識外れな現れ方をしといて爽やかに言うな。第一、今は真夜中だ！なんでこんな箱の中にいるんだよ！
テッツィー：いや～、マリアちゃんたら魔法の実験台にするだけしといて、はいサヨナラだもんな～。おまけに食い物と間違えられて、ヘキサにかじられそうになるし…。
アレフ：なんか、無茶苦茶悲惨だな…。
ミッチー：ところで、察するにここは大陸横断鉄道エンフィールド駅１３番ホーム。でもみんな、なにしてんの？
アレフ：実は俺達、戦闘に巻き込まれたリサ達を助けに行くんだ。あっ！ちょうどいい！お前らも来い！
ミッチー：ええ～？僕たちもう２週間も飲まず食わずなんだよ～！
ディアーナ：アレフく～ん！まって～！
アレフが文句を言う二人を引きずって行こうとすると、トーヤ、ディアーナ、りんののクラウド病院の面々が現れた。
トーヤ・クラウドは天才的な腕を持つ医師である。少々偏屈で変わった所もあるが、その腕は確かで今まで何人もの患者を、死神のリストから削除する事に成功している。
ディアーナ・レイニーはその助手だが、血を見ると卒倒し、しかも、変な薬を作っては、やたらめったら人に注射をしたがるという困った娘である。
蒼竹りんのは病院の看護婦である。
アレフ：やあ、ディアーナ。君は今晩の月のように美しいね…。
ディアーナ：…。アレフくん…、今日、新月なんだけど…。
アレフ：…。
トーヤ：事情は連絡を受けて知っている。お前達だけでは完全な治療は無理だろう。私達もついていく。
アレフ：そいつは心強いな。おい、クリス。ドクター達を案内してくれ！
クリス：うん。ドクター、こっちです。
４両目の貨車に向かおうとする一行を見てテッツィーとミッチーが声をかける。
テッツィー：りんのさ～ん。なんか食べるもの持ってませんか～？
ミッチー：ひもじいです～！苦しいです～！死んじゃいそうです～！
りんの：あ…。たしかディアーナさんが葡萄糖１００リットルの注射器を…。
ミッチー：…いえ、いいです…。
ゆーき：待ってくださあ～い！！行かないで～！
そう言って、また一人駆け込んで来た者がいる。他の者に比べて、一回りほど小柄な少年だ。エンフィールドのケモノ師“まるにゃん”の弟子で、両親の営む雑貨店で働く青葉結城、通称ゆーきである。片手には有事の際に持ち出す魔法剣ヴァイパーが握られている。
アレフ：あれ？ゆーき、どうした？
息を切らしながらゆーきが説明する。
ゆーき：そ、それが、まるにゃん師匠が急にどっか行ちゃって、由羅さんとメロディちゃんに頼まれて探している所なんですけど…。なにか知ってません？
ゆーきが剣の腕がたつ事をを知っているアレフは、早速、彼を引っ張り込む事に決めた。
アレフ：うんうんうん。知ってる知ってる知てるともぉおおっ！！この列車に乗れば君の悩みは全て解決だ！俺が保証しよう！
ゆーき：…なんか…無茶苦茶怪しいんですけど…。
アレフ：だああああっっ！！いいから来いっ！！
そう言ってゆーきを羽交い締めにし、引きずっていく。
ゆーき：わーっ！放してぇ！
全員が乗り込んで出発しようとしたとき、四度、乱入者が現れた。赤い髪に赤い衣服、そして腰には回転式の拳銃…。
ヴァネッサ：ちょっと待て、お前達！！この私のいる所で誘拐事件とはいい度胸だな！…な、なんだこれは！装甲列車じゃないか！エンフィールドにこんな代物があったなんて…。
トッキー：初めて知った…。
共和国共同体特捜部の超高速早とちり女性捜査員ヴァネッサと、そのお目付け役トッキーのコンビである。二人を見たりんのが声をかける。
りんの：あれ？共和国共同体特捜部のお二人じゃあないですか？
ヴァネッサ：…な、何故その事を…。さては貴様、敵国のスパイか！
毎度の事だが、そういって拳銃を抜くヴァネッサをトッキーが必死で止める。
りんの：あの～、全部カルテに書いてあった事なんですけど…。
ヴァネッサ：な…。し、しまったあ。そこまで気が回らなかった…。
哀れヴァネッサ。これで彼女の任務は、全て水泡と化したのだった。過去、捜査官の養成校でトップクラスの成績を誇った彼女であったが、このエンフィールドに来てからは、こう言ったへんてこなミスが続いていた。
ヴァネッサ：…今度こそ…クビだな…。
そういってうなだれるヴァネッサに並四郎とクリスが声をかけた。
並四郎：ワシらの友人が命の危険にさらされている。過去のいきさつはともかく、ここは一つ力を貸してくれないか？
クリス：今は一人でも助けが必要なんです！お願いします！
落ち込んでいたヴァネッサは、ふと、このままここで暮らすのも、そう悪くないような気がした。何故だかよくわからないが、多分、故郷でのプライドの高い同僚達とのトラブルに嫌気が差した事も影響したのだろう。
ヴァネッサ：ふ…。それもまたよし、か…。いくぞ、トッキー。
トッキー：はいっ！どこまでもお供します！
（ぴいいいいいぃーーーーーっ！！ザッ、ザッ、ザッ、ザッ……）
こうして、呉越同舟の独立愚連隊を乗せた列車は人命救助のために出発した。
・
・
・
……………
あれからどれくらい時間が経ったのだろうか。アルベルトたち負傷者を博才号に乗せ、大陸横断鉄道エンフィールド国境駅に向かわせた後、デヴィッド達は数度にわたる敵の攻撃を退けていた。辺りは静寂に包まれている。
リサ：やっぱり…あんたたち帰った方がいいよ。敵がまた来ないとは限らないし…。
リサが後ろにいる二人を気遣って言った。
トリーシャ：大丈夫だってリサさん。私たちだって、結構役に立ってるでしょう？
シェリル：そ…それに、もう誰もいないみたいですし…。
結局、この２人は回復と防御のために、居残る事にしたのだった。乱戦に続く乱戦が一段落し、負傷者を後送して、ようやく話す機会を得たのである。
トリーシャ：それに、この数じゃとてもじゃ無いけど支えきれないでしょう？
いかに屈強な４人とはいえ、補給と回復無しで戦い続けれると考えるほど、能天気ではない。しかし、だからといって普通の少女をこんな騒ぎに巻き込み続けていいはずもない。
リサ：何の訓練も受けていないあんたたちに、もしものことがあったらどうするんだい！
トリーシャ：そんなぁ…。こう見えても、ボクだって自警団の立派な一員なんだよ！
…どうして背伸びしたがるのだろう。リサは自分の弟の事を思い出した。リサの制止を聞かず、その結果彼は死んでしまった。あの時、もっと強く止めていたら…。そう考えると、やはりトリーシャ達をここに置いておく訳にはいかなかった。
リサ：後は私たちでなんとかするから、早く街に帰りな。
トリーシャ：だ～めっ！ボク、絶対ここにいるんだもんね！
どうあっても言うことを聞きそうに無いトリーシャを見て、リサは実力行使よりもはるかに効果的な手段に訴える事にした。元々、自分の意見を通す際に腕力を行使する事を、リサは余り好まない。
リサ：ふ～ん。そうかい。私の言うことが聞けないって言うのかい…。
トリーシャ：な、なに？ぼぼぼ、暴力はいけないよ、リサさん！
ニヤニヤと笑うリサを見て、トリーシャがちょっぷ棒を構える。
リサ：いやいや、そんな事はしないよ。私の言うことなんて別に聞かなくてもいいんだよ。…でもなぁ…たしか私、こないだマーシャルから、店で暴れていた傭兵達を追っ払った礼にって“マスクマン・レディ”のファイターズカードとか言うのをもらったんだっけなぁ…。
トリーシャの体がぴくっと反応する。ファイターズカードとは挌闘家のフォートをカード状に加工した物で、世界的にブームになっているコレクターズアイテムである。特に希少価値の高い物は、物凄いプレミアがつき、中には一枚何十万ゴールドなどと言う途方も無い物まで存在する。マーシャルはこのカードの完璧なコレクターであり、トリーシャも熱狂的なファンである。
リサ：なんでもその手のマニアに売ると、すごくいい金になるって話じゃない。トリーシャにやろうって思ってたけど、言う事聞いてくれないんだったらしょうがないね～。帰ったら早速、換金しよ～っと。
トリーシャの喉がごくっと大きく鳴る。一度そんなマニアの手に渡ってしまったが最後、“マスクマン・レディ”の様な超レアなカードは、二度とトリーシャの手に届かない様な値段になる事、間違いなしだ。リサはこの様な、からめ手からの攻略方法をジョートショップの女主人、アリサ・アスティアから学んだ。しかし、トリーシャは何とか踏みとどまった。
トリーシャ：ふ、ふんだ！ボボボボ、ボクをそんな物で釣ろうたって、そそそ、そうはいかないんだもんねっ！
そうは言うものの、トリーシャは目をウルウルさせて半泣き状態である。それを見ているだけで、“うう…ほしいなぁあああああああっっ”と言う深い怨念の声が聞こえて来そうである。
リサ：ふ～ん。そうかい、そうかい。いやいや、別にいいんだよ。でもたしかなぁ…。
そう言うリサを見て、トリーシャはさらに嫌な予感がした。
トリーシャ：ま、まだ何かあるのぉ？
リサ：あ、そうそう。マスクマンのゴールデンカードとか言うのも貰ったっけ。
トリーシャ：うわあああああ～ん！
とうとうトリーシャは泣き出してしまった。リサにしがみついてわんわん泣いている。
トリーシャ：ずずず、ずるいよぉ～っ！そんなの反則だよぉ～！
リサ：泣くな泣くな。言う事聞いて帰ってくれたら、すぐに二枚ともやるからさ。
そう言ってトリーシャの頭を撫でてやる。
実はリサはマーシャルにこの手のカードを束にして貰っていた。なにしろ、店員がエルを含めて全員フクロ叩きにあってしまい、リサがいなければ店を潰されてしまったかも知れない、と言ってマーシャルは最高級のナイフ数本と、カードの束を渡したのだった。そんな高価な物を貰うわけにはいかないとリサは辞退したのだが、マーシャルが“トリーシャちゃんが、何かでだだをこねて困った時に使うとヨロシ。”と言って、無理に持たせてくれたのだ。いつか返そうと思っていたのだが、今は素直にマーシャルの先見の明に感謝していた。
トリーシャ：で、でもぉ…。
そう言って、トリーシャはデヴィッド達の方を振り向いた。リサの言う事はよく解っているつもりなのだが、足手まといになると思われても、どうしても仲間を見捨てる様な気がして仕方なかった。
ムーティ：トリーシャさんとシェリルさんは十分、役に立ってもらったでごわす。ここいらでワシらに出番をちょいと譲ってもらいたいですなぁっ！
伯爵：なに、あの程度の連中なら我々だけで軽くカタがつく。帰ってアリサ殿のディナーを頂いて、皆で祝杯をあげるのが楽しみだ。
デヴィッド：そう言う事だ。ここからは俺達、真打の登場と言う訳だ。それに、何もここにいる事だけが戦う事じゃないんだぞ。街に帰って負傷した者達の手当てをしてやってくれ。応援ももうすぐ来るだろう。
さっきから二人のやり取りを笑ってみていた三人が口々に言った。無論、誰も状況を楽観視しているわけではない。
トリーシャ：う～っ。わかったよぉ…。早く帰って来てね…。
シェリル：…本当にいいんですか？
リサ：なに、すぐにかたずけて帰るさ。それじゃ、デヴィッド。私が２人を駅まで送って来るよ。
デヴィッド：ああ。よろしくな。
急に伯爵が身を固くした。立ち上がろうとする３人を制する。
伯爵：待てっ！…デヴィッド卿。何か聞こえんか？
デヴィッド：…？…そういえば…。
（ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…）
遠くから、非常に神経を逆立てる音が聞こえて来る。それは徐々に大きくなって来る。
ムーティー：…近づいてくるでごわす。…いやな予感がするでごわすなぁ…。
デヴィッド：この音は…。…！！魔道ヘリか！！
（ヒュンヒュンヒュン…ゴゴゴゴゴゴゴゴ！ズァアーーーーッ！！！）
突然、サーチライトが強烈に照らされ、音の主がその巨大な姿をあらわした。昆虫の目を思わせる操縦席の周りの風防。凄まじい速度で風を切る巨大なローター。大型の機関砲と翼下のミサイル・コンテナ。それは、とても空を飛んでいる事が信じられないほどの大きさである。
魔道ヘリ・ヘルハインド。１００発以上ものマジック・ミサイル等の大積載量を誇る、皇国や共同体にさえごく少数しかない重武装の攻撃型魔道ヘリである。騎士団等の地上部隊にとっては重武装、しかも空からの継続的な攻撃力を持ったこの機体は、最大の脅威である。
？？？：『ハーハッハッハッ！！ようこそ諸君！私のセレモニーに！これからクライマックスといこうか！！』
その声には全員、聞き覚えがあった。よくエンフィールドの評議会等で見かける人物である。しかも、よく他国とのつながりが噂されるその人物…。
リサ：エーリッヒ！！
・
・
・
（ズドオオオオォーーーーン…ひゅるるるるる…ズガーーーーーン！）
ピートやアルベルトなどの味方のを負傷者を収容し、敵の接近を妨げるため、装甲列車の２００ミリ砲が火を吹く。ここは大陸横断鉄道エンフィールド国境駅。
アレフ：いそげ！早く！
クリス：こっちです！さあ！
負傷者が貨車の中に収容される。
博才号はどういう訳か、最後尾の列車砲の運転席に乗ろうとする。
運転士メルテン：なんじゃ？前の貨車に乗ればいいじゃろうに。
列車砲を操作していたメルテンが博才号にそう言う。この馬は知能的にも極めて優秀で、ある程度の人語も理解できる。馬を品種改良した、一種の魔法生物である。
（ヴルルルルルル…）
博才号が首を横に振る。
ゆーき：メルテンさん。博才号は何か予感がするんですよ。ぼくが側にいるから乗せてあげてください。
どういう訳か博才号はゆーきを気に入っているようで、彼の側にずっといる。博才号の凄さはメルテンも知っている。
運転士メルテン：よし、わかった。大人しくしとるんじゃぞ！
博才号は分かったと言う様に首を縦に振る。メルテンはヴァネッサ達の所へ、今後の予定について相談に行った。
運転士メルテン：…さて、これからの事じゃが…。
並四郎：どうする？残りの者を待つか？
ヴァネッサ：…いや、いったん街に戻ろう。今生きている怪我人もどうなるかわからない。
運転士メルテン：よし！出発じゃ！
列車が動き出し、それぞれが敵を迎え討つために貨車の屋根に陣取った。
・
・
・
リサ：エーリッヒ！お前、一体何者だ！？皇国の人間なのか！それとも共同体の手の者なのか！
操縦席にいるのは紛れもなくエーリッヒ本人である。
エーリッヒ・プリンツ・フォン・ザイン・ヴェネトリーゼは、現在、エンフィールド最大の有力者である。だがその背後関係は、余りよく知られていない。個人としては、戦士としての実力・名声も非常に高く、シェフィールド家の一人娘に婚約を迫っている事でも有名である。
大音量の拡声器を通じてエーリッヒの声がこだまする。
エーリッヒ：『皇国？共同体？知らんな…。私は、私自身のために戦っているだけだ。別に皇国も共同体も関係ない。…遊んでやりたいところだが…急ぎの用があるのでな。…失礼する。』
デヴィド：そうはさせるか！ムーティ！
ムーティーが機関砲を、エーリッヒの魔道ヘリに向ける。
ムーティ：これでも食らいんしゃい！！
（チュイィィーーーン…バババババババババババ！！）
再び機関砲が火を吹く。しかし、弾丸は全てヘリの目前で四散した。
ムーティ：なんと！！
エーリッヒ：『クックックッ…。効かんなぁ…。』
デヴィド：なら、これならどうだ！
デヴィッドは背嚢うに取り付けていた重魔榴（りゅう）弾を抜いて発射した。通常なら建物が一戸、一瞬にして消し飛ぶ代物である。
（ガアアアーーーン…）
デヴィド：やったか？
だが煙りの中からヘルハインドは平然と姿をあらわした。機体の周囲を青白い光が覆っている。
リサ：だめだ！やつは魔道装甲板で守られている！
伯爵：馬鹿な！我らが眷族の秘術、いかにして手に入れたのだ！？
魔道装甲板とは通常の複合装甲板を高位の魔法でコーティングし、一定の波長の魔力をかけ続けることで特定の位置に強い力場を発生させる物だ。一部の種族しか、その製法を知らず、普通の複合装甲板などとは、比較にならないほどの防御力がある。
エーリッヒ：『貴様ら…。弱い…弱すぎるぞぉっ！！罪だ…。罪だな…。万死に値する…。その償いは貴様らの命でしてもらおう！…くらえいっっ！！』
リサ：やばい！“マジック・ミサイル・ランチャー”だ！！
（ピキイイィィン…シュバアァー！！）
リサが叫ぶと同時にヘルハインドの翼下から魔法ミサイルが発射された。
伯爵：危険だ！逃げろ！
デヴィド：くそおぉっ！！
トリーシャ：ひやぁああー！！
（ズガガガガガガアアアアアアァァァァァァ……）
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一方、魔道ヘリ、シコルスキー内部。シュウゴがデヴィッドやリサ達と連絡を取ろうと懸命になっている。
シュウゴ：こちらワルキューレ！ブラボー・チームどうぞ！ブラボー・チーム！
（…ザーザザー…）
シュウゴ：社長、だめです。応答ありまへん。どないします？
大型のバレット狙撃銃を抱えたプレジデント・デュークは微動だにしない。
プレジデント・デューク：…奴等の事だ。簡単に殺られはせん。このまま予定通りのコースを飛べ…。
シュウゴ：わっかりましたぁ。…それにしても、なんでクレアちゃんがここにおるんや？
クレア：あら？ご迷惑でした？
シュウゴ：いや…。それに魔道ヘリの操縦方法なんか、どこで習ろたん？
現在、社員の中でヘリコプターの操縦経験があるギブスンが精神の失調でクラウド病院に入院中なので、シコルスキーはクレアによって操縦されている。
クレア：ふふふ、“女の子は秘密がいっぱいなの！”ですわ。これも淑女のたしなみというものです♪
シュウゴ：…さいですか…。ん…？
怪我人を乗た貨車を繋いで、爆走する機関車がシュウゴの視界に入って来た
シュウゴ：あれは自警団の装甲列車…。方角からすると負傷者を乗せた帰りやな。…！！クレアちゃん！旋回や！機関車を追ってんか！
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・
装甲列車ではアレフとトッキーが魔道ボイラーに石炭を放り込んでいた。
運転士メルテン：なんじゃあ！若いのにだらしが無い！もっと気合いを入れて石炭をいれんか！！
アレフ：そんな事言ったって。おっさん、これ、めちゃくちゃきついよ！
トッキー：誰かかわって～。
もちろんだれも代わろうとはしない。みんな一両後ろの貨物車の屋根の上でくつろいでいる。
ヴァネッサ：もっとしっかり働け！！
並四郎：俺は敵が来たときに備えないとな、うん。
ティツィー：僕たちは少しでも休んで、マリアちゃんの魔法のダメージをとらないと…。
ミッチー：そうそう。
ウィリー：眠いのだー。
トッキー：そんな～。
アレフ：お前ら何のために来たんだよ！！
運転士メルテン：ほら！手がやすまっとるぞ！
（ヒヒヒーーーーン！！）
ゆーき：どうしたの、博才号？
またも、危険を感知した博才号がいなないた。その鳴き声に全員が背後を振り向く。
？？？：なんなら、私たちがお手伝いしましょうか…？
その声とともに４両目の屋根の上に、闇からとけ出たように７人の人影が姿を現す。
ヴァネッサ：誰だ！
その問いに、先ほどの男がすっと進み出る。長身の全身黒ずくめで、幽鬼のようにゆらりと立っている。かなりの長髪で、異様なまでに長い片刃の剣を持っている。
？？？：あなたたちにウロウロされては困る者です…。まあ…楽に死なせてあげますよ…。
男が合図すると、６人が前に進み出る。彼らもまた黒い、魔法の模様の入った服を着、男ほど長くはない片刃の剣を持ている。
ウィリー：こいつら、魔法戦士なのだー！
魔法戦士とは特異な鍛練により、非常に高い格闘性と魔力を身につける事に成功した者達の事である。
並四郎：…こいつら、居合いを使うな…。できる…。おもしれえ…やったろうじゃないか！
ヴァネッサ：みんな！いくよ！
互いに貨車を飛び越え、３両目で乱戦が始まった。
アレフ：でやあああぁっ！
テッツィ：このお！ニードル・スクリームッ！！
ミッチー：これでもくらえ！アイシクル・スピア！
並四郎は３両目を飛び越え４両目に移った。黒衣の男に向かって一直線に突っ走る。
？？？：フ…。死に急ぐようだな…。
男は距離を図り、居合いの構えを取った。
？？？：シッ！！
気合一閃、片手だけで、巨大な刀が一気に薙ぎ払われる。だがそれは並四郎の体を捕らえなかった。宙に飛んだ並四郎は、一回転し踵を浴びせ掛けた。
並四郎：くらえっ！胴回し回転蹴り！
だが男は空いた方の手でそれを防ぐと、常識はずれのスピードで刀を薙ぎ払った。
（ズンッ！）
並四郎：うわ！
間一髪で急所を外した並四郎だったが、刀は深々と足に刺さった。並四郎は刀を引き抜きざま飛びすさった。
？？？：ふむ…。なかなか楽しめそうな連中だ…。少し…本気で行こうか…。
そう言うと片刃の剣が、見る見る漆黒の光に包まれだした。並四郎は脚のダメージが大きく立ち上がれそうにない。
並四郎：…！や…殺られる…のか！！
その時、男の背後から人影が飛び上がった。
ゆーき：このおっ！ライトニングブラスターっ！！
魔法剣ヴァイパーから稲妻の光がきらめく。砲台列車の操縦席で、博才号の側にいたゆーきである。男は振り向かずに、片手で長剣を背中に振りかざす。
（バリバリバリバリッ！）
男の刀の闇の瘴気が稲妻を軽く弾き飛ばす。着地と同時にゆーきは一気に男に切り込む。
ゆーき：つあーっ！！
（がしいいいいいぃぃ…！）
ゆーきの渾身の居合いを、男は片手で受け止めた。男の顔に凄惨な笑みが浮かぶ。
？？？：ククク…。本当に今日はツイています…。こんなにも多く歯ごたえのある連中に出会えるとはね…。ぬんっ！
（きいいいぃぃん）
男とつばぜり合いをしていたゆーきが弾き飛ばされる。ゆーきは体勢を立て直すと魔法剣ヴァイパーを正眼に構えて集中力を高めた。
ゆーき：そんな事を言ってられるのも今の内だよっ！はっ…つぁぁぁあああああああ…だああっ！！
（ズオオオオオオオ！）
ゆーきの周りの空気が闘気に反応して渦巻く。男はそれを見て低く笑う。
？？？：そう…。いいですよ…。もっと楽しませてください…。
一瞬、ゆーきの姿が消え、次の瞬間、上空に現れた。
ゆーき：だあああっ！シャイニング・イレイザー！！
（キンキンキンキンキンキン！）
連続して振るわれた剣から、無数のレーザー光線がほとばしる。
？？？：フフフ…。そうでなくてはいけませんね…。
言うや残像を残して、地面を滑るように移動しだす。幾つものレーザーが貨車の屋根を貫通するが、男を捕らえる事が出来ない。
技を打ち終えたゆーきが着地する。エネルギーを消耗したのか息が荒く、足元がおぼつかない。
？？？：ふむ…。ではそろそろ彼の苦しみもだえる顔を見る事にしますか…。むっ…。
（ブオッ！ガシイィッ！！）
倒れていた並四郎が、逆立ちのまま跳躍し、男の側頭部めがけて回し蹴りを放ったのだ。続けざまに鉈で叩き切るような蹴りが男を襲う。男は素早くガードするが、逆立ちの不自然な攻撃にやや戸惑っているようだ。
？？？：ほほう…。これはこれは…。こんな戦い方が未だに残っていたとは、驚きですねぇ…。
並四郎：驚くのはこれからだぜっ！ゆーき君！！
そう言われた時には、ゆーきは既に強力な火炎を剣から飛ばす、“熱波旋風衝”の体勢に入っていた。並四郎は男のガードした腕を思い切り蹴った反動で、先頭車の方向へ跳んで退避した。
？？？：…いい。本当にいいですよ…。フフフフッ！
その言葉と同時に、かなりの距離を一瞬にして飛び越え、男はゆーきの顔前に現れた。ゆーきは未だ熱波旋風衝の動作を完了していない。闇の瘴気をまとった長い刀が振りかぶられる。
ゆーき：…！！
？？？：残念ですが…、これまでです…。流派神羅刹…、鬼抜刀っっ！！
（ドゴァアアアアアッ！！！）
まともに巨大な負の瘴気が叩き付けられ、凄まじいエネルギーに圧倒されて、背後に吹っ飛ばされる。ゆーきは辛うじて熱波旋風衝の炎を攻撃用から防御用のシールド状に変え、男の攻撃を凌いだ。最後尾の列車砲の操縦席の方に飛ばされているが、体が列車の側面をはみ出てしまっている。このままでは、地面に激突である。しかし、男の攻撃で脚がずたずたになってしまっており、体勢を立て直せない。迫りくる地面を背中に感じた。
ゆーき：（だ…だめだ…。父さん…。母さん…。お師匠様ぁ…。）
激突を予感して、固く目をつむる。
（がしぃいいいっっ！）
ゆーき：…。…？
衝撃がいつまで経っても襲ってこないので、ゆーきは恐る恐る目を開けた。何かが首を引っ張っている。
（ブルルルルル…）
ゆーき：…！博才号！
ゆーきが見たのは、自分の襟首を噛んで転落を防いでくれた博才号の姿だった。
…列車の３両目でも苦戦が続いていた。
ウィリーが、先頭車に行こうとする暗殺者を止めるため、魔法辞典を使った。
ウィリー：出でよ聖霊達！我が命により敵を滅せよ！ペンタ・コースト！！
ウィリーのもった魔法辞典が輝き、聖霊の力が一挙に解放された。聖霊の力の結晶が肉迫する暗殺者に激突する。
（ズガガガガガーーーーン！）
暗殺者を吹き飛ばしたものの、余りの近距離のため、ウィリーは貨物車の屋根に叩き付けられた。その間隙に、次の暗殺者が白刃をきらめかせて襲い掛かってきた。
アレフ：うおおおおっ！アレフ・キーックッッ！！
（バキッ！）
ウィリーを襲おうとした暗殺者をアレフが蹴り飛ばす。
アレフ：大丈夫か！
ウィリー：す、すまないんだなアレフさん。
突然、悲鳴が上がった。見れば先頭車でトッキーを張り倒した暗殺者が、彼を踏みつけ串刺しにしようとしている所だ。ぎらつく白刃に、さらにトッキーが悲鳴を上げる。
トッキー：うわああああぁ！ヴァネッサさーん！
（ズキューン！）
その声にヴァネッサが振り向きざま発砲した。
ヴァネッサ：トッキー！大丈夫か！うわっ！
（ビュオッ！）
振り向いた一寸の隙を狙って、刀がヴァネッサの背中を切り付けた。
トッキー：わああ！ヴァネッサさーん！うわっ！し、しぬぅううううっ！！
脚を撃たれた暗殺者は、なおもトッキーに刀を振り上げた。
運転士メルテン：このっ！ワシの機関車から出て行けえぇ！！
（バカーン！）
運転士のメルテンが釜炊き用のスコップで殴打し、相手は吹っ飛んだ。その時、例の長身の男が前に出てきた。
？？？：…お前達、何をそんなにてこずっている…。…どけ、私がケリをつける…。
言うや、男は両手を前に突き出し、呪文を唱えはじめた。男の前に、見る見るエネルギーの巨大な渦が出来あがっていく。
ティツィー：ヤバい！機関車を破壊する気だ！ミッチー！
ミッチー：わかってる！！アース・シールド！！
二人が呪文を唱えると、強力な障壁が男との間に生まれた。しかし、男はそんな事はお構い成しに、超強力な魔法の一撃を放った。
？？？：シューティング・ビィィィーズ・スティンガァァァーーー！！！！
（ビュムウウウウウゥーーーーー！！ズガアアアアアン！！！）
極太のエネルギー波が障壁と衝突、文字通りこれを粉砕し、呪文を唱えた二人に襲い掛かった。
（ドガガガガガアアアアァァァーーーーン！！！）
ティツィー：うわーーーーーーっ！！
ミッチー：ぎやーーーーーーっ！！
ティツィーとミッチーは、これまた文字通り、壁となってこれを阻止した。
ティツィー：うう…。マリアちゃんの特訓で慣れてたはずなんだけどなぁ…。
ミッチー：また元通りの黒焦げ…。
（ドサ…）
２人は気を失って倒れた。
？？？：見あげた根性だな…。
男の形をした死がゆっくりと近づいてきた。
……………
アルベルト：…くっ…。…お、俺も戦わないと…。
ここは４両目の貨車の中である。負傷者があちこちにいる。アルベルトもその一人である。
クリス：だめです！動かないで！
トーヤ：クリスの言う通りだ。今お前が行っても、何の役にも立たん。
治療に当たっていたクリスとトーヤが、起き上がろうとするアルベルトを止めた。
アルベルト：…くそ…！
りんの：ディアーナさん！輸血です！
ディアーナ：はっ、はい！！
……………
シュウゴ：社長！狙撃は出来ないんでっか！
今や味方の劣勢は明らかだった。
プレジデント・デューク：撃てば列車ごと破壊してしまう…。近づけば打ち落とされる…。
プレジデント・デュークはあくまでも冷静である。
シュウゴ：じゃあ社長が直接、列車に行ってくだはいな！
プレジデント・デューク：いや、それよりも…。
そう言ってプレジデント・デュークが、いきなりシュウゴの首を背後から極めた。
シュウゴ：う、うわ～っ！く、苦しいいいぃぃっ！なにするんでっか社長！！
プレジデント・デューク：俺が死ねばミルハインドの狙撃は不可能だが…。お前が死んでも後はどうにかなる…。
シュウゴ：ど、どない考えたら、そんな思考方法になるんでっか！！あっ！わ、わかった！！ローラちゃんとの仲を知るオレを抹殺して、二人だけでラブラブもーどに突入っちゅう寸法やなっ！そ、そうはさせるか！！
プレジデント・デューク：…それを知られたからには、ますます生かしておくわけにはいかんな…。…クレア。列車の前に回り込んで通り過ぎるんだ…。こいつが飛び移る…。
シュウゴ：は、放せ～っ！鬼～っ！悪魔～っ！
プレジデント・デュークは、シュウゴの首を極めたまま、ミントン社製の散弾銃と若馬式自動小銃を無理矢理装備させ、ヘリの後部にある格納扉に彼を引きずっていった。
クレア：そんな！無茶苦茶ですわ！
クレアが真っ青になって抗議する。
プレジデント・デューク：…早くしろ。
その迫力に思わず、
クレア：わ、わかりました！
シュウゴ：う、裏切り者～。う、うわ～っ！し、死ぬうううっっ！！
シュウゴの文句を他所に、シコルスキーは装甲列車の前方に回り込みはじめた。
……………
？？？：さて…誰が最初に死にますか…？お前か…？それとも、お前か…？
黒装束の男が、長すぎる刀をちらつかせて問いただす。装甲列車に乗り組んだエンフィールドの住民は、今やそのほとんどが負傷者となって、２両目の貨車の屋根に追いつめられた。みな、傷と疲労でへたり込んでいる。
ティツィー：僕は半分死んでます…。
ミッチー：…右に同じです…。
ご指名に預かった２人が、床に伸びたまま返答する。
？？？：ふむ…ではこうしましょうか…。誰か１人を貴方達自身で選びなさい…。死ぬのはその者だけです…。あとの者は助けてあげましょう…。
並四郎：な、なんて奴だ！貴様、それでも武道家か！
アレフ：そんな事言われて、助かった奴の話なんか聞いたことがないぜ！
たちまち二人が反論する。
？？？：どう思おうと勝手ですが…。さあ、どうしますか…？
声を出さずに男が笑う。その時、
ヴァネッサ：いいだろう。私が死ぬわ。
背中の傷に顔をしかめながら、ヴァネッサが立ち上がった。
トッキー：な…！
アレフ：よせ！そんな奴の言うことを真に受けるな！
ウィリー：そうなんだな！どう見ても約束を守るタイプに見えないんだな！
ヴァネッサ：まあ…いいじゃないか…。破ると決まったわけでもないし…。それに私はみんなより年上だ…。
トッキーがヴァネッサにすがりつく。
トッキー：そ、そんなぁ…。ヴァネッサさんが死んだら、僕はどうすれば良いんですか？
それを聞いて、ヴァネッサは少し微笑んだ。
ヴァネッサ：お前にも、ずいぶん迷惑をかけたからな…。これからは好きにしてくれ…。
それを聞いて、トッキーはボロボロ泣いた。
トッキー：まだ…まだ、もっと迷惑をかけてほしいですよ…。
ヴァネッサ：ばかだな…。さあ！さっさとやれ！
トッキー：だめだ！死ぬなら僕がっ！！
ヴァネッサ：トッキー！！
その声にトッキーは体を震わせ、固まってしまった。
ヴァネッサ：あんまり私を困らせるな…。
男がゆっくりと刀を前にかざす。
？？？：別れの挨拶は済みましたか…。では…。
刀の先がヴァネッサの喉にあてがわれる。
ヴァネッサ：…う…。
ヴァネッサの表情が歪む。
？？？：…いいな。美しい…。その表情…、私はそんな表情が好きだ…。
男の表情が恍惚となり、刀を持つ手に力が加わるゥァ�
（ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン…）
？？？：…？
ふいに、男の耳に音が聞こえ出した。それは徐々に大きくなってくる。男は至福の作業を一時中断し、顔を上げた。
？？？：…！！あれは火薬銃器かんぱにーのシコルスキー！！
列車の前に現れ、屋根スレスレに一気に突っ込んで来るシコルスキー。
運転士メルテン：それいっ！！
メルテンが急ブレーキをかけ、車体は大きく揺らいだ。
？？？：ぬう！！
ヴァネッサ：でやーっ！
男が体勢を崩すと同時にヴァネッサは懐に入って投げ技をかけ、彼を車外へと放り出した。
？？？：うおおおおおおっ！！
絶叫とともに男の姿がきえる。再びアクセルが入り、列車は加速した。しかし、暗殺者は６人残っている。状況が好転したわけではない。
シュウゴ：うりぁあああああああ！！ちくしょうめええええええぇぇぇぇーーーっっ！！
シコルスキーの後部扉から叩き出されたシュウゴが、決死のダイビングを敢行した。身につけているおんぼろコートが風になびいて、モモンガかムササビの自由落下飛行の様である。
（どべちゃぁああっ！！！！）
無様な音を立てて、カエルの轢死体の様になって、４両めの１人の暗殺者の背後に着地（墜落？）した。
（……………）
辺りの者が、その光景に言葉を失う。
シュウゴ：なんじゃあああっ！！そのリアクションはあああああっ！！
顔面を鼻血に染めたシュウゴが、飛び起きて散弾銃をぶっ放す。
（ズガアアアアーーーン！！）
至近距離で、ショック弾の束を受けた暗殺者は吹き飛んでしまった。それを見て２両目の暗殺者が２人、シュウゴの方に走り出す。シュウゴは射程の短い散弾銃から、射程の長い背中の若馬式自動小銃に持ち替え、狙いをつけて連射した。
（パァーン！パパパパパパパパァーーーーン！）
乾いた連射音とともに高速ショック弾が発射され、暗殺者の障壁を貫通する。強烈な衝撃とともに、暗殺者達は気を失った。残る３人は完全にその事に気を取られた。
並四郎：今だっ！必見必殺！！つあーーーーっ！！
アレフ：たああぁぁっ！ファイナル・ストライク！！
ウィリー：大いなる風の聖霊よ！ソニック・スフィア！！
（ズガガガガガーーーーーーーーーーーン！！！）
残る力を振り絞った必殺技の前に、最後の暗殺者達も力尽きた。
トッキー：は…は、ははははは！や、やった！生きてる！ヴァネッサさーん！
ヴァネッサ：ふう…なんとか終わったか…。ご苦労さん、トッキー。
トッキー：いえ、僕は何も…。でも、ヴァネッサさんが誉めてくれたのって、初めてですね…。
ヴァネッサ：そうか？
シュウゴ：おお～い？みんな無事か～！？
４両目からシュウゴが声をかける。
アレフ：ああ！みんな無事だ！！
並四郎：危ういところだったが、助かったぞ！！
ウィリー：早く、リサさんたちを助けに行ってほしいんだな～！！
それにシュウゴが答えようとしたとき、３両目の屋根の上に人影が現れた。幽鬼のようなそれは高らかに笑った。
？？？：ふ…ふははははは！ハーッハッハッハッ！！…ずいぶんと楽しませてくれますね…。久しぶりですよ…こんなに生き生き出来るのは…。
並四郎：貴様！生きていたのか！
そこにいたのは、あの長い刀を持った黒装束の男だった。
？？？：いや…実にいい…。あなた方はセンスがあります…。
悠然と構える男の刀を見たシュウゴが、ある事を思い出した。以前、伯爵の居城をデヴィッド達と訪れた際、それと同じような物を見て、その由来を聞いた事があったのだ。確か、彼らの眷族が記憶の彼方の遠い祖先から代々受け継いできた物で、一族の血を引き継ぐ者にしか、闇の瘴気をまとわせる事が出来ないと言う事だった
シュウゴ：そう言うたら、あの刀…。伯爵に聞いたことがあるな…。おい、ちょっと、アンタ！
その声に男が振り向く。
？？？：なにか…？
こちらを振り返った男の顔は、端正で美しい反面、まるで死人のように肌が白い。
シュウゴ：…あんたの持っとる、瘴気をまとった刀…。そいつは伯爵と同じ夜の一族か、それに連なる者しか持つ事がでけへん代物のはずや。
？？？：……。
シュウゴ：それに、その血の気の無い顔…。あんた…人間やないな…。一体、何者や？
男は瘴気をまとった自分の長い刀をかざし、その刀身を見つめた。
？？？：…クックックッ…。この刀の事を知っている者がいるとは思いませんでしたねぇ…。まあ、どうでもいいことですが…。私…？…決して表には出られぬ地獄の番犬…。そんな所ですか…。…無駄話が過ぎましたね…。
男はシュウゴの方へ向き直り、腰を落として構えた。シュウゴも自動小銃を構え直す。
？？？：…冥土の土産に名乗っておきましょう…。…私はの名は“朧（おぼろ）”…。
静寂が流れる。シュウゴは心臓の鼓動を意識した。
（トックン…トックン…トックン…）
朧：参るっ！！
言うや一気に地面を蹴った。まるで滑るような足取りでシュウゴに接近する。
シュウゴ：ちいっ！！
（パパァーン！パパパパパパパパァーーーン！！）
自動小銃が火を吹き、無数の高速ショック弾が朧を襲う。だが…、
朧：チェエエエエエエーーーーーースッ！！
（キンキンキンキンキンキン！！！）
刀が黒い光をまとい、迫り来る弾を全て弾き飛ばす。あっという間に二人の距離が縮まる。そして、
シュウゴ：うわっ！！
朧：えやあっしゃぁああああっ！！！
（ズワキイイィィィーーン…）
アレフ：シュウゴ！
ウィリー：やられたんだな！
シュウゴの胴が真横に薙ぎ払われた。
シュウゴ：なんでやねん！
飛び退いたシュウゴだったが、とっさに前にかざした若馬式自動小銃が真っ二つになり、特殊鋼の防弾着にも深く傷が入っていた。どちらが欠けても命はなかっただろう。
朧：ほう…。よく死にませんでしたね…。まあ…、ずいぶん手加減しましたから…。すぐ死なれては、面白くも何とも無いですからね…。
シュウゴ：ぬかせっ！！
シュウゴが残った散弾銃を、腰だめで素早く構える。
シュウゴ：くらえっっ！！琉撃ショットガンっ！！！
（ズガガガーーーーーン！！）
散弾銃から発射された無数の小型ショック弾が、気合いで威力を増幅され、それぞれが巨大な光球となって朧を襲う。だが、朧は一向動じず、巨大な刀を片手で振りかぶる。
（ザキイィィィーーーーーン！！！）
目にも止まらぬ速さで刀が振るわれ、全ての光弾を弾いて、散弾銃までもを真っ二つにしてしまう。
シュウゴ：なにするんじゃぁああああっ！
シュウゴは言いざま飛びのき、コートを跳ね上げ身をひるがえして一回転、腰のガンベルトから御自慢の２丁の若馬式自動拳銃を抜いた。
（ドウッ！ドウッ！ドウッ！ドウッ！ドウッ！ドウッ！）
２丁拳銃が立て続けに火を吹く。
朧：笑止っ！！
（キキキキキィィィーーーーン！）
黒い闘気を帯びた刀の一振で、ショック弾がはじき飛ばされる。
（カシィイッ！）
シュウゴ：しまったぁあああああっっ！！弾が切れたああああっっっ！！！
朧：馬鹿め！流派神羅刹！奥義・怨陽骸烈破！！
（ズガガガガーーーーーン！！！）
一瞬の溜めも無しに、無数のすさまじい衝撃の刃が発生し、シュウゴは５両目の最後尾、列車砲の操縦席近くまで吹っ飛んだ。朧は、最早見るべきものはないと背を向ける。不幸な事に吹き飛ばされたコースが、列車のかなり上方で、このままではシュウゴは地面に叩き付けられてしまう。
ゆーき：博才号っ！おねがいっ！
（ヒヒヒヒーーーンッ！！！）
その時、列車砲の操縦席に陣取っていた博才号が、ゆーきの声に後ろ足で立ち上がった。しかし博才号がシュウゴをの体を咥えるには、僅かに高さが足りない。
ゆーき：届いてっ！！
ゆーきは博才号の首にしがみついて手を伸ばし、上方を通り過ぎようとしたシュウゴの服を掴み、列車から放り出されるのを防いだ。博才号の能力とゆーきの技が、シュウゴを転落死から救ったのである。
しかし、ゆーきに引っ張り上げられたシュウゴはダメージが大きく、ピクリとも動かない。
ゆーき：シュウゴさん！しっかりしてよっ！！
（ブルル…）
ゆーきはシュウゴの肩を捕まえて強引に揺する。博才号も心配そうに鼻先でシュウゴの体を揺するが、全く気がつかない。
シュウゴ：ぬふふふ。うへへへへ。クレアちゃ～ん。
ゆーき：…。妙な寝言なんかいいから、早く起きてよ！…しょうがない！博才号！
ゆーきの言わんとした事を正確に理解した博才号は頷くと、最終手段の行使に踏み切った。
（がぶっ！）
ぎにゃああああああああああああ～っ！！
朧：…まあ、この程度か…。手抜きしすぎても、わりと持った方だな…。さて…残りの連中に止めをくれてやるとしますか…。
シュウゴの悲鳴を聞いて列車からの転落を確信した朧は、先頭の列車にいる、まだ生きのいい獲物に向かって歩き出した。
（ズンッ！）
朧：…ぐうっ！な…なんだこれは…。
彼の足の甲からは、槍の穂先が突き出ていた。４両目の貨車の中にいたアルベルトが、こん身の力で放ったものだった。
朧：…ちいっ…！下にも鼠が…！不覚！！
朧は貨車ごと邪魔者を吹き飛ばそうと刀に闘気を込めた。
（ドガアアアアアアアアァァァーーーーーーーン）
刀を振り上げたその時、朧の背中で大爆発がおきた。それは朧の障壁でも完全には吸収できず、貨車の屋根の一部までも吹き飛ばした。
シュウゴ：わーはっはっはっ！！！どないじゃーっ！２００ミリ砲弾の威力は！
アルベルトの槍に、一瞬動きが止まった朧めがけて、博才号に頭をかじられているシュウゴが、そのまま列車砲を撃ったのだ。
朧はしばらく立ち尽くしたままだったが、やがて体が激しく痙攣しだした。倒れ込み、苦しそうにもがく。体中から煙のようなものが立ち上り、さらに全身が、変形しているとしか思えないほど、異様に膨らんだり縮んだりする。
朧：かぁ！…く、クスリがああぁぁ…。はああああぁぁぁ…。
激しい発作に苦しみながら、朧は懐から小さなケースを取り出すと、その中から注射器を取り出して、腕に針を刺し、薬を流し込んだ。やがて、徐々に痙攣が治まっていく。全員がその異様さに言葉をなくした。
朧：はあ、はあ、はあぁぁぁ…。ふ、ふふ…ははははは。はーっはっはっはっ！！！いいぞ！いいぞ！いいぞ！まったく素晴らしい！これでまた生きる楽しみが増えたと言うものです…。…お前達、帰るぞ。
立ち上がった朧がそう言うと、倒れていた暗殺者が何事も無かったかのように立ち上がり、朧の元へ集まった。
朧：…また会う事になるでしょう…。今日の遊びはここまでです…。
そう言うと、彼らは来たときと同じく闇に溶け込んで消えた。
ヴァネッサ：終わった…のか…？
トッキー：…そうみたい…ですね。
呆然とする彼らの耳に、シコルスキーの飛行音が聞こえてくる。
クレア：『シュウ様、時間がありません！早くお乗りください！』
それを聞いてシュウゴは４両目の貨車へ移動を始める。
シュウゴ：そんじゃな、ゆーきくん！博才号！おかげで皆が助かったで！この礼はいつかするよってに！
ゆーき：楽しみにしてますよ！
（ヒーン！）
シュウゴ：いででででっ！
またもシュウゴは博才号に頭をかじられる。どうやら愛情表現の様なのだが…。
先ほどの砲撃で破れた屋根を覗きこんでアルベルトを探した。
シュウゴ：よう、アルベルト！おかげで助かったで！
アルベルト：なに…いいってことよ。
力なくアルベルトが微笑む。
シュウゴ：景気悪いツラすんな！帰ったら、アリサさんが待っとるで。この手柄話をしたら、一気にラブラブかもよ！
周りから一斉に笑い声が起こる。
アルベルト：…！！てめえ！！なに言ってやがる！！いてててて…。
それを聞いてまた笑い声が起こる。
アルベルト：お、おまえら！そんなに笑うな！こら！りんの、ディアーナ！ドクターまで！
シュウゴ：それだけ元気があれば大丈夫や。じゃあ、先生、ディアーナ、りんの、後のことはたのんまっせ。
ディアーナ：あははは…は…。気をつけてくださいね。
トーヤ：ああ。気をつけて行け。
りんの：それじゃ、また。
シュウゴは近づいてくるシコルスキーを見上げた。
・
・
・
デヴィッド：……う…くそ…。
最初に気が付いたのはデヴィッドだった。起き上がって、ヘルハインドのミサイルに吹き飛ばされた皆を探す。
デヴィッド：おおいっ！だれかああ！！…はっ！！
最初に目に留まったのはムーティだった。
デヴィッド：おおい！ムーティ！無事か！！
だが様子が変だ。
（グラァ…ズウウウン…）
ムーティは横倒しになった。背中じゅうに深い傷がある。その影から残りの者が姿を現した。ムーティは自ら盾となったのだ。
デヴィッド：ムーーーーティーーーーー！！
絶叫して駆け寄る。それに答えてムーティが笑う。
ムーティ：…大将、心配せんでもワシの傷は深くないでごわす…。そ、それよりも…。
デヴィッド：…？…！！！
デヴィッドの目に飛び込んできたのは、腹部に金属の棒状の破片が刺さったトリーシャの姿だった。
トリーシャ：う…。うあ…あ…。ああ…。
全身が痙攣し、それでも泣きながら金属片を抜こうとしている。
リサ：だめだ、トリーシャ！今抜いたら、出血で死んでしまう！
リサがトリーシャの血だらけの手を止める。
デヴィッド：…急所は外れているようだが…。背中まで貫通しているぞ…。伯爵、シェリル君、回復を！
シェリル：は、はいっ！
シェリルと伯爵が回復の呪文を唱える。トリーシャが口から血を流しながら言った。
トリーシャ：…ひっ…ク…。…死にたくない…。ボク…まだ死にたくないよぉ…。
伯爵：くそっ！何故だっ！何故こんな幼い子が死なねばならないっ！！神と言うものは、やはりただの能無しかっ！！
伯爵は自分の最大の敵に呪いを浴びせた。
トリーシャ：い…痛い…。痛いよぉ…。た、助け…て…。
・
・
・
だめっ！戻って来なさいっ！！
（ビュオオオッ！ズガアッッ！！）
“う…あ。あ…。ね…姉さ…ん”
…！！！だめえええええええっっ！！
・
・
・
“い…痛い…。痛いです…。メッカーノ曹長…。”
くそ！なんでこんな時に衛生兵がいないんだい！私の手荷物だけじゃ！
“し…死にたくないです…メッカーノ曹長。僕…死にたくない…。”
死なせやしないっ！死なせやしないっ！！だからがんばれ！！！
“あ…ああ…。曹…長…。”
だめだ！死ぬな！死ぬなぁああああ……
・
・
・
リサ：だめだ、トリーシャ気をしっかり持て！死なせやしないっ！！今度こそ！絶対に！！！
トリーシャ：は…は。…恐いよ…リサさん…。それに…ボク、まだカード…貰ってないよぉ…。
リサ：そうだ！笑ってろ！帰るんだ！エンフィールドの街に！！
トリーシャ：…うん。帰ろうね…。
リサの握り締めているトリーシャの手に少し力が入った。
デヴィッド：…よし、魔法で傷が塞がった。とにかく、早く駅へ行こう！
エーリッヒ：『そうはいかんのだよっ！！』
リサ：…！！貴様ぁああ！！
再びヘルハインドが轟音とともに現れる。
エーリッヒ：『…見ればお困りのようだが…。私にその子をくれるのなら助けてやらんことも無いぞ。』
トリーシャ：…い…いやだ。…ボクは…みんなといる…。
トリーシャが弱々しく首を振る。
デヴィッド：それで、その後どうするつもりだ！
そう言った事に関してのエーリッヒの噂は芳しいものが無い。
エーリッヒ：『…まあ、女性が多くて困る事もあるまい…。いろいろな意味でな…。』
予想通りの答えである。それを聞いたリサが逆上して叫んだ。
リサ：こ…この！！人の命をなんだと思っているんだい！！！この変態がぁっ！！！
エーリッヒ：『…！！その言葉！！万死に値するなっ！！後悔するなよっ！！』
最後の一言に自尊心を深く傷付けられたエーリッヒが吠える。ヘルハインドの機関砲がリサたちの方を向く。
デヴィッド：くっ！ここまでかっ！
？？？：にゃああああああああああああああぁっ！！！！！
（ひゅるるるーーーっ…べたぁ！）
いきなり得体の知れない物体が飛来し、障壁を突き破ってヘルハインドの風防硝子にへばりついた。エーリッヒは視界を奪われ、獲物を見失ってしまった。
エーリッヒ：『なな、なんだコイツ！！』
風防にへばりついた、まるにゃんの“むにゅーっ”と広がった奇怪な顔を見て、彼は腰を抜かさんばかりに驚いた。
まるにゃん。…それは、猫の耳と手、しっぽを持ち、エンフィールドの住民を、ネコ耳生命体メロディ・シンクレアの様な“らぶりー”で“きゅーと”な生き物に変えてしまおうという野望の元、日夜、広報活動と営業にいそしむ、勤勉な“けもの師”のことである。…しかしながら、彼が無差別テロの様な活動したという事実はなく、日々、地道な勧誘を続けている次第である。今日も知り合いの讃岐うどん屋“井原亭”に行って、短期６ヶ月契約を取り付けてきたところである。
まるにゃん：うにゃ～。この“へりこぷたー”は、めろでぃちゃんのため、このまるにゃんが持ってかえるのだにゃ～！そこを退くにゃ～！
エーリッヒ：クッ、この下等生物が！私の楽しみを台無しにしおって！離れろぉ！！
エーリッヒはまるにゃんを振り落とすべく、ヘルハインドをその場で急旋回さした。
まるにゃん：にゃにゃにゃにゃにゃ！おちるにゃ～！
しかし、その言葉とは裏腹に、バキューム顔負けの吸引力で張り付いたまるにゃんは容易に離れない。
まるにゃん：うにゃ～。そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがあるにゃ～。うりゃ～！！！
（ガアッシャアアアアーーーーーーン）
エーリッヒ：ぐああああああっ！！！
機関砲の直撃弾にも耐えるヘルハインドの風防が、まるにゃんの頭突きで粉々に吹き飛んだ。風防にはくっきりとまるにゃんの人型（猫型？）がついている。操縦席の周りのフレームや計器類もむちゃくちゃになり、頭突きで顔面が陥没し、血ダルマになったエーリッヒは怒り狂った。
エーリッヒ：こ…この…よ、よくも、この私の高貴な顔に…！ぬぬぬぬぬううううぅぅーーーーーーっ！！この虫けらがああああっ！！！
（どばきぃい！）
まるにゃん：にゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ……。
エーリッヒの強烈な一撃で、まるにゃんはリサ達の所までブッ飛んでしまった。
エーリッヒ：『はあ、はあ、はあああーっ。貴様らあぁぁぁーーーっ！！！こ…殺してやるうううぅぅぅーー！』
ヘルハインドはその機首をゆっくりとトリーシャ達に向けた。
トリーシャ：…ひいっ…！
デヴィッド：リサ！伯爵！もういいから、シェリル君達、動ける者と脱出しろ！やつは俺が何とかする！
リサ：なに馬鹿なこと言ってるんだい！あんなデカブツ、あんた一人じゃ無理だ！まだチャンスはあるよ！
シェリル：わ、私も残ります！！トリーシャちゃんを放っておけません！！
伯爵：怪我人や女子供を見捨てたとあっては、貴族の名がすたるな…。
デヴィッド：な…馬鹿な！ここにいても犬死にだ！
その言葉が聞こえなかったかの様に伯爵が前に進み出る。もとより彼にデヴィッドやリサ達を見捨てるつもりはさらさらなく、地獄の底まで一蓮托生の覚悟である。
伯爵：シェリル殿、トリーシャ殿の治療を続けてくれ…。
シェリル：は、はいっ！
シェリルはトリーシャに回復の呪文をかけ続ける。伯爵はヘルハインドの攻撃から仲間を守る為、呪文を唱えだした。
伯爵：大いなるイージスの盾よ！我が前に現れ、全ての災厄を遠ざけよっ！プロテクションッッ！！！
伯爵が強力な障壁の呪文を唱える。伯爵の魔力の大きさに比例して、周囲に巨大な力場が発生した。
エーリッヒ：『無駄、無駄ぁ！！死ねえぇぇい！！』
（シュババババババッ！！…ドガガガガガガガガガガーーーーーーーーーー！！）
何十発というマジック・ミサイルが雨あられと降り注ぎ、凄まじい爆風が吹き荒れる。それに反応して、プロテクションの輝きが一気に強くなる。
伯爵：ぬうっ！何たる圧力だっ！！デヴィッド卿、私とてあまり長い間、耐えられそうにないぞ！
エーリッヒ：『うわっははははははっ！！死ね、死ねい！虫けらどもおおぉ！！ひゃーーーはっはっはっはっ！！』
エーリッヒは怒りの余り、精神の均衡を失っているようだ。
デヴィッド：くっ…。化け物め！
まるにゃん：リサしゃん、デヴィッドしゃん！まるにゃんを使うのだぁ！まるにゃんを盾にして、突撃なのだぁああっっ！！
まるにゃんが思い切った表情でそう言った。
リサ：まるにゃん！？
デヴィッド：なに言ってる！そんな事をしたら、死んでしまうぞ！
まるにゃん：まるにゃんは不死身だにゃ！ミサイルはともかく、あの程度の弾ならふせげるでしっ！
たしかに、けもの師たるまるにゃんは、耐久力と格闘性に並外れた能力を持っていて、基本的には不死身である。いかに、ヘルハインドの機関砲が強力でも、そうやすやすとは弾丸も貫通しないだろう。
リサ：…それにしたって、奴の体制を崩さない事には、すぐさま挽肉だよ。
まるにゃん：お肉はいやでしっ！お魚がいいにゃ！
リサ：…。
（ズキューーーーーーーーーンーーーー……）
リサ：…？（銃声？）
（ズガーーーン！！）
へルハインドの巨体が大きく揺らいだ。
エーリッヒ：『うわおおぉ！！な、なんだ！？』
つづけざまに衝撃が襲い、へルハインドの機体が黒煙を上げはじめた。予想外の奇襲にエーリッヒの精神集中が途切れ、機体を覆っていた障壁が四散した。
シュウゴ：『ぎゃあはっはっはっ！！ざまーーーみろ！！』
クレア：『そうです！ざまあみなさい、ですわ！』
プレジデント・デュークの狙撃と同時に、魔道ヘリ・シコルスキーが急上昇してその姿をあらわした。彼の使う魔力狙撃銃は使い手の精神力によって、幾らでも弾丸の威力を増す特徴がある。開け放った後部格納扉から、プレジデント・デュークの正確無比な狙撃が続く。
エーリッヒ：『あ、新手か！！』
シュウゴ：『そのとーりや！この変態があっ！！』
クレア：『そのとうりですわ！この変態…！！』
シュウゴ：『…。』
クレア：『い、いまのは無かった事に…。誰も聞いてませんわね？』
シュウゴ：『外部拡声器、入ってるでゥァ��
クレア：『…わ、わたくしとしたことが…お恥ずかしい…。』
エーリッヒ：『続きは地獄でやってもらおうか！！』
（ピキイイィィン…シュババアァー！！）
マジック・ミサイルがシコルスキーめがけて放たれた。
プレジデント・デューク：回避だ！来い、シュウゴ！
クレア：は…はい！
シュウゴ：おっしゃあっ！！
クレアは先ほどの狙撃で開けた後部格納扉をそのままに、すぐさま回避行動に入った。シコルスキーは迫りくるミサイルを、プレジデント・デュークはバレット狙撃銃で、シュウゴは備え付けの機関砲で打ち落としながら逃げ回った。
エーリッヒ：ちいぃ！ちょこまかとうるさいハエだ！…ん？
急速に接近してる者がいる。まるにゃんを先頭にしたデヴィッド、リサの３人である。
エーリッヒ：『ぬはははっ！死にに来たか！！』
引きつった笑みとともにミサイルの発射用の引き金を引く。
（カチッ…）
エーリッヒ：？？
（カチッ、カチッ）
エーリッヒ：『…弾切れ…！！クズがあぁ！！』
絶叫とともに機関砲の引き金を引く。
（ヒュイー…ズバババババババババッ！！）
たちまち、弾丸の雨が三人に降り注ぐ。先頭を切っていたまるにゃんは、その弾丸をあるいは叩き落とし、あるいはその身に受けて走り続ける。しかし如何せん弾丸の発射間隔が短く、弾幕の密度が凄まじく高い。
（バスバスバスバスッッ！！）
まるにゃん：にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ！！
まるにゃんが、たちまち無数の直撃弾を浴び、すっ転びそうになった。それをデヴィッドが掴まえて盾のようにして、さらに突進する。
デヴィッド：まだまだあぁ！
距離が縮まる。それにしたがって、弾丸の衝撃と密度がさらに大きくなって来る。
エーリッヒ：『死ね！死ね！死ねーーーーぇ！！』
（ヴス！ヴス！）
ついに、まるにゃんの体を突き抜けた弾丸がデヴィッドの体に食い込んだ。
デヴィッド：がはっ…！
鮮血が飛び散り、膝から崩れ落ちかける。
まるにゃん：デヴィッドしゃん！！
リサ：デヴィッド！！
エーリッヒ：『はっはっはっ！…どうやらそこまでのようだなぁ…。』
すでに、まるにゃんの足は衝撃で変形して歩けない。ヘルハインドまで距離はまだある。ここで倒れたら、後ろに続くリサまで殺られる。しかし、…。
デヴィッド：（…だめだ…。前が…。くそお…。）
・
・
・
“…さん、デヴィッドさん…。”
…ああ。…どうしたの？
“あの、その、…弟が、遊びに連れていってくれって…。いいですか？”
“いいよね、兄ちゃん！いっしょにどっかいこう！”
“だめですか…？”
いや…、いいけど。カスミも一緒に来る？
“い、いいんですか？”
あ、ああ。出来ればその方が…。
“ああ、もう！ウジウジしないの、２人とも！さっさと３人で行っといで”
“リサ姉ちゃん！”
“リサさん…。”
“リサ姉ちゃんもこないの？”
“いや、今日は大佐に用事でね…。それに、２人に悪いから遠慮しとくよ。”
“おお、メッカーノ曹長。…いや、ここではリサだったな。私に用かね？”
“あ、大佐。実は明日からの演習の件ですが…。”
“うむ、不備な点があるなら、何なりと言ってくれ。”
だったら俺も…。
“だああっ！あんたはでかけるの！おんなじ事を言わせない！
わ…わかったよ…。
“はっはっはっ。だらしが無いぞ、デヴィッド。”
“父ちゃん！ぼく達、出かけてくるね！”
“たまの休みなのに、デヴィッドに悪いんじゃなくて？”
“お母さん…。”
いや、いいよ母さん、行ってくるから。
“そう？ごめんなさいね…。”
“じゃあ、私、着替えてくるから…。タクヤ、あんたも着替えてらっしゃい。”
“うん！”
“演習の資料は書斎だったな…。行こうか、リサ。”
“はっ！”
“ふふ…。リサ、あなたも家族の様なものなんですから…。そんなに固くならなくてもよくてよ。”
“はい！…いえ、あの、有り難うございます。”
“後でピザを焼いておきますから…。”
……………
母さん…。
“なに？”
…俺。…幸せだよ…。
……………
・
・
・
父さん！父さん！しっかりしろよぉ！なんで…こんなことに…。
“…デヴィッド…。”
喋るな！今、医者を…
“リサを…怨むな…。”
わかってる！わかってるけど…なんで…こんな…。
“そうか…。なら…いい…。死ぬな…よ…。”
父さん？父さん！父さーーーーーん…
……………
・
・
・
“…兄ちゃん。…いやだよ、でてっちゃ…いやだよぉ…。”
……………
“死んではだめ！生きなさい、あの人の分まで！”
……………
“…死なないで…。デヴィッドさん…。”
……………
俺は…俺はまだ…まだ…。…帰る。…帰るんだ…。
……………
・
・
・
エーリッヒ：『ヒャーッハッハッハッ！！止めだぁあ！！！』
（ヒュィイイイン！バラララララララララ！！）
さらに弾幕が激しくなる。だが、３人の周りの空気は時間が停止したようだ。
デヴィッド：俺は…まだ……。
エーリッヒ：『ヒャーッハッハッハッ！』
デヴィッド：まだ…死ぬわけには…いかんのだああああぁっ！！うおおおおおおお！！
リサ：行くよ！！
まるにゃん：いくにゃあああ！！
エーリッヒ：『なにぃ～！？』
激しい弾幕をものともせずに、３人は再び突撃した。
エーリッヒ：『…クッ！ならば！！虫けらに相応しく踏み潰してくれるわ！！！』
ヘルハインドは急降下し、突撃を開始した。３人との距離は見る見る縮まる。
エーリッヒ：『この虫けらがああああああああーーーーーーーーーーーーーっ！！！』
デヴィッド：うおおお！俺は家に帰るんだーーーーーーーーーーーーーーーっ！！！
デヴィッドは残った力を振り絞ってまるにゃんを投げ飛ばした。まるにゃんは空中をヘルハインドの機関砲めがけて一直線にダイブした。
まるにゃん：にゃぁあああああああああああっ！！
（ぐぅわっしぃ！！めりめりっ！！ぼきんっ！！！）
機関砲にしがみついたまるにゃんは、それを根こそぎ引き千切ってしまった。
エーリッヒ：『くそおっ！』
エーリッヒは再びヘルハインドを上昇させようとした。
デヴィッド：リサ！！
リサ：おうっ！！
リサはデヴィッドの背中を蹴って、ヘルハインドの操縦席に跳んだ。破れた風防の前に着地すると、愛用のナイフを構えて一気に操縦席に踊り込んだ。
リサ：くらいな！！
（ダッ！！）
エーリッヒ：ぐぎゃぁああああああああっ！！
とっさに身をかわしたエーリッヒだったが、拘束具が邪魔をして避けきれず、ナイフは深々と肩口に突き立った。元々、リサにはエーリッヒを殺すつもりはなかった。負傷させ、逮捕すればよい。そうでなければ、いくら百戦錬磨の強者であっても、拘束具で動きを阻まれたエーリッヒは、この時絶命していたであろう。
エーリッヒ：小娘が！！
（ガスッ！！）
エーリッヒはリサを弾き飛ばすと、肩口に突き立ったナイフを引き抜いて拘束具を切り、リサに切りかかった。すんでの所でその斬撃をかわし、蹴りをいれる。
（ばきゃあっ！！）
エーリッヒ：ぐはあっ！
エーリッヒが吹き飛ぶと同時にナイフも外へ飛んでしまった。
リサ：しまった！！
落下するナイフを目で追った一瞬、エーリッヒがリサの首を掴む。
リサ：は、放せ、このっ！
エーリッヒ：一人では死なん！貴様も道連れだ！！
既に機体はバランスを失い、失速を始めていた。
デヴィッド：リサ！
まるにゃん：りさしゃーん！
伯爵：だめだ！完全に失速している！
シェリル：そんな！なんとかならないんですか！？
トリーシャ：…リサさん…。
ムーティ：リサさん、死んじゃいけん！
その光景はシコルスキーからも見えていた。
シュウゴ：あかん！墜落する！
クレア：リサさま！
プレジデント・デューク：…。
墜落する機上ではまだ格闘が続いていた。
エーリッヒ：こんな…こんな馬鹿な！この私が…こんな事でええええぇえっ！！
リサ：（パティ、ヒーロ、明夏、デヴィッド、…アリサさん。みんなすまない…。私は…。）
…立つんだ、リサ！挫けるな！！…
リサ：（…大佐…！！）
その時、ヘルハインドは光に包まれた…。
デヴィッド：リサーーーーーーーーー………
・
・
・
・
・
・
……ここは？…何処？
“うわあああああぁ！！！”
……！！！！
“う…あ。あ…。ね…姉さ…ん”
うそ…。夢よ…。あの子が…死ぬわけ…ないもの。たった一人の身内の…あの子が…。
・
・
・
…雨。…寒い。…お腹へったな。…苦しい。もう…ダメ。…どうでもいいや…。
“本当にどうでもいいのか！”
…え…誰だ、あんた？
“だめだ、何て事は自分自身で決める事だ。他人から強制される事ではない。”
…。
“弟の仇を討つまでに、お前が他人の仇になるのは確実なのだぞ。”
…わからない。…私には…わからない。どうすれば…いいんだ…？
“私の職業は死神と取り引きする事だ。…ないにこした事はない。他人の不幸をつくるだけだ”
…でも、私は選んだ…。
・
・
・
“おら！そんなことじゃ、ハエも殺せないぞ！それにその髪！長い髪は格闘のとき命取りだぞ…。女だからといって敵は躊躇しないぞ！”
え…髪、切るんですか…？
“当たり前だ！大佐から聞いたが、仇討ちなんだろう？だったら髪なんてあってもなくても同じだろう？”
…はい…。
“いいかげん、これ以上手間かけると、なんかあっても見殺しにしちまうぞ！”
・
・
・
“だめだ！！俺を置いて早く逃げろ！俺はもうだめだ！”
でも…。どうして…？どうして、私を庇ったんですか…。
“へへ…。お前はグズだったからな…。泣くな…！”
そんな…。いやです…。
“…お前、やっぱ髪、長い方がいいな…。さあ行け…。俺の代わりに生きてくれ…。
いやです…。私…。死んでほしくない…。死なないで…。
・
・
・
…あの人は死んでしまった。…私が非力なために…。
・
・
・
死なないで下さい！息をして！
“…変わってるな…リサ…。俺なんか助けてどうするんだ…。”
そんなことはどうでもいいから！
“…だめだよ。…いつか、リサが死んじまう。こんな事をしてたら…。”
そんな…。
“ああ…。会いたいな…。帰りたい…。”
だめ！しっかりして！死んじゃイヤーーーーー！
・
・
・
“リサ！うしろだっ！！”
え…？…！！（こ、殺されるっ！！）
（ズンッ！！）
“ぐ…。”
（ドサ…。）
…私…人を殺してしまったの…？
・
・
・
“今日はすまなかったな。命拾いしたぜ、リサ。”
まあ、せいぜい恩に着てくれ。
“はっはっはっ！またよろしくな！”
ああ。
“リサ！今度の御前試合に出るんだってな！気合い入れてけよ！”
まかしときな。
・
・
・
私は強くなった…。強く…。
・
・
・
うわっ！なにをする！
（キィイインンン…）
“うう…。”
なんだ…。子供か…？なんで私を狙う！
“お…お前が父さんを殺したんだ！人殺し！！”
え…？
“お前が…。う、うわあああーん。”
………。
・
・
・
この子にとっては…私が…紅月…なのか？
・
・
・
大佐…。やはり、私にはこの仕事は無理のようです…。
“…。そうか…。しかし家に居てくれんか。娘や息子がなついてしまってな…。”
大佐…。
“なに、気にする事はない。人生は一つじゃないんだ。”
・
・
・
“大変です、メッカーノ曹長！大佐と中尉の部隊が魔物の大部隊に待ち伏せされ、包囲されています！どうやら情報に重大な誤りがあったようです。”
なに！
“至急、第二・第三部隊を率いて救援に赴いてください！”
しかし、私は…。
“…事情は自分にも分かっているつもりですあります。しかし、大佐と中尉のいない今、部隊を掌握できるのは曹長しかいません！”
…。
“リサ姉ちゃん…。父ちゃん、死んじゃうの…？”
…心配するな、タクヤ。私が死なせやしないよ。
・
・
・
結局、私は残った。あの時そうせざるを…。いや…。私は、私を必要としてくれる所に居たかった…。
・
・
・
デヴィッド、もういいから私を置いていってくれ。足手まといだ…。
“じゃあ、立場が逆だったら、お前、俺を置いていくのか？”
………。
“お前は部隊の内外関わらず、多くの人を助けている。何の見返りも無しでな。どうせ人生、一度っきり。しかも矛盾だらけだ。そんな仲間のために命を懸けるって事に価値を見出したら、そうしてみるのも悪くないんじゃないか？”
…すまない…。
・
・
・
彼は似ていた。姿形はまるで違うのだが…、“あの子”に。強情で向こう見ずで、それでいて人を思いやる不器用な所も…。
・
・
・
“や…やめてください！”
“いーじゃないの、ちょっとくらい付き合えよ。俺達、近衛部隊の士官なんだぜ。”
“放してください！あなた方、こんな事をして恥ずかしくないんですか！”
“おい！お前ら！！何てことしやがるんだ！！！”
“…デヴィッドさん！！”
“なんだぁ、てめえは！…なんだ、使い捨て部隊の大佐殿の子飼いか…。”
“…貴様！部隊と大佐を侮辱する気か！！俺達の犠牲の上でしか踊れない卑怯者が！！！”
“なにいっ！傭兵の分際で生意気な！おいみんな、やっちまえ！”
……………
おい！貴様ら！なにをしている！！！
“やべえ！リサだ！”
……………
“すまなかった、リサ。”
“ありがとうございます、リサさん。”
いやなに、当たり前の事だ。…でもカスミ、なんで酒場になんか来たんだい？
“あ…。あの…。デヴィッドさんに会いたくて…。”
“…カスミ、もう俺に関わるな…。”
“…！！…デヴィッドさん…。…大っ嫌い！！”
……………
なんであんな事を言ったんだい…。
“…俺の近くにいると、みんな傷つく…。自分の身を守れないあいつにいられると、いつか取り返しの着かない事になるんじゃないか…。そんな気がする…。偽善だよな…。リサやほかのみんなは戦っているのに、あいつだけに無事でいてほしいなんて…。”
私たちはあんたや大佐の指揮だから命を懸けれるんだ。いろいろあったが、みんな自分の意志でここにいる。気にすんな。それに世の中全体から見れば戦わない者の方が圧倒的に多い…。戦い、それ自体に価値を見出す方がどうかしてるよ。
“………。”
いつも隣に居てやれなくても、せめて少しの間、一緒に居てやる事くらいできるだろう？
“ああ…。”
・
・
・
“リサさん…。”
ああ。なんだい？
“あの…。その…。”
どうしたの、カスミ。なんかあったのかい？…まあ、いってごらんよ。何でも聞くからさ。
“…その…。デヴィッドさんのことなんですけど…。”
デヴィッド？アイツなら、あんたの方が、私より付き合いはずっと長いんじゃないか？
“いえ…。よく分からないんです…。小さいころは、私たち、いつもいっしょにいたのに…。最近、あまりそんな事も無いし…。会うたび喧嘩ばっかりで…。私の事、どう思っているんでしょうか？もう、なんとも思ってないんでしょうか？”
…うーん。
“…いえ、そんな事じゃないんです。リサさん…。デヴィッドさんが好きなのはリサさんじゃないんですか？”
ええっ！？
“デヴィッドさん、私といるより、リサさんと居るときの方がよく笑うし…。何でも喋るし。”
…いや、そうじゃないんだ。そうじゃ…。…信じないかもしれないけど、私にとっては、アイツは戦友…一番の親友なんだ。そういうものなんだ。それにね…カスミ。
“…え…？”
…アイツの心はいつだって、あんたに向いてるよ…。
“リサさん…。”
・
・
・
…失恋だった…。でも…不思議だが、私が戦場にいて、カスミが家に居る事も、私の憎悪を掻き立てなかった。カスミはとてもいい子で、私にとっても妹同然だった。それだけでも十分だった。父親がいつも最前線に立って指揮をしていることは、彼女にとっては胸が張り裂けそうな事に違いなかった。
それに、私は２人の気持ちをよく知っていた…。デヴィッドはなんでも私に喋った。友人、酒、家族、女友達…。でも、カスミの事になると急に言葉少なになった。“正直、よくわからないんだ…。”それがいつもの答えだった。端で見ていて、気持ちを持て余しているのがよく分かった。不器用で、ガラスのように脆くて、それでいて強い絆…。ずっと見守っていたかった…。それにやはり、彼は“あの子”を思い出させた…。“あの子”は好きな子に何も言う事ができなかった…。だから、今度は…。
・
・
・
そう言えば、大佐の家にいた者は、全員が血縁関係になかった。デヴィッドに聞いた話では、カスミは赤ん坊の頃に大佐が家に連れてきたそうだ。タクヤはその後に大佐の奥さんが。二人ともその事は知らないと言う事だった。デヴィッド自身は戦火で両親を失い、飢えと孤独に苛まれていた幼少の頃に大佐と奥さんが引き取ったそうだ。
大佐を快く思わない者の中には、“死神が何をやっている”と言う者もいた。また、“戦士なのに、言い訳じみた事をする”と言う者もいた。そう言った連中は、いつも私たちの陰に隠れては戦争を賛美しているような輩だった。しかし、大佐は何も言わなかった。一度だけ、その辺の諸々の事を大佐に聞いた事があった。
“…。私が弁解の義務を負うのは、部隊の者と、この国の人々と、なんの報復手段も持てない民衆と、そして家族に対してだけだ。あんな連中に何も言う必要は無い。それに何故、戦士だからと言って言い訳が許せれないのだ？同情がなぜいかん？命が惜しければ死にたくないと言えばいい。人を愛したければそうすればいい。…たしかに、戦場ではそういった事は出来ん。生き残る事が全てだからな…。だが、こんな事は、言葉の遊びではないのだ。自分がどうあろうとするかと言う事は、戦場の心得とはまた別の事だ。何をどう感じ、どう捉え、どの行為を選び取るか、などと言う事は、その者の自由だ。最終的に何が良くて、何が悪いかなど、結局は誰にも分かりはせん。剣と魔法のどちらが正しいか、等と言う議論に意味があると思うか？大切なのは、自分がどちらを選ぶのか、あるいは選ばないのか、そう言った選択をする事そのもので、選択そのものに善いも悪いも無い。やっていい事と悪い事などは、それ以前の人間の基本的なルールだ。…たしかに私は“死”に多く関わって来た…。しかし、だからといって、何故“生”の側に少しも関わってはいかんのだ？部隊の者の“生”に関心をはらうのと同じ事を、私の手の届く範囲で他にしてもよいではないか。…もっとも、今言った事は妻の受け売りだがね…。”
そう言って大佐は笑った。
“大佐は生と死、善と悪の両面を精一杯生きようとしているのかもしれない。”と、デヴィッドは私に語った。それは奥さんも同じ事だ、とも言っていた。
・
・
・
…やがて戦乱は治まり、私たちはその功によって国の正規軍の一角に名を連ねようとしていた。初めてエーリッヒと言う名前を聞いたのはその頃だった。もう誰も死なないでいい…。紅月を思い出さなくてもいい…。幸福だった。私の心はようやく安堵できる、そう思っていた。だが…。
・
・
・
すごい嵐ですね、おばさま。あちこちで通信機能が麻痺しだしてるようですよ。…それにしても、一体どうされたのですか？急な話って…。
“リサ、よくお聞きなさい…。”
どうされたのですか、おばさま…？…泣いて…？
“…リサ。今日を最後に私たち家族は、離れ離れにならなければなりません。”
一体、どうしたというのです？なにが…。
“もう…二度と生きて会う事やも無いかもしれません…。…リサ。”
はい…。
“私の最後の願いを聞いてくれませんか…。”
いくらでもしてください！最後なんて言わずに…。
“ありがとう…。私はあなたの事を実の娘のように思って来ました…。厚かましいかもしれませんが…。”
おばさま…。
“呼んではもらえませんか？あの人の分まで…。“お母さん”、て…。”
………お母さん…。
・
・
・
その後の事は、…よく覚えていない…。デヴィッドに銃を向けようとする大佐。ナイフの感触…。逃げ出していったエーリッヒの手先。そして、私は嵐の中に飛び出していった。
…また…私…は全てを失った…。
自殺願望者のような生活だった。私を狙ってくる連中に何度も殺されようとしたし、異常に危険な仕事にも手を出した。…だが、その度に生き残ってしまった…。私は長い月日の間、各地をさ迷い、そして遂に力尽きた…。
・
・
・
目を覚ますと、私はベッドの上で寝ていた。窓から差し込む光。柔らかい風。とても居心地のいい空気を感じた。
“あっ！起きたっスね！ご主人様～！”
側に居た黄色い犬のような生物が大声を上げて、すっ飛んでいった。やがて、その生き物に連れられて、一人の女性が現れた。どうやら目が不自由らしい。
“気がつかれたのですね…。気分は悪くありませんか…？”
…私は時を飛び越えたかのような錯覚に襲われた。…母さん…。
“…どうかなさって？”
「いえ…。助けていただいたようですね…。ありがとうございます…。」
“たいしたことではありませんわ…。でも、なかなか目覚められなかったので、心配しましたわ。”
“そおっス！一週間も寝むってたっス！”
「…ここは…何処ですか？」
“エンフィールドですわ。”
…エンフィールド。やはり宿命なのか…。知らず知らずここに近づいていたとは…。
“申し遅れましたが、私、アリサ・アスティアと申します。”
“テディっす！”
「…あ…。リサ・メッカーノです。どうかよろしく…。」
“では…。とりあえず、お食事にしましょうか。”
……………
その後、私はアリサさんの料理をいただく事になった。とにかく旅に出てから、まともな物を食った試しが無かった。“食う”と言うより“食らいつく”と言った方が正確だったろう。私のくいっぷりを見て、テディが呆れていたのを覚えている。アリサさんは、そんな私を見ても微笑むだけだった…。
……………
食後、アリサさんの提案で、テディの案内で街を見まわる事になった。“あの事”さえなければ、本当にいい街だと思えた。出かけしなにアリサさんは、お金と身の回りのものを渡してくれた。その中にナイフもあった。あれを見れば、私だどういう種類の人間か、大体の予想は出来るはずである。しかし、彼女は何も言わなかった。私は久しぶりに心からの安堵感を感じた。
……………
“リサさんはお酒が好きっスか？”
さくら亭と呼ばれる大衆食堂の前まで来た時、テディが急に尋ねた。
「まあ、程々になゥァ��
“じゃあ、ここに入らないっスか？いいお酒があるっスよ～。”
「そんな事言って、自分がなんか食べたいんだろう？」
“し、しまったっス～。ばれてたっスか？”
ニコニコ笑うテディを見ていて、ふいにタクヤのことを思い出した。休みになると、よく遊びに連れて行ったっけ…。
「まあいいや。入ってみるか。」
“ういっス～！”
（ガシャーン！）
“エカーさん、自警団に知らせよう！”
“わかった、石神さん！”
音と同時に店の中の客が飛び出てくる。
「何だ？」
“また誰か暴れてるっスか？”
私たちは店の中にはいっていった。屈強な戦士風の男が５人、店の者と口論している。
“あんたたち！なんてことすんのよ！酔っ払って人に絡むなんて、最低よ！”
髪の短い勝ち気そうな嬢ちゃんが叫んだ。でも言葉とは裏腹に、足が小刻みに震えている。…無理もないか。
“その通りだ！いい歳して、やって良い事と悪い事の区別もつかないのか！”
嬢ちゃんのとなりにいた少年が、彼女を守るように半歩前へ出た。…昔、これと似た光景を見たことがあるな…。
“ああっ！どこにいるかと思ったら、こんな所で油を売ってたっスか！”
「何だ？あのボウヤ、テディの知り合いかい？」
“ういっス！うちの居候っス！”
「ふーん…。」
“そ、そうです。辺境保安連隊だからって、無法が許されるわけじゃあありませんよ！”
嬢ちゃんの後ろに隠れるようにしていた華奢な男の子がいった。見覚えのある顔だった。まさか…あれは…“あの子”…なのか？…まさかな。
それにしても、辺境保安連隊とはやっかいな…。多分どこかの町に行く途中だったのだろう。自警団などの保安機構を持たない辺境の警備のため、国家間の垣根を越えて編成された、強力な装備と法権限を持つエリート集団…。それだけならいいのだが、中にはとんでもなく悪どい奴も居て、その街に居着き“私刑団”などと名乗る事もあると聞く。
“それがなぁ～、そうでもないんだよ。俺達には即時逮捕と簡易行政執行の特権ってのがあって、まあ言ってみりゃあやりたい放題なわけよ。”
“それに俺達は緊急事態って事で、この街のブラグッツアさんの私刑団と合流する事になっているのさ。当分はここにお邪魔するぜ。”
“私刑団？”
サッと嬢ちゃんの顔色が変わる。噂に違わぬ悪党ぶりらしい。こんな奴等に法の執行権を与えるなんて狂気の沙汰だ。
“まあ、長い付き合いになるんだし、どうだ姉ちゃん。俺達と付き合わない？いい夢見さしてやるぜ～。”
ゲラゲラと野卑な笑い。中の一人が嬢ちゃんににじり寄っていく。
“こ…来ないで！”
“俺達の言う事聞いてくれないと、この店、潰れちまうかもよ？”
“…そんな…！”
カスが！…でも私には躊躇があった。あの後、いつも居場所ができかけると、きまってトラブルが起こる…。そして、出て行かなければならないと言う繰り返しだった。
男の腕が伸びて嬢ちゃんの腕をつかむ。
“…は…放して…！”
“おい！止めないか！”
アリサさんの所の少年が割って入ろうとする。とたんに男の腕が一閃して、少年を叩きのめした。
“わーっ！ヒーロ！！”
“ヒーロさん！！”
嬢ちゃんとその後ろにいた男の子が叫んだ。男は崩れ落ちかける少年、ヒーロの髪をつかんで彼の顔に膝蹴りを叩き込んだ。さらに倒れたヒーロ目掛けて何発も蹴りを入れる。
“や、やめてよぉ！”
“あの子”に似た男の子が男に飛び掛かったが、殴り飛ばされてうずくまってしまう。
私は迷った…。私は…。私は…。
“もうやめて！何でも言うこときくから！！もう、やめてえええーーーっ！！”
嬢ちゃんがヒーロに覆い被さって叫んだ。それでも男は狂気に取り付かれたように２人を蹴り続ける。
“わ～ん！ヒーロさんが！パティさんが！ヒーロさんとパティさんが死んじゃうっスよ～！！リサさ～ん！！ヒーロさん達を助けてください～！！”
……………
（“リサ姉ちゃん…。父ちゃん、死んじゃうの…？”）
……………
遠くでそんな声が聞こえた。あの時、私は…。
“やめてぇーーっ！！”
嬢ちゃんの泣き叫ぶ声が耳に入って来た時、私の中で何かが音をたてて切れた。
私は男に近づいていき、奴の振り向きざま、こん身の拳を叩き込んだ。
・
・
・
（バカァアアアアアーーーーン！！）
拳が爆発したような手応えだった。血ぶくれになった男がゆっくりと倒れていく。だが、その程度でこいつを許してやるつもりはない。その腕をとって引きぬきざま、踵を顔面に叩き込んだ。
（ゴキャゥァ�
男はピクリとも動かなくなった。まあ、死ぬことはないだろう。それまでニヤニヤしていた残りの連中が、顔色を変えて立ち上がる。
「なにやってんだい！早くそのボウヤを連れていきな！」
“はっ、はい！”
嬢ちゃんはヒーロを引きずって店の角へ避難した。
４人が私を囲んだ。いくら私が物好きでも、４人一緒に相手をするほど馬鹿じゃない。いい動きだが、全くの教科書道理だ。私は無造作に一人に近づいた。そいつの放った拳を捌（さば）いて、かかってくる二人に投げつけた。３人はもんどりうって倒れた。残る一人にすばやく近づき、蹴りを捌きざま側面に回り、腕の関節を極め、へし折った。
（クキャリ…）
そして膝蹴りで動きを止め、続けざまに止めの上段蹴りを顔面に叩き込む。歯が目茶苦茶に折れて、顔中を血だるまにしてそいつは倒れた。
…何故、そこまでやったのか。私は何かとても大事なものを、踏みにじられたような気がしていた。
倒れていた３人が起き上がると同時に、店のドアがバーンと開けられた。
“うお？なんや、これは一体？”
“あ！カズマイヤー！その男達、強盗よ！”
“なんやて、パティさん！ほな、いくで、楓はん！”
“つっしゃぁあああ！！”
ほぼ事実どうりの説明を受けて、その２人は買い物袋から特大の大根を取り出すと、連中に躍り掛かった。
（バアッキャアアアアアア！！）
１人が頭をかち割られてのた打ち回った。連中の気がその２人に向いた隙に、私は残る片割れの股間を思いっきり蹴り上げた。
“ぎにゃあああああああっ！！”
その時、残った一人が獲物に手をかけ、なにを思ったか部屋の角にいる２人に狙いを定めた。…ボウガンだ！
“ひいぃっ！”
嬢ちゃんが引きつった悲鳴を上げてヒーロの頭を抱きかかえた。
（シュバッ！…ヴス…）
私の二の腕に激痛が走った。ボウガンの矢は、２人の前に飛び出した私の腕を貫通していた。
（アのフタリをコロソウトシタ！ヒトがコロサレル！！）
「ぬ…。ぐ…！きさまぁ！！」
腕に突き刺さった矢を無理矢理引き抜く。鮮血が床板をぬらした。私は腰のナイフを抜き、一歩一歩、男に歩み寄った。。
“………！！”
周りの空気が凍り付くのを感じた。私は殺意に支配されはじめていた。敵をコロス。ワタシとナカマがイキノコルタメニ…。
男は腰を抜かしてし、壁の方へ後ずさっていった。
“リサさん！止めるっス！人殺しになっちゃうっス！”
テディが私の腕にしがみついた。だが、私は歩みを止めず、男を壁に追いつめた。
「放せ…！！こんな奴…！！」
“やめるっス！！！”
その大声に、私は思わずテディを見た。…テディは泣いていた。
“リサさんが人殺しになっちゃったらゥゥ椒�發桓膺様佑眸瓩靴い奪后帖��
…そうだ…。どんな理由があっても、助けてくれたアリサさんとこの子を悲しませてはいけない…。私はナイフを逆手に持ち替え、男の首横の壁へ突き立てた。
（ガスッ！）
「…二度と私の前に現れるな…！」
男は気を失い、失禁した。
“オラ！暴れてるってのは一体誰だ！うっ、うわ！なんだこれは！”
扉が開いて爆発頭のでかい男が現れた。
“おう、アルベルトはん。ええとこに来た！”
“おそいぜ～！”
“こ…こいつら、辺境保安連隊じゃないか！誰がこんな強者を…。カズマイヤー、楓、まさかお前らか？”
“いや～、わてらは状況から察して一人ばかしをのばしただけなんやが…。”
“あとは、あの女性が一人で…。”
“…？一人でか？すごいな…。と、とにかく、本部で事情聴収を…。”
“待って！この人、私たちが絡まれてたのを助けてくれただけなの！”
“…まさか…リサさん？リサさん！”
“明夏、あんた、この人を知ってるの？”
……………
終わったな…。また出て行かなくっちゃな…。
・
・
・
いつもそうだった…。あの後、よかれと思ってやったことは、全てが裏目に出た。私の名前の上には、いつも“傭兵隊長”や“傭兵戦士”と言った文句がついた。私はなりたかった…。ただの、リサ・メッカーノに…。
でも、そんな私を誰か必要としてくれるだろうか…。落ち着こう、忘れようとしても向こうからやって来る。街のワルどもを叩き出しても、わずかな金銭とともに追い出される…。それさえあった方がましなくらいだった。ある時は利用され、ある時は使い捨て同然だった…。
帰りたい…。でも、もう帰れない…。あの頃には…帰っては…いけないんだ。
・
・
・
“リサ…！！”
え…？誰だあんた…？
“リサ！お前はこれから…”
なに？聞こえない…。あなたは…誰…？
・
・
・
“まあ、あれだ。とりあえず、なんか食え。…一応、それなりの物は持って来た。”
「…ああ。すまない…」
傷の手当てを受けた後、私は自警団本部の部屋にいた。まだ本格的な取り調べには入っていなかった。まあ…なるようになるさ…。
“もうじき、アリサさんが迎えに来るはずだ。身元引受人として願い出てる。”
「…え…？」
驚いた…。何故、あの人がそこまでしてくれるのだろうか？
“隊長が言ってたが、多少のやりすぎがあるにせよ、無罪放免ってとこだろう。”
「…何だって？」
私は自分の耳を疑った。無罪放免…？
“あんたがブチのめした連中は、札付きのワルでな。証拠も集まって、もうじき御用ってとこだったんだ。俺達の仕事をあんたがやってくれたんで、本当は礼で言わなきゃならん所だ。”
この街の自警団は豪胆なのだろうか。それとも頭のネジが、少し緩みぎみなのだろうか。そういえば…。
「あの子達はどうなんだい？」
“ああ。ヒーロは骨折と打撲だが、命に別状はない。他の者は軽い打撲だけだ。…。あんたが居なかったら、俺達がつく前にもっと酷いことになってたかもな…。”
ドアがノックされて初老の体格のいい男が入って来た。この男、もしや…？
“あ、フォスター隊長。いま説明を終えたところです。”
やはりあの、リカルド・フォスターか…。大佐の言っていた…。
“アル、表にアリサさんがいらしてる。メッカーノさんを送ってあげてくれ。”
“は、はい！喜んで！”
“先に行っていてくれんか？少し、メッカーノさんに話があるのでな。”
“はい！わかりました！”
なぜかアルベルトは喜んでスタコラ行ってしまった。そして…
“さて、メッカーノさん…。私はあなたを少しだけだが存じ上げている。”
「……。大佐ですか…？」
“そうだ…。いずれ、大佐との事については色々と話さしてもらうが、今日は一つだけ…。このナイフだが…。たぶん、大佐はこう言ったはずだ。”………
・
・
・
そうだ！あのナイフ！あの嵐の晩の前、大佐が私にあれを渡して何か言ったんだ…。なんて言ったんだ…？あの時は、意味がわからなかった。…何か、大切なことを…。
・
・
・
“メッカーノさん…。その時の大佐の言葉が分かる日がきっと来る…。それまで、どうか早まった行動はしないでいただきたい。大佐もそう思っているだろう。”
「………。」
“メッカーノさん？”
「リサ…。リサと呼んでください」
“…わかりました。リサさん。”
・
・
・
アリサさん達と帰る途中、私はわがままを言って、病院にいるボウヤ達に会わせてもらった。
“い、痛いよ。もういいから、家に帰れよ、パティ…。”
“だめだったら！あんたを放って帰るわけにいかないじゃない…。”
病室に入っていくと嬢ちゃんがボウヤの氷嚢を取り替えて、ハンカチでボウヤの顔の血を拭っていた。…本当に似ているな、あの２人に。素直じゃないとこまで…。私は思わず笑ってしまった。その笑い声に２人が気づいて、私の方を振り返った。
“あ…。あの時の…。ありがとうございました。本当に助かりました…。”
“パティ、この人が俺達を助けてくれた人？”
私が見ていたのが恥ずかしかったのか、２人とも少し顔を赤らめた。
「いや、いいさ。…ちょっと、いいかい？」
私はそう言って空いている席に腰掛けた。
「私は、リサ・メッカーノ。旅のもので、今、アリサさんの世話になってる。あんたたち、なんて言うんだい？」
“私、パティ・ソールです。”
“俺はヒーロって言います。”
「パティにヒーロか…。これからよろしくな。」
私はヒーロに向かって言った。
「なあ、ヒーロ。あんた、あいつらに勝てると思って突っかかったのかい？」
ヒーロは黙っていたが、しばらくして口を開いた。
“…そうは思ってません。でも、あいつらを放っておいたらパティが…。”
そこまで言うと黙ってしまった。
「あのままだったら、あんた、死ぬか取り返しのつかない怪我をしてたんだよ。そんな事になったら、アリサさんやこの子がどんなに悲しむか…。それくらいわかるだろう。」
ヒーロはうつむいてしまった。
「戦うだけが能じゃない。土下座して謝っても、この子を連れて逃げてもいいじゃないか。」
…しかし、言いながら私にはわかっていた。どうしても避け難い火の粉もあるという事を…。
「…でも、どうしてもだめだった時のために…。どうだ、私の技を身につけてみないか？」
トラブルの種を持ち込むだけかもしれない。…でも、私やデヴィッド出来なかった事を、この子にやらせてみたいと思った。誰からも愛され、誰も傷つけず、そして力強い存在に…。無理な事はわかってる。でも、この子ならやり抜ける…。２人がデヴィッドとカスミに似ていた事もあったろう。それに…私の何か、生きた証を今の内に、より良い形で残しておきたかった…。
“いいんですか…？”
「ああ。但しきついぞ。手加減はしない。しかも、仕事の終わった後にだ。」
“お願いします！なんなら、今からでも…！”
“バカッ！あんた、なに言ってんのよっ！”
パティが大声で叱り付けた。…ふふ。本当に似てる…。
「…なあ。…２人とも。」
“え…？”
“何ですか？”
私はどうしても２人に言っておきたかった…。
「素直なのはいい事だと思う…。不誠実なよりもな…。でも、相手が何でもかんでも分かるわけではないんだ。自分の気持ちが分からない時は、せめて相手を傷付けないように心がけろ。でないと、言いたい事を言った挙げ句に、取り返しの着かない事になる。…いつかお互いに分かり合える時が来ると思っていても、時の大きな流れに、道を閉ざされてしまうかもしれない…。だから…、無理な事だが、後悔しないような選択をしろ…。…いいな？」
“…はい。”
“…ってみます。”
「…そうか！じゃあ、その証拠に私の前で、お互いに“ありがとう”って言ってみな！」
“…あ、ありがと…”
“ああ。…あっとその…。ありがとう”
・
・
・
再会は突然だった。
私はデヴィッドの目を見て思った。
（………！！殺される！！！）
しかし今思えば、あれは私自身の脅えを写す鏡だったのだろう…。
“…どうして、どうして殺し合わなければならないんですか…。どうして…。”
一方的に、殺意をむき出しにする私を止めたのは、明夏だった。
この子も、見なくてもいいものを、多く見てきたに違いない。
…私はいつまで過去に追われるのだろう…。
・
・
・
アリサさん…。
“どうしたの、リサさん？”
アリサさんは、私の過去が気になることは無いんですか？
“…私はね、今のあなた、私の中に居るあなたを、大切にしようと思っているの。”
…アリサさんの中の私…？どういう事ですか？
“他の人のことを完全に把握するなんて、不可能だわ…。自分自身でさえ、よくわからない事の方が多いもの…。たしかに過去は大切だわ…。でも、人は変わる。良くも悪くもね…。それなら、むしろその人の今を、ありのままの姿で見る方がいいのじゃないかしら。”
…ありのままの、私…。
“それにね…。あなたがあそこまで人に優しくなれるのは、あなたの体験が無くては出来ない事じゃなくて？”
………。
・
・
・
“たいへんです～、ストライカーさ～ん！逃げ遅れた子どもがいるんです～！”
“ええ？本当ですかセリーヌさん！！”
“ええ～。それがよりにもよって～屋根裏部屋みたいなんです～！”
屋根裏部屋だね？私が行くよ。
“あ！リサさん！でも火の手が強すぎます！ここは俺が…。”
ばかっ！あんたは、この子の側にいてやんな！
“私が目を離したばっかりに～…。”
心配すんな！あんたが後悔する様な事にはしないよ！！
・
・
・
もう…誰が悲しむのも見たくない…。死ぬのは私一人で十分だ…。
・
・
・
“清算できない、解答が出ない、理屈が分かっていても感情が許さない、そんな問題や過去は数多くあるんじゃないかしらね～。解決しないまま置いていても、いい事もあるんじゃないかな～、と私は思うんだけど…。”
でも由羅、あんたその事で苦しみ続けないかい？
“ん～…。実はね、私、リサの悩んでる事…何と無く分かるんだな～。私はゴハン食べるために、人に言えない事、いーっぱいしてきたから。もし私が、その事一つ一つに償う必要があるなら、１００回死んでも償い切れないかなあ～…。それに、メロディの気持ちとか、よく分かるし…。
………。
“…でもね。ふふ。……でも。…う。…で、でも…う、ううう…。”
由羅…。つらいならもう良いよ。…なにも思い出すな。
“…ううん。わ、私ね…。心から安心できるようになったの、ついこないだなの…。追い回される不安も、ゴハンの心配も無くて…。クリスくんや他のみんなにも心配してもらって…。…メロディに、お姉ちゃん、って言われるたびに、ああ、私、…わ、私なんかでも幸せになれるんだなぁって…。”
………。
“だからね…私、リサがそうしているのを見ると、すごく辛い。もしリサの問題に解答が出てしまって、そしてその結果、死ぬ事になったら…そんな辛い事…無いじゃない…。いいえ、私だけじゃないわ。きっと、アリサさんや、ヒーロくんやパティちゃん、それにリカルドさん…みんな悲しむわ…。だから…死んじゃだめよ…。”
…うん…。
・
・
・
（ヒーロは強くなった…。大事なものを守るために…。私の猛特訓を受けて見事な、そして私の思い描いていた通りの強い人間になった。
その成果の確認にヒーロは武闘会に出場した。フォスターさんや最強の挌闘家マスクマンこそエントリーしていなかったが、例年通りのハイレベルな大会だった。
傷つき、何度も倒れそうになりながら、それでもヒーロは戦い続けた。後半戦に入った時、ヒーロの体はボロボロで、もう戦える状態にはなかった。それでも前に進み続け、私が教えた以上の技を繰り出した。そして、最後の試合に這い上がった。
決勝戦の相手はレオン。こいつはその気になればマスクマン以上の実力を発揮する力量がある。はっきり言えば、勝算など無いに等しい戦いだった。もしかすると重傷を負うかもしれない。だけど、私は止めなかった。ヒーロが戦う事を選んだのだ。少しでも勝利に繋がるアドバイスをして、私はヒーロを送り出した。嬢ちゃんも半分泣きながら応援していた。
試合は一方的な展開だった。しかし、ヒーロはレオンの斬撃を死に物狂いで捌き、魔法の影響を最小限に食い止め、勝機を待った。そして試合終了直前、一瞬の好機が到来した。ほとんど同時に二人の剣が交錯する。一瞬の静寂。…そして奇跡は起こった。
だが…。ヒーロが優勝したとき、前の試合で“可哀相な相手”に負けてやらなかった彼に観客の非難が集中した…。）
“あんたたち！なんでヒーロにそんな酷い事を言えるの！”
“パティ、もういいよ…。”
“よくない！ヒーロはね、正々堂々、戦って勝ったんじゃないの！そ、それを、相手が可哀相だからって言うだけで、なんでそんなに非難するの！第一ね！ヒーロはお金の為だけに戦ったんじゃない！お金なんかが欲しくて…。…どうしてみんなは信じてあげられないの！！”
（ヒーロは放っておいても賞金全額を“可哀相な相手”に寄付してやったろう。仮にそれで自分の再審請求の道が永久に閉ざせれたとしてもそうしただろう。アリサさんも止めなかっただろう。嬢ちゃんはそれが言いたかったのだ。…でも、嬢ちゃんがそういっても、罵声と非難の声は激しくなるだけだった…。）
……………
“…もし、あんたの味方が誰もいなくなっても、わ…私だけは信じてるから…”
“パティ…。”
ボウヤ。よくやったな。あんたは私の誇りだよ…。
“リサ…。で、でも…。う…。”
ほらっ！嬢ちゃんが見てんだよ！男が情けない顔をするな！
“…。く…。わ、わかったよ…。だ、大丈夫っ！リサ！パティ！本当に…ありがとう…今まで…色々…。ま、また明日からよろしくな！”
“そ、それじゃ、三人で帰ろうよっ！今日はお店で祝賀会やるからさっ！”
…観客はまだ闘技場にいるのかい？
“ああ…この後、色々とセレモニーがあるらしくってな…。”
…悪いな。私はちょっと野暮用があってな…。先に帰っててくれないか…。
“リサ？”
……………
こらあああっ！！！！！おまえらああああっ！！！！あの子達に、なんて思いをさせるんだい！！！！おまえら！一体、何しにここへ来たんだあ！！！いつも塀の外ばかりにいて！！！一度だってその中に入った事があるのかあっ！！！闘う者の苦しみや悲しみなんて！考えた事があるのかっ！！！文句のある奴は！今すぐここに降りてこい！！！私が相手だ！！！ボウヤや嬢ちゃんが許しても！！この、私が許さない！！！！
・
・
・
“リサさん、あなたは、自分が死ぬ事が問題の解決方法と思っている様だけど…。これから人に必要とされ、人から愛される様とする事は、復讐しようとする人に殺される事に比べて、そんなにも劣る事なのかしら？”
…でも、私のやっている事は、単に自己満足だけのような気がします。もし、私を殺したい人間が目の前に現れた時、私は必要とされているから死ななくて良い…なんて思えるための…。
“嘘がやがて本当になり、夢だった事が現実になることだってあるでしょう？どうして生きる方が間違いで、死んでしまう事の方が正しいなんて言えるの？”
…ごめんなさい、アリサさん。でも、私は…まだ…信じれない…。
・
・
・
“リサよ…。”
なんです？カッセル老…？
“お前の選択の結果を審判するのは、お前自身じゃぞ。”
………。
“だれも保証してはしてくれん。だれもお前の代わりはしてやれん。お前が自分自身で判断するしか無いのじゃ！”
………。
“それにな、この街にはお主を慕う者が大勢いる…。今、お前が復讐者の刃に倒れれば、今度はその者を許さぬ者が出て来るだろう。”
・
・
・
“あなたは、本当に人が死ぬ事を望んだの？”
………いいえ。
“あなたは、人が幸福になるのを望んでいないの？”
………いいえ。
“私の言うこと…信じれます？”
………はい。
“なら、これだけは信じて。あなたは、私にとって大事な人ですゥァ��
・
・
・
“…リサ…。リサ…。”
あなたは…。一体、誰なんだ…？
“リサ…。お前のこれからの道は長く険しい…。これからの戦いは、剣によるものより、困難で苦しいものになるだろう。１人では、恐らく力尽きる事になるだろう…。”
……あなたは！！大佐！！
“だが、そうなりかけても、１人では乗り切れんものでも、助けがあれば生き延びれる…。かつて我々がそうだった様にな…。いいか、お前の問題は決して一人では解決できない。”
………。
“振り返るな…。そうするのはまだ先だ。”
………。
“…お前がこれから戦うのは、金のためでも、地位のためでも、名誉のためでもない。国のためでも、主義信条のためでもない…。ただ、自分自身と自分の愛するもの、その為だけに戦うのだ。…いずれは、それが他の事に繋がっていく…。”
………はい。…大佐。
“これを持っていけ…。その事を忘れん為にな…。きっと役に立つ。”
・
・
・
“…リサ…。”
母さん…。
“…リサ。行きなさい。…あなたの愛するものの所へ…。”
・
・
・
……………
デヴィッド：リサ…！！おい！リサ！！
リサ：…え？
シェリル：よかった！気がついたんですね！
クリス：よかった～。
リサが目を覚ましたのは、大陸横断鉄道のエンフィールド駅の中、担架の上だっただった。側でシェリルとクリスが治癒の魔法をかけている。
トーヤ：もう大丈夫だ。心配ない。
リサ：…みんなは？
伯爵：大丈夫。みんな無事だ。おお、いかん、いかん。もうじき朝だな。では、私はそろそろ失礼する。早く帰らんと、またラミカとティナがうるさいからな。
りんの：妹さん達にちゃんと定期検診、受けるように言ってくださいね！
アレフ：出来れば、従妹のティナちゃんを紹介してくれよ～。
伯爵：わかったわかった。では諸君、また共にに戦える時を楽しみにしているぞ！…といっても、また明日、かんぱにーに出勤するだけだがな…。さらばだっ！！
すでに伯爵の姿はなく、一匹のコウモリが飛び立っただけだった…。
夜が白みだしている。現在は自警団が負傷者の手当てと事後処理に当たっている。駅は人でごった返していた。轟音を立てて、シコルスキーが駅前に着陸した。
リサ：…私は…なんで助かったんだ…？
シュウゴ：社長が墜落して炎上しいた機体に飛び込んで、引きずり出したんや。いやー、社長！ええとこありまんな！オレを無理矢理ヘリから突き落とした人間とは思えまへんで！
シュウゴ、クレア、プレジデント・デュークの３人が、シコルスキーから降りて近づいて来た。
リサ：…そうなのか…。…すまなかったな、プレジデント。
プレジデント・デューク：…気にするな…。…俺の仕事だ…。さて、帰ったらコロッケだったな…。
シュウゴ：うげっ！！
？？？：しゃちょうのお・じ・さ・ま～☆
ピンク色の気配をまとった突風が、そんな声とともにプレジデント・デュークに抱き着いた。
シュウゴ：ロロロロロ、ローラ？
その光景にシュウゴとクレアはおろか、その場に居合わせた他の者までが、ほとんど亜光速で飛びすさる。プレジデント・デュークとローラは、ほとんど親子といっていい年齢差である。しかも、プレジデント・デュークは鬼のようにいかつく、ローラの方はほとんど童女である。この奇怪極まりないコントラストは、この場の誰をもってしても理解不能であった。…まあ、由羅であれば、“いいんじゃないの～？別に誰に迷惑かけてるワケでもないし～。”というだろうが…。
ローラ：ねえねえねえ。おじさまぁ。だいじょうぶ～？けがはない～？
その問いに、プレジデント・デュークは相変わらず表情を崩さずに、顔を赤らめて一言。
プレジデント・デューク：…ああ…。
周りの者は既に全員、ぱららいず＆すとーん状態である。
シュウゴ：そそ、それにしてもローラ。今日は“連れてって～”も“なんか買って～”もないんやね…。
クレア：そ、そうですわね…。なんだか、ローラさんらしくありませんね…。
辛うじて立ち直った２人がそう言う。
ローラ：もうっ！２人ともぅ、しぃつぅれぇいねぇっ！！しんじつのふぃあんせには、れでぃはそんな事いわないのっ！それじゃぁ、まるでわたしが毎日おねだりしてるみたいじゃないのよっ！！…そりゃぁ、“たまに”はおじさまにあちこち連れて行ってもらうけど…。
シュウゴ：…それは“たまに”じゃなくて“まいにち”の間違えやな…。
ローラ：へへへっ。
悪びれもなく、コロコロと笑う。
シュウゴ：社長～っ！そんなカネがあるんやったら、装備か給料にまわしてくださいよぉ～っ！
プレジデント・デューク：…また今度だ。
こりゃダメだ、と思ったシュウゴがボソッとつぶやく。
シュウゴ：（…ええ歳して、なんちゅう変な趣味や…）
（どばきゃあっっ！！）
シュウゴ：うげぼおっっ！！
とたんに、プレジデント・デュークの鉄拳がシュウゴに炸裂する。シュウゴはその一撃で完全にのびてしまった。
ローラ：おじさま～。こんどはねぇ～、れっしゃに乗って、いっしょに旅行がしたいなぁ～。
プレジデント・デューク：…わかった。手配しておく…。
ローラ：わ～いっ☆
血反吐を吐いて伸びているシュウゴを他所に、プレジデント・デュークとローラは幸せそうに寄り添い、博才号に乗って去って行った。他の者は、シュウゴの身におきた不運が、よく自分に降りかかって来なかったと胸を撫で下ろし、神に感謝した。
のびているシュウゴをクレアが助け起こす。
クレア：ねえ、シュウ様。今度、私に“ぴすとる”の扱い方を御教授願えませんか？
シュウゴ：…え？いやあ…はっはっはっ。照れまんなあ！そんなことやったら手取り足取り…。
クレア：これで兄をいぢめる新しい方法が見つかりましたわ♪
シュウゴ：…。
ムーティ：さて…。ワシは病院に行ってくるでごわすよ。
シュウゴ：大丈夫かいな、ムーティ？
ムーティ：なに、この通りピンシャンしているでごわすよ。
シュウゴ：…全身、包帯だらけで、心配しない方がおかしいと思うんやが…。
まるにゃん：にゃ～…。“へりこぷたー”が落ちてしまって、メロディちゃんにあわす顔が無いですぅ…。
いつになく、ションボリとまるにゃんが言う。
シュウゴ：なんや！そんなことやったら、うちのシコルスキーに今度乗ったらええがな！ずいぶんと助けられたようやしな！
クレア：その時は、私もお供しますわ♪
シュウゴ：…うれしいような、悲しいような…。
まるにゃん：ほんとですかにゃ～！かんげき～！メロディちゃん連れてくるですぅ！
シュウゴ：…ひょっとして、由羅屋敷の連中が、大挙して押し寄せて来るんやないやろな…。
ヘリの中で宴会などやられたら、たまったものではない。
由羅：はぁ～い☆お・ま・た・せっ。
メロディ：うみゃあ！おまたせですぅ！
シュウゴ：…。もう来よったで…。
やって来たのは狐の耳としっぽを持つライシアン族の女性、橘由羅と、ねこみみ少女メロディ・シンクレアの二名である。
由羅：聞いちゃったわよ～ん。空で宴会なんて素敵じゃない～。シュウゴくんも結構イイとこあるじゃないの。
メロディ：うみゃあ！素敵なのですぅ！
シュウゴ：…。…あー、由羅にメロディ、最初に言っとくけど…。
ゆーき：あのー、シュウゴさん？ちょっといいですか？
シュウゴ：おお。ゆーきくん。どないしたん？
振り返ると、そこにはまだ少しびっこを引いているゆーきが立っていた。
ゆーき：（あのですねぇ…。ヘリコプターでの宴会、何とか出来ませんか？）
シュウゴ：（そら無理やで…。幾らなんでも、今度ばかりは死人が出るで。）
酔っ払った勢いで、パラシュートも何も着けずにスカイ・ダイビングなど決行されたら、それこそ大変である。しかも、由羅屋敷のメンバーはそうする可能性が非常に高く、ほぼ確実といっても差し支えない。
ゆーき：（そこら辺は、ぼくが何とかしますから…。）
シュウゴ：（でもなぁ…。）
ゆーき：（…。もし、やってくれなかったら、気絶してた時に言ってた寝言をクレアさんにばらしちゃいますよ。）
シュウゴの顔色が一瞬にしてパーフェクト・ブルーになる。
シュウゴ：（なななななな、何か言うてたん？）
ゆーき：（はい。ええっと、クレアさんに○○○して、×××までして、挙げ句の果てに※※※までしちゃうとかなんとか…。）
シュウゴ：…。さて、やはり女性の意見は尊重するという事で…。あー、由羅にメロディ、幾らでも宴会をしてくれてええからね。
由羅：さっすが～。はなせるぅ～。
メロディ：はなせるですぅ！
ゆーき：メロディちゃんの意見を尊重してもらえてうれしいです。ありがとうございますっ！
シュウゴ：なーに。いいってことよ。あははははははははははは…、はぁ…。
生気の無いシュウゴは力なく笑った。しかしすぐ、真顔になって、
シュウゴ：（えーね、ゆーき君。その件はくれぐれも内密に…。）
ゆーき：（はいっ！）
シュウゴ：（…。ゆーきくん、最近、まるにゃんに似てきたね…。）
そんなやり取りを担架の上で聞いていたリサは、ふと大事な事を聞き忘れている事に気がついた。
リサ：…そう言えば、エーリッヒはどうなったんだ。…死んだのか？
デヴィッド：いや…。死体は見つからなかった…。
シュウゴ：まあ、あいつがそう簡単にくたばるワケはあらへんしな。
リサ：…そうか。
そう言って、リサは辺りを見回した。
マリア：ちょっと！二人とも！なんで急にエンフィールドに帰っちゃたのよ！
ティツィー：え…？でも、“用なしは宅急便でエンフィールドに送っちゃうからね☆”って…。
マリア：ちがうわよ！“２人に買ったお土産の洋梨は、宅急便でエンフィールドに送っちゃうからね☆”って言ったのよ！第一、２人ともよく荷物になれたわね！
ミッチー：な、な～んだ！そうだったんだぁ！道理で変だと思ったよ～！
ティツィー：…なら、もっと早くそう言えよ…。
少し離れた所では、
トッキー：ヴァ、ヴァネッサさん…。今度どっか、お食事に行きませんか？
引きつった笑みでトッキーがそう言っている。
ヴァネッサ：…いいよ。どこにするんだ？
トッキー：ほ、本当ですか？
それを横目で見ていたアレフがぼやく。
アレフ：あ～あ！いいな～！
並四郎：いや、しかし今回は君を見直したな、アレフくん。やる時はやるんだな。
アレフ：まあな？
並四郎：ワシと一緒に特訓して、今度の大会に出ないか？
アレフ：…悪くないかもな。
２人の前を、担架に乗せられたトリーシャが運ばれていく。
シェリル：こっちです！リカルドおじさま！
リカルド：すまない、シェリルちゃん。トリーシャ！
トリーシャ：…お父さん…。
リカルド：すまない…、助けにも行ってやれないで…。私が余計な事を言ったばかりに…。
トリーシャ：うんん…。お父さんには、お父さんしか出来ない仕事があるし…。それに、これはボクが行くって決めた事だもん…。もう…傷も治ってるし…、気にしないで。…ねえ、お父さん…。
リカルド：…なんだ、トリーシャ。
トリーシャ：ボク、お父さんや、みんなの役に立ったよね…？
リカルド：…ああ。立派だぞ、トリーシャ。
そう言ってリカルドは自分の娘を抱きしめた。それを遠くで見ていたアルベルトにアリサとテディが近づいてきた。
アリサ：アルベルトさん…。お怪我、大丈夫ですか？
テディ：ご苦労様っス～！
アルベルト：ア、アリサさん！い、いえ！こんなもの怪我のうちには…いててててっ。
アリサ：無理しないでくださいね…。よくなったら、また家にいらしてください。アルベルトさんなら何時でもお待ちしていますから…。
アルベルト：ははっ、はいっ！！
アリサ：ふふふ…。
ピート：ああっ！おばちゃん！俺にも何かくわせてよ！
新月が過ぎて元気になったピートがそう言った。
アリサ：もちろんよ。ピートクンは今からいらっしゃい。
ピート：わーいっ！
やがて、アリサはリサの所へとやってきた。
リサ：…おばさま…。
アリサ：…リサさん…。…まだ、…まだ、信じる事、出来ませんか…？
リサ：…今は…。…今は、信じてみようかと…。とにかく、やるだけやってみよう…。そう思ってます。
アリサ：そう…。よかった…。
テディ：リサさん、元気でよかったっス！
アリサは心から安堵した表情になった。
アリサ：ではみなさん、今晩、家にいらしてくださいね。みなさんの好物をたくさん作って待っていますからね…。
そう言うと、アリサはピートとテディに手を引かれて帰っていった。
明夏：ああ！いたっ！リサさーーーーーん！
ヒーロ：リサー！無事か！！
パティ：リサー！心配したんだから！！
リサ：…！！…なんで、みんなここにいるんだ？
明夏：シュウゴさんから連絡を受けて、すっ飛んで帰って来たんです！
ヒーロ：まあ、リサなら何の心配も無いけどな。
パティ：あんたよく言うわね！ずっと心配してたじゃない！
デヴィッド：リサ、忘れ物だぜ。
リサ：…？…！！
デヴィッドがそういって渡したのは、エーリッヒとの格闘の際になくしてしまったはずのナイフだった。
リサ：…どうして…これを…。
デヴィッド：…お前の、大切なもののはずだ。もう、見失うなよ。
リサ：…ああ。
・
・
・
…過去は変わらない。
…過去は消し去る事は出来ない。
…消し去ってはいけない。
…嘘といわれてもいい。
…偽善だと思われてもいい。
…死ぬ価値より、生きる価値を信じよう。
…いつかは嘘が本当になる日が来るかもしれない。
…これから始まるんだ。
…長い、長い…

デヴィッド：…？…リサ…？
彼女は眠っていた。
静かに寝息を立てて、安らかに。
それは彼の知らない表情だった。

おわり

あとがき

はじめまして。「しゅう」と言うものです。初めて書いたものなんですが…、いかがでしたか？元々は“エンフィールドの伝説”、“まるにゃんワールド”関係の膨大な量の人物の把握のために書き始めたものでした。書いてる途中でどんどん尾ひれが付いてしまい、いつのまにか、一つの話になってしまいました。前後をバラバラにして書いたものなので、なんだか統一性の無い物になってしまいましたが…。考え付いた事をあれやこれやと欲張って全部入れた為に、あちこちで無理が生じ、テーマ（そんな物があるのか？）がぼやけてしまったのが残念です。本来ならば、リサの回想部分が全てなのですが…。他の方が考えていない設定が何か無いか、と思っている時、“ワイアット・アープ”、“平原児”、“ＯＫ牧場の決闘”を見て、「おおっ！！ウエスタンっ！！この手があった！！」と思ったまでは良かったのですが、その後に、“ラストマン・スタンディング”、“ザ・ロック”と言った、アクション映画を立て続けに見てしまい、前半の戦闘場面が伸びるだけ伸びてしまいました。悠久のＳＳであるからには、基本的に非戦闘の部分を強調して、“大草原の小さな家”とか、“ドクター・クイーン”、“サウンド・オブ・ミュージック”と言った物であらねばならなかったのですが…。投稿先が決まってから、なんとか鉄道に関する場面を登場さそうと考えていたのですが、Ｓ・セガール（“こう見えても、つかれまんねん”の人）の“暴走特急”を見た辺りから、どうも変になりだして、気が付くとヘリコプターが飛んだり、列車砲を撃ったりする目茶苦茶なものになっていました。参考にしたエンフィールドの伝説本編に比べると、エーリッヒの性格が異様なまでに攻撃的になっています。彼は本来はもっとクールでドライな人物です。武装ヘリコプターを使ったのは、彼、一個人が持っている武力を、イメージとしてとらえやすくする為です。強力な攻撃力と防御力を持ち、大きく素早い上、なんとかエンフィールド上で、ぎりぎり実現性のあるもの…。まあ、馬車が走っているのに、電子計算機のあるような地域ですから、多少の無茶は許されるかもしれませんが…。シャーロック・ホームズの世界でも、最後の方の話では、時間的に隔たりがあるものの、それまで馬車と鉄道、汽船位だったのが、自動車や潜水艦が出てきます。もちろん馬車と拳銃も共存していました。ちなみに物語の中で登場する、シコルスキーとハインドと言うのは実在の軍用ヘリでシコルスキーはアメリカ・ＮＡＴＯなどで使われている特殊作戦ヘリ、ハインドは元は旧ソ連で作られた攻撃用ヘリで、攻撃用のくせに兵員や武器を大量に詰めるというとんでもない代物です。
今一つ、銃器を出す事に多少のためらいがありました。剣や槍で殺し合うと言う事は、現在の世の中ではあまり生じないでしょう。だからこそ、そう言った武器は精神性や人の内面を写す“武具”として存在できます。たしかに、悠久の中で、マーシャルさんのお店に銃器が置いていて、エルが客にその銃の事について説明している場面があります。加えてエルの休日のイベントの選択しでも、銃に関する記述が出てきます（この時、私は“好きな武器は何だ？”と言う質問に対し、“銃だ！”と即座に答え、沈没した経験があります）。ですが、銃器を使った犯罪や戦闘は、今も日常的に起こっています。銃器はたしかに、精神を反映するような、“武具”であるかもしれません。ですが、それ以上に“人を殺す事を目的として作られた道具”ということが、あまりに強く出てしまうのではないか。“ドラえ○ん”と言う作品がありますが、あるテレビの番組の紹介で、“人が死ぬ場面がついになかった”と言うものがありました。その是非はともかくとして、悠久の１作目もこれと似たような感じではなかったでしょうか。“怪物を倒した”と言う表現はあっても、“殺した”と言う表現はなかったように思います（２では“死”や“殺戮”の様な描写が多く出てきますが…）。“倒した”なら、せいぜいたんこぶでも作って、のびている程度でしょう。リサが過去において人を殺していたりする描写や、銃器の持つ意味合いが、悠久そのものの世界観の破壊につながらなければよいのですが…。現実には、弾丸の人体に与える影響は、弾頭の種類、口径、火薬の量、撃った時の状況、当たった人間の姿勢、当たった部位等によって、非常にわかりにくく、殺害を意図しないでも、剣や拳によるコントロールされた攻撃よりも死亡する確率が高いのです。“ショック弾”は、出来るだけ死のにおいをやわらげる為に考え付いた、苦しい言い訳です。読者の方が不愉快にならないように願っています。
さて、本編の主人公のリサ・メッカーノについてです。リサは、多くの要素をごちゃごちゃに抱えた、非常に魅力のあるキャラクターだと思います。“萌える”と言うよりは“非常に魅力ある人物”と言った方が良いような感じがします。リサは弟の死に責任を感じていますが、その他の人の死に対しては何も感じない人間なのでしょうか？私にはそうは思えません。傭兵団に所属していて、リカルドが一目置くほどのつわもののならば、何度も死線を乗り越えているはずです。善し悪しは別として、リサは他人の死にたいして、忘却したり無感動でいられるようなタイプの人間には見えません。そうであれば、リサは誰も助ける事はしないだろうし、周りの者も、リサに近づいてはいなかったでしょう。紅月の問題が去った後、余計にそう言った事で自分自身を追いつめるのではないか。そんな気がしました。おそらく、誰にも相談できないでしょう。自分自身で納得する事も出来ないでしょう。そう考える事が出来ていたら、弟の仇を追い求めたりはしなかったでしょう。リサの性格が自然、リサ自身を追い込んだ時、どうすればリサは救われるのでしょうか？誰かが、何かが、リサを必要とする以外に道はないのではないのか…。しかし、それを求める事さえ、リサ自身が偽善と感じたら…。人の価値観を変える事なんて、出来ないし許されない事かもしれませんが、その順番を少しくらい入れ替える事くらいは、その人を大事に思っている人になら可能ではないでしょうか。ひょっとしたらリサの精神状態を、もっと悪化させてしまうかもしれません。その事について、責任を持ってやり遂げようとする人は…。そんな風に考えて、このＳＳを作りました。
さて、以上で後書きは終わりです。
信姫人さん、ＲＧＭ－７９さん、亜村有間さん。貴重なご助言をありがとうございました。とくに、ホームページの管理者の亜村有間さんには、何度にもわたってご迷惑をおかけしました。本当にお世話になりました。
まるにゃんさんには設定をお貸し頂きました。長い文章を読んで、暖かい声援を下さり、本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
カーフさん。基本的な設定を貸して頂いて、本当にありがとうございます。また、読みにくい文を読んでくださり、感謝しております。
心伝さんには人物設定の細かい資料を頂きました。何度にもわたって連絡を下さり、感謝しております。次回以降、出来るだけ設定を生かせるように、がんばっていきたいと思っております。またよろしくお願いします。
それから、春河ゆんさん。厳しい御指摘を頂きましたが、ご迷惑をおかけして、本当にすみませんでした。以後、同じ誤りを繰り返さないように気をつけます。
ゆーきさん。設定資料ありがとうございます。きちっとした設定のおかげで、色々と話に弾みがつきました。ありがとうございます。
最後になりましたが、私の書いた読みにくい文章を最後まで読んでくださった読者の皆さん、本当にありがとうございました。
みなさん、これからもどうかよろしくお願いします。
それでは、さようなら。

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