中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「続・闇の逸品食べます」 たかやま  (MAIL)
それはある日の午後に起こった。

その日、あなたは慣れた仕事を終えて、さくら亭へと足を運んだ。
「いらっしゃい、ようこそさくら亭へ」
パティが可愛い笑顔で出迎えてくれる。

「なあ、パティ」
「なに?」
微笑みを消さないまま尋ねてくるパティ。
「なんか最近態度が変わったね」
「そ、そうかしら?」
言葉がもつれているが、それ以上に額に汗が浮かんできているのが、
あなたには見て取れた。
「なんか、数時間の記憶が消えた先月からこっち、凄く変わったと思うぞ」
「あんたの気のせいよ。さあ、メニューを決めて」
何か釈然としないものの、彼女が仕込みの途中なのに気が付いたので、
あなたは追及の手をゆるめることにした。

「この時間帯はいつも空いているね」
「あんたのお昼が遅いのよ」
パティは呆れた顔で苦笑した。
彼女を含むあなたと親しい友人連中は、あなたが何かに夢中になると、
寝食を忘れて取り組むことを知っていた。

「んじゃ、日替わりランチ出来るかな?」
「時間ぎりぎりだけど、多分大丈夫よ」
そう言いおいて彼女は厨房へと戻っていった。

しばらくして彼女が再び戻ってきた。
「ねえ、あんたの日替わりなんだけど、材料が切れちゃって」
「ええ!!」
「でも、代わりの品なら出せるんだけど。もちろん値段はそのままで構わないわ」
「それなら全然構わないよ」
あなたは自分でも無理を言っているのが分かっているので、
この提案をあっさりと聞き入れた。
「そう。じゃあ、しばらく待っていてね」
そう言って、彼女は厨房にあなたの答えを伝えると、
再びカウンター内で仕込みを開始した。

しばらくして、再び彼女がやってきた。
「はい、おまたせ」
「ん、サンキュ」
あなたの前に美味しそうなランチが並んだ。
「へえ、魚フライか。タルタルソースが食欲をそそるな」
「ごゆっくりどうぞ」
パティはそう言って去っていった。
今日は本当に仕込みが忙しいらしい。

「それではいただきます」
あなたは軽く手を合わせると早速食事にかかった。
「ん、この舌をピリピリと刺激する絶妙なスパイスの使い方!!
 親父、ただ者ではないな」
あなたは白身の魚フライがたいそう気に入った。
今まで食べたことのない味覚と食感が舌にピッタリとフィットした。
また舌を刺激するスパイスと、さくら亭特製タルタルソースの絶妙なハーモニー。
レモンの酸味もアクセントとしてちょうど良い。
あなたは10分余りで綺麗にランチを食べ終えた。

「ごちそうさま」
「ごめんね。本当はバレリア風ハンバーグだったんだけど」
申し訳なさそうに言うパティにあなたは軽く手を左右に振った。
「全然気にすること無いよ。この魚のフライは絶品だったよ。
 いままで出てきたこと無かったよね?」
あなたは過去を振り返ってみたが見た覚えはなかった。
もっとも、あなたのオーダーは偏っているのであてにならないが。
「そう言えば、そうね。どんな魚のフライなんだろ?」
パティも小首を傾げた。

そこに仕込みが一段落したのか、パティの親父さんが出てきた。
「やあ、あの魚のフライはどうだったかね?」
「凄く美味しかったです。どんな魚なんですか?」
「ちょっと待っててくれ」
そう言いおいて、親父さんは厨房に戻っていった。

しばらくして持ち手の付いた蓋に覆われたお皿を持ってきた。
(あれ?この光景、以前に一度見たような)
あなたの頭の中に何かがよぎったが思い出せなかった。
(なんだ、この感覚は?森の中で隠れている魔物に見られているかのように悪寒がする)
「さあ、これがそうだ。開けてみたまえ」
あなたは何が心の奥から警告を投げかけているのか分からなかったが、
目の前の蓋を開けなければならないと言う、
これまた根拠不明の義務感に襲われて取っ手を握った。

カパッ

「きゃああぁぁぁ!!」
パティはそこにある魚の姿を見て悲鳴を上げた。
表現しようもないようなエグイ姿をした魚がいた。
いや、魚類と言うよりも魚の形をした魔物と言った方が正解か。
「こ、これは?」
あなたは冷や汗を垂らしながら尋ねた。
「ああ、死の海と言われて船乗りから恐れられている、
 ダレンシア海に生息する魚だよ。
 見た目に似合わず美味しかっただろ?」
「ええ」
(そうだよな。見た目が悪くても美味しければいいよな)
あなたは考えを改めた。
よくよく考えると見た目は凄いが美味しい食材というのは結構多い。

「味付けも良かったと思うが?」
「そうですね。舌を刺激するスパイスとの相性が良かったです」
あなたの答えに親父さんは顔に疑問符を浮かべた。
「スパイスなど使っていないが」
「でも、舌がピリピリとして。ん?体が重くなってきた」
あなたはテーブルに少し倒れ込んだ。

「そう言えば、この魚は海に毒薬を流して浮かんできたのを捕獲したとか聞いたな」
「お、親父さん。その毒の名は?」
「アスペルド」
「体内残留度が最高の毒薬じゃない!!」
パティが悲鳴に似た声を上げた。
「ひょっとして、体が重いのは?」
「毒が効いてきたのかもな」
「かもじゃなくて、効き始めているんですよぉぉぉ!!」
あなたは悲鳴を上げた。
「はやくトイレに行って吐いてきて。吐いたらこの水を飲んでから、また吐いて。
 繰り返して行えば簡単な胃の洗浄になるわ!!」
あなたはパティの助言に従いトイレに直行した。

「今度は命に関わるのかよ!!」
あなたは自分の台詞の「今度は」と言う部分に疑問を感じたが、
とりあえずはトイレに入って、胃の洗浄を行うとパティのいれるように頼んだ
牛乳で数回胃を洗浄した。
この系統の毒にはタンパク質が中和剤の役割を果たしてくれるのをあなたは知っていた。
そして胃の洗浄が終わったところであなたは気を失った。

「あれ?」
あなたが目を覚ますとジョートショップの店舗部分のソファーにいた。
「なんだろう、ここ数時間の記憶がない。どうしたんだろう?」
あなたは見事に仕事を終えてからの記憶がなかった。
「どうしたんだろう?じゃないでしょ」
「そうッスよ」
アリサさんとテディが少し怒った顔で言った。

「さくら亭の前であなたは倒れていたのよ」
「それをパティが見つけて、俺が運んできたんだ」
アリサさんの言葉にアレフが捕捉した。
「まったく重かったんだぜ」
「すまん、アレフ」
あなたは素直に頭を下げた。
「まあ、これからはあんまり無茶するなよ」
「そうよ。もう以前みたいに無茶な稼ぎ方をする必要はないんだから」
「はい、わかりました」
「じゃあ、俺は帰るから」
「ごめんなさいね。アレフ君」
「いえいえ」
どうやらアリサさんにも死ぬほど心配をかけたらしい。
恩返しのつもりで働いていたのに、逆に迷惑をかけてしまったあなたは
明日からは少し仕事の量を考えようと心に誓いながら、アレフを見送った。

「神様、親友を裏切った俺をどうか許して下さい」
アレフはジョートショップを出ると、その足で教会に向かった。
「ツケが溜まっていて、パティには逆らえなかったんです」

そう。あなたが気を失った後に来たアレフは、
親父さんの「命に別状はないし、このまま家に帰してしまおう。記憶も消えているだろうし」
の台詞に必死に抵抗したが、
「あんた、ツケ溜まっているわよ。それとエリーさんにジャノアさんの事言うわよ」
と言うパティの台詞に全面降伏を余儀なくされた。
当然ながら、あなたはこの事を知ることは永久になかった。
その後、さらにあなたに優しく接するようになったパティに疑問を抱きはしても。

おしまい

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