中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「もっと!闇の逸品食べます」 たかやま  (MAIL)

それはある日の午後に起こった。

『──。あなたに会える日を心から楽しみにしています。
 季節の変わり目ですから、お身体に気を付けて。
 あなたを想うシーラ・シェフィールドより』
あなたは丁寧に手紙を畳んだ。

「シーラも頑張っているみたいだな。
こっちも頑張らないと、シーラが帰ってきたときに
 笑われちゃうな。後3年半か、頑張るぞ」
実際には1年半後に彼女が帰ってくるのだが、もちろん神ならぬ身のあなたには
予想できるはずもなかった。

あなたは手紙を封筒にしまい、自分の部屋の引き出しへと仕舞った。
微かにだが、指先にシーラが手紙に少しだけ付けた彼女愛用の香水の移り香があった。
あなたは幸せな気分で目を閉じて香りを楽しんだ。
こうしているとシーラが話しかけてきそうな気がする。
もっとも、そんな幸せな気分は長続きしなかった。

カランカラン

カウベルの音が鳴り、来客があることをあなたは知った。
「なんだ、アレフか」
「なんだはないだろ。友達甲斐のない奴だ」
「お前にはあるのか?」
「男に持つわけがないし、女性には友達ではなく恋人として接するようにしている」
「分かった、もういい。今日は何の用だ?」
あなたは少しだけ頭が痛くなったが、気にしないことにした。
気にしていたら、エンフィールドではやっていけそうにない。

「ああ、そうだ。お前知ってるか?」
「何を言っているのか分からないのに知っているわけなかろうが」
「お前ね。まあいい。今日はピザの早食い大会の日だぞ」
言われてみるとそうである。
「そう言えば、アリサさんも参加するとか言ってたっけ」
「アリサさんが早食いを?」
「バカ!んなわけないだろ」
あなたは苦笑すると説明を続ける。

「今回はピザの早作りも含まれているんだ」
新ルールによると、ピザの食材をエンフィールド周辺の豊かな自然から
自分で採取して、それをピザの具にする。
それを出来た順に二組がお互いのピザを食べ合う。
大きさ直径50cmのジャンボピザなので、食いでは大いにある。

「組と言うことは複数で出場なのか?」
「二人一組らしいよ。アリサさんのペアはメロディだ」
「侮れないなぁ」
メロディなら、大概の物は食べられそうだ。
出場したいがペアが決まらないメロディにアリサが参加を申し出たらしい。
由羅は当然ながら酔っぱらってて使い物にはならない。

「なあ、俺達も参加しようぜ」
「アレフ、本気か?」
「もちろんだ。この優勝賞品のピザキングハットが欲しい」
アレフが指した大会のちらしには悪趣味な帽子が描かれていた。
「アレフ、正気か?」
「コレクション性は高い」
どうやら帽子道はあなたには分からないくらいに奥が深いらしい。
「ま、いいか。行こう」
あなたは鍵を閉めると会場になる陽のあたる丘公園に向かった。

「やはりいたか。マスク・ド・ピザ」
何処から見てもリサその人だが、言い合っても無駄なので止めておく。
今年は服装も気合いを入れて替えている。
旅の途中、どこかの都市で見かけた宅配ピザの服装に似ている気がしたのは、
きっと気のせいに違いない。

「やあ、ボウヤ。今年も参加かい?最後まで正々堂々と戦おう」
そう言って、リサ(ピザと書くとややこしいのでこれで統一します)は、
エルと共に去っていった。
「リサの相棒はエルか。強敵だな」
「ああ、同感だ。アレフ、気合い入れてかからないと大火傷するぞ」
「誰に言ってるんだ。俺はやるぜ」
あなたにはアレフが何故あの悪趣味な帽子のためにそこまで燃えれるのかが不明だった。
あなたは会場を見回した結果、おおまかの予想を立てた。

本命:マスク・ド・ピザ&エル
対抗:アルベルト&クレア
穴馬:シェリル&トリーシャ
大穴:アリサ&メロディ

本命と対抗はこの後で説明する大会ルールで有利と思われた。
穴馬はトリーシャのススキ花粉症を抑えられるかが勝負になる。
大穴は食材の不足をアリサが何処まで料理の腕で挽回できるかがポイントだが、
いかんせんアリサにしても盲目が不利に働くのはやむを得ない。
ちなみに彼女達の組にはテディの補佐が許されている。

「皆さん、食材の確保に関しては新ルールがあります」
大会運営委員長が大きな声で参加する14組に言う。
「食材にはそれぞれ点数が設定されています。
 簡単に手に入るキノコ類やハーブは点数が低いですが、
 グリフォンやドラゴン、レイクサーペント、バハムートなどは高得点です」

「エンフィールド周辺にそんな物騒な物がいたっけ?」
あなたはこっそりとアレフに訊ねた。
「いるわけないだろ」
そんな物がいたら、こんな企画は催されないだろう。
「マッドバッファローとスカイキングバードが狙い目かな?」
ここら辺りなら丹念に捜せば見つかる可能性は高い。
実は密かに裏ルールでフサやシャドウにも高得点が付けられているが、
幸いなことに裏ルールの出番は無くて済むことになる。

「月光魚はどうだろ?」
「駄目だよ、アレフ。今の時期はムーンリバーでなくてマリオン島の中にある湖へ
 産卵準備で集まっているから」
マリオン島への渡航は1週間前からの申請が必要だ。
当然ながら、そんなものはしていない。
「仕方がない。山の中を捜すか」
アレフのぼやきにあなたは静かに頷いた。
「それではスタートです」

フォーン

合図の笛が鳴り、参加者は一斉に散っていった。

あなたはアレフと共に山の奥、かつてトリーシャ奪回のために
シャドウ扮するドラゴンと一戦交えた辺りにまで進出していた。

「汝の創りし、それを使うことは出来ない。必殺魔法ノーユーズ!!」
あなたの力ある言葉に負け、オーガーは倒れた。

「ふう、この魔法はよく効くなぁ」
「その魔法に倒れた創作家は数多いからなぁ」
アレフの言葉にあなたは苦笑するしかなかった。
「さて、そろそろ食材を捕獲して帰らないと調理時間がやばいな」
あなたはきょろきょろと辺りを見回した。

チョンチョン

アレフがあなたの袖を引っ張る。
「なんだよ、アレフ。何か見つけたか?」
あなたは捜索の目を休めずに訊ねる。
「ああ、見つけた」
あなたはその声にアレフの視線を追った。
そこには!!

「なあ、アレフ」
「なんだ?」
「なんで、マウンテスドラゴンがここにいるんだぁぁぁ!!」
「俺が知るかぁぁぁ!!」
二人して怒鳴り合うが、もちろん事態の解決にならない。
ドラゴンの方はゆっくりとこちらに近づいてくる。
「え〜い、こうなったらやってやる。いくぞアレフ!!」
「マジかよおぉぉぉ」
あなたは泣き叫ぶアレフを尻目に剣をトンボに構えると、
体長5mはあるドラゴンに向かって突撃していった。

「さて、会場では各選手共通のピザの土台が用意されています。
 最初に帰ってきて、調理に取りかかるのはどの組でしょうか?」
会場にはピザの土台が14個用意された。
これを使うもよし、時間があれば作成しても構わない。

「最初に帰ってきたのはアリサ&メロディ組だぁぁぁ」
どうやらアリサの目のこともあり、近場でキノコ類を採取したらしい。
もっとも、メロディが遊んだりして時間を浪費してしまったが。
「さあ、土台から作りましょう」
どうやら足りない得点はピザの土台からの手作りで補うようだ。

それから数分してリサ&エルが帰還。
彼女らはどうやったのかは不明だが、マンドラゴラとマッドバッファローを入手していた。
「どうやらボウヤはまだみたいだね」
リサはバッファローを解体する手を休めずに言う。
その時、会場の周囲が大きく騒いだ。

「た、ただいま」
「死ぬかと思った」
会場に帰ってきたのはあなたとアレフだった。
「ボウヤ、あんたそれは」
あなたが引きずってきた物を見て、リサは呻いた。
「マウンテスドラゴンさ」

そう、あなたはなんとかドラゴンを白兵戦で仕留めるのに成功した。
そのまま体長5mのドラゴンを引きずって持って帰ってきたのだ。
「これは驚きです。マウンテスドラゴンには25点が付けられています」
アナウンサーの声に力が入る。
ちなみに最高得点は幻の竜王ドラグカイザーの35点である。
そんなものは例によって、エンフィールド周辺には存在しない。

「さあ、調理に取りかかろうぜ」
「よし、やるぞ。アレフは土台にソースを塗っておいてくれ」
あなたは早速ドラゴンの解体に取りかかった。
そうしている間に他の組の情報が流れてきた。

まず対抗のアルベルト&クレア組は兄妹戦争(喧嘩にあらず)が勃発。
現在はカッセル宅から0.4kmの地点で交戦中。
カッセルからの苦情により、運営委員会が棄権を言い渡したが、
戦闘が激化する二人の耳には届かなかった。
穴馬のシェリル&トリーシャ組だが、やはりトリーシャのススキ花粉症が発症。
これにより、エンフィールド南西の森にて脱落した。
他の組は、ある組はモンスターとの戦いに破れ、ある組は食人植物と斬り合い脱落。
その他にもエンフィールド周辺にて消息を全組が絶った。
もっとも、自警団がまめにモンスター討伐を行っているので、
今回参加した連中なら問題なく生還できるだろう。

「ここにいる組が全部というわけだ」
「もらったな、アレフ」
リサの組は確かにマンドラゴラが凄そうだが、
材料の得点ではあなた達が有利だった。
「出来た」
「こっちもだ」
あなたの組とリサの組は同時にピザを仕上げた。
「それでは双方、ピザを交換するように」
あなたはリサのピザを受け取り、目の前のテーブルにおいた。
「これをアリサ&メロディ組がピザを仕上げ、完成したピザを
 食べきるよりも、そして相手よりも早く食べきった方が優勝です」
アナウンサーの言葉に4人は頷く。
「それでは、READY GO!!」
あなた達4人は一斉に目の前のピザに食いかかった。

ちなみに食材の点数はあなたのチームが2点リードしている。
点数の差に3秒をかけた時間がアドバンテージとして認められる。
つまり、リサとエルはあなた達よりも6秒早く、ピザを食べ終わらないと
引き分けに持ち込めないことを意味している。

「う!」
「むっ!」
「あう!」
「はう!!」
あなた達4人はピザを食べ初めてから数秒でその場に倒れ込んだ。
そして、二度と起きあがって来れなかった。
「お〜っと、これは凄絶な両者K.Oです」
どうやら、あなたとアレフはマンゴラドラの成分に耐えられずに、
エルとリサはマウンテスドラゴンの処理の不備で倒れたようだ。

「はい、できました」
4人が倒れている横で、アリサは焼き上がったピザを台の上に置いた。
「え〜、全員戦闘不能、ピザ完成1組によりアリサ&メモディ組の優勝とします」
アナウンサーの声に会場は大きな歓声に包まれた。
「あらあら、優勝してしまったのね」
「メロディの勝利なのだぁ」
こうして、今回の大会は幕を閉じた。

「それにしても壮絶だったな」
数日後、アレフとさくら通りを歩いていた。
「まあ、あれで済んで良かったと言うべきかもね」
あなたは元々やる気が無かったので、敗北はそれほどショックではなかった。
「裏で自分に賭けておいたのに」
「アレフ、賭事にまで手を出していたのか」
「ジョートショップの給料だけでは厳しいからな」
馬鹿な話をしている間にさくら亭に到着した。
しかし、店の入り口には臨時休業の札がかかっていた。

「どうしたんだい、パティ?」
ちょうど買い出しから帰ってきたパティに事情を尋ねる。
「お父さんがね、厨房の改装を業者に頼んだの」
「そう言えば、厨房の方に大きな荷物が出入りしているな」
アレフに言われて覗き込んでみると、数人の人間が動いているのが分かった。
「よく改装の費用が捻出できたね」
あなたは新しく入っていく最新式の木炭オーブンを見ながら言った。
なかなかに値段が張る一品だったはずだ。
「なんでも臨時収入があったんですって」
「ふ〜ん」

あなたはその臨時収入がピザ大会誰が優勝する?ウルトラダービーで得た金だとは、
当然ながら知ることがなかった。
親父がアリサ&メロディ組を一点買いしていたこと、
優勝候補のあなたやリサのピザの土台に一服盛っていたこと、
クレアにアルベルトが最新の化粧水を購入していたことを教えて、
兄妹戦争の火種を事前に蒔いていたこと、
事前に密かに食材の採取できる場所を聞きに来た出場者に
モンスター多発地帯で、自警団が未討伐の地域を教えたこと、
トトカルチョの胴元であるトラヴィスの弱みを握って、
事後厄介事にならないように手を打っていたことなども、
当然ながら知ることはなかった。
その後、さくら亭に近づかなくなったトラヴィスに疑問を抱くことはあっても。

おしまい。


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