中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「ずっと!闇の逸品食べます」 たかやま  (MAIL)
それはある日の午後に起こった。

その日、あなたは午前の仕事を終え、ジョートショップに帰ってきた。
しかし、アリサさんは「これで引き受けている仕事は終わりよ」と言われ、
笑顔で「たまには散歩にでも出掛けたら?」と送り出された。
「ま、なんにせよ、仕事が無事に終わったのはいいことだ」
あなたは顔を緩ませると、空を見上げた。
天気は良くて、絶好の散歩日和と言えた。
気分の良いあなたは晴れ晴れとした気分でさくら亭へと向かった。

「いらっしゃいませ、さくら亭へようこそ」
パティが笑顔で出迎えてくれた。
「やっほ、パティ、って、その格好は!?」

パティは珍しくスカートをはいていた。
あなたが知る限り、彼女がスカートをはいたのは、
シーラの発表会の時ぐらいだったはずである。
逆に言うならば、そう言った礼装が当然でもない限り、
彼女はスカートをはくことをしていない。
そして、当人もスカートは嫌いと言ってはばからない。
まあ、よくよく考えてみると、忙しく動き回るパティにとっては、
スカートは動きにくく、不向きな品物かも知れない。
つまり、何が言いたかったかというと

「パティ、今日は何かここであるのかい?」
と、あなたが彼女に質問する理由を示したかったのだ。
「何もないわよ。どうして?」
「いや、パティがスカートはいているから」
「私だって、スカートをはくときがあるわよ。
 なにかの記念日とか」
「今日は何か記念になることがあったっけ?」
あなたは首をひねって考えた。

エンフィールドに住むようになって、2年近くが経過した。
おかげでほとんどの記念日は頭の中に入っている。
イベントスタッフ的な仕事も引き受けているので、
この手の記念日云々には多少自信があった。
(え〜と、エンフィールドの公式行事はないし、
 大陸で知られている記念日でもないしなぁ。
 となると、彼女の個人的な記念日になる。
 誕生日は過ぎてしまったし、ご両親の結婚記念日や誕生日でもない。
 他の面々の誕生日は)

ちなむと現在の暦は2月の半ば、
ピートの誕生日は先週祝ったし、メロディの誕生日は随分先だ。
ついでに言うなら、バレンタインデーの風習はエンフィールドにはない。

「今日って、なにかあったけ?」
あなたは潔く降参することにした。
「なにいってるの。あなたがこの街に来たのがちょうど2年前でしょ」
そう言われると、そんな記憶があなたの脳裏に思い浮かんだ。
「ひょっとして、その格好」
「そう、あなたのためにしてあげたんだから感謝してよ」
そう言って、彼女はあなたの目の前で軽く一回転した。

「悪いけど、アレフやクリスと相席してね」
彼女はあなたを4人掛けのテーブルに案内した。
「や、悪いね。二人とも」
あなたは先に座っていた二人に軽く謝った。
「気にするなよ」
アレフは何処かひきつった顔で言うと、
「そうですよ。僕たちなら大歓迎ですよ」
と、クリスも言った。

3人して昼食をつついているとさくら亭のドアが勢い良く開いた。
「お〜っす、みんないるかぁ?」
元気満点、動く活火山、ベッドルームのシャンデリア(無意味な明るさと言うこと)の
ピートが勢いよくさくら亭に入ってきた。
「ちょっと、ピート!!静かに入ってきてよ」
パティがすでに恒例となった注意をするが、例によって無意味だ。

ピートはあなた達を見つけ、嬉しそうに近寄ってきた。
「なあなあ、聞いてくれよ」
「なに、ピート君」
人付き合いの良いクリスが聞き返す。
あなたは珈琲を啜りながら横に座るアレフを見てみると、
彼は周囲の女性を物色中であった。
(ここでナンパしたら、パティに出入り禁止にされるぞ)
(大丈夫、挨拶するだけだよ)
あなたの小声での注意もアレフには無意味のようだ。
どう考えても挨拶だけで終わるとは思えないが、
とりあえずあなたはピートの話に意識を戻した。
「実はすげぇ話を聞いたんだけど」

彼の話は要約すると、誕生の森にある遺跡に隠し通路が存在し、
底の奥には金銀財宝が山のようにあるという、
よくある話と言えばよくある話であった。

「と言うわけで、捜しに行こうぜ」
顔を上気させながら言うピートにあなたは水を差すことにした。
「あのなぁ、ピート。金銀財宝があるなら、なんでお前にこの話を教えてくれた人は、
 自分で財宝捜しに行かないんだ?」
「きっと、臆病なんだ」
ピートの自信はアルベルトの厚化粧のように揺るがなかった。

「と言うわけで、探検に出発だ」
「僕は行ってもいいよ」
クリスの発言に思わず驚いて彼を見る。
「実は学校の課題で、ライティングの応用を出題されてるから、
 実験を兼ねていくよ」
夜に自分の部屋で行えばいい気もするが、
寮なので、遅くまで起きているのがバレルとマズイのだろう。

「しょうがない。それなら付いていくか」
あなたは立ち上がると、さくら亭を後にした。
隣のテーブルに居るプラチナブロンド美人に声をかけているアレフに
伝票をしっかりと押しつけて。

「さて、ここがそうか」
あなたの前には遺跡の入り口が暗い口を開けていた。
あなたはジョートショップに戻ってから持ち出した剣の柄に手をかけた。

エルバニア北方騎士団「ファイティングベア」時代から使い込んだ剣は、
あなたの手によくなじんでいた。
もっとも、その騎士団も敗戦によって消滅してしまったが。
そう、悪夢と言われたエルバント高原会戦で壊滅し、
そして、大隊レベルまで消耗したまま投入された帝都エルビノスク攻防戦で。
文字通り、血で血を洗い、戦友の死体をバリケードにしての市街戦。
今でも脳裏に地獄のような光景が思い浮かんでくる。

「さ、行こうぜ」
ピートの声にあなたは過去の戦場から現在に意識を戻した。
「うん」
クリスは緊張した面もちで、寮から持ってきた背嚢を担ぎなおした。

クリスが開発したライティングは見事に発動した。
光球はクリスの指示に従って見事に動いてくれた。
クリスとしては、これでここに来た目的は達せられたわけだが、
人の良い彼は怖がりながらも付き合ってくれた。

「ここをこうすると」
ピートが壁の一角を弄くると突き当たりの壁が動いた。
あなたは壁があった場所の手前に跪いた。

(積もった埃の上に足跡がない。
 埃の積もっている量、壁のコケ、空気のよどみから判断して、
 ここ10年前後は誰も入っていない)
クリスによるとここが発見されたのは6年前のことだそうだ。

「よ〜し、出発」
ピートが歩き出したので、あなたはクリスに光球を先行させるように言った。
道は一本道で、やがて大きな扉にブチ当たった。
とりあえず、迷路状でなかったことにあなたは安堵の息をもらした。
慎重に扉を開けると、正面奥の祭壇上に棺が安置されていた。

「なんだ、あれは」
「あ、走るな、ピート」
あなたは警告を発したが遅かった。
「なんにもねえよ」
ピートが棺の前であなたに振り返り言った。
あなたは慎重に部屋に入った。
「なんだろうな、これ」
ピートが棺の表面の埃を払った瞬間。

カッ

いきなり棺が光った。
「な、なんだ」
「ピート、下がれ」
こっちに転がるように戻ってきたピートを入り口に押しやり、
あなたは剣を振るスペースに二人が居ないことを確認した。
左半身を前に出して、棺を睨み据えた。

「我が眠りを覚ますのは誰だ」
棺から起きあがった全身鎧を着た人物はそう言った。
「覚ましてません。我々に構わず寝直してください」
あなたは丁寧に言ったつもりだったが、先方はそう思わなかったみたいだ。
「ここから生きては帰さん」
「寝起きの悪いヤツだなぁ」
「お前が言うか、お前が」
とりあえずピートに怒鳴り返して、
祭壇を降りてくる相手を迎撃するべく、剣を八双に構える。

相手は祭壇を降りきると、手に持っていた長剣を抜いた。
(こいつ、こんな大きな剣を)
あなたには相手の構えからその実力を読みとることが出来た。
(リカルドクラスに強いぞ。下手するとまずいな)

慎重に半歩踏み出した瞬間、相手が突っ込んできた。
「くっ」
避けて、立ち止まった相手に反撃と行きたいが、
後ろにはクリスとピートが居る。
「このぉ」
仕方がないので、あなたは相手の勢いを少しでも殺すべく突進した。

ガキーン

相手の左腕を切り落とそうと振るった剣は、
見事に相手が振るった剣とぶつかった。
「くうぅ」
衝撃で剣が吹き飛ばされそうになったあなたは、
自分から左後方に飛び、距離を取った。

「クリス、なにか道具はないか?」
とてもじゃないが、まともにやり合ったら長期戦は免れない。
二人を抱えて長時間交戦するのは、かなり危険だ。
「ちょ、ちょっと待ってください」
クリスが鞄を漁り出す。

「これだ」
そう言って、クリスが出したのは・・・、
「その由羅特製ドカ弁をどうしろと?」
あなたは相手の剣を全身で支えながら訊いた。
「あ、違った」
慌ててクリスが捜し直す。

「これ」
そう言って、クリスが投げたアイテムを掴み、相手に突きつける。
「よっしゃ、この魔導書の呪文で」
あなたは古めかしい本を捲った。

「2月10日、雪。今日もあの人は来なかった。
 私の思いは伝わらなかったのかしら?
 仕方がないので、クリスで遊んで気晴らしをした。
 クリスは、嫌そうな顔をしてたけど」

「あ、違います。それは姉の日記でした」
「そんなもんを持ってくるな!!」
あなたは本を投げ返した。
内容的には、クリス「で」遊んで、と言う部分や続きが気になったが、
残念ながら追及している暇はない。

「これです」
あなたの手の中に入ってきたのは缶詰だった。
「これをどうしろと?」
「こんど魔法学科の先生が開発した魔法のほうれん草だそうです。
 危機に陥ったら食べて欲しいと言ってました」
「よっしゃ」
あなたが缶詰を握りしめると、缶の蓋が開いてほうれん草が口に飛び込んできた。

♪パララパッパラ〜 パララパッパラ〜
パララパララパララパッパラ〜♪

どこからとも無くラッパの音がしたかと思うと、
あなたの腕は急に太くなった。
二の腕の太さはそのままなので、アンバランスなこと著しい。

「なんだ、これは!!」
「あ、前!!」
クリスの言葉に注意されて前を見ると、
甲冑男(正式名称不明)が突っ込んできた。

「このぉ」
あなたは相手が振り下ろした剣を受け止めた。
「あれ?」
不思議と相手の攻撃が軽くなった。
「どうやら腕力がアップしているみたいだな。
 それなら一気に」
あなたは相手の剣を押し返し、相手の腹を蹴りつけた。
体勢が崩れた相手に一気に踏み込み、袈裟切りする。

「やった」
結果として、相手は見事に消滅した。

「さてさて、棺の中身は」
ピートがわくわくしながら見た中身には。
「なんだ、これ?」
そこには一本のワインが入っていた。

「どれどれ」
あなたが見てみると、
「これは幻と言われたアクマイア産帝国歴78年物だな」
と、判明した。
「高いのか?」
「さくら亭を一月以上貸し切れるくらいにね。ちゃんとした物なら」
「やったぜ。これで億万長者だ」
喜ぶピートだが、あなたは言葉を続けた。

「ちゃんとした物なら、それくらいの価値はあるけど、
 これは駄目だよ。保存状態が悪すぎる」
「と言うことは」
「そこら辺の店頭に並んでいる安売りワインの方が価値がある」
あなたは静かに断言した。
「つまり、今回も無駄足だったと言うことですね」
クリスの結論が遺跡の空気に綺麗に響き渡った。

「おはよう」
アレフの挨拶が朝のジョートショップに響き渡る。
「あ、アレフさん。おはようさんッス」
「よう、テディ」
ここ数ヶ月で急速に仲良くなったテディとアレフが挨拶を交わす。
「おはよう、アレフ君」
「おはようございます、アリサさん」
アリサに笑顔を返し、アレフは周囲を見回した。
「あいつはまだ起きてこないんですか?」
「それがね」
アレフの問いに言葉を詰まらせるアリサ。

「お、おはよう、アレフ」
あなたのよれた声にアレフが振り返った。
「どうしたんだ、お前!?」
アレフが驚くのも無理はない。
あなたの腕は膨れたままで、出来の悪いゴーレムのようになっていた。
「いやな、昨日クリスに渡された魔法学科の先生特製ほうれん草を食べてから、
 ずっとこのままなんだ」

そう、あれからあなたの腕の筋肉は全然戻っていない。
トーヤ先生に見せても無駄だった。
「まあ、今日中には戻るだろうけどさ」

しかし、あなたの考えは甘かった。
腕の筋肉は4日間もそのままであった。
さらにクリスから聞いた話によると、
このほうれん草を開発した先生はクリスのレポートを読んだ後に
行方をくらませて、自警団の失踪人リストにその名を連ねた。
エンフィールド学園は、この教官の部屋と研究室を徹底捜索したが、
特製ほうれん草に関する物は見つからず、
「なんらかの突然変異を起こしたほうれん草」と報告書をまとめた。
また、クリスも教官にもらったので、詳しいことは知らないと言ったので、
特製ほうれん草に関する調査は闇に葬られた。

その日の午後、教会の懺悔室にクリスの姿があった。
「ごめんなさい、神様。僕は嘘をついてしまいました」

実はこのほうれん草缶詰、教官とさくら亭の親父の合作であった。
その詳細を記した書類は親父の手にあったが、
「クリス君、もしもこの事がばれたら、学科が閉鎖されるよ」
の言葉に、クリスは沈黙を守ることにした。

「僕は、僕は」
両手を膝の上で握りしめるクリスを、
柱の影からアレフとテディが同情に満ちた目で見ていた。

当然ながら、あなたはこの事を知ることは永久になかった。
その後、さくら亭に行くと妙に辺りを窺うクリスに疑問を抱きはしても。

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