中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「とことん!闇の逸品食べます」 たかやま  (MAIL)
それはある日の午後に起こった。

午前中の仕事がひさびさになかったあなたは、
午前中を書類の整理に費やし午後を迎えた。

「アリサさん、午後からのお仕事は何処ですか?」
あなたの問いにアリサさんは数枚の用紙を持ってきた。
「さくら亭付近の地下水道の探索よ。
 なんでも、何かが棲んでいるみたいなの。
 その正体を見極めて欲しいの」
「もしも、モンスターだったらどうするんですか?」
「その場合は、当然退治してね」
アリサさんは「そこの塩をとって」と言うかのように、
いとも容易くあなたに言った。
あなたは色々言いたいことはあったが、
変に心配させても仕方がないので、
剣を腰に差し、戦斧を携え、アレフとクリスを従えてさくら亭へと向かった。

「いらっしゃいませ。さくら亭へようこそ」
いつもの如く、笑顔で出迎えたパティ。
「パティ」
「なに?」
後ろを見ると、アレフでさえ目をぱちぱちしている。
「そのメイド服はなに?」
ご丁寧にも頭の上のフリル付きである。
「なんかウェイトレスならこの服だ、とお父さんが」
「わかった」
あなたはこめかみに指を当てて深呼吸をした。
「今日は食事に来たの?」
あなたの担いでいる戦斧を見ながらパティが言った。
あなたは我に返り、用向きを彼女に言った。

「ここよ」
パティが示したのは、さくら亭の裏庭にある倉庫の中にあるマンホールだった。
「よし、行くか」
あなたの声に二人が頷いた。

「わりと広いな」
アレフが周りを見渡しながら言った。
横幅は全部で4mくらいあり、歩く部分と側溝とに別れている。

「今はムーンリバーの水を運ぶのに使われているそうです」
クリスが光球を操りながら言った。
「昔、まだ王政が敷かれていた頃は、共和党右派が移動や逃走に使ったそうです」
「ふ〜ん」
それを知って壁を見ると、剣で斬りつけたような跡があった。
「ま、言うなれば、エンフィールドにある古戦場みたいなもんだ」
アレフがそう締めくくった。

とりあえず、光球の一つを水上に沿って移動させながら、
エンフィールド中心部に向かって歩くことにした。

「なんか怖いですね」
クリスの言うとおり、狭い通路に自分達の足音だけが響くのは、
あまり体験したくない光景だろう。
「馬鹿だなぁ。自分達以外の足音が聞こえるよりマシだろ」
アレフが苦笑しながら言った。
と、その時!!

バシャバシャ

「「「!!」」」
何者かが水を跳ねながら歩く音が聞こえてきた。
「クリス、アレフ。二人とも少し下がって」
「気をつけろよ」
「無茶しないでください」
二人はそう言いながら数歩下がった。

バシャ、バシャ、バシャ

やがて、姿を現したのは
「なんだ、コイツは!?」
あなたは相手の姿を認めると驚きの声を挙げた。
表現するなら、身長が2m前後、二の腕から先が恐ろしく発達し、
白い鱗に全身を包んだオーガーと言ったところか。

「クリス、こいつはなんだ!?」
「知りません。少なくとも、学校にある生物図鑑で見たことはないです」
つまり、新種発見の可能性が高い。
「じゃあ、もしかしたら第一発見者の俺達の名前が付く可能性があるんだ」
「3人の中の誰かが学会に報告できればね」
あなたはアレフの言葉にそう言って、戦斧を構えた。

(狭い通路だ。側溝に入ると足を滑らす可能性があるから、
 なんとか通路の上にいるようにしないと)
オーガーもどきもあなたの姿を認めたらしく、通路の上に上がった。

「来る!!」
相手の右からの一撃をバックステップでかわす。
そのまま二歩後退して、相手のバックブローを避ける。
「っしゃああぁぁ」
あなたはかけ声と共に戦斧を相手の左脇腹に叩き込んだ。
ここは肋骨などが無く、致命傷を与えやすい部分である。
与えやすい部分であるのだが。

ガキーン

「な!!」
あなたは驚愕しながらも戦士としての本能で数歩飛び退いた。
案の定、あなたがいた場所に左腕が突き刺さっていた。
戦斧を確認してみると、刃が見事に砕けていた。

「冗談だろ!?」
「おい、安物使うな」
アレフの問いにあなたは
「馬鹿!!これはミノタウロス退治にも使うナグタイト鋼の戦斧だぞ」
と、怒鳴り返した。
「一度退きましょう」
クリスはそう言うと、オーガーもどきに対し呪文を放った。
「グラビティ・チェイン」
呪文が功を奏して、オーガーもどきは動きを止めた。
「まさか、都市地下水道名物白い生物に負けるとは」
あなたはそう言いながらもしっかりと足を来た方向に動かし続けた。

翌日

「おはようございます」
「おはようさん」
クリスとアレフがやってきた。
「クリス、学校は?」
「気になったので、休ませていただきました」
あなたの問いにクリスは殊勝な答えを返してくれた。
「そっか。んじゃ、昨日のリベンジといこう。
 アレフはそっちの鞄を、クリスはこっちのを持って」
こうして、あなた達は再びさくら亭へと向かった。

「ねえ、今日も行くの?」
パティが心配そうに言った。
彼女には前日に結果を話してある。
「ああ、負けっ放しというのは精神的に良くないからね」
「そう、気をつけてね」
「おう」
あなたがマンホールに入ろうとした時、
「待って」
再び、パティが声をかけた。
「いや、パティ。男には行かないといけない時があるんだ」
「ううん、行くのはいいんだけどさ、これを通路に置いてきて」
パティの側にいたクリスが筒状の物を受け取った。

「なんですか、これ?」
「猫いらずよ。ネズミ対策。お父さん特製なの」
「あのぉ、今地下通路にいるのはネズミよりも凄い生き物なんですけど」
「それはそれ、これはこれよ」
あなたは頭を振って、地下水道へ入っていった。

「確か、昨日遭遇したのはここら辺だよな」
アレフが周囲を見回していった。
「来ます!!」
周囲を魔法で探っていたクリスが声を挙げた。
「よし、二人とも鞄をよこせ」
あなたは自分が持ってきた分を含む3つの鞄を開けた。
中から分解した部品を取り出し、組み立て始める。

「なんだよ、それ!!」
組上がった鉄パイプに持ち手が付いた物を見てアレフが叫んだ。
「対ゴーレム戦用擲弾筒。
 ゴーレム戦に備えて開発された個人携行可能な強火力武器だ」
あなたはクリスの持ってきた鞄から弾頭を取り出しながら言った。

もっとも、この武器は今は亡きエルバニア帝国の魔導技術院で作られた試作品である。
原理は簡単。
弾頭を発射筒の中にいる風の精霊力で飛ばすだけである。
射程は無風状態で100m強。動きの鈍いゴーレム相手には充分の射程である。

参考までに当時におけるゴーレムの戦術運用は、
魔導師が操って運用するので、魔術周波数の混線をさけるために、
戦域で数体運用するのが限界であった。
さらに、ゴーレムの歩行が安定せず、騎士や歩兵との混成部隊は編成されなかった。
だからこそ、100mまで引き付けたり、近づくことが可能であった。
その後、ゴーレムの歩行が安定するにつれて、
騎馬隊などと行動を共にするようになり、
擲弾筒はさらなる進化を遂げるのだが、それはまた別のお話。

「なんでそんな物を持っているんですか?」
クリスがごくごく基本の質問をした。
「ちょっと、ね」
あなたは言葉を濁すしかなかった。
帝都での攻防戦時に技術院の知人から借り受けた品とは言えなかった。
もっとも、その時もらった弾頭は既になく、ここにあるのは自作の品だ。

(やっぱ、こいつ、昔はエルバニアの騎士だったんじゃないのか?)
アレフは以前から感じていた疑問の答えを得た気がした。
しかし、彼がこの事をあなたに訊くことは、その後も無かった。

「よし、砲戦距離100m。行け!!」
あなたが手元のボタンを押すと弾頭は景気良く飛んでいった。

ドゴーン

命中!!
「効いていないみたい」
「まだまだ、次のは貫通弾だ」
クリスの言葉をうち消すかのように次弾を装填する。
「なんでこんなに弾があるんですか?」
クリスがこれまた当然な質問をする。
「色々使い道があるだろう」
「たとえば?」
「たとえば、人に欠席裁判で冤罪を着せてくれた裁判所や
 自警団の本部に撃ち込むとか」
「そう言うのをテロって言うんですよ!!」
「やだなぁ、クリス。たとえばだよ、たとえば」
脇で見ていたアレフにはたとえ話には聞こえなかった。
(こんなヤツと一年間)
アレフは我が身の安全を神だか何だか分からない者に祈った。

「くらえ!!」
貫通弾は勢いよく飛んでいき

ガイーン

勢いよく跳ね返された。
ちなむと貫通弾はアイアンゴーレム撃破用に作られた品である。
「なんの!!次は炸裂弾だ」
これは相手の胸に命中。

ドゴーン

「やったか!?」
しかし、爆煙の向こうに現れたのは無傷な白いオーガー。
「くっ、次が最後。王水弾!!」
あなたは最後の一発を慎重に狙いを付けた。
「ファイヤ!!」

バシュ

あなたの期待を一身に受けた王水弾は相手の顔めがけて飛んでいき、

ガシュリ、バリバリ

見事に相手の口に噛み砕かれた。
王水が口から漏れているが、効いた様子はない。
「金でさえ解かす王水が効かない!?」
気のせいに違いないが、相手の顔に嘲笑が浮かんでいる気がする。

「く、こうなったら」
あなたは剣を引き抜いた。
「死ぬ気で戦うのみ」
相手の距離は残り数メートル。
突っ込もうとするあなたの顔の隣を小さな影が追い抜いた。

ガシュ

口でそれをキャッチするオーガーもどき。
「クリス、お前何を投げたんだ?」
「パティさんからもらった猫いらず」
アレフの問いに答えるクリス。
「効くわけ無いだろ!?」
と、あなたが言おうとした瞬間!!

ぎゃあああぁああぁぁ

凄い悲鳴を発して、怪物が暴れ出した。
そして、数秒後には死体が水の上にプカプカと浮いていた。
「王水でも死なない化け物が」
その時のあなた達3人の顔は真っ青だった。

『と言うわけで、なんとか無事に水道から出ることが出来た。
 水道に流れるムーンリバーの水はまだ冷たく、
 4月も終わりとは言え、夏が遠いことを教えてくれた。
 ま、こっちの日常はこんな具合。
 シーラも大変だと思うけど、頑張って』

「これでよし、と」
あなたは最後に自分のサインを書いて、
封筒に封をした。

その後、自警団が地下水道から聞こえてくる爆発音を通報により、
あなた達の元に駆けつけてきたりしたが、
肝心のオーガーの死体は水流に乗って流れていったため、
説明が難航に難航を重ねた。
しかし、さくら亭の親父が自警団の上層部に直談判したのが効いたのか、
あなた達が拘留されることはなく、擲弾筒の所持も不問になった。

「いやぁ、パティの親父さんには感謝しないとなぁ」
あなたはしみじみと語ったが、
脇であなたの台詞を聞いていたアレフとクリス、テディは沈黙を守った。
ただ、アリサさんのみが
「そうね。今度お礼を言わないとね」
と言っただけだった。

実はあの白いオーガーもどきは、
水道に住み着いたリトルオーガーが、
親父さんの過去の作品を食べ続けた結果だった。

参考までに書いておくと、
リトルオーガーは身長が最大でも1m前後。
人里離れた場所に棲む生き物である。
何かの拍子に地下水道に紛れ込み、そのまま住み着いたものと思われる。

自警団がなぜ沈黙したかは不明だが、
さくら亭の親父は自警団本部に出入り自由で、
団長の部屋などにも自由に出入りできるとだけ書いておく。
そう、そこにあった自警団に都合の悪い書類を隠匿することが可能だとも。

当然ながら、あなたはこの事を知ることは永久になかった。
その後、人の出入りの管理が厳しくなった自警団本部に疑問を抱きはしても。

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