中央改札 悠久鉄道 交響曲

「dejavu」 輝風龍矢  (MAIL)

The Last Song
●序章:dejavu 〜始まりの冒険者〜

月。
月明かりの降り注ぐ雲一つ無い夜。
その明かりがほんのわずかだけ差し込む深い森の中。
容姿などははっきりと確認できないが、あきらかに男だとわかる人影が1つ確認できる。
ザザザザザ・・・・・・
森の中にはきちんと舗装された道も通っているのだが、その影は歩くのでさえも邪魔になるほどに太い樹々や雑草が生い茂った、いわゆる獣道を走っていた。
垂れている木の枝に着ている衣服がかする事なく、その道(といえるのか分からないが)をスイスイと走り抜けている。
「・・・・・・・・・・・・!」
誰かに、もしくは森に住む怪物か何かに追われているのだろうか、何かの気配を察知した青年はスピードを緩めた。それと同時に右手に体内の気を集中させる。
「・・・・・・波ッ!!」
ゴヴン!!
狙いを定め、タメていた気を一気に解き放った。気の塊は光の球体となって発射され、森の中へと消え、そして・・・・・・。
キュバン!!
「ギャオオオオ!!」
耳障りな音と共に、モンスター(と思われる)の断末魔が聞こえてきた。どうやら命中したようだ。
「まず一匹・・・・・・」
透き通った声でそうささやく。モンスターをしとめても、周囲への注意を怠らない。森の中に複数の気を、青年は既に確認しているからだ。
ガサガサガサッ!!
「・・・・・・・・・・・・!!」
1匹目をしとめて間もなく、青年の背後の茂みが激しく音を立てた。
「グロオオ!!」
「チイッ!」
その茂みからオオカミが飛び掛かってきた。それを素早く身をかわすと同時に、今度は予め左手にためておいた気をオオカミ目掛けて打つ。
「ギャイン!」
見事に命中。オオカミはシュウウという音を立てて蒸発する。放たれた気は、オオカミの骨までをも溶かしてしまったのだ。
「ちょっとやりすぎたかな・・・・・・?」
弱い気で済まそうと思っていたが、とっさの事に力を制御できなかったのだ。
まだまだ修行が足りないなと、ちょっと反省する。
(これで2匹目。だが・・・・・・)
察知した敵の気は2、3匹程度ではなかった。先程しとめたオオカミ程度の気が6つ、それよりも少し強めの気が5つ。そして、これらとは比べ物にならないほどの強い気が1つ、おそらくこれがボスなのだろう。
(夜が明けるまでにこの森を出ないと…。こんなところで手間取ってる暇はない)
確かに、このような月明かりがほんの少ししか入ってこない森に長い間いようものなら、方向間隔を失ってしまい迷ってしまうのは間違いないだろう。
(だが、相手が襲いかかってくる気配が全く感じられない。ならば・・・・・・)
と、いきなり方向転換をする。きちんと舗装された道のほうへと向かって走り出した。
(なるほど、思った通りだ)
頭の中で相手の気の分布図を描いた青年は、微かな笑みを浮かべる。
暫く走っているうちに、舗装された道に出ることができた。舗装されているとはいっても明かりは1つもなく、草1つ生えていない肌色の地面が続いているだけの道だが。
コオオオオオ・・・・・・
道に出るや否や、1回深呼吸をすると目を閉じてすぐさま精神統一に掛かる。体から気のオーラが煙のように放出されている。しばらくして・・・・・・。
ガサササア!!
「グアオオオ!!」
「キシャアア!!」
茂みから複数のモンスターがいっせいに彼目掛けて襲いかかってきた。そして、それを待っていたかのように彼は目を見開いた。
「奥義『噴嵐』!!」
体内の気を左手に集中させ、そのまま拳を地面に叩き付ける。それと同時に地面から彼を取り囲むように光の円柱が吹き上げる。
「ギャアア!!」
「ギィィィィ!!」
地面より吹き上げられた円柱に飲み込まれたモンスターたちは、次々と宙に吹き上げられる。モンスターたちは蒸発はせずそのまま地面に叩き付けられる。
(小さい気が全て消えた。ザコは全て片付いたか)
立ち上がり、自分が確認した気の数と、地面に伏しているモンスターの数とを照合し終わると、また地面に今度は手を開いたまま当てて呪文の詠唱に入る。
『母なる大地よ、汝の力を以てこの者達に永遠の安らぎを与えよ…
アース・ベリオル』
彼の静かな言葉が森に微かに響くと共に、地面に彼を中心として直径5mほどの光の円が描かれる。
すると、息絶えていたモンスターたちが次々とその光に飲み込まれていく。光の円が消えると、先程まで無惨に倒れていたモンスターの死骸は1匹も無くなっていた。
暫くして、地面から消えたモンスターの数分の小さな青白い球体が現われ、シャボン玉のようにフワフワと空へと飛んでいった。恐らくは倒されたモンスターたちの魂魄なのだろう。
魂魄が森から消えたのを確認すると、青年は舗装された道に沿って再び歩き始める。日の出が近くなっているためか、徐々に森の中が明るくなってきている。
その時、森に不気味な声が響き渡る。
「クククク、なかなかアジな真似をしてくれるじゃねぇか」
ヴンッ!!
耳障りな音と共に、青年の目の前に何者かが現われた。鎖かたびらの上に拘束衣のような漆黒の服を来ている。銀色の髪はまるでそれ自身が光を発しているかのようだ。両目は大きな眼帯で覆われているが、見えてはいるようだ。
「さっきのモンスターの襲撃はあんたの仕業か」
モンスターとの戦闘中に感知したもう1つの大きな気と、今目の前にいる人物の気が一致していた。
「そうだと言ったら‥‥‥?」
ゴウッ!
間髪入れずに、青年は気の固まりを放つが、眼帯の男は難なくそれをかわす。
「おいおい、いきなり攻撃とはご挨拶じゃねぇか」
男の口調には余裕があった。それほどに腕の立つ人物なのだろう。
「そこを通してくれないか。先を急ぎたいんでね」
男は、青年が2発目の気を溜めているのを確認した。
「何をそんなに力んでるんだ? お前らしくもないな」
「!?」
お前らしくもない・・・・・・? どういう意味だ?
男はまるで以前から青年の事を知っているようなそぶりでそう言った。
それを期に青年は「いつもの」冷静さを取り戻したのか、気の光を消した。
逆に青年には、男が一体何者なのか、そんな事に興味を抱き始めた。
「誰だ、お前は?」
「そうだな…。まあとりあえずは『シャドウ』とでも呼んでくれればけっこう」
青年のあまりにも単純すぎる質問に、『シャドウ』はそう答えた。
今のシャドウからは闘気は感じられなかった。だが、その場を離れるような行動は一切起こそうとしない。
「なぜ、俺の邪魔をする」
「別に邪魔なんてしてないぜ。ちょっと、お前の力を試させてもらっただけさ」
「力? なるほど、やはりあのモンスターたちはあんたが操っていたのか」
「そうだ」
青年の2回目の質問に、それを抵抗する事なく肯定する。シャドウは続ける。
「どうだ、俺が憎いか?」
「? なぜ憎む必要がある? あの程度、軽く準備運動させてもらったと思えば安いものさ」
「・・・・・・、まあいいだろう。ところで・・・・・・」
しゃあしゃあと言い放つ青年をみて
「お前の戦いの一部始終を見せてもらったよ。どうやら、その強さは変わってないようだな。安心したぜ! さすがは『心月流』の正統なる継承者というわけか…」
「!? …どこでその名前を覚えたかは知らないが、随分と有名になったものだな。だが、あんたとは初対面のはずだが…?」
シャドウのその言葉・・・・・・特に『心月流』という言葉に微かに動揺を示すものの、青年はすぐに落ち着きを取り戻す。
「ククク、そのうちわかるさ。・・・・・・ん? もう夜明けか」
シャドウと会話をしているうちに、いつの間にか一番鶏が鳴いていた。森の中にとぎれとぎれに差し込むオレンジ色のカーテンが青年とシャドウを優しく照らしている。
「その強さに免じて今回はこの辺で引き上げてやるよ。次に会うときを楽しみに待ってな。ヒャハハハハハハ!!」
高らかな笑い声と共に、シャドウは森の闇の中へと消えていった。
「・・・・・・、別に会いたくないけどね」
髪をかき上げながら、そんな事をつぶやく。
結局、奴の正体はわからずじまいか。
奴は俺が『心月流』の継承者である事を知っていた…。そればかりか、あの口調。まるで以前に奴は俺と出会っていたかのようだった。
だが俺には、過去の記憶がほとんど無い・・・・・・。
(奴はいったい・・・・・・?)
グゥゥゥゥ・・・・・・
そんな事を考えていると、腹が鳴り出した。ここ暫く水ばかりで、食事といった食事にありつけていないのだ。
(さっきの戦いで、エネルギーをけっこう消費してしまったな。早くこの森を抜けないと)
腹部に手を当てつつ、青年は足早に森の出口へと向かった。あまり余計な体力を使わないように注意して進む。そして、やっとの事で森を抜けることができた。
「うっ・・・・・・・・・」
今まで暗い森の中だったために、急激な明るさの変化に目が追いつけなかった。しばらくは目の前に手を翳していなければまともに目を開けていられなかったが、徐々に目が明るさに慣れてきた。
森を抜けると、そこは少々高い丘の上だった。
「街だ・・・・・・」
丘の上から確認できたのは、まさに街と呼ぶに相応しい風景だった。豪邸が4つ、コロシアムと思われるドーム状の建物と、敷地面積の大きい建物が目立つ街だが、その他はごく平凡な作りの建物が立ち並んでいる。
建造物が比較的多い街ながら緑に恵まれていて、街のそのまた向こうには大きな山がそびえている。街のほぼ中央には比較的大きな川が流れていて、その先には大きな湖が広がっている。
だが、青年にはこの街から何処かしら引き付けられる所があった。
まだ夜が明けたばかりなので、人通りが少ない。
「助かった・・・・・・。取り敢えず、降りてみるか」
しばらく町の景色を眺めていた青年は、食事にありつけるために街の門へと向かって丘を降りることにした。
町並みを眺めながら、丘を下りていく青年。それと共に、太陽も徐々に昇り始めるとともに自らが放つ光を強めている。
数分もかからないうちに門に差し掛かった。
『Enfield』
門を覆っているクラウンを象ったアーチにはそのように書かれてあった。
「エンフィールドか・・・・・・いい名前だ」
そんな事をつぶやきつつ、門をくぐる。
門の内側には番兵が立っていた。
「旅の方ですか?」
20歳前後の若い番兵が青年に話しかけてくる。青年は足を止めた。
「そうです。…レストランは何処にありますか?」
空腹感を押さえつつ、青年は尋ねる。
食事にありつけると言っても、青年はこの街に来たばかりなので、店がどこにあるのか知らないで当然だ。
「そうですね…。レストランでしたら『さくら亭』と『ラ・ルナ』なんか如何でしょう? ‥‥‥っていってもこの街にはこの2つしかありませんけどね」
苦笑いを浮かべつつ、若い番兵は説明を続ける。
「『さくら亭』はレストランと宿屋が一緒になっていまして、『ラ・ルナ』はちょっと高級な雰囲気が漂うレストランです。宿もおとりになるのでしたら、
前者の方をお勧めいたしますよ。…ちょっと待っててください。いま、地図を持ってきますので」
そう一言断ると、門より幾分離れたところにある詰所へ駆け出していった。
…しばらくして、包れた一枚のB4サイズ大の紙を片手に戻ってくる。
「これをどうぞ。この街を初めて訪れる方々にはタダで差し上げているものです」
番兵から地図を受け取ると半分だけ広げてみせる。カラーで描かれていて、『ルクス通り』『エレイン橋』など、けっこう細かいところまで書き記してある。
懇切丁寧に店のオススメ商品なども書かれてあるのを見て、青年は軽く喉を鳴らした。
「何から何まで助かりましたよ。ありがとう」
「どう致しまして。それでは、ようこそ、エンフィールドへ」
この日、1人の旅の青年がここ、エンフィールドを訪れた。
その青年の名は『はぎ…』いや、『朝倉禅鎧』。
青年はここである事件の矢面に立たされることになる。無論、彼にはそのような事など知る由もない。謎の人物「シャドウ」との出会い…。
禅鎧の運命の歯車はどのように廻るのだろうか。それは幾日かの夜が訪れた後に語られることになる。
to be continued...

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