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「DARK HALF」 輝風龍矢  (MAIL)
The last song

●第5章:DARK HALF -TOUCH YOUR DARKNESS-

「ドクター! 急患だ!!」
 行き倒れ…とは思えないほどの、何か特別な力に捕らわれた青年を発見したアレフとリサは、とりあえず街外れのある総合病院に運ぶことにした。
「何だ、騒がしい。病院内では静かにしろ!」
 『クラウド医院』‥‥‥。ここエンフィールドに存在する、唯一の総合病院である。若き天才医師『トーヤ・クラウド』の経営する病院で、エンフィールドの住民たちからの信頼もかなり厚く、自警団御用達の緊急病院でもある。
「ドクター、そんなこと言っている場合じゃないんだ。とにかく、見てくれないか!」
 興奮状態のアレフに替わって、リサが事の重大さをトーヤに伝える。
「分かっている。早く、こっちに運んで来い!」
 アレフとリサは、急いで往診室に運び、ベッドに横たえる。トーヤは素早く聴診器を付けて、近寄ってきた。
「どうしたんだ、こいつは?」
「実は‥‥‥」
 アレフがそう話を続けようとするが、そこへ横からリサが口を挟んできた。
「待ちな、アレフ。私から話すよ」
 行き倒れの青年を運んでいる時に、少しだけはだけてしまった黒い厚めのジャケットを着直すと、青年を見付けた時のいきさつを話し始めた。
「最初に彼を発見したのはアタシなんだけど、今更そんな事はどうでもいい。最初は、単なる空腹による『行き倒れ』か何かじゃないかと思ったんだ。だけど、腹の虫は全然鳴いてないだろう? それに、この夢にうなされているような悲痛な表情‥‥‥。ヘンだと思わないかい?」
 リサの説明を、トーヤは腕組みをしながら黙って聞いている。時折、側のベッドに横たわっている青年に視線をちらちらと送りながら。
「ああ…。その事なら、俺も先程から変だとは思ってた」
 トーヤの肯定を示す言葉を聞いて、リサは更に説明を続ける。
「そこへアレフが到着して、2人でこうやって運んできた訳なんだけど‥‥‥とりあえず、彼の背中を見てみてくれないか?」
「背中‥‥‥?」
 トーヤは半信半疑ながらも、リサに言われた通りに、青年をうつ伏せの体制に直してみる。そして衣服を脱がせて、上半身裸にしてみる。
「‥‥‥‥!!? これは!!」
「‥‥‥‥‥!!」
 次の瞬間、アレフとトーヤは我が目を疑った。青年の背中には傷などは1カ所も見当たらない代わりに、何らかのどす黒く描かれた不気味な紋様が刻み込まれていたのだ。リサも2度目とはいえ、1度目は衣服に間接的に浮き出ていた模様だったために、直接肌に描かれた紋様を見るのに驚きの表情は隠せない。
「う‥‥‥。な、何だこれ?」
 アレフはそれを見た途端、一瞬吐き気に似たような感覚に襲われた。続いてリサも、2度目とはいえ直接背中に浮き出たそれを見るのは初めてだ。血の気が一気に引いたような感覚を覚えるが、すぐに体勢を立て直す。
「ドクター…。これで、ただ事じゃないことが分かっただろう?」
 トーヤも心なしか、顔が少しだけ青ざめているように思えた。手で口元を押さえながら、その紋様をじっと無言で凝視している。これはもう、リサとアレフの意見を肯定せざるを得ない状態だった。トーヤの切れ長の目が、恐怖の感情に冒されている。
「ドクター…、これは一体…」
 アレフがトーヤに答えを求めようと試みるが、トーヤからの返事はなかった。
「ドクター?」
「ん? あ…ああ、すまない‥‥‥。とりあえず、魔術師組合の長を呼んできてくれないか? 話はそれからだ」
「‥‥‥わかった。俺が呼んでくる。リサは待機していてくれ」
 アレフはそう言うや否や、リサの返事を聞かずにクラウド病院を出ていった。そして、アレフと入れ替わりにパティ、シーラ、ローラ、マリアの女性陣4人が入ってくる。
「ねぇ、ドクター。容態はどうなの?」
「大丈夫なんですか?」
「お兄ちゃんは?」
「静かにしな! 患者が居るんだよ!!」
 トーヤに代わって、リサがギャアギャア騒ぐ3人を静かにするよう一喝する。
「あっ…、ごめんなさい‥‥‥」
 シーラとパティはすぐに、自分の無礼を詫びた。
「全く…。この患者の事を心配するその気持ちは分かるが、他の患者の迷惑も考えて貰いたいものだな‥‥‥」
「ぶぅ☆ そういう言い方はないんじゃない?」
 マリアが子供のように膨れた顔をしながら文句を言った。
「ドクター…、今のはアタシも言い過ぎだと思うよ」
「そうか、‥‥‥すまなかったな」
 側に控えているリサの言葉に、さすがのトーヤも言い過ぎた事を認めた。
「ううん、あたしたちが悪いんだからドクターが謝る必要はないわよ。‥‥‥で、改めて聞くけどどうなの?」
「見ての通りだ‥‥‥」
 トーヤは、そこに苦痛に満ちた表情をして横たえている青年の方に首をあおった。パティたちはぱたぱたと青年の側に近づく。青年の背中は、衣服で隠されていた。リサだろう、4人のことを気遣っての判断だ。
「どうしてこんなに苦しんでるんですか?」
 パティたちも、青年の身体には傷1つ付いていないことに気が付いたらしく、その疑問をシーラが代表してトーヤに投げかけた。
「それは、アレフが来てから話す」
 トーヤは首を静かに横に振り、冷静な口調で説明は後にすることを伝える。
「アレフって…。さっき、ここに来たときにアレフがどこかに走って行ったことと関係があるの?」
「ああ…。魔術師組合の長を呼びに行ったんだ」
 今度はリサがその事に関して重い口を開いた。
「魔術師組合? なんでまた‥‥‥」
 バタン…!
 マリアがそう続けようとしたところに、ちょうどアレフが息を切らせて入ってきた。 「ハァ、ハァ‥‥‥。ドクター、連れてきたぜ」
「ああ、すまない」
 アレフの後ろから、ゆっくりと茶色いローブを全身に身を纏っている老人が姿を現した。白くなった眉や顎髭は比較的長く、魔術師組合の長としての威厳を保った顔つきだ。愛用のロッドを持つ手や、ローブから覗く顔から見て取れる多数のしわから、今までに言いしれぬ苦労を乗り越えてきた事が見て取れる。
「全く、こんな老いぼれを走らせるとはな‥‥‥」
「申し訳ない、長。アレフに代わって、俺からお詫びをしよう」
 トーヤは、長に向かって深く低頭した。
「‥‥‥フン、もうよいわい。しかし、この儂を呼ぶとはよほどの事なのだろうな…」
「ああ‥‥‥」
 本人が言う通り、魔術師組合の長がクラウド病院呼び出されるということは、滅多にないことだ。本来ならば、普通の組合員を呼んで事を済ませるところなのだが、それは事の重大さを意味していた。
「とりあえず、こいつの背中を‥‥‥」
「ちょっと待ちな。パティたち4人は見ない方がいい」
 リサが、トーヤに向かって注意を促した。
「‥‥‥ああ。その方がいいな」
 青年の背中に刻み込まれた紋様を見たアレフも、その意見に賛同する。マリアがまた「ぶぅ☆」とふくれっ面をするが、トーヤも首を横にしか振らなかった。仕方なく、4人はしぶしぶ待合室で待機することにした。
「これでよし‥‥‥」
「うむ…。では長、改めて説明させて貰う。まずは、これを見てくれ」
 そう言って、トーヤは青年の背中を覆っている衣服をたくし上げた。
「‥‥‥‥ム!?」
 次の瞬間、長の顔に緊張が走った。アレフとリサも、少しだけ表情が濁ってしまう。相も変わらず、不気味などす黒い紋様がそこに刻み込まれてある。
「…全く、何度見ても気味の悪い紋様だぜ」
「ああ…」
 その傍らで、アレフとリサが先程までの恐怖は感じなくなったものの、
「長、これはまさか‥‥‥」
「‥‥‥ウム、間違いないだろう」
 この後の会話は、小声で話しているため後ろに控えているアレフとリサには聞こえていない。
「この『魔法』を解くには、あの『魔法治療法』しかないが‥‥‥。申し訳ないが、使用の許可を頂きたい。その為に貴方をお呼びしたのだから」
「ウム‥‥‥。本来ならば許可は出せないところだが‥‥‥、いた仕方ない。特別に許可する‥‥‥」
「申し訳ない‥‥‥」
「うむ。‥‥‥しかし、このような魔法を使う者がまだ存在したとはな。しかも、かなり厄介な代物だ」
「全くだ‥‥‥。このような患者を取り扱うのは、これっきりにしたい…」
 トーヤと長が2人だけで話を前に進めているため、アレフとリサはきょとんとしながら顔を見合わせている。
「ち、ちょっと…ドクター。俺たちにも分かるように説明してくれよ」
 だが、次にトーヤの口から出てきたのは、アレフのこの言葉に対する答えとはかけ離れたものだった。
「2人とも済まないが、他の4人と一緒に待合室で待っていてくれ。これから行う治療方法はあまり人に見せるものではないのだ‥‥‥」
「えっ、だけど‥‥‥」
「分かったよ、ドクター。アレフ、ここはおとなしく待合室で待っていた方がいい。‥‥‥魔術師組合が出てくる事、それが何を意味しているのか、あんたも子供じゃないんだから分かるだろう?」
「‥‥‥そうだな」
 冷静なリサに促されて、アレフは素直に往診室を出ていくことにした。以前に長が『自分は余程のことがない限り、呼び出される事はない』と言っていた事を思い出したのだ。 アレフとリサが出ていった瞬間、完全に第三者が待機している『待合室』という空間との間を一時的に閉ざされた『往診室』という空間の空気が、一瞬にして緊迫した雰囲気へと変わる。
「よし‥‥‥。では始めるとするか…。ドクター・クラウド‥‥‥」
 トーヤが、フッと軽く苦笑いをこぼした。そして、掛けていた眼鏡を外した。
「正直、久々に『これ』を使う事になるとは思いませんでしたよ」
「『鬼門敦煌』‥‥‥か。随分と厄介な異物を持ち込んでくれたものだな…。まあ、そんなことはどうでもよいな。では、結界を張るぞ。準備はよいか、ドクター・クラウド?」
「いつでも‥‥‥」
 トーヤのその言葉を最後に、往診室は完全なる沈黙に包まれた。

「アレフ! どうなったの?」
 一番真っ先に声を掛けてきたのはパティだった。他の4人の視線が、一斉にアレフとリサに集中する。
「どうやら何とかなるようだから、心配入らないよ」
「よかった‥‥‥」
 その場にいた全員が、同時に安堵のため息をもらした。胸の前で手を絡ませていたローラは、特に安心した様子だ。
「よかったわね、シーラ」
「えっ…?」
 そこへパティが、隣に座っているシーラに茶々を入れてきた。意地悪い笑顔をしながら、パティは言葉を続ける。
「だってシーラ、一番心配そうな顔してたじゃないの」
「わ、私は。その‥‥‥」
「ンフフフ。照れなくていいのよ、照れなくて」
「…もう! パティちゃんたら…」
 その言葉を境に、全員から明るい笑い声が聞こえた。シーラは、頬を赤く染めたままうつむいてしまう。
「ごめんね、シーラ。悪気はないのよ。ただ、優しいなあって思ってさ‥‥‥」
 パティはすぐさまそこにフォローを入れる。それを聞いたシーラは、何とか機嫌を取り戻したようだ。
 ガチャッ…
 とそこへ、クラウド医院に来客を告げるドアの開閉音が響いた。入ってきたのは、リカルドだった。その後ろから、クリスとエルが続いて入ってきた。
「随分と遅かったな」
 確かに、自警団を呼びに行っただけにしては、あまりにも時間がかかりすぎている。アレフは少し不安げに尋ねてみる。
「すまない…、ちょっと手間取ったもんでね」
「そう‥‥‥。あれ、ところでトリーシャは?」
 パティの言う通り、確かにクリスとエルと一緒に呼びに行ったはずのトリーシャの姿がなかった。
「トリーシャには、家の留守番を頼んでおいたので私が代わりに来たのだ」
「それにしても、単なる行き倒れの事件に自警団隊長でもあるリカルドさんが、直々に来てくれるとは思わなかったですよ」
 クリスがそう思うのも無理はない。もちろん、一緒に呼びに行ったエル、この場にはいないがトリーシャも同じ事を思った事だろう。
「‥‥‥残念だけどクリス。これが『単なる』行き倒れじゃなくなってきたんだ」
 しばし考えてから、アレフはクリスに緊迫感のある口調で言った。
「どういうことかね?」
「今、ドクターがその行き倒れの青年を治療しているところなんだけど。魔術師組合の長も一緒に居るんだ」
「えっ?」
 クリスとエルが、同時に疑問符を帯びた言葉を発した。
「なぜ呼ばれたのか? 恐らくはその青年は何らかの魔法を受けているんだろうね。しかも、長じゃないと解けない強力な魔法がね‥‥‥」
 その場にいた誰もが、リサのその自問自答の意見に息を飲んだ。
「ふむ‥‥‥なるほどな。ところで、その『行き倒れ』の青年の名前は?」
 リカルドの設問に、アレフとリサが『あっ』と顔を見合わせた。クラウド医院に運ぶことだけで頭がいっぱいだった為に、青年の名前の確認という肝心な事を忘れていたのだ。
「その青年の荷物はあるかね?」
「ここにありますよ」
 パティは自分の座っている長椅子の下から、青いナップサックを取り出した。ところどころ汚れが目立つが、よく使われているようだ。
「では、ちょっと失敬して。ん、随分と軽いな‥‥‥」
 そのナップサックは、大きさや膨らみの割りには手応えがあまりなかった。そんな矛盾を気にしながら、リカルドは自分も別の長椅子に腰を下ろしてから、中身を確認することにした。まずは、側面にある小物入れから調べだした。
「なんだこれは?」
 中から出てきたのは、薬品のような青と白のカプセルだった。丁寧に、透明な容器の中に入れられている。だが、中身はどうでもいい。その容器に名前らしきものが書いてないか調べてみるが、何処にも書いてない。
「何か病気持ちなのかしら?」
 それをもの珍しそうに、向かい側の長椅子から見ているマリアはそう思った。だが、それに応える者は誰もいない。無言のまま、青年のナップサックの中身を調べ続ける。
 数分後‥‥‥。側面の小物入れを全て調べたが、見たこともない道具や薬品が見つかっただけだった。往診室からの応答も全くない。結界を張っているのだから、音沙汰がないのは当然なのだが‥‥‥。
「けっこう治療に時間がかかってるな。それ程までに強い魔法なのか?」
 リサが腕組みをしながら、往診室へと続く扉をじっと見ている。
「そんなに凄い魔法なの? 完治した後でいいから、教えて貰おうかな☆」
「バカッ。お前みたいな子供にそんな大層な魔法が扱える訳ないだろう? それに、その青年がその魔法を使えるとは限らないじゃないか」
 マリアの罰当たりとも取れる発言に、エルが厳しくツッコミを入れる。マリアはいつものように「ぶぅ☆」と不服の表情を浮かべるが、エルは「ふん」とそっぽを向くだけだ。いつもならここで口喧嘩が始まるのだが、さすがに今回は場所をわきまえているようだ。
 その間にリカルドは、ナップサックの中身を調べ始めた。こちらには短剣や食料、何らかの蔵書などが入っていた。あいにく、こちらにも身分を証明するようなものは入っていないかに見えた。
「ん?‥‥‥これは」
 ナップサックの奥の方から、シルバーメタリックのファイルを発見した。それには、名前の代わりに『SCORE FILE』とだけ書かれてあった。
「‥‥‥‥楽譜?」
「えっ?」
 シーラが思わず声を上げた。そしてイスから立ち上がり、リカルドの側に近づいてくる。
「あの…、見せて頂けますか?」
「ん? ああ、いいとも」
 拒むことなく、リカルドはシーラにその楽譜が閉じてあるファイルを手渡した。楽譜は関係ないなと、自分で判断したからだろう。シーラは自分の席に戻り、中を開いてみる。パティ、アレフ、クリス、ローラ、マリアも、興味津々と横から覗いてきた。
「すごい‥‥‥‥」
 用紙に書かれた五線譜には、所狭しとオタマジャクシたちが気持ちよさそうに泳いでいた。手書きらしく、ところどころ何回か掻き消した後も見受けられる。
「かぁ〜。こりゃすごいわ…」
「へぇ〜」
「すごいわね、シーラ‥‥‥」
 アレフ、クリス、パティも、それぞれ十人十色の感想をぽつりと呟いた。
「『Fall in YOU』。あっ、これ私好きだなあ。‥‥‥でもこれって、お兄ちゃんが作った曲なのかなぁ?」
 脳天気な言葉の後で、なかなか鋭いところをつっこんでくるローラ。シーラはただ首を横に振るだけだった。
「多分そうね…。まだ手書きの状態だし、旅の途中で清書の依頼をしようと思ってるんじゃないかしら? それにしても、かなりレベルの高い作品ね。私でも弾けるかどうか…」
「ふうん…。でも、さすがシーラね。見ただけでここまで分かるなんて。かっこいいわ」
 シーラは、パティの感激と感心の入り交じった言葉に、ほのかな照れ笑いを浮かべた。
 しばらくして、リカルドはナップサックを全て調べ終わった。そして、困った顔のまま深いため息を付いた。結局、青年の身分を証明するような品物は1つも見つからなかったらしい。
「だめだ、見つからない。結局、手がかりなしか‥‥‥」
 リカルドがそう諦めかけようとしていたその時‥‥‥。
「いいえ、あります」
「!? シーラ?」
 そう断言したのはシーラだった。あまりの事に、パティは驚きの声を上げてしまう。他の7人も驚きのあまり言葉を失ってしまっている。
「多分、この楽譜に書いてあるんだと思います。作曲者はその作品が盗作されないようにと、楽譜の何処かにその人の名前を表す暗号をわざと混ぜて書いておく人が多いんです。これなら、そうとは知らずに弾くととんでもない音になって、台無しにする事ができますから。実際、私もそれと同じ方法で曲を書いてるんです」
 シーラのソイルカラーの瞳は確信に満ちていた。音楽知識にはあまり長けていないアレフとパティたちは、シーラを黙って見守っているしかなかった。
「‥‥‥なるほど。それで、名前は?」
 リカルドはしばし考えた後、シーラに名前の確認を依頼することにした。シーラはたくさんある楽譜の中から『futures door』という曲を選んで、暗号の解読に当たった。
「大丈夫か、シーラ君?」
 その場にいた全員の気持ちを、リカルドが代表して言った。
「はい。‥‥‥‥あ、ここだけ旋律が不自然になってる。コード進行も表記されていないわ。多分、ここが暗号になっているのね。う〜ん、分かりました。‥‥‥ええと、あ・さ・く・ら・ぜ・ん・が・い…。『あさくらぜんがい』さんですね」
「!!!?」
 その名前を聞いた途端、その場にいた者全員の背筋に冷たいようなものが走った。
「‥‥‥おい、『朝倉禅鎧』って。おっさん!!」
 アレフのその言葉と同時に、全員の視線がリカルドに集中した。リカルドは厳しい表情で、首を縦に振りこう言った。
「確かに。ただの『行き倒れ』ではないな‥‥‥」

To be countinued...



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