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「Dear My Friend...again 」 輝風 龍矢  (MAIL)

The last song

第8章:Dear My Friend...again -Continued Edition-

「よぉ、リサ。今お帰りかい?」
「ああ、アレフたちか。今丁度、材料の仕入れから戻ってきたところだよ」
 さくら亭を出てから間もなく、3人はリサ…と呼ばれた女性と鉢合わせになった。フローラルホワイトの髪の毛は、大きく逆立てられている。身の丈は禅鎧と同じぐらい長身だ。黒いジャケットと、黒いズボンを身に付けていていて、胸に肩幅ぐらいの段ボール箱を抱えている。
「? 今日はまたいつもと頭数が違‥‥‥。まさか、そっちのボウヤは」
 どうやらリサも、禅鎧の正体に気付いたようだ。それを見たアレフが不適な笑みを浮かべた。
「さすがはリサだな。その通り、さくら亭で消えたと騒がれている人物、そして俺たち2人がクラウド医院に運んだ患者本人だよ」
「ふ〜ん、無事復帰したわけだね。良かったじゃないか」
 人の良さそうな笑みをこぼすリサ。
「紹介するよ、禅鎧。彼女はリサ・メッカーノ。お前を、俺と一緒に病院へ運んでくれたんだぜ。で、リサ。分かってると思うが、彼が朝倉禅鎧だ」
「ああ、知ってるよ。どうだい、身体の方は?」
 リサにそう尋ねられると禅鎧は、かけていたサングラスをはずして襟元にフレームをかける。
「ああ、何とか大丈夫だ。その節については、礼を言わせてもらうよ」
「いや、無事ならそれでいいさ‥‥‥ところで、アレフ」
「? …何だ?」
 アレフを手招きしてくるリサ。その表情は真剣そのものだった。そして、何やらアレフの耳元でヒソヒソと話し始める。
(あの傷の事は、話したのか?)
(いや…、まだだ。まだ病み上がりだし、それにさっき自警団で事情聴取されたらしい。多分、精神的にも参っているだろうからな)
(フ〜ン…、アンタにも優しいところあるんだね)
「なんだよ、それ。俺はいつでも心優しい好青年だぜ」
 そして2人の笑い声がさくら通りの街角に響き渡る。やがて、リサの耳にさくら亭店内の賑やかなざわめきが流れ込んできた。
「? 珍しい事もあるものだね。この時間に、さくら亭が騒がしいだなんて」
 リサのその言葉に、アレフの端正な顔がニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「だろう? それというのも、禅鎧のお陰なんだよ」
「うん。禅鎧さんが店内で演奏してくれてさ」
「演奏? ああ、確か音楽をやってるんだったね。…なるほど、この賑やかさからして、相当な腕の持ち主のようだね」
 陽の高さからしてもうすぐ午後3時を回る頃だというのに、一行に客が収まる気配もない。リサは感心したように、首を2〜3回縦に振る。
「ああ、正にシーラの言ってた通りだったぜ」
 得意げに語るアレフ。後ろで禅鎧と並んでいるクリスも、笑顔で禅鎧のすごさをリサに伝えている。
「へえ…。ところで、これから何処に行くつもりだい?」
「禅鎧に、エンフィールドを案内してやろうと思ってな」
 クイッと親指で後ろの禅鎧を指しながらアレフ。
「そうかい。そのすごい演奏とやらを聴きたかった所だけど‥‥‥ま、気を付けてな」
 その会話を最後に、禅鎧たちはリサと分かれた。
「朝倉禅鎧‥‥‥か。意外と礼儀を弁えてるみたいだね」
 禅鎧たち3人の背中を見送っているリサ。そしてその言葉に、付け加えるように心の中で呟いた。
(それに、何らかの武術も多少ながら…いや、結構たしなんでいるみたいだね)

「ここがさくら通り。今は静かだけど、午前中から正午にかけては沢山の人で賑わうぜ。そして、そこにあるのが『夜鳴鳥雑貨店』。生活用品とか、いろいろな物が売ってる」
 禅鎧たちはさくら亭を出てすぐの丁字路を通っている『さくら通り』を歩いていた。アレフの説明を裏付けるように、横には出店などが並んである。
「そして、この通りをしばらく歩いたところに『陽の当たる丘公園』があるよ」
「公園?」
 『公園』という単語を聴いて、禅鎧は細い端正な眉を潜めた。あの日、さくら亭で食事を取った後そこを訪れたような、はっきりとではないがそんな情景が浮かび上がった。
「どうした?」
「‥‥‥いや、何でもない」
 怪訝な表情をして問い掛けるアレフの声で、禅鎧は我に返った。無意識に前髪を掻き上げる。
「公園もそうだが、『旧王立図書館』や『シーヴズギルド』などいろいろある。まあ、ここがエンフィールドのメインストリーの1つというわけだ。‥‥‥と、あのシルエットは」
 ふと、陽の当たる丘公園方面から歩いてくる人陰に気付くアレフ。
「よぉ、エル」
「? アレフにクリスじゃないか」
「こんにちは」
 クリスは、礼儀正しくペコリと挨拶をする。エルも「ああ」と手を挙げて応えてきた。
「? 今日はいつもと違う面子じゃないか。誰なんだい?」
「ああ。こいつが、さくら亭で消えたとされる人物でもあり、あの時『クラウド医院』に俺たちが運んだ患者でもある朝倉禅鎧だよ」
「‥‥‥なんだって?」
 エルは驚きの光を帯びた、少し釣り上がった瞳を禅鎧に向ける。エルが病院に行った時には既に面会謝絶のような状態だったので、今禅鎧とは初めて出会ったことになる。
「そんな奴がこうやって出歩いていて大丈夫なのかい?」
「いや…、別に消滅した客…禅鎧を知っているのは、パティとパティの親父さんだけだからな」
「違うよ。面会謝絶な程の傷を負ってたんだろう? どうなんだい?」
 この言葉は自分に向けられた言葉であると察した禅鎧は、エルの元に歩み寄ってくる。
「ああ…、今の所は不快なところは見られない」
「ふ〜ん…。まあ本人がそう言うんならいいけどさ…。あ、そう言えば自己紹介がまだだったね」
 黄色いメッシュの入ったエメラルドグリーンの前髪を掻き上げる。その傍らで、アレフが人の悪い笑みを浮かべた。
「へぇ〜。エルが他人の心配するなんて珍しいじゃないか。ひょっとして…」
「ば、馬鹿言ってんじゃないよ! それじゃまるで、アタシが友達想いじゃないみたいじゃないか」
 頬を赤く染めているからか、エルのその言葉にはいまいち説得力がない。ニヤニヤしているアレフだが、何かを思いだしたらしい。
「あっ、そうだ。まだ禅鎧に紹介してなかったな。禅鎧、紹介するよ…」
「いや、自分で言うよ。もう知ってるだろうけど、アタシはエル・ルイス。見ての通りのエルフだよ」
 そう言って、エルフの最大の特徴でもある尖った耳を指さす。
「俺は朝倉禅鎧。本当なら、俺から自己紹介するはずだったんだけど‥‥‥」
「ハハ…。いや、別に気にする必要はないよ」
 照れ笑いを浮かべるエル。
「ところでエルさんは、これから何処に行くんですか? トリーシャさん家ですか?」
「いや、行ってきた所だよ。で、今から『マーシャル武器店』に戻るところ」
 マーシャル武器店という言葉を聞いて、アレフが『ポンッ』と手を叩く。
「ああ、そうだ! 禅鎧にエルん家を案内するの忘れてたぜ。…『マーシャル武器店』は『さくら亭』前の丁字路を曲がらずに、真っ直ぐ行った突き当たりにあるんだ」
「おい、アレフ! それはちょっと酷いんじゃないのか? …ま、でも確かにあんな寂れた武器店じゃ無理もないか‥‥‥」
 苦笑いを浮かべながら、エル。アレフは片手を低く挙げて「悪かった、悪かった」と謝る。それを見てクリスもクスクスと笑いをこらえているようだ。
「でもまあ、それほど此処が…エンフィールドが平和だという事なんだな」
 白い綿雲が漂う青海を仰ぎつつ、ポツリと禅鎧が言った。
「…そうかもね。そこが、アタシとしては複雑な所なんだよ」
「でも、最近じゃ郊外でモンスターとかも沢山見られるようになったんだよ」
「物騒になってきたよな。先日も何か『フェニックス美術館』で盗難事件があったらしいな‥‥‥」
 とそこで、アレフの言葉が突然途切れた。というのも、禅鎧が何処かしら暗いような、物思いに耽っているような表情になっていたからだ。
「い、いや…別にお前が来たから、そういう風になったと言ってるわけじゃないんだ…。な、クリス」
「え? う…うん、そうだよ! 単なる偶然だよ、偶然」
 必死になって弁明を試みるが、禅鎧はハッとして2人を交互に見やった。
「? ああ…済まない、ちょっと考え事をしていて聞いてなかった」
 アレフとクリスは、安心するべきか怒るべきなのか、それらが入り交じったため息をついた。それを見ていたエルは『アハハハッ』と高笑いをする。
「…ところでアンタ、何か武器とか持ってるのかい? もしそうなら、一通りのメンテナンスもやってるから、良かったら来なよ」
「ああ、ありがとう‥‥‥」
 その会話を最後に、3人は別れることにした。しかし‥‥‥。
 チリン…。
「!!!!」
 禅鎧の細めの瞳が、突如強張った。一瞬だけだが、身体中に何やら冷たいものが走ったような感覚を憶えた。表情にはそれ程現れていないため、アレフたちは禅鎧の様子に気付いていない。
 禅鎧の視線は、エルの両耳に付けてあるイヤリングに焦点を合わせていた。太陽の光に反射して、時折負の残像が発生する程の閃光を発する。
(あのイヤリングは‥‥‥)
 ‥‥‥と、エルの歩みが止まった。そして、こちらを振り向く。気付かれたか…と、禅鎧は心の中で呟いた。
「あ、そうそう。1つ言い忘れてたけど、公園には今は行かない方がいいよ」
 意地悪い子供のような笑みを浮かべながら、エル。アレフやクリスは、突然の忠告に怪訝な表情を浮かべる。
「『自称天才女魔導師』が、練習してるからさ」
「??」
 ボムッ!!
 次の瞬間。公園の方から、大きな爆発音と怪しげな黒い煙が舞い上がった。
「なるほどね…。ご忠告ありがとう」
 禅鎧は狐に摘まれたような顔をしているが、その『自称天才女魔導師』の正体を知っているアレフとクリスは「またか」と、苦笑いを浮かべている。
「言い残したのはそれだけ。じゃあな」

 エルと本当に別れた後、禅鎧たちはエルからの忠告通り『陽の当たる丘公園』を通り過ぎ、『旧王立図書館』の向かいの角を曲がって『リバティー通り』に入り、『学問の小道』を抜けて『エンフィールド魔法学園』まで来ていた。
「ここは『エンフィールド学園』。今日は休日だから静かだけど、平日は沢山の学生たちで賑わう場所だ」
「僕もここに通って、魔法などを習っているんだ」
「へぇ…すごいじゃないか」
 感心したように禅鎧。クリスは照れ笑いを浮かべながら、後ろ髪を撫であげる。そこでアレフが、また何やら思いついたようだ。
「そうだ。クリス、折角だから禅鎧にお得意の魔法を見せてやれよ」
「ええっ…、ここで?」
 額に大きな汗水を浮かばせてクリス。「う〜ん」と唸りながら、困った顔をして頬をポリポリと掻く。
「一番初歩の魔法でもいいからさ。なあ、禅鎧。お前も見てみたいだろう?」
「‥‥‥それもいいかな」
「う〜ん‥‥‥。禅鎧さんがそう言うのなら…、分かったよ」
 そう言うと、クリスは一つ大きく深呼吸をすると静かに目を閉じた。そして小さな声で呪文の詠唱に入ると、目を開けて片手を前にかざした。どうやら、地面に転がってある小石を目標に選んだようだ。呪文の詠唱が終わると同時に、クリスのかざされた手がまたたき始めた。
「行けっ、ルーン・バレット!」
 バシュッ!!
 クリスの声と同時に、手の平から小さな魔法弾が発射された。瞬く暇も与えずにそれは見事に小石へと命中し、それを路肩の茂みの中へと弾き飛ばすことに成功する。
「ヒュウ〜♪ なかなかやるじゃないか! なぁ、禅鎧」
「…ああ、見事な精度だよ」
 2人から拍手の洗礼を受けたクリスは、頬を紅潮させて照れ笑いを浮かべた。
「そ…そんな事ないよ。だってこれは、基礎中の基礎の魔法なんだから…」
 しどろもどろになりながらクリスは謙遜をするが、禅鎧は静かにかぶりを振った。
「いや…。基礎が出来ているからこそ、他の魔法だってすぐに使えるようになるはずだ」
「禅鎧さん‥‥‥」
 アレフもウンウンと腕を組んで頷いている。
「そうだぜ、クリス。もっと自分に自信を持てよ。‥‥‥と、そろそろ他の場所に行こうぜ。早くしないと日が暮れちまう」
 そんな和やかな雰囲気のまま、3人はエンフィールド学園を後にした。

 禅鎧たちは、もう1つのメインストリートである『フェニックス通り』へと来ていた。此処に来る途中、『クラウンズ・サーカス』前でピート・ロスという少年と出会ったことを付け加えておく。
「さっき出会ったピートは、あのクラウンズ・サーカスでお世話になっているんだ」
「週1回はショーをやってるから、今度見に行こうよ」
「ん? あ、ああ‥‥‥」
 現在は比較的賑やかなフェニックス通りの街並みを3人は歩いている。禅鎧は不思議な感覚を憶えていた。なぜこの2人は自分にこうまでしてくれる? 自分はひょっとしたら、すぐにここを離れることになるかもしれない。そうなれば、もう2度と会えなくなるのかもしれない。
「ここは『洋服店ローレライ』。俺がよく利用している店だ」
「ローレライもそうだけど、此処の通りもいろいろな店が並んであるんだよ。此処とさくら通りを歩けば、揃わない物はないんじゃないかなぁ?」
「なるほどね‥‥‥」
 だが禅鎧は、その事を口にしようとはしなかった。こういう感覚は初めてじゃないような気がしたからだ。
「あっ…、そうだ。禅鎧、『クラウド医院』には顔を出したか?」
「いや、まだだ」
「それはちょうどいい。病院がこの近くにあるから、礼ぐらい言っておいた方がいいんじゃないか?」
「…ああ、分かった。行こう」
 クラウド医院は、ローレライからほんの少し歩いたところにあった。比較的幅の小さな建物だが、奥行きが結構ある。
「こんにちは、ドクター」
 病院の中に入ると、独特の消毒薬の匂いが鼻腔を刺してくる。『診察室』と書かれた扉が開かれ、白衣と首に聴診器をかけた長身の男性が姿を現した。
「? アレフか‥‥‥何の用だ」
 比較的小さめの丸眼鏡をかけている。医者としての風格が現れている切れ長の瞳。アレフに負けず劣らずの美声。
「! まさか、そっちの青年は‥‥‥」
 禅鎧の姿を確認したトーヤのブラウンカラーの瞳が大きく見開かれた。
「ああ…、先日ここに運ばれた青年だよ」
「…朝倉禅鎧です。先日は、ありがとうございました」
 静かな口調で、トーヤに頭を下げる禅鎧。
「いや…。俺は医者として、当然の事をやったまでだ」
「あ〜あ、素直じゃねぇよなぁ…ドクターは」
「コホン…! ところで、身体の方は大丈夫なのか? 良ければ、今看てやっても構わないが‥‥‥」
 茶々を入れてくるアレフに対して、1つ大きく咳払いをするトーヤ。禅鎧は静かにかぶりを振った。
「いえ‥‥‥大丈夫です」
「そうか…。だが、無理はするなよ」
 また1つ頷く禅鎧。その時、若干堅めだったトーヤの顔が綻んだのは気のせいだろうか。
「用はそれだけか?」
「ああ…いや、まだ後1つあったよ。ちょっと耳を貸してくれ」
 アレフのその言葉に、怪訝な顔をしてトーヤ。
(例の不気味な模様のことは、まだ言わないでくれよ)
(ああ…分かってる。だが何れは、話すことになるだろう)
(そうだな‥‥‥)
 そこで2人は話を打ち切り、アレフは禅鎧の元へ歩み寄り肩をポンッと叩いた。
「さ、そろそろ行こうぜ」
「ああ、分かった」
 禅鎧とクリスはトーヤに軽く頭を下げると、クラウド医院を後にした。

 クラウド医院から、眩しい日差しを浴びている陽の下へ出ると、アレフは1つ大きく深呼吸をした。
「ふう…。流石に病院のあの独特の空気は、お世辞にも新鮮とは言えないよなぁ」
「何か僕も疲れちゃったよ」
 ハアッとクリスもまた大きなため息をついた。
「禅鎧、これで幾分かはスッキリしただろう?」
「ああ‥‥‥確かにね」
 禅鎧の表情に、少しばかり余裕が見られてきた。
「よしと! それじゃあ、次はエンフィールドが誇る一等地へと案内をするか」
 身体を奮い立たせるようにアレフ。とそこへ‥‥‥。
「ぜ、禅鎧さん、禅鎧さん!! 大変ッス〜〜」
「!?」
 針を指ではじいたような波長の声が、3人の耳に入ってきた。声が聞こえてきた方向へと振り向くと、見覚えのあるシルエットを目にした。テディだった。禅鎧の下まで走ってくると、ハァハァと苦しそうに激しく深呼吸をする。
「どうした、テディ!?」
「ハァ、ハァ‥‥‥説明は後ッス。ハァ、ハァ…早く一緒にジョートショップに来て下さいッス」
「えっ?」
 その言葉を聞いて禅鎧の脳裏に電撃が走った。アリサさんに何かあったのか? 禅鎧にはそれしか考えられなかった。
「テディのこの慌てぶり様、ただ事じゃないな。早く行ってやった方がいいぜ」
「ああ、分かってる…」
 禅鎧は疲労困憊のテディを抱き上げる。
「それじゃあ、仕方がないな。街案内はまた今度ということにしておくぜ」
「ああ、済まない…。今日は俺の為に時間を割いてくれて。感謝してるよ」
「じゃあね、禅鎧さん!」
 禅鎧は手を軽く挙げてそれに応えると、あまりテディに振動が行き渡らないように、元来た道を走って戻っていった。

「ところで、テディ。どうして俺がここにいた事が分かったんだ?」
「道行く人たちに、聞いて回ったんスよ。さくら亭でシーラさんたちから話を聞いた後から。ホント、疲れたッス〜‥‥‥」
「‥‥‥そうか、申し訳ない」
 禅鎧はジョートショップとの距離を徐々に縮めていく。そして、ジョートショップのシルエットが見えた。
「‥‥‥自警団?」
 そう。禅鎧が言った通り、ジョートショップの出入口に自警団の制服を着た人が集まっていた。また取り調べかと思ったが、それにしては人数が多すぎる。団員たちが禅鎧の姿に気付くと、全員の視線が彼に集中した。
「これは、一体‥‥‥」
 禅鎧が尋ねると、団員の1人が『中に入れ』と無言のまま親指で促した。頭の中の整理が付かないまま、禅鎧はジョートショップへと入った。
「アリサさん‥‥‥?」
 中に入ると、アリサとその向かいにリカルドが座っていた。そしてその傍らには、かなり長身の団員が槍を片手に立っていた。3人の視線が、中に入ってきた禅鎧に集中する。
「ああ、禅鎧君。大変なのよ」
 と、リカルドの側に控えていたその団員が禅鎧の前まで歩いてきた。年の頃は禅鎧と同じぐらいだろうか。目は細く釣り上がっていて、漆黒の髪の毛は逆立ててある。
「朝倉禅鎧だな?」
 強い、突き放すような口調でその団員は禅鎧に話しかけてくる。禅鎧は、警戒の色を脳裏に察知した。
「あんたは‥‥‥?」
 全てを言う前に、その若い団員は禅鎧の目の前にある一枚の書類を突きだした。禅鎧は、それに書かれてある文章に目を通す。そして、禅鎧の細い瞳が大きく見開かれた。
「逮捕状だ。朝倉禅鎧‥‥‥、お前を『フェニックス美術館』における器物破損罪及び窃盗罪で逮捕する!!」

To be continued...



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