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「Sweetjank,sweetGop -事件編-」 輝風 龍矢  (MAIL)

The last song

第15章:Sweetjank,sweetGop -事件編-

 休日のエンフィールド。相も変わらず、平和な毎日が送られているかのように思えていた日に、それは起こった。
 『洋品店ローレライ』に、新たな客が来店してきた。店内は広々としていて、流石に清潔感のある造りになっている。また、その雰囲気を盛り上げるかのように、クラシック音楽が流れていた。
「いらっしゃいませ」
 派手でもなく、それでいて地味でもない制服を身につけた女性の店員が、その客に声を掛ける。その店員の他にも、商品の陳列をしている店員、裏の倉庫で荷物の整理をしている店員もいる。
「‥‥‥‥‥‥」
 先程来店した客が、無言でレジの側まで寄ってくる。年の頃は20代辺りだろうか。ブラウンカラーのキャップを若干深めに被っていて、黄色がかった髪の毛が見えている。少し切れ長の瞳には、黒縁の眼鏡がかけられてある。細くキリリとした眉毛。端整な顔立ちであることが伺える。スレンダーな身体は、赤い派手めなスーツと黒いズボンで包まれてある。中ぐらいの大きさのバッグを片手に持った男性だった。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
 営業スマイルでレジを担当している女性店員が声を掛ける。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 だが、その男からの反応は全くない。
「どうか致しましたか?」
 怪訝な表情でその男の心理を伺おうとする女性店員。‥‥‥と、男は懐に隠し持っていたのだろうか、一冊の分厚い本を取りだしてきた。ちょっと古ぼけた感じのする本だった。それを、レジの机の上にトンと立て置いた。
「??」
 首を傾げる店員。一瞬、本に載っている品物を見て欲しいのかと思っていたのだが、それにしては立て置くというのがおかしい。
「‥‥‥‥‥‥‥」
 するとその男は、両手でその本を持ち直すと、その店員に本を見せるようにゆっくりと見開いた。
「? ‥‥‥‥!!!」
 来客の謎に包まれた行動に怪訝な表情を浮かべたままの店員だったが、視線を開かれた本に向けて間もなく、その表情は驚きに変わっていた。
『金を出せ。さもなくば店を魔法で破壊する』
 開かれたページには、そう大きく殴り書きされてあったのだ。何とか助けを求めようと他の店員に助けを求めようとするが、恐怖のためか声が出ない。他の客も異常事態に気付く者は誰もいない。
 そしてその客は、表情1つ変えることなく次のページを開いた。
『声を挙げるな。変な真似をしたら即座に魔法を放つ』
 それと同時に、持っていたバッグを店員に差し出した。女性店員は慌ててバッグを手に取ると、机の下にある売り上げを入れる袋からお金を移し始める。そんな大きなバッグではなかったので、すぐにバッグは満杯になった。
『早く渡せ』
 更に開かれた次のページには、そう書かれてあった。少し重くなったバッグを机の上に置くと、男性客は女性店員を睨み付けながらゆっくりとバッグに手を伸ばす。そしてバッグを手に取ると、ゆっくりと後ずさりをして店の出入口へと移動する。
「‥‥‥ご、強盗よ〜!!」
 刹那、その女性店員がやっとの事で大声を上げた。その声に店内にいた誰もがその男に注目する。
「待てーーーー!!」
 男は踵を返すと全速力で逃走を開始した。もう1人の男性店員が追跡を始める。だが男の方が一枚上手のようで、一行に差が縮まらない。
 男はチラリと追いかけてきている男性店員を振り向くと、『夜鳴鳥雑貨店』方面への角を曲がった。
「逃がしてたまるか!」
 男性店員も続いて、その角を曲がろうとした。が、しかし‥‥‥。
「‥‥‥なっ!!?」
 追跡をしていた男性店員は我が目を疑った。そこには、さっきまで追いかけていた男性客の姿が無かったのだ。距離はそれ程離れていなかったので、曲がればすぐに男の姿が確認できるはずだったのだ。だが、そこには男の姿はなかった。となれば、考えられることはただ1つだけ。
「消えた‥‥‥‥?」
 呆然とその場に立ちすくむ男性店員の横を、1人の女性の通行人がむなしく通り過ぎていった。

「おはようございます」
「あら禅鎧君、おはよう」
 起床して洗面を済ませた禅鎧が、アリサとテディのいるダイニングキッチンへと姿を現した。禅鎧よりも既に先に起きていたアリサは、朝食の準備にとりかかっていた。
「何かお手伝いしますか?」
「いいわ、もうすぐ終わるから。席について待っててくれる?」
 部屋のちょうど中央辺りに設置されたテーブルには、香ばしい匂いを漂わせるトースト、白い湯気がゆらめくホットミルク(コーヒー)が注がれたマグカップ、まだ何も盛りつけられていない平べったい皿が3つ。中央にサラダの盛り合わせが置かれているところ、自分の食べられる分だけその皿に取るためのものだろう。
「禅鎧さん、おはようございますッス〜」
「ああ、おはよう」
 禅鎧は席に付くと、テーブルに座っていたテディの頭を撫でてやる。相変わらず肌触りの良い毛並みをしている。
「さあ、出来たわよ」
 アリサは焼き上がったフライドエッグが盛りつけられた皿を3つ、テーブルに並べる。そして自分も席に付く。テディは美味しそうな顔をしながら、鼻をヒクヒクさせている。
「さあ、食べましょうか」
「いただきます(ッス〜)」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥食事中。

『ごちそうさまでした(ッス〜)』
 3人とも、ちょうど同じぐらいに食べ終わった。禅鎧は立ち上がると、テディと自分の分の皿を流し台の方へと持っていく。そしてテディにはホットミルク、自分のマグカップにはモーニングコーヒーを注ぐ。
「禅鎧さん、今日はこのぐらいの仕事依頼が来てるっスよ」
「ああ、ありがとう…」
 相変わらずの静かな口調で、禅鎧はテディから書類を受け取る。コーヒーを啜りながら、書類に1枚1枚じっくりと目を通していく。これが此処一週間の禅鎧の日常であった。
 ローズレイクの森での一件からというもの、禅鎧の中で何かが変わった。今までのように1人で落ち込む…責任を自分に押しつける…ことは無くなったのだ。仕事は相変わらず少ないものの、よくよく考えてみれば、1人でこなすには充分な量なのだ。当初はそこまで考える余裕がなかったので、変に1人で勝手に落ち込んでいたのだ。
 逆に仕事が多かったとしても、仕事によっては1日でこなせないものもあるだろう。それが原因で、期間限定の仕事を期間内にこなせなくなり信頼が下がってしまう。人数を増やせばという意見もあるが、禅鎧にはどうしても自分だけでやりたいという信念があった。
「これとこれは、そんなに時間がかからないんじゃないッスか?」
「‥‥‥ああ、そうだな」
 テディも横から、禅鎧の手に取っている書類を覗き込んでいる。
「‥‥‥‥!?」
 と、禅鎧の細い瞳が大きく見開かれた。テディも禅鎧の変化に気がついたようだ。
「どうかしたッスか?」
 大きな目をパチクリさせながらテディ。禅鎧が目を通していた書類に視線を移す。それにはこう書かれてあった。
『仕事内容:強盗事件の捜査』
 これまで色々な仕事依頼の書類に目を通してきたテディも、流石に目を丸くしていた。
「へえ、こんな仕事依頼が来るの初めてッスよ〜」
 そして依頼主の欄に視線を向けたテディは、更に驚きの声を挙げた。
「じ、自警団ッスか!?」

 禅鎧は書かれてあった場所‥‥‥洋品店ローレライ‥‥‥へと足を運んだ。案の定、店の入り口付近には沢山の野次馬が集まっていた。その中に…。
「禅鎧(さん)じゃない(です)か」
 若干言葉遣いが違ったものの、見事にアレフとクリスの声がハモった。この2人の他にも、見知らぬ少女も2人ほど集まっている。アレフの声に気付き、こちらの方に振り向く。
「えっ…、この人が禅鎧さんなの?」
 年の頃は15〜16歳辺りだろうか。青と水色を基盤としたラフな服装をしている。髪の毛と同等の色の割と大きめの瞳。そして一番の特徴として、黄色い大きめのリボンを髪に飾っている。
「あ、そっか…。トリーシャはあの時いなかったのよね」
 閃くような金髪を左右に束ねている、ミニスカートの少女が言った。禅鎧はいまいち話が見えないといった顔をしている。
「ああ、そうだ。俺たちがこの前言っていた朝倉禅鎧が、こいつだよ。…禅鎧、紹介するよ。彼女はトリーシャ・フォスター。そしてこっちがマリア・ショート」
 アレフは順番通りに、指差しながら紹介をしていく。
「宜しくお願いしますっ」
「宜しくねっ☆ あんた、あたしに感謝しないとダメよ。何たって、あたしがあんたの第1発見者なんだからね」
 ペコリと丁寧にお辞儀をするトリーシャに対して、自慢げに胸を張りながらマリア。隣でアレフが苦笑いを浮かべている。
「‥‥‥別に自慢する事じゃないだろう。ところで、禅鎧も話を聞きつけてここに来たのか?」
「何の事だ?」
「えっ、禅鎧さん知らないの? 今エンフィールドで起こっている連続強盗事件の事」
 と、これはトリーシャ。そこで禅鎧にも合点が入ったようだ。
「いや、それは小耳に挟んでる。…まさか、ローレライが? ‥‥‥なるほどね」
「? どうしたのよ?」
 勝手に心の中で納得している禅鎧の顔を、怪訝な表情で覗き込むマリア。その表情にはまだあどけなさが残っている。
「俺は、その事件の捜査依頼を受けてここに来たんだ」
『ええっ!?』
 アレフたち4人の声が見事なハーモニーを奏でた。

 禅鎧がローレライ店内に足を踏み入れると、中にいる自警団員から予想通りの反応が返ってきた。
「んっ、何だお前は!? ここは現在自警団以外立入禁止だ。一般人はさっさと出て行けっ!」
 店内の自警団員たちの様子に気付いたのか、見覚えのある長身の自警団員がスタッフルームの奥から姿を現す。
「おい、どうした‥‥‥!? 貴様は確か朝倉! 何で貴様のような何でも屋風情がここにいる!?」
 禅鎧をビシッと指差しながら、禅鎧の元へ歩み寄ってくるアルベルト。
「自警団から捜査依頼を受けてここに来たんだよ」
 苦笑いを浮かべながら、懐から依頼伝票の控えを差し出す。その自警団員はそれを乱暴に受け取ると、それを見て訝しげな表情を浮かべた。
「確かに、自警団のサインがしてある。だが、俺たちは何でも屋風情に力を借りる程劣ってはいない。お引き取り願おう」
 再び依頼伝票を受け取ると禅鎧は、ハアッとため息をついた。と、そこへ。
「私が依頼したんだ」
 ローレライの出入口の方から、これまら聞き覚えのある野太い声が聞こえた。他の団員たちの態度の変化に、禅鎧はすぐにその正体に気付く。
「それに事実、まだ我々はこの事件を解決できずにいる」
「リ、リカルド隊長? どういう事ですか!? 我々自警団がこんな何でも屋風情の素人に劣るとでも仰有りたいのですか?」
 他の自警団員たちも恐らくは同じ心情であろう。角張った顎を撫でながら、リカルドが口を開いた。一瞬、出入口付近で見守っているトリーシャに、視線が行ったと思ったのは気のせいだろうか。
「‥‥‥アル、禅鎧君は一度我々の手で逮捕した事があるの憶えているか?」
「忘れもしません。あの危うく迷宮入りになる所であった『フェニックス美術館盗難事件』の犯人であります!」
 禅鎧は表情を変えることなく、黙ってリカルドの説明を聞いている。
「ああ、そうだ。それ程の難事件を計画できるぐらいの頭脳の持ち主ならば、この事件も分かるのではないかと思ってね‥‥‥」
 そう言ってチラリと禅鎧の方を見やる。禅鎧は微かな苦笑いを浮かべた。
「なるほど…ね」
 流石のアルベルトも少しは納得が行ったようだが、未だ葛藤が続いていた。
「で、ですが‥‥‥!」
「アル、これは隊長命令だ…」 
「‥‥‥わ、分かりました」
 結局は最後の一押しで、アルベルトは力無く口を開いた。
「ウム‥‥‥。ではアル、早速で悪いが禅鎧君に事件の概要を説明してやってくれ」
「‥‥‥は、はい」
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(説明中)。
「というわけだ。ローレライの他にも、これまでに後3件全く同じ手口でやられている事や、聞き込みを元に作成した似顔絵が全て一致する事から、同一人物の犯行である可能性が高い‥‥‥以上だ」
「なるほど…。大体分かりましたよ」
 禅鎧は説明中に手渡された犯人の似顔絵を長めながら、そう呟いた。茶色い帽子を被っていて、フレームの太い黒縁の眼鏡をかけている。目は大きめで、輪郭も理想的な形をしている。20〜30代ぐらいの男性の顔が描かれてある。
(男性ね…。それにしては‥‥‥)
 前髪を掻き上げながら似顔絵を眺めている横で、アルベルトがわざとらしく咳払いをする。
「フンッ! 足を引っ張るような事はするなよ」
 アルベルトは踵を返すと、足早に持ち場に戻ろうとした。
「ところでリカルドさん、自警団はここで何をやっているんですか?」
 早速禅鎧は一番気に掛かっている事を尋ねてみた。アルベルトも作業をしながら、禅鎧の言葉に聞き耳を立てている。
「ああ…。犯人の残した痕跡が無いかどうか、店中を調べ回っている所だが…?」
「‥‥‥さっき、以前にも同じ手口で3件やられたと聞きましたが、その時もこのような捜査をしていたのですか?」
「? ああ‥‥‥そうだが?」
 訝しげな表情を浮かべながらリカルドは頷いた。それを聞いた禅鎧の表情は、確信に満ちた様だった。
「こんな細々とした事、やる必要はないと思いますよ」
 禅鎧のその言葉に、その場にいた全員が身体を硬直させた。
「!! ‥‥‥なんだと!? 貴様素人のくせに、我々の捜査にケチを付けるつもりか?」
 聞き耳を立てていたアルベルトが、怒気を露わにした表情で近づいてくる。そんなアルベルトを手で制すリカルド。
「止めろ、アル。禅鎧君、どういう事か説明してくれないか」
「分かりました。結論から言わせて貰えば『それぞれの事件現場から半径1kmの範囲が全て一致する場所に聞き込み調査をした方がいい』ということ」
「なん‥‥‥だと!?」
 アルベルト以外の自警団員も作業の手を休めて、禅鎧の説明に聞き入っている。
「まず、俺がこんな事やっても時間の無駄だと言ったのは、犯人はかなり用意周到な人物であると想像できるからだ」
 禅鎧の説明は要約するとこうなる。これまで合計4件も全く同じ手口でやっておきながら、証拠といえる証拠が1つも発見できないのは、かなり前からこの計画をしていた事になる。これまでに何回もシミュレートしていたことだろう。そして、脅迫文が書かれた本。大抵脅迫文は手紙で送るが、それでは筆跡鑑定などで身元がばれてしまう可能性がある。今回のように本に書いて持ち歩けば、その心配もなくなる。更に、犯人は消滅したという事だが、消滅する瞬間を見た目撃者が1人もいないという事からもそれが伺える。
「なるほど。それで、次の聞き込み調査の限定については?」
「これから説明しますよ。その前に、エンフィールドの1/10000ぐらいの地図とコンパスを用意してくれますか」
「分かった…。おい、誰か地図とコンパスを持ってきてくれ」
 素速く自警団員がリカルドの元に持ってくる。禅鎧たち3人はレジの机の上に移動し、そこに地図を広げる。
「人間の行動範囲というのは限られていて、大体1km以内という統計が既に出ている。さっきも言ったけど、犯人は消滅する瞬間を誰にも見られていないという事だけど、それはなぜか? 犯人は、そこが人通りのあまりない場所であることを知り尽くしていたからだ。それを踏まえた上で、その街路で消滅する事を計画したんだ」
「…ウム。確かに犯人が消滅したとされる街路は、あまり人通りがない」
 アルベルトは、無言で生唾を飲み込んだ。
「ええ…。そこまで詳しいとなると、かなり前から…それも近所に住んでいるという事になる。リカルドさん、これまでにやられた店を指差してくれますか」
 言われた通り、リカルドはローレライを初めとする4カ所に赤く印を付けた。そして禅鎧は、それを元に半径10cmの円を4つ描く。すると‥‥‥。
「な、そんな馬鹿な…!!」
「これは‥‥‥」
 4つの円が描かれた時、アルベルトとリカルドは驚きの声を挙げた。
「この4つの円が全て重なったこの場所に、犯人が潜んでいる可能性は高い」
 禅鎧の言った通り、4つの円が全て重なる地域を発見することが出来たのだ。そこに、円とは違う色で斜線を入れる禅鎧。
「この辺は確か住宅街…。性別も男性と分かっているから、聞き込み対象は更に限定できるが…」
「それで犯人が住んでいる住居も分かれば、今後狙われる可能性がある場所も特定できる。方法は今度は逆に‥‥‥」
 とそこで、禅鎧の説明が止まった。リカルドが「もういい」と手で制してきたのだ。
「非常に興味深い意見だ。…だが、それはあくまで推論の域であって、それを裏付ける証拠は1つもない。それに、4つの円が重なったのも、エンフィールドが大きな街ではない所以、偶然にもそうなった可能性もある。ここまで説明して貰って申し訳ないが、やはり我々は我々のやり方でやらせて貰うことにするよ」
 リカルドが再び他の自警団員に声を掛けると、禅鎧の存在を急に忘れたように各々元の作業に戻り始める。
「隊長っ! …フン、残念だったな朝倉。所詮素人のやる事など、その程度のものでしかないんだよ!」
 勝ち誇ったような口調で、アルベルトはすぐに自分の作業に戻った。
「禅鎧君、その資料は持っていっても構わない。元々それは、君に渡すつもりでいた物だったからね」
 リカルドはそう付け加えると、自分も自警団員から調査報告を聞きに回り始めた。
(‥‥‥まあ、元犯罪者の意見をすぐに聞き入れてくれるとは、思ってなかったけどね)
 そう心の中で呟きながら、禅鎧は手渡された資料を手にローレライを後にした。 

 ローレライから出てきた禅鎧を、アレフたち4人が出迎えてくれた。
「スゴイじゃないか、禅鎧! あそこまで犯人の居場所を特定できるなんて」
「禅鎧さんって、音楽の他にもこんな才能があったんですね」
「ホントだよね〜。ここにシェリルがいたら、黙ってなかったかもしれないくらい」
「シェリルは、こういう事になると目の色が変わっちゃうものね」
 どうやら、禅鎧たちの会話が外まで聞こえていたらしい。
「禅鎧さん、ゴメンね…。私のお父さん、頭が堅いから‥‥‥」
 トリーシャが申し訳なさそうに頭を下げる。禅鎧は苦笑いを浮かべながら、トリーシャの肩に手を置く。少しでも力を入れたら折れてしまいそうな、華奢な肩だった。
「‥‥‥別にトリーシャのせいじゃない。それに、初めから聞き入れてくれるとは思ってなかったからね」
 だがトリーシャは、プルプルと大きなリボンを揺らすように首を横に振る。
「ううん、お父さんが悪いんだよ! だってお父さんってば現場ではああだけど、家に帰るとさぁ‥‥‥」
「ま…まあまあ、トリーシャちゃん」
 自分の父親をメチャクチャに攻めるトリーシャを、横から宥めようとするクリス。
「だから私、禅鎧さんに協力してあげる!」
「えっ?」
 突然の提案に、禅鎧は訝しげな表情を浮かべる。
「頭の堅いお父さんに代わって、私が協力してあげるの」
「おっ。最初の部分を除けば、それは良い考えなんじゃないか? トリーシャはエンフィールドの情報には、かなり詳しい方だからな。仲間にすればかなり戦力になるぜ」
「だったら、あたしも協力して挙げる〜。あたしの魔法があれば、強盗だろうが何だろうがイチコロだよっ☆」 
 トリーシャの横から、マリアも元気いっぱいに挙手する。その横で、男性陣2人が額に大きな汗を浮かべている。
「おいおい。マリアが入ったら、解決できる事件も解決できなくなってしまうんじゃないのか?」
「ぶうっ☆ そんな事ないもんっ!」
 頬を風船のように膨らませて、アレフに対して反論するマリア。そんな彼女を無視して、アレフは言葉を続ける。
「よし、禅鎧…。及ばせながら俺も協力するぜ」
「ぼ、僕も‥‥‥!」
「えっ‥‥‥?」
 禅鎧は不思議だった…。アレフやクリスならまだしも、今日ほんの2時間前に初めて出会ったトリーシャやマリアまでもが、自分に友好的な態度を取ってくれている。
 そして、いつもの奇妙な既視感。以前、自分にもそんな心から許し合える友人がいたような、いなかったような‥‥‥。
「何だったら、リサやエルやパティたちにも連絡して‥‥‥」
「‥‥‥いや、いい。今回の事件はあまり大人数でやると、逆に犯人に感付かれる可能性があるからな。4〜5人程度で充分だ」
「えっ? それじゃあ‥‥‥」
 トリーシャやマリアの表情が輝いた。禅鎧の言いたい事、それはつまり‥‥‥。
「解決できるか分からないけど、宜しく頼む」

To be continued...


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