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「Sweetjunk, sweetGap -解析編-」 輝風 龍矢  (MAIL)

The last song

第16章:Sweetjunk, sweetGap -解析編-

 エンフィールド連続強盗事件を依頼された禅鎧は、アレフ・クリス・トリーシャ・マリアの協力も兼ねて、早速事件解明の行動を開始した。流石に禅鎧の方は一身上の都合‥‥‥他のジョートショップの仕事もこなさなければならない‥‥‥により、その事ばかりに時間を費やす訳にはいかないので、仕事が終わった後でアレフたち4人と情報交換を行うことにした。
 『陽の当たる丘公園』に移動した禅鎧は自分の推測に基づいて、4人それぞれに調べて欲しい事を告げた。
「アレフは俺が推測した犯人の住処付近で情報を集めてくれ。クリスとトリーシャは、この地図に記してある、被害にあった店をもう一度当たってくれ」
「ああ、俺に任せとけ」
「が、頑張りますっ!」
「情報収集なら、ボクの得意分野だよっ」
 特にトリーシャは自信満々のようだ。それを見て禅鎧は、少しだけ表情を綻ばせた。
「今の状態では、あまりにも情報が少なすぎるからな。どんな細かい事でもいいから、出来る限りの情報を集めてくれ」
「ち…ちょっと待ってよ。何でマリアには何も言ってくれないワケ!?」
 そこにマリアが、やはり膨れっ面で抗議をしてくる。
「まぁ、マリアはお払い箱って所じゃないのか?」
「何よ、それ!」
 意地悪い笑みを浮かべながら、茶々を入れてくるアレフ。いきり立つマリアを宥めるように、禅鎧は首を静かに横に振りながら手で制した。
「大丈夫、そんな事はない。マリアには俺と一緒に行動をして貰う。一番重要な事をやってもらうからな」
「え、ホント!?」
 その言葉を聞いて、マリアの表情がパッと明るくなった。
「禅鎧…、悪いことは言わない。友人として忠告しておくが、マリアがいちゃあ解決できる事件も解決できなくなるぜ」
「もう、アレフは黙っててよ!」
 アレフは禅鎧の肩にポンと手を置いて、わざとらしい表情を作りながら言った。それに対して、またも顔を赤くして怒るマリア。
「落ち着け、マリア。それじゃあ、宜しく頼むよ」
 禅鎧のその言葉を合図に、マリアを除く3人は早速散り散りになって行動を開始した。アレフに自分が見えないのをいい事に、ベーッと舌を出すマリアを見て、思わず苦笑いを浮かべる禅鎧。
「さ、禅鎧…でいいよね? 早くマリアの任務を教えてよ」
「‥‥‥いや、その前に今日のジョートショップの仕事をやっておかなければならない。悪いけど、それまで時間を潰していてくれないか?」
 突然の禅鎧からの提案に、驚きを隠せずにいるマリア。
「ちょっ…ど、どういう事よそれ! まさか禅鎧までマリアの事馬鹿にしてるんじゃないでしょうね!?」
「違うよ。さっきも言ったけど、俺には他のジョートショップの仕事もあるから、この事件だけに時間を費やすわけにはいかないんだよ」
 マリアも「あっ…、そっか」と流石に理解を示したようだが、まだ何か言いたいことがあるようだ。
「でもそんな事してたら、またバカアレフにからかわれちゃうよ」
 少し声のトーンを低くしてマリア。いくらアレフとはいえそこまではしないだろう、とこれは禅鎧の思考。
「‥‥‥じゃあ、俺の仕事手伝ってくれるか。それなら言い訳も出来るだろう?」

「はい、これが依頼料ね。ご苦労様」
「ありがとうございました」
 2人が最後の仕事を終えた頃には、もう既に陽が沈みかけていた。思わずグラデーションがかかったオレンジ色の空を見上げる。
「ふう…疲れちゃった」
 慣れない仕事をした為か、1つ大きく深呼吸をするマリア。今回の仕事はそんな重労働ではなかったので、マリアにも充分こなせた。そこを踏まえた上で、禅鎧は仕事の手伝いを提案したのだろう。
「‥‥‥手伝って貰ったりして悪かったな、マリア」
「マリアがパパの1人娘だということ?」
 それを禅鎧が知ったのは、ある仕事の依頼主からだった。
(彼女はショート財閥会長の1人娘なんですよ)
 そんな大金持ちのお嬢様を働かせた事に、禅鎧の中で罪悪感が生まれたのだ。
「マリアがお嬢様である事は、薄々感じ取ってはいたけどね」
「へぇ〜。でも、そんな事気にしなくていいわよ。マリアはマリアなんだからサ。それにマリア自身が望んで仕事を手伝ったわけだし‥‥‥ね☆」
 指輪がはめられた人差し指をピンと立てながら、禅鎧にウインクするマリア。
「‥‥‥ああ、ありがとう」
 そんな事を話しているうちに、陽の当たる丘公園に到着する。ここでアレフたちと落ち合うことになっていたのだ。
「お〜い、禅鎧!」
 公園に入ろうとした時、ちょうど向こうから見覚えのある3つのシルエットが近づいてくる。どうやらアレフたちも終わったようだ。
「ああ‥‥‥。それじゃあ、歩きながら報告する事にしよう」
「それじゃあまず俺からだな。とりあえずいろいろ聞いて回ってみたけど、手がかりと呼べるような事は聞けなかった。だけど、まだ行ってない所もあるから明日もう一度行ってみることにするぜ」
「そうか‥‥‥。それじゃあ、引き続き調査を頼む」
 禅鎧の推測した場所は、かなり限定されてるとはいえ5〜6時間で全て聞いて回れる所ではない。
「じゃあ次はボクたちだね。ボクたちは全部の店を回ることが出来たんだけど、ちょっとした共通点に気付いたんだ」
「共通点? 何だよそれ」
 怪訝な顔をしてアレフ。
「被害にあった店のほとんどが、通りの角に位置してるんだよ」
 禅鎧はクリスから地図を受け取ると立ち止まり、それぞれの店の場所を確認する。
「なるほどね…。確かに全てが交差点に面している」
 傍らでアレフやマリアもウンウンと頷いている。
「で、しかも消滅した場所が1カ所だけ除けば、その角を店側に曲がった通りなんだって」
「1カ所?」
「うん、洋品店ローレライだよ。あそこの事件だけ、別の通りで犯人が消えていたんだって」
 懐から自警団から配布されたローレライの報告書を取り出す。トリーシャの言う通り、拡大地図には消滅した場所が、もう1つ向かいの別の建物の角である事が記されてあった。
「これは、気になるな」
「何かそこには、消えることが出来ない理由があったんじゃないの?」
 何か考えがあってか否か、そんな事を言ってくるマリア。
「そうかもな…。ところで、禅鎧たちはどうだったんだ?」
「‥‥‥ああ。他の依頼の仕事やってたら、こんな時間になっててね。今日は調査できなかったよ」
「収穫ゼロか…。ま、仕方ないさ」
 慰めるように禅鎧の肩をポンと叩くアレフ。「ああ…」と曖昧な返事をする禅鎧。
「自警団の方でも解決したような報告はなかったし、また明日調査しようぜ」
 アレフのその言葉を最後に、禅鎧たちはそれぞれの帰路へ付いた。

 調査2日目。アレフは今度はクリスと共に、禅鎧の指摘した場所で聞き込み調査を、トリーシャは被害のあった店付近で聞き込み調査を行うことにした。幸いにもジョートショップへの仕事依頼は1つだけだった為、禅鎧はマリアと共に早めに仕事を終わらせて調査を開始することにした。
「ねえ禅鎧。重要な任務って何なの?」
「ああ…。マリアは『センス・マジック』使えるか」
 センス・マジック‥‥‥。その名の通り魔力を感知するための魔法である。
「うん。だって、学校で一番初めに修得する魔法だもん」
「なるほどね‥‥‥。さて、この辺だな」
 そう言って立ち止まったその場所は、被害を受けた店の角…犯人が消滅したとされる場所だった。
「マリア、ここで『センス・マジック』を使ってみてくれ。犯人がもし魔法を使って消滅したのならば、必ず何らかの反応があるはずだからな」
「あ、そうよね。さっすがは禅鎧、マリアの事よく見てくれてるわ。任せてよっ!」
 禅鎧とは昨日初めて会話したばかりなのに、かなり矛盾した事を言うマリア。自信満々に応えると、両手で何らかの印を結び始めた。
『全ての精霊の上に君臨せし精霊神マクスウェルに告げる
汝の力を以て此処に漂いし魔の力を導き出せ』
 呪文の詠唱が終わると、マリアの両手が不思議な光に包まれた。そして静かに両手を前にかざして、しばらくの間そのままの状態で動きを止めた。
「‥‥‥う〜ん。何にも感じなかったよ」
 魔法を使い終えたマリアは、残念そうにかぶりを振った。
「そうか…。じゃあ、他の場所も調べ回ってみようか」

 同時刻の自警団事務所。
 『エンフィールド連続強盗事件捜査本部』と書かれた立て看板が置かれている会議室にて、リカルド・フォスターを中心に調査報告会&会議が行われていた。
「イーストロット学園通り。特にこれといった情報は得られませんでした」
 この言葉からも分かるとおり、禅鎧たちのように場所を限定して捜査を行っていないため、その分捜査に加わっている団員の人数も多い。
「ウエストロットリヴェティス通り。こちらも重要証言は得られませんでした」
 どうやら東西南北の主要通りを中心に、自警団員を派遣させたようだ。
「ノースロットフェニックス通り。こちらも同じく、収穫はゼロでした」
「う〜む、困ったな‥‥‥」
 『ロ』の字に配置された長机の中央に鎮座しているリカルドは、腕組みをしながらそう言った。
「くそ‥‥‥。まだこんな難事件を起こす輩がエンフィールドに住んでいるとは!」
 リカルドの右隣りに座っているアルベルトが、乱暴に机を叩いた。
「アル、落ち着くんだ。まだセントラルロットに向かわせたクラウスたちが戻ってきていない」
「いえっ! 自分は恐らくは、そこも無理だと思っています」
「‥‥‥禅鎧君が、犯人が潜んでいると推理した場所だからか?」
 きっぱりと言い放ったアルベルトだが、リカルドに図星を突かれてたちまち意気消沈してしまう。
「お前のその認めたくない気持ちも分からないでもないが、そのような私的な考えは捜査では御法度だぞ」
「‥‥‥はい、申し訳ございません」
 厳しい表情と口調で恫喝されたアルベルトは俯き、行き所のない怒りを抑える。ちょうどその時、会議室のドアが乱暴に開かれた。クラウスたちだった。
「遅れてしまい、申し訳ございません!」
「会議中だぞクラウス! もっと静かに入って来られないのか!?」
 たまっていた怒りを発散させるように、クラウスを怒鳴り散らすアルベルト。
「アルっ! ‥‥‥澄まないなクラウス。早速席について、調査報告をしてくれないか」
「‥‥‥はい、分かりました!」
 他の自警団員たちと共に、空いたままの席に付くクラウス。少し荒い呼吸を整えてから、静かに報告書を読み上げる。
「セントラルロットさくら通り。強盗事件発生日及び前日に、不振な行動を目撃されていた3人を任意出頭いたしました!」
「何だとっ! そんな馬鹿な!?」
 思わず椅子から立ち上がってしまうアルベルト。他の自警団員も同様、ざわめきが漏れていた。
「アル、席に付け。他の者も静粛に! 間違いないのだな、クラウス?」
「はい。3人とも、その日のアリバイがあやふやなものでありましたし‥‥‥」
 角張った顎を撫でながら、リカルドはしばし考えた。そして立ち上がり、次の指示を促した。
「そうか、よし分かった。アルのチームは、その3人を徹底的に取り調べてくれ。クラウスのチームは、その3人の身元確認及び聞き込みにあたってくれ。他の者は引き続き聞き込み調査を行って欲しい。以上、解散!」
 てきぱきとしたリカルドの指示により、自警団員たちは一斉に動き出した。クラウスの一報を聞いてか否か、捜査団員全体が活気づいたような気がした。
(禅鎧君の推理が、的中していたというのか‥‥‥?)
 捜査の準備に取りかかりながら、リカルドは心の中でそう呟いた。

「禅鎧〜! お前が推理したとおり、それぞれの事件発生日と前日に、不振な行動を目撃された人物がいたらしいぞ!」
 自警団の方で大きな進展があったその頃、禅鎧たちの方でも同じ情報を入手することに成功した。
「わぁ、ホント!? すっごいじゃない!」
 アレフの報告を受けた時には、ちょうど最後の事件…ローレライ洋品店…の犯人の消滅場所で『センス・マジック』をかけ終わったところだった。
「そうか…ちょうどこっちも、調査を終わったところだ。どうやら、犯人は魔法を使って消えた訳ではなさそうだ」
「ヘヘ、マリアの魔法のお陰だよっ‥‥‥って、あれ?」
「マリアっ!?」
 自慢げに答えるつもりだったのだが、マリアは思わず体勢を崩して倒れてしまいそうになる。寸前で禅鎧が抱き止めた。
「やはり、思った通りか…。5〜6回連続で『センス・マジック』使わせたんだから、無理もない」
「ちょ…ちょっと禅鎧、離してよ」
 頬を赤く染めながら抵抗しようとするが、とても力が入るような状態ではない。禅鎧は静かにその場にペタリと座らせた。
「ちょっと、ジッとしていてくれるか?」
「えっ? う、うん」
 禅鎧はマリアの両方の二の腕に触れると、1つ大きく深呼吸をする。そして何らかの精神統一を行うと、禅鎧とマリアの身体が青白い光で包まれた。
「あ‥‥‥何だか、温かい」
 コオオ‥‥‥‥。
「…これで、立てるはずだ」
 青白い光が静かに消えると、禅鎧はマリアに立ってみるように促す。すると、マリアはふらつく事無く立つ事が出来たのだ。
「禅鎧…お前、何やったんだ?」
「ああ…、俺の『氣』をマリアに分けてやったんだよ。マリア、拒絶反応はないか?」
「う…うん、大丈夫。…ありがと」
 少し照れながらも、マリアは言った。そんな彼女の金髪を、禅鎧はポンポンと優しく叩いてやった。
「禅鎧さ〜ん!」
 とそこへ、トリーシャがトレードマークのリボンを揺らしながらこちらに走ってきた。
「トリーシャ、どうしたんだ?」
「これ、お父さんから預かってきたんだけど‥‥‥」
 そう言って1枚の茶封筒を手渡す。中には自警団で洗い出した容疑者3人の事が書かれてあった。
「なるほどね。自警団も同じ情報を入手したようだ」
「ということは、こいつらが俺が言っていた3人の不審人物か‥‥‥」
 以下が、報告書の主な内容である。

◎カミル・シューティア
年齢:25歳 性別:男 職業:災害対策センター勤務 住所:ノースロット
目撃証言:第1の事件発生前日、被害にあった某果物屋付近を徘徊していた。
魔法学習経験:あり

◎メルニス・オリケフ
年齢:24歳 性別:男 職業:エンフィールド役所勤務 住所:ウエストロット
目撃証言:第5の事件発生前日、ローレライ洋品店前を彷徨いていた。
魔法学習経験:少々あり

◎クラヴィア・ノードリード
年齢:27歳 性別:男 職業:ショート科学研究所勤務 住所:セントラルロット
目撃証言:第2の事件発生日の夜中、被害にあった某雑貨屋の裏通りで不審な行動をしていた。
魔法学習経験:あり

「‥‥‥って、これだけかよ?」
「これだけじゃ分からないよ〜」
 アレフとトリーシャは思わず頭を抱えてしまう。
「そうだな‥‥‥。それに、この中に犯人がいるとは限らない」
 報告書に張り付けられた写真を見ながら禅鎧。
「魔法はさっきマリアたちが確認したから、無視してもいいんじゃないかな?」
 横から報告書を覗き込みながらマリア。禅鎧も「間違いない」と同意する。
「あともう一息といったところか…。クリスとも合流して、新たな情報を入手しよう」
 禅鎧のその言葉を皮切りに、再び行動を起こそうとした時、ちょうどフェニックス通りからクリスが戻ってくる姿を発見した。
「ふぅ〜、やっと見付けたよ」
「クリス、グッドタイミングだ。ちょうど、お前と合流しようと思ってたところだ。お、どうやらその表情からだと、いい情報が入ったんだろうな?」
 アレフの問い掛けに、クリスは静かに頷いた。
「うん。事件に関係あるか分からないけど、ローレライでの事件前日にそこで怪しい来客を見かけたんだって。それも、僕たちの一番身近な人が…」
『身近?』
 禅鎧を除く3人の声が見事にハモった。    
「うん、シーラさんだよ。今、さくら亭にいるから、直接話を聞いた方がいいんじゃないかな?」

「あっ、やっぱりみんなで来たわね。前もって、全員分のコーヒーとドリンク用意しといて良かったわ」
 カウンター側のテーブルには、人数分のコーヒーカップとグラスがご丁寧に用意されてあった。
「へぇ…。用意周到というか、商売上手というか‥‥‥」
 無意識に帽子に手を当てながらアレフ。5人はシーラを中心にして席に付いた。
「じゃあ、シーラ。早速で悪いけど、詳しい話を聞かせてくれないか?」
 あまり強く言わないように、それでも真剣な口調で禅鎧は本題に切り出した。
 シーラの目撃証言はこうだ。ローレライが襲われる前日、パティと一緒にローレライにショッピングに出掛けた。そこで、ちょっと変わった女性客を見たという。その女性は、自分には明らかに不釣り合いな、裏表両用の衣服を大量に買っていったというのだ。
「裏表両用? 今時そんなの流行ってねえぞ。確かに怪しいな‥‥‥」
「ねえ…ちょ、ちょっとシーラさん! その人の買っていた服の色、まだ覚えてる?」
 何かを思い出したかのように、トリーシャが興奮気味に訊いてくる。
「え、ええ…。とても変わってた人だからよく覚えてるわ。確か‥‥‥」
 その服の色を全て聞き終わると、トリーシャとクリスの表情が驚愕の色に変わった。
「どういうことだ?」
「ボクとクリス君って、調査1日目は被害にあった店を調べてたでしょう? その時に、禅鎧さんから犯人のイラストを預かってたよね。それでね、全部の店でそのイラストで一カ所だけ違うって指摘された箇所があったの」
 トリーシャの言葉に続いて、クリスがその後を補った。
「服の色だよ。犯人が着ていたという服の色が、シーラさんの言った色と全部一致してたんだ。僕たち『連続強盗をするんだから服を毎回替えるのは当然だよ』と思って、言わないでいたんだけど‥‥‥」
「今のシーラの証言を訊いてもしやと思った‥‥‥という事か?」
 禅鎧に向かって同時に頷く2人。それを訊いた禅鎧の瞳は、確信の色に満ち溢れていた。
「なるほどね…、大体謎は解けてきたよ。後は、犯人消滅のトリックだけだ」
 あらかじめ出されていたコーヒーを人のみして禅鎧。
「ってーと、犯人は女性っていう事になるのか? でも、自警団が挙げた容疑者は全部男のはずじゃあ‥‥‥」
「アレフ‥‥‥、よく考えてみな。何故犯人は犯行中に、一言も喋らなかったのか…」
 禅鎧がそう言うと、アレフの中でも話が1本につながったようだ。
「そうか! 喋りたくなかったのではなく、『声』を出したくなかったのか」
「そういうこと」
 そんな禅鎧とアレフの会話を、隣でシーラが嬉しそうに、それでいて羨ましそうな表情で見つめていた。
「ふ〜ん、けっこう分かってきたみたいね。スゴイじゃない」
「…ああ。でも、まだ犯人の消滅方法が分からない。魔法による消滅ではない事は分かっているんだけど‥‥‥」
 独り言のように、前髪を掻き上げながら禅鎧。トリーシャとクリスも、懸命に頭の中をフル回転させている様子だ。
「あの…、朝倉くん?」
「? …なに?」
 と突然、禅鎧はシーラに呼び掛けられた。
「…頑張って下さいね。私たちは、こうやって応援する事しか出来ないけれど」
 少々小声だが、それでもはっきりとした口調でシーラ。しばし間をおいて、禅鎧は優しい笑みを向けた。
「そんな事はない。現に、シーラは重要な目撃証言をしてくれたからね。感謝してる」
「朝倉くん…。ありがとう」
 頬を微かに赤らめながら、シーラも笑顔を零した。
「…シーラ、禅鎧の事ちゃんと名前で呼びなさいよ。そうじゃないと、名前で呼んでる私たちがヘンみたいじゃない」
「そうそう。それに、禅鎧は見ての通りすぐに熱くなるようなタイプじゃないしな。心配は入らないよ、俺が保証する」
「あ〜ら。アンタなんかに保証されちゃ、禅鎧も心配なんじゃないの?」
「なっ、何だよそれ…!」
 パティに駄目押しを喰らって、思わず言葉に詰まってしまうアレフ。そして、店内に響き渡る笑い声。禅鎧も微かに笑みを零した。
「う〜ん‥‥‥あれ? パティ、あんな所に窓なんてあったっけ?」
「‥‥‥そういえば、そうだよね」
 さくら亭の常連客でもあるアレフとトリーシャが、キッチンの違和感に気付いたらしく、唐突にパティに尋ねてみる。
「‥‥‥ああ、この間付けて貰ったのよ。朝日で店内を明るく照らす為にね」
「‥‥‥‥‥‥」
 何気なくその窓に視線を移す禅鎧。今は昼時なので、清々しい光は入ってきてはいない。そのかわり、外で元気に遊ぶ子供たちや、行き交う通行人たちが見えていた。
(窓‥‥‥ん? もしかしたら‥‥‥)
 そんな日常的な風景を眺めていた禅鎧の脳内で、シナプスが一本繋がろうとしていた。
「マリア、ちょっといいか…」
「…え、なあに?」
 お気に入りのドリンクを美味しそうに飲んでいたマリア。突然呼び掛けられて、少し驚いているようだ。
「ローレライって、確か‥‥‥」
 あの曲がり角とは、普通ならば犯人が消えたと考えられる、ローレライからノースロット住宅街へと向かう小さな通りを指している。だが犯人はそこでは消えず、もう1つ向こうの、それもセントラルロット住宅街へと向かう小さな通りで消滅していた。
「ええと…。うん、あったよ。それがどうかしたの?」
「そうか‥‥‥‥‥」
 マリアの答えを聞いた瞬間、禅鎧は確信に満ちた笑みを零していた。
「どうしたんだ禅鎧?」
 怪訝な表情をして、禅鎧を見据えるアレフ。
「ああ、分かったよ。全てが一本の糸で繋がった」
「ええ〜、ホント!?」
 その言葉を聞いたトリーシャが、素っ頓狂な声を挙げる。禅鎧はそれに黙って頷く。もはや、それには戸惑いも何も否定的な物は感じられなかった。
「どういう事なんだ!? 早く説明してくれよ」
 アレフも興奮気味に強要してくるが、禅鎧は静かにかぶりを横に振るだけだ。。
「いや…そんなに急ぐ必要はない。とりあえず、自警団事務所に行って…。説明はそのあとだ」

To be continued...


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