中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想

はったり幻想曲 T.M(MAIL)
 うららかな冬のとある日の昼下がり。おなじみエンフィールド、陽の当たる丘公園。ベンチの多い公園の中心部付近に、一つのホットドッグの屋台が建っていた。
「うー、たっかるい。なんで、今日みたいに天気の良い日にこんなとこでホットドッグなんか売らなきゃいけないんだ?」
「それが仕事なんですから、仕方がありませんよ」
 苦笑いのシーラは、脇で大あくびを隠そうともしない主人公−ミストを窘める。一応、ミストは大事件の犯人として保釈中であり、現在住民投票による再審を目指して居る……はずなのだが、その割に気負った所は全くない。シーラはその手伝いとしてジョートショップの臨時の助plをしていた。
「こら、アンタっ! いつも言ってるケド、人に手伝わせておいて何よその態度はっ!」
 そこに、材料の補充から帰ってきたお手伝い二号こと、パティの蹴りが飛ぶ。それを背後から喰らって、力一杯地面に倒れ込むミスト。
「……このごろ思うんだけど、僕って場違いなんじゃ」
 遠い目をしたお手伝い三号ことクリスは、持ってきたソーセージの保存容器を屋台の脇に置く。さりげなくパティが手ぶらなのは、このパーティでのクリスのポジションを如実に物語っている。
「だ、大丈夫ですか、ミストさんっ!?」
「もう駄目だ〜。キスしてくれないと死ぬかも」
「えっ?」
 かなり痛そうな音をたてて、地面に抱擁をかましたミストを助け起こそうとするシーラだったが、その言葉を聞いて思わず動きが止まってしまう。
「頼むぜシーラ、もう目の前が暗く……ぐえっ」
 硬直したシーラにミストが手を伸ばそうとした所で、彼の顔面に突如飛来したホットドッグの保存容器の蓋がブチ当たる。今度こそとどめを刺されたミストは地に沈んだ。
「シーラもそんな馬鹿、真面目に相手しないのっ!」
「あ、あのパティさん? ミストさん、倒れたきり動かなくなっちゃったんだけど……」
「ほっとけば、そのうち復活するわよ」
 慌てるシーラに、当たり所が悪ければ即死ルートの蓋を投げつけた当人は、さわやかな笑顔で作り置きのホットドッグの製作にかかっている。脇のさらに遠い目になったクリスは、もはや一言も語らない。
「は、はぁ」
 苦笑いのシーラは、接客用のエプロンをクリスに渡すと、地面に大の字に倒れ痙攣したままのミストを眺める。こんな調子で仕事をするようになってから、早三月が経つ。初めこそは大変だったが、今では割と仕事に楽しみを覚えられる様になった。
 そしてミスト。
 シーラから見て彼はかなり奇異な人物だった。初めはアレフのような人種かと思っていたのだが、ミストの場合は生活全般がこんな感じなのだった。もっとも女性関係と言う点だけでは一応、シーラ以外の女の子には声をかけることはない。しかしシーラ自身、彼が力を借りに来たbォ、それを了承した事は今でも不思議に思うことがある。
「ううっ……こんな仕事、早く辞めてやるぜ。アリサさんの借金がうまく消えたら、シーラのマネージャとかで雇ってくれねーか? その頃には、シーラだったらプロのピアニストは夢じゃないだろ?」
「そ、そんなの困ります。それに私、プロだなんて……」
 物思いに耽っていたところ、いきなりミストに復活されてシーラはびっくりする。嘘泣きしながら愚痴をこぼし始めたミストは、本気のようだった。
「任せろ、シーラちゃんらぶらぶクラブ会員番号No.にして会長のミスト・グレイトッシュ。シーラの行くところだったら、地獄の底までついてくぜ」
 ちなみに『シーラちゃんらぶらぶ〜』はミストが発足させた私設シーラFCで、その会員数はいつのまにか両手の指に余るらしい。もっともシーラ当人は、ミスト以外の会員とはまったく会ったことがないのだが。
「ストーカーか、アンタはっっ!」
 声と共に飛来したパティの蹴りを、今度はどうにかかわすミスト。
「ふっ、二度は喰わないぜ、暴力女っ!」
「言ったわね、このはったり野郎っ!」
「うるせーっ、なんだかんだですぐ暴力を振るいやがってっ。少しはシーラみたくお淑やかにしてられねーのかよっ!」
「女がお淑やかなんてダレが決めたのよ。土台アンタみたいな馬鹿、殴られて少しでも賢くなれば儲けものじゃないっ??」
「……毎度ー」
 半分くらい永遠の世界をのぞき込みかけたクリスが、ホットドッグを買っていく客に気の抜けた声で頭を下げる後ろでは、延々怒鳴り合いが続く。そこでふと通りかかった人物が屋台に注意を止めた。
「おいっ!」
 その大柄な男は、屋台の方に歩み寄ってくるとミストに怒鳴る。その迫力にクリスは真っ白けに凍り付き、シーラもとっさの事に言葉が出ない。
「だいたいアンタ、誠実って言葉知ってるっ? どうして、なにからなにまでそんなに適当なのよっ」
「……おい?」
「それが俺のスタイルなんだよっ! パティみたいに、年中かりかり来てるよりはよっぽどマシだと思うぜ」
「…………お〜い」
「誰のせいで、かりかりしてると思ってるのよっ! ……って、お客さん」
 立場の消失しかかっていた男の存在に、ようやく気が着いたパティはそこで振り返る。つられて大男に注意が向いたミストに、大男はしわぶき一つすると自分の調子を取り戻した。
「こんなところで、誰に断って商売してるんだ? ここの公園で屋台を出すには、うちの組『すいーとすぽっと』の許可が居るんだぜっ!?」
 『すいーとすぽっと』。
 ここしばらくで出現した、ちょっとしたギャングみたいな組織の事である。リカルド周りが放置している所を見ると大した集団ではないのだろうが、最近では小さな被害が後を絶たない。
 にらみを利かせながら大男は、用意してあったとおぼしき台詞を口にする。さすがに顔を真っ青にしたシーラと、呆れに近い表情をしたパティを制したミストは一歩進み出た。
「……悪かったな、おっさん」
「おっさん言うなっ、馬鹿にしてるのかっ!?」
「くだらん内容で難癖つけてくる人種に俺は、人権を認めてねーんだ。解ったらさっさと消えな。……それともやるのか?」
 自信たっぷりに笑うミスト。
「……う」
 自分の肩ぐらいの身長しかない男に、自信たっぷりに振る舞われた大男はさすがに動揺を見せる。シーラはミストの身を案じながら、二人を見守った。
「おまえ知ってるか? この間、さくら亭で暴れてた5人のごろつきを素手ではり倒した奴の話」
そういうとミストはにやりと笑う。
「なんでも抵抗の余地もなく、一瞬で店から叩き出されたとかなんとか……まさかっ」
「ああ、あれって実は俺のコトなんだぜ。くだらない闘いは趣味じゃねーが、火の粉の方が降りかかってくるんだから仕方がねーよな」
 とか言うと、ミストはばきばき指を鳴らす。恐怖にかられた大男は、やけに近い叫び声を上げてミストへ突撃する。
 そして。
 しばしあって、ぼろぼろになって地面に横たわる人影一つ。
「ふん、今度会ったら命がねーと思えっ」
「そいつはこっちの台詞だっ! さんざんはったりかましやがって!!」
 地面に延びたまま強がりを言う、ぼろぼろのミストに一瞥くれると、大男はそのまま去っていく。
「ミ、ミストさん、しっかりしてくださいっ!」
「あーあ、アンタって本当にはったり野郎よね。弱っちいのに出しゃばるから。どーせまた、シーラに格好良いとこでも見せようとしたんでしょ」
 慌てて駆け寄るシーラに、苦笑いで呆れるパティ。ちなみにミストの持ち出した話は事実ではある。但し当事者が、食事をじゃまされて切れたリサだったりするが。


 場面は飛んで、翌日のジョートショップ。
 一仕事終えたミストは、だらしなくソファーに埋もれていた。例によって、アリサさんもテディも居ない。
「ふぁ、こう平和だと眠くなってくるな」
 昼食は先ほど取ったばかりである。幸い今日の残りの仕事は『事務所待機』だけだった。退屈を持て余すミストは速攻、夢の世界へと堕ちていく。
 からんからんっ。
 そこに勢い良く扉が開く。
「ミスト、大変よっ!」
「ぐぅ……」
 眠りこけたミストを見つけると、飛び込んできたパティは、問答無用で胸ぐらを掴み上げる。
「なに寝てるのよっ!」
「たいやき……うぐぅ?」
「ふざけてる場合じゃないのっ。シーラがさらわれたってっ!」
 シーラと言う単語に即座に反応したミストは、一瞬で真面目な顔になると、無言で話の続きを促す。
「今日は、シーラと一緒の仕事のハズだったの。だけど、いつまで立ってもシーラが来なくて。それで、仕事が終わってからシーラの家に行ってみたら、脅迫状が来たってジュディが真っ青になってて……」
 シーラの両親は例によって家を空けている。そこまで聞いたミストは、そのままジョートショップを飛び出しシーラの家に向かう。応接間に通されると、パティと共に脅迫状を見せて貰った。
 内容は身代金要求である事、身代金の受け渡し場所、自警団に知らせればシーラの命はないとの旨だった。身代金の額はかなりの物で、受け渡しの指定は今日の夕刻、場所は街外れの裏路地とある。ジュディの話では、すぐにシーラの両親に連絡を取る方法はなく、身代金を用意でb驍?トはないと言う。
「よりによって、身代金の取れない相手を誘拐するとは、随分マヌケな誘拐犯だな。もっとも、事情を説明した所でおとなしくシーラを返してくれるとも思えねーが」
 そこまで確認したミストはゆっくり立ち上がった。
「どうするのよっ?」
「……決まってるだろ。シーラを助けに行くんだよ」
「アンタが行っても、どうにもならないでしょ!!」
 パティの言葉に、ミストは彼女の知らない鋭さを秘めた表情で振り向く。
「それをどうにかするんだよ。やつらは俺の大事な物に手を出した。落とし前は……つけさせてやんぜ」
「……格好つけちゃって」
 複雑な表情で呟いたパティに怪訝な顔をしたミストは、ジュディに自分が受け渡しの指定時刻を過ぎても戻らない場合、ショート家に連絡することを頼むと、シェフィールド家を後にした。


 脅迫状の指定時刻30分前、街外れ。
「キサマ、この間のホットドック売りっ!?」
「なんだ、おっさんだったのか」
 無言で腕を組み、指定場所に立っていたミストの前にしばしあって先日の大男が現れた。背後には十人くらいのごろつきがばらばら続く。
「だからおっさん言うなっ。俺は『すいーとすぽっと』のナンバー2・ジャリドー。……言うことは、貴様が身代金を持ってきたのか?」
「シーラの両親は留守なんだ、よって金は払えん。大事になる前におとなしくシーラを返した方がお互いの為だと思うが?」
 相手に動じたようすも見せず、腕を組んだままのミストは淡々と告げる。
「そんなはったりが通じると思うか? もっとも、事実だとすればそれはそれで人質がどうなるか解らんがな」
 そう言うと、両手を縛られたシーラが部下から大男の手に渡る。
「ミストさんっ!」
 ミストが来てくれた、その事だけでシーラは不思議と安心できた。恐怖で硬直していた頭がゆっくり自由を取り戻していく。一方、シーラの悲鳴を聞いたミストは少しだけ視線が鋭くなった。そして、ゆっくり懐から一つの球を取り出す。
「悪党、良く聞けよ。これは『魔法の球』つってな。念を凝らせば、10数えるうちに、大爆発を起こすって危険なシロモノだ。今すぐシーラを返せば良し、さもなくばみんなまとめてあの世行きってトコだ。さ、どーする?」
「な……貴様、正気かっ!?」
「正気も正気、昨日はよく寝たから、いつもより冴えてるくれーだな」
「くっ……」
 あわてふためく一同と対照的に、ミストは落ち着きはらった様子で動かない。ミストの自分を気遣う様な視線を時折感じながらシーラは、彼に何か考えがあることを確信していた。
 大男は、しばし無言で考えを巡らせる。しかし、一団の奥から現れた、落ち着いた雰囲気の男に気がつくと、意見を求めるように視線を向けた。
「何、馬鹿な事を言っている。たかだか街のホットドッグ屋風情に、そんなマジックアイテムが手にはいる訳はないではないかっ」
 どうやら男がこの一団のボスらしい。
「ほうぅ、そーかい。それじゃ爆破しても良いんだな?」
「やってみるが良い」
 ボスの挑発に、ミストはゆっくり球を高く掲げる。
「……本当に良いんだな?」
「さっさとやって貰おうか。但しはったりだった場合は、それなりの代償は払って貰う事になるぞ」
「そうか、んじゃ、続きはあの世でやろーぜ。10、9、8、7、6、5、4、3、2……」
 やけに間延びしたカウントが響く。
 そして、1の言葉と同時にミストはそれを大男に投げつける。
 慌てて逃げる大男はとっさの事に、シーラの戒めを解いてしまう。シーラはすかさずミストの元に駆け寄る。そして、魔法の球は地に落ちた。
 ことん……。
 乾いた音を立てて、魔法の球は地面を転がる。しかし、それだけだった。
「やはり、はったりか……。ホットドッグ屋、命が惜しければさっさと人質を返せ。もっともはったりの代償だ、半殺しは確定だがな」
「……なーに、寝ぼけてやがんだ?」
「寝ぼけているのは貴様だっ! この人数相手に一人で闘る気か?」
 ボスと大男の後ろに居た十人近い男達が、ミストの前に半円に展開する。
「ばーか、はったりってのは切り札があってこそ、生きる物なんだぜっ!」
 そう言うと、わざとらしく右手をかかげたミストはその指を鳴らす。直後、ミストの背後の空間がブレる。そこから現れる人影二つ。
「なに格好つけてんのよっ、アホミストっ!」
「なんで僕まで……」
 初級魔法に属する姿消しの魔法。少しでも動けば、あっさり見破られてしまうようなちゃちい物だが、早めに来てこの場で誘拐犯を待っていたのにはそう言う理由があったのだ。もっとも、延々息を潜めて立ちっぱなしだったパティとクリスは、傍目にはマヌケといわざる得ないが?
「シーラさえ人質じゃなければ、こっちのモノって事だ」
「……た、たかだか4人で何が出来る、さっさと片づけろっ!」
 冷静さを失ったボスの命令に襲いかかる手下達。
「やっちまえっ。パティ、クリスっ!」
「ちょっと、アンタも闘いなさいよっ!?」
 ミストに文句を言いながらもパティは、正面の敵に蹴りを入れ、流れるような動きでその隙に近づいた男の攻撃をかわし腹に肘を打ち込む。直後その場を飛び退くと、その先に居た別の男に次の狙いを定めた。少し間合いを詰めると、強烈なアッパーを放ち、体勢の崩れた所で鳩尾b烽、一発。
 鬼神のようなパティよりは、組み易しと思ったのか、その場の雰囲気だけで既に半分涙目のクリスにも何人かが襲いかかる。弱者をいたぶる笑みを浮かべた男は、大振りのパンチでクリスを狙う。
「だから、どうして僕まで……」
 しかし、泣き言を呟きながらも、最小限の動きでそれを受け流したクリスは逆にその腕を固める。苦痛に呻くその男を盾にして、続く二人の突きと蹴りと受ける。瞬間、盾にした男の腕を解放した。そして、どこからともなく取り出した素早いフライパンの一撃を繰り出す。同士討bノ気を取られた二人は、それを回避することはできない。間抜けな音を立てて、仲良く地に沈む。
 ここ三ヶ月、パティと一緒に行動せざる得なかったクリスは、いつしか脅威の護身能力を身につけていたのだった。ちなみに最初の一ヶ月は、トーヤの世話になり倒しだったのは言うまでもない。
 一方ミストは、敵の攻撃を避けつつ右に左にひたすら逃げる逃げる逃げる。
「待ちやがれっ!」
「やーだねっ」
 逃げ回るミストを追いかける大男が叫ぶが、ミストは相手にしない。意外に敏捷で、全ての攻撃を避け回る。悲鳴を上げながら手を引かれ逃げ回るシーラ。
 やがてその大男も、手の空いたパティの一セットであっけなく倒れ伏す。
「さーてと、後はおまえだけだな」
 すっかし死屍累々で静かになった辺りを軽く見回したミストは、ぽつんと立ちつくすボスに声をかける。
「なにを偉そうに。アンタは逃げてただけでしょうがっ!」
「いつもながら酷いや、ミストさん……」
 シーラは自分も悲鳴を上げながら逃げ回っていただけの事を思い出す。魔法の一発でも使って、援護の出来なかった自分を恥じた。しかし、怪我一つなく文句を並べる二人をさくっと無視すると、ミストは腕を組んだ。
「シーラさえ無事なら後はどーでも良いんだが、のちのち『あの時の恨み』とか持ち出されるのもやっかいなんでな。自警団に突きだしてやるぜ」
「くっ……本来は、逃走時の時間稼ぎ用だったのだが、このままでは腹の虫が治まらない。殺してやるぞっ!」
 怒りの形相のボスの手の中で虹色の宝珠が光ると、いきなり盛り上がった地面がゴーレムに姿を変える。
「ミストさんっ!」
「下手に刺激するからっ! あんな化け物一体、どうするのよっ?」
 シーラの悲鳴に、さすがに焦ったパティの絶叫が重なる。
「だー、うるせーっ! あんな鈍くさいモンスター、トンズラしちまえば問題ねーだろーがっ」
「でも、あんなのが街で暴れたら、ますますミストさんの心証は悪くなると思う……」
 嫌みなくらいに的確な指摘に、クリスへご褒美の蹴りを入れるとミストは地面に目を走らせる。
「くっくっく……奴らを殺せっ!」
 笑い声を上げるボスの命令を明確に受け取ったゴーレムは、地響きをたててミストに向かって一直線に迫る。
「くそ、どこいきやがった……? パティ、シーラを連れて逃げろっ!」
「ミストさんっ!?」
「いいからさっさと行きやがれっ!!」
 パティとシーラの視線に怒鳴り返すと、ミストは無理矢理二人を突き飛ばす。しかたなしに走り出す二人。
「僕は……?」
「クリス、球だ。球を探せっ!」
 なおも必死に周囲を見回すミストはクリスに叫ぶ。
「球ってさっきの……アレですか?」
 もはや諦めの境地に達したらしいクリスの指さす先には、例の『魔法の球』が忘れ去られたように転がっていた。それを認めたミストは、即座にその場所−ゴーレムの足下へとダッシュをかける。
「おとなしく殺されるか。意外に潔いなっ、ホットドッグ屋っ!」
「……勘違いしてんじゃねーぜ。そーら、プレゼントだっ!」
 一気に『魔法の球』を拾い上げたミストは、それをゴーレムの頭めがけて投げつけた。そのまま、ゴーレムの腕の大振りの一撃を避けるように、背後に飛び退いてそのまま身を伏せる。
「『ブレイクっ』」
 そして、呟いたミストのコマンドワードを、忠実に受け取った『魔法の球』は直後大爆発を起こす。それは轟音をあげゴーレムを跡形もなく吹き飛ばした。
「なっ……はったりではなかったのかっ!?」
 ご〜ん。
 驚きの声を上げるボスも、直後、間抜けな音と共にその場に崩れ落ちる。背後には涙目でフライパンを握りしめるクリス。
「……クリス。前から聞こうと思ってたんだが、どっから出した、ソレ」
「フードの中、ですけど」
「血ぃついてるぞ?」
「きゅぅ」
 自らのフライパンににじむ血に気がついて、そのまま気を失うクリス。
「……やれやれだぜ」
「ミストさんっ!」
 騒ぎが収ると、そこにミストの無事な姿を見つけたシーラは、思わず全力で駆け出していた。自分の為に危険に会わせてしまった事を謝りたかった。そして、自分なんかを助けに来てくれたお礼を言いたかった。
「……シーラ、無事だったか。んじゃ、早速勝利の抱擁でも、って……ぐぇ」
 しかし、駆け寄るシーラの方へ手を伸ばした所で、ミストの顔面には何故か飛来したごろつきAの頭が突き刺さる。手を伸ばしたそのまま後ろへとのめり倒れるミスト。
「きゃ、きゃぁぁぁ、ミストさんっ!?」
「うーん、ボスの仇を打とうと、玉砕フライングボディーアタックとは、ザコAながら見上げた根性ね」
 何故か軽く手をはたきながらのパティに、シーラは思いっきりジト目を送る。こうして、シーラ誘拐事件は新たな対立を作り幕を閉じた。
 ちなみに後日、『魔法の球』の購入資金はシェフィールド家に請求され、それで得た差額はミストの懐へと消えたりするのだが、それはまた別の話である。



こんばんは、T.Mです。

悠久3発売前の滑り込み……のつもりだったのですが、
書き上がったのが発売日だったので週末アップにしてしまいました。
今回は、毎度ラストが案安という問題点を解消すべく、
はったり野郎な主人公をメインに据えてみました。(笑)
昔のを見てみますと、毎回ラスは『凄い攻撃』一発で吹っ飛んでますから。(爆)
楽しんでいただければ幸いです。

それでは〜。

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