中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Last_day-4」 とも



 「なあ、なんで俺達だけしかいないんだ?」

 「さあ? 大方、手間取ってるんでしょう。心配ないです、すぐ来ますよ。」

 学園の某所…といっても、単に学園長室にほど近い教室なのだが…。待ち合わせの時間
に近づいても一向に誰も来ないのに不安を感じたのであろう、アルベルトが愚痴をもらす。

 ガコッ

 「ごめん、遅れて。」

 「ケホッケホッ…朋樹、やっぱり5のルートはキツイよ…」

 「何言ってるの。ここが一番の最短距離なんだから、愚痴らないでって。」

 煙…もとい、埃まみれになった朋樹とコウが、床下から出てくるなり口論をおっぱじめ
た。頭には蜘蛛の巣というおまけも付いている。

 「おいおい、ケンカなんてしてる場合じゃねェだろ?」

 「紅蓮、やっと来たか…」

 「ああ、馬鹿野郎シメてたら遅くなってな。」

 ニヤリと笑い、軽くアルベルトの肩を叩く紅蓮。

 「うちらもいるで。な、ヴァナ。」

 「そうよ。忘れてもらっちゃ困るわ。あたし達を閉じこめた罰は与えなくちゃ。」

 いつの間に来たのか、アルザとヴァナも会話に入っていた。そして、ヴァナの目が異様
な光を放っていた。

 「コウ、持ってきたぞ。」

 「あ、ラティン。じゃ、この液体入れて、導火線くっつけて…」

 ラティンの持ってきた火薬入りの筒にドス黒い液体を入れ、導火線を仕込み、コウは厳
重にふたをした。
 「…この匂い…あんた、危険なもの作るわね…」

 「え? 分かります?」

 「ええ。」

 それに気付いたのは、リラ。少し顔を歪ませ、イヤな顔をするもすぐに元に戻す。

 「………お前ら、なに和んでるんだよ……」

 しゃべり始めた面子を見、最後に来たヘキサがげんなりした顔つきで言った。

 「あ。忘れてたな。それじゃあ行くか。」

 「あんた…あいつらなめてるでしょ…」

 「おう。こんだけの人数いるしな。それに、一発でブチのめしてやるさ。」

 続くフィリーの言葉にも紅蓮はあははと笑い返し、くるりと背を向けた。

 「ほんじゃ…行くぜ!」

 紅蓮を先頭に、デューク、ヴァナ、アルザ、リラ、キャラット、朋樹、ラティン、コウ、
フィドルにアルベルト。ついでヘキサにフィリーの十三人はその部屋へと向かっていった。



 バン!!

 「おら! 引導渡しに来た…ぜ?」

 じたばたじたばた

 「リラ…。こいつが…親玉か?」

 「ううん、違うわ。…こいつ誰?」

 そこには、目隠し&猿ぐつわ&す巻き&イスにロープでぐるぐる巻きという…なんとも
無惨と言うしかないくらいガチガチにされている男がいた。

 「ムグ、グム〜!」

 …………………………………………………

 「ぷはぁッ…。助かった…恩に着るぞ、紅蓮。」

 す巻きをといてみると、中身はドクターことトーヤ・クラウドだった。シリアスにして
はいるが、顔には猿ぐつわなどの痕が残り…滑稽なことこの上ない。

 「でも、どうしてドクターが? 確か、医者同士の集会に行ってたはずだぜ?」

 「知らん。早く集会が終わってな…帰る途中にこれだ。まったくもってけしからん。」

 「…………」

 「リラ、お前知らなかったのか?」

 「知るわけないでしょ。あたしとキャラットだって、こっちに来るまで馬車ン中に押し
込められてたんだから!」

 「リラさん、落ち着いて…;」

 リラは紅蓮にくってかかりそうな勢いで怒り、キャラットが懸命にそれを押さえる。

 「ドクター。あいつら、何か言ってなかったか?」

 「そうだな…たしか、学園とグラウンドの間の木がどうとか言っていたな。」

 「そこか…よし、行くぞ! ドクターも念のためついてきてくれ。」

 「ああ。」

「…………………」

 話を聞いた紅蓮は、他の連中を連れて問題の木のある場所へと歩き出した。

 「……………………」




 「ここか…」

 自分たち以外の人間の気配は感じられない。が、それに疑問を覚えつつも紅蓮は辺りを
見回した。

 「ここって、結構人が集まるんだよ。でも、こんなところに…?」

 「まあ、結構な数の木が点在してるからな…。みんな、手分けして探してくれ。何かあ
るもしれない。」

 紅蓮の指示で、各自バラバラにグループを作り始めた。そんな中、朋樹はドクターの肩
を叩いてこういった。

 「ドクター、僕と一緒に行こうよ。」

 「ん? 朋樹か…分かった。」

 「朋樹、オレも…」

 言いかけたラティンを朋樹は目で制し、ウインクして合図する。ラティンもそれを察し
たのか、軽く頷いた。

 「ラティンさん、ボク達と行こうよ。」

 「いいの? ほんじゃ、コウも一緒に行こう。」

 「うん。」

 「じゃ、行くわよ。」

 話がまとまったと見、リラはさっさと歩いていく。その後を、三人はトコトコとついて
いった。

 「じゃ、あたし達は…」

 「決まってる。俺と行くぞ。」

 「決まりやな。で、どうするん?」

 「待て待て! 俺達がまだいるぞ!」

 勝手に話を進めようとしたアルザにつかつかと歩み寄り、アルベルトは不機嫌そうに呟
いた。が、そんなことはお構いなしにし、フィドルはアルベルトの首をひっ掴んで引きず
り始めた。見た目は細身で華奢なのだが、以外とフィドルには力があるのだ。それも、巨
漢のアルベルトを引きずるくらいの。

 「ちょっ…! まて、フィドル!」

 慌てるアルバルトをよそに、フィドルは思い出したように振り返ると紅蓮に尋ねた。

 「さあ、さっさと終わらせてしまいましょう…と。紅蓮さん、集合はどうします?」

 「ああ、手だてはいくらでもあるからな…ま、一時間ほどしたらここにまたいてくれ。」

 「了解。さ、行きますよ。アル。」

 「ばっ馬鹿! おい、変に引っ張る…のわああ!」

 「けけけ、アルベルトも悲惨だよな〜。同情しちまうぜ♪」

 急に引っ張られたことで、バランスを崩したアルベルトが派手にずっこける。が、フィ
ドルがかまわず引っ張っていくために悲惨な状況に陥っていた。ちょっと上ではヘキサが
笑ってみていたりするが、今のアルベルトにはどうすることもできない。

 「…相変わらずやなぁ…」

 「…ま、いいんじゃない? 行きましょ、紅蓮。アルザ。フィリー。」

 「…ああ。」

 「あ、あたしのこともちゃんと数に入れててくれたんだ。」

 「当たり前じゃない。」

 あまり会話の中に入っていくことの出来なかったフィリーが、ホッとした様子で呟いた。
…と言うよりは、単にフラフラしていて話の中に入っていなかっただけなのだが。




 「…ドクター、例の集会はどうだった?」

 「まずまずだな。いつもの結果と変わらん。」

 その事朋樹は、ドクターの行っていた集会の話をいろいろと聞きだしていた。

 「じゃあ、あの病の完治は…」

 「ああ…残念だが、さらに各々の研究が進まんことにはどうしようもないらしい。」

 「そう…」

 少し残念そうな顔をし、朋樹はうつむいた。それを見、ドクターは朋樹の頭に手を乗せ
る。

 「気にするな、朋樹。しかし、お前の調合した薬草の効果は相当なものだったぞ。病に
関してはともかく、外傷その他に関するお前の薬草の調合法と知識は目を見張る。当面は、
それで頑張ればいい。」

 「うん。」

 その言葉を聞いて少し安心したのか、朋樹の表情の陰りが少し和らいだようだ。照れ笑
いをすると、朋樹は頭をポリポリと掻きながら呟く。

 「…でも、あれってほとんど父さんに教えてもらったものだし…僕なんてまだまだだよ。」

 「だが、まだまだ伸びるだろう? …まったく、うちのディアーナにも少しは見習って
欲しいものだ…。」

 と、天を仰いでドクターは呟いた。それを見て、朋樹は確信したように軽く頷くと…。
ドクターに近づき…

 「そうだね。…でも…誰なの…? ドクターの皮をかぶった正体不明さん。」

 「…!!」

 言われて、ドクターはビックリしたように朋樹を見ると…思わず苦笑していた。

 「なにを言ってる? だいたい、なんでそんなことを言うんだ?」

 「本物のドクターだったら、真っ先に病院のことを聞いてくるよ。『ディアーナはなに
かやらかしたか?』ってね。」

 自分で言ってて良心が痛むのか、朋樹は苦笑しながら言い返す。

 「…」

 「それに、集会のこととかよく調べてあったけどね…変更になったんだ、その内容。」

 「なっ…?!」

 「手紙で聞いてるからね、あの病気についてのことも…それ以外のこともね。今は、僕
の調合した薬草の成分や調合法をまとめてるはずだよ…まだ、あの街でね。」

 言い終えた途端、一陣の風が駆け抜けた。そして…

 「うわあぁぁぁぁ!!」

 「いやああああ!!」

 それにのって、複数の叫び声があたりに響きわたる。それを聞いて、偽ドクターは微笑
んだ。

 「やれやれ…それは参りましたね…。」

 ふぅ、と短いため息をつき…偽ドクターは叫び声の響いてきた方向を向くと、そちらを
見たまま呟いた。

 「まぁ、いいでしょう。彼らにどのような対処を施すのか…見極めさせてもらいますよ。

…同じ世界の人間としてね…」

 「え…? そっ…」

 朋樹が思わず振り返ったその時には…すでに偽ドクターの姿はなかった。

 「同じ世界…。……っ!」

 その言葉の意味を考えようとするも…。さっきの叫び声の人間のことを先決ととった朋
樹は、意を決して走り出した。際限なく膨らむ、イヤな予感を押さえつけて。




中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲