中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Last_day-5」 とも




 「がぁぁぁぁぁ!!」

 「紅蓮、いったいどうしたんや!」

 目の前の光景には…まるで理性を失った猛獣の如く、素早い身のこなしでアルザとフィ
ドルに殴りかかっていた紅蓮の姿があった。

 「ヴァナっ…! いったい…何が起きたっていうのよ…」

 「……」

 違う方では、無言でひたすら棍を振り回すヴァナを抑えつけているリラとアルベルトが。

 「くっ…なんて力だ…! これが、ヴァンパイアの血の力…!」

 自警団の中でも屈指の腕力を誇るアルベルトでさえ、ヴァナのその力に押され気味とな
っていた。しかし、ヴァナの顔には微笑みすら浮かんでいる。まるで、無邪気に残酷にな
れる…無垢な子供のように…

 「紅蓮さん、ヴァナさん…」

 「ちきしょう…オレらじゃどうすることもできないのか…?」

 「あ、朋樹!」

 戦線から一歩離れている三人のうち、コウが朋樹に気付いた。おそらく離れているよう
にきつく言われたのであろう、真剣な表情で戦闘を見守っていた。

 「いったい、どうしたの?」

 「それが、さっぱり…。」

 辿り着くなり尋ねた朋樹の言葉に、コウは首を横に振って答えた。が、キャラットは戦
いを見守りながら震えた声でこう言った。

 「ボク、聞こえたよ。」

 「えっ?」

 「聞こえたの…『急に瓶が割れた』って。アルザさんが、『真っ黒な煙が立った』って
…そして、ボク達が来たらこういう状況になってて…」

 「他に、何か聞こえなかった? その煙に関することが、他に…」

 キャラットの肩を掴み、朋樹はいい聞かせるように言った。そして、キャラットが思い
出したように顔を上げた。

 「そう言えば…変なところから、『この草なら…』っていう男の人の声がした…かも…」

 記憶が定かではないのか、少し記憶が混乱しているのか…あまり自信なさげにキャラッ
トが言う。しかし、朋樹はそれを聞いて確信したように頷く。

 「草…黒い煙…。あの表情…理性を失って暴走するっていう効果…」

 ボソボソと呟きながら、朋樹は戦いの場へと突っ込んでいった。

 「朋樹ッ!」

 とっさにラティンが朋樹を掴もうとするも、スピードについていくことが出来ず…その
手はむなしく空を切った。




 「シャァァァァ!!」

 ガッ!

 「ちっ…相ッ変わらず強いわ…。気ィ抜けへんな…!」

 くり出された紅蓮の拳を無造作にひっ掴むと、アルザは力任せに無理矢理地面に叩きつ
けるように紅蓮を投げた。

 「ぐぅっ… あああぁぁぁ!!」

 叩きつけられ、バウンドした反動を利用して紅蓮は体制を立て直し…上段の蹴りをくり
出す!

 「甘いわ!」

 こめかみを狙ったその蹴りをアルザは難なくかわすと、無防備になるであろう瞬間を狙
って力を込めようとした。このままいけば、その蹴りのスピードからいって途中から軌道
を変えることは出来ないとよんだのだ。が、

 「っらぁ!」

 ガツッ!

 その読みと違い、紅蓮の足は急停止すると…アルザの頭に向かって踵落としを仕掛けて
きた。読みきれなかったアルザはそれをまともにくらい、頭を押さえて倒れ込む。。

 「…おあぁぁぁぁぁぁ!!」

 「させません!!」

 もだえているアルザめがけ、紅蓮は腰の刀を引き抜くと一気に振り下ろそうとした。フ
ィドルはそれを阻止しようと、愛刀を抜いて立ち向かった。

 ギギ…ギリィィ…

 二人はすぐさまつばぜり合い、ギリギリと双方の刀に火花が散る。と、そこへ朋樹が音
もなく現れた。

 「…フィドルさん、ここは任せて…!」

 バシィ!

 一瞬で紅蓮の横に移動すると、鋭い蹴りを紅蓮の顔に叩きつけた。

 「ぐが…!」

 顎をとらえた会心の一撃だったが、紅蓮は一つうめき声を上げただけですぐさま体勢を
立て直す。

 「やっぱり『ナイトメア』…。紅蓮、ちょっと我慢しててね…!」

 「グォォォ!!」

 呟いた朋樹に、紅蓮の蹴りが襲いかかる!

 「甘いよ…」

 身体を思い切りしならせながらの前蹴りが襲いかかるが、朋樹はあっさりとそれを受け
流す。が、それは軌道を変えると肩口を狙った踵落としへと変化していった。

 「オオォォ!!」

 「…だから、狂戦士になったら理性で判断できないんだから…僕には勝てないよ!」

 紅蓮が言葉を理解できているのかも関係無しに、朋樹は言い聞かせるようにして叫び…
その足をさらに受け流すと体重を乗せた当て身を喰らわす!

 「ぐぅっ…」

 「まだまだ!」

 そこから腕をとって投げ、

 「式流拳技―躯止(くし)!」

 倒れた紅蓮の身体に、思い切り拳打を打ち込んだ。

 「手荒なコトしてごめん、紅蓮…」

 その行いをした紅蓮に対し、朋樹は少し頭を下げて謝罪する。紅蓮はそのまましばらく
ピクリともしなかったが、少しの間をおいて起きあがってきた。

 「ててて…朋樹、ちったぁ手加減しろよ…」

 「あれれ…。紅蓮、暴れてる間の記憶、あったの…?」

 ジリジリと詰め寄る紅蓮を見、朋樹はでっかい冷や汗を浮かべながら後ずさる。

 「ああ…。………ヴァナはどうしたッ?! あいつも俺と同じように…」

 「うん。今、行ってくるよ。止め方は分かったし、紅蓮は「躯止」はできないでしょ?」

 「…サポートくらいはするぜ。…いいな?」

 「うん。」

 二人は軽く笑うと、頷き合う。そして、ヴァナを…リラとアルベルトを助けるべく、走
っていった。





 『ヴァナ、いい加減に止めて!』

 その頃。ひたすら攻撃を加え続けているヴァナに、ティナは精神の狭間で必死にヴァナ
を説得しようとしていた。



 「…………」

 「ちきしょう! 俺じゃどうにもなんないのかよっ!」

 「諦めんじゃないわよ! どうにか当て身なりなんなり喰らわせて、ヴァナを気絶させ
るのよ!」

 二人がかりでやっとヴァナを抑え続けているリラとアルベルトは、口論をしながらも何
とかその場にヴァナをつなぎ止めていた。しかし、ヴァンパイアの力を最大限まで発揮し
ていないヴァナに苦戦しているため…いつ蹴散らされるかは分からない。最大の力を出し
てしまえば、ヴァナの勝利は目に見えて明らかなのだから。



 『ヴァナ! 私の言葉が聞こえないの?!』

 「……………」

 再び、ティナは訴えかけるが…まるで聞こえていないのだろう、一切の返答をヴァナは
しない。

 『(さっきの煙…それが原因なの…? でも、なぜ私は大丈夫なのかしら…。)』

 しばし考えるも…己でもヴァナでもあるその身体は、今も仲間を攻撃し続けている。そ
んな暇はない。そして…ティナの思いついた方法は一つだった。

 『(それなら…私がヴァナを止める!)』

 ヴァナが数割解放しているヴァンパイアの力…それを、精神の中にいるティナは完全に
解放することにした。しかし、身体と力を制御しているのは表に出ているヴァナ。精神の
奥にいるティナでは、制御できるとしてもヴァナの数分の一だろう。しかし…今のティナ
に出来るとしたらそれしか考えられなかった。



 「……………」

 「ぐっ…!」

 「アルベルト! ったく…いい加減に目を覚ましなさいよ、ヴァナ!」

 外では、アルベルトがアルベルトが腕を押さえて片膝をついていた。それを守るかのよ
うに、それでも傷ついているリラが立ちはだかる。ティナは一刻の猶予もないと感じ、そ
れを実行に移した。



 『我、闇の眷属の血を受け継ぐ者なり…
  一族の名、ハーヴェルの名のもと…我が名、ティナの名のもとに…
  我が内に封じし力、今ここに全てを解放せよ!』

 ゴォォォォ!!

 詠唱が終わった瞬間…身体の内外に、魔力の奔流が感じられる。禍々しい魔力と闇の力
の交じり合った、忌まわしき闇の眷属の力…ヴァンパイアの力が。



 「…なによ、これ?!」

 「いったい、何をしようとしてやがるんだ…?」

 対峙しているリラとアルベルトも、その変化に気付いていた。目に見えるほどの魔力の
奔流…身体を包んでいる、魔族の闇に包まれたオーラを。



 『ヴァナ…主人格であった私、ティナの名において命じます。我らが身の制御の権を我
に託し、しばし眠りにつきなさい!』

 言葉が終わると同時に、精神が入れ替わり…刹那、ティナの頭の中に重い声が響きわた
る。

 『女よ…我にその意を従わせよ。破壊は快楽、破壊は喜びなり…。汝、我にその意を従
わせよ…』

 『…嫌! そんなもの、私は求めない!』

 『なにを言う…。汝が意の片割れは、我の意に従った…。汝も我に従うがよい…』

 その声の主は、ひたすら同じ言葉を繰り返す。しかし、ティナはそれには屈しなかった。

 『ヴァナは…もう一人の私は、そんなものには屈しない!』

 『ほう。ならば、なぜ汝の片割れは我が意のままに従った?』

 『分からない…? 今の私…いえ、私達がなぜ対等に話しているのかが。』

 怯まず、ティナはそれに反論した。声の主は、あざ笑うと少し楽しそうに言い放った。

 『…面白い。ならば、その答えを示してみろ…』

 『そんなもの、簡単よ…』

 ティナの意志に準じ、内に力が集まる。声の主を打ち砕こうとする力が。そして…

 『私達は二人で一人。一時とはいえ…半身の私が眠りについていた時に、この身体を操
ったあなたには感服するわ。』

 集う力はだんだんと大きくなり、声の主の意識を吹き飛ばすくらいの威力を超える。

 『けど…それももう終わり。私達が……そろったから。消し飛びなさい…私達に、仲間
を傷つけさせた報いとして!』

 『ぐ…お…オオオォォォォ!!!』

 力が声の主にぶつかり、それは一瞬のうちに吹き飛ぶ。それと同時に、自分の中から何
かの意識が…消え去った。



 「ちょっと…これ、どういうことよ…!」

 「…俺が知るか! それにしても…なんなんだよ、これ…」

 一方、外では…。突如攻撃を止めたヴァナの身体からオーラが湧き出てきた途端、それ
は闇色の柱となってヴァナを包んだ。その間、何かの声とヴァナ…いや、口調から考えて
ティナなのであろう…口論がそこから響きわたっていた。

 ゴォォォォォ!!

 数瞬後。何者かの断末魔の叫びが響き、ティナを包んでいた闇が…晴れた。



 「ヴァ…ティナ! 大丈夫なの?!」

 「ええ…久しぶりね、リラ。」

 倒れ込んだティナを、リラはなんとか抱えた。精神的な疲労が凄まじかったのか、ティ
ナはぐったりしている。

 「やっとお目覚めか。さすがに疲れたぜ…」

 それを見、アルベルトは心底疲れたようにため息をつくとその場に座り込んだ。しかし、
肩で息をしているところを見ると、本当に疲れているようだ。

 「ヴァナ、ティナ! 大丈夫か?!」

 そこへ、紅蓮と朋樹が到着した。三人の状態を見るや、朋樹はさっそくベルトポーチを
ごそごそとあさり始める。

 「ちょっと待っててね。今、薬出すから。」

 数種類の瓶と包帯を取り出した朋樹は、手際よく処置を施していった。数分後には、三
人とも応急処置は終わっていた。

 「こっちはどうなってたんだ? 俺と同じように暴れてたろ?」

 「ええ。ヴァナの精神を眠らせて、私が出て…。」

 「それにしても、『ナイトメア』に勝つなんてすごいね…紅蓮なんて、まるで野じゅ…」

 ゴッ

 ペラペラしゃべる朋樹の頭に、無言のゲンコツが落とされた。もちろん、紅蓮だ。

 「…いたっ! 紅蓮、非道い…」

 「うっせぇ! ったく、ベラベラしゃべんなよ…」

 「まあまあ。紅蓮さん、落ち着いて。じゃないとヴァナの料理…」

 「すまん、俺が悪かった(即答)」

 さすがに死刑宣告に近かったのか、紅蓮は速攻で謝った。しかし、これではヴァナも浮
かばれまい(←死んでない)

 「…ティナ、結構言うようになったのね…」

 「まぁ…ね…。って、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。早く向こうに戻ろう。ド
クター、偽者だったんだ。」

 朋樹は言いながら、他の仲間の待つ方向へと歩いていく。それを聞き、紅蓮は慌てた。

 「ちょっと待て! 偽者ってどういう…」

 「いいから。みんなそろって話を聞いた方がいいよ。」

 紅蓮が引き止めて話を聞こうとするも、朋樹はそれを黙らせて歩いていく。そして、戸
惑いながらもその後へとついていった。



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