中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Last_day-6」 とも  (MAIL)




 「そうか…そういうことか…」

 朋樹の話を聞き終えた紅蓮は、苦虫をかみつぶしたような表情でそっぽを向いた。皆も
同じようにうつむいたりしている。

 「でも、気付いたこともあるんだ。フィリー、ちょっと真上からドームを見てきてくれ
ない?」

 「無理よ! いくら何でも、あの高さまでは…」

 いきなり言われたフィリーは、首をぶんぶんと横に振って逃げようとした。実際、広い
敷地を囲むほどのドームだ。高さは相当なものだろう。

 「けけけ、やっぱ虫じゃあ無理か。よっしゃ、オレ様が行ってやる。朋樹、約束のもん
追加頼むぜ。」

 逆に乗り気になったのは、ヘキサ。ヘキサでもちょっと無理っぽいのだが、もうやり遂
げたような顔をしている。

 「…虫ですってぇ…!? ヘキサ、あんた何度も何度も…やってやろうじゃない!! 
アルザ、手伝って!」

 「うちか? 別にええけど…いったい何するんや?」

 「なにって、投げてもらうに決まってるじゃない! 馬鹿ヘキサになめられたままなん
て嫌なのよ!」

 ヘキサの言葉に触発され…フィリーがキレた。後先なんぞ、これっぽっちも考えてない
言動だ。

 「げっ…虫もその方法かよ…。アルベルト、頼むぜ!」

 「お、俺かよ…」

 ヘキサもアルベルトに協力を依頼(?)し、二人してロケットになる決心(笑)がつい
たらしい。



 「ほな、いくで!」

 「ヘキサ、投げるぞ!」

 力自慢二人に掴まれ、フィリーとヘキサはカウントダウンにはいる。

 「「4・3・2・1…」」

 そんな中、周りは緊張の面もちで一挙一動を見守っていた。そして…

 「「0!」」

 「「うりゃぁぁ!!」」

 二人は、上空へと放り投げられた。



 バッ!

 マントと羽、それぞれを大きく広げ、上昇のスピードを抑える。スピードは次第に小さ
くなっていき、二人の身体は空中でピタリと止まった。

 「ひゅ〜♪ ホントにドームが左右対称になってら。これだったら分かりやすいな。」

 短く口笛を吹き、ヘキサは感心したように下を見回す。

 「無駄口叩いてないで探すわよ。」

 「へいへい。」

 フィリーに言われ、ヘキサはフラフラと上空を彷徨いながらある一点を探し、フィリー
も同様に探している。

 「おっ。ここの真下じゃねーか?」

 「どこ!?」

 ヘキサの声を聞き、フィリーはそこへすっ飛んでいった。そしてそこから下を見下ろす
と、同意するように頷く。

 「間違いないわね。でも…皆がいるトコの隣の林なんて…なんか怪しいけど。」

 「…行くッきゃねーだろ?」

 フィリーは少々怪しむが、ヘキサはにぃッと笑うと渡された瓶を取り出した。行く気は
満々らしい。

 「はぁっ…仕方ないわね。」

 「よっしゃ! 降下開始!!」




 「おい、二人が急降下してるぞ!」

 丁度木々の切れ間から見えていたフィリーとヘキサの姿が、ある一点を目指して降下し
ていた。場所は、学園の正面大通りを挟んだ反対側の林。

 「あそこか…よし、行く…!」

 目指そうとした矢先、目の前に男が立ちはだかる。白衣に身を包み、そして一部の者に
は見覚えのある者…

 「…! フェーンの時の…!」

 「ほんまや……まだつまらん研究しとったんか…?!」

 「つまらないとは心外ですね…」

 朋樹とアルザが苦虫を噛み潰したような顔をする中、白衣を着た青年は大げさに肩をす
くめた。しかし、それ以上に驚愕している者がいた…紅蓮である。

 「…もう一人の…迷い人かよ…!」

 「ほう…紅蓮さん、私をご存じで?」

 「ああ…ニュースで見たことがあるぜ、そのツラ。バラシ屋っつたか。壁の中から消え
たんで危険っていう内容だったが…まさか、この世界に飛ばされてたとはな。」

 ニュースという言葉を聞き、その場にいた約半数が首をかしげる。が、それにかまわず
紅蓮は続けた。

 「…とも。お前、気付かなかったのか?」

 「え…っと…。あはは、僕、名前だけしか知らなかったから…」

 「テレビ欄だけしか見てねーのかよ…」

 「ごめん…」

 さらに皆には分からない会話を、紅蓮と朋樹は交わした。

 「それはそーと。とも、こいつが例の大馬鹿野郎か?」

 「うん。」

 紅蓮の言葉に即答する朋樹。

 「それはそれは。誉め言葉と受け取ってよろしいのですか?」

 「どうとでもとってくれ。…てめェを潰すことには変わりねェ!!」

 そう怒鳴ると、紅蓮は腰に納めていた二振りの刀を引き抜いた。

 「紅蓮、本気?! そうはいっても、相手は丸腰だよ?!」

 「そうですよ、あなたは丸腰の人間に武器を?」

 「だったら、それはなんだ?」

 そういって、紅蓮は青年の腕を刀で指し示す。そこには…魔力の光がこもっていた。

 「おおかた、てめェだけ魔法使えるんだろ?」

 「…ご名答。」

 ズン!

 返事と共に、青年は紅蓮達全員に魔法をぶっ放した。総勢十一人に、外れることなく魔
法の炎が降りかかる!

 「ちっ…みんな、散らばれ!」

 ゴォォォン!!



 「ちくしょう! なんつー非常識な…」

 「ぼやいてないでよけてください、アルベルト!!」

 呟いたアルベルトめがけ、容赦なく魔法による火球が襲いかかる。

 「ちぃっ!」



 「あわわわわわ!!」

 慌てながらも、コウは降りかかる全ての火球を避けていた。そこに、近くにいたキャラ
ットをかばいながら後退するラティンの声が飛ぶ。

 「コウ、こっちだ!」

 「キャラットはそこの二人と奥に行って! ラティン、コウ、頼んだわよ!」

 「……分かりました…怪我なんてしないで下さいね!」

 「リラさん…」

 リラは手にナイフをかまえ、早く後退するように指示を出す。キャラットは心配そうに
リラを見つつも、ラティンの後について林の中に姿を消した。



 ボムッ!

 「…やっぱ、こいつぶっ潰す。」

 手に持った刀で火球を消し飛ばし、青年を睨み付けながら紅蓮は呟く。

 「…気は…進まないけどね。でも…僕も、許せない…!」

 片手を天にかざし、火球を握り潰して、朋樹も紅蓮と同じように青年を睨んでいた。

 「ほんま、二人ともバケモンみたいやな…」

 「アルザさん、それを言っちゃ…」

 「ほう…なかなかおやりになりますね…」

 「当たり前だ…。てめェみてえな大馬鹿野郎には、いっぺんヤキ入れなきゃ気がすまね
ぇんだ!」

 「失礼な。私には、魁司(かいじ)という名があるんです。大馬鹿野郎と言われる筋合
いはないですね。」

 怒り狂う紅蓮に、青年…魁司はため息と共に自分の名を名乗る。が…

 ズドォォォ!!

 それと同時に、ラティン達が消えた林の中から地響きと共に爆発音が響きわたる。

 「キャラット?!」

 思わずそこを見るリラ。が、紅蓮がすぐに抑える。

 「大丈夫だ、心配するな!」

 「心配するな…って出来るわけないじゃない!」

 「…だったら、上見てみろよ。」

 言われて見ると、上にかかっていたドームが中心から色を失っていくのが見えた。

 「…やってくれましたね…! いいでしょう、死になさい!!」

 魁司はそれを見、詠唱を始める。それは、今まで聞いたことのない詠唱だった。

 「我契約せしは、熱き雷放つ汝…
  我…………グ…オオォォォォォォォン!!!!」

 しかし、それは途中で途切れ…魁司が胸をかきむしって野獣のごとき叫び声をあげた。

 「なんだよ、あれ…」

 ごくりと音が聞こえるほど…デュークを始め、その場にいた全員は息を呑んだ。いや、
魁司のみそんなことはできない。なぜなら…

 「グルアァァァァァ!!!」

 すでに異形の者と化し、姿形を魔物のそれへと身をやつしていたからだ。
 …六つに分かれた足は蜘蛛を思わせるような節のついた形となり、巨大になったその身
体を易々と支えている。腕は脇腹から生えてきた四本の長い腕が二対となり、何かを捕ま
えようとしているのかフラフラと揺れ動いている。顔も、ドラゴンを思わせるような大き
な顎と鋭い牙がぎらりと光っていた。その姿と威圧感のみで、その場の者は一時固まって
しまう。

 「ためてた魔力が、一気に魁司に集まったか…」

 ドームの効力がなくなり、魔力の流れを感じた紅蓮がボソリと呟いた。

 「でも、これで魔法ブッ放せるやないか。」

 臨戦態勢に入ったアルザは、腕にアース・シールドの光を宿らせた。デュークやフィド
ル、アルベルトも、具現化の得物を出す。ドームが消えたおかげで、皆魔法が使えるよう
になったようだ。

 「紅蓮はやらないのか?」

 「言ったろ? 魔法使わずにブッ倒すって。今の俺には、この二振りの刀で十分だ。」

 そういって、紅蓮は二刀流の構えをとった。しかも、逆手と順手の構えを複合した異質
な構えを。

 「…僕も、紅蓮と同感。最近、魔法ばっかり使ってること多いしね。」

 朋樹も具現化は使わず、自作のナックルガードを腕にはめた。

 「無謀だな、俺ら。」

 「かもね。」

 紅蓮と朋樹は笑い合う。それを見、ティナも魔法の詠唱を途中で止めた。その代わり、
少し抑えたヴァンパイアの力を再び全開放して。

 「……………私も…ご一緒していいですか…?」

 「当たり前だ。話したろ?」

 ティナの言葉に、紅蓮は笑って答えた。ティナも微笑み、それに応じる。

 『ティナ…あたし…ごめん…。』

 『いいの。私達、二人で一人じゃない。ね、ヴァナ。』

 「ガアアァァァ!!」

 それを破り、先ほどまで人間であった者…異形のモンスターが、雄叫びをあげた。




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