中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「FIRST-DAY_1」 とも  (MAIL)




 「なんだ、連中は久々にサボりか?」

 数学の授業の時間。教卓についた教師は、なぜか楽しそうに呟いた。

 「朋樹、ラティン、とここまでがいつもで…。なんだ、翔夜は居残りか…ん?
 コウの姿が見えないが…知らんか?」

 「コウなら連れてかれたよ。ちきしょう…あいつら、オレは今日は駄目ってさ。」

 「ほう、そうか。では、ほっといて授業に入ろう。今日は…」

 サボった者達をとがめるもなく、教師はさっさと授業に入ろうとした。それにい
い加減腹を立てた学級委員長は、わざと大きな音を立てて立ち上がると

 「先生! 少しは真面目にして下さい!」

 と教師に向かって怒鳴った。

 「委員長、お前もあきないなあ。わしは、いたって真面目なつもりなんだがな。」

 しかし教師の方は、最近白くなってきた頭を掻きつつぼやいた。そのとぼけた姿
が受けたのか、周囲の生徒からクスクスという笑い声が聞こえてくる。

 「けど、団体行動を乱すと言うことは…!」

 「まあ、別によかろう。ああいうことは今しかできん。それに、月に1、2度く
らいだ。点も取っている。」

 「そういう問題じゃないと思います! テストだって、カンニングとか…」

 「いや、それはない。お前達が受けた意外に、朋樹と共にサボったりしていたも
の全てを再テストしてみたが、例外無しによかった。よほどいい教師役がいるんだ
ろうな。」

 「けど、やっぱりサボるっていうのは…」

 「ほっとけほっとけ。今しかできんコトと言ったろう? わしだって、今は教師
をしている身だが、昔はよく同じコトをしたもんだ。翔夜、逃げるんじゃない。や
るならもっと上手くやれ。」

 ワイルがそれを聞いてこっそり抜け出ようと試みていたが、あっさりと見つかっ
てしまう。

 「まったく、今日は授業になりそうもないな。テキストの80〜84ページの問
題全てをやっておいてくれ。終わった者から自習とする。ただし、周りの迷惑にな
らないようにな。」

 そういうと、教師は寝てしまう。その途端、ザワザワと騒ぎ出した。もちろん、
同じクラスのトリーシャとシェリルも例外ではない。

 「相変わらずだね。いいなぁ…。ボクも一緒に行きたかったのに。」

 「いいじゃない、トリーシャちゃん。それより、さっさと終わしちゃいましょう。」

 ぶつぶついっているトリーシャをなだめつつ、シェリルはテキストを開いた。




 「成功成功。今回はちょっとスリルあってよかったな。」

 「そうだね。」

 「よくない…っていうか、スリルあり過ぎ…。」

 日のあたる丘公園のベンチで、脱走犯(笑)の三人はしばしの休憩をとっていた。
危うくシスター・リンに見つかりそうになったものの、無事に逃げることができた。

 「コウ、お前はマジメすぎるぜ。もっと…」

 「まあまあ、落ち着こうよ。ところで、ラティンはどうするの?」

 「オレ? 紅蓮さんにちょっと用事があるんだ。さくら亭にいるかな?」

 「ううん、今日は自警団で鬼教官やってるよ。デュークも行ってるはずだし。で
も、さくら亭にも顔出しといたほうがいいかも。いるかもしれないしね。」

 「けどさ、朋樹、お前よくデュークさん呼び捨てにできるな。」

 「だって、呼び捨てでいいって…」

 「そうは言っても…って、いけね。オレ、行くわ。」

 ラティンは日の傾き具合を見て、軽く手を上げると走り出した。

 「朋樹、僕達はどうしよう?」

 特にやることがなく、さらにコウは巻き添えでここにいる。とりあえず学園に帰
るのもどうかと思ったコウは、朋樹の考えを聞くことにしたようだ。

 「どうって…昼寝でもしようよ。天気もいいことだし、ね。」

 そんなことでサボるなよ…………朋樹………






 「ほら、打ち込みが甘いってンだろ!」

 自警団の演習場。そこでは、紅蓮の怒鳴り声が響いていた。周りにいるのはデュー
クとフィドル、アルベルトのみ。ほかの連中は、あまりの厳しさにダウンしている。

 「…鬼。」

 「ほほう、なんか言ったか? アルベルトくん。」

 「ちきしょう…リサ以上にキツイじゃねえか…」

 想像以上の紅蓮のしごきに、文句を口にしながらアルベルトは訓練を続けた。

 「紅蓮さん、この「石斬ノ型」は素手の技…でしたよね?」

 「ん。無手…素手での技は、礎に過ぎねェんだよ。本質は、得物を使った方にあ
る。使えるようになればなまくら刀でも巨石を断つことができるようになる。極め
れば、素手でそれをできるんだ。何事も、基礎が大事なんだよ。グダグダ言うな。」

 「それって、化け物じゃねえか…」

 説明に、デュークは寒気を感じた。それを自分が習得できるという反面、同時に
恐怖も感じたのだ。

 「ファイナル・ストライクやジ・エンド・オブ・スレッド使うお前らが何言って
やがる。あれ使ってるお前らだって、十分化け物だよ。」

 「そういうけどな、あれの制御だって辛いんだぞ?」

 「はぁ? 簡単じゃねェか、あれの制御なんて。こないだやってみたら、あっさ
りできたぞ。ともも一緒に。」

 「そっちの方が化け物だろーが!!」

平然とした顔つきで言う紅蓮に、アルベルトの怒りのつっこみが演習場に響きわたっ
ていた。



 

 「にしてもよ、なんで俺だけ二つ覚えなきゃいけないんだ?」

 愛用の槍を振り回し、アルベルトが呟く。

 「なんとなく。」

 「なんとなくですむか!」

 「落ち着けよ。それより、技の特性は覚えたのか?」

 「ああ、「狂裂き(くるいざき)」が、槍の穂先とケツで全てを斬り払う。「四断
(しだん)」が、両手足の自由を奪う…だったよな?」

 「ご名答。んじゃ、「狂裂き」の実演だ。」

 紅蓮はそう言って、手に具現化の槍を出す。アルベルトもそれに対してかまえた。

 「まずは、俺にやってみ。それで判断するから。」

 「おりゃぁぁぁ!」

 アルベルトは穂先と柄尻の長さが同じになるように両手で構え、斬り払うように
槍を回しながら紅蓮に突進する。特性を考えての構えだろう。

 「まあまあ合格。でも、速さがない。」

 紅蓮も同じように持ち、攻撃の仕方も同様の構えをとるが…アルベルトよりも、
紅蓮の槍の攻撃のスピードの方が圧倒的に速かった。

 ガガガガッ! ガガッガツッガッガッ………ガァン!

 善戦するものの、すぐにアルベルトがせり負け槍を吹っ飛ばされる。


 「なんで違うんだよ…」

 その場に座り込んで、アルベルトは自分に言い聞かせるように呟いた。

 「力で無理矢理ぶん回そうとするからだ。だから、猪突猛進っつわれんだよ。」

 「…くっ…」

 したり顔で言う紅蓮に、アルベルトは本当の事に対して何も言えなくなる。

 「ま、後は肩の力抜いてやるこった。腕でぶん回すんじゃなくて、手首を使うん
だぞ。「四断」は、柄尻でやること。ダミーの人形使って、一瞬で最低2ヵ所は突
けるようにするこったな。」

 アルベルトへのレクチャーが終わり、次はデュークとフィドルの二人に取り掛か
ろうとした時…

 「紅蓮さ〜ん!」

 声に振り向くと、魔術師ギルドの者が走ってきていた。

 「どうした? そんなに慌てて…俺の鑑定依頼の石にヤバイもんでもあったか?」

 「いえ、違います! ちょっと急いで来てください! 大変な事が起きたらしい
んです!」

 「なんなんだ…? ま、いいや。デューク、フィドル。お前らはしばらく練習し
ててくれ。課題は、そこの刃無しの得物で砕かないようにダミーを斬ること。遅い
ようだったら、そのまま解散してもいいから。足に集うは……ウインド・ウイング!」

 魔法をかけると、知らせにきた魔術師を置いて紅蓮は疾走していった。その者も、
慌てて後を追っていく。

 「…なんかあったのか…?」

 「さあ…何にしても、ただ事じゃないようですね。」

 「大変です!」

 そこへ血相を変えて走って来たのは、今回しごきから外されていた自警団員の一
人、ヤン。

 「あれ? 紅蓮さんが見当たらな…と、そんなこと言ってる場合じゃないんです!
 皆さん、至急学園の方に向かってください!」







 場所は変わって魔術師ギルドの長の部屋。

 「紅蓮、来たか。」

 「はい。で、どうしたんです?」

 「詳しくは、この方に聞いてくれんか。」

 長は他のギルドとの通信に使う水晶玉を取り出した。そこには、マリエーナ王国
の魔術師ギルド長が難しい顔をして座っている。

 「あれ、じっちゃんじゃねぇか? どうしたん?」

 「ぐ、紅蓮! ギルド長の長といわれるお方になんということを!」

 「よいよい。どうじゃ、その後変わりないかの?」

 「ああ、元気でやってる。今日はどうしたんだ?」

 「うむ。…さ、レミット王女。紅蓮殿が参りましたぞ。」

 マリエーナの長が下がり、後ろの少女に声をかけた。前に出てきた王女――レミッ
トは涙を流しながら言った。

 「お願い…! リラと…キャラットを助けてあげて!!」

 王女の口から出た言葉は、かつて魔宝を求めて共に旅をしていた仲間の名だった。
言った途端に泣き出し、後は言葉にすらならない。



 「…レミット王女、後は私にお任せください。紅蓮、聞いての通りじゃ。」

 「聞いての通りッたって…」

 「先ほど、エンフィールド学園からひとつの通達があった。」

 「何でそっちなんかに? 普通、ちが…」

 「いいから聞け。犯行声明じゃよ。『エンフィールド学園全生徒と教師、および
レミット王女のご友人でもあるリラ殿とキャラット殿を人質とした。無事に開放し
たくば、王国にA級賞金首として捕まっている「NO−564」を開放せよ』、とな。」

 「ちょっと待て! 今、学園にはティナやとも達が…こうしちゃいられねェ! 
レミット!」

 「な…に? うぐっ…」

 「大丈夫だ。みんなまとめて、俺が助け出してやる。心配せずに王女の雑務でも
こなしてろ。わかったな?」

 「うん…。約束、よ…」

 レミットは涙を拭くと、ゆっくりと頷いた。紅蓮もそれを見て満そうに頷き返し、
部屋を飛び出す。

 「長殿…」

 「大丈夫じゃ、紅蓮殿ならば何とかしてくれるだろうて。安心せい、エンフィー
ルドの。」



 「なんだ…? ありゃぁ…」

 いざ学園に向かおうとするが、不気味な青い幕が学園を覆っているのが見え、立
ち止まってしまう。が、それを振り払うように顔を振ると、改めて紅蓮は学園に向かった。





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