中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「First-Day_2」 とも  (MAIL)


 紅蓮が学園に着いてみると、まず野次馬が目に入ってきた。その向こうでは自警団
が野次馬を必死に抑え、さらにその向こうでは代表であろう男とリカルドが話し込ん
でいた。

 「ならば、断固として譲ってはくれないのですな?」

 「ああ、ボスからの命令でな。おっと、オレに手は出すなよ。怪我の一つなんぞつ
けようものなら、人質の誰かが死んじまうことになるんだからな。」

 へへへ、と卑下た笑いを浮かべ、男は言葉を続ける。
 「ここには、紅蓮とか言う特殊な魔術師がいるって話だが…そんなヤツに頼ろうと
したって無駄だぜ。オレらの張った結界は、どんな魔法も無効化されちまう。どんな
ヤツの魔法でもな。」

 そう言ってもう一度笑うと、男は悠然と去っていった。リカルド以下、他の自警団
員はそれをただ黙って見送ることしかできなかった。


 「リカルドさん。」

 「紅蓮くんか。長との用事は済んだのかね?」

 「ええ。さっきの、聞いてましたから。ったく、本人いるの知ってて言ってんか…?」

 紅蓮はそういいながら、無防備にドームの中に入っていく。

 「ちょっ…紅蓮さん! むやみにはいるのは危険…!」

 「かまうこたぁねぇ。さっきのヤツだって不用心に出たり入ったりしてたろ? 大
丈夫だ。」

 紅蓮はフィドルの声を無視し、そのまま中で魔法の詠唱を始めた。

 『右に集うは………我が意のままに具現化せよ。』

 右手に魔法が集い、形をなしていく…が、すぐにその姿は薄れて霧散した。

 「(この感じは…使えないと言うより…)」

 何かを感じ取ったように首をかしげると、紅蓮は次々と魔法を使い出す。

 「紅蓮さん! さっきのヤツが言ったとおり、魔法は使えないんです! 何がある
かわからないから…」

 「ちったぁ黙ってろ! 感じがつかめなくなる!」

 そう怒鳴りつけ、フィドル他数人の自警団員を黙らせると、エンフィールド系の魔
法、マリエーナ王国系の魔法と、紅蓮は己の知る限りの全ての魔法を試していた。し
かし、それらはみな、その効力や性質を示さないうちに霧散する。

 「どれも使えない…というか、やっぱりこれは…」

 「無理でしょう? 先ほども、焦った団員の一人が魔法を放ったんですが、そのド
ームの中に魔法が入った途端に消えてしまったんです。紅蓮さんが使った魔法のよう
に…」

 「俺の使った魔法のように? そうか、やっぱり…」

 それを聞くなり、紅蓮はニヤリと笑みを浮かべると、制止させようとする団員達の
声を無視して何処かへと歩き出した。

 「魔法が使えねェ…? 面白ェ…。俺に頼ろうとするのは無駄…? 上等だ。魔法
抜きの闘いなんてのもスリルあっていいじゃねェか…。俺の本質は魔法抜きのケンカっ
てこと…その体にイヤっていうほど教え込んでやらぁ…!」

 と、呟きながら。





 その時、朋樹達は…

 時間を少し戻そう。ちょうど、ラティンはさくら亭を出てすぐに紅蓮を見つけてい
た。しかし、紅蓮はそれに気づくことなく走り去ってしまい、仕方なく自警団事務所
へ向かっていた。

 「あ、デュークさん達…。どうしたんですか?そんなに急いで…」

 「キミは無事だったのか?」

 「なんだか知らないですが…ヤン、後は任せましたよ!」

 事情を知るヤンを残し、フィドルたちは学園へと走っていった。

 「え? 無事って…?」

 「知らないのか? 学園がテロリストに占拠されてしまったんだ。少し事情を…」

 そう言い、ヤンはラティンを捕まえようとする…が、その手をするりと抜けると公
園へ向かって走り出した。

 「おい、待て!」

 「ごめん、ヤンさん!」





 「コウ! 朋樹は?!」

 息を切らしながら、ラティンはコウを叩き起こした。

 「え…? うえ…だけど?」

 寝てるところを無理矢理起こされたコウは、目をこすりながら一本の大きな木の枝
を指差す。それを確認したラティンは、思い切りその気を蹴飛ばした。

 「うわぁ!」

 ザザッという音と共に、朋樹が地面に落ちる。まるで虫だ。

 「ラティン! いきなり何すんのさ!」

 「バカ、それどころじゃない! 学園がテロリストに占拠されったって!」

 「またまた、そんな冗談…」

 ボカッ!

 「痛っ!」

 「そんなわけあるか、コウ! ヤンさんから聞いたんだ。デュークさんたちも必死
だったし、冗談なわけない!」

 「うん、冗談じゃ無さそうだよ。あっち、見てみなよ…」

 コウらが朋樹に言われた通りの方向を見ると、無気味な青いドームが見えた。しか
も、その方向、その中に見えるのは紛れも無くエンフィード学園だ。

 「どうする?」

 「どうするって…? 何かするつもり?!」

 「もちろん。ラティン、そのつもりで聞いたんでしょ?」

 「ああ。それに、じっとしてる性格か?」

 「ううん。じゃ、いっちょ忍び込んでみますか。」

 と、朋樹とラティンが手をガッチリと組む。それを見たコウも、半ばやけくそに二
人の手に自分の手を重ねた。

 「…僕も行く。…もう、どうでもいい…!」




 「3のルート?」

 忍び込む経路を考えていたところ、朋樹が一つの経路を指し示した。

 「了解だ。こっちなら、多分大丈夫だろ。オレだけか?」

 「ううん。二人で頼むよ。僕は、9のルートに行ってみる。くれぐれも、無茶はし
ないこと。いいね?」

 「「OK!」」

 頷き合うと、三人は学園へを走っていった。そして、彼らはもう無茶をしていると
いうことに全然気付いていない…。




 「おい、音たてるなよ…」

 「うん…」

 3のルート…学園の裏手からまわり、人気のないところを移動するルート…を通り、
誰かと接触を試みようとしたが、あいにくとテロリストの一味であろう男女がそこを
見回っていた。

 「ったく…なんでこんなヤツと見回り…?」

 「言うな! 俺だって、お前みたいな小娘と一緒なんて虫酸が走る!」

 いかにも山賊、といったような男の容貌に比べ、肩を並べている少女はすっきりと
した動きやすそうな格好をしていた。ラティンとコウが息を潜めて成り行きを見守っ
ている中、男と少女は今だ言い争いながら見回りを続けていた。

 「あたしが、キャラットをさらわれるなんてドジ踏みさえしなけりゃ…」

 「そんなにあのうさぎがに気になんのかよ? まさか、レ…」

 「違うわよ!」

 怒鳴り声と共に、少女の飛び蹴りが男の顎にヒットした。男はうずくまりながら少
女を睨みつける。

 「て、てめえ…。あのうさぎがどうなってもいいっていうのかよ?!」

 「ッ…!」

 それっきり、少女はむっつりと黙り込む。男は舌打ちをすると、先だって歩き出し
た。

 「てめえは言われたとおりに動いてりゃいいんだ。…リラ・マイムさんよ。」



 「…どういうこと…?」

 一味と見た二人が去った後、声を潜めてコウが聞いた。

 「決まってんじゃないか。あの娘…リラって呼ばれてた。友達がさらわれて、仕方
なく言うこと聞いてんだろ?」

 「でも、ペットでしょ? 話から考えると。」

 「ちっちっち。甘いぞ。フィドルさんの友達のルーさんはな、飼ってるうさぎを本
当の家族としてみているらしい。そういう人っていうのは、結構いるもんだ。」

 したり顔でラティンは言う。コウはそれに渋々頷いた。

 「けど、なんであの娘が言うこと聞いてるんだろ…?」

 「それより、誰かと連絡とらなきゃ。中の事情を知っておいた方がいいよ。」

 そして、二人は寮の裏手の林の中に姿を消していった。




 「うっひゃあ…こりゃまた豪勢な見回りで…。」

 一方、朋樹は9のルート…ある古井戸から体育倉庫につながるルート…に向かって
いたのだが…。見回りの数とその壁の厚さに舌を巻いていた。幸い、一人だったから
良いようなものの、誰かを連れていようなものなら見つかっていたかもしれない。

 「こっちがこれじゃあ…二人は大丈夫かな…?」

 そう呟き、朋樹は古井戸の中に飛び込んだ。


 『…! ……!』

 「なんだろ? 誰かの怒鳴り声…?」

 井戸に入った途端、奥の方から誰かの怒鳴り声らしき音が聞こえてきた。反響し、
さらに距離があるために聞き取れはしないが女性の声のようだ。

 「誰か閉じこめられてるのかな…。あそこ、一回扉閉めたら外に音が漏れ出すこと
ないのに…」

 そう呟いて、朋樹は先へと進んでいった。今は、それを気にしているわけにはいか
ないのだから。



 そして、出入り口に近づいたとき、ものすごい怒鳴り声が響いた。

 「こらぁ!! いい加減にこっから出しなさいッ!!」

 聞き覚えのある声。ティナ…いや、この口調はヴァナである。

 「ヴァ、ヴァナさん…、ちょっと落ち着こうよぉ…」

 「キャラットは黙ってなさい!! まったく、人質さえいなけりゃ強行突破してや
るのに!」

 「ヴァナさん、人質はボク達だよ…?」

 「…リ、リラだって同じようなものでしょ!」

 「うん、それはそうだけど…。でも、リラさん大丈夫かな…。ボクが、騙されたり
しなきゃ…ううっ…」

 「(キャラットにリラ…たしか、魔宝探索メンバーのレミットチームにいた…)」

 当時の紅蓮を含む、十四人の顔全てと名前を知る朋樹は、すぐさま二人の顔を思い
出す。
 確か、キャラットの方はメロディのうさぎバージョン(両手足も毛はそのままで、
うさぎのそれに変わっただけ)のような感じ。リラは元シーフの少女で、特徴として
前髪のみ紫に染め、赤い宝石のついたピアスをしているはずだ。キャラットはともか
く、リラの外見が変わっていないのなら。

 「(あの二人がいるってことは…。案外、楽に解決できそうかも…)」

 朋樹はそう思いながら、頭の上にあるパネルをガコン、と外した。



 「誰…?!」

 うさぎの特徴を持った獣人族のキャラットにとって、パネルが外れた音は小さい音
ではない。すぐさま場所を察知すると、声を潜めてヴァナに警戒を促す。

 「そこの、跳び箱の下…! 誰か、ここに入ってくるよ…」

 「まかせなさい、あたしが一撃で倒してあげるわ…!」

 ズズッと跳び箱のてっぺんが横にずれ、隙間から誰かが出てこようとする気配が感
じられた。そのタイミングに合わせ、ヴァナは静かにかまえる。

 「やっほ〜、助けに…」

 「でりゃぁぁ!」

 バキィ!

 ひょっこりと出た顔を、ヴァナの渾身の一撃がとらえた。鈍い音がし、朋樹はその
まま崩れるようにぶっ倒れる。

 「ヴァナ…さん? 今、「助けに…」って言ってたよね…?」

 「え? そ、そうね; でも、なんでここに…?」

 「そんなことより、介抱しなきゃ! 白目向いてるよ、この人。」

 「あっちゃあ…やりすぎちゃったわね…」


 朋樹が目を覚ますと、心配そうに顔をのぞかせている顔が見えた。それに気付くと
同時に、顔に痛みが走る。

 「あれ? 僕…確か…?」

 「大丈夫? 朋樹くん。」

 「ごめんね〜。思いっきりぶん殴っちゃった…。」

 「そうだっけ。でも、なんでキャラットが僕の名前知ってるの?」

 「ああ、面倒くさいからあんたのこと話しておいたわ。どうせ、知ってるんでしょ?
 キャラットのこと。」

 「うん。よろしくね、キャラット。」

 「ボクの方こそよろしくね、朋樹くん。」

 二人は軽く握手を交わす。

 「で、どういうこと? 僕が脱走する前は全然なんでもなかったのに。」

 急に真面目な顔になり、事情を求める。

 「それはボクが話すよ。ヴァナさんが捕まったのも、リラさんが使われてるのもボ
クのせいなんだから。」


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