中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「First-Day_3」 とも  (MAIL)




 話をまとめると、なんてことはない。キャラットの生まれつきの疑うことを知らない性
格につけ込み、嘘の情報をつかませ、彼女が捕まえられたという。
 さらに、それを使ってリラを協力させ、今に至るということだそうだ。


 「後から考えてみたら、絶対に変なんだもの。だって、リラさんはもうシーフをやめて
るはずなのに…自警団に捕まるはずないもんね。」

 「それに、リラなら…」

 「自警団に捕まるようなヘマはしないって?」

 「そういうこと。でも、なんでわざわざリラを…」

 「シーフだからだって。」

 キャラットは悲しそうにいう。

 「なんか知らないんだけど、リラさんって前は結構有名だったんだって。だから、一緒
に旅をしていたボクを捕まえて、そして…」

 「むかつくヤツね。」

 「うん、一発顔面に入れたいね。」

 心底憎らしいのか、怒りのこもった表情でヴァナと朋樹が同時に頷く。

 「でも…どうするの? ここから出られたって、リラさんと連絡とか…」

 「まかせてよ。もうある程度の手は打ってあるし、なんとでもなるよ。」

 不安そうなキャラットに笑いかけ、朋樹が言った。

 「中にいるみんなに協力してもらうんだ。僕らの学園で、変な人達に好き勝手やられち
ゃ困るし。それに…一度、こういうことやってみたかったんだ♪」

 「……」

 途中までは信頼できると思っていたキャラットだったが…最後の言葉を聞いて、かなり
の不安を感じていた。




 一方、ラティンとコウ。

 コン、ココン、ココン

 女子寮のある部屋の窓を、ラティンは慣れたように叩く。

 ココン、コン、コン

 しばしの間の後、返事が返ってきた。

 コン、コン

 その音がやむと、少女が窓を開けて顔を出した。

 「さ、入って。」



 二人が入ると、部屋には学園では知らない者のいないという、男女それぞれの不良を束
ねる各リーダー二人がテーブルをはさんで話し込んでいた。そこに、さっき窓を開けた少
女が入る。少年の方がラティンに気付き、軽く手をあげて挨拶をした。

 「ラティンか。」

 「ああ、なんかすごいことになってるらしいな。」

 「そうよ。まったく――あんた達が学園抜け出してるせいで、いろいろ面倒だったのよ?
 その辺、ちゃんと落とし前つけてね。」

 「お、落とし前?!」

 「ああ、要するになんかおごれっていうこと。って、お前誰だ?」

 コウに説明した少年が、今さらながらにコウに尋ねた。

 「こいつはコウ。ほら、例の朋樹達がいなくなった…」

 「ああ、あの時のヤツ…。どうだ? あれから、あの二人か、もしくは他のヤツにいじ
められたこと、ないか?」

 「はい、もう全然…。でも、どうして…?」

 「俺は、いじめっていうのが嫌いなんだ。だから、それやるヤツはみんな嫌いだ。だか
ら、そういうコトできないように警告した。…OK?」

 「はい…。」

 楽しそうに、それでいて少し悲しそうに少年は話した。コウはただそれに相づちをつく。



 「で、ここに来たっていうのは何かあるっていうんでしょ?」

 「まあまあ、カレア。少し落ち着きましょう。今、お茶を入れますから…」

 少女はカレアと呼んだ妹をなだめながら、お茶の準備に取りかかっていた。

 「落ち着こうッたって…カリア姉さんは落ち着き過ぎなの。もうちょっと、事態を深刻
に見ないと…」

 「だからこそ、落ち着くのよ。あなたの悪い癖よ、急ごうとするのは。少しでも落ち着
いて、よく周りを見なさい。だから、いつまでたってもわたしに勝てないの。いいわね?」

 カリアと呼ばれた少女は、妹のカレアと同じ青い目を持っていた。妹の方も同じではあ
る。しかし、その目が妹を見たときだけ冷気にも似た威圧感を放っていた。
 が、それが周りに向けられたとき…すでにその威圧感はなく、優しい光を放つ目になっ
ていた。

 「わかったわよ…で、どうすんのよ。ラティンにしろジークにしろ、何かあるから来た

んでしょ?」



 「俺の方は、とりあえず情報を聞きに来たんだ。男子寮じゃ、自宅通のヤツらも無理矢

理押し込められてるからさ。こっちもそうなんだろ?」

 ジークと呼ばれた少年が、苦笑いをしながら話す。

 「当たり前じゃない。一部の娘達はそれで相当参ってるらしいわ。」

 「そうか。んじゃ、戦力になりそうなヤツは? 俺の方は、二〜三十人は確保した。」

 「確保した…って何言い出すの?! 相手はテロリストよ? おまけに、相当の武装集
団じゃない! 学園に爆弾とか仕掛けられたっていうの、知らないの?!」

 「でも、魔法は使えないんだろ?」

 「馬鹿ね…導火線忘れたの? 騒ぎが起きて、張り巡らされてる一ヶ所に点火されてみ
なさいよ。みんなおだぶつよ?」

 「は? そんなの、水かけりゃ…」

 「どうやって? どこがどういう風になってるかもわからないのに。それに、私達も魔
法使えないのよ。せめて、爆弾の位置さえわかればなんてことないのに…」

 ジークとカレアの押し問答が続く中、ラティンが申し訳なさそうに口を挟んだ。

 「あのさ…そこでいろいろ話してるとこ悪いんだけど…」

 「「なに?」」

 「オレ、それのことで来たんだ。朋樹…やる気だぜ。」

 それを聞き、二人はしばし呆然とする。

 「多分、紅蓮さんもやる気になるだろうな。ほら、ティナさんも捕まってるらしいから
…」

 「そうか…今日、医務室にティナさん来てたんだっけ。紅蓮さん、ティナさんのことに
なると豹変するもんな…」

 「あら。ヴァナさんも、よ。あたしはヴァナさんの方が好きね。性格が合うっていうの
かしら?」

 「カレアはヴァナさんなの? わたしはティナさんの方が合うけど。」

 「いいよなぁ…あんなきれいな人、学園にはいないもんな…」

 バシィッ!

 ジークの両頬に、カレアとカリアがビンタを喰らわす。

 「「悪いわね、きれいじゃなくて」」

 そのまま意識を失ったジークに、ハモった二人の声がただ投げかけられた。



 「あ。みんな、そろってるね。」

 その後、しばらく経った後に朋樹も部屋に来た。皆にティナ&ヴァナと、キャラットと
いう人質として捕まっている少女がいることを伝え、それと同時にリラと連絡を取って欲
しいと頼んだ。

 「特徴は、前髪だけ紫に染めてる黒髪。と、髪型はショートで、耳に赤いピアスをして
るんだ。頼んでいいかな?」

 「了解。姉さん、いいわね?」

 「わたしに聞いてどうするの? いいに決まってるじゃない。すぐに手配しましょ。」

 「俺らは?」

 もう戦うと思う込んでいるジークは、ウズウズしたように朋樹に聞いた。

 「今のとこはないよ。後で、暴れてもらうかも。いい?」

 「いいに決まってる。もう人数はそろってるから、後は日付だな。」

 「リラ…さんか…可愛かったな…」

 「ラティン? もしかして、見たの?」

 ちょっとトリップしてるラティンの言葉を聞き、朋樹は思わず聞き返した。

 「知ってる。ルートの途中で見た。あの娘、可愛いな。オレ、一目惚れしちゃったよ。」

 「性格、きついけどいいの?」

 「どれくらい?」

 「パティよかちょっと強いかも。」

 「でも、意外と優しい面もあるとか?」

 「そんなことわかるの? うん、捨てられた動物はほっとけないって。」

 「いいな…オレ好みだ。」

 「ちょっと、話し変な方向に持っていかないで。あとは? 何かやること。」

 折れた話の腰を、カレアが無理矢理に戻す。

 「他に頼んでもいいの?」

 「もう、こうなったらとことんやってやるわよ。」

 腹をくくったか、どうでもよくなったのか…カリアはキッパリと言った。

 「じゃ、男女両方に…。多分、寮を中心に動くことになると思うんだけど…。各階に、
見張りはどのくらい?」

 「男子寮、各階に三人。計十二人。」

 「こっちは、各階二人。計八人。」

 「じゃ、それぞれ各階一組ずつ特攻部隊を配置しといて。それ以外の人は、合図を決め
て厳重に出入りすること。んで、手先の器用な人何人か探しておいて。」

 あっさりと無茶を言う朋樹。が、いくら魔法専門の学園とはいえ、体力に自信のあるも
のは何人かはいるものだ。魔法を使う者イコール華奢ではないのだから。

 「なんで?」

 「うん、罠でも作ってもらおうと思ってさ。いいよ〜、罠は。あのかかるか、かからな
いかの駆け引きがたまんないんだよね〜。」

 何かを思いだしたように、朋樹は楽しそうに話す。…経験があるのだろう。

 「……」

 「後、薬品に強い人知ってたら連絡とっておいて。」

 「薬品? あんた、薬品って強いんじゃないの?」

 「僕が強いのは、薬草学。似たようなことはするけど、違うものなんだ。だから、僕は
薬品にはほとんど手は出さないよ。出すとしたら、ドクターに扱い方を教えてもらった物、
だね。」

 「あ、僕、少しなら…」

 「え?」

 意外なことに、コウがそれに名乗りを上げた。

 「あはははは。そう言えば、僕それで飛ばされちゃったんだっけ。」

 「朋樹、お前全然恨みすらないのかよ…」

 「だって、感謝してるんだも〜ん♪ みんなに逢えたし、良いことあったし。」

 吹っ飛ばされた張本人がこれでは、コウも複雑だろう。

 「じゃ、コウにお願いするね。よろしく。」

 「…うん、僕でよければ。」

 朋樹とコウは、がっちりと握手を交わした。

 「で、最後に一個。助っ人に、こっちに何人か呼ぶから。部屋の確保、よろしく。」

 「OK。他には、もうない?」

 「うん。」

 「一回くらいは差し入れしてよね。さくら亭のケーキ、しばらく食べられないかもしれ
ないんだから。」

 「あはは、長引いたらね。」

 そう言い残すと、朋樹ら三人は周りを警戒しながら部屋を後にする。

 「さて。ジークもさっさと用件すませてよね。」

 「お前らこそ、ちゃっちゃとやれよ。お二人さん。」

 ジークも、後に残したワイルと連絡を取るために窓から抜け出していった。



 「さ〜て、と…」

 「忙しくなるわね。」

 後に残った二人はにこりと笑いあうと、文書の作成に取りかかった。




 そして、その夜…
 見張りの目を盗み、全ての部屋に文書を配り歩く影が暗躍した。



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