中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「Third_day・〜少女の解放〜」 とも  (MAIL)

 


 その日の夜、さくら亭………

 カララ〜ン♪

 「こんばんわ〜。」

 「よ、とも。不良学生はいけねぇぜ?」

 出迎えたのは、暇そうにカウンターに座る紅蓮だった。店内はほとんど客がおらず、い
る者もそろそろ帰るのだろう、パティ相手に支払いをしている。

 「それはお互い様だよ。」

 「違いねェ。」

 言い合って、笑い合う二人。

 「で、どうした? 末期の酒でも飲みに来たんか?」

 「そのつもりはないよ。フィリー、いる?」

 「あ? いっけど…あんなちんちくりん、お前の趣…」

 ベヂィ!

 「っでぇ〜! 何すんだ、フィリー!」

 「あたしの悪口言うからでしょ!!」

 気配すら感じさせずに攻撃してきたフィリーに驚きながらも、紅蓮はさっきの自分の発
言を棚に上げて怒鳴りつけた。フィリーもフィリーで、紅蓮の手をかいくぐっては頬をひ
っぱたいている。

 「あの〜。僕の用事、いい…?」

 「うん、いいわよ。」

 「てめっ…逃げんのか?!」

 「紅蓮! リラのことなんだから!」

 激昂している紅蓮を、朋樹は一喝で抑え込んだ。

 「あ、ああ。悪ィ。」

 「ちょっと待ってよ! リラが関係してるってどういうこと?!」

 フィリーも紅蓮達と共に旅をしている。リラのことは知っていて当然だ。全ての客が帰っ
たことを確認した紅蓮は順を追って説明し、それと共に朋樹が協力を頼んだ。

 「いいわ。あたしにも協力させて。…でも、なんで紅蓮じゃないわけ?」

 「仕方ねェだろ? 俺じゃ学園の細けぇトコはわかんねェし、ともの方がよく知ってる。
それに、明日の早朝には決起すんだ…用意が必要だろ?」

 「じゃ、なんでここにいたのよ!」

 「関係者以外には知られたくねェからな。だから、客がいねェ時間帯にいろいろやって
たんだ。…わかってくれ。」

 「…わかったわ。だったら、あたしにも協力させてよ。仲間でしょ?」

 「ああ。じゃ、二人とも…頼む。」

 「了解!」

 「任せなさい!」

 二人はそう言って、外へと出ていく。それを真剣な表情で紅蓮は見送った。

 「ああ。ホントに、頼むぞ…」




 学園内…

 スススス…

 リラは、ほとんど音を立てずに歩いていた。

 外は闇。時折聞こえるのは、テロリストの連中が歩くコツコツという音や外に吹く風の
音のみ。さっきまでさしていた月明かりはいつの間にかなくなり、あたりを闇が支配した。

 「…いったい…どこにいるのよ…」

 案ずるのは、共に旅をしていたキャラットのこと。自分が不甲斐ないばかりに。自分の
ミスのために。彼女を危険な目に遭わせてしまったからだ。
 リラはここに来たときから探してはいるのだが、焦る思いが募るばかりで一向に見つか
る気配がない。自分の行動範囲すら限定されている今、その範囲から抜け出す隙をうかが
っていた。元シーフのカンからいって、だいたいの監禁場所はわかっているのだが…。

 「くっ…! あたしがドジさえ…!」

 時折出る言葉も、キャラットを案じる言葉か自分を憎む言葉しか出ていない。

 スタッ

 「こんばんわ。リラ…だよね?」

 言葉に振り向きながら、リラはナイフを手に身構えた。ほとんど、気配はしなかった。
周りに気を配っていたし、決して油断はしていなかった…が、目の前の少年…朋樹…は目
の前に平然とした顔で現れたのだ。

 「…あんた、誰よ。」

 「ちょ、ちょっと。そんなに身構えないでって。僕は味方だよ。元シーフの、リラ・マ
イム…さん。」

 朋樹としては悪意はないのだが、リラからしてみると怪しいことこの上ない。いつの間
にか、二人が対峙している廊下には月明かりがさしていた。それで見えた外見から、さら
にリラは疑いの眼差しを強くする。

 「なんでフルネームで知ってるわけ、ガリベンくん? 残念だけど、あたしはあんたの
ような変なヤツは信用しないことにしてるの。それに、納得できないわ。」

 リラはそう言うと、深く腰をかがめて臨戦態勢にはいる。

 「ちょっとまってって。そういえば…キャラットになつかれてさ、カイルやレミットに
からかわれてたっけね…イルム・ザーンで。願いは叶った?」

 「ッ…! いったい何者よ…?! あれ知ってるのは、あの時のメンバーか、あいつの
世界の……っ! まさか…?」

 「そ。向こうの世界の人間、其の二。朋樹って言うんだ。よろしく。」

 「あ〜! 朋樹、あたしをのけ者にしないでよ!」

 「え?! あんた、フィリー?!」

 後から飛んできたのはフィリー。どうやら、一人でウロウロしているうちに迷っていた
らしい。

 「フィリー、遅いってば。もう自己紹介すんじゃったよ。」

 「あ…! っと…。ちょっとくらい、待っててくれたって良いじゃない。」

 「…待ちすぎたよ…。あれ以上待ってたら、リラのこと見失ってたよ。」

 「ちょっと…なんで…?」

 フィリーの登場に、リラは少し混乱していた。事情がうまく飲み込めず、頭を抱えてい
る。

 「あ、説明しなきゃね。今、こっちに紅蓮達がいて…」

 朋樹は、知ってること全てをリラに教えた。キャラットが捕まっている場所、寮で決起
すること…教えられる情報は全て。

 「…と、いうわけ。納得した?」

 「うん…。じゃ、キャラットは無事なのね?」

 「うん、間違いなく。今日の明け方には救出される予定だし、今日の昼間あたりに行っ
てみたけどぴんっぴんしてたよ。」

 「そう…」

 それを聞いて安心したのか、リラはホッと胸をなで下ろした。それを見て、フィリーが
チャチャを入れる。

 「ふふ…リラってば、ずいぶんとキャラットが心配のようね。」

 「…うっさいわよ。親友…心配するのは当然でしょ。」

 真っ赤になりつつも言い切るリラを見、朋樹は聞いたとおりの優しい娘なんだと思って
いた。フィリーも口だけで、本当は心配していただけ…ただ、照れ隠しにこんなコトを言
うだけなのだし…。

 「ありがと。決起は明け方だったわよね?」

 「うん。」

 「だったら、あたしにも協力させて。仲間は多い方がいいでしょ。」

 ニヤリとした笑いを浮かべ、リラはさも楽しそうに言った。大方、世話になったテロリ
ストの連中にリベンジでもかけようとしているんだろうが。

 「うん、大歓迎だよ。寮の方には話を通しておくから。」

 その心情を知ってか知らないでか、朋樹はあっさりとそれを受け入れた。向こうの情勢
を詳しく知る者が仲間になったのは嬉しいことだし、なにより…心強い。

 「…そういえば、あたしに話しかけてきた女の子…あんたの仲間?」

 「うん、多分ね。何かあった…?」

 「裏と表みたいな二人の娘がね。いい子だったし…双子かしら?」

 「あ、それってカリアとカレアだね。ううん、年子。そっか、あの二人直接…」

 「?」

 リラのみ、微笑う二人をきょとんとした目で見ていた。

 「ああ、気にしないで。じゃあ、よろしくお願いするよ。」

 苦笑しながら、朋樹は手を出す。

 「こっちこそ。」

 リラも微笑みながら握手を交わした。

 「じゃ、僕たちは行くよ。フィリー、行こう。」

 「はいはい。ちぇ…あたし、いてもいなくても同じだったじゃない…」

 二人は呟きながら、廊下の向こうへと消えていった。それを見届けていたリラは、ポツ
リと呟く。

 「さあてっと…あたしも頑張らなくちゃね…!」

 リラもそれに背中を向け、準備のために逆の方向に歩いていった。かつての友人のサポ
ートのため…そして、親友のために…。





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