中央改札 悠久鉄道 交響曲

「NO-4〜休息…そして波乱〜」 とも  (MAIL)
 NO-4〜休息…そして波乱〜

 「え〜。それでは少々遅くなりましたが、これから一時間ほ
どの昼休みの時間をとります。なお、準決勝第一試合に出場さ
れる選手の方々は、試合開始の五分前には闘技場へとおこし下
さい。」
 アナウンスが終わらぬうちに、観客の人々はそれぞれ持参の
弁当や買ってきたのを広げ始める。その中には、弁当をさばい
て歩くパティの姿もあった。
 「パティちゃん、これ三つな。」
 「はい、いらっしゃい!大盛りだから三つで150ね!毎度
あり!」
 手際よく金を受け取り、弁当を渡すパティ。間を置かず、少
し離れたとこから声がかかる。
 「お〜い!パティちゃん、こっちにも二つ!」
 「は〜い!あ、これで終わりだわ。運いいわね。二つで10
0ね!」
 「ありがとうな!はいこれ。」
 「毎度!悪いけど、これでもう売り切れよー!」
 周りに聞こえるように、大きい声で叫ぶパティ。その声を聞
き、買おうと思って先を越された者の中には肩を落とす者もい
た。
 「え〜?!もう?ちぇ、仕方ね、さくら亭までひとっ走りいっ
てくるか。」
 なんて言いながら走り出す者もいる。
 そして、紅蓮達はというと…
 「あ!俺の!」
 ひょい、パクッ!
 「んなもん、早いもん勝ちや!あ、このサンドイッチもいた
だくで!」
 ひょい!パクン
 「ア、アリサさんのサンドイッチ…。こらぁ!俺になんか恨
みでもあるんかい!」
 食べ物のことになると止まらなくなるアルザ。見る間にティ
ナ、ウェンディ、アリサ、シーラ、シェリル、途中から来たト
リーシャの六人が一生懸命作ってきた弁当+さくら亭大盛り弁
当を次々と胃袋の中へとおさめてゆく。怒りに燃えるのが紅蓮
達だ。紅蓮はこっそりとデートしてることがあるから多少なり
とも怒りの度合は小さいとしても(笑)、他の三人は違う。こ
んなコトがあるときでもない限り、彼女達の手料理を食べる機
会がほとんど無いのだ。(まあ、アリサの料理はアルベルト以
外にとってはよく食べているので別だが)当然…
 「全部食われてなるものかよ!」
 アルザに全て食われないようにデュークが入り、
 「あ!デューク!抜け駆けはゆるさねーぞ!」
 このチャンスを逃してなるものか、とアレフが入り、
 「アレフ!その言葉はお前にもいえるんだぞ!」
 アリサの手料理が!とアルベルトが入る。
 「お、おい!俺の分!こら、アルザ!デューク!アレフ!ア
ルベルト!少しは残せぇ!」
 紅蓮もついには競争に入り…しまいには手づかみで食べ狂う
男四人+アルザ。
 「あらあら。そんなにお腹空いてたのね。」
 荒れ狂う(笑)出場者組+アレフを見ながら、紅茶を口に運
びつつ笑うアリサ。
 「ア、アリサおばさま。そんなこと言ってる場合じゃないと
思うんですけど…。」
 出場者組とは別に作ってきた弁当を広げている、女性見物組
六人+テディの中のシーラがちょっと汗を垂らしながら言う。
 「アルザさんはいつも通りとしても…他の人達。目が血走っ
てるような気が…」
 「ええ。なんか、最初はちょっとした競争みたいだったのに
…今はもう、あれは奪い合いになってますよ。」
 彼らの雰囲気に押されたのか、身を震わせなら会話するウェ
ンディとシェリル。
 「食べてくれるのはうれしいけど…ああいうのはちょっとや
だね、ティナさん。」
 「そ、そうね、トリーシャちゃん。」
 苦笑するトリーシャとティナは、彼らの会話を聞いて、勢い
の訳に気付いたようだ。
 そして、十数分後…
 「ふい〜。食った食った。んでも、みんなもぎょうさん食っ
とったなぁ。」
 一人満足げなアルザ。他の四人はというと…
 「…」
 普段食べていないくせに今日食べ過ぎたせいで、声も出ない
アレフ。
 「結構食ったな。次の試合いきなりだから…。ちょっと散歩
行ってくるよ。」
 と、紅蓮は腹ごなしの散歩へ出かける。
 「…(は、腹一杯すぎて動けねぇ…。二試合目でよかった…)」
 デュークは自分の順番に感謝しつつ、ぼけぇっと空を眺めて
いる。
 「(ぶ、無様な試合なんぞ見せられん!そこら辺でも歩いて
試合で動けるようにしなくては…)」
 と、アルベルトも負けじと腹ごなしの散歩に出かけていった。

 「ふう。みなさん、ようやく落ち着いたみたいですね。」
 と、ウェンディがケーキを出しながらほっとしたようにつぶ
やく。彼女達用にと広げた弁当が、少々アルザに食べられてし
まっていたためだ。いくら食事を控えている彼女らでも、それ
なりに食べないと倒れてしまう。そのため、急きょ「試合後に
でもみんなで食べよう」とウェンディとティナが作ったケーキ
のお早い登場となったのだ。
 「あ、これおいしい♪」
 一口ほおばったトリーシャが感嘆の声を上げ、
 「ほんとね。これ、ウェンディさんとティナさんで作ったの
かしら?よかったら、作り方教えてもらえないかしら。」
 アリサは早速レシピを聞き始める。
 「ほんとッス!うまいッス♪モグモグ…。」
 テディは自分にとって大きめのケーキを抱え、幸せそうにか
ぶりついている。もちろん、指定席とでもいうべきアリサの膝
の上だ。
 「ウェンディさん、私にも作り方教えてもらえませんか?」
 「ねね、ボクにも教えて欲しいんだけど。」
 「はい。これ、私のお母さんに教えてもらったんです。作り
方は…」
 アリサだけではなく、シーラやトリーシャも聞いてきたので
ゆっくり、丁寧に解説し始めるウェンディ。一方、シェリルは
というとその光景を見ながら、一人ケーキをつついていた。
 「あら?シェリルちゃんは聞かなくていいの?」
 「はい。私お料理苦手なんです。」
 ティナの問いに、首を振って答えるシェリル。
 「そう。でも、少しぐらい覚えておいても損はないと思うけ
ど?でも、そんなに自信がないんなら、私が教えてあげましょ
うか?」
 「い、いいんですか?」
 「ええ。ウェンディさんにも協力してもらいましょうね。」
 そういって二人はにっこりと微笑み合うと、ティナとシェリ
ルは二人で何から挑戦しようか、とあれこれと思案し始めた。

 さらに十数分後…
 散歩から戻ってきた紅蓮とアルベルトが入り、のんびりとト
ランプを楽しんでいたとき、アナウンスが響いた。
 「ただいま、準決勝第一試合開始五分前です。アルベルト、
紅蓮の両選手は闘技場選手控え室までおこし下さい。」
 「よっしゃ!手加減抜きだぜ!紅蓮!」
 「おう。後悔すんなよ!」
 紅蓮とアルベルトはパン、と手を叩き合うと、それぞれ反対
方向の選手控え室へと向かっていった。

 「では、準決勝第一試合始め!」
 「じゃ、早速いくぞ!」
 『左に集うは金色の旋風
  我が意のままに具現化せよ』
 言葉と共に紅蓮の腕に風が舞い、金色の刃を持つ刀が現れる。
 「へっ、ヴォーテックスか。それなら…」
 『地の精イシュタルよ、
  汝が力で我を守りし力となれ
  イシュタル・ブレス!』
 アルベルトの体が一瞬鈍く輝き、そしてゆっくりと消える。
 「俺でもこれぐらいは出来るんだぜ。」
 自信満々に槍をかまえながら言うアルベルト。紅蓮はそれを
見、軽く笑う。
 「おもしれぇ。どんだけできっかな?」
 ガッ…
 言うや否や、斬りかかる紅蓮。アルベルトは槍の柄でそれを
いったん受けると、思い切り下側へ弾き、
 「ねむっちまえ!」
 ゴスッ
 体制を崩した紅蓮に腕を振り下ろす。紅蓮は、顔面から地面
に突っ込むギリギリのところで踏みとどまると、アルベルトか
ら離れる。
 「ってぇ〜〜〜!ったく、こぉ〜の馬鹿力が…。」
 「ふん、お前に負けてたまるか!」
 紅蓮はアルベルトの言葉を聞くと、ふう、と一つため息をつ
く。
 「あ!お前、今ため息ついたろ!ふざけんな!なんのつもり
だ?!」
 「そうじゃない。この『風舞』じゃ、お前をやるには不向き
だ、って思っただけさ。俺の戦い方じゃ、刀で槍と戦うのは不
利にしかならねぇ。」
 言うが早いか、紅蓮の手から風舞が風と共に消える。
 『左に集うは紅く降り注ぎし光
  我が意に準ずる姿となれ』
 言葉と共に、紅蓮の手首から先と前腕部が赤く光り出す。そ
して、その光は徐々に形を成していき…。次の瞬間、光ってい
たあたりにはナックルガードとリストバンド…いや、アームガ
ードとでも言うべきものだろう…を複合したようなものが現れ
ていた。
 「なんだぁ?紅蓮、そんなもんで戦うってのか?」
 アルベルトは、あまり見たことのない紅蓮の得物に多少驚き
ながらも突っぱねる。
 「そんなもんって…『焔咬』っていう呼び名あるんだけど。
ったく…ほれ、いいからかかってきてみ。」
 と、紅蓮はアルベルトを挑発するようにクイクイッと手招き
をする。
 「ムカッ。やったろうじゃねぇか!」
 意図通り挑発に乗ったアルベルトは。迷いを見せずに紅蓮へ
向かって突進し…。
 「おらあぁぁぁ!」
 アルベルトは紅蓮に向かって槍を振り下ろし、
 「刃よ!」
 ガキィ!
 紅蓮はその行動に対し、焔咬から四つの獣の爪に酷似した刃
を出し、難なく受け止める。
 「どうだ?結構丈夫だろ?」
 アルベルトの槍を受け止めてもゆがみ一つ出ない焔咬を自慢
げに見せる紅蓮。
 「うるせぇ!そういうことは俺に勝ってからにしやがれ!」
 アルベルトは怒鳴りながら、今度は槍で突いてくる。怪我を
させないような戦い方は、今をもってやめにしたようだ。
 「…やれやれ。やっぱ頭に血ぃのぼり易いな…。んなの、よ
けてくれって言ってるようなモンだ。」
 そういいながらスッと左側によける。が、
 「ぬおおぉぉ!」
 アルベルトは紅蓮を追うように横なぎに槍を振るう。しかも、
紅蓮のよけるタイミングが悪かったのか、アルベルトのタイミ
ングの取り方がよかったのか…槍の刃の部分がちょうど紅蓮に
襲いかかる。
 「ちっ!」
 とっさにそれに反応した紅蓮は、自分なりの戦闘での常識…
戦闘相手の武器破壊…をしてしまう。
 ベキィッ!
 「……………」
 そして、時が止まり…真っ二つに裂けた槍をもつアルベルト
はポカンと立ちすくんでいた。
 「…悪ぃ…。」
 「……どぉしてくれんだぁ…?」
 静寂を破った紅蓮の言葉に反応したのか、アルベルトが怒り
をあらわにしながらにじり寄る。
 「これはなぁ、特注品で、俺に合わせて作ったものなんだぞ!
戦いが出来ねーだけじゃねえ、明日ッからの仕事につけねぇじゃ
ねーか!」
 「なるほど、お前背ぇでっけえもんな。それに合わせたモン
だからな、普通は売ってないだろ。」
 「話をそらすな!」
 ビクッ!
 怒鳴られた紅蓮が縮まる。
 「ったく…とりあえず、俺はもう闘えねーからな。ここでギ
ブアップだ。」
 「ア、アルベルト選手ギブアップにより、紅蓮選手の勝利で
す。」
 一応、紅蓮の勝利が告げられる。そして、アルベルトはそれ
を聞き終わると紅蓮に詰め寄り、
 「じゃ、こっち来い!」
 と紅蓮の首根っこをつかむと、選手控え室へ紅蓮を引きずり
ながらきえていった。
 「しょ、少々お待ち下さい。…と、十分後ですね。十分後に
第二試合に出場される選手は控え室まで来て下さい。」
 アナウンスの慌てた声が響き渡る。
 「大丈夫かな…。紅蓮のヤツ。」
 「そうですよね。」
 「大丈夫よ。今頃、二人で槍のことでも相談してるわ。」
 アルベルトの性格をよく知るデュークらが心配する中、アリ
サはゆっくりと、しかし自信を持った口調で皆を安心させた。

 そして、ここは紅蓮がアルベルトに連れてこられた控え室の
中…
 「さーて、紅蓮。どうしてくれるんだ?」
 仁王立ちになったアルベルトがイスに座った紅蓮を見下ろす。
 「どうって言われても…。ちなみにあれ、注文したとしてど
んぐらいかかる?」
 「二週間だ。二週間だぞ!いつモンスターが襲ってくるかわ
からん時に武器無しで闘えって言うのか?!」
 さらに詰め寄るアルベルト。
 「…分かった、俺がその二週間の間何とかしよう。」
 「本当か?」
 「ああ、約束は守る。そのかわり、今日は無理だ。明日のさ
くら亭の昼飯のラッシュが終わった頃に来い。そん時にその槍
とまったく同じものでグレードアップしたもんくれてやる。」
 「グ、グレードアップだぁ?いいのかよ、ンなもんもらっちっ
て。」
 「二言はない。じゃ、俺は上に行くからな。」
 そういうと、紅蓮はさっさとみんなのいるところへ戻っていっ
た。
 「俺は…マーシャル武器店で代わりのヤツ買ってもらおうと
しただけなんだが…」
 アルベルトは、自分の意図とまったく違う方向に行ってしまっ
たことに頭を抱えることしか出来なかった。

 「たっだいま〜。」
 「おう、紅蓮。アルベルトに拉致されてたみたいだったけど
無事のようだな。」
 戻った紅蓮を出迎えたのは、デュークの一声だった。
 「ああ、俺がブッ壊しちった槍のことで話してただけだ。」
 「ご主人様、すごいッス!」
 突然、テディが叫ぶ。そして、紅蓮だけが?マークを浮かべ
ていた。
 「どうした?テディ。アリサさんがどうかしたのか?」
 「紅蓮さんとアルベルトさんが何をしてたのかピタリと言い
当てたんスよ。」
 「へえ、そりゃすごいですね。」
 自分のことのようにふんぞり返るテディと、アリサに感心す
る紅蓮。
 「いやだわ、テディったら…。そんな自慢するようなことじゃ
ないでしょう?」
 が、照れながらアリサは謙そんする。そんな中、アナウンス
が響いた。
 「ただいまより準決勝戦第二試合を始めます…選手は闘技場
内までおこし下さい…。」
 「げっ!や、やべ!」
 焦るデューク。おそらく、すっかり忘れていたのだろう。
 「お〜い。がんばれよぉ〜!」
 デュークはアレフの声援に軽く手を上げて速攻で闘技場に向
かっていった。

 「両者そろいましたね。それでは…第二試合、始めッ!」
 わああぁぁぁぁ〜〜〜!
 声援がこだまする中、デュークとイビルという選手が向き合
う。そして…互いに得物を構える…と思いきや、デュークだけ
が通常より長めのロングソードを持つ一方、イビルは何も持た
ず、ただ立っているだけだった。薄気味悪い笑みを浮かべたイ
ビルはいきなり詠唱へと入る。
 「貴様には挑発のために生け贄になってもらおう。」
 『白き滅びを誘う閃光よ
  汝の力をもって彼の者を討ち滅ぼせ
  ヴァニシング・レイ』
 キュォォォン!
 白い無数の閃光がデュークを襲う。それと同時にデュークも
魔法を解き放つ。
 『…よ…汝の力により我が身に風の翼を与えん
  シルフィード・フェザー!』
 閃光が届くか否かの間合いでデュークはなんとかそれをよけ
る。が、イビルは全てを予測したようにさらに魔法を放った。
 「くっくっく…甘いわ…。」
 『闇よ…漆黒の闇の中に誘い、彼の者を縛めよ
  ダーク・バインド』
 突如、デュークの真下に闇が現れる。
 「ちぃ!」
 デュークはなんとかそれをよけようとしたが、瞬く間に広範
囲に広がる闇に足がめり込んでしまう。そして…
 「なっ…!なんだ?!」
 突如現れた、闇から出てきた手に捕まってしまうデューク。
シルフィード・フェザーで強化されたデュークでは、その闇の
手の中ではわずかに動く事は出来ても、抜け出すことはできな
い。
 「では…。先ほど言ったように生け贄となってもらおうか…。」
 『真紅に染まりし紅蓮の炎よ
  我が意のままに全てを焼き付くせ
  クリムゾン・ナパーム』
 ゴオオオォォォン!
 いくつもの赤く燃え盛る火球がデュークのみを狙うかのごと
く降り注ぎ…
 「ぐあああぁぁぁ!」
 デュークの叫びの後には…闇が消え失せた闘技場で、イビル
がまるでゴミでも見るような眼で倒れたデュークを見下ろして
いた。
 「デューク選手試合続行不可能!イビル選手の勝利!おい!
早く担架を!」
 「デュ、デュークくん…?うそ…うそだよね…?い、い、い
やあぁぁぁーー!」
 審判らが闇から解放されたデュ−クを運び出す中…シーラの
悲鳴が響いていた…。そして、イビルは悲鳴を上げたシーラの
近くに紅蓮を見つけると
 「紅蓮!悔しいか!?悔しければ貴様の力、全てをもって我
を倒してみろ!せいぜい怒るがいい!憎むがいい!くっくっく…。」
 そう言って控え室へと戻っていく。そして、アナウンスが響
いた。
 「け、決勝戦はこれより十五分の休憩の後行います。」

 バン!
 「ドクター!」
 医務室のドアを開けるなり叫ぶ紅蓮達。直後、トーヤの怒鳴
り声が響く。
 「やかましい!少しは静かにしないか!」
 「ご、ごめん、ドクター。デュークは…?」
 「今のところはまだもっている。今のところはな。俺として
は不本意なんだが、このままではが状況が悪化する危険性が高
い。そこでだが…こいつにウンディーネ・ティアズをかけてやっ
てくれ。そうだな、せいぜい二人といったところか。くれぐれ
もあせって神聖魔法の類なんぞかけるなよ。急な回復に体が耐
えられるかどうかわからんからな。ゆっくりとかけるんだ。」
 意外な提案をするトーヤ。皆もそれに驚く。
 「トーヤ先生は魔法医療はしなかったはずじゃ…!」
 「不本意だといったろう。それに、こいつはまだ死ぬのには
早すぎる。ジョートショップが潰れるのも勘弁だからな。第一、
救える患者を目の前にして見殺しにする医者がどこにいる?ほ
ら、さっさとしろ!助けたいんだろう!?」
 「わ、私出来ます!やらせて下さい!」
 トーヤの一喝で一歩前に出るシェリル。しかし、それとは逆
に、シーラは崩れるようにその場に座り込む。
 「私…何も出来ないの…?デュークくんが苦しんでるのに…
何も…出来ない…!」
 言ったとたんに泣き出すシーラ。とそこへ、アレフが出てく
る。
 「あ、俺出来るぜ。一緒に頑張ろうぜ、シェリル!」
 「えっ?あ、あの…。」
 何を思ったのか、いきなりシェリルの手をとるアレフ。それ
に対して、シェリルはどう対処していいのか分からなくなり、
何も出来ずにただ立ちつくす。
 「あ、あの…ちょ、ちょっと…。」
 「いーかげんにしろ、アレフ。」
 ガツッ
 アレフを一発こづき、シェリルからひっぺがす紅蓮。
 「こーゆーのはな、片方の精神の乱れがやばい方にかたむく
こともあるんだぞ!デュークを殺す気か!」
 眼がマジになる紅蓮。気付けば、手に魔力がこもり始めてい
た。
 「ったく。ウェンディ、ティナ、アルザ。悪ぃが三人の中で
誰かやってくれねぇか?」
 三人を見る紅蓮。しばしの沈黙の後、ウェンディが出てきた。
 「私がやります。ティナさんとアルザさんは、紅蓮さんの試
合を私の代わりに見届けて下さい。こう見えても、看護婦のお
仕事をしたことだってあるんですから。シェリルさん、私でも
いいですよね?」
 言ってシェリルの方へ近づき、手を出すウェンディ。
 「ええ。基本的にはウンディーネ・ティアズもウォーター・
レストレイションも同じ水の精霊魔法ですから。頑張りましょ
う、ウェンディさん。」
 シェリルはその手を握り返し、デュークの元に急ぐとウェン
ディと一緒と処置にとりかかる。そして、ティナが今も泣き崩
れているシーラへそっと近づく。
 「シーラさん…?」
 心配そうに、そっと肩に手をかけるティナ。が…
 「ほっといて下さい!」
 シーラはその手を振り払う。
 「どうせ…私は何も出来ないんだから。私には…何も…。」
 「いい加減にして!」
 シーラの言葉をさえぎり、怒鳴るティナ。いつもと違うティ
ナにシーラも、周りもビクッとする。ティナではなく、ヴァナ
が出てきたのだ。しかし、紅蓮、ウェンディ、アルザ以外は誰
も気付いていない。口調の違いだけではない、目の色で気付い
ているのだ。ヴァナが出てきたときは目の赤がさらに鮮やかに
なるのだ。
 「『何も出来ない』んじゃなくて『何もしない』だけなんじゃ
ない?!デュークさんを励ますなり冷えタオル変えるなりなん
だって出来るはずでしょ!それじゃ逃げてるだけよ!そんな事
してたら後悔だけが残るわよ。そのくらい、自分で考えつきな
さい!」
 一気に捲したてられ、唖然とするシーラ。同様に、他のみん
なも唖然とする。ティナはシーラにゆっくりと歩み寄ると、そ
の肩に手を置く。
 「(なにやってんの?ほら、やるだけやりなさいよ。好きな
んでしょ?デュークさんのこと。やれることやって、少しでも
力になってあげなさいよ。)」
 最後の方をシーラ耳元でそっとつぶやくヴァナ。シーラの顔
が少し赤くなったが、すっと立ち上がると涙を拭い、近くにあっ
た医務室のタオルを手にとると、うなされるデュークの汗を拭
き始める。
 「(私に出来ること…。ティナさん、ありがとう…。)」
 汗を拭き終わると、額のタオルを替え始めるシーラ。ヴァナ
の一言が相当きいたようだ。そして、その片隅で紅蓮とヴァナ
はひそひそと話を始める。
 「(ヴァナ、ナイス。)」
 「(あ、やっぱ気づいてた?)」
 「(気づかないはずねえだろ。)」
 「(そう…。ティナさ、あたしが『言っちゃえ!』って言っ
てるのに、全然言おうとしないんだもの。いい加減我慢の限界
で出て来ちゃった。)」
 こっそりと話し合う中、ぺろっと舌を出すヴァナ。
 「(ふふっ。ティナもあたしに感謝してるかな?でも、たま
には自分で言いたい事は言って欲しいな…。それじゃ、あたし
引っ込むから。またね♪)」
 話が終わったとき、アナウンスが響きわたった。
 「まもなく、決勝戦を始めます。紅蓮、イビルの両選手は闘
技場へ………。」
 「おい、紅蓮。負けたら承知しねぇぞ。頑張れよ!」
 紅蓮に向かって、ガッツポーズをしながら言うアレフ。
 「そうやで!デュークの敵討ちや!」
 バン!と紅蓮の背中をたたくアルザ。
 「…なあ、アルザ。デュークのヤツ死んでねぇのに『敵討ち』
はないだろ?」
 「あ。そうやった。んなこと言うたら、シーラになにされる
かわからへんわ。」
 ポリポリと頭をかきながら言うアルザ。一方、シーラは赤く
なりながら怒っている。
 「へ、変なこと言わないで!もう…。」
 会話で一同に少し笑みが戻った。
 「でも…気を付けて下さいね…。」
 そして…最後に気を案じる言葉をかけるティナ。いや、イタ
ズラっぽい笑みを浮かべている上、まだ目の赤の鮮やかさが残っ
ているところを見るとヴァナのようだ。紅蓮が気付いた素振り
を見せると、ヴァナは軽くウインクしてみせる。
 「ああ、しっかり見てろよ。俺らの仲間をこんな目に遭わせ
たんだ。それ相当の仕置きもかねて、ブッ潰してやる!」
 紅蓮はそう言うと、闘技場へと向かっていった。
 「じゃ。俺らも行こう!三人とも、デュークのことは任せた
ぜ!」
 「はい!」
 シーラ達の返事を聞くと、アレフ達は観戦席へと走っていっ
た。
 …そして、最後の試合が始まる。

 後書き

 ども、ともです。今回も結構長めになりました。続けて読ん
でくれてる人、初めて読んでくれた人、読んでいただきありが
とうございます。っていうか、やはり予定より少しオーバーし
ちゃいました。全五話です。NO-2〜一回戦〜でここに書いたク
イズの答えは、次のNO-5〜決勝戦、そして…〜の本文中で公表
します。正解した方は…う〜む、NO-2で「賞品は無し」といい
ましたが…次の四作目+紅蓮くん&オリキャラくんの設定資料
でも差し上げましょうか。(^^;;正解者の方でいる、とい
う方はメール下さい。くれないと送れません。わてに一回でも
メールくれた人は掲示板にカキコしてくれれば。

と、ゆーわけで。それでわ、ともでした。

中央改札 悠久鉄道 交響曲