中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想

〜狼〜 とも(MAIL)

 NO-3 〜狼〜




 出発、当日…
 早朝、五人全員が無事集まった。その中でもひときわ目立つのが
朋樹だ。他の四人とは荷物の大きさが明らかに違うのだ。しかし、
なぜか平然としている。
 「朋樹くん、すごいですね…。重くないんですか?」
 「う〜ん…。重くないって言ったら嘘になるけど、そんなにキツ
イってわけじゃないよ。まあ、この程度だったら丸一日は歩いてら
れるよ。それに、紅蓮に貰ったペンダントつけてみなよ。結構楽に
なるよ?それに、中の荷物の配置次第で同じ重さでも違ってくるしね。」
 「い、一日も…?」
 引き気味になる四人。紅蓮に貰ったペンダントの力があるとはい
え…見た目で引いてしまう。それだけ大きい荷物なのだ。しかし、
朋樹は不思議そうな顔をし、首をかしげている。
 「そんなに驚くことじゃないって。ほら、行こう!テントとか張
る時間考えると、もう出発しないと。グズグズしてると日が高いと
きに目的地に着けないよ。」
 と、急かす朋樹。そんな中、クリスが急に顔色を変え始めた。
 「そういえば、由羅さんの家の前通るんでしたよね?捕まったら
どうしよう…。」
 「あ、そのことなら心配ないよ。明け方まで飲んでたはずから。
今頃、夢の中だよ。」
 オロオロするクリスに、自信たっぷりに言う朋樹。
 「な、なんでそんなこと分かるの?」
 「え?アルザに頼んでたんだ。さり気なく宴会しといてって。由
羅なら、飽きるまでお酒飲んで寝ちゃうでしょ?あそこ通るって決
めたときに、ね。考えといたんだ。」
 …のほほんとしているくせに案外抜け目がない朋樹。
 とりあえず。五人は無事に由羅の家の前を抜け、真っ直ぐに洞窟
へと向かっていった。

 「はぁはぁ…。ねぇ〜。まだ休憩じゃないのぉ〜?」
 「♪〜」
 「あと少しよ。頑張って、トリーシャちゃん。」
 荷物を背負い、ひたすら歩き続ける五人。最初は話しながら歩い
てはいたものの、次第に会話が無くなってくる。山道は歩き慣れて
いない者にとっては辛いのだ。いくら紅蓮のペンダントで身体能力
が上がっているといっても、それが変わることはあまりない。
 「タフですね…。朋樹くんは…。」
 「歩き慣れてないからだよ。そんな歩き方だと、よけい疲れるよ?
山には山の歩き方ってものがあるんだよ。」
 口笛吹きながらクリスの愚痴につきあう朋樹。しかし、歩き方と
かいわれてもクリスの目から見るとさっぱりなのだ。どう歩いてい
いかも分からなくなってくる。
 「みんな〜。ここらで休憩にしよ〜。」
 朋樹は、皆の顔色から休憩を提案する。そして、数十分の休憩を
経てゆっくりと出発していった。

 洞窟までもう少しになってきたとき…。
 「…。ちょっと待って。」
 「どうしたの?朋樹く…。」
 先頭に立って歩いていた朋樹が急にみんなを止める。ディアーナ
は何かを聞こうとしたが、朋樹の真剣な表情に気おされしてなにも
言えなくなる。
 「…泣き声?まだ子供の…犬…?」
 「本当だ!」
 シンと静まり返ったと思われていた森の奥から、耳を澄ましてみ
ると朋樹の言ったとおり、犬のような鳴き声が聞こえてきた。
 「この方角は…洞窟近くの川…。みんな、ちょっと行ってきても
いいかな?」
 「何言ってんの?!可哀想じゃない!早く行こうよ!」
 「そうですよ!治療なら、あたしがしますから!」
 声を合図にしたかのように、全員が走り出す。幸い、誰もはぐれ
ることなくその場にたどり着いた。そして、そこにいたのは…。
 「ぐるるる…」
 「犬じゃない…狼だ…。」
 そう、そこにいたのは紛れもない狼だった。しかも、五人を敵と
して見ているのか威嚇のうなり声を上げている。それと同時に、目
には怯えているような感じが漂っていた…。
 「…!ね、ねぇ…あのこの足…!」
 トリーシャの言葉で皆がいっせいに凝視し、言葉を失った。狼の
子の左後ろ足には、トラバサミが痛々しいほどにガッチリと食い込
んでいたのだから…。
 「うっ…。」
 思わず顔を背けるディアーナ、クリス、シェリル。トリーシャも
そこまで苦手ではないにしろ、数歩後ずさった。
 「…そんなに怒んないで。助けてあげるから…。」
 「ガアァァ!」
 ガブッ!
 「きゃぁぁ!」
 朋樹がゆっくりと手を出した瞬間…。狼の子がいきなり噛みつい
てきた。他の面々からは悲鳴が飛ぶ。食い込む狼の牙は、朋樹の右
腕に深くはないが大きい傷を作った。しかしそれ以上に、朋樹の取
った行動に皆驚きを隠せなかった…。
 「だから、そんなに怒ることないって。大丈夫だからさ…。」
 と言いながら、狼の子の頭をなで始めたのだ。噛みついた狼の子
も、朋樹が手を伸ばした瞬間はより強く牙を食い込ませようとした
が、頭をなでられたときに思わず牙を離してしまった。
 「よしよし…。いい子だね。」
 朋樹は狼の子がおとなしくなったのを確認すると、トラバサミを
足から外してやった。
 ペロペロ…
 「あ…。」
 すると、狼の子は自分の傷を気にするよりも、自分が噛みついた
朋樹の腕をなめ始めたのだ。
 「ありがと。…みんな、この子を早く手当しよう。」
 「う、うん。っと、傷薬ッと…。」
 「あ!化膿止めの薬草!これを調合して…。」
 「シェリルさん、僕たちは水を汲みに行きましょう。」
 「え、ええ。」
 朋樹の一言で我に返った四人は、テキパキと自分の仕事に取りか
かる。思ったよりも手早く動いた結果、数分で治療は無事終了した。

 「よく見ると可愛いですね。」
 「うん。」
 狼の子は怪我を治療してもらい安心したのだろう、朋樹の膝の上
ですうすうと寝息を立てている。
 「う〜ん、この子欲しいなぁ…。ね、うちで飼えないかなぁ…?」
 「トリーシャちゃん、それはちょっと難しいんじゃない?この狼
の子は元々野生の動物よ。そういう動物は、親元へ帰してあげなく
ちゃ。」
 親、という言葉にピクリと反応するトリーシャ。朋樹も同様に反
応してはいたが、悟られないように顔を狼の子の方に向ける。
 「トリーシャの気持ちも分かるけど、シェリルの言う通りだね。
怪我自体もそんなに悪くはないから、しばらく経ったら離してあげ
ようよ。親からいきなり引き離されるってイヤなものだもんね…。」
 「うん…。そうだね…。」
 朋樹の少し寂しげな表情を偶然見たトリーシャは、少々名残惜し
そうな顔をしながらもそれに同意する。いつもだったらもう少し粘
ってみるだろうが、その表情の真意が分かったのだろう。
 「ありがと…。あたしのこと、気にかけてくれて…。」
 「え?!」
 しばらくの沈黙のあと、急に口を開いたのは…膝の上の狼の子だ
った。
 「お、狼の子が…しゃ、しゃべって…。うそぉぉぉ?!」
 「……夢?」
 「そんなに驚かないでよ…。凶悪なモンスターが出てきて取って
食おうとしてるわけじゃあるまいし…。ほらほら、そこで言葉を失
わないの。あ、あたしはイリスって言うの。よろしくね、命の恩人
さん達♪」
 意外なほどペラペラと人間の言葉を話す狼の子。
 「き、君…一体何者?人の言葉しゃべる狼なんて、聞いたこと…。」
 「あなた、フェンリルに仕えし狼の一族…フェーン一族ね?」
 パニックになりながらも何者かを聞こうとするトリーシャをよそ
に、一人あっさりと正体を言ってしまうシェリル。
 「ってシェリル、なんで知ってるのぉ?!」
 「え?なんでって…王立図書館の本に書いてあったの。唯一、自
由に人語から古の言葉、他の動物の言葉すら解することが出来る狼
の一族って。フェーン一族のみ、フェンリルという狼の神に仕える
事を許されて、その力を与えられたらしいの。今では狼…いえ、多
くの動物、一部のモンスターまでもフェーン一族には絶対に手を出
さないらしいわ。」
 「はい、大変よく出来ました。シェリルって、見た目通り博識ね。
でも、その説明には一つ間違いがあるのよ。」
 ぱちぱち、と音までは鳴らないが拍手をしてシェリルをほめるイ
リス。
 「そうなの?」
 「うん。仕えることを許されたんじゃなくって認められたの。森
を守り、心無い侵略者からそこに生きるものたちを命を懸けて守り
続けていた勇敢なる一族として…。もっとも、今は人間達のせいで
自然のサイクルが乱れちゃってさ、にっちもさっちもいかない状態
なんだけどね。」
 「……………。」
 言葉を失う五人。
 「やだ〜。そんなにしけた顔しないでよ。人間って言ってもごく
一部なんだから。エンフィールドはあたし達にとってもいい街なの
よ?むやみに自然に手出さないもの。お父さんも、ここに住んでて
よかったっていってるんだから。」
 「そうなの?ふ〜ん…。」
 「でも、何か複雑だなぁ…。」
 「なんで?」
 頭を抱えるようにして考え込む朋樹に聞き返すディアーナ。
 「え?うん、こっちの世界もやっぱり人間のせいで自然が滅茶苦
茶にされてるんだなって…。」
 「っていうことは…朋樹くん達の世界もそうだったの?」
 「うん。こっち以上に凄いよ。なまじっか急激に技術が成長した
ためか、自分たちのことしか考えないような世界に、ね。特にお偉
いさんは。こっちの世界の方が僕は好きだな。向こうの何千倍も自
然でいっぱいだし。あっちにいる友達連れてきたいくらいだよ。そ
れに…。」
 「それに?」
 少し考えた朋樹は、思い返したように言う。
 「やっぱりや〜めた。」
 「え〜。なんで〜?」
 「辛気くさい話になっちゃうから。」
 少々強引に話を終わす朋樹。
 「…。ね、クリス。なんでみんなしてここら辺うろついてたの?」
 「へ?ああ、エンフィールドから北にある…。ほら、ここの洞窟
に行こうとしてたんですよ。」
 急に話しかけられたクリスは、丁寧に地図まで持ち出して説明する。
 「あ、な〜んだ。そこだったらよぉ〜っく知ってるよ。」
 「ホント?」
 「だって、あたし達が住んでるの、その洞窟の奥だもん。じゃぁ、
これも縁って事で案内したげる!近くにテントとかはれるとこもあ
るしね!」
 「ラッキィ!やっぱり、いいコトするといいこととして返ってく
るんだね!」
 「じゃ、いこ!イリス、道教えてよ。」
 「うん!まず、あっちの茂みを抜けて…」
 比較的体力に余裕のあるクリスが怪我をしているイリスを抱きか
かえ、その案内にそって先頭に立つ。他の四人もそのあとに続いた。






 後書き

 ども。ともです。…。やぁ〜っと本編に片足突っ込んだ状態にな
りました。
 それにしても…長い。特に後半部分。中盤は中盤で中途半端だ
し…。とりあえず、いくつでの構成になるかは今のところわてにも
分かりません。言えることはただ一つ。「長くなる」と言うことだ
けです。(うわ…滅茶苦茶曖昧だ(^^;)

 今回のお話は本編序章みたいなもんです。したがって、まだまだ
さわりです。次はちょっとシリアスなお話(途中おちゃらけですが)。
雰囲気出てればいいけど…。

んでは、ともでした。



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