中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想

NO-4 〜過去の過ち、現在の過ち〜 とも(MAIL)

 NO-4 〜過去の過ち、現在の過ち〜






 十数分後。五人と一匹は無事洞窟の目の前に立っていた。そして、
固まっていた。大きさはリオの守護獣ビーティほど。白に近いグレ
ーの毛並みはイリスのものと同じだが、見るものを魅了させるよう
な輝きを放っている、威厳に満ちた狼が待っていたのだから…。
 「お父さん!」
 イリスの一言で我に返る五人。
 「お、お父さん!?」
 「そ。フェーン一族族長の、ね♪」
 イリスの父、族長はその会話をおだやかな表情で聞いている。
 「すまんな、イリス。鳥達の知らせで知ってはいたのだが、面倒
事にあってしまって助けにはいけなかった。そして、人間の子供達。
私の娘をよく助けてくれた。礼を言う。」
 言葉と共に、深く頭を下げる。一方、五人は案の定オロオロし始
めた。なんせ、一族の族長が頭を下げてきたのだ、無理もない。
 「そ、そんな…頭を上げて下さいよ。私たちはたまたま通りかか
っただけで…。」
 さすが、シェリルはこういうときには頼りになる。いちばん早く
立ち直り、族長に頭を上げるよう、言い始めた。
 「いや、本当に感謝しているのだよ。こう見えても結構忙しいの
でね、いざというときに行動できないことが多い。危うく、一人娘
を失うかも知れなかったのだしな。」
 「お父さん、あたしの事、本当に心配してたっけ?殺しても死な
ない馬鹿娘って言ってたくせに。」
 深刻な話にも関わらず、笑いながら話す族長に、その話を聞いて
むくれるイリス。この親子からすると、あまり深刻でもないようだ。
 「そういえば…。わざわざこのような時期にキャンプか?子供達。」
 「いえ…。あ、自己紹介、まだでしたね。私、シェリルといいま
す。それで、私の隣からトリーシャちゃん、ディアーナちゃん、朋
樹くんにクリスくんです。」
 「あう…。あたしが言おうと思ってたのに…。」
 「え?!そうだったの?ご、ごめんなさいね。」
 残念そうなイリスに謝るシェリル。
 「僕たち、学園のグループ研究であなた達の住んでいる洞窟のキ
ノコの種類を調べに来たんです。それで…」

 数分かけて、五人でこれまでのいきさつを話した。族長は興味深
そうに相づちを打つ。
 「なるほど、それで娘に会ったと…。そういう事情なら手を貸そ
うじゃないか。今日はゆっくり休みなさい。明日、イリスに洞窟内
を案内させよう。いいな、イリス。」
 「うん、分かってるわよ。元からその気だったし、怪我もそんな
に深いわけじゃないし。明日には十分動けるようになってるわ。そ
れに、この薬草普通のと違うわね?」
 さっきの様子と今の様子を比べると、明らかにイリスの動きが違
う。おそらく、傷を負った本人の回復力を高める効果も持っている
薬なのだろう。
 「そりゃあ、ドクターからもらった薬だもん。ドクターは私たち
の街で一番の名医なんだよ。」
 その言葉を聞いた途端、少し困ったような顔をする朋樹とディア
ーナ。
 「あの…。言いにくいんだけどさぁ…。」
 トリーシャの言葉を割くようにして朋樹がおずおずと割り込んで
くる。
 「え?なに?」
 「病気の薬は今まで通りドクターのヤツなんだけど、傷薬は全部
僕が作ったんだ。もっとも、僕の父さんの薬、だけどね。」
 「そうなの?すごいんだね、朋樹くんのお父さん。」
 「うん…。あ、そろそろテントとか張らなきゃ。日も落ちて来ちゃ
うよ。」
 会話を切り上げ、今日から数日間の住居になるテントの組立に取
りかかった五人。しかし…

 「え〜っと、これとこのパイプを…あれ?なにか違う…。(・-・?」
 「ちょっとぉ〜〜。誰か助けてよぉ〜〜〜。テントの布、重くて
あたしじゃ動かせないのよぉ〜〜〜。(;-;)」
 「あれ?ねぇ、クリスくん。これってどうやるんだっけ…?(・-・?」
 「えっと、確かこれは…。(/・・)/」
 「よいしょっと………っきゃぁぁぁぁ!(T-T)」
 カシャン!ガラガラガラ…
 「…。(;_ _)」
 ある程度は予想はしていた朋樹だが、キャンプ、テント張りその
他の初心者ぶりはすごいものだった。クリスとシェリルは少しは本
をかじってでもいたのだろう、おぼつかないながらも仕事をこなし
ている。しかし、トリーシャとディアーナはあまりにも目に余るも
のがあった。気がつけば、イリスも役に立とうとはしていたのかも
しれないが、結果布に体をとられてもがいていたりもする。

 「ほら、これとこれをつなげたらこれをこうするの。そうそう、
じゃ、次は…」
 パイプをつなぐのに苦戦しているトリーシャに、分かるようにゆっ
くりと指示を出す。
 「…あ、これはこっちにまとめといて。…もっと必要だね。太い
枯れ木も多めにもってきて。布と格闘してるイリス助けて手伝わせ
るからさ。」
 集めてきた枯れ木をぶちまけていたディアーナを手伝い、さらに
いくつかの仕事も頼む。
 「これでよしっと。じゃ、ディアーナと一緒に薪拾いお願いね。
…。そんなわがまま言わないさ〜〜〜。」
 布と格闘してるイリスを助け、ここにいたいと駄々をこねるのを
説得し、ディアーナの手伝いに向かわせる。
 「…クリス、それ終わったらこれくらいの…そうそう。それくら
いの石でかまど作ってて。…一人じゃ無理かな?え?うん。じゃ、
シェリルも手伝うって言ってくれてるし。こっちは僕がやっておくよ。」

 どうにかテントも完成し、早々に食事もとった五人は明日のこと
も考えて用意もそこそこに寝に入った。約一名を除いて…
 パチパチ…
 小さなたき火の炎が朋樹の目の前でゆらゆらと揺れる。ときおり、
パチィッと木が炎の中ではじける音が響く。
 「今日は満月、かぁ…。一人で見るのもったいない気もするけど…。
こーゆーのもたまにはいいかな。」
 パキィッ
 独り言をつぶやいていた後ろで、小枝の折れた音がした。みると、
族長が月の明かりを受けてたたずんでいた。
 「眠れないようだな。しかし、たき火の炎だけでは寒いだろう?
私に寄りかかりなさい。私のしっぽにくるまれば多少は違うだろう。」
 「はい。ありがとうございます。」
 朋樹はその申し出を素直に受け、族長に寄りかかる。しばらくの
沈黙。それを破ったのは族長だった。
 「今日は本当にありがとう。異世界の少年。」
 「?!」
 驚いた表情で族長の顔を凝視する朋樹。しかし族長はにこやかに
笑うと話を続ける。
 「驚いたかな?私には、この森を含む一帯の情報がほぼ余すこと
なく入ってくる…。エンフィールドも例外ではないのだよ。君の友
人、紅蓮くん達のことも入ってきているぞ。」
 「じゃ、僕の犯した罪も知ってるんですね…?」
 朋樹は、言いながら肩を落とす。
 「あの…オーガーのことだね。」
 コクン
 声を出さず、ただうなづく。
 「君が落ち込むことはない。しかし、ずいぶんと長い間自分を責
め続けたものだな。何か理由でもあるのか?」
 朋樹は月明かりを受けて輝く三日月をかたどったロケットを開く。
片方には何も入っていないが、もう片方には…がっしりとした体つ
きのにこやかに笑う男性、しっかりしている雰囲気を持つ均整のと
れた体つきの女性。そして、その間に立っている少年の三人を写し
た写真があった。
 「両親との…死んだ父さんと母さんとの約束なんです。」

 十年前、、僕は父さんと母さんとの三人で山に来ていた…。
 「えいッえいッ!」
 「ん?何やってる、とも。」
 僕は蛇をいじめてた。蛇は悪い生き物っていう印象が強かったか
ら、これはいいことなんだ、と勝手に思いこんでた。
 「蛇、やっつけてるの。悪いヤツはやっつけなきゃ!」
 パァン!
 僕の言葉が終わるか終わらないかの一瞬で、僕の頬に痛みが走っ
た。そして、叩かれたんだ、と確信したとき、堰を切ったように涙
があふれてきた。
 「うわーーーーん!」
 「どうしたの、とも。」
 母さんが駆け寄ってくる。父さんは、ずっと僕のことを睨んでいた。
 「お父さんが、ぶったぁーーーー!」
 「あなた!いったい何があったの?!」
 「ああ…。とも、もう泣きやみなさい。いきなりぶった父さんも
悪かった。」
 「ひっく…。」
 「しかしな、とももすごく悪いことをしてたんだぞ?」
 その時の父さんの顔は、何とも複雑な表情だった。でも、もう睨
んではいなかった。
 「蛇…、いじめたから?」
 それしか思い当たることはなかった。すると、母さんも僕を怒り
だした。
 「当たり前でしょう。そんなことしてたの?」
 「うん…。」
 母さんにも怒られ、縮む僕。
 「とも、よく聞きなさい。何が悪いとか、そういうのは自分勝手
なことだけやってるような人間だけなんだよ。」
 「人間って僕たち!?」
 「ああ。しかし、そういう人達はほんの一握りだけだけどね。で
も、動物達は違うんだ。生まれながらにして知っていることを、し
っかりとやっている。自分勝手なことはしないんだ。そんなことし
たら、自分たちだけじゃない。他の生き物にも迷惑がかかるって、
分かってるんだよ。…ちょっと、難しい話だったか?」
 「ううん!…わかったよ。僕、むやみに生き物いじめたりしない!
約束するよ、お父さん!」
 「よし、それでこそ父さんの子だ!」
 父さんは大きな手で、僕の頭をなでてくれた。
 「うん!」
 それから、僕は無意味に生き物を殺そうとはしなかった。他の生
き物の犠牲のうえで成り立っていると知った、自分の生活を受け止
めながら…。

 朋樹は、その時のことを思い出していた。今まで生きてきた中で
たった一度だけ、父に怒られたときのことを。
 「そうか…。しかし朋樹よ。」
 「はい?」
 「お前は生き物の命の重さを知っている。が、「殺したくない」
と言うことは戯れ言に過ぎん。どんな生き物だろうと、無意味に他
の生き物を殺したりはしない。しかし、己が生き抜くために他の生
き物を殺すときはある。朋樹、自分が生き抜こうとするときは躊躇
してはいかん。」
 「はい…。」
 「だが、お前は面白い人間だな。人間の印象が違って見える。」
 「そうですか?」
 「ああ、私たちから見ると、「人間は自分勝手な臆病者」と言う
印象が強い。朋樹、お前と出会ったのはあながち偶然というわけで
もないのかもしれんぞ?」
 なぜか楽しそうに笑い始める族長。
 「朋樹、オーガーのことに関しては悩むことはない。我々として
は感謝しているのだよ。おそらく、あのオーガーもな。」
 「…なんでです?」
 「あいつは、ある人間達が投じた薬によって自我を崩壊させられ
ていたのだ。残っているのは攻撃性のみ。朋樹、お前はあのオーガ
ーを苦しみから解き放った…恩人なのだよ。」
 「そんなことが…。」
 その時の朋樹の目には涙があふれていた。元いた世界もこっちの
世界も、人は愚かな道を歩んでいるものが多いことを痛感して。
 「族長…。」
 「なんだ?」
 「イリスから聞いたんですけど…。ここの…エンフィールドの人
達は自然には必要以上には手を出さないと聞いたんですけど…。」
 「ああ。事実だ。私も、ここが気に入っている。自然と共生して
いるこの街がな。しかし、なぜその話題を?」
 「いえ…。死んだ父さんや母さんは…たぶんこっちに来たら喜ん
だと思うんです。だって、誰よりも自然が壊されていくことを悲し
んでいたから…。もしも望みが叶うなら、両親に一度だけでもここ
を見せてあげたいですね。」
 族長は朋樹の言葉に頷きながら答えた。
 「もう、見ているだろう。常に君と一緒にいるだろうからね。」
 「…はい。」

 「僕、もう寝ますね。」
 そろそろ本格的に夜による寒さが増してきたのだろう、朋樹は軽
く伸びをすると族長に一言告げる。
 「うむ。私はもう少し夜風に当たっているよ。」 
 「はい。おやすみなさい。」
 朋樹はテントの中に入っていった。族長はそれを確認すると星々
に彩られた空を見上げる。
 「我が一族の守護神フェンリルよ…。願わくば、この強き人間の
子供達に祝福を…。そして、彼の者たちに災い無きことを…。」
 そうつぶやくと族長も洞窟の中に姿を消す。その時、いくつもの
流星が夜空を流れた。おそらくはだれも気付かないだろうが…。し
かし、その儚い光を放つ光の糸は何を意味していたのだろうか。






 後書き

 ども。ともです。今回のお話。本編とは関係なさそうですが…実
はあります。まだ先ですけどね。
 実はこれ、ちょっと書いておきたいところでした。こういう雰囲
気もありかな、って思って。シリアスを考えてたんですけど、やっ
ぱりどこかに笑いをとるような部分があるんですよね、わてのSS。

 次はやっと洞窟へ!でも、お約束というかまた問題が浮上…??

では。ともでした。


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