中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「NO−5 「繰り返した出来事」」 とも  (MAIL)




 「ん…っつ…!あたた…」
 朝。
 彩は、起床と同時に頭痛に襲われた。それでも何とか起きあがろうとすると、
体にかかっているものに動きを止められる。掛け布団だった。
 「…あらら…。私としたことが…酔いつぶれちゃったのね。」
 みると、客間用の広い部屋に自分を含む女四人が寝ていた。記憶をたどると、
仮眠するつもりでソファーに横になった記憶がある。そのまま、熟睡していたら
しいと彩は悟った。
 「…多分、朋樹ちゃんね…。そうなると…」
 今だ寝ている三人を起こさないよう、静かに彩は部屋を出る。そして、一階に
行くと…
 「やっぱり…。そのままにしておいても良かったのに…」
 食器は台所にまとめられ、ゴミもちゃんと分別してあった。彩に残っている仕
事といえば、食器の後片付け。粗大ゴミの除去。居間の掃除。…くらいである。
当の処理人、朋樹は夢の中にいる。消える前に飼っていて、今は紅家に居着いた
猫を抱きながら。
 「よくもまあ、ここまで出来るものね。うちの人にも見習って欲しいものだわ
…。さて、と。」
 彩は気合いを入れるとさっそく、雑魚寝組の五人を見渡す。
 「クリスちゃんは別として…この四人は外行きね…。」
 その中の、幸せそうに酒瓶を抱えて寝ている四人を一瞥すると、一人一人の首
根っこを掴んで外に運んでいった。


 「彩さん!非道いじゃないですか!」
 「え?」
 くってかかるのはレンをはじめとする三人。外行きがかなりきつかったらしい。
他の五人(朋樹、クリス、ディアーナ、由香、レミア)は、その光景を見ながら
遅い朝食を取っていた。
 「なんで俺らも外行きなんですか?!男四人詰め込まれるのってキツいんです
よ!」
 ちなみに、「外行き」とは外にある物置行きのことである。翔はというと、朝
食も取らずに慌ただしく仕事へ出かけていた。
 「酒瓶抱えて寝てたから。」
 刺すような視線と共に理由を告げる彩。その視線の鋭さに、三人は何も言えな
くなる。
 「「「…すいませんでした。」」」
 「OK。じゃ、ご飯食べちゃいなさい。今、用意するから。」
 彩はそう言うと台所へと消えていく。
 「ふう、やれやれ…。なぁ、朋樹。なんで俺らから酒瓶とっといてくれなかっ
たんだ?」
 「え?だって、取ろうとすると殴ろうとするんだもん。危ないからそのままに
しといたんだ。」
 「あはは、あんたらって変なときに寝相が悪いのね〜♪」
 「うっさい。」
 由香の言葉に、ユウはふてくされながら呟く。

 「あ、ところでさ…今日は遊びに行かない?いつものところへ、さ。」
 「いいね、行こうか。あそこからの景色、最高だもんな。」
 「賛成!ねね、クリスくん。またあたしと一緒に行こうね♪」
 レミアはよほどクリスが気に入ったのか、クリスの腕にしがみつく。が…
 「レ、レミアさん!ちょ、ちょっと離して下さいよ…!」
 「レミア、クリスは女性恐怖症なんだよ…。あんまり近づいちゃ可哀相だよ?」
 「ええ〜?!そんな…だったらあたしだって可哀相じゃない!好きな人とは一
緒にいたいものでしょ?!」
 「そりゃまあ、分かるけど…。…仕方ない、クリス。この際…」
 「ん。漢(おとこ)として、女性を悲しませることは許さん。」
 「同じく。」
 「…俺はあまり関与はしない主義なんだが…」
 朋樹を筆頭に、ユウ、カズ、レンの四人がクリスを囲む。
 『大人しく、お縄につけい!』
 「なんで〜〜〜〜?!」
 そして、クリスは強制的にレミアと行くことになった。

 「じゃ、レミア。クリスが落ちる可能性あるから今日も押さえろよ?」
 レンは「今日も」の部分を強調するように強く言う。レミアもそれにすぐ頷い
た。状況はというと、朋樹の後ろにディアーナ。ユウの後ろに由香。レミアの後
ろにクリス。後、レンとカズはそれぞれ一人である。
 「分かってるわよ。昨日も押さえたんだけど、速すぎたみたいだしね。今日は
ゆっくり行くわよ。」
 「そんじゃ、出発!」
 一行は、「いつものところ」と言った場所へ向かっていった。クリスとディア
ーナはそれが何処なのか分からないまま…


 カララ〜ン♪
 「こんちわ!」
 レンを先頭に、面々は次々と店の中へ入っていった。それを見、マスターであ
ろう男が驚きもせずに笑いかけてくる。
 「ああ、いらっしゃい。しかし、今日はまたずいぶんとにぎやかなことだ。
…お?朋樹くんじゃないか。消えたって噂聞いたけど…デマだったのかな?」
 「ううん、ホントに消えてたよ。違う世界にちょっと…ね。あ、紹介するよ。
こっちがディアーナで、あっちがクリス。二人とも、向こうの世界での友達なん
だ。」
 「そうか…ようこそ。私の店『大樹のうろ』へ、異世界からの来訪者さん。私
のことはマスターと呼んでくれて結構だよ。」
 「はい。こちらこそ…」
 「よろしくお願いします…」
 クリスにディアーナは驚きを隠せなかった。このマスターは何かが違う。そう
直感するものがあったのだ。現に、あっさりと二人を受け入れている。「異世界
からの来訪者」と。

 「どうだい?紅蓮くんはマリエーナ王国近くに行ったって言うし。朋樹くんは
どこら辺に飛ばされたんだ?」
 「エンフィールドってとこ。」
 「ああ、そこなら知ってるよ。あそこは良いところだ。緑も多いし、なんせあ
そこに住む人達は人柄が違うからな。君にとっても住み易いところだと思うが?」
 「うん。マスターみたいな魔法も覚えたし、面白いよ。」
 「そうか。今度、縁があったらシープクレストって言うところへ行ってみると
いい。あそこは港町だからな、流通がすごいぞ。ひょっとすると、意外な捜し物
が見つかるかもしれない。ちょっとばかり遠すぎるかもしれないが。」
 「…ちょっと、いいですか?」
 クリスは、悪いとは思ったものの話の途中に割り込んだ。
 「ん?クリスくん…だったね。どうしたんだい?」
 「あなたはまさか…」
 「ああ。そう、お察しの通り。私は元々この世界の人間ではない。…ついでに
名乗っておこうか。私の名はレイン。レイン・ラスタードという。元マリエーナ
王国王宮魔術師にして、副長をつとめていた。って、…もっとも、この世界では
そんなもの関係ないし…通用なんかしないけどね。」
 マスターこと、レインは苦笑しながら身の上を証す。
 「え?!そうだったの?なんだ、マスターって偉かったんじゃん。残念ね〜。」
 「いや、そうでもないよ。副長なんで肩書きだけ。単なる中間管理職だよ。い
つも書類整理ばっかりだった。こっちの世界で、こうやってマスターやってる方
が気楽でいい。それに、ここなら魔法だけでもいろいろ稼ぐことが出来るしね。」
 「でも、どうして飛ばされたんですか?」
 「魔法実験中の事故でね。空間移動の魔法が暴走してこっちにきてしまった、
と言うわけさ。さ、いつまでも立ってないで座りなさい。今、コーヒーを入れよ
う。それとも、紅茶が良いかい?」
 ふるふると首を横にふりながら、クリスとディアーナはそのままカウンターに
座ろうとする。が、
 「二人とも、そこじゃないよ。こっちこっち。」
 と、朋樹に止められる。二人は後について奥へ進んでいき、そして…

 「うわ…」
 「きれい…」
 そこには、ベランダがあったのだが…ベランダから見える景色が、壮大なもの
だった。左右に山々の紅葉が映え、その中央に街がある。見上げると真っ青な空
が広がっていた。街の向こうにも、同じような山々が連なっている。
 「ここが、俺らの集合場所。いつもいるところだから、「いつものところ」っ
て言ってるんだ。紅蓮も、よくここに来てた。」
 「それに、ここにはあたし達が認める…ま、言ってみれば仲間と認めた人しか
教えないのよ。」
 「で、ここでの集いがその証みたいなもの、だろう?」
 レンとレミアの説明を続けながら、マスターもコーヒーとケーキを持ってくる。
 「あ、マスター。」
 「今日は特別製だよ。私の手作りケーキもあるしね。好きなのを選んでくれて
いいよ。」
 「でも…」
 「会えるとは思ってもいなかった友人に再会し、私のいた世界の人間までここ
にいる。新たな…友人として。こんな良い日に何もしないというのがおかしいよ。」
 「でも…、僕たちは3日後にはもうここにはいないんです。3日後、僕らはエ
ンフィールドへ強制的に戻ってしまうから…」
 「そうか、君らはよほど運がいいな、故郷に戻れるなんて。正確な時間は分か
るかい?見送りに行きたいんだが。」
 クリスの言葉に、マスターは動揺すらしていたかった。むしろ、戻れる三人を
喜んでいる。そして、にこやかに笑っているのだ。  
 「そうだ!もし、マスターさえよければ僕らと一緒に…!」
 「いや、それはできない。」
 マスターは、朋樹の提案を片手で制す。
 「もし、仮に戻れたとしよう。私の居場所は?仮にあるとしよう。レン達の集
うこの場所は?」
 「マスター。俺達のことは…」
 「レンもちょっと黙っててくれないか?確かに、私は向こうの世界へ戻りたか
った。落ち込みもしたし、後悔もした。しかし、今はこっちの世界にいたいと思
っている。向こうにはない新鮮な驚き、体験、いろいろある。私は、こっちの世
界が好きになってしまったんだよ。たとえ、滅びの道を歩んでいるとしても、ね。
…彼女のためにも。」
 「え?」
 「いや、…何でもないよ。さあ、好きなものを食べてくれ。どれも私の自信作
なんだ。」
 マスターはそう言うと、皆にケーキをふるまった。

 「ほう…。いろんなことあったみたいだね。魔宝か…懐かしいな。」
 「マスター、もしかして知ってるんですか?」
 「ああ。私も、伊達に王宮魔術師の肩書きは持ってないよ。確か、常に複数の
パーツに分かれて眠り…それを一つにした物は閉鎖遺跡イルム・ザーンへ立ち入
るための鍵となるという。その奥深くには、願いを叶えてくれる古の女神が今も
なお願いを叶えるべく存在しているという…。その形は、一度一つにしてしまう
と形を変えてまた分かれ、再び眠りにつくと聞いている。なるほど、紅蓮くんも
集めたのか…。」
 マスターは研究していたであろう当時のことを思い出していたのか…考え込み
ながら何度も頷いていた。

 ボーン…ボーン…
 さらに幾時か経ったとき、壁に掛かっていた時計が六つの音を刻んだ。外を見
ると、もう既に暗い。
 「おや、もうこんな時間だね。そろそろ帰りなさい。っと、朋樹くん達が帰る
予定の時間を今のうちに教えて欲しいんだけど。」
 「う゛…。僕、気絶してたから…。クリスかディアーナ、知らない?」
 「え〜っと…。確か…時計はなかったけど…そう、音楽が流れてましたよ…。」
 「それに、太陽が真上にあったから…多分十二時前後だと思いますよ、マスター。」
 「そうか…。場所も分かると嬉しいんだけど…。」
 「あ、それなら俺らが。住宅街の中にある小規模の森林公園の中ですよ。」
 「あそこか…ありがとう。それじゃ、近いうちに紅蓮くんの家にも行くよ。話
に出てきた映像も見てみたいしね。気を付けて帰るんだよ。」
 「はい。みんな、それじゃあ行こう。」
 「マスター、ありがとうございました。」
 「ごちそうさん、マスター。」

 皆、口々にマスターに礼を言うと店を出ていく。数瞬後…バイク特有の爆音が
轟き、その音も時と共に遠ざかっていった。やがてその音も聞こえなくなってい
き、辺りには静寂が全てを支配する。
 「…君と同じように、私の世界に飛ばされた二人の少年のうち…もう一人の少
年も、向こうの世界を選んだそうだよ。」
 そんな中。マスターは店の中で一人、遺影の中で微笑む女性に語りかけていた。
 「君と共にこちらの世界に来たとき。少々の後悔はしたが、今はこちらに来て
良かったと思う。君と同じように、私のような人間でも受け入れてくれる人がい
る…。皆、良き友人ばかりだよ。そうそう、今日は私の世界の少年と少女も来た
よ。朋樹くんの友人だそうだ。」
 マスターは用意しておいたグラスに、いつものようにワインを二人分注ぐ。チ
ン、と軽くグラス同士を重ねると、一口飲んだ。
 「彼らが帰るとき…私は見送りに行こうと思うんだ。君はどうする?」
 語りかけた瞬間…動くはずのない遺影の女性が、わずかに頷き、微笑み返して
きたように見えた。
 「そうか…ありがとう。…遺影の君が頷いているように見えるとはね。私も老
いてしまったかな?いや、まだ三十代だ…。いくら何でもそれはないだろう…?」
 マスターは苦笑するとゆっくりと立ち上がった。
 「さて…。今日はもう休むことにするよ。」
 遺影の女性にもう一度笑いかけると、マスターは遺影を持って自室へと歩いて
いった。



 後書き。

 ども。ともです。今回のは、お約束な展開で通してみました。マスターの話は、
前から書きたかったストーリーなんです。マスターの存在と紅蓮ののおかげで、
朋樹がすんなりとエンフィールドに自らなじむことができた…。ということを書
いてみたかったんですよぉ…(爆)

けど…なんか、悠久からどんどん離れていってるような気がします…。

 さて…と。では、また。ともでした。

 

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