「NO-8 「別れと今と」」
とも
(MAIL)
「うらぁぁぁ！」
ヒュン！
「素手の相手に木刀…変わってないね、その戦い方。」
受け流し、間合いを十分に取る。朋樹は木刀の圏内のわずか外に自分をおき、相手の出
方を見ていた。
「いつまでもスカしてんじゃねェ！ あのお前はどうした！ 『ツイン・オブ・デビル』
の朋樹よぉ！ お前おびき出すために、女さらったんだぜ？！ 本気見せろよ！」
ぴくん、と朋樹はその言葉に反応した。クルリと周りを見、まだレン達が辿り着いてな
いのを確認すると――――ニヤリと微笑った。
「そんなに知りたい…？ いいよ…僕の意志で抑えてたもの…久々に見せてあげる。僕
の新しい相棒と一緒にね…！
『右に集うは大いなる地の精の守護。
我が意のままに…具現化せよ…玄武！』」
詠唱が完成し、言葉にしたがって手甲が形状を現す。その形は紅蓮のものとはかなり異
なっており、玄武の名の通り甲羅をイメージしたようなものだった。囲んでいる者は奇異
の声と視線を浴びせるが、綱矢は予想していたように笑い返す。
「やっぱ綱矢はひと味違うね。」
それを見、朋樹はさらに微笑う。
「ああ、お前は前ッから人並み外れてるヤツだったからな。」
綱矢は木刀、朋樹は手甲を構え…。二人はジリジリと間合いを詰める。
「オォォォ！」
ガギィッ！
木刀が振り下ろされ、手甲がそれを流す。
「眠れ。」
ビュオン！
普段から考えられない言葉遣いで、朋樹は手甲で殴りかかる。紙一重で避けられるが。
ガッ…ギィン！ ガゴォッ…！
木刀と手甲がぶつかり合い。頬をかすめ、流し、流され、髪が散り…。
ドゴォッ！ ゴスッ！
次第に互いの腹や顔などに攻撃が入ってゆく。二人はそれすらかまわず、殴り合っていた。
「どうした？！ そんなモンか！」
「うっさいね。早く眠ってよ。」
一瞬止まり、言葉を交わすとまた殴り合う。終いには血が飛び散り始めてきた。…そこへ
「と、もき…くん？」
レン達が着いた。取り囲んでいた者達はほとんどが倒されており、残すは十人に満たない。
そして、レン達…いや、クリスは驚愕した。今まで見たことのなかった朋樹の姿…かつ
て『ツイン・オブ・デビル』と呼ばれていた頃の朋樹を見て。朋樹は獣のそれと化した眼
でクリスの方をちらりと見るも、すぐに綱矢の方に目を向けた。
二人は、ただ殴り合っていた。周りのギャラリーも気にせずに。流れる血の量も少なく
なく、限界が近くなってきている。それを物語るかのように――特に綱矢は、足にきていた。
「うらァァァ！」
…ふらり
かまわず木刀を振るも、動きが鈍っていてはどうしようもない。バランスが崩れたその
隙を逃さず、朋樹は人体急所に狙いを定め…
「拳技の零―躯止乃型（くしのかた）」
静かなる声とは裏腹に、凄まじいスピードでそれを突いた。
どさり
綱矢は糸の切れた操り人形のようにその場に倒れ込む。しかし、不思議なことに今まで
流れていた血が、倒れた直後からピタリと止まっていた。むしろ、倒れた衝撃で出血の量
が増えてもおかしくないはずなのだが…。それと同時に、朋樹は力が切れたように座り込
んでいた。
「ふう…。具現せし力よ…我が意に従い、あるべき姿に。」
言葉が終わると同時に、玄武といっていた手甲が形を崩して消えていく。それと共に、
さっきの威圧感ばりばりの雰囲気も消え去り、いつもの朋樹に戻っていた。
「クリス、驚いたでしょ？」
「え？ えっと…はい。」
苦笑いしながらの言葉に、クリスは戸惑いながらも頷いた。後に残っていた綱矢の仲間
は、起きたそばから逃げ出している。
「…またやっちゃったね。」
「いいんじゃないか？ そんなに気にすることはないぜ。」
「そうですよ。僕も驚きはしましたけど…。」
言葉を交わす中、ディアーナ、ユウ、由香の三人も集まってきた。真っ先に、ディアー
ナは朋樹を心配して話しかける。
「朋樹くん、大丈夫！？」
「大丈夫。ディアーナも非道いコトされなかった？」
「うん。でも、あの人…」
あの人というのは綱矢のこと。すでに綱矢を残し、他の者達は全て逃げ去っていた。
「とりあえず、…ホーリー・ライト」
白き癒しの光が、術者の朋樹を始めとしてそこにいた皆を包み込む。むろん、綱矢も例
外ではなかった。
「ち…叩きのめした後に助けるってか。変わんねぇな、朋樹は。」
「綱矢も、憎まれ口は相変わらずだね。痛みは？」
ムクリと起きあがりながら憎まれ口を叩く綱矢に、それに苦笑する朋樹。二人はまるで
仲の良い友人のように言葉を交わしていた。
「ほとんどねェ。とうとう手品まで使うようになったのか？」
「手品じゃないよ――魔法だよ。」
「へっ…ますます人間離れしていくな。」
「ほっといて。」
「ったく、また完敗かよ。…もう、闘いたくねェぜ。」
「へ？ 行くの？」
「ああ…。もう会わねぇだろうよ。」
そう言って、綱矢はフラフラとどこかへ行ってしまった。去り際に軽く手をあげ、それ
を別れの挨拶にして。
「結局、あいつって何がしたかったの？」
レミアは首をかしげながら誰と無く尋ねた。
「でも、あたし達をさらったのは朋樹くんの名前が出た直後でしたよ。あの時すれ違っ
ただけで、名前を聞いた途端連れ去られちゃって…。」
「そうよね。それくらいしか思いつかないもんね。」
「へぇ…。あたし、その時いなかったから…」
案外、綱矢は過去の決着をつけたかったのでは？ という結論に達し、皆はそのまま紅
蓮の家へと戻っていった。ディアーナを朋樹が担いで。
（ディアーナは気の抜けた途端、血を見て卒倒したのだ）
しかし…
「朋樹ちゃん！ こんな血だらけで何したの？！ 今夜は外行き！」
「で、でも…これは…！」
「言い訳無用！ 言い訳したから、、晩御飯とそれの洗濯もやること！ いいわね？！」
「…はい」
朋樹だけ、彩に怒られていた。（血染めの格好で帰ってきたのである、当然だ。）皆の
口添えで外行きだけは免れたものの、結局夕飯と洗濯はやらされていた。二時間の説教も
含めて。
その時はマスターも訪ねてきていた。紅蓮からの映像の試写会で、その場にいた者は映
像を見て終止笑顔だった。
（一部除く）
「さすがは紅蓮くんですね。おや、魔族に影の民…。（…彼女の時と同じような状況で
すね…）」
映像の中の人物のうち数人を見て、マスターは昔を思いだしたように笑っていた。胸ポ
ケットの中の、亡き大切な妻の写真を無意識のうちになでつつ。
「何ぃ？！ 紅蓮のヤツ、こんな美人と…ぅあだぁ！」
「何デレデレしてんのよ、ユウ…（−−#」
紅蓮と共に映っていたティナを見、ユウは羨ましそうに叫ぶが…。やきもちを焼いた由
香によって耳をつねられていた（笑）
「あ。由香がやきもち…あふぇふぇ！ いふぁい、いふぁい〜〜！」
「一言多いわよ、朋樹。」
チャチャ入れた朋樹も頬を引っ張られ、必死にもがいている。
「…レミット王女ってマリアさんみたいですね（汗）」
「この揚雲って人、イヴさんそっくり…」
クリスとディアーナは、映像の二人が知人に似ている事実を知り、複雑な表情を浮かべ
ていた。（特にクリス）
「俺は若葉さんが…かわいい…（ぽ〜）」
カズはポケ〜っとしながら巫女服の娘に見とれていた。しかし、この娘はセリーヌ並の
方向音痴＆ローラ並の料理音痴…。天は二物すら与えてはくれていなかった…（爆）
仮にカズが若葉に会ったとき…反応が楽しみだ。（絶対にないが）
「リラって、パティみたい…。っていうか、生き別れの姉妹とか？」
行動その他がパティそっくりなので、朋樹は勝手に想像を膨らませていた。ボーイッシュ
で、半分男勝りのところは本当にそっくりだ。ついでに性格も。
（「「なんですって？！（怒）」」パティ＆リラ）
「俺はレミアの方が…（赤面）」
「あたしもレンの方が…（同じく）」
こっちはこっちで二人の世界に浸かりっきり（笑）
「俺はこのカレンって言う…げはぁ！」（←また蹴り喰らった）
「あなた、夜は外の外ね♪（本当の意味での外行きのこと）」
こっちの二人も、変わらぬ夫婦愛の中に身を投じていた（爆）
（本当にそうなのか〜〜〜？！（泣） by翔）
「…じゃ、私達の方からも紅蓮くんの方に贈り物をしてみませんか？」
映像の閲覧会が終わってくつろいでいたところ、マスターが箱のようなものを持って提
案をした。
「え？ でも、あっちの方じゃ電気系統はこっちとちが…」
「ええ、知ってます。だから、こうするんですよ。」
と、マスターは箱を開いた…