中央改札 悠久鉄道 交響曲 感想 交響曲

「人間になった日」 とも  (MAIL)



 

 

 ドンドンドン!

 「紅蓮さん! 起きて下さい!」

 ドアを叩く音と共に聞こえる声はティナ。昨晩遅くまで呑んでいたのを知っていたので、
少し遅めに迎えに来たのだが…いっこうに起きてくる気配がない。

 「…え? 分かったわ、ヴァナ。………。よぉ〜っし! あたしに任せなさい!」

 困惑した後、しばしの沈黙。表情が変わり、ティナはヴァナと入れ替わった。

 カチャリ

 数秒後、小さな鍵音を立ててドアが開く。手には、なぜか針金が握られていた。

 「(ヴァナ、そこまでする必要あるの?)」

 頭の中で、罪悪感にとらわれたティナが叱りつける。が、ヴァナは知らん顔をしてドアを
閉めた。

 「(いいじゃない、これくらい。ティナだって、久々に紅蓮の寝顔見てみたいと思わない?)」

 「(それはそうだけど…)」

 頭の中での決着もつき、いざ寝顔を拝もうとしたヴァナが凍りついた。こめかみをピクピ
クさせて。ティナも同じ目を通してそれを見、言葉を失っていた。

 「ッ…紅蓮! 見損なったわ!!」

 ドゴォ!

 「ぐほぁ!」

 鈍い音を立て、ヴァナの拳が紅蓮の腹に沈む。紅蓮は呼吸もままならない状況でもだえ、
一分経った辺りでようやく落ち着いた。

 「あだだ…げほッ…。ヴァナ! 寝坊くらいで殴んな!」

 「うるさいわね、そっちこそ何よ! …あたし達という者がありながら…!」

 双方、うなり声をあげながら睨みあう。…そんな中、紅蓮の寝ていたベッドから少女が
起きあがった。

 「なによぉ…少しは静かにしなさいよね…」

 起きあがった少女は、ライトブルーの目でジロリと二人を睨みつけた。再び寝ようとし
たが、眠気も醒めてしまったのかふるふると頭を振る。おかっぱくらいの青い髪が、頭を
振るたびにさらさらと広がった。

 「なによ…あたしの顔、なんかついてるわけ? ってあれ?」

 少女は気付いた。紅蓮とヴァナが自分を凝視していることに。そして、いつもよりやけ
に小さく見えたことに。

 

 

 「え…? う、うそ…でしょぉ〜〜〜〜?!」

 「何でオレ様が大きくなってんだよ〜〜〜〜!!」

 「朋樹! 大丈夫!? なにすんのよ、トリーシャ!」

 「ご主人様、しっかりして下さいッス〜〜〜〜!!」

 

 

 エンフィールドの4ヶ所同時で、それぞれ異なった叫びが起こった。

 

 

 

 場所は変わってさくら亭の食堂。紅蓮、ヴァナ、フィリーの三人はテーブルを囲んで頭
をひねらせていた。(ティナは、ショックで奥に引っ込んでしまっていた。)

 「で、どーするわけ?」

 とりあえず昼食を運んできたパティは、フィリーにもう一度尋ねてみた。自分の服を貸
すときに聞いてみたのだが、ずっと上の空だったからだ。

 「…これは陰謀よ! 絶対、あの馬鹿ヘキサのイタズラに違いないわ!」

 「どうしてそう言えんだ?」

 「だって…! 昨日、ヘキサが珍しくクッキーを分けてくれたのよ! あたし達が強く
言ったのもあるけど。あのケチがくれるなんて…絶対にイタズラよ!」

 「クッキーねェ…」

 

 カララ〜ン♪

  「いや、ヘキサのイタズラじゃないですよ。」

 ベルの音と共に現れたのはフィドル。脇にはふてくされた顔の、青髪に赤い目をした少
年が突っ立っていた。だぼついたトレーナーにGパンを着、ポケットに手を突っ込んでいる。

 「ちぇッ…こっちも遅かったか…」

 「あんた…もしかしてヘキサ!?」

 「もしかしてもクソもねえよ、虫。」

 「なんですってぇ?!」

 投げ出し気味のヘキサに、今にも殴りかかりそうなフィリー。険悪な雰囲気の中、二人
も同じテーブルについた。

 「ヘキサ、お前「こっちも」っつったな? まさか…」

 「悪かったよ…。オレだって、こんなコトになるなんて思ってなかったからな…」

 

 カララ〜ン♪

 「あ。みんないるみたいだね。」

 次に来たのは朋樹。後ろには金髪に青い目の少年、白に近いグレーの髪に茶系の目をし
た少女を連れている。それぞれ赤いスカーフとTシャツに青いズボン、大きめのデニムシャ
ツにキャロットスカートを着ていた。

 「もしかして…テディにイリスか…?」

 「うん、デュークとアリサさんに頼まれてさ、テディもつれてきたんだ。」

 苦笑する朋樹。なぜ頭にタンコブがあるのは謎だが…。後ろの二人は、人間になった自
分の手が珍しいのか…握ったり開いたりを繰り返している。

 「ヘキサ、他にクッキーを渡したのは誰です?」

 「…こんだけ。後は、全部オレが食っちまった。」

 フィドルの静かな声に、ヘキサは相変わらずふれくされながら答える。その態度に、イ
リスがつかみかかった。

 「ヘキサ! あんたのせいでね、朋樹がトリーシャにチョップ喰らっちゃったのよ! 
それに、これはいったい何なのよ!」

 …朋樹のこぶはそのあとのようだ。

 「そうッス! 僕だってご主人様を驚かせちゃって、怪我させそうになっちゃったんッスよ!」

 「うるせえ! 黙れ犬コンビ!」

 「「犬じゃないわよ(ッス)!!」」

 「いいから落ち着け! …ところでヘキサ。まず一つ目の質問だ。なんでこの三人にクッ
キーを分けた?」

 またしてもケンカに発展しそうなのを止め、紅蓮は睨みを利かせて聞いた。

 「ちょっと待ってくれよ、今話すってば…。昨日、この三匹と森に行くときの待ち合わ
せで急いでて…ローラにもらったんだ。で、こいつらが欲しい欲しいって言うし…多かっ
たから分けてやったんだ。」

 「ローラのクッキーだったの?!」

 そのセリフで朋樹の顔が青ざめ、思わず叫ぶ。被害にあったらしい。

 「腹…壊さなかったのか?」

 「うん、美味しかったわよ。変な効果がもう無いんならまた食べたいな。」

 イリスはまんざらでもないような顔つきだ。

 「ローラのクッキーが原因ですか…あれはすごかったですからね…」

 一番の被害者も同じような反応を示す。

 「ああ、自警団に持ってきたヤツだろ? 若葉並だな。」

 「若葉ってあの巫女さん?」

 このなかで朋樹だけは例の映像を見ており、姿形を知っている少女だ。魔宝の旅の時、
レミット王女のパーティにいた超天然娘である。

 「巫女じゃねェけどな。外はいいが問題は中身だ。セリーヌの天然&方向音痴、それに
ローラとマリアの料理の腕を足して付け足したようなモンだ。悪いが、あの料理は二度と
食いたくねェ。…しかしローラのヤツ…味がまともになったと思ったら変な副作用ついた
のか?」

 「いろんな意味ですごいぞ、どっちも…」

 げんなりした様子で、ヘキサが呟く。

 「とにかく教会に行きましょう。こんなところで話していても仕方ありません。」

 唯一、終止冷静だったフィドルの言葉に従い、一行は教会へ向かった。

 

 

 「あのクッキー? マリアちゃんと一緒に作ったんだけど。あたしの自信作なの。」

 「美味いは美味かったらしいんだが…結果がこうだぞ?」

 何の後ろめたさも見せないローラ。不審に思った紅蓮は、結果(ヘキサ達)をみせ、説
明した。

 「え〜!? なんで〜!? あたし、魔法とか使ってないもん!」

 「ローラ、本当に何も知らないんですか?」

 「おらおら、とっとと吐いちまえ゛…」

 「知らないよ、お兄ちゃん。…あ、でも出来上がったときに、神父様にあたし呼ばれた
んだっけ…。その時にマリアちゃん…間違って持ってっちゃったかも…」

 「ぐる…ぐれ゛ん゛…ぐるじ…」

 「そうか、貴重な情報ありがとな。」

 ローラを脅そうとしたヘキサを、紅蓮はチョークスリーパーをかけて黙らせた。その後
しばらくそのままにし、会話が終わってから解放する。

 「っぷぁ! はあはあ…殺す気か?!」

 「とも、マリアが学校行ってるようなことはないか?」

 「ううん、今日は家で実験か何かしてるって。」

 「よし。じゃあマリアの家か。行くぞ、みんな。」

 『おー!』

 かくして、一行はマリアの家に向かった。吼えているヘキサを残して。

 「オレを無視するな〜〜〜〜!!(泣)」

 

 

 「は? マリアお嬢様なら学園へ行かれましたが。」

 執事を通し、マリアを呼び出してもらおうとしたのだが…行き違いとなってしまったようだった。

 「チッ…戻るぞ!」

 「皆様! いったい何があったんですか!?」

 「気にすんな! あ、マリアのヤツ、何か持ってなかったか?!」

 「はあ、そう言えばクッキーのような匂いがしたような気が…」

 「そうか、情報感謝する!」

 それだけを聞き、一行は走った。マリアの考えが分からない以上、見つけ次第クッキー
を取り上げるしか止める方法はない。

 

 

 そのころ、マリアは学園の職員室にいた。

 「失礼しま〜す☆」

 「あら? マリアさん、何かご用?」

 「シスター・リンにこれを持ってきたんです。」

 とマリアは中身を見せる。

 「あら、クッキー。よろしいの?」

 「はい、迷惑をかけてばっかりだったので、一生懸命作ってきたんです。」

 「そう…ありがとう。そうね…もう終わるから、一緒にお茶にしましょう。」

 「あ、あの…。マリア、あんまりお腹空いてないんでお茶だけいただきます。」

 「そう…。それじゃ、悪いけど私だけいただきますね。行きましょう。」

 少し残念そうな顔をしたシスターだが、マリアを連れて職員室を出、鍵をかけた。

 

 

 「クリス!!」

 「ひあ?!」

 異様な剣幕の紅蓮に、クリスは突拍子もない声を上げる。

 「マリア知らない?!」

 「へ? え〜と…どなたでしたっけ?」

 「いいから答える!」

 「はい! シスター・リンと一緒に歩いてましたぁ!」

 続いて尋ねたイリスに首をかしげるも、勢いにのまれて答える。

 「とも、二人が行きそうな場所!」

 「OK! ついてきて!」

 すぐさま朋樹が紅蓮達を先導し、土煙を上げそうな勢いで寮へ走っていく。クリスは、
それをただ呆然と見ていた。

 

 

 「(うぐ…! な、なんなの…この味は…)」

 シスターは自室にマリアを招き、お茶を飲んでいた。が、マリアの持ってきたクッキー
を口にした途端、口の中に得体の知れない味が広がった。

 「(不味いとは言えないわ…マリアさんが一生懸命作ってきたんだもの)」

 「シスター、どうですか?」

 「え?! ええ、とっても美味しいわ。」

 「そうですか? どんどん召し上がって下さい!」

 「ええ…(うげぇ…)」

 合掌…

 

 数分後…

 ドドドド…バァン!

 迫り来る大きな音と共にドアが思い切り開き、大勢の人間がドタドタと入ってきた。紅
蓮達だ。

 「何なんです?! あなた…が…たは…」

 「マリア、ローラのクッキ…い?」

 「え? 嘘…。」

 その途端、シスターは卒倒してしまった。テーブルの上を見ると、クッキーの山がえぐ
りとられたようになくなっている。

 「マリア、シスターはどのくらい食べたの?」

 「美味しい美味しいって、半分くらい…」

 「致死量じゃねェか…よくそんなに食ったな…」

 チーン、という音が聞こえてきそうなくらいにシスターはぐったりしており、紅蓮は密
かに心の中で手を合わせていた。威力をよく知っている朋樹とフィドルは、本当に手を合
わせている。ローラがいたらとんでもないことになっていたかもしれない。

 「マリア、帰るね☆;」

 皆が唖然とした隙をつき、そそくさと逃げようとした。が、

 「マリア、オレらがこんなになったおとしまえ、つけさせてもらうぜ。」

 「そうッス!」

 「ま、当然のコトね。」

 「さてと、覚悟はいい…?」

 紅蓮らがシスターを介抱している間、ヘキサを筆頭とした四人がマリアをとっつかまえ
ていた。

 

 

 「さて、説明してもらいましょうか?」

 「う〜…」

 マリアによると、いつも怒られていたシスターに復讐しようと考え、このクッキーを作っ
たのだという。だいたい十代半ばくらいの姿になってしまうようにしたそうだった。ヘキ
サ達が人間になってしまった原因は、結局謎だったが。

 「で、どのくらいで元に戻れるッスか?」

 「ん〜っと…マリア、分かんない☆」

 「わかんねえですむか!」

 バコッ!

 ヘキサの怒りの一撃が、マリアに炸裂した。

 「いった〜い! 何すんのよ!」

 「うるせー! と・に・か・く・元に戻せ〜!」

 

 

 結局個人差もあったが、フィリー、テディ、イリスの三人は二日ほどで。ヘキサは一週
間もかかって元に戻ったという。その間のフィドルの食費が通常の数倍であり、いつも以
上に貧乏に悩まされたのは言うまでもない。もっとも、ヘキサは内緒でマリアから食費と
称して金を巻き上げたりしていたようだが…。 





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