中央改札 悠久鉄道 交響曲

「学園協奏曲(アンサンブル)2〜予行演奏〜」 春河ゆん  (MAIL)
悠久幻想曲アンソロジー
学園協奏曲(アンサンブル)

第2話:予行演奏
著者 :春河ゆん

初秋のエンフィールドで繰り広げられる学園祭。
もちろんTGSのイベントではない。
生徒と教師そしてエンフィールドが一体となって盛り上がる
年に一度の祭典だ。

私はとにかく多忙だった。
女子学生寮の寮長と言うことで、寮の出し物の準備をしないといけない。
それに、仲間での出し物として自主制作の映画も撮ることになったのだ。
愛機のサブノートを活用する方向で、主に特殊効果を担当している。
そこへさらに年末のマリエーナコミケ合わせの小説の執筆だ。
おまけにこの一連のイベントの記録もとらなければいけない。
もはやこれは多忙という範囲を遙かに超えている・・・。
はたしていつまで、私の身体と精神は持つのだろうか・・・・

ついに睡眠時間が4時間をきってしまっていた・・・・
女の子にとっては睡眠不足は美容の大敵なのに・・・

と、まぁ、こんな状況だから異世界の自分、春河 結が手伝ってくれる。
結は、私と姿形、声も指紋も瞳孔も性格も体重も、何から何まで全く同じ。
だから、驚くほどのユニゾンをみせることが出来る。
セリーシャにもらっていてまだ使っていない2台目のサブノートを数分で全く同じ
環境に仕上げ、全く同じパスワードを設定したのだから、結には驚きだ。
はっきり言って、「人間デュアルプロセッシング」と言ってもいいくらい。

「ゆん、こっちは終わったよ。」
「わかった。結のほうに次、渡すから、合成作業お願いね。」

一通り、実写撮影が終わったのは、エレイン橋での撮影から2週間が過ぎた日の
事だった。今、みんなが私の部屋に集結して、合成作業に見入っているところだ。
これから、模型を使った撮影が10カットほど残っているけど。

「あ・・・ほらほら。ここんとこ。ボクってすっごくカメラ写りがいいなぁ」
私のサブノートからテレビモニターに映し出される撮影済み映像を見ながら、
トリーシャが嬉しそうに言った。
「それは・・・・・ね。わたくしの所持する撮影機材が一流だからですわね、
トリーシャちゃん。」
「そりゃね、最先端のハンディカメラだもんね。超小型ハンディカムなんて、
マリエーナにも数台しかないからね。」
「ですわね。トリーシャちゃんは解ってくださりますのね。」
セリーシャの表情が明るくなる。
「もちろんだよ!セリーちゃん!」
カメラが最高!というセリーシャとすっかり意気投合したトリーシャである。
「ときに・・・エミルちゃんはどうしたんだろうね。教会幼稚園のみんなといっしょに
やるんだって意気込んでいたのにね。」
ぼそっと魅緒がつぶやく。確かに・・・・気になる。
私の知っている限りだと、セリーヌのボケが原因でちっとも企画が進まないって
泣いていた事は解っている。あれから進展はあったのだろうか・・・・・・。

「さて、どうでしょう〜」
「もぉ〜、いや〜っ!!!!!」
進展は今日もなかった。セリーヌのボケは限りなく最強、いや、最凶だった。

しかし・・・、確実に・・・運はエミルを味方してくれていた。

「ねぇ〜ぇ、つれてってつれてってつれてってつれてってよぉ〜〜♪・・・・」
とそこへはなうた混じりでご機嫌なローラがやってきた。エミルにとっては救世主。
渡りに船だ。本当に話が解ってくれる人の登場に思わずエミルは駆け出して・・・
「ローラおね〜ちゃ〜んっ・・・・・・」
ローラの懐で泣きついたのだった。
「・・・・・・ねぇ、エミルちゃん、どうしたの?お姉ちゃんに話してみて?」
とローラが言ってくれたので、エミルは事の顛末を全てローラに話すことにした。

「なるほどね〜。やっぱりセリーヌじゃダメよ。こういうことはこのあたしに
相談してくれないと進展しないわよ。」
全てを聞いたローラはうんうんと頷きながら、自慢げに言った。
「たしかに。セリーヌせんせいではおはなしにならなかったもん。」
ローラに借りたハンカチでしっかり涙を拭ったエミルが言う。
「あ、ローラ、こんな所にいたんだ。」
そこにひょっこり顔を出した紫ローラ・・・・・・でなく、新天地楼羅。
春河結と同じく譲渡ランドから来たものの、羽衣の翼を結が取られたばっかりに
とばっちりをくらっていたのだ。仕方なく自分と魂を共にするローラの住む教会で
お世話になっていたのだ。

例によって外見、性格、身長、体重、好みは同一であることを皆さんに
お伝えしておきますね。
「うん。エミルちゃんの悩みを聞いてあげていたんだ。ところで・・・・
孤児院と幼稚園の出し物はまだ決まっていないの。エミルちゃんが心配になって
相談しに来ていたらしいんだけど、相手がセリーヌだから・・・・」
エミルを挟むようにウッドデッキに座る二人のローラ。

ただし、幽体離脱できるのはオリジナルの赤ローラだけ。間違えないでね。

「なるほどね。セリーヌに相談したのは間違いだったね。でも、大丈夫。
ダブルローラに任せなさいよ。大船に乗った気持ちでね」
おまかせのポーズを取る紫ローラに対するエミルの視線は冷たかった。
「また悠久お兄ちゃんにいいとこ見せようって思ってるんじゃない?」
エミルのツッコミに・・・・ギクッという音がステレオサラウンドで響いた。
どうやら図星だったようだ。
「ま・・・・と・・・とにかく、相談しましょ!!」
慌てて赤ローラは、凍っている紫ローラとジト目のエミルを引きずって、
未使用の保育室へと向かった。

エンフィールド学園女子寮・結の部屋には、セリーシャご自慢のリニア編集機材が
山のように運び込まれ、それはさながらデジタル編集スタジオのようだった。
隣の私の部屋とは壁を少しくりぬいて作った、ケーブル用バイパス配管にて
リアルタイムに編集が反映される仕組みになっている。さらに壁ブチ抜きで作った
ドアで自由に行き来が出来るのもポイントだったりする。

私の部屋で作られたCGは、結の部屋で実写映像と合成され、デジタルディスク
にひとまず記録される。その記録中の映像は同時に私の部屋のテレビモニタに
投影され、出演者達だけでの試写会&ダメ出しとあいなる。
もちろん、問題となったカットの修正は即座に反映されるというのだが。

トリーシャが目を輝かせてモニターに見入っている。
その後ろに、マリア、レミット、シェリル、リオ、魅緒の姿がある。
ついさっき、シーラが小さなディスクカセットの入った箱を手に、隣の結の部屋こと
編集スタジオへと入っていった。映像とせりふ、効果音だけの映画についに音楽が
加わるのだ。
「でもよかったね・・・シーラおねえちゃんがが引き受けてくれてね。」
リオくんが私の隣で笑いながら言う。
「悠久さんの頼みだからって、快く・・・ね。わかるよ、シーラの気持ちが。」
そう私がリオに言う。

女の子の夢見る魔法。2文字の呪文「好き」の力はとにかくすごい。
内気な自分に力をくれる。元気な自分をさらに元気にさせる。
出来ないこともやれてしまう・・・どんなことでも。

音楽はまた違うラインで編集される。セリーシャ提供のデジタルオーディオシステム
は、シーラにとって、未知のアイテムだった。鍵盤を弾くだけでありとあらゆる楽器
の音がそこから生まれてくる。そして、誰も知らない聞いたことのない音も産み出す
ことが可能なのだ。
MIDIレコーディングシステムを手にしたシーラは、その才能をフルに発揮し、
感動的な曲をたくさんひとりで仕上げてきてくれたのだ。

「ゆんさん、ちょっといいですか?あ、リオくんもね。」
シーラが私とリオをスタジオに招いた。
「何ですか?シーラさん」
「今、曲と画像を合わせてみたの。ちょっとチェックお願いできないかしら。」
曲とシーンのチェックだったら、脚本書いたシェリルにも立ち会ってもらうのがいいよね。
だから、私はシーラに提案した。
「脚本の原案を書いてくれたシェリルにも聞いてもらうといいけど、どう?」
シーラはもちろんと承諾してくれた。

慣れた手つきでシーラは機材を操作していく。つい最近、エンフィールド新市街中心に
フィスター電脳商会というお店がオープンしてから、徐々にエンフィールドに
コンピューターが増えだしている。セリーシャが手取り足取りシーラに教えていたため、
シーラのオペレーションは的確だ。

「じゃぁ、最初から通して見てもらいますわね。今、音楽データを同期化しましたから。」
そういってシーラは操作を続ける。そしてマウスをクリックしたとき、シーラの手による
音楽と私たちの映像との絶妙なユニゾンが展開されたのだ。

重厚で、それでいて優しく透き通っていて・・・今まで聞いたことのない様な音楽が
冒頭から飛び込んできた。
「シーラさん、すごいよ、これ。聞いていて涙があふれてくるんだもん。
心が感動してるって事だよ。」
「やはり、64パート128ボイス1500プリセットのドリームキャンバス・プロ
は表現が違いますわね・・・・」

私の言葉に、映像編集デスクで操作をしていたセリーシャが言う。セリーシャのチョイスする機材はまさに適材適所。使う人に合わせて、多くのフィスター商会で扱うアイテム
の中から選択して無償提供してくれている。

しばしの間、私たちはシーラが紡ぐ幻想の響きに心をゆだねることにした。

幼稚園・・・・・。
ローラ、楼羅、エミルによるアトラクション決定会議が延々と続いていた。
本番まで1週間と少し。果たして本当に間に合うのだろうか?

「ねえ、ローラおねえちゃんたち、このアイディアでどうかなぁ・・・・・」
エミルがメモをローラ達に差し出す。
「・・・・・・ま、これしかないよね。時間的にも・・・」
満場一致で決定したこのメモの内容はいったい何なのか・・・?

調律を済ませたおのおのの音は、予行演奏によって始めて旋律になる。
その旋律がさらに絡み合って曲になる。
悠久なる幻を想う協奏曲(アンサンブル)
「学園協奏曲」
開演の時は近かった。

<続く>

***悠久の小箱(あとがき)***
このシリーズはいつものように支離滅裂な文章ではなく、丁寧な描写に
心がけました。学園サイドの描写にはかなりの推敲を要しましたが、今回は睡魔に
襲われることはなく、何とか書き上げることが出来ました。が、ネタ切れに泣きました。
さすがに今回の終わりの方になると普段のような荒削りになってきてしまいますが・・・
今回も本編中エミルちゃんがトイレに一度も駆け込みませんでした。
今度は破壊神が降ってきそうです。
エンフィールドに、マルチメディアの嵐が吹き荒れようとしています。
マリエーナは高度情報化時代に移行してしまうのでしょうか?

第3話:「開演」の刊行は現時点で未定です。
スケジュールの合間を見て、なるべく早めに執筆する予定でいます。
なお、自主製作映画の文章化の予定はありません。ご了承ください。
****** 発行履歴 ******
1998.10.07 初版第1刷発行


中央改札 悠久鉄道 交響曲