中央改札 悠久鉄道 交響曲

「学園協奏曲3〜開演〜その2」 春河ゆん  (MAIL)
悠久幻想曲アンソロジー
学園協奏曲(アンサンブル)

第3話:開演〜少女達の長い一日〜
    その2・少女達のグルメな休息

著者 :春河ゆん

そしてエンフィールド学園祭の当日を迎えた。
美術科の少女、七瀬由那は作品を仕上げたので、親友の美術科の少女ウェンディと
学園を見て回ることにしたのだった。
しかし本当の目的は私ことゆんのグループが作った自主製作映画を見ることだった。

リオと双子の妹ミアをつれて初等部のトイレへ来ていた私。
リオが用を足している時を狙ったショタコン執事こなの犯行は防げず、
徹底抗戦するも、まんまとリオのオシッコシーンを録り逃げされたのである。
当然ながら、その後監視カメラの設置をしたのは言うまでもないが。
そこに、七瀬由那ちゃんとウェンディちゃんが合流。自主製作映画を後で見せてあげる
約束をして、一緒に校内を回ることにした。
目下の敵は由羅だけなのだが・・・・。

「ねぇ・・・おなかすかない?」
不意にミアが言い出す。そういえば・・・・今はお昼時なんだよね。
「でしたら、出店で少しずつ買ってみんなで分けましょうか?」
ウェンディが提案する。
「ん、いいんじゃない?だったら模擬店のある講堂に向かおうか?」
私が提案するとミアがはしゃぎだした。


「さくら亭特製のお弁当はいかがですか〜出来たてですよ〜」
講堂に入った私たちを真っ先に迎えたのは楓さんの威勢のいい呼び声だった。
「あ・・・楓さん。今日はこっち?」
私が聞くと、楓さんは笑いながら
「そう。パティが出張調理しているんだよ。可愛そうなのはカーフくんかなぁ。
ひとりでさくら亭の留守を預かってるからね。」
と答えた。
「そりゃカーフさんも大変だなぁ・・・」
と私がぼやく。
「今日の出張さくら亭のお弁当は定番と学園祭限定の新作弁当の2本立てよ。
特に、新作弁当は現在時点でさくら亭のメニューに入るかは未定だから、
この際、食べておいたがいいわよ。」
「楓さん、自信満々じゃない。そんなに美味しいの?」
由那が楓さんにいう。
「もちろん。今回も『故郷の料理シリーズ』と題して、留学中の学園生徒達の
故郷の料理をメインに作っているのよ。」
さくら亭の『故郷の料理シリーズ』は人気メニューの集まりだ。
今は亡き私の姉がパティに伝授したエインデベルの家庭料理や、魅緒(悠久)の家の
家庭料理をはじめとして、今では15種類の定食メニューとして定番化している。
「今回はね、セリーシャちゃんちの家庭料理を取り入れたの。
『白牛羚羊の香草ソテー・ルコッタチーズのホワイトソース添え』なのよ。
しっかり臭みを抜いたシロウシカモシカの子供のリブ肉を20種類の香草
にまぶしてしっかりローストしたものよ。」
「今度はセリーシャの家の味なのかぁ・・・・ねぇ、楓さん、4人前お願いできない?」
楓さんの説明を聞いているうちに何か食べたくなって、私は人数分注文した。

「ねぇ・・・あそこにいるの、テディと魅緒ちゃんだよ。悠久お兄ちゃんもいるし・・」
「ジョートショップもお店出しているんですね、ゆんお姉ちゃま。」
私が楓さんからお弁当を受け取っていたとき、リオとミアが口々に言う。
私が見てみると、確かにジョートショップの面々がいる。エミルの姿だけは見あたらない
けれど・・・。
ジョートショップの関係者だけが知っている名物の一つに、アリサさんが心を込めて
焼き上げる手作りパンを使ったサンドイッチがある。どうやらそれを販売している
ようだった。私たちも関係者なので、しょっちゅうお呼ばれしているのだけど・・・。

「あ・・・ゆんお姉ちゃんだー☆」
私の顔を見るなり、大きな瞳をきらきらさせて駆けてくる魅緒ちゃん。
「魅緒ちゃん、こんにちわ。ジョートショップって、サンドイッチの販売?」
私が魅緒ちゃんに聞くと、
「うん。アリサママがお腹を空かせているみんなにって販売しているの。
ゆんお姉ちゃんはどう?」
「アリサさんのサンドイッチはエンフィールドいちだからね。悠久さん・・・!」
私は悠久さんを呼び、彼にオーダーを告げた。
「はい、注文のサンドイッチ。それと、ゆんちゃんにお願いがあるけれど、いいかな。
魅緒なんだけど、しばらく一緒に校内を回ってあげて欲しいんだよ。
ほら・・・うちの店、こんな状況だから・・・」
悠久さんが指さす先は、ジョートショップのお店なのだけど、人混みに埋もれて
様子が分からない状況になっていた。
こんな状態に女の子がいたら最悪、足手まといになる可能性もある。

「わかった。魅緒ちゃん預かるね。アリサさんによろしく伝えてね」
私はそう悠久さんに告げ、魅緒に、
「お店が混んでいるから、悠久さんに魅緒ちゃんを任されたの。
一緒に出し物を見に行きましょうね。」
と言って何とか連れ出した。
スグに楓さんとこに引き返し、追加で1食用意してもらったのは言うまでもない。

「ねぇ・・・ゆんお姉ちゃんの好きなアレもあるよ・・・」
魅緒が指さした先には、私の大好物の吉源亭が店を出していた。
独特のタレの香りが磁石のように私をぐいぐいと引き寄せていった・・・。

「で・・・買っちゃったのね、桜盛り。」
由那が私の手元の袋を見て言う。
「卵にポテトサラダまである・・・・肉盛りもしっかり買ってあるし・・・」
魅緒が袋を覗き込みながら言った。
この牛丼だけはどうにもならない・・・本当にどうにも・・・・。
香りを嗅いだだけでこの有様なのだから・・・。

講堂を使った食堂街はいつの間にか人混みでいっぱいになっていた。
私の腕のGは、お昼時だということを液晶文字盤で知らせていた。

「かなりお弁当類も集まったね。」
「どこで食べるの?ゆんお姉ちゃん・・・」
「飲み物調達する・・・?」
リオ、ミア、ウェンディが口々に言う。
そのとき・・・・
「おいしいジュ〜ス〜・・・・いかがですかぁ・・・・・・・」
そこに聞こえてきた声は・・・
「セリーヌ・・・じゃないの?あれ。」
私が言うと、ミアが、
「確かに、保母さんのセリーヌね。」
と言う。
「セリーヌと言えば、手作りのジュースが美味しいことで有名なんだよね。
ワンボトル調達していこうか?」
私が提案すると、みんなが口々にリクエストを口にする。
「え〜っと・・・りんご!」
「あたしは、梨でいいよ」
「木いちごジュースがいいにゃ。」
「ボク・・・オレンジでいいよ。」
「ミアね・・・ぶどうがいい〜」
しかも意見がてんでバラバラ。そのため、多数決にしようにも全然決まらなかった。
「あら・・・ゆんさん・・・・ですかぁ・・・・・?」
気がつくと、セリーヌのお店の前に来ていた。
「セリーヌのジュース・・・飲みたくて。」
と、私が言うと、セリーヌはその細い瞳で私たちをじっと眺めると・・・
「わかりました〜・・・皆さんのぉ〜好きな〜ジュースを〜用意〜しますぅ〜」
と言うやいなや、脇に置いてある果実の山から、りんご、梨、木イチゴ、みかん、
オレンジ、ぶどうを選び出すと手際よく手でしぼりはじめた。
「噂どおり・・・セリーヌさんの握力は尋常ではないね・・・」
と一言、リオがぼやく。
「リンゴ系を一握りだよぉ・・・・ほら、あんなに絞りかすがちっちゃい・・・・」
由那も驚いた表情で言う。女性にしてはものすごい握力だと私も思うくらいだ。
呆然とする私たちの前で、ホイホイと(果物を握りつぶして)抽出していくセリーヌ。
「そういえば、セリーヌって幼稚園側じゃなかった?なぜこっちにいるの?」
と私が聞くと、セリーヌは
「ろーらちゃんに〜セリーヌの〜やりたい事を〜やっておいでよ〜って〜
言われましたぁ〜」
と答える。
セリーヌが足手まといだというので、遠回しに「うっとーしー」って言われたんだろう
ね・・・・きっと。そう、私は考えていた。
絞りたての果汁を氷でボールごとしっかり冷やした後、ボトルにそれぞれ詰めてくれた。
所要時間、ざっと5分程度。

「ゆんさんの〜アイシクルスピア〜助かりましたぁ〜。手伝って〜いただかないとぉ〜
しっかりとぉ〜冷えなかったんですぅ〜」
笑顔でボトルを差し出すセリーヌ。
「お店が終わったら、一緒に学園内を見て回りましょうよ、セリーヌさん。
楽しい出し物いっぱい知っているから。だって、私は実行委員のメンバーだし。」
私がセリーヌに提案する。

「えっとぉ〜、りんごがぁ〜魅緒ちゃん〜。・・・・・梨がぁ〜ウェンディちゃん〜。
・・・・七瀬ちゃんがぁ〜木イチゴで〜・・・・・リオくんがぁ〜・・・オレンジね〜
ミアちゃんがぁ〜・・・・ぶどう〜・・・ゆんさんがぁ〜桃でよかったんですねぇ〜。
・・・・そうでした〜。ゆんさん〜、いっしょに〜、後で〜、見て回りましょうかぁ〜」

すっごく長いセリーヌのセリフだが、要は私の提案に賛成と言うことである。

「じゃぁ、セリーヌさん、後で迎えに来るね・・・」
混み合った通路を迷子にならないように気を付けながら抜けていく。
中央校舎の屋内パティオに来て、ようやく私たちは噴水に面するベンチに座り込んだ。
ここで弁当を広げることにしたのである。
「おっ、春河じゃないか。こんなところでお弁当かい?」
後ろから声をかけられて振り向くと、珍しくボロボロでない、魔法科主任の
ヴィクセン教授がお弁当の包みを手にして立っていた。
「先生・・・きょうは無傷なんですね、珍しく・・・・。」
私が尋ねると、
「ああ。マリアの姿がどこにもないんだよ。だから無傷なのかも知れないね・・・
それより、隣、いいかな。弁当は大勢で食べれば食べるほど美味しいからね。」
とヴィクセン先生は笑いながら答えた。
「先生さえよければ、一緒にどうぞ。」

「その弁当・・・さくら亭に行って来たんだろ?」
湯気がのぼる『白牛羚羊の香草ソテー(中略)のホワイトソース添え』弁当を見て、
ヴィクセン先生が言う。
「先生はね、春河の大好物の・・・」
「コレですね。」
ヴィクセン先生が言い終わる前に、私が取り出したのは、どでかいパッケージに
てんこ盛りになっている桜盛り牛丼。
「あ・・・・ああ・・・・・。」
引きつった笑いを浮かべる先生。
「なに、コレくらいの量はイケますよ。やせの大食いって言いますからね。」

「いっただっきまぁ〜す☆」
ミアがさくら亭の限定メニュー弁当に箸をつける。
「いや〜ん・・・・とろとろのお肉が最高ォ〜・・・ソースに入った
ルコッタチーズの産み出す独特のコクも言うことないし・・・美味し〜い!!!」

みんなの幸せそうな笑顔を見て・・・私はほっとした。
「んじゃ・・・私も・・・」
箸を割った私は、大好物の桜盛りからたいらげにかかった。

それぞれの旋律が絡み合う楽章は進む。
それぞれの音がそれぞれの一瞬を奏で合う。
協奏曲はまだ序盤・・・。幕が降りるまではまだ長かった・・・。
<続く>
***** 悠久の小箱(あとがき)と発行履歴 *****
ジャスト5ページに収めるためにすし詰めです。次回その3は食後のデザートから
セリーヌ連れ出しになります。多くの出し物を回っていきたいですね。
どんどんメンバーが増えて行くけど、大丈夫?ショタ狐の由羅は出てくるの?
それは見てのお楽しみです・・・
1998年10月30日 初版発行


中央改札 悠久鉄道 交響曲