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EVENT-DCA/Digital Contents Association DAY2 (01/10/20) report

去る '01年10月20日、アドビ、ディ・ストーム、コンパック主催のセミナー、DCA/Digital Contents Association が、品川インターシティホールにて開催されました。アドビの製品「After Effects」の紹介セミナーです。そのプログラムのラストに、公開が待たれる大友アニメ「STEAMBOY」の制作スタッフによる「「スチームボーイ」の映像制作−その技術とシステム」と題された講演がありました。そのレポートを記します。

このセミナーの直後、10月31日の「東京国際ファンタスティック映画祭」に於いて「AKIRA SPECIAL EDITION」の上映が予定されており、その時に「STEAMBOY」の最新情報/映像が上映されるというアナウンスが「YOUNG MAGAZINE '01/10/29 No.46」にあったので、その映像が上映されるのでは、と期待していました。結果、期待通りにその映像を見ることができましたが、それは後述します。

品川駅から徒歩7〜8分、品川インターシティホールは新しくて綺麗なイベント・ホールでした。受付で製品カタログなどが沢山入った袋を受け取り中へ。入り口は各出展会社の製品紹介ブースになっていて、業界人らしき人たち(といっても若い人が多いですが)がいろいろいじっていました。素人にはよくわからないものばかり。僕が到着したのは 16:40頃だったのですが、ホールではまだ 16:00 終了予定の「Light Wave 3D」の講演中。この講演が終わったのが 16:50頃。50分押し (^_^;)。立ち見覚悟だったのですが、20分の休憩の間に帰る人も多く、前から10列目に座ることができました。ちなみに、約500人分の席が用意されていて、その半分ほどが埋まっていました。17:10から、インテル「Intel Xeon プロセッサ」の紹介が始まり (意外と面白かった)、それが予定よりだいぶ短く終わったので、17:30分ほどからお待ちかねの講演「「スチームボーイ」の映像制作−その技術とシステム」がスタートしました。

当日の講演者は、「(株)サンライズ スチームボーイ・スタジオ」所属で「STEAMBOY」CG ディレクターの安藤裕章と演出の高木真司の両氏。高木氏は厳密にはプロダクション I.G. 所属で、現在サンライズに出向中ということでした。まずは '95年に制作されたパイロット・フィルムの上映。これは TV 番組などでも繰り返し流されているので、新鮮味はなし。約1分の上映後、高木氏の話が始まりました。

最初のスライド(というか、Power Point ファイルですが、便宜上スライドと書きます)のタイトルは「苦闘の歴史」(爆笑)。このような場だったのでかなり意外でしたが、まずはなんでこんなに制作が遅れているのかが事細かに説明されました。やはり、まず最初にこれを話さないと、とのこと。高木氏も、会う人会う人に説明しているそうです(笑)。

苦闘の歴史
1995    パイロット・フィルム制作
1996.06 作画スタート
1997.10 デジタルエンジン構想発表
1999.02 制作中断
2000.01 絵コンテ UP
2000.04 元デジタルエンジンの場所へ移動
2000.06 制作作業再開
2000.07 サンライズへ
2000.10 Production I.G. の協力

まず '95年に企画がスタートし、「こんな感じの世界観、方向性で」ということを示すために「パイロット・フィルム」が制作されました。この時の出資会社はソニー・ミュージック・エンターテインメント。フィルムは作られましたが、まだストーリーは完成しておらず、絵コンテが途中の段階でした。'96年6月に正式に作画がスタート。制作は「MEMORIES」の流れでかスタジオ4℃。その後約1年間、制作が続いたのですが、バンダイが「デジタルエンジン構想」を発表するに当たって、押井守監督の「G.R.M.」、りんたろう監督の「メトロポリス」と共に「STEAMBOY」もバンダイの出資に変更となりました (「デジタルエンジン構想」については「日経ゼロワン '98/01 および アニメージュ '98/01 の記事に詳しい)。'97年10月からはバンダイの出資で制作が続けられたのですが、'99年2月に諸般の事情により中断。中断中も作画は細々と続けられたとのことですが、この時期に大友監督が絵コンテ(つまり、ストーリーを)最後まで制作。そして '00年1月に絵コンテ UP。しかし、この前後にスタジオ4℃が制作から降りてしまいました (大人の事情(笑)で、ということです)。数ヶ月間制作場所を探し、結局「元デジタルエンジンの場所」に移動 (元、というのは現在デジタルエンジン構想が動いていないから)。これは、'97年のデジタルエンジン構想のメイン作品であった「G.R.M.」の制作が中断しており (こっちもか)場所が空いていたことで実現。そして、機材を揃えつつ '00年6月に制作作業再開。翌7月には制作をサンライズが請け負うことに。しかも、もともとスタジオ4℃で「STEAMBOY」を制作していたチームからスタッフがそっくり移動してきての制作スタート。更に '00年10月には北久保監督の「BLOOD The Last Vampire」(これもデジタル・アニメーション) を制作した プロダクション I.G. が制作協力することになり、高木氏をはじめとするスタッフが移動し、現在の「サンライズ スチームボーイ・スタジオ」が形成されたということでした。

これまでの経緯をひととおり説明した後、2枚目のスライドのタイトルは「なんで大変だったか」。高木氏も「なんか直截的で申し訳ないんだけど‥‥」と苦笑いして、会場からも笑いが。

なんで大変だったか
・内容が大変だった
 1850カット、動画18万枚、3D 400カット
・会社の変更
 出資:ソニー・ミュージック・エンターテインメント→バンダイビジュアル
 制作:4℃→バンダイビジュアル→サンライズ
・予算の確保
・とにかく作画が大変

高木氏は '00年10月頃からの参加なのですが、参加時に渡された絵コンテが尋常でない厚さで、まずそれに圧倒されたということ。しかも、それが数冊‥‥ (見てみたい!)。中を見ると、訳の分からない数字が書き込んであって (笑)、整理してみたら約 1,850カット。通常の劇場用アニメでは、多くても 1,000カットなんて数は無く、カットの多いジブリ作品でも 1,200〜300カット程度だそうで、それだけでもとんでもない数ということ。しかも、動画の枚数に換算すると約18万枚。当時、驚異的に動画枚数が多いと言われた「AKIRA」で15万枚、先日の「メトロポリス」も同程度ということを考えると、いかに凄い数かが想像できます。高木氏も「AKIRA」を引き合いに出し、「「AKIRA」をご覧になった方はわかると思いますが、大友監督の作品は各カットにもとんでもなく動きがあって、モブの一人一人も動くんですよ‥‥」と言っていました。さらに 3D のカットが400とありますが、実際には増えつつあって、最終的には 500〜600カットに達するかもしれないとのことでした。
 次に出資、制作会社の変更。前述の「苦闘の歴史」で説明されたとおり、長い製作期間中に出資会社、制作母体がどんどん変更されているので、人材および機材の移動だけでも相当な手間がかかっているとのこと。
 そして制作を難航させたもう一つの原因が予算の確保。この膨大なカット、動画数から当然予想されることですが、人件費その他を見積もると、これまた尋常でない金額になってしまうとのこと。現在はバンダイが「大友さんの作品であれば」とバックアップしてくれているので問題ないとのことですが、本当に大変だったらしいです。
 そして、とにかく作画が大変。大友監督から「もっと動かないと」「もっと質感を」などと、負荷の大きい要求がバンバン出て、普段「作画が早い」と言われているような人でも月に数カット上げるのがやっと、普通のスタッフなら月に1カットがやっとというペースになってしまうそうで、とても大変なのだそうです。

というようなことで、これが遅れに遅れている理由だそうです。話を聞けば、「はぁ〜」ということなんですが、これも全て作品の質に反映されることなので、納得せざるを得ないことですね。そして、現在は 1,850カットのうち 300カットが完成している段階ということでした (まだ 1/6‥‥)。

さて、遅れている理由の説明は終わり、機材の話に移りました。この手の話にはあまり興味のない方も多いと思いますが、一応メモったことは全部書きだしてみます。

ハード1
・サーバ Network Appliance F840 Strage 2TB
・バックアップ ALT7100 4/68 DLT ジュークボックス
・編集 Avid Media Composer 1000XL + Universal Offline
・HUB Nortel Passport 8600
        1000BASE-SX 8ports
        100BASE-TX 96ports Layer3

スタジオのイントラを制御しているサーバは昨年導入されたもののようで、選ぶときに 1.5TB (テラバイト) の HD を持つものにするか、2TB にするか迷ったあげく、どうせなら余裕を持った方がいいだろうということで 2TB のものにしたそうです。2TB という容量も凄いのですが、「あると使ってしまう」法則通り、今ではその容量も切迫しているということ。いったいどれほどのデータ量になるのでしょうか。そして、何かあると完璧に消えてしまうのがデジタル・データのこわいところで、それをバックアップしているのが DAT ベースのものよりもワンランク上のテープ・メディアを使ったバックアップ・システム。それで毎日バックアップしているそうです。各端末とサーバを接続する HUB は、光ケーブルの 1000BASE-SX を8ポート、通常の 100BASE-TX を96ポート持つ大きなもので、これがまたフェラーリが買えてしまうくらいの値段なんだそうです。

ここで、サーバとハブの写真を紹介。

ハード2
・Compaq Evo W8000 W6000 など Win マシン約40台
・Macintosh G4 733MHz 4台
(以下 Display, Scanner の記載があるもメモせず)

サーバの仕様とスタジオの方針で、端末はほとんどが Win マシン。約半数は最新の Pentium IV マシンで、約半数は以前から使っている Pentium II マシン。マックはどうしても、という用途に限って使っているとのこと。モニターには、カラーを確認するためにキャリブレーションの確かな特別なものを何台か暗室に置いているのと、大画面で色などを確認するために、100インチのプロジェクター(NEC のビジネス用)を使っているという説明がありましたが、型番などはメモせず。Scanner は A3 サイズで、原画をスキャンしてデジタル彩色にまわしているということですが、こちらもメモせず。

上記のモニター、プロジェクターの写真を紹介。

ソフト1
・セルアニメソフト
  US Animation     3 licences
  Toonz            4 licences (I&P)
                   4 licences (Animation)
  Animo            8 licences (Full)

この辺、全然知識が無くてわかりませんが、当初は「US Animation」というソフトで彩色していたのが、途中で「Toonz」に移行し、さらにプロダクション I.G. の参加に合わせて「Animo」を導入したということでした。ソフトが変わると感じも変わるのではないかというのはスタッフも危惧したとのことですが、実際は使用者がわかって使えば問題は起こらないということでした。

ソフト2
・3D ソフト
  Light Wave       8 licences
  Houdini          8 licences
  max4             2 licences 
・2D ソフト
  After Effects    ? licences
  Photoshop        32 licences (Win)
                   4(?) licences (Mac)
  Illustrator      ? licences 

こっちはある程度わかるんですが、ちゃんとメモしませんでした(ちょっと疲れてた (^_^;))。最終的な絵の統合には「After Effects」を使っているのですが、ちょっとした修正や打ち合わせなどでは「Photoshop」が大活躍だそうで、この辺は後半の安藤氏から解説があるとのこと。ちなみに「?」はちゃんとメモしなかったため不明の数字。

次のスライドは現在のスタッフの内訳。ただ、確役職と人数についてはメモしませんでしたので、合計人数だけ。現在の内部スタッフは65名とのことです。彩色には外部スタッフも参加しているので、それを合わせればもっと多くなり、最終的には300人程度には増える予定とのこと。

個室の大友監督の写真紹介。背後の壁にはイメージ・ボードらしきものが (但しデジタル出力されたらしい小さなもの)。

次に、基本的な作画の流れを示したワーク・フローを紹介。かなり多くの行程を経て最終合成されるということが示されました。

その後、Photoshop を使ったイメージ・ボード(の一部)の紹介に移り、サムネイルで80枚ほどを表示。「あまり内容を教えないように」と指示されているとのことで「これは見せていいんだっけ?」などと言いつつ、5枚ほどをピック・アップして紹介。これは「背景+セル絵」で描かれたものでした。ちなみに、「パイロット・フィルム」で主人公を追いかける黒い蒸気メカは「歯車メカ」と呼ばれていると紹介されました。

そして、遂に「東京国際ファンタスティック映画祭用に編集した、最新のムービーを」と言って最新のトレーラー(予告編)が上映されました。

黒いバックに白地の「OTOMO KATSUHIRO presents」という画面から「MEMORIES」にちょっと感じの似た「STEAMBOY」のタイトル・バック。内容はネタバレになるので少なくとも 10/31 の本上映まで伏せますが、おおざっぱに言えばほとんどが全然見たことのないカットで、多少「パイロット・フィルム」にあったカットが含まれるという感じ。ストーリー展開も多少匂わせていました。約3分間でしたが、ものすごく濃密で、久々に動く大友絵を堪能できました。「パイロット・フィルム」ではセル絵や背景から分離して見えた 3D モデルも、ほとんど気にならないレベルまでとけ込んでいました。極めてハイ・クォリティ。とにかくカッコ良かったです。このトレーラーは現在までに完成している約300カットを編集したもの。もっと派手なカットも入れたかったと言うこと。いやいや、予告としては充分堪能しました。本っ当に完成が楽しみですね〜。

さて、会場中がその余韻に浸っている中、安藤氏へバトン・タッチ (この時点で予定の50分はとっくに越えていましたが‥‥)。安藤氏は「After Effects」と「Photoshop」を使って、実作業の一部の紹介を担当。まずは上がってきた「背景+セル絵+CG」の合成画像をチェックし、それぞれのパーツのマッチングなどを修正する場合の実際の作業をシミュレートして紹介。最初の指示から上がってきて合成された絵も、かなりの修正が入ること、そして差し戻された絵が再度合成されると、最初に上がってきたものよりもずっと深みが出ることを実演してくれました。また、「After Effects」は本来フィルム編集用のソフトなので、セルアニメの制作で用いる場合の不具合、秒によってコマ数が異なるのを制御しづらいなど、をどうやって回避しているかの説明などがありました。が、この辺は聴くだけでメモしなかったので詳しく触れられません。すみません。ただ、簡単なプログラムを作って支援に使うのが効率アップに重要という点を強調していました。

といった感じで、50分の予定を大幅にオーバーして1時間20分ほどになった講演が終了しました。とにかく、最新トレーラーの出来に圧倒されたのと、雑誌記事などで得たデジタルを用いたアニメ制作を具体的に知ることができて、非常に有意義な時間でした。ただ、完成しているカットが現在 300程度というのにはちょっと不安も覚えましたが‥‥(^_^;)。でも、次回 10月31日の「東京ファンタスティック映画祭」での紹介がどんな感じになるのか、これまた楽しみですね。

2001.10.22 記 (同日深夜一部修正)

間違いのご指摘、ご意見、ご感想などありましたら junya.thesphere [at] gmail.com まで。

 

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