少し歩いた先のドアの前で僕は立っていた。
 受信機の光点は、この先で止まっている。それは動く気配すらない。
 ギュッと手を握りしめて、伝えたいことを頭の中で反芻して。……こんなに心臓がバクバクいってるのはまるで告白前みたいだなと思い苦笑して、落ち着くために1度深呼吸をして、僕は自動ドアを開いた。
 軽い音で開いたドア。その室内の景色に、僕は一瞬、自分がどこにいるのかがわからなくなった。と、同時に、失われてしまった場所を思い出して、その場所を壊す原因となったのは自分だということを思い出した。

「トリィ!」

 鳴き声に視線を向けると、入口脇の草が、不自然に左右に分けられていることに気がついた。

「……はこっちだって言うの?」

「トリィ!」

 木々の間を抜けて飛んでいく体を追いながら、僕はその道に足を踏み出した。
 踏みしだかれた痕跡はまだ新しい。……おそらくこっちで間違いないだろう。が、その先にいるはずの彼女が動かないのが気になった。
 エターナルであんな別れ方をしてしまって、だって僕と話すのはまだ気まずいはず。だから逃げられるだろうと思っていたのに、彼女の位置を示す光の点は少しも動かない。

「……まさか……」

 動きたくても動くことのできない状態に陥っていたとしたら?
 助けを呼びたくても呼べない状態になっていたら?

 頭の中を巡り始めた最悪の事態に、僕は思わず走り出していた。
 傷付けるだけ傷付けて、謝ることすらできずに失いたくはない。そんなことになれば、僕は一生自分を許さないだろう。責めるだけ責め続けて、そしていつかは死んで、地獄に堕ちるだろう。



 木々を抜けると、そこだけには枝が伸びるのを遠慮しているような一角が現れた。
 まさしく部屋の角の3平方メートルばかりの場所には、小さな土山と少し大きめの石が2つ並べられ、その前には折り紙で作った花束が供えられている。

「……もしかして……ここって……」

 直感的にわかった。
 ここはお墓。おそらく、僕の本当の父さんと母さんが眠っているであろう手作りの墓。
 腰を落として手袋を外し、触れるとパラパラと崩れた。土が乾いていることが、昨日今日作られたものではないことを示している。だとしたら、作った人の心当たりは1人しか思い浮かばない。

「……父さん、母さん……」

 顔もよく知らない生みの親のために、僕はそっと祈りを捧げた。……彼らの魂が安らかに眠ることができるようにと願って。

はっ……」

 祈りを終えた後、僕は彼女の姿を探した。
 が、誰の姿も見えない上に、隠れられるような場所もない。しかし、の持っているであろう通信端末から出ている光はこの位置を指していて。

「トリィトリィ」

 何やら草むらに頭を突っ込んでいたロボット鳥が鳴く。

「……落とした……の?」

 トリィが見つけたのは、の携帯通信端末。
 その場へ歩み寄った僕は、僅かだが、全身から力が抜けた。……少なくとも彼女が命を絶っていたという、最悪のパターンは見なくて済んだから。でも、どこへ行ったんだろう?



「こちら、キラ=ヤマト。アスラン、聞こえる?」

『どうした?』

「今、の通信機を見つけたんだけど、彼女がいないんだ」

『あらまあ、それは大変。キラさん、ちゃんと探して連れて帰ってきてくださいね』

「……彼女が僕の言うことを聞いてくれるかどうかはわからないけどね」

『本当にやりたいこと、やらなければいけないこと、キラの中で答えは出たんだろう?』

「うん、はっきりと。……アスランたちにも迷惑かけたよね」

『すまないと思うなら、時間をかけてでもちゃんと仲直りをして、と2人で帰ってこい』

『そうですわ、でなければエターナルには入れてあげませんわよ?』

「閉め出しって……子供のお仕置きみたいだね」

『うふふ、キラさんがちゃんとを連れて帰ってくれば問題ありませんのよ?』

『そういうことだ。……じゃ、健闘を祈る』



 切れた通信に肩をすくめて、僕はもう1度、小さな墓に振り返る。

「僕はこれからも、ヒビキじゃなくてヤマトの名で生きていく。
 全部を知ったときにはショックだったけれど、でももう、2人のことは恨んでいない。
 ……ありがとう。どんな形であれ、僕に生を与えてくれて。
 これから僕は、あなたたちの命を摘み取った人の娘を探しにいくよ。
 彼女が一番大切だって気がついた。もう迷わない。あなたたちに恨まれようとも、僕には彼女が必要なんだ」

 一旦言葉を切った。ちょっと泣き出しそうだったのをぐっとこらえて。

「……じゃあ……もう行くね………。僕を生み出してくれて、本当にありがとう」

 墓に向かって深く頭を下げた。そして顔を上げたとき、墓の上で静かに笑う男女の姿が見えた気がした。
 僕はそれに向かって笑い返すと、その場を後にして走り出した。後ろをトリィが追いかけてくるのは、ちゃんと羽ばたく音でわかっていたから振り返らなかった。










 その頃のは。
 キラたちとの関係がギクシャクし初めてから満足に眠れなかった分を取り戻すかのように、彼女はぐっすりと寝ていた。


黒マント製作機から
 キラがこんな風に思っててくれたらなという願望<墓の前のありがとう発言
 次でようやくキラとヒロインが再会します。……あっさりと行きそうもないけど。
 しかし書いてるほしみも、いい加減にこの状態から脱出させたいので……がんばります。


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