惑星チキンアース。この星では衛星軌道上の宇宙船の停泊は禁止されている。従って、地上に降りなければならないわけだが、問題があるとすれば、そこのパーキング料金が高いということだろう。<ミリィ談
キュルルルルル……。
タイヤの音をきしませながら、新たな飛行機が着陸した。数機の飛行機が並ぶ中、白い双胴船もあった。
「おっせぇなぁ〜〜、レイルの奴。人を呼び出したくせに……。」
空港の中、柱にもたれかかったマントの男・ケインが不機嫌そうに声を上げる。ミリィはその足もとに腰を下ろして退屈そう。
「空港の停泊料金は、2時間で100クレジットです。」
手の上に電卓を出して言うキャナル。
「必要経費に上乗せしちゃる。」
がっしゃあぁぁあぁぁぁぁぁん!!
派手な音を立てて砕け散ったガラスに、反射的にケインの手はサイ・ブレードに、ミリィの手はショルダーホルスターの銃を抜く。
「な、なんなの……?」
ガラス片と共に飛び込んできた人物に、ミリィは目を丸くする。
「あんまりあわてたんで、自動ドアが開く前につっこんじゃいましたぁ〜〜。」
照れ笑いを浮かべながら起き上がったのは。
「ニーナじゃねーか。」
ピンク色の制服を身にまとった、ユニバーサルガーディアンのニーナ・メルキオーレ。いつもレイルの側で働いているので、ケインたちとも顔見知りである。
「あっ、ケインさんお待ちしてましたっ!」
「待たされたのはこっちだっ!」
そのケインの言葉を聞いていないだろう。がしっとケインの手を握った彼女。
「ケインさん聞いて下さい。私、今日がユニバーサルガーディアンに入って初めての仕事なんです!!」
その空港のVIPルーム。
「こちらが、フランコ=マグマ大臣です。」
ニーナの横に立っているいかめしいおじさん。頭には三本の角を生やしたかぶり物。
「ケイン=ブルーリバーだ。」
その言葉をニーナが通訳する。傍から聞いていると何を話しているのかわからない。
ムービングロードを乗りついでソードブレイカーに向かう5人。
「何で下っぱ巡査のニーナがしきってるわけ?」
ミリィが今いち納得できないのか、不思議そうに聞く。
「……何でも、トレヴィン国の言葉を話せるのがニーナしかいなかったんだと。レイルが嘆いてたよ。『ユニバーサルガーディアンの人材不足も極まった』って。」
やがて、ガラス張りの展望デッキに到着する。そこからはソードブレイカーの全貌が見て取れる。そこで何やら大臣がわめき出した。それを必死に聞くニーナ。
そして、話がついた後。
「角を生やせ〜〜〜?」
ニーナの言葉に、キャナルがすっとんきょうな声を上げた。
「はい。国の決まりで、角が三本以上ない乗り物には乗ってはいけないそうなんです。」
すまなそうに言うニーナ。
「仕方ない。角ぐらい生やしてやれ。」
「絶対いやぁっ!」
ケインの言葉に、両手で顔を押さえたままうずくまるキャナル。
「いやいや、私こんなにプライドを傷つけられたの初めて〜〜。」
顔を押さえたまま首を振り続けるキャナル。
「……宇宙船が泣くかぁ……?」
ケインは脱力したように肩を落とした。
「搭乗券が手に入りましたぁ!」
チケットを持った手を高く挙げて走ってくるニーナ。ケイン、ミリィ、キャナルにそれぞれ渡す。
「立体映像の受信アンテナレンタル料は経費に上乗せさせていただきますから。」
ジト目のままで不機嫌丸出しに言ったキャナルに、汗じとになるニーナ。
「お客様。」
金属探知機のゲートを潜ろうとしたケインを、係員が押し止めた。
「機内にマントを付けて入ることは禁じられております。」
「はぁっ?」
思わず間抜けな声を上げたケイン。
「この国の方々は風習でマントを見ることを嫌いますので……。」
「風習には逆らえないわよねぇ〜〜。」
くすくす笑うミリィ。
「ったく、どんな風習だ……。」
ケインは仕方なくマントを外す。
きんこーん♪
ケインがゲートをくぐると、チャイムが鳴った。
「お客様、何か危険物を……。」
「もしかして、これかな?」
手にしていたマントをどけると、そこにはホルスターに収まったサイ・ブレード。
「思いっきり危険じゃないですかぁっ!」
思わず叫ぶ係員に、ケインの後ろにいたミリィも。
「やっぱり、これもだめ?」
困ったように笑いながら、ホルスターから銃を抜いた。その光景に係員が思わず頭を抱えたかどうかは定かではない。
「だめですっ!」
「しかしなぁ……。俺たちトラブルコントラクターが丸腰ってのも……。」
「規則で禁止されていますっ!」
困ったように頭をかくケインに、係員は妥協を許さない。
ぴりりりりりり………
「どうしたんですか?」
笛を吹きながら走ってきたのはニーナ。その彼女に胡散臭げな顔を向ける係員。ニーナが身分証明を提示すると、その態度は一変する。
「お二人の武器は私が預かります。それでいいですね?」
ケインとミリィは仕方なく、開かれたバックの中に発振器と銃を入れる。もちろん『大事にしろよ』の一言を忘れないケイン。
「まかせといて下さい。」
そういって笑ったニーナがゲートに振れた途端、バチッと火花を散らしてその箇所から白煙が上がる。
「あ〜〜ん、また〜〜。」
「またぁ?」
泣き声を上げたニーナに問い返すキャナル。
「私、電気製品とものすごく相性悪いんですぅ。」
その答えを聞いたキャナルの顔は一気に青ざめた。
「ち、近寄らないでっ!」
「大丈夫です。頑張ればなんとかなりますって。私、根性だけには自信がありますから。」
ガッツポーズを決めて去っていくニーナに、キャナルは一つため息をついた。
「混んでるぅ〜〜!これだから、ソードブレイカー以外の船に乗るのはいやなのよぉっ!」
泣き声を上げるキャナル。
「だぁ〜〜っ!こんなんじゃ仕事になりゃしねぇっ!!」
ケインも窮屈そうに声を上げる。
「お静かに。」
スチュワーデスに一括されて、ケインは『苦手なタイプ……』と顔を青冷めさせた。
「何で、ニーナがファーストクラスで、あたしたちがエコノミーなわけ?」
声を潜めてキャナルに問いかけるミリィ。
「例によって予算の関係よ。」
「これじゃあ、まるでニワトリ小屋よ。」
あまりの狭さに叫んだミリィは、後頭部にあたる感触に振り返る。
「え……………。」
ミリィの頭をつついていたのは数羽のニワトリ。
「ぶ、文化よね。これも……。」
頬に一筋の汗が浮かんでいることを除いて、ミリィは前に向き直った。
「予定通り、高度15000にて安定しました。」
旅客機の操縦室。
副操縦士の言葉に、隣にすわっていた操縦士はうなずく。
「自動操縦に切り替えますか?」
「ああ、そうしてくれ。」
そう言った操縦士の口元に何か企んでいる不敵な笑みが浮かんだことに、副操縦士は気づいていない。
ニーナは目の前に並べられた豪華な食事に眼をキラキラさせていた。
「これも仕事よね、いただきまぁす(はぁと)」
『おいし〜〜〜い』と彼女のナイフとフォークは動き回る。
その一方で、エコノミーの食事は簡素なもの。
ミリィのフォークがためらいがちに一口大の肉の塊に伸びる。
ぱくっ
「まずい……果てしなくまずい……。」
両目から涙を流しながら、言うミリィ。
「せめて、まともなチキンソテーが食べたい……。」
「滅多なことを言うものではありませんよ。」
前の席に座っていた男の言葉の意味が飲みこめず、ミリィはきょとんとなった。
「この星でニワトリとは神聖な鳥なのです。それは……。」
「角ならあたしも生やして上げましょうか、3本でも10本でも!」
「なるほどねぇ……。レイルが私たちに依頼してくるわけだわ。」
のんびりと新聞を広げていたキャナルが言う。
「民族対立に、反政府組織の台頭。要人誘拐にテロ。経営破綻。トレヴィン国って相当キテるわねぇ。」
「こっちもキテるぜ。どーあっても俺たちを行かせないつもりらしい。」
席に戻ってきたケインは不機嫌そうに言い捨てた。
「どうして?」
「あいつだよ、あいつ。」
ミリィの問いかけに、ケインはドアを指さした。そこにふんぞり返っているのはプロレスラーかと間違うくらいの大女。さきほどケインが苦手なタイプだと言った、あのスチュワーデスである。
「まさか女を殴るわけにはいかないしな。」
困ったように言うケイン。
「やりゃあいいじゃん。多分負けるけど。」
キャナルは笑いながらそう付け足した。
「もう食べられませぇん……。」
広々としたシートで心地好い眠りに入っているニーナ。その通路を挟んだとなりには、大臣が正面を見据えたまますわっている。
ファーストクラス専任(?)のスチュワーデスがグラスの載ったお盆を片手に、大臣の前に座っている男に近寄る。
「ワインでもいかがですか?」
「いや、いい。」
その男は立ち上がると上に設置してあるスペースから、自分の荷物を取り出した。そして、中から出したものを頭の上に乗せた。驚愕に見開かれた彼女の手からお盆が落ちる。
コッコッコッコ………。
「はいはい、もう何でもして下さい。神聖なニワトリさん。」
金髪が何に見えているのか。群がって頭をつつかれ、ミリィは半分やけ気味に言う。すると、後頭部にくちばしとは違う固いものを押し当てられ、顔を半分ひきつらせたまま、ミリィはゆっくりと両手を挙げた。
「何やってんだ、おまえ?」
隣に座っているケインに、ミリィは視線で後ろを示す。
「この飛行機は、我々赤いとさかがのっとったぁぁぁぁ!!」
男の張り上げた声に、機内は一瞬にしてパニックに陥った。赤いとさかと名乗る面々は、ニワトリの頭を模したかぶりものをつけている。
「あんたもお仲間?……なんてまさかね。」
ちょうど手のりになっているニワトリに話しかけるキャナル。ニワトリは抗議するように一声鳴いた。
「我々が用があるのは、この機に乗っているトレヴィン国の大臣だけだ。大臣と引き換えに国家に角を崇拝することの撤廃と、とさかの国家シンボルへの格上げを要求する。」
「……角と……とさかぁ……?」
「……んなもんでするかぁ、ハイジャック……。」
赤いとさか団の大声に、ケインとミリィは頭を抱えた。
「民族的な対立にもいろいろあるから。」
「最低な仕事になりそうだな。」
悟ったようなキャナルの言葉に、ケインはがっくりと頭を垂れた。
一方ファーストクラスでは。
縛られた大臣と赤いとさかのリーダーらしき男が激しく言い合っている。
「……何て言ってるんですか?」
縛られたスチュワーデスが、同じく縛られたままのニーナに問う。
「我々の要求を本国に伝えろって……。だけど大臣はそれを拒んでる……。」
『なんとかしなくっちゃ、なんとかしなくっちゃ』ニーナの心の中はその思いだけが占めていた。
再びエコノミー。
機内の各所に散らばった赤いとさか。その中で、例の大女スチュワーデスに銃を突き付けたままで叫んでいる男。
男の注意がそれた一瞬、大女スチュワーデスが男を羽交い締めにした。客席から一斉に上がる悲鳴。
大女スチュワーデスは羽交い締めにした男を壁に打ち付ける。
がっ!!
鈍い音が響く。他の赤いとさかの男が大女スチュワーデスの頭を銃尻で殴りつけたのだ。スチュワーデスは自分を殴り付けた男をひとにらみして、白目をむいてひっくり返った。
「やるぅ!」
うれしそうに声を上げるケイン。
「……そんなことよりどうするの、ケイン?」
声を潜めて顔を寄せてきたキャナルに、ケインも同じように声を潜めて。
「どうするって……。大臣を無事に国に送り届けるのが今回の依頼なんだから……。」
「そういうことは、やるってことよね?……でもあなた丸腰よ?」
「それについては俺にいい考えがある。」
ボショボショボショ……
「え、ニワトリ?」
思わずキャナルは声を上げる。
「おい、何してる?」
不振げに思った男が声をかける。素直に席に戻ったケインとキャナル。
『私、どっちかって言うとペンギンの方がぁ……』
ケインの通信機を通して現われるミニキャナル。
「いいからとっととやれ。」
『ぶーー。』
ケインの言葉にキャナルは唇を尖らせつつ通信を終える。そのまま後ろをを向いたキャナルは、しばし背を向けているとさかの男を注視。
「モデリングデータ、スキャン完了〜。」
前に向き直ったキャナルの姿は、一瞬にしてニワトリの着ぐるみ姿に変わる。その姿に呆然としたままのミリィ。
「よし、それで前に行って、サイ・ブレードとミリィの銃を取って来てくれ。」
「りょうかいっ!」
ケインの言葉に、ニワトリキャナルはピッと敬礼した。
ファーストクラスでは未だに激しい言い争いが続いていた。
リーダーの男が大臣を足蹴にしているが、大臣は一向に首を縦に振ろうとはしない。
「なんとかしなくっちゃ。」
両手を縛られ拘束されている状態から、ニーナはやっとの思いで前に倒れることに成功する。そのままあごと膝を使って前に進もうとするが……。
ごきゅっ!!
腰の方に変なふうに力がかかったのだろう。あまりの痛みに彼女は気絶する。
「何だ、今の音は?」
リーダーが不思議そうに振り返る。そこへドアが開く。
「エコノミーは完全に制圧しました。ファーストクラスの他の乗客はどうします?下に移しますか?」
入って来たのはニワトリキャナル。リーダーに気がつかれないように、キャナルはニーナのあごを蹴り上げる。
「いや、このままでかまわんだろう。」
「そうですか。」
リーダーが前に向いたのを確認して、キャナルは倒れているニーナを抱き上げる。そして数度彼女の頬を叩いた。
「う、う〜ん。」
気がついたニーナは目の前にいるニワトリに顔が引きつる。が、クスッと笑いながら顔を見せたのはキャナル。
「ニーナ、サイ・ブレードとミリィの銃はどこ?」
「あ、それなら、私の席のバックの中です。」
ニーナの目が座席の方にいく。それを追うキャナル。
「あれね。」
取りに移行とするキャナルに追い討ちをかけるように。
「でも鍵がかかってます。」
「何ぃ〜〜〜?」
「あ〜ん。バッグこわさないで下さいね。初めて自分のお給料で買った大切なものなんです〜〜。」
溜め息をつくキャナル。
「で、鍵はどこ?」
「服の内ポケットに。」
キャナルの手がニーナの服にかかる。内ポケットを探すキャナルの手がくすぐったい(そりゃ、ニワトリの手のままだから)ので、ニーナは笑いが止まらない。やっと取れたころには、ニーナは息を荒くしていたりする。
「何をしている?」
「はぁ、生意気な口をきくもので、ちょっと痛めつけてたんでさぁ。」
リーダーの言葉に再敬礼するキャナル。
「それでは、私は下に戻っています。」
キャナルはすばやくバックを取る。
「わかった。抵抗するものは容赦するなよ。」
「わかりました。」
バッグを後ろ手に隠したままあとずさろうとしたキャナルをリーダーが止める。
「おまえ、見かけない顔だな。」
「そりゃあ、赤いとさかはおおぜいいますから。」
「ほんとうか?」
「いや……そう言われましても……。」
ここで正体がばれてしまえば、すべては水の泡である。キャナルは思いっきり焦る。
「もし、本当にメンバーならば、トサカアモーレが踊れるはずだ。」
「トサカアモーレ?」
思わず復唱してしまうキャナルとニーナ。
「トサカアモーレは赤いとさかの必修科目だからな。さあ、踊ってみろ!」
キャナルは星間通信を通して超高速モードの検索をかける。
「どうした、踊れないのか?」
必死で検索するキャナルだが、目指す単語は出てこない。キャナルはついに覚悟を決めた。
「アモーレ、アモーレ、トサカアモーレ〜〜!なーんてご冗談を。こんな恥ずかしい必修科目、あるわけないじゃないですか。」
「うむ、そのとおりだ。」
リーダーは満足げな笑みを浮かべる。
「それでは私は戻ります。」
「いい踊りだったぞ。」
「ど〜も〜。」
キャナルはドアが閉じると胸をなで下ろした。
「ご気分の悪くなったお客様、毛布をお渡しいたします。」
通路を歩いてきた1人のスチュワーデス。もちろんキャナルの変装である。それを見てケインとミリィはうなずきあった。
「GO!」
キャナルは毛布を落としてサイ・ブレードと銃を投げるのと、ケイン達が飛び出すのが重なる。そのまま空中でキャッチ。
「でやぁっ!!」
ケインが近くにいた男の銃を叩き切る。
「このっ!」
他の男がケインに向けた銃を、今度はミリィが撃ち落とす。そのまま、ミリィの銃は他の男達の銃も撃ち落とした。
「ミリィ、くれぐれも機体に穴なんか空けるなよ!」
「誰に言ってるの、あたしの銃の腕は宇宙一なのよ。」
通路に背中合わせになるケインとミリィ。
ミリィに銃を撃ち落とされた男の1人が先頭に向かって走る。
「まずいっ!」
ケイン達の反撃を、ファーストクラスのリーダーに伝えようとしているのだ。が、2人の位置からは攻撃できない。
ファーストクラスに続くドアの前に立ちふさがったのは、あの大女スチュワーデスである。彼女はガムテープで幾重にも巻かれていたが、それを力任せに引き千切り、男をふっ飛ばした。
「や、やるじゃん……。」
雄たけびを上げる大女スチュワーデスに、思わずケインとミリィは顔を引きつらせた。
「機長、そろそろ食事にしませんか?」
しかし、その言葉に返答はなく、機長は頭の上にかぶりものを乗せた。
そして、副操縦士の悲鳴が上がる。
「なんであたしがこんなこと……。」
ぶつぶつ言いながら、ミリィはニワトリのかぶりものの位置を整えている。
「結構似合ってるぜ。」
「そぉ?」
同じようにかぶっているケインが笑いながら言う。
「これ、一応持ってきたけど。」
近付いてきたキャナルが差し出したのは、ケインのいつものマント。『これがなくちゃ調子が出ないんだよな』とケインはうれしそうに羽織った。
「それじゃ、こっちはたのんだぜ。」
カーテンの向こうにいたのは例のスチュワーデスと、赤いとさかの男達。
「やむをえん。そこまで強情を張るのなら死んでもらおうか。」
リーダーは大臣に銃を突き付けた。
「待って、ちょっと待ってよぉ。」
声を上げるニーナ。その時、階下からのドアが開いた。
「食事を用意しました。」
ワゴンを押して現われたのはケインとミリィである。
「止まれ!」
通り過ぎようとした2人を、リーダーの鋭い声が飛ぶ。
「おまえ、メンバーではないな。」
「いや、そんなことは……。」
「なら顔をはっきり見せろ。」
舌打ちするケイン。
「何でばれたの……。」
ミリィがニワトリのかぶりものを投げ捨てる。
「我々トレヴィン国では、マントは悪魔の付けるものだと疎まれる。誰一人として付けるものなどいないんだ。」
「ケイン〜〜〜。」
リーダーの言葉に、ミリィはケインを睨んだ。
「知らなかったんだよ。」
「とりあえず、武器を捨ててもらおうか。」
サイ・ブレードとネオデザート・イーグルカスタムが床に落ちる。
「入れ。」
大臣とケイン達が連れてこられたのはコックピット。
「機長も仲間だったの?」
「ああ、空港の警備も何人かな。」
「どおりで、武器を簡単に機内に持ち込めたはずだわ。」
小声で言い合うケインとミリィ。余談だが、ケインはまだかぶりものをかぶったままである。
「本国に映像回線を繋いでやる。」
「今ここで、とさかこそ至上のものであると宣言しろ。しなければ、死だ。」
「くそっ!」
「おぉ〜っと、動くなよ?」
起き上がったケインの額に機長の銃がポイントされる。
「私が、私がガンバらなくっちゃ。」
縛られたままのニーナは、足の間に2人の武器を挟み、しゃくとり虫のように全身をはじめる。
「さあ、宣言するか。それとも死か。」
大臣の頭に突き付けられた銃。武器を取り上げられ、拘束されているケイン達にはなす術がない。
パシュン
ごそごそ進んでしたニーナがようやくコックピットに辿り着く。しかし、ドアが開いた途端、彼女の額にポイントされる銃口。
「そのままゆっくりたつんだ。」
リーダーは、ニーナを大臣の前に突き飛ばした。
「時間だ。」
大臣に突きつけられている機長の指に力がかかる。ケイン、ミリィ、ニーナの顔色が変わる。
その時、体をずらしたニーナの指がコントロールパネルに触れた。
バチバチバチッ!
「オートパイロットがぁっ!」
失速をはじめた飛行機に、全員の体は浮き上がる。もう一度大臣を狙う機長の腕に、ニーナは大臣の頭の角を折り取ってなげた。
そのすきに、ミリィはケインの拘束しているテープを噛み千切る。そしてケインのサイ・ブレードが閃いた。
その頃、エコノミーでは。
「ハーイ、頭を低くして衝撃に備えてくださ〜〜い。」
と、おなじく無重力状態となった中で、キャナルがにこにこ笑っていた。
「どうして私が操縦するんですかぁ!」
泣き声を上げるニーナ。
「大丈夫だ。ここに触れてみろ。」
ケインが指差したパネルに、ニーナは恐る恐る触れてみる。すると、ショートする音とともにコントロールは戻ったのだった。
「あ〜〜ん、ごめんなさ〜〜〜い。」
飛行機は無事に空港に着陸した。
「無事に助けてやったのに、何怒ってんの、このおっさん?」
泣き声を上げるニーナに、ミリィは不思議そうに言った。
「大臣は、助けてもらったことには感謝するが、でもそれ以上に角を折っちゃったことに怒ってるんです〜〜。」
「はぁっ?」
ケイン、ミリィ、キャナルの三人に浮かぶ汗。
「事によっては国際問題にするって。キャナルさぁん!」
ニーナはキャナルに飛びついた。
ばりばりばりっ!
キャナルの全身から白煙が上がる。慌てて離れるニーナ。
「ソードブレイカー・メインコンピュータに重大なシステムエラー発生しました〜〜。」
「何〜〜〜〜!キャナル、しっかりしてくれ〜〜〜!」
「だめかもしんない。」
「だめって、ちょっとぉぉぉぉ!」
「だめ、ちょっと、だめ。」
「あ〜〜ん、キャナルさんごめんなさぁ〜〜〜い!!」