4.プロ野球界が抱える問題
現在、プロ野球界と球団オーナーを悩ませる問題が数点、明確に上がっています。大学生・社会人のドラフト逆指名制度。
ベテラン選手の為のFA制度。
代理人制度。
スター選手の大リーグ流出の4点です。
それぞれが大きな問題を抱えているので、一つずつ見ていくことにします。
今年(2000年)のドラフトは、大きな盛り上がりもなく終わりました。ほとんどの上位選手が逆指名でドラフトよりも前に球団を決めており、下位の高校生も、くじ引きなどには至らなかったからです。
高校生達も、力のある選手は自分で球団を選びたい為に、社会人へ行ったり、大学へ進学したりすることが多くなりました。もちろん、それは、人気球団へ戦力が流れる危険性を伴っています。最近では、希望球団をはっきりと口にして、逆指名の資格を得る為に社会人や大学へ行く高校生もいます。
近頃では、高校生にも逆指名権を与えてもいいのではないか、などという声も上がっていて、戦力の不均衡はさらに広がりそうです。
次に、毎年オフシーズンになるとよく聞くようになるFA制度(フリーエージェント制度)です。これは、もともと米大リーグにあったものです。
大リーグでFA制度が成立したのは、76年。その前年に、ドジャースのメッサースミス投手が契約更改でもめ、契約書にサインしないまま一年間プレーをして、19勝をあげました。シーズン終了時に身分の自由を訴え、保有権の継続を主張する球団と対立。その後、仲裁会議で身分の自由が認められました。このようにして、大リーグのFA制度は、選手が血を流して獲得したものなのです。
日本のFA制度はそれとはまるで違います。経営者側が自らの都合で作ったものだからです。
巨人の親会社である読売新聞社の渡辺恒雄社長(現球団オーナー)がゴリ押しで導入を決定しました。その流れでドラフトの逆指名制度導入にもなったのですが、日本のFA制度は豊富な資金とブランドをバックにした球団が、有力選手を獲得するためだけにあります。現在では、FAとなると巨人の名前が必ず上がるようになり、昨年度は大型のFA選手の工藤と江藤を二人とも獲得しました。今年オフにヤクルトの川崎投手がFA宣言をした際も巨人の動向が注目されましたが、内外から自前の選手を育てろという声が上がっていたのもあり、今年のFA選手の獲得はありませんでした。
しかし、それでも他球団は巨人への牽制的な発言をするなど、気を抜けな状態にありました。このFA制度と逆指名制度とで、選手は二度も球団を選べることになるのです。お金のある人気チーム、リーグに選手が流れるのは当然の現象で、権利はどちらか一方でよい、との見方もあります。
2000年オフの契約更改でのみ、試験的に導入されることになった代理人制度も、何年もかけて話し合われてきたことですが、経営者の反応は悪い。日本人選手の代理人問題は、92年のシーズンオフに突然球界の懸案となりました。
リーグ優勝したヤクルトの古田捕手が、契約更改で代理人交渉を要求したからです。この時、代理人を務めた大阪弁護士会の辻口弁護士は、交渉の場に同席できなければ、同席拒否の無効を訴える仮処分申請の準備までしていたといいます。
「弁護士でない者が代理するのは弁護士法上、問題だが、弁護士の代理権を拒否するのは公序良俗に反する。球界全体が弁護士の代理を拒否すれば、歳晩では球団は必ず負けます。球団の回答も拒否ではなく、日本的慣行からは望ましくないといういい方だった」当時の辻口弁護士はこう言っています。球界の「基本法」である野球協約にも、代理人交渉を禁止する規則はありませんが、追随する選手はいませんでした。
人情に訴える余地のないビジネスライクな交渉に不安があった為です。しかし、当時元プロ野球選手で現スポーツライターの青島健太さんは、こう言っています。「億単位の年俸や複雑なボーナス契約の交渉になると、選手一人の手に終えなくなるのが実情で、FA制度にしても、どこの球団に自分の能力を活かせる働き場所があるのか、客観的な選択がしにくい」 FAの導入でさらに契約内容が複雑になったことを機に代理人制度導入を求めて労働組合・日本プロ野球選手会が動き出して約7年。ようやく、2000年オフの契約更改でのみ代理人制度が認められることになりました。経営側が7年も先送りにしてきた事情の裏には、選手側に交渉のプロがつくことによって、年俸が高騰するという危惧があったのです。しかしその一方で、過去の実績を考慮したり、期待料を込めた査定をするなどの情の部分がなくなるとの球団幹部の見方もあります。
この代理人制度については、巨人の渡辺オーナーが「代理人を連れてきた選手は年俸ダウンだ」などと発言をし問題になるなど、経営者側の抵抗がまだまだ強くなっています。
結局、今年この代理人を使うのは今のところ、ヤクルトの古田捕手、阪神の川尻投手、塩谷選手、日本ハムの下柳投手となっていますが、球団は渋々という態度を崩そうとはしていません。代理人を検討しているのは、さらに阪神の薮投手、近鉄の中村選手、オリックスの木田投手、横浜の斉藤隆選手があがっています。
今オフ限り認めただけで、来年は廃止にしたい経営者側と、代理人資格制度をきちんと作り、本格的に代理人交渉を認めさせたい選手会側。今回の制度に対しては、溝があるままに見切り発車をしてしまいました。問題は山積みのままです。
昔は、「人気」のセ・リーグ、「実力」のパ・リーグと言われていました。しかしその「実力」には陰りが見えます。前述してきた逆指名、FAなどでの有力選手の流出が原因の一つに上げられますが、今後さらに増えそうなのが、スター選手の大リーグ流出問題です。こちらは、日本のプロ野球界を揺るがそうとしている問題です。
イチローがシアトルマリナーズに移籍を決めましたが、大リーグ側にとって、日本人の野手が大リーグで活躍することは、日本市場進出のいいとっかかりとなります。2000年3月にメッツ対カブス開幕戦が東京で開催されたことからも分かるように、大リーグはすでに日本市場への進出を始めています。大リーグは球団数の増加による人材不足でラテンアメリカ、次いで日本や韓国、台湾などアメリカ方面にまで選手獲得の目を向けており、同時に獲得した選手の活躍を通じて、その地域を市場として開拓することを狙っているのです。
大リーグには、共存共栄の思想が徹底しており、黒字の球団から赤字の球団に資金援助を行う制度があり、各球団が足並みを揃えた状態で長期的な戦略を進めることができるのです。既に大リーグは、日本にアメリカ資本の球団を置くことなども検討し始めています。
日本球団は、大リーグからの攻勢に耐えられるのでしょうか。近鉄は、外資の経営参入などの噂が流れ、オリックスも身売り話しがささやかれています。私企業が、企業の宣伝とステイタスの為に球団を所有するという日本プロ野球の在り方自体が限界を迎えつつあるのかもしれません。
マスメディアは、佐々木投手やイチロー選手などの日本の看板選手のメジャー流出を危機感を持って報道していますが、経営者側は現状よりのんびりしているように思えます。
若手選手のメジャーへの憧れは根強く、西武の松坂投手や巨人の上原投手もメジャー入りを目指して、今は力をつけていると明言しています。このままでは、日本プロ野球が大リーグのファーム(二軍)のようになってしまう日も遠くないかもしれません。