民生用デジタル VCR 規格概要


 

  一時は市場を席巻した 8mm カムコーダーを駆逐し、すっかり定着した感のある民生用デジタル VCR 規格による、いわゆる DV カムコーダーが登場して早、10 年目が過ぎようとしています。

 そして '05 年に入り、規格は違いますが同 Mini カセットを用いた、ハイビジョン民生用カムコーダー(HDV 規格)も、市場に出回っています。

 しかし、なんとなくわかっているつもりでも、いざ人に聞かれる困ってしまう場合があります(^_^;)。そんなときのために、もし知らない方はぜひ読んでおいてください(笑)。



  規格策定の経緯

 この民生用 DV 方式は、国内 10 社を初めとする「HD デジタル VCR 協議会」、で標準化されたものを指します。現在、DV/MiniDV という通称でカムコーダーや、ビデオデッキが流通しています。

 93 年に始まったこの協議会において、94 年 4月に国内外 55 社が参加し、相互互換性を含めて仕様の策定が行われました。その際、NTSC/PAL 方式などの既存のテレビ方式を対象とする SD 仕様、ハイビジョン等の HDTV 方式を対象とする HD 仕様が決まりました。



  デジタル化のメリット

 VCR をデジタル化するメリットは、画質・音質及びダビング特性の著しい向上、ドロップアウトフリーなどが挙げられます。現実的な問題として、民生機ではドロップアウト耐性は弱く、フリーとは言い難い(アナログに比較したら遙かに少ないですが)ものがありますが、前者については確実に向上しています(特に解像度と、色再現性)。

 デジタルならでは波形特性の良さ、周波数特性の良さが光り、録画ソースの画質そのままと言っていいほどの、高画質を実現しています。音質においても、16 ビットモードでは DAT 並みのスペックと言っていいでしょう。

 従来、アナログでダビングを繰り返すと、ノイズは回数ごとに √2 倍ずつ増えるし、ジッター(画像の細かな揺らぎ)もどんどん増えて、とても見られたものではありませんでした。

 デジタルでは、世代を重ねた編集時においても、オリジナルの画質を堅持していると言って良く、画質劣化はほとんどありません。この場合の、ダビング耐性はエラーによって、修復できないほどの欠落が発生するまでであり、通常は十分な耐性を持っていると言えるでしょう。

 これはデジタル化されたデータなのですから、当たり前のことですが実際に 3〜4 回コピーを重ねた素材を見ても、まったく画質劣化は認められませんでした。




  SD 規格の概要

 それでは、表に規格概要をまとめてみました。

SD 規格民生用デジタル VCR の仕様
テープ幅 1/4 インチ(6.35mm)
使用カセット 専用メタル蒸着・標準及びミニカセット
・スタンダード 125x78x14.6mm(メモリ内蔵は任意)
・ミニ       66x48x12.2mm
(メモリ内蔵は任意)
ヘッドドラム径 直径 21.7mm・トラックピッチ 10μm
ドラム回転数 9000 rpm
トラック構成 10 トラック/フレーム(5 トラック/フィールド)
※従来のアナログは 2 トラック/フレームです
テープスピード(SP) 18.812mm/s
録画時間(SP) 4 時間 30 分(スタンダードカセット)
記録方式 4:1:1 デジタル・コンポーネント(Y/C 分離記録)
※放送用のスタンダードは 4:2:2
映像サンプリング周波数 Y=13.5MHz(輝度信号)
C=3.375MHz(R-Y/B-Y 色差信号)
※両方とも 8bit 量子化、色差はサブサンプル後の値
映像記録レート 25Mbps
映像コーデック及び
圧縮比
DCT(離散コサイン変換)・約 1/5 圧縮(フレーム内完結)
元のデータ量 Y=108Mbps
      R-Y= 27Mbps 合計 162Mbps
      B-Y= 27Mbps
※上記データより、垂直・水平ブランキング期間を差し引き約 127Mbps となります。
エラー訂正符号 リードソロモン符号
オーディオトラック ヘリカルスキャンで、オーディオセクタに書き込み
・16 bit 量子化 48KHz サンプリング 2ch モード
・12 bit 量子化 32KHz サンプリング 4ch モード
備考 サブコードセクタに、録画日時、チャンネルその他、カメラではカメラの撮影データなども記録可能

  DVC の圧縮に関しては、上記のようにフレーム内完結の、1/5 DCT となっています。従って、MPEG のように激しい動き等があっても、極端な劣化が発生することはあり得ません。

 またそのためフレーム単位での、完璧な編集もタイムコードの標準化と相まって、それなりにできるようになっています(それでも民生機同士では編集精度が低い)。
 それから、某ビデオ誌などでは静止画では若干の解像度低下が感じられる、などと評価していますが民生用モニタでそれが解るかどうか、その方が怪しいくらいです(変調度がなんたるかを知らんような連中の書いた記事などあてにならない)。

 この規格自体の画質は、そのまま放送に使っても問題がないくらいのもので、実際に同様のコーデックを用いたプロ用 VCR の DVCAM や DVCPRO がそれを物語っています(テープスピードやテープが異なる)。




  HDV 規格

 なお、つい最近民生用ハイビジョン VCR(カムコーダ)の規格が決まり、'05 年に入りいくつか民生用カムコーダーが発売されています(DV の従来からある規格とは異なる)。
 これは、カセット、テープスピード、記録パターン、記録レートは DV そのままに、MPEG-2 TS を記録するものでテープトランスポートは、そのまま DV 機器のものを転用可能です。

 具体的には、MPEG-2 色差フォーマットが 4:2:0 で、1440x1080(1080i)画素(輝度帯域幅で、24MHz 程度相当)がメインになっています。ビクターが先行発売する、720p(1280x720) も別モードとして提案されていますが、やはりハイビジョンは 1080i であるべきと考えます。また、音声は 2ch 16bit/48KHz@MP2-384Kbps みとなっています(音質がちと微妙)。

 残念なのは MPEG なので、フレーム精度の編集性が確保されていないことです(GOP 単位の再エンコードで、できないことはないがそれでは劣化を招くので本末転倒)。
 残念ながら、先に規格が決まっていた MPEG-2 TS 用のモード(デジタル放送記録用で今回のものとは違い、D-VHS 相当のもの)は搭載されませんでした。(ハイビジョンなら Blue Ray という話もあるが、あれも HD だけじゃなくて複数規格の MPEG-2 TS 記録ができればいいのに)

 民生用 HD 規格の DV は、既に過去のモノとなっているようです(^_^;)。これは、現在の DV の倍 50Mbps でフレーム内 DCT のものですが、これは MUSE しか放送がなかった時代のものです。

 それでも記録時間は半減するものの、高画質なカメラ用やアナログ入力(MUSE 等)用の HD モードとして、復活を期待したいものです。せっかく、DVC でフレーム単位の編集精度を確保できたのに、MPEG になるなんて編集環境的には、時代に逆行しているのが残念です(ボカスカ)。

 また追加情報としては、民生用としては未発売の業務用 HDV 規格レコーダが、ソニーからいくつかでています。当初、miniDV テープ専用機のみでしたが、後にようやくスタンダードカセット対応機が出ました。
 以前から、ミニカセットにしか対応しない HDV デッキは、微妙だと感じていたのでようやくでたという感じです。

 これでもう少し HDV 編集環境も、拡張性がでてきたのではないかと思います。どちらにしても、それほどべらぼうな値段ではない上、HDV/DVCAM/DV(SP のみ)トリプルモードで、記録・再生できますからこれから、編集環境を整えたい方にもお勧めできます。

 余談ですが、SD 一本で行くなら従来通り DSR-11 が安くてお勧めです。メカデッキも DSR-50 のものと同一なので、信頼性も OK です。
 それから既に昨年あたりから、バラエティ番組その他 DVD 製作などで、サブカメラとして HDV の民生用・業務用小型カムコーダが、かなり活躍しています。

 どちらも民生機ベースですが、腐っても HDV なのでダウンコンバート後の画でも、ハッキリとキレの良さが出ています。ただ、HDR-HC1 やそれベースの HVR-A1J は単板なので、若干色再現性に難がありますが、ここだけの話パナの 3CCD 民生機等より遙かにいいです(ボカスカ)。

 HD 放送では、SD サブカメラ収録の画と他の HD 素材との、画質差が激しすぎてなかなか見苦しかったのですが、これら HDV ハンディカム等を活用することで、及第点程度の画質を保てるようになりました。
 ただし、それでも 25Mbps 記録の MPEG-2 ですから、動きの激しいところでは若干劣化のでるところがあるのが、HDV の悲しいところです(^_^;)。

 その他の話題としては最近になって、放送・業務用 HD 機材としては破格の XDCAM-HD シリーズがでたので、予算の限られている地方局、CATV 局などでも HD 化へのシフトが容易になるかもしれません。
 具体的には従来からある、XDCAM をベースに LONG-GOP の MPEG-2 コーデックを、組み合わせたもので最大 35Mbps(HQ モード・VBR というところがミソか)で、ディスクへ記録するものです。




  DV ノンリニア編集

 私は手軽でとても実用度の高い、パソコンを使ったノンリニア編集を常用しています。システム的には、自作 PC/AT マシンにカノープスの、IEEE1394 接続のキャプチャーカードで構成されています(最近は HDV 編集機能のあるものがでてきた)。

 これは、DV デッキもしくは、カメラと DV ケーブル一本で接続し、HDD と DV 間で相互に編集が可能なものです。また、HDD 上で容量が許す限り(1 素材あたり 180 分まで)の素材長が扱えるので、民生用としてはほぼ十分でしょう。

 最近では、バッファロー等から \3K 前後の実売価格で、安価な DV キャプチャーボードが発売されています。アナログ・オーバーレイ表示や高精度なフレーム単位での、テープへの書き戻しなどは出来ませんが、基本性能は十分です(AVI ファイルサイズの制限を受けないものがよい)。

 私の使用している環境では、タイムコードを活用した正確なプリロールにより、完璧に±0 フレーム精度でテープに書き戻しが行えます。これは、民生機では革命的と言えるでしょう(ただし、ソニー製 DV 機器に限る)。
 また独自のアナログオーバーレイにより、プレビュー画面を PC 上に表示するので、全く PC へ負担をかけません。従って、通常のキャプチャーカードでたまに問題になる、コマ落ちが全く発生しないのも大きなメリットです。

 なにしろ、P55C-200MHz での動作実績もあるくらいです。ですから、本当の AV マニアならこれ以上のものを選ぶべきでしょう。CPU への負荷が少ないため、頭出し時の応答が迅速で操作性が非常によくなっています。

 現在までに、タイタニックの様な長編映画(これはやりすぎ)から、CM の様な短い素材まであらゆるソースを編集してみましたが、まさに快適そのもの!。カット及びアッセンブル編集において、デッキをもう1台用意するより、圧倒的な編集パフォーマンスを発揮します(編集後の素材長 x 2 + α の時間で編集が済みます)。

 これは PC への素材アップロード時間を考えても、有り余るメリットです。アップロード/ダウンロードに関しては、タイムコードによる範囲指定ができますから、無人でも行えます(食事の合間や入浴中等に済ませられる)。

 それに加え、パソコン一台で A/B ロールを初め、各種トランジッション(場面転換)等 DVE 並みの効果や、テロップ入れなど縦横無尽に、素材を編集しつくすことが可能なのですからたまりません。
 たとえば複数の素材に、複雑なエフェクトをかけても MPEG-2 編集のように、徐々にマシンが重たくなりついには編集不能に陥る、といった様に編集作業に破綻をきたすこともありません。

 近年では、DV 端子をもつ編集機も現れましたが、べらぼうな価格ですからこれは非常に魅力的です(効果をかけると実際には、レンダリングの時間がかかりますが、一刻を争う報道現場ではないで OK (^_^;)。

 とにかく、お金に少し余裕さえあれば理想的な、編集システムが組めますので、文句なしにおすすめです(^_^;)。

 それでは、皆さんのクリエイティブな映像制作の発展を願って・・・。