NHK 技研公開・'04 レポート



 毎年お馴染み?の、NHK 技研公開へ行ってまいりました。今年はサボらず?レポートを書きたいと思います。時間が空き次第、順次掲載しますのでよろしくお願いします。
 思いのほか今年は、いろいろとディープな話も伺えてしまい、有意義な取材ができたと思っています(^_^;)。



  XDCAM ベース・HDTV ディスクカムコーダ他

 今回、わたくし的に印象に残った展示の内の一つです。昨年ソニーから発売され、既に世界で納入実績のあるディスクカムコーダー XDCAM(BLUE RAY を元にした、青紫色レーザによる相変化光ディスク)をベースにした、HDTV ディスクカムコーダーです。

 見た目には筐体の色が違う点、後ろに不審(^_^;)なヒモがついている点を除けば、SD である XDCAM と変わりません。

 感のいい方はお気づきかもしれませんが、今回は残念ながらカムコーダ単体では動作しておらず、実は後方の太いヒモでつながったプロセッサが影にあります(ビデオデッキ一台分くらいの大きさ)。もちろん、こちらの方も LSI 化により既に、カムコーダ単体におさまる見通しが立っているあたり、近年の開発の早さを実感しました。

 問題点は、LONG GOP の 50Mbps MPEG-2 記録なので、編集性に若干難点があることです。もちろん、IN/OUT 点前後の I/P フレームなどを参照し、必要最小限の再エンコードによって、フレーム単位の編集性は確保してあるとのことです(BETACSM SX 同様、2 フレーム GOP にするには、100Mbps 程度は必要か?)。

 ディスクは 23Gbytes の単層で、従来のものと特に変わらないようです。既に PC ベースの編集システムと、スタジオレコーダも展示されていました。画質的にはなかなかで、FPU/SNG での素材伝送で使用されるものと比較しても、レートは高めな部類に入るので良好です。

 また、ディスクメディアであることから、衝撃や振動についての耐性もこれから、検証を行っていくとのことです(かなり気になりますね)。なおベースとなった、XDCAM の特徴であるプロキシ AV データ(個別の低解像度動画データ)も、既にサポートされており PC ベースの編集システムでは、これを利用しての比較的軽快な編集が可能となっています。

 まったくぬかりがないというか、写真を見てわかるとおりソニーとの共同研究だからか、商品化を見据えたしっかりとしたプランが見え隠れします。

 先の編集性については意見の分かれるところでしょうが、それよりも民生用にこのフォーマットが下りてこないか、などという希望的観測をせずにはいられない展示でした(HDV も劣化でまくるのは見え見えなので)。

 話がそれてしまいますが、おそらく現行の BS デジタル程度のレートしかとれない、民生用の BLUE RAY も単層のままでは、ハリウッドは納得しないでしょう。二層で倍近いレートをとれて、はじめてアピールできると思います。

 他のブースでライバル、AOD に使用される H.264 の評価用動画像も見てきましたが、低ビットレートでは”そこそこ“映るものの、お世辞にもとてもきれいとは言えません。良く言えば、数 M 程度のレートで HD が映るのだから圧縮率が高い、とは言えますが輪郭の甘いいわゆる、眠たい画で盛大に劣化も出てしまいます。

 評価用動画像を見る限り、6-8Mbps でも結構な劣化が出ていることから、MPEG-2 である現行 HD 放送と同程度の画質を保つとしたら、せいぜい半分か数割減程度のレート(MPEG-2 比で)でないと厳しいのではないでしょうか。




  1 セグメントモバイル放送用携帯型地上波デジタルテレビ受信機

 ようやく、実用化の見通しが立ってきた、移動体向け地上波デジタル放送の受信機です。携帯電話内蔵タイプ、PDA タイプの二種類が展示されており、どちらもデータ放送と連携した双方向機能を持っているのが特徴です。

 もちろん、据え置きのデジタル受像機も双方向性がありますが、あちらはアナログモデムを利用するのに対し、携帯電話(au CDMAx1+EV-DO 端末ベース)ではパケットを、PDA タイプでは小型 PHS 無線カードを利用しています。

 写真の携帯電話内蔵タイプでは、後方にかなり出っ張った TV 用アンテナが取り付けられていましたが、製品化時には内蔵されるとのことでした。実際の放送はまだなので、構内で試験波を送信したものを受信しています。

 映りは思ったよりも良く、15 フレーム/秒というモーションに難がある点を除けば、なかなかのものでした。画素数的に、PDA/携帯電話端末などに適した印象を受けます。

 画素数の詳細はちょいと、取材漏れですが(^_^;)画が 192Kbps程度・音声が 48Kbps 程度のレートのようです(※H.264 の本領発揮か?)。ストリーミングでも画だけで 2〜300Kbps はとられていることから、フルモーションにするには条件的に厳しいようです。

  ※H.264:従来、MPEG-4 AVC と呼称されていたもの。本来は、超低
   ビットレート用だったが、HD 等にも使用できるよう拡張された

 また今回は構内のみの試験波であることから、実際のエラー耐性などについては解らなかったのが心残りです。なお、この移動体向けデジタル TV は、既存の地上波デジタルの 13 セグメントのうち 1 つを移動体専用に使用するもので '05 年度中をめどに実用化の予定です。

 気になる既存のデジタル放送用、移動体受信技術も更に一歩進んだダイバーシティによって、かなり改善されてきています。展示では、4 本のアンテナと 4 つの複調器という構成で、エラー部分を捨てて使える部分だけを、一つのスペクトラムに合成する、というそれぞれのいいトコ取りによって、車両走行時にも良好な受信ができることを示していました。

 タダでさえ高価な受信機なので、これを四組使うとなると民生用にこの技術が下りてくるまでには、しばらくかかりそうです(^_^;)。それでも、素人目にも一番解りやすいメリットである、良好な移動体受信をアピールすることは大切だと思います。

 さらに地上波デジタルテレビに先行して、実用化されていたデジタルラジオの展示もあり、こちらも試聴してまいりました。実際のレートは不明ですが、やはりいかにも”圧縮“のきつい、ダイナミックレンジの狭いつまらない音なのにはがっかりです。

 FM 放送に勝る、というのがウリらしいですがとても、勝っているとは言えないでしょう。75KHz デビエーションの、FM の方がよほど素直でツヤのある音です。DVD 映画のマルチトラック音声同様(PCM や LD になれていると物足りない)、この手の圧縮率の高い音声はどれもこれも今ひとつです。

 今後の改善に期待したいところです。


  気になる地上波デジタル用新型 MPEG-2 エンコーダのその後

 昨年の展示で、15Mbps 程度でも大幅に劣化を低減した、新型 HDTV 用 MPEG-2 エンコーダがありましたが、その後を担当者に伺ってみました。

 非常に残念ながら地上波デジタル化各局の、機器納入までに間に合わず現在、使用中の機器がリプレースされるまで、導入はないだろうとのことです(^_^;)。これは極めて遺憾ですが、かなり効果的であるだけに今後の動向から目が離せません。

 現用機器の入れ替えは少なくとも、5〜6 年先くらいにならないとないのでは、というつれない返事でしたので楽しみ?、としてとっておくことにしましょう。もちろん地上波だけでなく、先行する BS デジタルにも導入されることを、強く望みます。

 最近、私はデジタル放送に関して、視聴者側の動体視力は悪い方が得ではないかと感じています(本来ビデオを楽しむならば、逆なのですが)。なぜならば、つまらない劣化ノイズを関知しにくいからです(^_^;)。私の場合は、ちょっとした劣化や 1 フレームの編集ミスでも、非常に気になるほうなので困っています。

 余談ですが従来から、伝送中の障害や VTR のドロップアウトなどで、画像が乱れたりするのは放送上”マズイ“、あってはならないことなのです。しかし、ほぼ定常的に劣化がでていて時には素人にもわかる、ものすごい劣化ノイズにもでくわすデジタルハイビジョン放送は、番組毎に”お詫び“のテロップかアナウンスが必要なのではないでしょうか(超ボカスカ)。

 たしかに、MUSE と比較すれば静止画の解像度は上がっていますが、ただそれだけのことです。テレビの持ち味である、動画がきたないのは本末転倒です。


  最新デジタルハイビジョンテレビの動向など

 その他、公開とは無関係ですが噂のあった、シャープより一足先に三菱から、フル HD 解像度の液晶テレビが出てきました。パネルは OEM くさいですが、店頭に並んだらぜひ画を拝みたいものです。
 シャープのものも、早く出ないかな?という感じです。また、民生品では珍しくフラットパネルテレビでは、かなりの調整項目をユーザに開放?(特にシャープは項目が多いらしい)しているらしく、追い込めばかなり CRT ライクな画に近づけることが可能らしいです。

 また、前々から気になっていた LCD の画がどうしても、ガンマ特性が狂ったような黒浮き気味になるのか?、についても今回の取材で伺ってきました。LCD の特性として、入力対明るさのグラフが、非常に急陵でビット数にすると 8bit 分ないとか。

 CRT は若干クセがあり、リニアリティは悪いのですがまだ LCD よりは、ダイナミックレンジは広いわけです。従って LCD は、今後改善されることはあっても、局のマスターモニタにはなり得ないとのことでした(当然反応速度も含めて)。

 どうりで未だに、安価な LCD に疑似フルカラーのものがあるわけだ、と思いました(^_^;)。

 それに対して PDP は、各社とも、明るさ UP や階調 UP に余念がないようです。RGB それぞれ、10bit 相当の階調制御だったのが、更に UP したものも出てきています。また既に数年前、試作展示されていたフル HD 解像度の PDP パネルは、あまりにもコストがかかりすぎるため商品化を断念した、とのことでした。

 非常に高精細で、素晴らしい画だっただけに残念でなりません(^_^;)。静止画の再現性では、LCD(階調再現を除く)/CRT に一歩譲りますが動画に強いテレビ向けの PDP には、これからもがんばってほしいものです。




  7GHz 帯超小型デジタル FPU

 年々小型化の進む小型の FPU 装置です。カメラ後方についた、弁当箱位の箱が送信機本体です(カメラは池上の HD 用)。

 これは、7GHz 帯を使用したデジタル伝送のもので、既存のものと比較しても非常に小型かと思います。また、送信アンテナには無指向性を使用している点も見逃せません。

 従来からあったこの種の FPU では、送信側にも指向性アンテナを用い(レドームに入った小型のもの)、機械・電子式でビームの追尾を行っていたため、非常に大きく電気も食うものでした。

 さらに複数のバッテリを持つ電源部、本体と分離された構成でしたから、ここまでコンパクトになった意義は大きいと思います。

 またこの装置の場合、既存の音声送信機の様にカメラ後方へ、取り付けるだけで使用できるので送信側は、ワンマンオペレーションが可能になっている点も見逃せません。これは OFDM のデジタル伝送を使用したものですが、出力など詳細をメモるのを忘れてしまいました(^_^;)。

 類似の展示としては、スタジオ内に限定したミリ波モバイルカメラもあり、こちらは周波数が非常に高いのでアンテナも、超々小型でした(^_^;)。
 7GHz 帯であるこの装置のアンテナは、白い上部は棒状ですが、黒い色の下部がヘリカルホイップの様に、曲がるフレキシブルな構造になっており、ハンディカメラでの利用を考慮した設計になっています。

 また左の写真が、受信部及び制御部です。受信部は既存の FPU 装置同様、直接ディッシュ及びセンターフィード型の放射器を取り付け、アンテナと一体化運用できるものの様ですが、展示では右下の 100φ程度の丸形平面アンテナを使用していました(型式不明・パッチ型か?)。

 こちらも、既存のものとほとんど同じ大きさかと思います。今、現場ではデジタル・アナログ伝送の混在、525(SD)と HD の混在など FPU の運用形態も過渡期にあるといえます。

 ただここ数年で言えば、すっかりデジタル伝送がポピュラーになったな、とは感じています。今後、このような近距離用の FPU は、更に小型化が進むものと思われます。




  動画表示可能なフレキシブル LCD/有機 EL

 夢の巻物型?ディスプレイ実現の可能性がある、フレキシブルディスプレイです。今回は、有機 EL と LCD とも動画像表示(昨年は簡単な模様パターン表示)を行っていました。

 まずは右の写真から(^_^;)。今回は、カラー動画像として昨年の紅白?らしき、あやややモーニング娘。が表示されていました(技研にもハローファンがいるのかな!?)。
 思えば、二十年以上まえから研究されていた EL ですが、近年ようやく小型のものに限って、実用化されるに至りました。

 今回の展示は、まだまだ表示画素は粗いですが、なかなか鮮やかな映りで今後の改良が期待されます。すこし太めなペンくらいに、スルスルと収納する様な大画面かつ、携帯性のよいディスプレイ・TV の実現にまた一歩、近づいたかなという感じです(勝手な想像でしたが、なんと同様のモックもありましたヽ(´ー`)ノ)。

 写真では分かりづらいですが、わざとディスプレイを歪曲させて展示してあり、フレキシブル(折曲可能)であることをアピールしていました。

 次は LCD のフレキシブルディスプレイです。こちらは単純なマトリックスパターンによる簡易動画ですが、既に A4 程度となかなかの大きさとなっています。

 こちらは透明カバーがなかったので、斜めから撮影してみました。ディスプレイが波形に歪曲しているかが、良くわかると思います。

 まだ自然画による動画像ではありませんが、LCD によるカラーフレキシブルディスプレイにも、可能性が開けてきたということで楽しみです。現在のように、ポータブル TV=小型画面、という常識を覆してくれることを祈っています。

 思えば現在、店頭をにぎわせている PDP も最初の展示の時は、小さくて低画質な動画での展示でしたから、時の流れを感じざるを得ません(ボカスカ)。




  カーボンナノファイバを電子源に使用した FED

 こちらは十数年前から開発が続いていますが、なかなか日の目を見ない FED(電界放出型ディスプレイ)です。

 従来からある、円錐状の電子源ではなく、多孔構造基板の孔の底に、カーボンナノファイバを用いた電極(CRT で言う電子銃に相当)を形成してあります。

 原理的には、微少な CRT を無数に並べた構造、と言えばいいでしょうか。特徴としては、CRT の自発光・高輝度・高精細という利点を残したまま、薄型化・大型化が可能というところでしょう。なかでも特筆すべきは、将来的には CRT を越える高精細 FPD の開発につながるかもしれない、というところに尽きます。

 もっとも、微少な CRT を並べたような、と言っても電子線はそのまま直進して、近接した蛍光体にあたるだけなので、CRT のような偏向・走査はありません。平面型なので他の FPD 同様、電子的に走査を行います。

 展示では、これまた昨年の紅白@モーニング娘。が映されており、嬉しい限りです。現状では緑色蛍光体による、モノクロ動画像でしたがカラー化は、駆動系の追加・改良と、蛍光体を三原色にするだけなので、至って簡単とのことでした。

 その他では、気になる大型化についてですが内部が真空構造のため、なんらかの工夫が必要ではないでしょうか。また構造上、PDP 同様に液晶ほどの部材精度は要求しないのでは、と思われます(^_^;)。

 また、電子源と蛍光体が密接しているため、スパッタリングによる劣化や、その飛散物質の堆積なども考慮せねばならず、いろいろと大変そうです。しかしながら、日本独自の発展と成功を収めた PDP のように、いつかこの技術が実用化し、世界に羽ばたくことを願ってやみませんヽ(´ー`)ノ。




  FPU 用折り畳み式メッシュ反射鏡アンテナ

 FPU(Feld Pickup Unit)用の、折り畳み式アンテナです。まるで、衛星に搭載される物をそのまま、小型化したような感じでした。

 従来より使用されているパラボラデッシュ(反射鏡)は、硬い材質でできており可搬性の悪い物でした(FPU は複数口径を伝送距離・出力・ロケーション等によって適宜変えて使う)。

 この反射鏡は、ちょうど傘のように折り畳めるのでとてもコンパクトになります。口径は 600mmφで、金メッキを施したモリブデン線で構成されています。
 このような構成でも、鏡面精度が 1mm 程度というものでなかなかすごいと思います。また反射鏡がメッシュ状のため、風圧の影響も少ないというメリットもあり、重量も反射鏡のみで 1.2Kg というものでした。

 アマチュアだったら、マイクロおやじ(ハムの中でマイクロ波好きのオヤヂのこと(^_^;)が喜びそうな逸品です(ボカスカ)。




  あとがき

 最終版制作が遅れ、大変申し訳有りませんでした(^_^;)。一応、これで完結となりますが今後も、楽しい?記事を探して行こうと思います。最近は、なかなか見本市にも出かけられず、残念な思いです。