NHK 技研公開・'06 レポート



 毎年恒例、雨の中を技研公開へ行ってまいりました。今回は展示規模が縮小され、上層階の展示がなくなっていたり、あるいは目玉?にかけていたり、と今ひとつパッとしませんでした。

 しかし、各研究内容の着実な進歩を、確認する事が出来ましたので、いくつか目に止まったものを、ご紹介していきます。




  スーパーハイビジョン

 今年は目玉というか、華に欠ける感が否めませんでしたが、ご自慢?のスーパーハイビジョンでは技研入り口に設置されたカメラからの、生中継まで実演されていました。

 走査線数約 4000 本級のスーパーハイビジョンは、先日の NAB でもデモ展示され好評?だったようです。
 今回は技研入り口に設置されたカメラから、圧縮伝送により会場内の 450 インチスクリーンに生中継された画を皮切りに、ニューヨークの街並みをつぶさに撮影した内容を上映していました。

 昨年の屋久島ロケより、街中が主ですから動きがありサラウンドと相まって、短い上映時間ながら非常に楽しめました。ただ相変わらずもの足らないのは、フル画素で表示できるデバイスが、現状では液晶プロジェクタしかない点です。
 液晶ですから当然、動きはボケますし色再現性もいまひとつで、非常にもったいない!の一言です。デジタル映画規格も、ハイビジョンを超えるものがいくつか決まりつつあるようですが、このスーパーハイビジョンもその一つとなるのでしょうか。

 次にご紹介する、高精細&高発光効率の PDP パネルが完成すれば、100 インチクラスでこのスーパーハイビジョンを、フル画素で表示することが出来るそうです。これは、今後の開発が楽しみです。




  高精細&高発光効率 PDP

 これは大型液晶並みの、画素ピッチと高輝度を両立した、新しい PDP パネルの試作展示です。
 画素ピッチは縦横とも、0.3mm ピッチで輝度は 300mcd/cm^2 と、標準的な明るさ持っています。現状では、市販の 50 インチフル HD PDP パネルが 0.575mm 程度の画素ピッチであることを考えると、約倍の精細度があるわけです。

 このままでは解りにくいと思いますが、例えばこのパネルで 26 インチのフル HD パネルが、理論的に可能と言えばその精細度が、実感できるのではないでしょうか。
 ただ精細度を上げるだけでは、実用化は出来ないのであわせて、発光効率改善の研究も進められています。

 今回の展示はパネル解像度 192x160 画素ですが、駆動回路が公開に間に合わずにやたらと、横長の表示となったそうです。じっくり見てみましたが、非常に高精細でコントラストも取れており、同じ高精細な液晶と比較しても、自然な映りでした。

 スーパーハイビジョン PDP の実現は、少し将来の話になると思いますがその他にも、いろいろと応用可能な研究です。例えば先にも簡単に触れましたが、フル HD PDP の小型化、低消費電力化等々の可能性も開けてきます。

 PDP は従来発光効率の面から、高精細化には不利とされてきました。それだけに、今後の展開が非常に楽しみな展示です。




  今年のフレキシブルディスプレイ

 今年もまたフレキシブルディスプレイが、有機 EL 及び液晶とも展示されていました。
 写真は A4 サイズ液晶のもので、まだまだ TFT 化されていなかったり、画素が少ない上にその欠落が多かったり、と発展途上ではありますが例年より、大型化されてテレビらしくなってきました。

 またわたくし事ではありますが、今回より \9.8K で正月に入手した、ゲロ安デジカメを使用して取材しております。
 ナマイキにスローシンクロなどもできるので、それを使い暗い被写体でもなんとか、撮影することが出来ました(^_^;)。

 今回のフレキシブルディスプレイですが、やはり液晶は大きかったものの TFT 化されていないためコントラストが低く、いまいちな映りでした。それとは対照的に、有機 EL の方は小型ながらコントラストもくっきりしていて、やはり自発光デバイスはいいなと再認識した次第です。

 現状では、ウォークマンコネクトですとか携帯電話のサブなど、かなり小型品しか有機 EL は実用化していませんので、こちらも今後が楽しみです。




  また感度が上がった超高感度 HARP カメラ

 昔から感度が少しずつ上がってきた、超高感度 HARP 管カメラですが、今年も +6dB 相当の感度アップが図られていました。

 従来の電子増倍管(I.I)等によらず、独自の手法で感度アップを実現する HARP 管は、通常の明るさから星明かりまで、高画質&低ノイズを保ったまま対応できる、唯一のデバイスです。

 もちろん十数年前より、ハイビジョンに対応していますが話を伺ったところ、今年は特に赤 ch 撮像管の感度が昨年は、従来比 2 倍だったのに対し 4 倍になったとのことです。
 実際に画も見てみましたが、従来同程度の明るさまで感度を上げると、少しざらついた感じのノイズが目立っていましたが、今回はほとんどノイズ感もなく、特にノイズが目立ちやすい被写体の赤が、きれいに再現されていました。

 2 倍の更に倍の 4 倍ですから、ゲイン比で言えば 6dB アップでしかも、ノイズが減るという素晴らしいものです。これだけでは解りにくいと思いますが、例えばドラマや映画の夜のシーンを思い浮かべてください。

 あれは実際には、照明が軽くあたっていて”夜っぽく“見えるだけの画で、もし無照明で撮ったら真っ暗で、何がなんだかわからない画になってしまいます。
 しかしそれに対して、HARP 管では通常カメラのゲインアップで耐えられないような、暗がりでも本来の見た目に近い、”暗闇“を捉える事が出来るのです。

 左の写真は、代表的な HD-CCD カメラ(左)と、HARP 管(右)との実際の撮影画面です。
 実際の被写体の明るさは、月明かり程度で通常のカメラでは、ゲインアップすると激しいノイズに見舞われてしまうレベルです。
 しかも色が薄くくすんでしまいますが、HARP 管はノイズもなく色まで鮮やかに映っていて、その差を実感することが出来ます。

 ただ問題が全くないわけではなく、最大感度ではろうそくの光のような、スポット光があたった場合にブルーミング(輝点が大きく広がってしまう)を起こしたり、と若干難点はあります。それでも、若干感度を落とすなどすれば、ドラマ制作にも使えるレベルらしいので、素晴らしいことだと思います。

 また昨年のものは問題ないそうですが、今年のものは HARP 膜の成膜時に欠陥(キズ等)があり、画面右下の方に赤い斑点が、ずっとでっぱなしになってしまっていました。実用化には、これらの点を解消することが必須となります。

 それでも従来型は既に実用化していますし、昨年の感度レベルのものは先の難点を除けば、使えるレベルですから今後の発展も、ますます期待できるものと感じました。




  今年も地味だったホログラフィックメモリブース

 私が将来的に最も、面白くなるかもしれないと感じている、ホログラフィックメモリですが、今年も地味な展示のみでした。

 二つのレーザー光の干渉を利用し、メディアへ面方向だけでなく厚み方向へも、立体的に記録・再生していくのが、ホログラフィックメモリの基礎です。
 大手も手を出していた基礎研究では、装置も大がかりで試験メディアも、透明な立方体でしたが実用化の見通しが立っているのは、装置の大幅な小型化が可能な、ディスク型メディアです。

 某ベンチャーが実用化を目指して開発中のものは、初期型で 12cm 径 CD 大のメディアで数 TB と既に桁違いで、将来的にはもっと増やせる予定とか。装置の低コスト化以外にも、最大の問題は目下メディアに使う、記録膜の組成です。これに最適な特性かつ、安価なものがみつかればと言ったところらしいです。

 今回技研で展示されていたものは、この基礎技術に関わる部分で記録・再生に用いる、干渉縞の揺らぎを安定化させる、というものでした。

 難しいことはさておいて、現在単層で 25GB、二層で 50GB という BLUE RAY でさえ、足元にも及ばない TB レベルへ、一気に記録容量の桁数をワープ?させる、画期的技術なのです。
 既に実用化している、光記録・再生メディアはいずれにしても、CD/DVD の延長線上にある技術で、このホログラフィックメモリとは次元が違います。

 今後も、最新動向から目が離せません。




  大幅に小型化された超ハイスピードカメラ

 右の写真は、今回大幅に小型化された、超ハイスピードカメラです。
 何が超ハイスピードかというと、シャッタースピードが秒あたり数千コマと、ものずこい速度になっています。

 大きさはちょうど、二十数年前のデッキとカメラがセパレートだったころの、家庭用カメラくらいです(ほとんど意味不明)。ま、今風に言えばちょっと大きな監視カメラくらい、と言ったところでしょうか。
 ちょうど展示では、秒間 8 千コマで撮影しており写真では分かりづらいですが、高速で回転する円盤に吸盤のついた矢を、打ち込む様子が超スローで良く映っていました。

 ポイントは、単板式になったことで光学系がシンプル(プリズムなどがいらないため)になり、大幅な小型化を達成できたと言うことです。比較のために、従来型の超ハイスピードカメラの写真を、掲載しておきます(左の写真・だいたいふつうのスタジオカメラ位)。

 今回の新しいものは、小型化のついでにハイビジョン化も達成されているようで、何よりだと思います。
 従来よりあったハイスピードカメラは、SD/HD とも秒/90 コマでしたのでものすごい差です。

 かつてよりフィルムカメラで、秒間数千コマというのはありましたが、あまり鮮明な画ではなかったように記憶しています。SD クラス解像度の超ハイスピードカメラは、既に野球中継などで一部使われていましたが、今後はハイビジョンクオリティのものが、使用されるかもしれません。

 また今回は体験型展示のコーナーで、従来型のハイスピードカメラを使い、実際にバッティングマシンの球を打つ瞬間を撮影し、プレイバックする実演展示があり、かなりの好評を博していたようです。

 十数人から二十人程度、待ち行列ができていました。




  今回初登場・体験型展示コーナー

 今年は初めて、”体験型“の展示コーナーが設けられており、技研で開発された技術を身をもって、実感することが出来ます。

 右の写真は前出の、ハイスピードカメラの体験コーナーで、バッティングの様子を撮影してもらうことが出来ます。
 バットがボールに当たる瞬間、かなりへこんで反発力が生まれ飛んでいく様子を、ハイスピードカメラが良く捉えていました。

 本当に待ち行列が出来ていて、大人気だったのですが一人あたり数回、バッティングを体験することが出来たようです。小さい子供や、親子連れから大人まで多数、このコーナーに並んでいました。

 またその他にも、いくつもの展示がありしゃべった言葉が、リアルタイムで音声認識されていくという、”アナウンサー体験“のコーナーもあり、小さい子供が喜んで参加していました。

 ミニスタジオに見立てたブースの、キャスター席に座り予め用意された、”原稿“を読み上げるというものです。

 きちんと立派なカメラで撮影してくれて、大型モニタに大写しにしてもらいつつ、音声認識を経た認識結果が逐次、別のモニタに表示されるというものでした。

 私も「アナウンサー体験をしてみませんか?」、と声をかけられてしまいましたが、見学でいいですと断ってしまいました(ボカスカ)。

 その他には、BS-hi で新たに始まるヒーローもの番組の、宣伝などもありました。そちらでは、子供たちと怪獣+ヒーローらしきキャラと、一緒に記念撮影ができるというイベントもあり、技研公開とは思えない風景も見られました。

 今回は概ね、地下会場の 1/3 程度がこの体験型展示ブースになっており、なかなかの人気でした。
 私のような、展示技術の取材・及びツッコミが目的の方は、物足りなかったと思いますが展示技術を、体験できるというのは非常に理解が深まるので、そう言った点では素晴らしいと感じました。




  終わりに

 最後までご覧頂き、ありがとうございました。今年は目玉?に欠ける感がありましたが、昨年までレポートでも掲載していた、ハイビジョン・ディスクカムコーダーが昨年、実用化しています。

 ハイビジョン機器としては、破格の値段なので低い予算にあえぐ地方局や、CATV 局でも導入しやすくなったと言えるでしょう。残念なのは、LONG-GOP の MPEG-2 で 35Mbps と、若干レートが低めなことでしょうか(ボカスカ)。

 独り言はコレくらいにして、また来年も懲りずに技研公開へ、行ってこようと思います。