輻輳の意味とその性質
〜「電話がからない」そのとき何が起こっているのか〜



 電話マニアの方々なら、”輻輳“(ふくそう)という言葉をどこかで見たり、聞いたりしたことがあるかと思います。今回リクエストがありましたので、その意味と輻輳がなぜおきるのか、という本質に迫ってみたいと思います。




  輻輳するとはどういうことか?

 輻輳とは、簡単にいえば交換機の処理能力を超えるような、呼(通話)が殺到しトラフィック規制がかかること、または交換機そのものがダウンする事を意味します。世間一般でいう、「パンクする」という状態は、交換機の輻輳そのものです。

 専門的には何らかの問題により、接続されなかった呼を”呼損“と呼びます。呼損率の低さは、そのサービスの品質を語る上で、非常に重要な指標です。従来のアナログ一般加入電話より、ISDN のほうが呼損率が低くなっているのは、言うまでもありません。

 最悪な例を挙げると、ベトナムなどの発展途上国では、極端な呼損に悩まされます。実際に向こうから日本にかけても数回に一回しか、接続されないのです。

 また輻輳時の様子を見てみると、ある番号に通話が殺到したり、特定地域で発信が頻発すると規制がかかります。ひとたび輻輳してしまうと、ユーザーは一斉にリダイヤルを繰り返すため、より一層輻輳に拍車をかけることになります。これが、通常の輻輳メカニズムです(みかかが、しばらくしてからかけ直せ、というのはこのため)。

 かつて、ハードロジックで動作していたクロスバー交換機や、ステップ・バイ・ステップ交換機ならともかくとして、近年主流であるデジタル交換機では、処理能力を上回る呼が殺到したからといって、機能そのものがマヒすることはないでしょう。

 通常これらの交換機では「発信規制」といい、呼がある一定のしきい値を越えると、自らその交換機での発呼及び、着呼を規制します。このある一定の余力は、防災・行政機関などいわゆる、優先加入電話や 119 番・110 番などの、緊急通話を確保するために、残されています。

 またこれらを総称して”過負荷制御“、といい制御ソフトウェア技術者の、腕の見せ所といえるのではないでしょうか(^_^;)。さらに通常、交換設備は二重化されているので、運用系がダウンしても予備系に自動的に切り替わり、サービスが維持されることになっています。




  輻輳の性質

 例えば、大地震などの災害時にはその地域で、発呼が殺到し輻輳となりますが、これは発信規制になります。また、チケット予約サービスなどある特定のカ所に、着呼が殺到する場合はそこで着信が規制され、これも輻輳となります。

 チケット予約サービスなどでは、非常に激しい輻輳となるため、そのサービス会社が収容される交換機よりも手前で、規制がかかることがあります。

 輻輳時には、「おかけになった番号は、大変混み合っています」という旨のアナウンスが流れますが、よりひどくなるとそのアナウンスすら聞こえずに、話中音のままとなります。

 もっと極端な場合、例えば大地震などで家の電話の受話器が、一斉に外れてしまったような場合も、これまた問題になります。このような場合は、発信音すら聞こえないということもあり得ます。

 また、パソコンメーカーなどのサポートセンターも、つながらないことが多いのですが、この場合は性質が異なり、NTT の交換機ではなく相手側の PBX(構内交換機)での、着信規制となります。
 この場合は、チケット予約サービスほどの呼が発生しないためか、大概は相手側の用意したアナウンスが、接続されるまで流れる状態となります。この点は、アナウンスを聴きながらいつまで待っても、絶対に接続されることはない、通常の輻輳とは異なるところです。




  またしても昔話・なつかしの混線電話


 大昔、比較的古い交換機が都区内に残っていた頃は、”伝言ダイヤル“などの混み合う番号にかけていると、ひどい輻輳時におもしろい現象が発生することがありました。
 ダイヤルしても話中にすらならずに、無音のままとなったりなんと、他人の通話が聞こえてくる、という混線状態になることがあります。

 マニアの間では、混線電話と呼ばれていましたが、数回ほど私も経験しています(^_^;)。そのときはメリット5ではっきりと、知らない方と通話できてしまいました。今となってはもう、経験することのできない貴重な体験だと思います(^_^;)。

 このほか、複数の人が同じ番号にかける、テレホンサービスなどでも漏話のレベルが高ければ、他人と通話できてしまうこともあった、と言われています。さらに、いつかけても混線しているという、謎の番号なども存在していたらしいです(^_^;)。




  自動車・携帯電話での輻輳

 携帯電話などでも、夕方のラッシュ時や花火大会などの大イベント時には、輻輳することが良くあります。代表的な例としてドコモでは通常、発信規制はほとんどかけておらず、通話チャンネルが埋まるか、基地局から制御交換局までの回線がふさがるまでは、輻輳にはなりません。

 また極端な例では、年末年始の通話量増加(おめでとうコールなど)や、成人式会場での輻輳などがあげられます。特に首都圏などでの成人式会場では、ほとんど普及率 100% 近い人間が、一斉に集まり発呼するためまるで重負荷試験のような状態になります。

 従って、PDC はことごとくハーフレートになるか、すぐ輻輳してしまい使い物にならなくなります。こんなときは、普及率の低い PHS ならずっとマシでしょう(^_^;。事業者にとって、成人式は鬼門なのです。

 一般加入電話などの有線系と違い、携帯電話では無線回線によって、最寄りの基地局まで接続されています(フィーダリンクという)。このため、交換機側ではなく無線基地局の通話チャンネルが埋まった時点でも、輻輳となるのが有線系とは異なるところです。

 また明確な情報はありませんが、マイクロエントランス(マイクロ波中継)を用いた基地局では、比較的回数が少な目な印象を受けます。これはドコモの 4 セクタ局などでも、輻輳が比較的よく発生していることによります。

 発信後に、「ただいま混み合っています」のアナウンスが聞こえる場合は、無線回線の通話チャンネルには余裕があっても、交換機側で呼があふれている状態、と判断できるでしょう。

 突然の大事故や雷雨などによる輻輳は、予測が困難ですが逆に、花火大会などの輻輳は、事前に予測できる性質を持ちます。そのため予め有線系と同じく、緊急用トラフィック確保のため、早めに発信規制をかけています。

 具体的な数字は控えますが、ドコモでは数十%の余力を残して、規制をかけています。他社の情報はあまりないので、タレ込みをおまちしております(^_^;)。




  過去の有名な?輻輳事例

 それは忘れもしない '90年代後前の、初夏のある日でした。発端は関西セルラー管内です。

 悪いことは重なるもので、激しい雷を伴った夕立と、夕刻の交通ラッ シュが重ってしまい、携帯電話からの発呼が瞬く間に増えました。まずここで、すぐに輻輳をおこします。当時は、携帯対有線という通話量が多かったことにも、着目してください。

 次はこれがなんと北海道に波及、こちらも輻輳したかのような状態に陥ります。そしてその後も他地域、他キャリアへ次々と波及していく・・・、という移動体電話業界未曾有の大惨事に至ります(ボカスカ)。

 結局原因は、関門交換局が輻輳をおこしてしまい、そこで発信規制がかかったためと過負荷により、自らダウンしたと誤判断した交換機が現れたため、と報道されました。
 このため地域やキャリアを越えた、全国規模の波及事故となりました。当時は関門交換局のキャパシティが、少なかったのが大きな原因でしょう。




  むすび

 かなり駆け足ではありますが、一通り輻輳について述べてきました(^_^;)。言うまでもなく”バリ 3 圏外“はただの輻輳に他なりません。俗語というのは日本語的に微妙でも興味深いものです(ボカスカ)。

 またなにか不明な点があれば、掲示板などでお声がけ下さい。



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