新幹線の列車公衆電話システム・概要
〜アナログ・デジタル LCX システム〜


 みなさんが何気なく使っている、新幹線の列車公衆電話。実際、どのようにつながっているのでしょうか?。ここでは、LCX (漏洩同軸ケーブル)を使った新幹線・列車公衆電話システムの概要を、紹介したいと思います。

 このシステムは '21 年 6 月中に各トンネル内の、携帯電話エリア化が進んだため廃止されています。



  列車電話の概要

 列車電話には、大きくわけて二つの方式があります。一つは、特急などに搭載される自動車・携帯電話システムをそのまま、流用したもの。もう一つは、新幹線に搭載される専用の LCX システムです。

 前者は、長距離/高速バスやテレビ局のロケバスなどにも設置され、見たことのある方もいらっしゃると思います。システム自体は、自動車・携帯電話網(PDC 800MHz)を利用しているだけなので、端末がテレホン・カードに対応する、という違いがあるにすぎません。

 しかし、新幹線の列車電話に限っては、専用のシステムなのです。従来方式ではアナログかつ、LCX システムであるため、音声レベルが異様に低かったり、ノイズっぽかったりと欠点はいろいろありました。しかし、従来のアンテナを用いた方式に比べ不感地帯がないなど、いろいろな利点もあります。

 端末は、通常のカード型公衆電話で、MC-5P や 6P あたりが多いようです。少なくとも、MC-3P 以降の機種が目立ちます(いずれも緑公衆電話)。

 それでは、概要を表にまとめましたので参照されてください。


方式 アナログ(旧システム/PM・位相変調)
デジタル LCX 方式(現行方式)
使用周波数帯 400MHz 帯専用割り当て(412.025〜414.475MHz他)
端末/基地局の出力 4/2W
サービス開始 1965 年・東海道新幹線にて空間波方式によるサービスを開始

後 89 年に、LCX へ移行。
'02 年 11 月に東北・上越新幹線からデジタル化

 かつて東海道新幹線のシステムは、アンテナを用いた通常の無線方式を採用していました。しかし、従来の無線方式では山間部や、トンネル等の不感地帯が多かったため利用地域拡大などを目的に、89 年から LCX によるシステムへ移行しています。

 また'02 年以降に東北・上越新幹線からデジタル化され、現在に至ります。
 列車公衆電話の歴史をひもとくと、ごく初期のシステムでは 200KHz 帯の、誘導無線(東京地下鉄の列車無線と同じ)を用いたものが、近畿鉄道により行われていたという記録があります。

 後に登場するものは、82 年開通の上越・東北新幹線までは、通常の無線方式によるものでした。
 LCX を用いるメリットは、通常の無線方式のように無用な伝搬を防げるだけでなく、閉鎖空間や線的なエリアへの的確な回線設計が、可能という点に尽きます。すなわち、トンネルや鉄道沿線といった、特殊なサービスエリアに適した方式なのです。

 通常、列車の運行区間は線的なので、通常の無線方式による回線設計は困難を極めます。実際問題として、 JR の列車無線では非同期搬送波・分散基地局(同時送信)のため、搬送波同士で干渉が起き、場所によってはビートノイズに悩まされる場所すらあります。

 また、トンネルなどでの閉鎖空間では、通常の無線方式によるエリア確保は一般的に厳しく、短いトンネルなど限られた範囲にしか、適用できません。
 比較的後発の上越・東北新幹線においても、開業当初から LCX でのサービスでしたし、最新の長野新幹線も例外ではありません。
 また LCX による無線システムは近代的な、デジタル列車無線(連絡用、制御用を含む)にも応用されています。




  LCX とは?

 LCX とは、リーケージ・コアキシャル・ケーブルの略で、日本語では漏洩同軸ケーブルといいます。本来、同軸ケーブルの役目は、文字通り同軸構造のシールド※により、インピーダンスを保ったまま、信号を伝送することです。

  ※電磁シールド

 また当然のことながら、シールドされているため外来ノイズにも強く、周りの影響も受けにくいという特徴があります。それに、シールドのために自らも、漏れ電波が少ないということになります。

 LCX は全く逆の発想で、同軸ケーブルのシールドに、わずかなスリット(すき間)を設けることにより、電波を漏洩させるというものです。また、逆にスリットがあるため受信にも使用できます。

 これらの特徴により、LCX 周辺のわずかな領域(数十m)にだけ、サービスエリアが確保されるのです。その他の応用としては、首都高トンネル内の携帯・自動車電話中継用や、同トンネル内の道路公団等業務無線などにも、適用されています。
 また最も身近なところではやはり、高速道路などの交通情報を放送する、路側ラジオの送信にもよく用いられています。
 LCX は伝搬距離が極めて短い代わりに、確実にサービスエリアと通話品質を確保できる点が特徴で、鉄道・高速道路沿いなどに適したシステムと言えます。

 このほか、閉鎖空間へ適用できる方式に、地下鉄列車無線に多い誘導無線がありますが、こちらを特に空間波(SR)に対し IR と呼びます。





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