やさしい CDMA2000 と W-CDMA の比較

〜一体、なにが違がうのか?〜


 CDMA2000 も W-CDMA もどこが違うのか、紛らわしいと思っている方、いませんでしょうか?。通信業界では、従来の cdmaOne を W-CDMA に対して N-CDMA(狭帯域)と呼ぶ場合も出てきました。

 もともと、cdmaOne の発展型(規格の拡張)である CDMA2000 と W-CDMA では、ベースとなる技術はある程度同じ(直接拡散方式で FDD:周波数分割同時通話)ですが、そのスペックとそれを実現するための技術概要は違ってきます。

 ここではその違いにスポットを当ててみたいと思います。ベースとなる技術の詳細については、他ページやリンクを参照してください(^_^;)。また、私の主観は差し引いて客観的に記述したつもりです。



  まず、お決まりの比較表から(^_^;

 それでは、とりあえず簡単にそれぞれの違いを、表にまとめてみました。作成にあたっては、IMT-2000 での規格も併記することとします。

 また掲載したデータは、クアルコム社と我が国のドコモの W-CDMA 案及び ITU 案または勧告です。欧州(DS-CDMA/TDD)のものとは一部違いますのでご了承下さい。

 
CDMA2000/W-CMDA の規格概要
CDMA2000
W-CDMA
伝送レート
(音声はエラー訂正除く)
音声 1〜8Kbps(次期CODEC候補あり)
・下り
DATA 64Kbps〜144Kbps(x1)
         〜432Kbps(x3)?
     最大〜1.728Mbps(x12・未確認)
・上り
     DS MODE
(非対称で下りが早い。上下対称も可)
・HDR は x1 で下り MAX2.4Mbps
平均 600Kbps
上りが 153.6Kbps・非対称かつ、音声 ch との共存不可
音声 4.75Kbps〜12.2Kbps
     (AMR)
DATA 64Kbps回線交換
   〜144Kbps
パケット
     384Kbps〜2Mbps パケット
(原則として対称な帯域を持ち、音声・データなどを複数束ねるベアラモード有り)
※当初は非対称が主(上り 64/下り 384Kbps など)
占有帯域幅
x1 MODE 1.25MHz(基本帯域)
x3 MODE 3.75MHz
※ガードバンド必要
音声 1.25MHz(ガードバンド無し)
DATA 〜5MHz(〜20MHz は削除)
(複数レートが帯域内に混在)
※ITU 勧告案
マルチキャリアモード
マルチキャリア(MC)モード有り
1.25MHz 幅 x1 MODE
3.75MHz 幅 x3 MODE
※IMT-2000 では上りのみ x3 時 5MHz 幅
なし
有線系ネットワークインフラ
ANSI-41

※IMT-2000 では GSM も平等に扱う
GSM-MAP

※IMT-2000 では ANSI-41 も平等に扱う
基地局間の精密な時刻同期
〔GPS で行います〕
必須 不必要

※IMT-2000 ではオプションで同期システムもサポート
電力制御 上下とも有・800回/秒 上下とも有・1500回/秒
送信出力 最大 0.2W 最大 0.3W・屋内 20mW
チャンネル分離 Walsh codes(128) OVSF(Orthogonal variable spreading factor codes)
拡散符号系列 M 系列の Long PN と short PN の組み合わせ Gold 系列
.パイロット信号 上り:CDM による共通パイロット
下り:CDM による共通及び補助パイロット
上り:TDM による個別パイロット
下り:共通及び個別パイロット
チップレート
x1 MODE/音声 1.2288Mcps
x3 MODE 3.6864Mcps
(いずれも MC)
DS MODE 3.6864Mcps
下り最大   7.3728Mcps
音声 1.024Mcps
データ 4.096Mcps/8.192Mcps/16.384Mcps

※IMT-2000 案では 4.096 を 3.84Mcps に変更
主なメリット
cdmaOne 事業者は追加投資が少なくて済む(800MHz のみ)
つまり、少なくとも RF に限れば既存の設備を使えるらしい
MC x1 および x3 モードでは柔軟な運用が可能
後発だけに、回線上の柔軟性が高く、伝送レートが速い(マルチレート)
また、基地局間非同期のため、地下などの閉鎖空間への基地局設置が容易
AMR による高音質化
その他、後述する広帯域化によるメリット
データ通信は、パケット・回線交換とも可
主なデメリット
GPS による時刻同期が必要なため、閉鎖空間への基地局設置が制限される 世界的に見れば後発なので比較的インフラ構築コストがかかる。海外では GSM から 3G へのシフトが始まったばかり。
 ※またしても意味不明な数字や用語が並んでしまって、恐縮ですm(_ _)m。

  広帯域化のメリットその 1

 まず、図をご覧ください。無線回線に載せられるデータを積み荷とすると、無線回線は道路に、搬送波は積み荷を運ぶトラックなどに、例えられると思います。(それにしても、ヘタな絵だなぁ〜)

 また、ここではスペクトラム拡散という概念は忘れてください。あくまで、マルチレートや非対称回線などの理解のためです。

 右のように、大量かつ異なる伝送速度が、混在するトラフィックでは、どちらの効率がよいか、一目瞭然でしょう(^_^;)。音声モードでは、大した差は出ませんがそれ以上の、データ通信になると W-CDMA の魅力が出てきます。

 ただし、CDMA2000 にも数々のメリットがあることを、忘れてはイケません。それは、現実の都市において計画道路などと同じように、既存の道路を拡張するがのごとく、車線を増やし高速化(大型車=大きいデータも通れるという意味)できる、というメリットがあります。

 ですから、既存の IS-95 および ARIB STD-T53(国内の cdmaOne)の設備を持つ事業者にとっては、設備投資に対する多大なメリットがあるわけです。

 逆に、1から構築する W-CDMA では広帯域のメリットを十分に生かし、マルチレートすなわち広い車線を、様々な大きさのトラックが自由に走れる、という特性を持っています。
 CDMA2000 が環 7(関東ネタですみません。都心の 4 車線の環状幹線道路です)のような、幹線道路だとすると W-CDMA はさながら、アメリカのフリーウェイといったところでしょうか?。
 
※1 CDMA2000 x3 モードでは、1.25MHz 幅の帯域を 3 つ束ねます。IMT-2000 では、x3 時上りのみ 5MHz 幅とするようです。さらに、上下対称とすることも可能です。このことから MC(マルチキャリア)と呼ばれます。また試験中のため、流動的な要素もあると思います。

※2 全ての表記は、IMT-2000 で合意されたものを加筆してあります。念のため参考程度に、IMT-2000 での変更点も併記しました。

※3 どちらの絵も、簡素化のためにトラックの台数は少なくなっています。実際には、もっとまんべんなく渋滞しない程度に、走らせることが可能です。

※4 図解では、同じ色の積み荷が上下回線一組となります。




  HDR について

 CDMA2000x1 において現在導入されている高速化技術、HDR について概要を解説したいと思います(要望も一番多いので)。HDR は、1.25MHz の帯域をデータ通信専用に割り当て、IP に特化することで高速通信を目指すものです。

 1 ユーザー当たり、下りが最大 2.4Mbps、平均 600Kbps、最低 38.4Kbps になり上りは、最大 153.6Kbps が得られるとしています。
 既存の音声モードとの大きな違いは、下り信号は直接拡散方式ではあるが、CDMA による多重化を行わず、それを全ユーザーで共有している点でしょう。つまり、下りに関しては多重化に TDMA を使うのです。(他方式の制御 CH に似ていますね)

 下りは電力制御を行わず、後述するような特徴的な操作を行うことで、品質のばらつきを許容するかわりに、IP というバーストデータを効率的に扱えるよう、工夫されています。

 この下りにおけるユーザーごとのデータレートは、1.67ms ごとに最適に割り当てられます。これに用いられるのが、CIR(信号電力対干渉電力比)という指標です。基地局では、各端末から報告される CIR を見て、受信状態のよい局には優先的に高速化し、逆に状態の悪い局に対しては、低速なレートを割り振ります。

 またこの一次変調の方式も、通常の QPSK から 8 相 PSK、16QAM と可変です。その他、誤り訂正の符号化率も 1/4〜1/2 までの3パターン、パケット長が 1024〜4096bit、送信時間も 1 パケット当たり 1.67〜26.67ms までそれぞれ可変となっています。

 これらの操作は、多少ややこしく感じるかもしれませんが、音声モードでの電力制御のかわりに、通信スピードなどを制御すると思えば、解りやすいでしょう。少なくとも下り信号の多重化に、TDMA を用いていることに着目すれば、納得していただけるのではないでしょうか。

 このようにして、HDR は音声チャンネルとは全く別の帯域を割り当て、 IP に特化することでデータ通信の、大幅な高速化をもたらすことが可能となっています。また、上りに関してはほぼ x1 と同じと考えてよいでしょう。

  ※添付資料:KDDI による HDR フィールドテスト写真入りルポ(^_^;

  HDR の高速化について(EV-DO Rev.A)

 HDR の高速化について更に続報です。KDDI では、'06 年 09 月中に開始された CDMA2Kx1 EV-DO Rev.A の概要をお伝えします。

 具体的には下りが最大 3.1Mbps に若干 UP、上りが最大 1.8Mbps と大幅に UP するのがポイントです。下りは従来より、少し速度が上がる程度ですが、上りの大幅 UP はありがたいと思います。

 報道などにもあるとおり、このサービスに利用するには対応端末が必要です。ただこの最新基地局設備と EV-DO Rev.0 の端末と下位互換はあります。またあわせて QoS も可能になるということでデータ通信ユーザーには、朗報ですし今まで厳しかったサービスも可能になるのではないでしょうか。

 そのほか、マルチキャスト技術として BCMCS と言うものも用意されており、これによるサービスも予定されています。




  HSDPA について

 HDR に遅れてようやく導入された、W-CDMA(3GPP)陣営の高速パケット方式についても触れておきます。国内ではドコモが '06 年 08/31 より開始しました。サービスイン当初は端末消費電力の関係上、最大 3.6Mbps に押さえられていましたが '08 年 04 月から最大 7.2Mbps のサービス開始されています。

 通信速度の上限は、同時使用のコード数(論理 ch)や使用するタイムスロットの間隔、変調方式の組み合わせで変わってきます。
 HDR 同様、通信状態の良い端末に対し、速度がでるようパラメータが動的に変わります。逆に通信条件の悪い端末に対しては、速度を落とすよう制御することで、全体として最大のスループットになるよう、工夫されています。

・下り電力一定で、ユーザごとに通信速度を適応可変速制御(2msec ごと)
・規格上の最大値・5MHz 帯域幅で、最大 14.4Mbps
・実験でのスループット、2-4Mbps/最大 7Mbps 程度
・適応変調方式は QPSK/16QAM 切換
・誤り訂正符号化の切り換えパターン不明(ボカスカ)
・適応制御の高度化
・ARQ の効率化

 等々、通信速度が大幅に違う点を除けば、おおむね HDR に似た内容となっています。具体的には、平均スループットで HDR と同等かそれ以上位ではないか、という感じです。

 また下り電力一定などの理由から音声及び、データ混在である(384Kbps 以下)既存 RF ch との共存は好ましくないので、基本的には専用 RF ch を設けて(キャリアにより異なる模様)の運用となりますのでこの点も HDR 同様と言えます。


  HSUPA

 その後の計画として今後下り方向のさらなる高速化と合わせ、上り方向も高速化する”HSUPA“があげられます。HSUPA は意外なことにイーモバイルが '08 年秋より先行して開始(当初 1.4Mbps・後に 5.7Mbps に増速)、それに遅れる形でサービスインしたドコモも '09 年 06 月から 最大 5.7Mbps へとスピードアップが図られました(スループットはどれも怪しいですが…)。

 3GPP2 陣営より遅れていた上り方向の高速化がようやく実現したことになります。方式の優劣を抜きにしてグローバル・スタンダード化の兆しがある同方式だけに個人的にも期待しています。

 更に中・長期的に 3GLTE(通称 3.9G)として下り 100Mbps/上り 50Mbps(OFDMA と MIMO を使う)以上を目指して、大幅に高速化したものも計画されていますがこちらは目下開発中です。



  広帯域化のメリットその 2

 次の広帯域化によるメリットは、マルチパス耐性です。マルチパスについては、各種携帯の比較ページを参照されてください(^_^;)。

 無線でのデジタル伝送において、大きな劣化原因となるのがマルチパスです。それを低減するには、様々なアプローチがあるわけですが、広帯域化すると分解できるマルチパス数が多くなります。
 それによって、フェージング低減効果も高まるというわけです。言い換えるとこうです。広帯域化することは、それにより電界強度の変動を低減できることになります。思い出してみてください、周波数選択性フェージングはとりのぞける、と携帯の方式比較ページでは書きました。

 つまり、広帯域化することでその効果が、より高まると思ってください。このことは、クリアな音声の実現にも不可欠ですが、データ通信においてもっとも効果を発揮するはずです。

 そして従来の cdmaOne と比較した場合、マルチパスの激しい都市部でよりメリットが発揮されます。都市部では比較的、マルチパス経路差長が短く、それを分離できない恐れがあります(遅延分散が少ない)。
 このような場合も広帯域化のメリットが生かされ、より周期の短いマルチパスでも分離することができます。

 また、広帯域化された拡散信号の電力スペクトラムは、極めて低くなります。この方式ではヘタをすると、ノイズレベル以下の信号でも逆拡散により、信号を複調することができます。

 遙か遠い宇宙から送られてくる、探査機の映像が鮮明なのはそれが、デジタル信号かつ DS-CDMA 方式によるものだからです。探査機の信号は極めて弱く、通常の方式ではノイズに埋もれてしまいますが、逆拡散によりノイズから浮かび上がるのです(おもしろいですね〜)。

 少々それますがなんと、数年前に太陽系を離れたパイオニア(※1)や、ボイジャーの信号は '03 年頃まで地球に届いていたそうです。確か探査機の出力は、25W でした。それが、100 億 Km 近くを旅して地球まで届くなんて、ロマンチックですね〜(^_^;)。

  ※1 2003 年 01/22 日、NASA はパイオニア 10 号からの信号が途絶え
     た、と発表しました。距離はおおよそ、120 億Km で搭載する原子力
     電池の寿命らしい(寿命は熱源に使用する放射線源の半減期の半
     分だったかな?)。72 年の打ち上げから 30 年余り、ご苦労様でし
     た。

 もし遠い将来、宇宙船が木星あたりにいたとして、その距離をおおよそ 7 億キロ強と見積もると、電波が地球に届くまで概算で、実に 43 分間もかかることになります(またまた脱線:2001 年宇宙の旅参照のこと<わけわか)。そしてもし、相手が地球に電話をかけたとしたら・・・、一体どうなることでしょうか(超ボカスカ)。



  広帯域化のメリットその 3

 その 3 は、最初にもってきてもおかしくない、伝送速度の向上です。最初の図のように、帯域が広いと言うことは、それだけ伝送速度も原理的に上げられると言うことになります。

 それから CDMA2000 と W-CDMA のデータ通信速度の違いですが、W-CDMA ではパケットに加え回線交換も考慮しており、この場合は速度変動はありません。
 対する CDMA2000 では帯域保証のない、パケット・サービスのみを想定しており(クアルコムによれば、フル IP ベース)、トラフィックや電波状態によりダイナミックに、通信速度が変化します。ただし、一般ユーザに限って見れば回線交換ができるメリットは、少ないでしょう(^_^;)。



  おわりに

 2000 年の発表ではとりあえず、IMT-2000 へ向けての W-CDMA バンドは各事業社とも、5MHz 幅ずつの割り当てとなりました。このことにより実証試験時においても、最大でも 384Kbps 以下のサービスとなっています。
 ただし後に 2Mbps までの高速サービスも、5MHz 帯域で行うことに仕様が変更されています。

 また IMT-2000 サービスの経緯を振り返るとドコモが 2001 年 10月 01 サービス開始でした。既に上下 64Kbps の回線交換及び、上下とも最大 384Kbps のパケットサービスで先行。
 続いて KDDI でも 2002 年 4 月から、CDMA2000 x1 を導入、下り 144Kbps/上り 64Kbps のパケットサービス開始しました(^_^)。
 また初の高度化サービスでデータ通信最速となる、HDR も当初はデータ端末専用として 2.1GHz 帯で開始。後に、一般端末向けの 800MHz 帯でもサービスが開始され、日本初の定額パケット通信プラン(携帯では)として、提供されています。

 概ね、試験通り 4〜600Kbps 程度のスループットがでているようです。さらに、W-CDMA(3GPP)陣営も HSDPA として HDR に似た高速パケットサービスむけに規格が決定。本文と重複しますが、'06 年度 8 月末日から当初予定より少し遅れてサービスインし現在では、さらなる高速化や上り方向の高速化が計画されています。

 こちらも、情報が入り次第随時更新したいと思います。


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