英雄と子ヴィンちゃん

 こうなることはわかっていた。その原因は昨夜の喧嘩にあったからだ。
「セフィロスへ。しばらく実家で長い眠りにつかせてもらう、子ヴィンの世話をよろしく。ヴィンセント」
 会社の接待帰りで深夜帰宅したばかりのセフィロスはキッチンに残されていた書き置きを見て怒った。
「冗談じゃない」
「なんか書いてあったー?せふぃろす、びんちゃん、読めない字が書いてあってこの手紙よくわからなかったよ」
「ざけんな」
ヴィンセントが珍しくへそを曲げて眠りについてしまったのである。
 『トゥナイト2』を見ていて宵っぱりの子ヴィンはセフィロスのまわりをちょこちょこと歩きまわって手紙の内容を聞き出そうとしている。
「ヴィンセントが眠りについてしまった」
「大きいヴィンちゃんがあ、どうしよう」
「このガキの世話を見るのか……」
「えへええ」
 子ヴィンが微笑む。

 いつも子ヴィンの面倒はヴィンセントがしている。
 すべての面倒を彼に押し付けてしまっていたので、どうこの子供を面倒を見ればいいのかわからない。
 一番いいのは今すぐニブルヘイムの神羅屋敷へなぐりこみ、ヴィンセントを叩き起こすのがいいのだろうが、もう深夜である、しかも、ここはそこより遠く離れたミッドガルである。
 人には任せられない仕事を大量に抱えているので、会社を休んで彼を起こしに行くわけにはいかない。行くとしたら週末だ。
 今日は火曜日…週末まで、この子供をどうするべきか……。
 昼間は宝条の元か、報酬を払って何でも屋のクラウドとザックスに面倒を見てもらう手がある。問題は夜だ。
 ちゃぽん
 セフィロスは湯船に体を横たえて、明日からの予定を考えていた。
 酒の酔いが抜けかかっている体に熱い湯は気持ちいい。
「せーふぃーろーすー」
「!!!!!!」
 からからとバスルームの扉を開けて子ヴィンが入ってきた。
 ハンドタオルと風呂用玩具のあひるちゃんを抱えて裸で入ってきた。
「な!!!なんだ、お前は……」
 子ヴィンは洗面器にお湯を満たすと頭から被った。
「あのね、びんちゃん、一人で頭あらうことができないの……」
「だから?」
「ふだんは大きいヴィンちゃんが洗ってくれるの、でも今夜はいないから……」
「…俺に洗えというのか」
「うん、洗って」
 セフィロスが無視する、子ヴィンが湯船の中に入ってきた。
「だって、だって髪の毛一日でも洗わないでいると、大きいヴィンちゃん怒るんだもん、くちゃいって」
 血液型A型らしいまめさで、ヴィンセントは子ヴィンの世話をしていたのか。感心はすれども、その役割が自分に回ってくることほど面倒なものはない。
「仕方ない……」
「わーい、わーい。今夜はせふぃろすに洗ってもらうんだーわーい、わーい」
セフィロスは子ヴィンを抱え上げると洗い場に座った。
 シャンプーハットを被せて、水中メガネをかけさせて髪の毛を洗ってやると、子ヴィンははしゃいでいた。
「動くな」
「せふぃろすに洗ってもらってるんだー、わーいー、わーい」
 ようやく洗い終えて子ヴィンを風呂から出した。
 
 疲れた……本当に疲れた……セフィロスは寝室に行き、ベッドに倒れこんだ。
 ヴィンセントのいないベッドは冷たい。
「せふぃろす…えへへへ」
「なんだ、お前は!!!」
 また子ヴィンが入ってきた。パジャマを着ている。
「一緒に寝ていい?びんちゃんも一緒にいいかな」
「駄目だ」
「なんでー、いつもせふぃろすは大きなヴィンちゃんと一緒にねてるじゃない。びんちゃんもたまにはせふぃろすと寝たーい」
「駄目だ、お前にはマヨネーズとか、たれぱんだとかいるだろう。一緒に眠ってくれるやつが」
「だあってえ、たれと一緒に寝ると、あさ、布団がしっとりしていて気持ち悪いんだもの、まよはね、冷蔵庫のなかでねむるの、だから一緒じゃないの」
 セフィロスはため息をついた。
「仕方ないな、今夜だけだぞ」
 子ヴィンをベッドの中に入れると、彼はパジャマを脱ぎ始めた。
 セフィロスは目を丸めて子ヴィンを見た。
「一体何をしているんだ」
「大きいヴィンちゃんが一緒にねるときはぱじゃま脱いでるでしょう、子ヴィンも……」
「待て!!!待て!!その必要はない」
「どうして?何故」
 子ヴィンは不思議そうな顔をして、セフィロスの目の前に裸体をさらす。そして腰をゆらす。
「ほら、見て、見てエ、せふぃろす、ヴィンちゃんの〜〜もんきーばなな、もんきーばなな」
「ふー!(怒)もう遅いから寝ろ!」
 セフィロスは子ヴィンの頭を布団の中におしつける。

 セフィロスが朝、起きると何故か布団の中がしっとりしていた。
 嫌な気がして布団をめくってみると、子ヴィンをとりかこむようにして、10匹ほどのたれぱんだがいつの間にか中に入って固まって眠っていた。

 「モンキーバナナねえ」
 宝条は出勤途中に子ヴィンを預けに来たセフィロスに向かって言った。
「ガキを面倒みるのは大変だぞ」
 セフィロスが目で追うと、子ヴィンはルクレツィアと会話していた。
「預かってやろう。うちは職場と住居が同じ場所だからな。別に遅くに帰ってきてもかまわないのだよ、ルクレツィアもいることだし」
「頼むな」 
 セフィロスは宝条に小さく「悪いな」と言った。
「きゃあああ、これがあの子ヴィンちゃんねえ、かわいい」
 ルクレツィアは子ヴィンを抱きかかえて歓喜していた。
「ねえ、セフィロス、私もこんなかわいい孫が欲しいわあ」
 子ヴィンの頬にほおずりをして嬉しそうである。
 彼女の言葉をセフィロスは聞かないふりをした。
「ねえ、宝条、欲しいと思わない?ね?ね?」
 宝条はけむたげにルクレツィアに言う。
「君は奥で子ヴィンちゃんと遊んでいたまえ」
 ルクレツィアはセフィロスの目をじっと物欲しげに見ると、くるんと背を向けて大きな声で叫んだ。
「かわいい、あーあ、こんなかわいい孫が欲しーい!欲しーい!でも無理よねえ、無理よねえ、だって、セフィロス、ホモだもん!」
「待て、コラ!このババア!」
 セフィロスが放ったサンダガを子ヴィンを抱えたまま軽くかわすと、ルクレツィアはほほほと笑いながら去っていった。
「あのババア、殺す!」
「ところで……セフィロス」
宝条は問いかける。
「なんだ……」
「その、モンキーバナナをもういただいたのかね?」
 セフィロスはむっ、とした顔をした。
「そんなことなんかしない、精通すらしてないガキに興味はない」
「そそられないのかい?ミニチュアとはいえ、彼もヴィンセントだよ」
「あれとこれとは全然違う……」
「ふうんん」
 宝条は笑った。
「まあ、安心して会社にいきたまえ、彼はちゃんと預かるから」

セフィロスが会社に出かけた後、子ヴィンは宝条とルクレツィアとひととおり遊んだ後、飽きて昼寝をした、その後、宝条に語りかけてきた。
「ねえ、おじいちゃん」
「なんだね」
「おじいちゃんはもの知り?」
「そうだねえ、ミッドガルで一番物知りだと思うぞ」
 子ヴィンは首をかしげて言う。
「どうして、大きいヴィンちゃんはせふぃろすが好きなんだろう」
「そうだねえ、それは謎だねえ」
 子ヴィンは一緒につれてきたたれを抱えていう。
「あのね、せふぃろすって男でお乳がないじゃん。びんちゃんは爆乳の女の子が好きなのに、どうして、大きいヴィンちゃんとこのみが同じじゃないのかな」
「は、は、は、爆乳の彼女が欲しいかね」
「うん、びんちゃんは乳の大きい女の子と結婚するの」
 宝条は子ヴィンの頭を撫でた。
 ヴィンセントのミニチュアといっても、彼の性格はまったく別人のようだ。
「全くの本人ではないからな、でも、なんとなく性格はセフィロスの影響を受けているな」
 捕まえて研究サンプルにしたいところだが、セフィロスがそれを許さないだろう。
「ねえ、宝条」 
 ルクレツィアは洗った白衣を干しながら、宝条に話しかけてきた。
「私、ジェノバの影響でまだ肉体は十分若いから大丈夫、もう一人つくりましょうよ。あなたのせいで、セフィロスはかわいいさかりを育てそびれて、かわいくないおじさんになってしまったわ。やっぱり、子供は小さいうちが一番いいわよね、今でも間に合うからつくりましょうよ」
「……」
「せふぃろすっておじさんなんだ」
「そうよ、彼怒るけれどね」
 ルクレツィアは言う。
「俺がおじさんだったら、お前はばあさんだろうってね」
 全ての白衣を干し終えるとルクレツィアは昼飯を作りにキッチンへ行った。
「おばあちゃんなの?ルクレツィア」

 セフィロスの勤めている神羅カンパニーの本社ビルでは社長を交えて重要会議をしていた。
 幹部のみが居合わせるこの会議室では新たなプロジェクトを進めるべく話しあいがされていた。
 ぶるぶるぶるぶる
 セフィロスの懐の中に入れてあった携帯電話が震えて電波の着信を伝える。
 始めのうちは無視していたが、そのバイブ機能は途切れることはなく、仕方なしに受話器をとる。
 ルーファウスは露骨に嫌な顔をしたが、数多くのプロジェクトを成功に導いているセフィロスを強く止めることができない。
「なに、今すぐ子ヴィンをひきとりに来いって?」
 電話の相手は宝条だった。
「そうだよ、すぐだよ、すぐ」
 電話の向こうの声がうわずっていた。
「ルクレツィアと喧嘩をやらかしたんだ」
「…………」
 セフィロスは眉間にしわを寄せた。

 会議を放り出したセフィロスが宝条の家に戻ってくると、子ヴィンがテレビを見ていた。
「お前……」
「あ、せふぃろすー、あのねえ」
 朝着せた服が何故かところどころ焦げていた。長い髪の毛も少し焦げて縮まっていた。
「ふうう、おばあちゃんが突然びんちゃんに向かってサンダガをするからびっくりしちゃったよ」
 セフィロスに抱きついて子ヴィンはいう。
「あ、来たか、来たか」
 宝条が奥の部屋から姿を現した。
「あのなあ、セフィロス、今すぐ子ヴィンを持って帰ってくれないか」
「一体、どうしたんだ」
「ルクレツィアがへそを曲げた」
「何があったというんだ」
 宝条もふうと言いながら、髪をかきあげる。
「宝条……お前も髪の毛焦げているじゃないか」
「子ヴィンをかばったからな。こともあろうにあの子供……彼女にとんでもないことを言った」
「なんだ」
「……子ヴィン、ルクレツィアにだっこされた時にこう言ったんだ」
「………」
「おばあちゃんは貧乳だね、びんちゃんは大きいのが好きなんだーっと」
「ああああっあいつは……」
 脱力して、子ヴィンを抱えたまま座りこむセフィロスに向かって宝条は言った。
「さすがにスーパーノヴァとまではいかないが、あの女も一応はジェノバもちだからな……サンダガ……怖かった………」
「ぴりぴりしたのお、びんちゃんー、なんだか電気にふれたみたいー。ぴりぴり」
「………サンダガくらったわりには元気だな」
「うん、びんちゃんとっても丈夫ー!」 
「誰か来たの?セフィロス」
 奥でルクレツィアらしい声がする。
「早く、早く子ヴィンを連れて帰ってくれ」
 宝条はセフィロスを立たせると、ドアまで連れていった。

 宝条の家を追いだされた後、セフィロスは表に待たせてあった車に子ヴィンを乗せると携帯をかけた。
「もしもし、ストライフ便利屋……」
「セフィロスだ」
 電話の声の主はクラウドだった。
「あ、お久しぶり、どうしたの」
「子ヴィンを預かって欲しいんだ、もちろん、便利屋への依頼だ。今すぐでもオッケーか?」
 受話器ごしに、奥にいるザックスと話す声がもれてきた。
 声を聞いたかぎりでは便利屋は暇をもてあましているような様子である。  
「いいよ、セフィロス、連れてきてよ」
 
神羅本社と同じミッドガルにクラウドの便利屋のオフィスに構えている。
「よく来たね、子ヴィンちゃん」
「わああ、クラウドだークラウドだー」
 子ヴィンはクラウドになついている。
「ところで、ヴィンセントが眠りについっちゃったんだって?」
「いつも通り神羅屋敷だと思うんだが」
「ねえ、今回のうち利用の件、子ヴィンちゃん預かり料金にプラスして、ヴィンセント叩き起こし込みプランにしない、ザックスがシドに頼んでハイウインドに乗ってニブルヘイムへ行くということで…」
 子ヴィンは連れてきたたれぱんだを抱えて早くも部屋のなかでくつろぎ始めた。
「それはいいな」
「高くつくけど、セフィロスくらいだったら大丈夫だよね。仕事に集中できるんだったらこれほど安くあがることはないもんね」
 クラウドは依頼書に数字を書いて見積もり、セフィロスに渡した。
「ああ、これくらいでヴィンセントが帰ってくるなら安いもんだ」
「商談決定」
 ザックスが早速シドと連絡をとる。
 ハイウインドを飛ばせるという連絡がすぐ戻ってきた。
「じゃ、俺は行ってくるから、クラウドは子ヴィンちゃんの世話頼むぜ」
 ザックスはすぐに出かけていった。
「対応が早いな」
「暇だからね」
 クラウドはセフィロスにコーヒーを入れながら言った。
「なんだったら、仕事が終わるまで預かっていてもいいよ」
「それはありがたい」
 クラウドは子ヴィンにホットミルクを渡すと、子ヴィンの頭をなでた。
「かわいいなあ、ねえ、セフィロス、ちょっと聞きたいんだけれど」
「?」
 クラウドは小声で聞いてきた。
「…………子ヴィンちゃんをもう食った?」
 セフィロスはスーツのズボンにコーヒーをこぼした。
「ああああああ」
 急いでタオルが渡された。
「ああ」
 クラウドが急いで拭くとセフィロスは叫んだ。
「まるで見境がないようなことを皆は言うが、俺は精通のない子供には興味ないんだ」
「あー、そうだった?ごめん、ごめん」
「俺、仕事に戻るな」
 セフィロスは慌ててオフィスから飛び出していった。

 どうにか会議も終え、セフィロスは自分専用のブースでくつろいでいた。
 まだ夕刻に食事を交えながら会議がある。その後にはまた海外の取引先から届いているメールの返事を書かなければならない。
仕事はいつまでたっても終わらない。仕事はいつもセフィロスに被さってくる。
 バイブ機能からメロディーにきりかえた携帯電話が鳴る。ワンコールで出た。
「セフィロスだが」
「ザックス…今、ニブルヘイムの神羅屋敷の地下にいるんだけれど」
「ああ、ヴィンセントは棺の廻りで騒ぐと起きるぞ」
「いや……それがね」
 ザックスの声がとまどっている様子がわかった。
「あのさ、いないんだけれど…神羅屋敷のどこにも、ついでにニブルにも」
「!!!!!!!」
 セフィロスは固まった。
 ヴィンセントが神羅屋敷にいない。
「どこに行ったんだ」
「ま、そういうことで、残念だったけれど、どうする子ヴィンちゃん。深夜料金支払うんだったらうちで一泊は預かれるけれど、先刻クラウドに電話したら、ずいぶん子ヴィンちゃんを気にいっているようだったし」
「そうだな」
「じゃあ、そうクラウドに伝えておく」
 電話はきれた。
 金で片付くのだったらずいぶん楽だ。
 風呂にも入れなくてもいいし、一緒に寝なくてもいい。一秒でも惜しい朝にちまちまと朝食を子ヴィンのために作ってあげなくてもいい。
 しかし、預けられるのはたったの一泊、それまでにはあのヴィンセントを探しださなければならない。
 セフィロスはため息をついた。
 どうすればいいのだ。一体ヴィンセントはどこへ行ったのか…。

 夕食も兼ねた会議はもめた、若い部下達が社長の決定事項にたてついてきたからだ。中間に入るセフィロスにとっては面倒だ。
「ふう」
 胃がごろごろする。食事をしながらの会議は本当に無駄だと思っているが、この会社はやたらと好きである。どうやら食事の時間を惜しんで仕事をしていることを社内外にアピールしたいらしい。
 時計は午後10時を差していた。
 今夜の帰宅はずいぶん遅くなりそうである。
 不意に尿意を感じ、席をたった時に、また、携帯が鳴った。
 うんざりしながら取るとクラウドのとまどった声が耳に入ってきた。
「セフィロス……子ヴィンちゃんが泣いているんだ」
「腹がすいているんじゃないのか?」
「夕食は食べさせたよ。風呂に入れて、ちゃんと髪の毛も洗ったし。あと眠るまんまにしてあるんだけれど」
「『トゥナイト2』が好きなんだ。それを見れば眠れるんじゃないかな」
「まだ時間があるんだけれど……」
「変だな……」 
 クラウドの電話ごしに子ヴィンの泣き声とザックスがなだめる声が聞こえた。
「セフィロスがいいってずっと泣いているんだけれど…」
「そんな馬鹿な!普段の面倒はヴィンセントが見ているんだぞ、どうして俺が?」
 子ヴィンの泣き声は止まらないようである。
「俺、ザックスだけれど」
 たまりかねてザックスが電話をかわる。
「深夜延長代とらないからさ、迎えに来てくれよ、子ヴィン、あんたじゃなければ駄目なんだって」
 
 またもや会議を抜け出して、セフィロスはクラウドの元に戻ってきた。
「子ヴィンちゃん泣き止まないんだ」
 セフィロスの気配を感じるやいなや子ヴィンが飛び出してきた。
「あああん…せふぃろす…ああああん…せふぃろす」
 スーツに顔を埋めて泣いていた。
 子ヴィンは涙をぬぐった。
「気にいらないなあ!セフィロスって子ヴィンをたいしてかわいがっているように見えないのに、どうしてセフィロスがいいんだろう」
「せふぃろすがいいの!」
「いいか、子ヴィンちゃん、セフィロスのどこがいいの?」
「せふぃろすがいいの!」
「やっぱりヴィンセントのミニチュアだから?」
 クラウドが悔しげにセフィロスを見た。
「せふぃろすがいいのおー!!!!帰るう」
 子ヴィンは叫んだ。
  
 子ヴィンを連れたまま、会議に戻ってさんざん部下からいやみを言われ、仕事を終えたら11時をすぎていた。
 子ヴィンを車に乗せて帰り、自分もシャワーを浴びて寝室から出た時、すっかり日付が変わっていた。
 ぐったりとベッドの中に倒れているセフィロスを尻目に子ヴィンはすっかり元気になって寝室のソファに座って深夜テレビを見ていた。
「せふぃろすー、ベッドに入っていい?びんちゃんもせふぃろすと寝たいなあ」
「……」
「はいっちゃおー」
 ごそごそとセフィロスが寝ているベッドの中に入りこむ。
「……せふぃろす……」
「子ヴィン、動くな、静かにしていろ」
 うつ伏せになって眠っているセフィロスの横に子ヴィンは横たわる。
「えへへへへへ」
「………」
「せーふぃろす」
「お前は………」
 すり寄ってくる子ヴィンの頭をセフィロスはこづいた。
「子ヴィンちゃん、せふぃろすのこと大好き……」
「俺のどこが?」
「わかんないけれど、せふぃろすのこと好き!」
「そうかそうか」
 今度はがしゃがしゃと乱暴に頭を撫でた。
「だからー、びんちゃんのことも好きになってね」
「はいはい」
 子ヴィンはまもなく寝息をたて始めた。
 今日一日大変だった。
 大きなヴィンセントが子ヴィンの世話で毎日大変な目に会っているのがわかったが、彼に同情する気が起こらなかった。
セフィロスは目を閉じた。

 それから数時間後、セフィロスは自分の寝具が濡れていることに気がついて目を覚ました。
 布団をめくってみると子ヴィンのパジャマのズボンとその回りのシーツがしっとりと濡れていた。
「ちっ!寝小便か」
 セフィロスは子ヴィンのズボンを脱がし、パンツを履き替えさせようとした。
「うう…ん、びんちゃんそんなに一杯食べられないよー、おおきいヴィンちゃん」
子ヴィンは寝言を話したまま目覚めない。
「ふう……」
 しっとりと濡れて体にへばりついたパンツをずらし終えた時、ドアから悲鳴が聞こえた。
「セ……セフィロス……子ヴィンに何を……」
 セフィロスがその声の主を聞いて振り向くと、ヴィンセントが立っていた。
「お…お前……」
「ニブルへイムに行くのをためらって、ここの家のワインセラーの中に隠れていたのだ……私がいないすきに……こんな小さな子を………手にかけるなんて……セフィロス………鬼畜!!!!」
「ちょっと待て!待てエ!ヴィンセント!!」
 ヴィンセントが叫んでその場から逃げようとする。
「それは誤解だ、誤解だ、ヴィンセント!!」
「うーん、せふぃろすー、びんちゃんせふぃろす大好き〜〜〜〜」
 子ヴィンは寝言を言った。
「わあああ」
 ヴィンセントは泣きながら逃げていく。
「本当に誤解なんだあ、誤解なんだ、ヴィンセント!!!」
 セフィロスが手を伸ばして叫んだ。
 困った。
空しい言い訳は深夜にかき消されていく。
                      (そして物語の始めに続く)