セフィロスの狂気よりさかのぼること5ヶ月前。

ツォンはハイデッガーの特命で科学者の宝条の元を訪れた。
彼に託された命令とは、この科学者の警備および、彼がこれから行う実験の手伝いをする
ことだった………。
神羅兵二人と、ツォンと、宝条は神羅屋敷の地下に入っていった。
長く危険な螺旋階段を降りながら宝条はつぶやいた。
「ここにも、私の大切なサンプルが保存されているのだよ、ツォン君」
ほとんど、彼以外、神羅社員が利用することのなさそうな地下資料室。荒れるにまかせて
おり、空気も湿り、よどんだこんなところにサンプルが存在していることをツォンは知ら
なかった。
「……そのサンプルを回収し、ミッドガルへ搬送するのですね」
表情をかえないツォンに宝条は返す。
「君の任務はそれだけでは終了しない。ミッドガルでは研究の手伝いをしてもらうよ」
「?」
専門分野の人間ではないツォンをなぜこの男は助手として求めているのかよくわからなか
った。
(あいかわらず、この男の考えていることはよくわからない……まあ、仕方がない……
これも仕事のうちだからな)
「そのサンプルにモンスターを移植する」
宝条はやや猫背ぎみの背を丸めて、一人ごとをつぶやいていた。
「ヘルマスカー……私が作った新種のモンスターだよ。これがなかなか不気味で傑作なの
だ。是非、あの男に移植してやりたいのだ」
「男……」
彼の口調からいうとそのサンプルは人間のようだった。
神羅は極秘に「人体実験」をしている。
空気のように漂うあの不気味な噂はやはり事実だったようだ。


暗い地下道の重い扉の前で止まると、宝条は錠を差し込み、開けた。
ギイ……という鈍い音をたてて、扉が開いた。
奥に存在するのは棺桶………。
「サンプルは生きていないのか?」
ツォンは顔をしかめる。
ガコォオン
重い棺桶の蓋が開けられた。
「とんでもない、彼は生きているさ」
棺桶から黒髪の男がゆっくりと起き上がる。
「何……」
黒い服の上に赤いマントをはおった、端正な顔立ちの男は目を覚ました。
ミッドガルの本社ビルの屋上から覗いた夕焼けに似た緋色の瞳が現れた。
「この男はヴィンセント.ヴァレンタイン……元タークスの男だ」
「……」
ツォンは棺桶に近づき、ヴィンセントと呼ばれたその男の顔をのぞきこんだ。
瞳が現れても、全くといっていいほど、二人に無感心で声を発することすらしなかった。
「……宝条博士……この男は?」
「この男は今、催眠状態にある。本人は悪夢を見ながら長い眠りについている気でいるが、
こうして目を開け起きている………いや…私がそういう暗示を今かけた」
「……本人は眠っているつもりでいるのですね」
無感情、無表情のその男は宝条の指図で立ち上がる。
「この男にあのモンスターを移植するにあたっては完全に意識がないままでは困るので
こうして、半分目を覚ました状態にした」
宝条はツォンを見る。
「君には私の助手の仮眠用の部屋に泊まってもらい、実験をしていない時の彼を監視し
てもらいたい…」
「……わかりました」
「強い暗示をかけているがある刺激で意識がもとに戻るようになっている」
「それは?」
「………ジェノバに反応するのだ」
「………ジェノバに近づけなければいいのですね…でも、ミッドガルにはジェノバ細胞は
保存していないでしょう、あれは確かここの……」
「ああ、ニブル山のあそこに保存してある、しかし……ミッドガルにもジェノバが………」
男のうつろな緋色の瞳を見て宝条は押し黙った。
感情のかけらもみせない男の腕を引っ張るとツォンに渡した。
「まあ、いい、そうだな。あまり多くを語るのは私は好きではない。とにかくこの男を人
目にさらすことをするなとだけ言っておく」
「………」
(これも仕事のうちだからな)
ツォンはいささか疑問の残る宝条の発言を質問でかえすことなく飲み込んだ。


ミッドガル

その日から、ツォンとその男との奇妙な生活が始まった。
男は日中は宝条の実験室に拘束される。
ツォンは別の仕事をしたり、仮眠しながら、その男が帰ってくるのを待つ。
実験から開放された男は車椅子に座らされて戻ってくる。
眠っているという暗示をかけられているとはいえ、実際には半分は起きているはずの彼は
赤い瞳に実験の疲労を蓄えて戻ってくる。
ツォンがまずする事は彼の体を抱え上げ、ベッドに寝かせつけることだ。
食事をとらず、排泄の世話をすることはない。
瞳を開けたり、閉じたり、時々、息をする音が聞こえる以外はまったくといっていいほど
その男は動かなかった。
彼がまた再び実験室に呼び戻されるまで監視をする。それがツォンの仕事だった。
「私と、実験室の助手以外の人間には会わせるな。それがプレジデントであってもだ」
不思議なことに宝条はそう言った。
(それと、ジェノバとどう関係があるというのだ)
ツォンは考える。ますますわからなくなり、考えるのを止める。
ニブルヘイムから彼を連れてきてから一週間がすぎた。
ベッドにあおむけにされた男は目を開けたまま天井を見ている。
「お前……私がわかるか」 ツォンは問うてみる。
返事はない………。
ため息をつくと、ツォンは車椅子をたたみ、壁ぎわに置いた。
「わからないだろうな」
ヴィンセントはツォンを見ない。
規則正しい呼吸の音だけが、空調の音に混じってかすかに聞こえていた。
白い肌……血色のよい赤い唇。
ツォンは動かないヴィンセントの実験で少し乱れた黒髪を指でとかした。
「…………」
よく見るとその男は男としておくにはなまめかしいほどの美しさであることに気がついた。
「ヴィンセント・ヴァレンタイン」
もう一度問うてみる。 反応は微塵もない。
「お前は……」
ツォンは目を堅く閉じた。
(どうしたことだ……私は……)
震える指がヴィンセントの唇を探していた。
下顎をなぞり、やや乾燥した唇に親指が触れた時、ツォンは目を再び開けた。
(サンプルに………サンプルに…恋心を抱くなんて……また……まただ………)
その傾向は以前からあった気がする。
そうだ。幼い頃からずっとその成長を見守っていたエアリス。
彼女を監視していくうちに、かすかな恋心を抱いた。
(それは恋心などというものではない)
ツォンは否定しようとする。
昔、読んだ心理学の書物に書いてあった「ストックホルム症候群」……敵味方にかかわら
ず長く見ているものに対し親しみを覚えるという人間の悲しい習性。
誘拐事件や、ハイジャックなどで生じるという犯罪者と人質との間に芽生えるらしい奇妙
な信頼関係。
自分はその症候群に陥りやすい人間であることは彼自身、よくわかっていたことだ。
エアリスは彼の仕事における単なるいちターゲットにしかすぎない。
理屈ではよくわかっている。
そして、ターゲットをそれ以上の存在としては見てはならない。
しかし、自分の心の中に大きな存在としているのは事実だ、
そして、次はこの男……。
(私は……)
ベッドの上に半身のりだしている自分に気がついた。
ツォンはヴィンセントの顎をつかんだ。
ヴィンセントは赤い瞳をかすかにまばたかせた。
それ以外はなんの反応もしない。
傀儡のように動かない。
(何をしようとしているのだ……)
ツォンは頭を降ろした。
ヴィンセントの唇から伝わる体温。
ツォンは自分の唇からヴィンセントの体温を感じ取っていた。
(この男は…生きている……)
深呼吸をするように強くヴィンセントの唇を吸う。
くっくと苦しげにヴィンセントの喉仏が動く。
それが感情によるものではなく、人間が生きているゆえの神経の反射であることがツォン
には悲しかった。
次にツォンは舌をからめた。
自分より低い体温のヴィンセントの舌は抵抗をすることを知らなかった。しかし、それ以
上反応することはなかった。
もつれて、抵抗することなくツォンの舌に任せるヴィンセントの舌は、反応して動くこと
はまったくなかった。
「っく……」
ツォンは唇を離し、壁際に移動し、呼吸を整えた。
「この……私がこんな男に性欲を感じるなんて………」
しかし、感情はおさまらなかった。
気がつくと、ヴィンセントの着衣をほどく自分が窓ガラスに写っていた。
「何故……私が…」
「………」
ツォンの体の下には乱暴に上半身の着衣をはがされたヴィンセントがいた。
白磁の肌、薄い桃色の乳首、美しい曲線を描いた鎖骨。
誘っているように半開きの唇、そこからわずかに覗く白い歯……。
どくん……
ツォンの心臓が一瞬高鳴った。
俯いていたため。口元にかかった自分の長い黒髪をかきあげた。
「お前が悪い……」
再びヴィンセントの肉体に顔を埋める。
「これは『ストックホルム症候群』ではない…お前が誘うからだ……お前が悪い」
舌先で鎖骨の隆起をなでる、そして、軽く舌で触れながら、桃色の乳首をなでた。
先端を舌で割ったが、ヴィンセントの反応はまったくといっていいほどなかった。
ただ……赤い瞳は時折まばたきをしながらも、開いていた。
両の乳首の先端を舌先をとがらせなぶった後、右先端を強く強く吸った。
「……」
ヴィンセントは両の脚をけいれんさせた。
これも感情をつかさどる大脳の反応ではなく、神経の反射であることがわかるとツォンは
やりきれない気分になった。
シーツの中に隠された、ヴィンセントの一番敏感な部分にツォンは手を伸ばした。
上半身の刺激が確実に伝わっていたそこは、眠っている人間とは思えないほど張り詰め、
先端にしっとりとした湿気を感じた。
ツォンの顔に笑みがうかんだ。
この男が唯一人間らしいところを見せたその膨らみを確かめたくてツォンは毛布をはがし た。
「ヴィンセント………」
ツォンの刺激によって、反応を見せた肌色のそれが彼の目によって確認された。
彼はそれを軽く含むとなぶり始めた。
始めは優しく、味のないゴムのような感触を確かめると、弾ける前の薄い液をほのかに分
泌する先端へ、舌を尖らせその隙間に入り込み、刺激を与えた。
その後、根元を傷つけない程度に上の前歯と下の前歯で甘噛みすると、強く吸い込んだ。
「は……は……は……」
ヴィンセントの呼吸が激しくなってきた。
いったん口を離したツォンは、指で肉棒をつまみあげ、裏側を丹念に舐めあげると、その
背後にある、二つの球体が並んだ形状にある肌色のものにアプローチし始めた。
呼吸が激しくなっていく。
ツォンの舌が細部にわたって丹念に撫でた直後、どろりとしたものが、先端より流れだし た。
その白い液体を、やや不満足げにツォンは舌にからめとった。
「意識がほとんどないハンデを背負っていても早いな」
服にも付着したそれは、ハンカチでふきとられた。
ツォンは始末を終えるとヴィンセントにキスをした。
「………明日も同じようにしてあげよう」


ヴィンセントにヘルマスカーを移植する実験が始まってから1ヶ月が過ぎた。
毎日、毎日判で押されたような生活を送っていた。
ツォンはその日の気分によってヴィンセントの体を弄ぶ日々を送っていた。
「お前は……恥ずかしいという感情を捨ててしまったのか?」
ベッドの上に仰向けで寝かせられているヴィンセントはまったく答えなかった。
一糸まとわぬ姿で、横たわらせられている。
赤い瞳は空を仰いだままである。 ツォンはヴィンセントの両の白い足首を掴むと大きく広げた。
「全くの他人の私にこんな醜い姿を見せて平気なのか?」
答えないヴィンセントの股間に手を伸ばし、柔らかいそれを右手で握った。
人差し指と親指でつつみこみ、そして摩擦させるかのように動かす。
「は……」
ヴィンセントは反応する。 ツォンは笑みをもらす。
「声をこらえることなんてない、好きな時に声を出せばいい」
指を巧みに動かすと、萎えていたそこは次第に弾力を増していった。
ツォンはヴィンセントの薄い耳朶を噛む。 ヴィンセントの呼吸が激しくなる。
「は………は……」
ツォンはヴィンセントの体をいったん離すと、服を脱いだ。
鍛えられた体をさらしたツォンは背後から裸体のヴィンセントを抱く。
再び、中心を嬲り出す。
「もう………いいだろう」
ヴィンセントの体を腰を支えたまま、うつ伏せに寝かせると、ツォンはゆっくりと、後ろ
から貫いた。
「!!!!!」
声にならぬ声でヴィンセントは反応した。
「反抗する悲鳴をあげられないなんて………かわいそうな男だ」
宝条の強固な暗示は解けるということを知らず、何が起きたのか、それに対して知ること
も、なすすべもなく、半分眠らされているヴィンセントはツォンに陵辱されていく。
自分の欲望が望むままに、ツォンは激しく体を動かしてゆく。
呼吸が激しくなっていく。
「は……」
「声が出せるんだったら出してみろ。そして助けを乞え!」
「は……は……」
苦しげな呼吸だけが暗闇の中で聞こえてくる。
ツォンはもどかしかった。
強くヴィンセントの体に自分の欲望をぶつけ吐き出した。
「はあ……あああああ……」
自分の体から白濁した欲望のあとをほとぼらせたツォンはヴィンセントを見た。
赤い瞳に光りが戻っていた。 ヴィンセントが初めて言葉らしきものを発した。
「……お前は誰だ」
ばっとツォンの手を解き、ヴィンセントは体を動かした。 意識が戻っているようだった。
「お前は……」
おびえる彼にどう説明をしようと思った時……。
「セ………フィ…ロ…ス?」
その場にいるはずのないソルジャーの名を言った。
ツォンはヴィンセントの視線の先を見た。
そこには
そこにはいつのまにか正宗をかまえたセフィロスが立っていた。
「…!」
「モンスターの匂いがしたので、悪いと思ったがセキュリティーを解いて来た」
裸体のまま、躊躇するツォンがヴィンセントを再び目で探した時。 彼の姿はなかった。
「ふ……やはりここにいたか…人間になりすましていたのか」
いつの間にか彼がいたはずのベッドの上にはヘルマスカーがいた。


あれからどうなったのかよくはわからない。
気がつくと、ツォンは医務室のベッドの上に寝かされていた。
看護婦の話によりと、セフィロスがミッドガル内にいたモンスターを退治、ツォンはそれ
にまきこまれたらしいとのことだった……。
強い力で打ちつけられたのだろう、体中が痛かった。
しばらくまどろんでいると、宝条がやってきた。
「………あの男は?」
「セフィロスに倒されて人型に戻ったので、ニブルへイムへ再び戻した。実験は終了した」
宝条は一人で楽しそうに、そして満足げに笑うとツォンに言った。
「君はサンプルをずいぶん楽しそうに陵辱していたようだね」
「………」
「まあ、いい……私も同じ環境下に置かれたらそうしていた。ところで……」
宝条は言った。
「君がサンプルにしていたことは見なかったことにしよう……、あの事件で、ヴィンセン トの体
にヘルマスカーが定着したことは証明されたわけだし………。…そのかわりといっ ては何だ
が……」
「……」
「あの男がセフィロスに反応したことを黙っていてほしいのだ」
ツォンはすぐにその話している意味がわかった。
ヴィンセントはジェノバに近づかせると意識が戻るように暗示がかけられていた。
それが解けにくく、強固なものであることはツォンがヴィンセントの体を弄んでいた時 証明で
きた。
彼が反応を示したあの日………。
傍らにはセフィロスがいた。
「あのソルジャーの体にはジェノバが存在している……と?」
彼に背をむけたまま、白衣姿の男は頷く。
「これは私の研究チーム及び、社長以外は知らないことになっている」
神羅の英雄セフィロス。
彼が戦で見せた人間離れした力はこれの影響によるものだったのだろう。
「わかりました」
ツォンはうなずいた。

ミッドガル内でモンスターが発生した噂はしばらく神羅のオフィスで働く者たちを恐怖 に陥れ
ていたが、やがてそれはいままで発生した噂たちと同様、日を追うごとに、薄れ 忘れ去られ
ていった。

ツォンとヴィンセントが再会したのはそれから五年後……皮肉にも、古代種の神殿だった。


(終)