
ヴィンセントの日記1
「なんだかわからないうちに『FFZ』のメンバーで映画を撮影することになった。監督はあのルーファウスで、本格的にやるらしい……変な映画でないとよいのだが」
監督控え室
マネージャー兼助監督のツォンは台本に目を通すと、眉間に三本しわを寄せた。
「ルーファウス社長…いや監督……」
脚本兼、監督のルーファウスはスタッフ用のパイプ椅子に腰掛けてリーブからもらったメガホンをみがいていた。
「何?」
ツォンはルーファウスを見ると言った。
「本当に本気でこの脚本、キャストでやるおつもりですか」
「そうだよ、あまりにも立派な脚本で感動するだろう」
「……」
自信ありげなルーファウスに何も返す言葉がツォンにはなかった。
かろうじてかえそうとして出した言葉は……。
「でも…」
ルーファウスはツォンの躊躇に気づかずに不敵に笑った。
「僕はこの映画でカンヌのグランプリを狙っちゃうよ。ツォン……」
ヴィンセントの日記2
「とうとう、映画がクランクインした。主人公はなんと、あの彼だ………本人は意外とやる気なようだ、全く、どうなることなのやら」
メイク部屋
「ねえ、マジで彼で主人公撮るわけえ?ねえ、ちょっとおお」
プロのメイクのティファが、演出家のレノに詰め寄った。
「ル、ルーファウス監督のキャスティングだぞ、と…」
「ちょっと、ドレス着て大股開きで座ってたばこふかしている彼が、不精ヒゲをはやした彼が、槍を手元に置いている彼のどこが、どこが、美しい白雪姫だというの!!」
「おーい、テイファ、ヅラはどこにあるんでえ、かぶらないとそろそろ出番に間に合わねえ、ての」
白雪姫の扮装をした彼が言う。
「他にいなかったの?ほら、女だって男だって、ルックス的にあいつよりもいけている奴はたくさんいるはずなのに」
「こらえてほしいティファ…」
レノは頭を掻きながら言った。
「んん、もううう」
ティファは舌を鳴らした。
「あの、あの、レノ」
レノが後ろを振り向くと、黒いドレスに身を包んだヴィンセントが立っていた。
「どうして私が、白雪姫の継母で、白雪姫がシドなんだろう」
「あんたは何着ても似合うな、と」
「あの、あの、意地悪な役っていうと……」
ヴィンセントは振り向くと衣装係のスカーレットを見た。
「俺もあれが適役だと思っていたが…なんせ、ルーファウス監督がね」
「……しくしく」
「カンヌグランプリをこのキャスティングで取るって本気になっているんだぞ、と。だから……」
「私は人のいじめ方というのを知らない…いい演技ができるだろうか」
「それはあんた次第だぞ、と」
そこへ、撮影スタッフの一人、リーブが入ってきた。
「さあ、皆さん撮影の時間やさかい、自分の持ち場にスタンバイしてな」
皆、ぞろぞろと撮影用セットの方へむかった。
ヴィンセントの日記3
「私の役はいじわるな継母役で、白雪姫のシドをいじめる役である。そして、継母のよきパートナーとなるあの鏡の精の役は……」
シーン「白雪姫の家の継母の部屋」
ヴィンセントは鏡に向かう。
「え…と……」
「おい、あの単調なセリフを忘れたのかい、まったくお前は使えない男だな」
鏡のように作られたガラスのセットの奥でスタンバイしていた鏡の精役セフィロスがあきれ顔で言った。
「すまないセフィロス」
「小声でしゃべるから、それを真似しろよ。鏡よ鏡…」
「鏡よ鏡」
「世界で一番の美人さんは誰」
「世界で一番の美人さんは誰」
セフィロスはくすりと笑うと言った。
「それは俺に決まっている…」
「はああああ、駄目だああああああ!!!!!!!!!」
継母を上手に演ずることのできないヴィンセントは頭を抱えてうずくまった。
「馬鹿、こんなところで、NG出すなよ、ち、仕方ないなあ」
ヴィンセントは気をとりなおして立ち上がる。
「世界で一番の美人さんは誰」
もう一度、鏡の精に向かって言った。
「王女さまでございますが」
セフィロスは答えた。
「でも、他にもっと美人さんがいます」
ヴィンセントは身をのりだした。脚本通りの演技である。
「誰?」
「…それは白雪姫でございます」
セフィロスも脚本通りに答えた。
「いいぞ、いいぞ」
ルーファウスは小声で言いながら、カメラを廻し続けることを指示する。
「ハンター、ハンター」
ヴィンセントは手を叩き、叫んだ。
これも脚本通りである。
奥の間から、銃を抱えた男が出てきた。
ヴィンセントは怪訝そうな顔をして男を見た。
「………何故、武器を握ったことがなさそうな、宝条、お前がハンターなのだ」
「悪かったな。私は本来、銃とは全く関係のない頭脳労働者だが、たった一度、銃を握ったことのある実績をかわれてな。ルーファウス監督にハンター役として抜擢された。至近距離で、お前の心臓を射抜いた…あの実績をな」
「……至近距離で動かぬ的だったら子供でも当てられる」
ヴィンセントに思わぬところを突かれた宝条はふてくされる。
「ふん………悪かったな………おおう、そうだ、何かご用ですか、王女様」
ヴィンセントははっと気がついた。
「そうだ、映画を撮影しているのだった。そうそう、白雪姫を森へ連れ出して、殺しておしまい」
「わかった、ヴィンセント、いや、王女…さま……」
宝条は踵を返し、出ていった。
ヴィンセントの日記4
「これから先は主人公の出番、私は少しお休み。ふうう」
シーン「森」
「わあ、森にはきれいな花が咲いているのね」
シドは徹夜で覚えた白雪姫のセリフを話しながら、片手に野花を握り締めどすどすとスキップをしていた。
宝条はあきれた顔で、すっかり白雪姫になりきっているシドを見た。
「自分で、その姿を鏡に映して見たことがあるか、シド」
「もちろん!!!!!俺様、白雪姫としてはなかなか、いけてるぜ!」
宝条はちゃっと、短銃を構えると、容赦せずにシドに向かって乱射した。
シドは背に隠してあった槍を抜くと、それをかわした。
「な、なにすんでえ。バカヤロー、ハンターは王女に白雪姫を殺してこいと命令されるが、彼女が美しいため殺すことができなくて、森に逃がす役なんだぜ」
「お前なんか射殺だ」
冷酷そうな笑みをうかべ宝条は言った。
「ちくしょー、脚本通りにやれよう」
「さっさと、森の奥へいきたまえ、何だか無性に腹がたつ」
宝条はまたばんばんと銃を撃った。
「ちい」
白雪姫のドレスをひるがえし、シドは森の奥へ入っていった。
ヴィンセントの日記5
「白雪姫は森に迷い、一つの小さな家を発見した。中には小さな調度品。そう、小人の家だったんだね。彼女はそんなことを知らずに疲れてベッドに眠りこけてしまう…………でも、この小人のキャスティング…本当にこれでいいのだろうか」
シーン「小人の家」
「ハイホー♪ハイホー♪」
七人の小人達が仕事を終えて歌いながら戻ってくる。
その7人を見た時、照明係のユフィは驚いた。
「マジでこれが小人なのお?まじまじまじぃ」
「しっ、黙ってろ」
照明係の一人、ザックスがユフィを黙らせる。
小人その1、バレット。小人その2、パルマー。小人その3、ハイデッガー。小人その4プレジデント神羅、小人その5、ルード。小人その6、コルネオ。小人その7、ザンガン
「おやじ、オンパレード、しかもきれいどころ一切なし」
「小人なのに、何人かは白雪姫より背が高い」
7人が家に戻ってきたが、どう努力しても、小さく作られたセットの小人の家に入ることができない。
「……仕方ない」
小人その1のバレッドが、腕にしこんだガンを屋根に向かって撃つ。
たった一発で小人の家のセットの屋根はふきとんだ。
むきだしになった家の狭いベットにシドが丸まって眠っているのが見えた。
「おや、誰か眠っている」
「本当だ、眠っている」
「かわいい、お姫様だ」
「お姫さまだ」
全員、叫んだ。
撮影スタジオの録音マイクはスタッフ全員の爆笑を拾った。
「起きて、起きてお姫様」
プーと吹き出しながら、バレットが起こす。
「んあ、なんでえ、お前ら」
シドが起き上がる。
「あ、起きた、なんてキュートなお姫さまなんだ」
またマイクはスタッフの爆笑を拾う。
「こんなきれいなお姫さまがこの家に来てくれるなんて、今夜は酒盛りだ!!!」
ザンガンが、隠し持っていた日本酒の「越乃寒梅」を取り出す。
「やたー!!!『こしのかんばい』だー!!」
「やったー!!!」
小人達は両手を挙げて喜んだ。
まだまだ続くヴィンセントの日記6
「また、出番がめぐってきてしまった。やれやれ」
シーン「城の継母の部屋」
ヴィンセントはまた、継母の黒いドレスを着、鏡の前に立ち、お決まりのセリフをつぶやいた。
「鏡よ、鏡。世界で一番の美人さんは誰?」
セットの向こうでセフィロスが答えた。
「それはお前と俺……と、言いたいところだが、強敵出現」
「何、白雪姫亡き後、美人といえば私………私…でいいのだろうか……あの、あの、美人といえば私だったのだが、他に美人さんがいるのか?」
「あんた、残念だったな。白雪姫、森で生きてるぞ」
腕を組み、セフィロスが言った。
「何故、宝条…もとい…ハンターに殺すように告げたはずなのに……」
「森での白雪姫の暮らしぶりを見せてやろう」
セフィロスがいうと、スクリーンが降りてきて、森の光景が映し出された。
「白雪姫……」
ヴィンセントはスクリーンを見つめた。
「……………小人と………酒盛りしている」
そこには、屋根がなくなった小人の家で、七人の小人達と酒盛りをして、酔ってはしゃいでいるシドの姿が映っていた。
「それで」
「北海道産のするめをあぶって食べている…おいしそうだ…」
鏡の精のセフィロスは腹ただしげにいう。
「他には…」
「……おやじギャグで盛り上がっている……『となりの家に垣根ができたんだってね。へー、かっこいい』だって」
「…………他には……」
「歌でもりあがっている。昔なつかしフォーク、小室 等だって、俺達の時代は小室っていったら哲哉じゃなくて、等だったよな。とか、井上陽水、髪の毛たくさんあったよなとか……言って……」
「他には…?」
「子供の教育と、家のローンの話になったら、みんな黙っちゃった。大変なんだね、皆」
セフィロスははいはいはいと興味なさげに言うと返す。
「どうします?白雪姫を…」
「どうしますといったら、やっぱり、お決まりのコースだろう」
ヴィンセントは言った。
「毒入りりんごを食べさせて、白雪姫を、変な酒盛りに永遠に参加させないようにしなくては」
小道具係のリーブがヴィンセントにりんごを手渡した。
りんごは毒毒しく7色に塗られていた。
「あのう。リーブさん。このりんご、いかにも毒入りに見せるのはいいのですけれど、何も7色に塗ることはないと思う……」
「ヴィンセントはん、こらえてくださいな。実はこの映画撮影、『神羅』だけでは資金が足らず、コンピューター会社のスポンサーがついているんです。例の7色の一口かじったりんごがシンボルマークになってる…このりんごはそこのリクエストでして……」
「それでは仕方ない…」
ヴィンセントはそれを持って森へ旅立っていった。
「ああ。あいつ」
鏡の精セフィロスはつぶやいた。
「老婆に化けんの、すっかり忘れているな……」
ヴィンセントの日記7
「森に向かった。私が住んでいる城と、森は近いのだ。シド…いや、白雪姫はどこにいるんだろうきょろきょろ」
ヴィンセントが7色のりんごを持ってもたもたとさまよっていると、豪快ないびきが聞こえてきた。
彼がその声をたどると、屋根がすっかりふきとんだ小人の家のベッドで酒でつぶれて眠っている白雪姫がいた。
「いた……」
ぱたぱたと黒いドレスのすその音をたてて、ヴィンセントが近づいてきても、白雪姫は泥酔状態で目覚めることがない。
「あの、白雪姫…」
「があががががが」
シドはいびきをたてて、眠り続けている。
「シド?」
目覚めない……。
「どうしよう……」
とろとろとしているところへ銀髪の男が現れた。
「お前は鏡の精……」
「まったく、お前は手間をとらせるやつだな」
ヴィンセントの手元から、7色のりんごを奪うと、シドの開いた口にねじこんだ。
「ああああ、なんてことを……」
「ごんがががががが」
口で呼吸していた白雪姫の呼吸が乱れた。
「がががががが」
しばらく狂ったようないびきをかいた後、ぱたっと、白雪姫は息絶えた。
「中毒死ではなく、窒息死だが、仕方ない……」
「かわいそう、シド…窒息死なんて……」
「あとはまかせた………」
セフィロスは去っていく。
「あ、セフィロス……」
その姿はヴィンセントの視界からあっという間に消えた。
「ふうううう、仕方ない…」
ヴィンセントはいつのまにか持ってきたのか自分の棺桶を木陰から取り出すと、シドの体を突っ込んだ。
「あの世では幸せになってくれ……」
言い残すと、ヴィンセントは去って行った。
スタッフ控え室
王子の服を着せられたクラウドはセリフを間違えないようにぶつぶつ繰り返し、練習していた。
「でも……しかし…」
今回の映画で王子役をもらったのは嬉しいのだが、主人公の白雪姫をはじめ、他のキャストのことについては事前に何も知らされていなかったのである。
「ねえ、ティファ」
メイクのティファにクラウドは問いかける。
「俺、事前にキャスティング聞いていないんだけれど、白雪姫は…誰がやっているのかな?」
「あなたのよく知っている人よ」
「誰」
ティファはクラウドの顔にドーランを塗りながら言う。
「それは秘密なの、監督からのお達し」
「ひょっとして、ヴィンセント?それともセフィロス?」
「だったら、それでも安心できたんだけれどねえ」
「え…え」
「聞かないことにしておいて」
パフをしまいながら、ティファはなげやりに言った。
最終シーン「森で王子、通りかかる」
クラウドかそんな不安を抱えながら、馬役のレッドにまたがり、通りかかると、ヴィンセントの棺桶を囲んで泣いている小人達が見えた。
「あ、ヴィンセントの棺桶、やった!白雪姫はヴィンセント!!………小人達どうしたんだ」
クラウドがはなしかけると小人の一人、プレジデント神羅が答える。
「白雪姫が変なりんごを食べて死んでしまったんだ」
クラウドはレッドから降りると、棺桶に近づいた。
「!!!!!!!シド………」
そこには口に7色に塗られたりんごをつっこまれて息絶えているシドがいた。
「なんてこった…ルーファウスの奴………俺、シドとキスしなくちゃならないわけ?」
小人達は口々に言った。
「王子さま、姫に目覚めのキスを」
「キスを」
「キスっていっても……」
クラウドは棺桶の前で硬直していた。
「キ……」
顔を上げると、木陰に黒いドレスが見え隠れした。
「ヴィンセント、何故ここにいる?」
本人は隠れたつもりでいたのか、動揺したらしく、視界に写る黒いドレスはゆらゆら風もないのに揺れた
「気になって帰ってきたのだ、鏡の精が勝手にやったこととはいえ、彼が死んだのも私の罪……蘇生するまで、ここにいて見守ろうかと思ったのだ」
「え……本当に死んでいるの?」
ヴィンセントは首を上下に振る。
「んと、でも、大丈夫、キスで蘇生するようになっているから……さあ、クラウド」
「うわああああ、これじゃあ、クラ×シドだああ」
「さあ、クラウド」
ヴィンセントは促す。
「さあ………」
クラウドの全身から汗が流れた。
「さあ」
小人も促す。
「姫…………姫……………」
クラウドはシドの顔に自分の顔を近づけた。
そして。
小さく言った。
「アレイズ……」
ぽこんとシドの口から、りんごが落ちた。
「ふわあああああ、よく寝た寝た」
シドが起き上がった。
「王子!!チョンボ!チョンボ」
「ずるいぞ、それはないぞ」
目覚めたばかりの姫をさしおいて、小人達がクラウドをリンチする。
きょとんとしたシドの顔のアップの静止画像にエンディングのテロップが流れ出す。
とりあえず、撮影を終えてほっとしたヴィンセントの日記
「ということで、白雪姫は無事生き返り、王子様は小人によってボコにされたとさ、めでたしめでたし……えと、これでいいんだろうか?まあ、いいか……寝よう…」
(終)