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「あれ? こんなトコにいたんだ。何やってんのこんなトコで。」
「…ふーん? ま、いいけど。」 「あ、ちょうど良かったわ、はいこれ。ハッピーヴァレンタイン♪」 「やーね、義理に決まってんじゃない! 去年だってあげたでしょ?」 「あ、これでもいちお、手作りなんだから。…まぁみんなで造ったんだけどさ。」 「さーてあと渡していないのは…っと。あ、義理とは言え、3倍返し、宜しくねv」 に、といたずらっ子のように笑う。そして手に持った紙袋の中身を確認しながら立ち去っていく彼女。 あとに残されたのは赤いチェックの包装紙に包まれた小さな箱とそれを持って彼女が立ち去った方を見ている少年。 彼女が校舎の影に消えるのを見送ってから、彼は手の中の箱を見つめた。 十字に結ばれたリボンの下に、小さなカードが挟まれている。 『Toライザー ハッピーヴァレンタインv From祐美子』 簡潔に、ただ一言。 しかしそれらの文字の全てが明らかに彼女の筆跡だった事に、何故か安心したりする。 近くの壁に寄りかかって座り込んでリボンを解き、包装を開く。 一瞬甘い香りがあたりに広がってその後に濃い焦げ茶色の小さなかたまりがいくつか見えた。 彼女のことを思い出そうとするときに頭に浮かぶのは、 笑顔と、それから何処か冷めた目線だった。 笑顔を思い出すことの方が圧倒的に多いが、それは最近になってからの事だ。 それまでの彼女は、距離的に近くにいるはずなのに何か遠くにいるような、そんな感じを受けることの方が圧倒的に多かったから。 それが変わったのは、 「…いつ頃からだったかな…」 誰に訊くでもつぶやいたあとすぐに自分の中から答が返ってくる。 彼が来てからだ。 小さな身体の中に、思いもよらないような圧倒的な力を持つ、太陽の存在。 以前1度だけ一緒にプレイをしたことがあると言っていた。 彼が転校してきて、彼女は明らかに口数も表情も増えた。 過去に1度同じ時間を共有した少年と再会した、それだけで。 かたまりを一つ手にとって口に入れる。 ライザーは実は甘いものが苦手だった。が、身体を動かして小腹もすいているし、せっかくもらったんだし…と誰に訊かれたわけでもないのに小声で理由を付けた。 「…美味い。」 あまり甘くない。適度な甘さ。飲み込むと舌の奥の方に微かな苦みが残った。 勿論ガウェインの事は好きだ。 自分だって彼と出会ったことで救われたのだ。忘れかけていたことを、思い出させ再認識させてくれた。 なのに、ガウェインと祐美子が話している(しかも大概とても楽しそうに)のを見かけると、説明の付かない気持になることがあるのだ。 一緒に過ごした時間なら、オレの方が圧倒的に多いはずなのに… どうしてあの表情が引き出せなかったのか。 ガウェインの方が、彼女の表情をたくさん見ているに違いない。 どうして、オレじゃぁ… 「……嫉妬…?」 唐突に浮かんだ答のかけら。 誰に? あいつに、あいつらに。 どうして? それは… 浮かびかけた答を頭を横に思いっきり振って弾き飛ばした。 「…んなわけねーだろうが…。」 それでも足りないような気がして口に出して否定した。 言葉にしてしまえば、本当にそんな気がしてくるのが不思議だった。 「あーもうやめだやめだおかしな事考えるのは! チームメイトが明るくなった、それでいいじゃねぇか!」 無理矢理に自分に結論づけてせわしなく手と口を動かし続ける。箱の中のチョコはあっという間に存在をなくした。 はぁ、と大きく一つ溜息をつき首を項垂れさせたあと、がばと立ち上がり練習を再開させた。今まで考えたことを振り切るかのように。 口の中に残るチョコレートは、何処か優しい味がした。 「あ、チョコ食べてみた?」 「あぁ、美味かったよサンキュ。去年よりも腕あがったんだなー。去年の甘くて喰えたもんじゃなかったからな」 「な、なによ! でも今年は美味しかったでしょ?」 からかいがちに言うライザーに祐美子は拗ねた様な顔をしたが、あぁ、と返事をするとふふん、と笑った。 「とーぜん。あんたのは特別よ。甘いの苦手だって言うからあんたのだけわざわざビターチョコ使ったんだから。感謝しなさい。」 笑顔。 それから目が離せない自分に、ライザーはまだ気付いていなかった。 Fin
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