ある日の出来事



伸びる影が紅い。
傾きかけた太陽の紅い光を浴びながら、
キャメロット学院初等部のメンバーは練習を終え、宿舎に戻ってきた。
疲れ果てた重い足取りで、自室にゴルフバッグを置き、手と顔を洗って、一同は食堂に入った。

「あー、今日暑かったからよけい疲れたよねー!!」

初等部で唯一の日本人生徒である裕美子がテーブルに突っ伏して、ライザーに話しかけた。
裕美子の隣に座ったストロベリー・ブロンドの大人っぽい少年、ライザーが
大きな体を椅子に深く沈め、返答した。

「オゥ、ホント暑かったよなー。まだ5月だっつーのによ・・・」

意識ここにあらずといった感じで、2人は食事を待っていた。
やがて、あまり疲れていないように見える、小さな体の少年ガウェインと
優雅な物腰の、まさに王子という形容がピッタリのリーベルが2人の食事を運んできてくれた。


「んじゃー、いただきまーす!!」

ガウェインの大きな声で、彼らの夕食が始まった。

「あれまー、裕美子、食わんのけ?俺が食っちまうぞー!」

「疲れてて食欲でないのよ!ほんと、底なしの食欲ね・・・」

「ぬははーー!!!」

騒がしい彼らとは対照的に一つ隣のテーブルでは、妙に落ち着いた雰囲気を持つ王煉と、
早熟な美少女プラタリッサが静かに食事を始めていた。

「まったく、少しは静かに出来ないのかしら」

ピンクの髪の毛が揺れる彼女は、いつものように悪態をついた。
彼女のイヤミはいつもの事なので、ガウェインは受け流したが、
今日のプラタリッサはいつもより疲れていた。
太陽が容赦なく降り注ぐ中、休むことなく練習していたのだから無理もない。
人間というものは、疲れているとイライラするものだ。
彼女の嫌味はいつもより多く、鋭く発せられた。

「・・・今日はすごいな・・・」

リーベルが驚いたように呟いた。

「お嬢育ちなだけに、日頃の鬱憤がたまってんじゃねぇのか?」

ライザーも、言い返す気力さえなさそうに呟く。

そして、彼女の悪態が、今出されている食事にまで及んだとき、
彼らは、パッと厨房にいるおばさんを見た。
厨房とは、かなりの距離があるので、食事作り担当のおばさんの表情は確認できないが
プラタリッサの高い声は聞こえているはずだ。

「ちょっと・・・・プラタリッサ・・・・」

止めに入ったリーベルより先に、何かが彼女の口をふさいだ。

パシャン・・・・・!
水が、彼女の顔にまともにかかった。
水滴は彼女の少女らしいふっくらとした頬を流れ、シャープなあごから
ぽたぽたと落ちた。
ピンクの、派手とも言える髪がしなやかに、濡れる。

「な・・・・」

「言っていい事と悪い事の区別もつかないのか」

プラタリッサの目に映ったのは、カラのコップを持った王煉。
彼は手元のコップに入った水をかけたのだった。
その場は一瞬にして凍りついた。
ガウェインですら、大きな瞳をさらに見開いて、ポカンとしている。

「・・・・・!!」

プラタリッサは何も言わず、
激しく憤慨した表情で、食堂から出て行った。頬は怒りのためか、真っ赤に染まっていた。

「王煉・・・・・」
リーベルが何か言おうとしたが、彼の表情には何の変化も無く、
食事を再開したので、何も言えなかった。


しばらくして、王連は食事を中断し、席を立った。そして、食堂を出て、校舎の裏へと向かう。
辺りは紅い表情を潜め、青と黒のヴェールが降りてきた所だった。
月がうっすらと姿を現し、ひっそりとした林は闇を吐きだしているようだ。

その林の浅い所に、プラタリッサがいた。
細めの木に寄りかかり、ボーッとしている。
やがて、彼女は近づいてくる気配に気付き、表情を引き締めた。

「なによ・・・・」

「・・・・・・」

王煉の、言葉を捜している沈黙を何かと勘違いしたのか、プラタリッサは言葉を続けた。

「私が悪かったわよ・・・。疲れてて・・・イライラしてたのよ。 もう・・・・最悪・・・・」

「・・・怒っているのか・・・?」

「どうでもいいわよ。私が悪かったの。後でおばさんに、謝っといてくださる?会いづらいわ」

プラタリッサの怒りは消えているようだった。消沈した彼女の表情と、濡れた髪が痛々しい。

「・・・すまなかった」

「いいわよ、べつに・・・」

言葉が途切れた。
妙に息苦しい、とプラタリッサは思った。

「ちょっと、何かしゃべりなさいよ。この空気、つらいわ・・・」

「・・・よかった。許してくれないかと思った」

プラタリッサはハッとした。彼が、王煉が笑ったような気がしたからだ。
しかし、よく見てみると、彼の表情には変化がなく、本当によかったと思っているのか、疑わしいような気がした。

「あなたって、本当に嫌な人ね」

プラタリッサは、艶やかに、イジワルそうに微笑んだ。
王煉が困ったように、首を傾げる。

「でも、ね」

彼女は、風のように王煉の隣を通り抜け、彼に背を向け、こう言った。

「でも、嫌いじゃないわ」

彼が勢いよく振り返る気配がした。
しかし、背を向けていたので、彼の表情は見ることができなかった。
多分、とても困ったような表情をしているに違いない。

「水をかけてくれたお返しよ」

小さな、彼女の声は風の音でかき消された。
明日も晴れそうだった。

Fin



  * コメント *

ぎゃー、恥ずかしい!!!!
こんなん送りつけて、馬鹿野郎とか批判されたらどうしよう。
忘れてください〜!犬に噛まれたと思って!!!!
(メリィ)

BACK